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特開2015-166299排ガスの処理システムおよび排ガスの処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-166299(P2015-166299A)
(43)【公開日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】排ガスの処理システムおよび排ガスの処理方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/60 20060101AFI20150828BHJP
   B01D 53/64 20060101ALI20150828BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20150828BHJP
   C22B 43/00 20060101ALI20150828BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20150828BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20150828BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20150828BHJP
   F27D 19/00 20060101ALI20150828BHJP
【FI】
   C04B7/60ZAB
   B01D53/34 136A
   B09B3/00 303L
   C22B43/00 101
   C22B7/02 A
   F27D17/00 105K
   F27D17/00 104G
   F27D21/00 A
   F27D19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-41552(P2014-41552)
(22)【出願日】2014年3月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】目次 康格
(72)【発明者】
【氏名】古屋 一寿
(72)【発明者】
【氏名】門野 壮
【テーマコード(参考)】
4D002
4D004
4K001
4K056
【Fターム(参考)】
4D002AA29
4D002AC10
4D002BA04
4D002BA13
4D002DA41
4D002GA02
4D002GB20
4D004AA37
4D004AB03
4D004AC04
4D004CA22
4D004CB09
4D004CB32
4D004CC11
4D004DA01
4D004DA02
4D004DA10
4D004DA20
4K001AA14
4K001BA14
4K001DA06
4K001DA07
4K001GB09
4K001GB11
4K056AA12
4K056BA02
4K056BB01
4K056CA08
4K056DB04
4K056DB21
4K056FA02
4K056FA11
(57)【要約】
【課題】集塵ダストから水銀を効率的に除去、回収できる、排ガスの処理システムおよび排ガスの処理方法を提供する。
【解決手段】本発明の排ガスの処理システム1は、排ガスに含まれるダストを集塵する集塵装置10と、固体熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置20と、集塵装置10で集塵された集塵ダストおよび熱媒体加熱装置20で加熱された固体熱媒体を混合しながら加熱するダスト加熱装置30と、加熱装置30による加熱によって集塵ダストから揮発した水銀を回収する水銀回収装置40とを備える。また、本発明の排ガスの処理方法は、排ガスに含まれるダストを集塵する集塵工程と、固体熱媒体を加熱する熱媒体加熱工程と、集塵工程で集塵された集塵ダストおよび熱媒体加熱工程で加熱された固体熱媒体を混合しながら加熱するダスト加熱工程と、加熱工程による加熱によって集塵ダストから揮発した水銀を回収する水銀回収工程とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスに含まれるダストを集塵する集塵装置と、
固体熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置と、
前記集塵装置で集塵された集塵ダストおよび前記熱媒体加熱装置で加熱された固体熱媒体を混合しながら加熱するダスト加熱装置と、
前記ダスト加熱装置による加熱によって前記集塵ダストから揮発した水銀を回収する水銀回収装置とを備える、排ガスの処理システム。
【請求項2】
前記集塵ダストと混合している前記固体熱媒体を前記集塵ダストから分離して回収する熱媒体回収装置をさらに備え、
