(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-161839(P2015-161839A)
(43)【公開日】2015年9月7日
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
G10L 19/26 20130101AFI20150811BHJP
H04R 3/04 20060101ALI20150811BHJP
G10L 25/90 20130101ALI20150811BHJP
【FI】
G10L19/26 B
H04R3/04
G10L25/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-37648(P2014-37648)
(22)【出願日】2014年2月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】鎌本 優
(72)【発明者】
【氏名】守谷 健弘
(72)【発明者】
【氏名】原田 登
(72)【発明者】
【氏名】千葉 大将
(72)【発明者】
【氏名】宮部 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 武志
(72)【発明者】
【氏名】牧野 昭二
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AB03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】出力信号の品質を向上できる信号処理装置を提供する。
【解決手段】所定時間区間であるフレーム単位の入力信号のピッチ周期に対応する情報に依存して定まるピッチ強調利得を取得するピッチ強調利得取得部11と、入力信号における所定の周波数成分のピッチを、入力信号に対応するピッチ強調利得が大きいほど強く強調した信号であるピッチ強調信号を生成するピッチ強調信号生成部12とを含み、ピッチ強調利得取得部により取得されるピッチ強調利得は、入力信号のピッチ周期が短いほど大きい、または、入力信号のピッチ周波数が高いほど大きい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定時間区間であるフレーム単位の入力信号のピッチ周期に対応する情報に依存して定まるピッチ強調利得を取得するピッチ強調利得取得部と、
前記入力信号における所定の周波数成分のピッチを、前記入力信号に対応するピッチ強調利得が大きいほど強く強調した信号であるピッチ強調信号を生成するピッチ強調信号生成部と、
を含み、
前記ピッチ強調利得取得部により取得されるピッチ強調利得は、
前記入力信号のピッチ周期が短いほど大きい、
または、
前記入力信号のピッチ周波数が高いほど大きい、
信号処理装置。
【請求項2】
所定時間区間であるフレーム単位の入力信号のピッチ周期に対応する情報に依存して定まるピッチ強調利得を取得するピッチ強調利得取得部と、
前記入力信号における所定の周波数成分のピッチを、前記入力信号に対応するピッチ強調利得が大きいほど強く強調した信号であるピッチ強調信号を生成するピッチ強調信号生成部と、
を含み、
前記入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周期が第1値の場合に対応する情報であるときに前記ピッチ強調利得取得部で取得されるピッチ強調利得を第1ピッチ強調利得とし、
前記入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周期が第1値よりも大きい第2値の場合に対応する情報であるときに、前記ピッチ強調利得取得部で取得されるピッチ強調利得を第2ピッチ強調利得としたとき、
第1ピッチ強調利得が第2ピッチ強調利得よりも大きい
信号処理装置。
【請求項3】
所定時間区間であるフレーム単位の入力信号のピッチ周期に対応する情報に依存して定まるピッチ強調利得を取得するピッチ強調利得取得部と、
前記入力信号における所定の周波数成分のピッチを、前記入力信号に対応するピッチ強調利得が大きいほど強く強調した信号であるピッチ強調信号を生成するピッチ強調信号生成部と、
を含み、
前記入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周波数が第1値の場合に対応する情報であるときに前記ピッチ強調利得取得部で取得されるピッチ強調利得を第1ピッチ強調利得とし、
