【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「希少金属代替材料開発プロジェクト/排ガス浄化向け白金族使用量低減技術開発及び代替材料開発/ディーゼル排ガス浄化触媒の白金族使用量低減化技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【課題】触媒担体として好適に使用され、特に触媒を担持した時、処理物質がミスト状で供給された場合においての活性低下を有効に回避することが可能なアルミナ粒子を提供する。
【背景技術】
【0002】
白金、パラジウム、ロジウムに代表される白金族金属は、排ガス浄化用触媒活性成分としての機能を有しており、このような白金族金属を多孔質担体に担持させたものは、例えば自動車の排ガス中に含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を浄化するための触媒として使用されている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、上記のような白金族金属は貴金属であり、非常に高価であるため、その触媒機能が効率よく発揮されるように多孔質担体(触媒担体)に保持しなければならない。従って、触媒担体として好適に使用される多孔質担体についても種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、アルミナ、セリア、ジルコニア、チタニア、シリカ、ゼオライト及びメソポーラスシリカからなる群より選択された少なくとも1種を、上記白金族金属を担持させる触媒担体として用いることが提案されている。
また、特許文献2には、規則的周期構造を有する均一なメソ孔を備え且つ一定割合でSi−O−Zr結合を有するメソポーラスシリカを触媒担体として用いることが提案されている。
さらに、特許文献3には、細孔直径が10〜100nmの範囲にあるミクロポア、及び細孔直径が300〜900nmの範囲にあるマクロポアを有している細孔構造を有している触媒担体として用いるアルミナが開示されており、さらには、ミクロポア及びマクロポアに加え、細孔直径が6000〜9000nmの範囲にある超マクロポアを有するアルミナも開示されている。
【0005】
上述した各種の触媒担体は、これに白金などの触媒活性成分を担持させたとき、何れも、ある程度の触媒能(HC、CO、NOx等に対する浄化作用)を示すとともに、中でもアルミナ粒子を主体とするものは安価であるという利点を有している。一方、本発明者等の研究によると、通常、浄化すべきガスがミスト状で供給されたとき、ガス状で供給された場合に比して、その触媒能が低下するという問題があり、特に自動車の排ガスなどは、揮発性の低い燃料成分(炭化水素)がミスト状になって排出されることがあるため、これに対する改善が必要であるというのが本発明者等の見解である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、触媒担体として好適に使用され、特に白金などの触媒活性成分を担持した時、処理物質がミスト状で供給された場合においての活性低下を有効に回避することが可能なアルミナ粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、細孔直径が4〜50nmのメソ孔の細孔容積V
1が0.05〜0.80cm
3/gの範囲あり、細孔直径が50〜8000nmのマクロ孔の細孔容積V
2が0.05〜0.50cm
3/gの範囲にあり、且つ、細孔直径が4〜8000nmの細孔のトータル細孔容積Vtが0.10〜1.30cm
3/gの範囲にあることを特徴とする多元細孔構造を有するアルミナ粒子が提供される。
【0009】
本発明のアルミナ粒子においては、
(1)前記マクロ孔の細孔容積V
2とメソ孔の細孔容積V
1との容積比(V
2/V
1)が0.10〜0.80の範囲にあること、
(2)100×Si/(Si+Al)で表されるSi量が1.0〜10.0モル%となる量でシリカが分散されていること、
(3)触媒担体として使用されること、
が好ましい。
【0010】
本発明によれば、また、上記アルミナ粒子に白金族金属を担持してなる排ガス浄化用触媒が提供される。
【0011】