前記熱媒体加熱装置は、前記熱媒体回収装置により回収された固体熱媒体を加熱する、請求項1に記載の排ガスの処理システム。
【請求項3】
前記ダスト加熱装置により加熱される前の集塵ダスト中の水銀の濃度および前記ダスト加熱装置により加熱された後の前記集塵ダスト中の水銀の濃度を測定する水銀分析装置と、
前記熱媒体加熱装置に前記固体熱媒体を供給する熱媒体供給装置とをさらに備え、
前記熱媒体供給装置は、前記水銀分析装置により測定された、前記ダスト加熱装置により加熱される前の集塵ダスト中の水銀の濃度と前記ダスト加熱装置により加熱された後の前記集塵ダスト中の水銀の濃度とから算出した水銀揮発率に基づいて、前記熱媒体加熱装置に供給する前記固体熱媒体の量を制御する、請求項1または2に記載の排ガスの処理システム。
【請求項4】
排ガスに含まれるダストを集塵する集塵工程と、
固体熱媒体を加熱する熱媒体加熱工程と、
前記集塵工程で集塵された集塵ダストおよび前記熱媒体加熱工程で加熱された固体熱媒体を混合しながら加熱するダスト加熱工程と、
前記ダスト加熱工程による加熱によって前記集塵ダストから揮発した水銀を回収する水銀回収工程とを含む、排ガスの処理方法。
【請求項5】
前記集塵ダストと混合している前記固体熱媒体を前記集塵ダストから分離して回収する熱媒体回収工程をさらに含み、
前記熱媒体加熱工程は、前記熱媒体回収工程により回収された固体熱媒体を加熱する、請求項4に記載の排ガスの処理方法。
【請求項6】
前記ダスト加熱工程により加熱される前の集塵ダスト中の水銀の濃度および前記ダスト加熱工程により加熱された後の前記集塵ダスト中の水銀の濃度を測定する水銀分析工程と、
前記熱媒体加熱工程に前記固体熱媒体を供給する熱媒体供給工程とをさらに含み、
前記熱媒体供給工程は、前記水銀分析工程により測定された、前記ダスト加熱装置により加熱される前の集塵ダスト中の水銀の濃度と前記ダスト加熱工程により加熱された後の前記集塵ダスト中の水銀の濃度とから算出した水銀揮発率に基づいて、前記熱媒体加熱工程に供給する前記固体熱媒体の量を制御する、請求項4または5に記載の排ガスの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダストを含む排ガスから水銀を除去する、排ガスの処理システムおよび排ガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2013年10月に「水銀に関する水俣条約外交会議及び準備会合」が開催され、同条約の採択・署名が行われた。今後、環境中への水銀の排出量の削減とその適正管理に向けた取組が強化されていくと思われる。セメント製造では、水銀を微量に含有する天然および廃棄物系の原燃料を使用しているため、セメントの焼成工程で使用されるセメントキルンから排出されるセメントキルン排ガスには水銀が含まれている。水銀による環境影響を低減するには、セメントキルン排ガスから水銀を除去して回収する必要がある。しかし、セメントキルン排ガスに低濃度で含まれている水銀を、大量に発生するセメントキルン排ガスから除去することは難しい。このため、従来から、セメントキルン排ガスから水銀を除去する様々な方法が提案されてきた(たとえば、特許文献1および2参照)。
【0003】
特許文献1には、セメントキルン排ガスを集塵機によって除塵した後、捕集した集塵ダストを加熱炉で加熱して集塵ダスト中の水銀を揮発させ、その後、吸着剤等により水銀を吸着させて除去するセメント製造排ガスの処理方法が記載されている。また、特許文献2には、セメント製造設備の集塵機後半部分で捕集された集塵ダストを加熱炉で加熱して集塵ダスト中の水銀を揮発させ、その後、揮発した水銀を洗浄水に吸収させて水銀を除去する、排ガス中の水銀を低減する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−355531号公報
【特許文献2】特開2011−84425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図3にセメント製造設備の概略フローの一例を示す。原料貯留・供給設備101からセメント焼成工程(予熱器、セメントキルンおよびエア・クエンチング・クーラー)102へ送られる送窯原料Tに含まれる水銀は、セメント焼成工程102で排ガス中に揮発する。しかし水銀およびその化合物は沸点が低いので、セメント焼成工程102から煙突に至る排ガス経路の途中で、排ガス温度の低下とともに、ドライヤー103中の原料および排ガス中のダストにその多くが吸着される。排ガス中のダストは、集塵機110で排ガスから分離され、分離した集塵ダストは原料貯留・供給設備101でセメント原料と混合されてセメント焼成工程102へ供給される。したがって、水銀は、セメント製造設備内を循環し、次第に濃縮されていく。煙突106から排出される排ガス中の水銀量を低減するには、セメント原燃料がセメント製造設備に持込む水銀の一部を、集塵ダストから除去すればよい。なお、図3の符号104はミルを示し、符号105はスタビライザーを示し、符号140は水銀回収装置を示す。また、点線の領域200は、本発明の排ガスの処理システムが設けられる領域である。