前記入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周波数が第1値よりも大きい第2値の場合に対応する情報であるときに、前記ピッチ強調利得取得部で取得されるピッチ強調利得を第2ピッチ強調利得としたとき、
第1ピッチ強調利得が第2ピッチ強調利得よりも小さい
信号処理装置。
【請求項4】
Nをピッチ強調に用いる信号長とし、整数nはn=0,1,…,N−1を充たすものとし、
所定時間区間であるフレーム単位の入力信号X(n)のピッチ周期に対応する情報に依存して定まるピッチ強調利得aを取得するピッチ強調利得取得部と、
前記入力信号X(n)と、ピッチ周期τを用いて表される中間信号
【数7】
と、前記ピッチ強調利得aを用いて、ピッチ強調信号
【数8】
を生成するピッチ強調信号生成部と、
を含み、
前記ピッチ強調利得取得部により取得されるピッチ強調利得は、
前記入力信号のピッチ周期が短いほど大きい、
または、
前記入力信号のピッチ周波数が高いほど大きい、
信号処理装置。
【請求項5】
Nをピッチ強調に用いる信号長とし、整数nはn=0,1,…,N−1を充たすものとし、
所定時間区間であるフレーム単位の入力信号X(n)のピッチ周期に対応する情報に依存して定まるピッチ強調利得aを取得するピッチ強調利得取得部と、
前記入力信号X(n)と、ピッチ周期τを用いて表される中間信号
【数9】
と、前記ピッチ強調利得aを用いて、ピッチ強調信号
【数10】
を生成するピッチ強調信号生成部と、
を含み、
前記入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周期が第1値の場合に対応する情報であるときに前記ピッチ強調利得取得部で取得されるピッチ強調利得を第1ピッチ強調利得とし、
前記入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周期が第1値よりも大きい第2値の場合に対応する情報であるときに、前記ピッチ強調利得取得部で取得されるピッチ強調利得を第2ピッチ強調利得としたとき、
第1ピッチ強調利得が第2ピッチ強調利得よりも大きい
信号処理装置。
【請求項6】
Nをピッチ強調に用いる信号長とし、整数nはn=0,1,…,N−1を充たすものとし、
所定時間区間であるフレーム単位の入力信号X(n)のピッチ周期に対応する情報に依存して定まるピッチ強調利得aを取得するピッチ強調利得取得部と、
前記入力信号X(n)と、ピッチ周期τを用いて表される中間信号
【数11】
と、前記ピッチ強調利得aを用いて、ピッチ強調信号
【数12】
を生成するピッチ強調信号生成部と、
を含み、
前記入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周波数が第1値の場合に対応する情報であるときに前記ピッチ強調利得取得部で取得されるピッチ強調利得を第1ピッチ強調利得とし、
前記入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周波数が第1値よりも大きい第2値の場合に対応する情報であるときに、前記ピッチ強調利得取得部で取得されるピッチ強調利得を第2ピッチ強調利得としたとき、
第1ピッチ強調利得が第2ピッチ強調利得よりも小さい
信号処理装置。
【請求項7】
信号処理装置が実行する信号処理方法であって、
所定時間区間であるフレーム単位の入力信号のピッチ周期に対応する情報に依存して定まるピッチ強調利得を取得するピッチ強調利得取得ステップと、
前記入力信号における所定の周波数成分のピッチを、前記入力信号に対応するピッチ強調利得が大きいほど強く強調した信号であるピッチ強調信号を生成するピッチ強調信号生成ステップと、
を含み、
前記ピッチ強調利得取得ステップにより取得されるピッチ強調利得は、
前記入力信号のピッチ周期が短いほど大きい、
または、
前記入力信号のピッチ周波数が高いほど大きい、
信号処理方法。
【請求項8】
信号処理装置が実行する信号処理方法であって、
所定時間区間であるフレーム単位の入力信号のピッチ周期に対応する情報に依存して定まるピッチ強調利得を取得するピッチ強調利得取得ステップと、
前記入力信号における所定の周波数成分のピッチを、前記入力信号に対応するピッチ強調利得が大きいほど強く強調した信号であるピッチ強調信号を生成するピッチ強調信号生成ステップと、
を含み、
前記入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周期が第1値の場合に対応する情報であるときに前記ピッチ強調利得取得ステップで取得されるピッチ強調利得を第1ピッチ強調利得とし、