尚、本明細書において、メソ孔及びマクロ孔との表現は、細孔直径の相対的な大きさを考慮して、細孔直径が4〜50nmの大きさの細孔(メソ孔)及び細孔直径が50〜8000nmの大きさの細孔(マクロ孔)を示すものとして、説明の便宜上用いたものであり、当業者の間で一定の大きさの細孔を示すものとして一義的に使用されている表現ではない。例えば、特許文献3には、「マクロ孔」なる表現が記載されているが、その細孔直径の範囲は、本明細書で規定するマクロ孔の範囲とは異なっている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルミナ粒子は、細孔直径が4〜8000nmの細孔のトータル細孔容積Vtが0.10〜1.30cm
3/gの範囲にあるという細孔構造を有しているが、特に重要な特徴は、細孔直径が4〜50nmのメソ孔の細孔容積V
1が0.05〜0.80cm
3/gの範囲あり、細孔直径が50〜8000nmのマクロ孔の細孔容積V
2が0.05〜0.50cm
3/gの範囲にあるという多元細孔構造を有している点にある。
即ち、本発明のアルミナ粒子は、上記のような多元細孔構造を有していることに関連して、これに触媒活性成分を担持させたとき、触媒反応に供する処理物質がミスト状で供給された場合においても、触媒性能を低下させることなく、安定に反応を促進させることが可能となる。例えば、後述する実施例2及び比較例2に示されているように、上記多元構造を有する本発明のアルミナ粒子(実施例2)に白金を担持させ、これに軽油のミストを供給して燃焼させたとき、その50%が分解する燃焼温度T50は280℃であるが、上記のようなマクロ孔の細孔容積が小さいアルミナ粒子(比較例2)に白金を担持して同様の試験を行うと、燃焼温度T50は約315℃となっており、触媒性能が低下していることが判る。
このような本発明のアルミナ粒子を担体として使用することにより、触媒反応に供する処理物質がミスト状で供給されたときの触媒性能の低下を有効に回避することができる。
【0013】
本発明において、上記のような多元細孔構造を有するアルミナ粒子を担体として使用することにより触媒性能の低下を有効に回避できるという事実は、多くの実験により現象として見出されたものであり、その理由は明確に解明されるには至っていないが、本発明者等は次のように推定している。
【0014】
即ち、本発明のアルミナ粒子におけるメソ孔は、触媒活性成分を安定に保持する空間として機能するものと考えられる一方で、マクロ孔は、触媒反応に供する処理物質を、触媒活性成分が担持されている領域に安定に導入するための導入空間として機能するものと思われる。
この点について詳述すると、上記のようなメソ孔が一定量存在することにより、触媒活性成分を担持させて触媒能を発揮させることが可能となるのであるが、このようなメソ孔のみでは、触媒反応に供する処理物質がミスト状で供給されたとき、その触媒能が十分に発揮されないことは、前述した比較例の実験結果が物語っている。このような触媒能の低下は、おそらく、ミスト(例えば燃料の熱分解物)により担体外表面における細孔の目詰まりが生じ、この結果、触媒活性成分と触媒反応に供する処理物質との接触が阻害され、触媒能の低下が生じてしまう。しかるに、本発明にしたがい、上記のような大きなマクロ孔を一定量存在せしめると、ミストによる細孔の目詰まりが有効に抑制され、結果として、触媒と触媒反応に供する処理物質との接触活性成分が阻害されず、安定して触媒能が発揮されるものと信じられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<アルミナ粒子>
本発明のアルミナ粒子は、後述する多元細孔構造を有するものであれば、その結晶構造は特に制限されず、γ、θ、δ、η、κ等の結晶構造を有するものであってよいが、特に安定した多元細孔構造を容易に形成できるという点で、γ−アルミナが好適である。
【0017】
また、このアルミナ粒子は、細孔直径がさらに、細孔直径が4〜50nmの大きさであるメソ孔と、細孔直径が50〜8000nmの大きさのマクロ孔とを有する多元細孔構造を有するものであり、このために、細孔直径が4〜8000nmの細孔のトータル細孔容積Vtが0.10〜1.30cm
3/g、特に0.15〜0.90cm