【0006】
このようなために、集塵ダスト中の水銀をできるだけ多く除去することが好ましい。集塵ダスト中の水銀をできるだけ多く除去するためには、集塵ダストから水銀をできるだけ揮発させる必要がある。このためには、集塵ダストを加熱するときに使用する加熱装置の温度を高くする必要がある。しかし、加熱装置の温度を高くすると、セメントの製造コストが高くなる。そこで、本発明は、集塵ダストを加熱するときに使用する加熱装置の温度を上げなくても、集塵ダストから水銀を効率的に除去、回収できる、排ガスの処理システムおよび排ガスの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、集塵ダストを加熱するときに、加熱した固体熱媒体を集塵ダストに加えることにより集塵ダスト中の水銀の揮発量を高めることができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]排ガスに含まれるダストを集塵する集塵装置と、固体熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置と、集塵装置で集塵された集塵ダストおよび熱媒体加熱装置で加熱された固体熱媒体を混合しながら加熱するダスト加熱装置と、ダスト加熱装置による加熱によって集塵ダストから揮発した水銀を回収する水銀回収装置とを備える、排ガスの処理システム。
[2]集塵ダストと混合している固体熱媒体を集塵ダストから分離して回収する熱媒体回収装置をさらに備え、熱媒体加熱装置は、熱媒体回収装置により回収された固体熱媒体を加熱する、上記[1]に記載の排ガスの処理システム。
[3]ダスト加熱装置により加熱される前の集塵ダスト中の水銀の濃度およびダスト加熱装置により加熱された後の集塵ダスト中の水銀の濃度を測定する水銀分析装置と、熱媒体加熱装置に固体熱媒体を供給する熱媒体供給装置とをさらに備え、熱媒体供給装置は、水銀分析装置により測定された、ダスト加熱装置により加熱される前の集塵ダスト中の水銀の濃度とダスト加熱装置により加熱された後の集塵ダスト中の水銀の濃度とから算出した水銀揮発率に基づいて、熱媒体加熱装置に供給する固体熱媒体の量を制御する、上記[1]または[2]に記載の排ガスの処理システム。
[4]排ガスに含まれるダストを集塵する集塵工程と、固体熱媒体を加熱する熱媒体加熱工程と、集塵工程で集塵された集塵ダストおよび熱媒体加熱工程で加熱された固体熱媒体を混合しながら加熱するダスト加熱工程と、ダスト加熱工程による加熱によって集塵ダストから揮発した水銀を回収する水銀回収工程とを含む、排ガスの処理方法。
[5]集塵ダストと混合している固体熱媒体を集塵ダストから分離して回収する熱媒体回収工程をさらに含み、熱媒体加熱工程は、熱媒体回収工程により回収された固体熱媒体を加熱する、上記[4]に記載の排ガスの処理方法。
[6]ダスト加熱工程により加熱される前の集塵ダスト中の水銀の濃度およびダスト加熱工程により加熱された後の集塵ダスト中の水銀の濃度を測定する水銀分析工程と、熱媒体加熱工程に固体熱媒体を供給する熱媒体供給工程とをさらに含み、熱媒体供給工程は、水銀分析工程により測定された、ダスト加熱装置により加熱される前の集塵ダスト中の水銀の濃度とダスト加熱工程により加熱された後の集塵ダスト中の水銀の濃度とから算出した水銀揮発率に基づいて、熱媒体加熱工程に供給する固体熱媒体の量を制御する、上記[4]または[5]に記載の排ガスの処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、集塵ダストから水銀を効率的に除去、回収できる、排ガスの処理システムおよび排ガスの処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態における、排ガスの処理システムを示す概略図である。
図2図2は、本発明の一実施形態における、排ガスの処理システムのダスト加熱装置の一例を説明するための図である。
図3図3は、セメント製造設備の概略フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態における排ガスの処理システムは、加熱された固体熱媒体を集塵ダストと一緒に加熱装置に供給することにより、集塵ダストから水銀を効率的に除去、回収する。以下、図1を参照して、本発明の一実施形態における排ガスの処理システムを説明する。図1は、本発明の一実施形態における、排ガスの処理システムを示す概略図である。なお、図1において、符号Gはセメントキルンから排出される排ガスを示し、符号Dは排ガスに含まれているダストまたは排ガスから集塵された集塵ダストを示し、符号Mは固体熱媒体を示す。
【0011】
(固体熱媒体)