前記入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周期が第1値よりも大きい第2値の場合に対応する情報であるときに、前記ピッチ強調利得取得ステップで取得されるピッチ強調利得を第2ピッチ強調利得としたとき、
第1ピッチ強調利得が第2ピッチ強調利得よりも大きい
信号処理方法。
【請求項9】
信号処理装置が実行する信号処理方法であって、
所定時間区間であるフレーム単位の入力信号のピッチ周期に対応する情報に依存して定まるピッチ強調利得を取得するピッチ強調利得取得ステップと、
前記入力信号における所定の周波数成分のピッチを、前記入力信号に対応するピッチ強調利得が大きいほど強く強調した信号であるピッチ強調信号を生成するピッチ強調信号生成ステップと、
を含み、
前記入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周波数が第1値の場合に対応する情報であるときに前記ピッチ強調利得取得ステップで取得されるピッチ強調利得を第1ピッチ強調利得とし、
前記入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周波数が第1値よりも大きい第2値の場合に対応する情報であるときに、前記ピッチ強調利得取得ステップで取得されるピッチ強調利得を第2ピッチ強調利得としたとき、
第1ピッチ強調利得が第2ピッチ強調利得よりも小さい
信号処理方法。
【請求項10】
請求項7から9の何れかに記載の信号処理方法を実行すべき指令をコンピュータに対してするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はディジタル時系列信号のポストフィルタ処理を実行する信号処理装置、信号処理方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
音声や音響信号の符号化では、デコードした音響信号に対してポストフィルタ処理を行い聴感上の音質を向上させる手法が広く用いられている(非特許文献1、2)。以下、
図1、
図2を参照して非特許文献1の信号処理装置について説明する。
図1は非特許文献1の信号処理装置9の構成を示すブロック図である。
図2は非特許文献1の信号処理装置9の動作を示すフローチャートである。
図1に示すように非特許文献1の信号処理装置9は、ピッチ改善部91と、減算部92と、ローパスフィルタ部93と、合成部94を含む。信号処理装置9は、これらの構成によりポストフィルタ処理を実行する。ポストフィルタへの入力信号がNサンプルのフレーム毎に処理されるとし、あるフレームの入力信号をX(n)(n=0,1,…,N−1)とする。
【0003】
ピッチ改善部91は入力信号X(n)とX(n)のピッチ周期τを用いてピッチ強調信号P(n)を求める。具体的には、まずピッチ改善部91は下記式により、ピッチの強調された中間信号Q(n)を求める。
【0004】
【数1】
【0005】
ピッチ改善部91はピッチの強調された中間信号Q(n)を用いて、下記式によりピッチ強調信号P(n)を得る(S91)。
【0006】
【数2】
【0007】
ここで、aは高調波の減衰を制御するパラメタ(ピッチ強調利得)であり、予め定められた定数である。
【0008】
ここで、ピッチ強調利得aは、
【0009】
【数3】
【0010】
として処理フレームごとに適応的に算出される。ただし、過度なピッチ強調による音質の劣化を防ぐため、拘束条件として0≦a≦0.5が設定されている。ゆえに、ピッチ強調利得aは、
【0011】
【数4】
【0012】
として上限及び下限で丸められる。なお、
【0013】
【数5】
【0014】
であり、Nはピッチ強調に用いる信号長である。C
pはX(n)とQ(n)の内積であり、E
pはQ(n)のエネルギーを表す。また、
【0015】
【数6】
【0016】
である。ここで、←は右辺の値で左辺のパラメータの値を更新することを表す。 ̄E
ppはQ(n)の直前の処理フレームまでの平均予測誤差のエネルギーを表す。
【0017】
別の表現では、ピッチ改善部91は現在の時間区間の入力信号X(n)に、現在よりもピッチ周期τだけ過去の入力信号x(n−τ)、および現在よりもピッチ周期τだけ未来の入力信号x(n+τ)を合成した信号であるピッチ強調信号P(n)を生成する(S91)。
【0018】
次に、減算部92は、ピッチ強調信号P(n)から現在の時間区間の入力信号X(n)を減算した残差信号R(n)=P(n)−X(n)を出力する(S92)。ローパスフィルタ部93は、固定値のカットオフ周波数Fc=500Hzのローパスフィルタリングを実行して、残差信号R(n)からカットオフ周波数Fc=500Hz以下の周波数成分のみを抽出した残差信号r(n)を出力する(S93)。合成部94は、現在の時間区間の入力信号X(n)と、ローパスフィルタ部93から出力された低域のみの残差信号r(n)とを合成した信号Y(n)=X(n)+r(n)を生成し、信号Y(n)を出力する(S94)。