3/gの範囲にある。即ち、このトータル容積Vtが小さすぎると、上記のようなメソ孔及びマクロ孔を一定の量で形成することが困難となってしまう。特に全細孔を占めるマクロ孔の割合が小さくなってしまい、処理物質がミスト状で供給されたときの触媒性能の低下を回避することできなくなってしまう。また、トータル容積Vtが過度に大きいと、このアルミナ粒子の耐熱性や粒子強度が低くなってしまい、触媒活性成分を担持する担体としての性能が損なわれ、粒子の熱収縮や崩壊等により多元細孔構造を安定に保持することができず、触媒性能を安定して発揮させることが困難となってしまう。
【0018】
さらに、本発明においては、細孔直径が4〜8000nmの細孔のトータル細孔容積Vtが上記範囲内であることを条件として、細孔直径が4〜50nmのメソ孔の細孔容積V
1が0.05〜0.80cm
3/g、特に0.10〜0.60cm
3/gの範囲にあり、細孔直径が50〜8000nmのマクロ孔の細孔容積V
2が0.05〜0.50cm
3/g、特に0.05〜0.30cm
3/gの範囲にあることが必要である。
即ち、メソ孔の細孔容積V
1が上記範囲よりも小さいと、十分な量の触媒活性成分を担持させることが困難となり、触媒性能自体が不満足なものとなってしまい、マクロ孔の細孔容積V
2が上記範囲よりも小さいと、処理物質がミスト状で供給されたときの触媒性能の低下を回避することできなくなってしまう。さらに、メソ孔の細孔容積V
1或いはマクロ孔の細孔容積V
2が上記範囲よりも大きいと、メソ孔の細孔容積V
1及びマクロ孔の細孔容積V
2の何れか一方が上記範囲よりも小さくなってしまい、結果として、処理物質がミスト状で供給されたときの触媒性能(以下、ミスト触媒性能と略すことがある)の低下が困難となるか、或いは触媒性能自体の低下を生じてしまう。
【0019】
このような多元細孔構造を有する本発明のアルミナ粒子は、マクロ孔の細孔容積V
2とメソ孔の細孔容積V
1との容積比(V
2/V
1)が0.10〜0.80、特に0.20〜0.60の範囲に調整されていることが好ましい。即ち、このアルミナ粒子に触媒活性成分を担持させたときの触媒性能を高めるにはメソ孔の細孔容積(V
1)を大きくすればよく、一方、ミスト触媒性能の点では、マクロ孔の細孔容積(V
2)を大きくすればよいが、トータルの細孔容積(Vt)が制限されるため、一方の細孔容積を大きくすると、他方の細孔容積が低下してしまう。従って、優れた触媒性能とミスト触媒性能とをバランスよく確保するという点で、細孔容積比(V
2/V
1)を上記範囲内に調整することが好ましい。
【0020】
尚、本発明において、上述した各種の細孔容積Vt、V
1及びV
2は、水銀圧入法によって測定することができる。
【0021】
また、上述した多元細孔構造を有する本発明のアルミナ粒子は、細孔容積Vt、V
1及びV
2が前述した範囲にあることに関連して、高い比表面積を有しており、例えばBET比表面積が、100〜400m
2/gの範囲にある。
【0022】
さらに、本発明のアルミナ粒子は、微量の微細なシリカが分散されていることが好ましく、例えば、100×Si/(Si+Al)で表されるSi量が1.0〜10.0モル%、特に1.5〜8.0mol%となる量でシリカが分散されていることが好ましい。
即ち、このような微量のシリカが分散されたアルミナ粒子は、白金などの触媒活性成分を担持させて排ガス浄化用触媒として使用するときの触媒活性の耐熱耐久性が極めて高い。即ち、多元細孔構造を有するアルミナ粒子は、高温(例えば700℃以上)に曝されたとき、細孔の収縮を生じるが、微量のシリカが分散されているときには、細孔の熱収縮が有効に抑制され、この結果、細孔内に触媒活性成分が安定に保持され、高温での熱処理によっても触媒活性が損なわれず、安定に維持することができる。
【0023】
尚、Si含有量(mol%)が上記範囲よりも大きい場合には、分散されているシリカ量が多く、この結果、細孔内への触媒活性成分の担持に支障を来たし、触媒活性そのものが低下してしまう。また、Si含有量(mol%)が上記範囲よりも小さいときには、分散されているシリカ量が少ないため、アルミナ細孔の熱収縮を十分に抑制することができず、触媒活性の耐熱耐久性を高めることが困難となる。
【0024】
<アルミナ粒子の製造>
本発明のアルミナ粒子は、硫酸アルミニウム等のアルミニウム塩の水溶液を原料とし、この原料液とアルカリとを混合してゲル化、水洗、乾燥及び焼成することにより製造されるが、ゲル化を細孔調整剤の存在下で行うことが必要である。