固体熱媒体は、ダスト加熱装置30の中で集塵ダストを加熱する。このために、集塵ダストを加熱するための熱を蓄積するために、固体熱媒体は、熱媒体加熱装置20において加熱される。また、固体熱媒体は、ダスト加熱装置30の中で、さらに集塵ダストを撹拌して集塵ダストからの水銀の揮発を促進させる。
【0012】
固体熱媒体は、ダスト加熱装置30の中で集塵ダストを撹拌しながら加熱できる固体であれば、とくに限定されない。しかし、固体熱媒体は、熱媒体加熱装置20の中で、ダスト加熱装置30の中で集塵ダストを加熱するための熱を蓄熱する必要があるので、固体熱媒体の比熱は高いことが好ましい。また、固体熱媒体が、ダスト加熱装置30の中で集塵ダストを効率よく撹拌できるようにするため、固体熱媒体の真密度は集塵ダストのかさ密度よりも高いことが好ましい。集塵ダストのかさ密度は、たとえばJIS R 1628に準拠して測定することができる。
【0013】
好ましい固体熱媒体の材質は、たとえば、アルミナ、ジルコニア、シリカ、マグネシア、ムライト、窒化ケイ素、石灰、炭化ケイ素、サイアロン、タングステンカーバイト、銅の合金、ニッケルの合金ならびに鉄の合金からなる群から選択される少なくとも1種である。銅の合金には、たとえば真鍮、アルミニウム青銅、クロム銅およびベリリウム銅など、ニッケルの合金には、たとえばモネル、ハステロイおよびインコネルなど、鉄の合金には、たとえばクロム鋼およびステンレスなどがある。より好ましい固体熱媒体の材質は、アルミナ、石灰およびステンレスである。また、固体熱媒体の形状は、集塵ダストを加熱するとともに集塵ダストを撹拌できる形状であれば、とくに限定されない。たとえば、固体熱媒体の形状には、球形、直方体、立方体および俵型などが挙げられる。固体熱媒体の平均径は、好ましくは1〜100mmであり、より好ましくは1〜20mmである。固体熱媒体の平均径が1〜100mmであると、固体熱媒体は効率よく集塵ダストを加熱できるとともに効率よく集塵ダストを撹拌することができる。なお、固体熱媒体の平均径とは、固体熱媒体が球形の場合は、固体熱媒体の直径の平均値であり、固体熱媒体が球形以外の形状の場合は、固体熱媒体に外接する球形の直径、すなわち、固体熱媒体の一番長いところの平均値である。固体熱媒体の平均径は、たとえば、ふるい分け法により測定した粒径分布に基づいて算出することができる。
【0014】
(集塵ダスト)
集塵ダストは、集塵装置を使用して排ガスから集塵されたダストである。上述したように、水銀を微量に含有する天然原料および廃棄物などがセメントの原燃料として使用されるため、排ガスには水銀が含まれている。このため、集塵ダストにも水銀が含まれている。
【0015】
(排ガスの処理システム)
排ガスの処理システム1は、集塵装置10と熱媒体加熱装置20とダスト加熱装置30と水銀回収装置40とを備える。所望により、処理システム1は熱媒体回収装置50をさらに備えてもよい。また、所望により、処理システム1は水銀分析装置60と熱媒体供給装置70とをさらに備えてもよい。なお、本発明の一実施形態の排ガスの処理システムは、本発明の排ガスの処理システムの一例であり、本発明の排ガスの処理システムは、本発明の一実施形態の排ガスの処理システムに限定されない。
【0016】
(集塵装置)
集塵装置10は、セメントキルンKから排出された排ガスに含まれるダストを集塵する。集塵装置10は、セメントの製造工程で、排ガスの集塵装置として通常用いられるものであればとくに限定されない。たとえば、集塵装置10には、電気集塵装置、バグフィルタおよびサイクロンなどが挙げられる。
【0017】
不図示のプレヒータ出口の排ガスに含まれている水銀の多くは、排ガスの温度が下がるにしたがって、排ガス中のダストに吸着する。そして、ダストが除去された排ガスは煙突Cから外部へ排出される。また、集塵装置10によって集塵された集塵ダストはダスト加熱装置30に移送される。
【0018】
(熱媒体加熱装置)
熱媒体加熱装置20は固体熱媒体を加熱する。熱媒体加熱装置20は、たとえばセメント製造装置から排出される高温ガス、たとえばセメントキルンKから排出される高温ガスを使用して固体熱媒体を加熱する。この高温ガスは、たとえばセメントキルンKのキルン窯尻からスタビライザー入口までの間から排出されるガス、およびエア・クエンチング・クーラーの冷却空気排気などである。また、熱媒体加熱装置20は固体熱媒体を加熱するための発熱体を有する加熱ヒーター21を備えていてもよい。固体熱媒体を加熱するために使用される、セメントキルン(K)から排出される高温ガスの温度は、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは350℃以上であり、さらに好ましくは400℃以上である。セメントキルン(K)から排出される高温ガスの温度が200℃以上であると、加熱ヒーター21の固体熱媒体の加熱に要する熱量を効果的に削減できる。
【0019】