【0019】
このようにして、非特許文献1の信号処理装置9では、低域(500Hz以下の周波数成分)のピッチ構造を強調することにより聴感上の品質を向上させていた。また、非特許文献2では、上述のローパスフィルタリングの代わりに、全周波数帯域についてピッチ強調を行う方法が用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】ITU-T Rec. G.718, ITU, 2008.(7.14.1.1節)
【非特許文献2】Chen Juin-Hwey and A. Gersho, “Adaptive postfiltering for quality enhancement of coded speech,” IEEE Transactions on Speech and Audio Processing, Volume: 3, Issue: 1, Pages: 59 - 71, 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従来の方法では、X(n)とQ(n)に依存して、0≦a≦0.5の範囲でピッチ強調利得aを調整することによりピッチ強調信号を生成していた。よって、制約しすぎる場合には入力信号のピッチによる調波構造が十分に再現できず、必ずしも出力信号の品質が十分に向上しないという課題があった。そこで、本発明では出力信号の品質を向上できる信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の信号処理装置は、ピッチ強調利得取得部と、ピッチ強調信号生成部を含む。
【0023】
ピッチ強調利得取得部は、所定時間区間であるフレーム単位の入力信号のピッチ周期に対応する情報に依存して定まるピッチ強調利得を取得する。ピッチ強調信号生成部は、入力信号における所定の周波数成分のピッチを、入力信号に対応するピッチ強調利得が大きいほど強く強調した信号であるピッチ強調信号を生成する。
【0024】
ピッチ強調利得取得部により取得されるピッチ強調利得は、入力信号のピッチ周期が短いほど大きい、または入力信号のピッチ周波数が高いほど大きい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の信号処理装置によれば、出力信号の品質を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】非特許文献1の信号処理装置の構成を示すブロック図。
【
図2】非特許文献1の信号処理装置の動作を示すフローチャート。
【
図3】本発明の実施例1の信号処理装置の構成を示すブロック図。
【
図4】本発明の実施例1の信号処理装置の動作を示すフローチャート。
【
図5】本発明の変形例1の信号処理装置の構成を示すブロック図。
【
図6】本発明の変形例1の信号処理装置の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【0028】
本発明では所定の時間区間であるフレーム単位の入力信号のピッチ周波数(基本周波数)またはピッチ周期に依存して、ピッチ強調利得を変える。ピッチ強調では低い周波数帯域のピッチを強調するが、ピッチ周波数が高いとき(ピッチ周期が短いとき)は、ピッチ周波数が低いとき(ピッチ周期が長いとき)よりも大きなピッチ強調利得を用いてピッチ強調を行う。フレームごとにピッチ強調利得を適応的に変えることで、各フレームの入力信号についてピッチ周期による調波構造の倍音構造を適切に表現することができるので、音質をさらに向上させることができる。
【0029】
<信号処理装置への入力>