【0025】
アルミニウム塩水溶液と混合するアルカリとしては、苛性ソーダ、苛性カリ、水酸化アンモニウム等が使用され、該アルカリは、原料液との混合液のpHがアルカリ性の範囲となる量で使用される。
【0026】
また、細孔調整剤としては、有機樹脂粒子が使用される。即ち、このような有機樹脂粒子の存在下でゲル化が行われ、有機樹脂粒子を包含するようにアルミナのヒドロゲルが生成し、さらに、その後の焼成で有機樹脂粒子が分解して除去されるため、前述した多元細孔構造を有するアルミナ粒子を得ることができる。
従って、このような有機樹脂粒子は、焼成過程において、ある程度の高温に昇温されるまで粒子の形態を維持しているものであることが必要であり、このために、耐アルカリ性が高く、融点乃至軟化点が比較的高いもの(例えば100℃以上)が使用される。例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリスチレンの樹脂粒子を好適に使用することができ、これらの樹脂は、共重合により改質され、架橋構造の導入により耐熱性や耐アルカリが高められていてもよい。また、東洋紡(株)等により市販されている架橋ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムや架橋ポリ(メタ)アクリル酸カリウムなどの粒子を使用することもできる。
【0027】
このような有機樹脂粒子は、特にマクロ孔の形成に寄与するものであり、微細であることが好ましく、例えばレーザ回折散乱法で測定した体積基準の平均粒径(D
50)が0.1〜10μmの範囲である微細粒子であることが好適である。即ち、この粒子径が過度に大きいと、該有機樹脂粒子をゲル中に均一に分散させることが困難となるばかりか、該粒子を包含した状態でのゲル化も困難となり、細孔調整を効果的に行うことができなくなるおそれがある。さらに、粒径が過度に小さい場合には、取り扱いが困難であるばかりか、凝集等を生じ易く、細孔調整も困難となるおそれがある。
【0028】
本発明においては、上記の有機樹脂粒子の使用量が多いほど、トータルの細孔容積Vtを占めるマクロ孔の細孔容積(V
2)の割合が多くなる。従って、前述した多元細孔構造のアルミナ粒子を得るためには、かかる有機樹脂粒子は、硫酸アルミニウム水溶液に含まれる酸化物換算でのAl量(Al
2O
3)100質量部当り5〜40質量部の量で使用するのがよい。
【0029】
前述した硫酸アルミニウム等のアルミニウム塩の水溶液(原料液)とアルカリを混合してのゲル化は、該原料液及び有機樹脂粒子を45.0〜80.0℃の温度に加熱したアルカリ溶液に混合し(混合液のpHは、先に述べた通りアルカリ性)、ゲル形成後、水洗を行い、これにより、アルミナヒドロゲルが得られる。
【0030】
上記で得られたアルミナヒドロゲルを乾燥し、水分を除去して有機樹脂粒子を内包したキセロゲルを得、これを焼成することにより、目的とする多元細孔構造を有するアルミナ粒子が得られる。即ち、焼成により、キセロゲル中に含まれる有機樹脂粒子が分解して除去され、所定の大きさのメソ孔と共にマクロ孔を有するアルミナ粒子が得られるわけである。
焼成温度は、600〜900℃程度である。この温度がα−アルミナ化するような高温だと、細孔収縮が大きく、触媒活性成分の担持に不適当となるおそれがある。また、温度が低すぎると、有機樹脂粒子が分解除去出来ないおそれがある。
【0031】
また、上述した方法により製造されたアルミナ粒子では、耐熱性が低く、例えば600℃以上の高温雰囲気下に保持された場合、熱収縮により細孔が収縮してしまい、触媒性能の低下が生じることがある。このような不都合を防止するために、原料液をアルカリ液に混合してのゲル化に際して、酸性シリカゾルを共存させることが好ましい。
即ち、酸性シリカゾルの共存下で前述したヒドロゲルの生成を行い、さらに乾燥及び焼成を行うことにより、副生したシリカの微粒子がアルミナ粒子中に分散され、このシリカ微粒子が、アルミナ粒子が高温に保持されたときの細孔収縮を有効に抑制し、安定した多元細孔構造を維持し、この結果として細孔収縮による性能低下を有効に回避することができる。
【0032】
このような酸性シリカゾルは、原料液中のAlに対するSi量、即ち、100×Si/(Si+Al)のmol比が1.0〜10.0mol%、特に1.5〜8.0mol%の範囲内となるような量で使用される。上記範囲よりも多量のSiの使用は、得られるアルミナ粒子の多元細孔構造を変動させるおそれがあり、その使用量が少量の場合には、高温時の細孔の収縮を抑制する効果が不十分となる。
【0033】
尚、酸性シリカゾルの共存下でゲル化を行って目的とするアルミナ粒子を製造する場合、乾燥及び焼成の何れかを水分の存在下で行うことが好ましい。即ち、理論的に解明されているわけではないが、熱履歴に際しては水分を介在させることにより、焼成時におけるシリカ粒子の熱収縮が抑制され、シリカ粒子の存在による細孔の変動が抑制されるものと思われる。
【0034】
水分存在下での乾燥は、所謂スチーム乾燥により行うことができる。例えば60℃以上、特に100〜200℃の蒸気を吹き付けることや乾燥機内の排気を抑えヒドロゲルからの水分を長時間滞留させながら乾燥を行うのがよい。
また、水分存在下での焼成は、スチーム焼成により行うことができる。このスチーム焼成は、キセロゲル自体から発生する水分を長時間滞留させながら焼成することができる容器で所定の焼成温度に加熱することにより行われる。
【0035】
酸性シリカゾルを用いる場合においては、乾燥及び焼成の何れかを、上記のような水分存在下で行うことが望ましいが、最も好ましくはスチーム乾燥とスチーム焼成との両方を行うのがよい。即ち、このような手段を採用することにより、より有効に粒子(特にシリカ粒子)の収縮が抑制され、シリカ粒子の導入による細孔の変動をより確実に回避することができる。
【0036】
このようにして得られたシリカ分散アルミナは多孔質であり、内部に微量の微細シリカ粒子が均一に分散した構造を有しており、これにより、高温での熱処理による細孔の収縮が抑制され、さらにはSi含有量の増大に伴う焼成時の細孔の変動も有効に抑制され、触媒担体として優れた特性を示すことになる。
【0037】
<触媒>
上記のような特性を有するアルミナ粒子は、極めて安価であり、例えば押出成形、造粒成形等の公知の方法によって、円筒状、粒状、錠剤等の種々の形態に成形し、これに白金などの触媒活性成分を担持させて触媒としての使用に好適に適用される。
特にミスト状態に処理物質が供給されたときの触媒活性の低下が有効に回避されているため、白金族金属を担持させた自動車排ガス浄化用触媒として極めて好適であり、排ガス中のHC、CO、NOxを浄化することができる。
さらに、微量のシリカが分散されている本発明のアルミナ粒子では、その耐熱耐久性も優れており、エージング等により高温に保持されたものであっても、細孔収縮が有効に抑制されているため、優れた触媒性能を発揮することができる。
【0038】
排ガス浄化用触媒として使用される白金族金属としては、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムが代表的であるが、何れも極めて高価な貴金属である。このため、本発明の安価なアルミナ粒子を担体として用いた排ガス用触媒は、エージングなどの高温処理によっても触媒活性の低下が有効に回避され、長期間にわたって触媒性能を維持させることができるため、大幅なコストダウンに適している。
また、上述したアルミナ粒子は、特に高価な白金族触媒以外にも、水素化精製触媒、水素化脱硫触媒、水素化脱窒素触媒等の触媒としての機能を有する他の金属、例えば、銅、バナジウム、マンガン、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル、オスミウム、モリブデン−コバルト、モリブデン−ニッケル、タングステン−ニッケル、モリブデン−コバルト−ニッケル、タングステン−コバルト−ニッケルまたはモリブデン−タングステン−コバルト−ニッケル等を担持させる担体として使用することもでき、各種の触媒として使用することもできる。
【0039】
触媒活性成分の担持方法としては、上述したアルミナ粒子の成形体(担体)を触媒活性成分の可溶性塩の溶液に浸漬し、該金属成分を担体中に導入する含浸法、或いはアルミナ粒子の製造の際、金属成分を同時に沈殿させる共沈法等、公知の方法を採用することができるが、操作上容易であり、触媒特性の安定化維持に好都合な含浸法によることが好ましい。例えば、このアルミナ粒子の担体を、常温または常温以上で含浸溶液に浸漬して所望成分が十分担体中に含浸する条件下で保持するのがよい。含浸溶液の量および温度は、所望量の触媒活性成分が担持されるように適宜調整することができる。また、触媒活性成分の所望担持量により含浸溶液に浸漬する担体の量を決定することができる。