本発明の信号処理装置には、所定の時間区間であるフレーム単位の音声信号や音響信号などの時系列信号X(n)とピッチ周期情報Tとが入力される。音響信号の例は、単音構造の楽器信号などである。時系列信号X(n)(以下、「入力信号X(n)」という)は、フレーム毎の入力信号であり、あるフレームのn番目のサンプルの入力信号をX(n)と表記する(n=1,2,…,N−1,Nはフレーム内のサンプル数)。入力信号X(n)は、入力符号を復号して得た復号音響信号、もしくは、音源からの音をマイクなどにより収音した信号に対して音源分離や残響除去等の処理が行われた後の復元音響信号である。なお、復号音響信号は、周知の音響信号のロッシーな符号化・復号化方法における復号方法により得られた信号であれば何でも良い。例えば、非特許文献1のデコーダにより復号された音響信号や、AMR,G.729などの他の音声・音響信号の圧縮符号化・復号化方法に基づいて復号された音響信号である。つまり、信号処理装置の入力信号は、原信号に何らかの信号処理を施すことにより得た、原信号に歪みが加わった信号(ロッシーな信号)である。なお、非特許文献1のデコーダやAMR,G.729などのデコーダでは、複数フレーム分の音響信号(復号された音響信号)が連続して出力される。よって、本発明の信号処理装置にも、複数フレーム分の音響信号が連続して入力されることになる。
【0030】
ピッチ周期情報Tは、現在または現在に近接するフレームの入力信号のピッチ周期に対応する情報であれば何でも良い。「ピッチ周期に対応する情報」は、例えば、ピッチ周期そのものであってもよいし、ピッチ周期を量子化した値であってもよいし、ピッチ周期またはその量子化値に対応するインデックス符号であってもよい。また、ピッチ周期はピッチ周波数の逆数であるので、ピッチ周波数や、ピッチ周波数を量子化した値、ピッチ周波数またはその量子化値に対応するインデックス符号、を「ピッチ周期情報T」としてもよい。ピッチ周期情報Tは、例えば、圧縮された音響信号から復号音響信号を得る過程で得られる、入力信号(復号音響信号)X(n)に対応するピッチ周期τである。「X(n)に対応するピッチ周期τ」は、X(n)を含むフレームX=(X(1),X(2),…,X(N−1))のピッチ周期でも良いし、X(n)を含むフレームの近傍のフレームのピッチ周期でも良いし、X(n)を含むフレームの近傍のフレームのピッチ周期の平均値や重み付き平均値や最大値/最小値/中央値のような統計値でもよい。また、X(n)に対応するピッチ周期τの量子化値τ’=Round(τ)をピッチ周期τとしてもよい。ここでRound関数は実数値を整数値に変換する関数であり、一番近い整数値に変換する四捨五入でもよいし、床関数(切り捨て)でもよいし、天井関数(切り上げ)でもよい。
【実施例1】
【0031】
以下、
図3、
図4を参照して実施例1の信号処理装置について説明する。
図3は、本実施例の信号処理装置1の構成を示すブロック図である。
図4は、本実施例の信号処理装置1の動作を示すフローチャートである。
図3に示すように、本実施例の信号処理装置1は、ピッチ強調利得取得部11と、ピッチ強調信号生成部12を含む。
【0032】
〔ピッチ強調利得取得部11〕
ピッチ強調利得取得部11は、入力されたピッチ周期情報Tに基づいて、ピッチ強調利得を取得する。別の表現では、ピッチ強調利得取得部11は、所定時間区間であるフレーム単位の入力信号のピッチ周期に対応する情報(ピッチ周期情報T)に依存して定まるピッチ強調利得aを取得する(S11)。ピッチ強調利得aは、後述のピッチ強調信号生成部12でピッチを強調する度合いを制御するために用いられる情報である。
【0033】
具体的には、ピッチ強調利得取得部11は、ピッチ周期が短い(ピッチ周波数が高い)ほどピッチ強調利得aが大きくなるように、ピッチ強調利得aを決定する。例えば、ピッチ周期情報Tに対応するピッチ周期をτとし、τについての単調非増加関数をg(τ)としたとき、ピッチ強調利得取得部11は、
a=g(τ)
によりピッチ強調利得aを決定する。単調非増加関数g(τ)の一例は、
g(τ)=0.0036×fs/τ−0.1820
である。ここで、fsはサンプリング周波数である。
【0034】
なお、ピッチ強調利得aの値が、τの値の増加に対して連続的な単調非増加の関係ではなく離散的な単調非増加の関係であってもよい。例えば、所定の閾値をθとして、異なる2つのピッチ強調利得をa1, a2 (a1<a2)として、0<τ≦θの場合にはピッチ強調利得a2をピッチ強調利得aとして決定し、θ<τの場合にはピッチ強調利得a1をピッチ強調利得aとして決定してもよい。あるいは、0<τ≦θの場合には固定値のピッチ強調利得a’をピッチ強調利得aとして決定し、θ<τの場合にはピッチ強調利得a=g(τ)と決定してもよい。
【0035】
言い換えれば、入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周期が第1値の場合に対応する情報であるときにピッチ強調利得取得部11で取得される第1ピッチ強調利得a2は、入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周期が第1値よりも大きい第2値の場合に対応する情報であるときにピッチ強調利得取得部11で取得される第2ピッチ強調利得a1よりも大きい。