【0040】
尚、二種以上の触媒活性成分を担持するには、二種以上の触媒活性成分をあらかじめ混合し、その混合溶液から同時に含浸する一液含浸法を採用することができるし、また、二種以上の活性成分の溶液を別々に調製し、逐次含浸していく二液含浸法を採用することもできる。
【実施例】
【0041】
本発明を、次の実験例により詳細に説明する。
尚、以下の実験に用いた各種の測定方法は次の通りである。
【0042】
(1)化学分析;
Si、Alの測定はJIS.M.8853に準拠して測定した。
【0043】
(2)比表面積;
Micromeritics社製TriStarII 3020を用いて窒素吸着法にて測定を行った。比表面積は比圧が0.05から0.20の吸着側窒素吸着等温線からBET法で解析した。
【0044】
(3)細孔容積、細孔分布、マクロ細孔径ピークトップ;
Micromeritics社製AutoPore IV 9500を用いて水銀圧入法にて測定を行った。細孔直径が4〜50nmのメソ孔の細孔容積V
1は5000〜60000psiaの圧入量より、細孔直径が50〜8000nmのマクロ孔の細孔容積V
2は27.5〜5000psiaの圧入量より、細孔直径4〜8000nmの細孔のトータル細孔容積Vtは27.5〜60000psiaの圧入量より求めた。細孔分布は差分細孔容積で表現し、細孔直径が50〜8000nmの範囲で最大差分細孔容積値を示した細孔直径をマクロ細孔径ピークトップとした。
【0045】
(4)触媒調製;
アルミナに対して0.9wt%Pt+0.1wt%Pdとなるように白金およびパラジウムのジニトロジアンミン硝酸溶液を含浸担持し、水素中400℃で還元後、空気中500℃1時間で処理し、これを空気中750℃50時間でエージング処理を行ったものを触媒性能評価用試料とした。
【0046】
(5)HC、NO酸化活性評価;
常圧固定床流通反応法により行った。試料40mgに模擬排ガスとしてのNO200ppm+C
10H
22(デカン)180ppm+C
11H
10(α−メチルナフタレン)18ppm+10%H
2O+5%O
2(N
2希釈)を400mL・min
−1流通させ、500℃から階段状に降温し、HCが50%転化する温度、及び350℃におけるNOからNO
2への転化率を求めた。
【0047】
(6)燃料ミスト酸化活性評価;
図1に示す固定床流通型反応装置により行った。内径10mmの石英リアクター中央部に0.1gの粒状触媒を設置した。触媒層に燃料ミストが直接到達するように石英ウールは下部底面のみ設置し、リアクター内壁での燃料の結露を防ぐため電気炉から上部の部分はアルミ箔で覆い保温した。熱電対(K型)は触媒下部石英ウールの中央部分に挿入し反応温度を連続モニターした。燃料としての軽油(JIS2号)は加圧し液体マスフローコントローラ(ジーエルサイエンス製、試験は2μL・min
−1で燃料供給した)により流量制御後、ICP用二流体噴霧ノズル(藤原製作所製)に導入した。噴霧用気体としての空気0.1L・min
−1を同時に導入することで燃料ミストを直接反応管に添加した。さらに噴霧部の周囲から空気0.9L・min
−1を添加、希釈した。これにより、燃料5000ppmC+5%O
2(N
2希釈)を触媒層に1L・min
−1流し、500℃から連続降温(3℃・min
−1)した。常に同じ試験条件にするために、ノズル先端からヒータおよび触媒層上部までの距離を各々40mm、90mmに保持した。反応管の後段には0℃に冷やしたガラスウール入りのU字管を設け、未反応の燃料ミストを捕捉、分離した後、さらに後段にある分析装置にガス成分を導入した。ガス分析はNDIR−COx計(島津、CGT7000)を用い、COおよびCO
2濃度をモニターした。触媒活性は、CO
2への完全酸化率が10、50、90%となる温度(T10、T50、T90)で比較した。なお、表1の値はT50である。
【0048】
<実施例1>
アルミナ源の原料として硫酸アルミニウム(Al
2O
3 11.3%、SO