【0036】
〔ピッチ強調信号生成部12〕
ピッチ強調信号生成部12は、ピッチ強調利得取得部11で取得したピッチ強調利得aと入力信号X(n)を入力として、入力信号X(n)のうち所定のカットオフ周波数以下の周波数成分のピッチをピッチ強調利得aに対応する割合で強調したピッチ強調信号P(n)を生成する。(S12)。別の表現では、ピッチ強調信号生成部12は、入力信号における所定の周波数成分のピッチを、入力信号に対応するピッチ強調利得が大きいほど強く強調した信号であるピッチ強調信号を生成する。
【0037】
例えば、ピッチ強調信号生成部12は、式(2)で表現される重み付き和により、ピッチ強調信号P(n)を生成する。式(2)からわかるように、ピッチ強調利得aは、入力信号の所定周波数成分以下のピッチを強調する度合いに対応している。つまり、ピッチ強調信号生成部12は、式(2)の重み付き和に限らず、入力信号X(n)のうちの所定のカットオフ周波数以下の周波数成分のピッチが、ピッチ強調利得aが大きいほど強く強調された信号をピッチ強調信号P(n)として生成する処理であれば、何でもよい。
【0038】
<変形例1>
以下、
図5、
図6を参照して、本実施例のピッチ強調利得取得部11に改変を加えた変形例1の信号処理装置について説明する。
図5は、本変形例の信号処理装置1aの構成を示すブロック図である。
図6は本変形例の信号処理装置1aの動作を示すフローチャートである。
図5に示すように、本変形例の信号処理装置1aは、ピッチ強調利得取得部11aと、ピッチ強調信号生成部12を含む。
【0039】
ピッチ強調利得取得部11aは、ピッチ周波数が高いほどピッチ強調利得aが大きくなるように、ピッチ強調利得aを決定する(S11a)。例えば、ピッチ周期情報Tに対応するピッチ周波数をFpとし、Fpについての単調非減少関数をh(Fp)としたとき、ピッチ強調利得取得部11aは、
a=h(Fp)
によりピッチ強調利得aを求める。単調非減少関数h(Fp)の一例は、
h(Fp)=0.0036×Fp−0.1820
である。
【0040】
なお、ピッチ強調利得aの値が、Fpの値の増加に対して連続的な単調非現象の関係ではなく離散的な単調非現象の関係であってもよい。例えば、所定の閾値をθとして、異なる2つのピッチ強調利得をa1, a2 (a1<a2)として、0<Fp≦θの場合にはピッチ強調利得a1をピッチ強調利得aとして決定し、θ<Fpの場合にはピッチ強調利得a2をピッチ強調利得aとして決定してもよい。あるいは、0<Fp≦θの場合にはピッチ強調利得a=g(τ)と決定し、θ<Fpの場合には固定値のピッチ強調利得a’をピッチ強調利得aとして決定してもよい。
【0041】
言い換えれば、入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周波数が第1値の場合に対応する情報であるときにピッチ強調利得取得部11aで取得される第1ピッチ強調利得a1は、入力信号のピッチ周期に対応する情報がピッチ周波数が第1値よりも大きい第2値の場合に対応する情報であるときにピッチ強調利得取得部11aで取得される第2ピッチ強調利得a2よりも小さい。
【0042】
上述の構成をコンピュータによって実現する場合、各装置が有すべき機能の処理内容はプログラムによって記述される。そして、このプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。
【0043】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等どのようなものでもよい。
【0044】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD−ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0045】
このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の記憶装置に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の記録媒体に格納されたプログラムを読み取り、読み取ったプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。
【0046】
なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、本装置を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。