3 14.5%、SG 1.25)を使用した。硫酸アルミニウム300gに対し、細孔調整剤として平均粒子径3.0μmのアクリル粒子を10.2g添加し攪拌混合したものを、水600mLと49%苛性ソーダ73.2gを混ぜ60℃に加熱した容器に注加し、60℃に加温したイオン交換水で、洗浄液が10μS/cm以下になるまで洗浄して有機樹脂粒子添加アルミナヒドロゲルを得た。このゲルを300mLビーカーに入れてアルミ箔で上部を覆うことで水熱雰囲気とし、150℃で24時間乾燥しキセロゲルを得た。得られたキセロゲルを155mLの坩堝に入れ蓋をして水熱雰囲気とし、750℃で2時間焼成してマクロ孔付与アルミナを得た。得られたマクロ孔付与アルミナについて物性測定と触媒性能の評価を行い、結果を表1に記した。
【0049】
<比較例1>
細孔調整剤を添加せず乾燥、焼成を水熱雰囲気にしなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行いアルミナを得た。得られたアルミナについて物性測定と触媒性能の評価を行い、結果を表1に記した。
【0050】
<実施例2>
ケイ酸ソーダ(SiO
2 22.5%、Na
2O 7.2%、SG 1.30)と45%濃度の硫酸を両者が瞬時接触を可能な装置を用いて供給し、この溶液に等倍の水を加えて調整した酸性シリカゾルを、硫酸アルミニウム300gに対して30g添加した以外は実施例1と同様の操作を行いマクロ孔付与シリカ分散アルミナを得た。得られたマクロ孔付与シリカ分散アルミナについて物性測定と触媒性能の評価を行い、結果を表1に記した。
【0051】
<比較例2>
細孔調整剤を添加しなかったこと以外は実施例2と同様の操作でシリカ分散アルミナを得た。得られたシリカ分散アルミナについて物性測定と触媒性能の評価を行い、結果を表1に記した。
【0052】
<実施例3>
硫酸アルミニウム300gに対し、細孔調整剤を5.1g添加したこと以外は実施例1と同様の操作を行いマクロ孔付与アルミナを得た。得られたマクロ孔付与アルミナについて物性測定と触媒性能の評価を行い、結果を表1に記した。
【0053】
<比較例3>
硫酸アルミニウム300gに対し、細孔調整剤を1.4g添加したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、アルミナを得た。得られたアルミナについて物性測定と触媒性能の評価を行い、結果を表1に記した。
【0054】
<比較例4>
硫酸アルミニウム300gに対し、細孔調整剤を17.0g添加したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、アクリル粒子添加アルミナヒドロゲルを調製したが、ゲルの浮力が高かったため、洗浄工程でゲルが流出し回収することが出来なかった。
【0055】
<実施例4>
細孔調整剤として平均粒子径0.5μmのアクリル粒子を6.4g添加したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、マクロ孔付与アルミナを得た。得られたマクロ孔付与アルミナについて物性測定と触媒性能の評価を行い、結果を表1に記した。
【0056】
<実施例5>
細孔調整剤として平均粒子径1.5μmのアクリル粒子を10.2g添加したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、マクロ孔付与アルミナを得た。得られたマクロ孔付与アルミナについて物性測定と触媒性能の評価を行い、結果を表1に記した。
【0057】
<実施例6>
細孔調整剤として平均粒子径3.5μmのスチレン粒子を10.2g添加したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、マクロ孔付与アルミナを得た。得られたマクロ孔付与アルミナについて物性測定と触媒性能の評価を行い、結果を表1に記した。
【0058】
【表1】
【0059】
表1のマクロ孔容積(V
2)、V
2/V
1容積比より、本発明のマクロ孔付与アルミナ(実施例1〜6)はアルミナ源に細孔調整剤を入れて合成し、焼成することによりマクロ孔が付与されていることがわかる。さらに、マクロ孔直径ピークトップよりサイズの異なる細孔調整剤種を用いることによってマクロ孔サイズを調整可能であることがわかる。また、燃料ミスト酸化活性より、マクロ孔付与アルミナ(実施例1〜2)は比較例1〜2に比べてより低温で酸化活性を示すことから、ミストによる細孔の目詰まりが有効に抑制されていることがわかる。