熱媒体加熱装置20により加熱された固体熱媒体の温度は、好ましくは300〜600℃であり、より好ましくは400〜500℃である。熱媒体加熱装置20により加熱された固体熱媒体の温度が300〜600℃であると、集塵ダストから水銀を効率的に揮発させることができる。
【0020】
熱媒体加熱装置20により加熱された固体熱媒体は、集塵ダストがダスト加熱装置30に移送される途中で、集塵ダストに加えられる。
【0021】
(ダスト加熱装置)
ダスト加熱装置30は、集塵装置10で集塵された集塵ダストおよび熱媒体加熱装置20で加熱された固体熱媒体を混合しながら加熱する。これにより、集塵ダストから水銀を効率よく揮発させることができる。図2を参照してダスト加熱装置30を詳細に説明する。図2に、本発明の一実施形態における排ガスの処理システム1のダスト加熱装置30の一例を示す。図2(a)は、集塵ダストおよび固体熱媒体が供給されていないときのダスト加熱装置30の一例の内部を示す図であり、図2(b)は、集塵ダストおよび固体熱媒体が供給されているときのダスト加熱装置30の一例の内部を示す図である。符号Dは集塵ダストを示し、符号Mは固体熱媒体を示す。なお、図2に示すダスト加熱装置30はあくまで一例であり、本発明の排ガスの処理システムのダスト加熱装置は、集塵ダストおよび固体熱媒体を混合しながら加熱することができれば、図2に示すダスト加熱装置30に限定されない。また、図2(b)は、集塵ダストと混合している固体熱媒体を強調して示している。したがって、図2(b)に示されている集塵ダストに対する固体熱媒体の割合および固体熱媒体の大きさは、本発明を限定しない。
【0022】
ダスト加熱装置30は、ダスト導入部31、本体部32、ダスト排出部33、加熱ヒーター34、水銀排出部35およびスクリューコンベア36を備える。ダスト導入部31は、集塵装置10で集塵された集塵ダストおよび熱媒体加熱装置20で加熱された固体熱媒体を、後述の本体部32の中に導入するための導入口である。本体部32は、円筒の形状を有し、本体部32の円筒の中心軸が水平面に対して傾斜している。また、本体部32の内部には本体部32の円筒の中心軸にスクリューコンベア36が配置されている。さらに、本体部32の外周に沿って加熱ヒーター34が配置されている。加熱ヒーター34は発熱体を有し、発熱体から発する熱により集塵ダストを加熱する。ダスト排出部33は、集塵ダスト中の水銀が揮発した集塵ダストおよび固体熱媒体を本体部32から排出するための排出口である。水銀排出部35は、集塵ダストから揮発した水銀を本体部32から排出するための排出口である。
【0023】
スクリューコンベア36により、ダスト導入部31から本体部32に導入された集塵ダストおよび固体熱媒体は、ダスト導入部31側からダスト排出部33側へ、徐々に輸送される。また、スクリューコンベア36のねじ羽根の回転により、集塵ダストおよび固体熱媒体は混合する。集塵ダストおよび固体熱媒体が混合すると、固体熱媒体に蓄積された熱により、集塵ダストは加熱される。
【0024】
集塵ダストおよび固体熱媒体が、加熱ヒーター34が配置されている領域に移動すると、加熱ヒーター34が発生する熱により、集塵ダスト中の水銀は揮発する。集塵ダストは、固体熱媒体により予め加熱されているので、水銀が揮発する温度まで集塵ダストの温度を上昇させるために必要な、加熱ヒーター34が発生する熱量を、固体熱媒体を用いない場合に比べて低減させることができる。とくに、加熱ヒーター34は、本体部32の外部から集塵ダストを加熱するので、集塵ダスト、とくに本体部32の円筒の中心軸側の集塵ダストの温度を、水銀が揮発する温度まで上昇させるのに多くの熱を発生する必要がある。しかし、集塵ダストの内部から集塵ダストを加熱できる固体熱媒体を用いることにより、集塵ダストの温度を水銀が揮発する温度まで上昇させるために必要な、加熱ヒーター34が発生する熱量を効果的に減少させることができる。さらに、固体熱媒体により集塵ダストは撹拌されるので水銀の揮発が促進される。また、本体部32の内壁に付着しようとする集塵ダストは固体熱媒体により撹拌されるので、固体媒体により、集塵ダストが本体部32の内壁に付着することを抑制できる。
【0025】
加熱ヒーター34により水銀が揮発した集塵ダストおよび固体熱媒体は、スクリューコンベア36によりダスト排出部33に輸送され、ダスト加熱装置30から排出される。また、集塵ダストから揮発した水銀(Hg)は、水銀排出部35を通って、ダスト加熱装置30から排出される。
【0026】
ダスト加熱装置30により集塵ダストを加熱するときの本体部32の内部温度は、好ましくは300〜500℃であり、より好ましくは350〜450℃である。本体部32の内部温度を300〜500℃とすることにより、集塵ダストから水銀を効率的に揮発させることができる。
【0027】
たとえば、ダスト加熱装置30で加熱される固体熱媒体の集塵ダストに対する割合は、集塵ダストのかさ密度に集塵ダストの質量をかけ算して算出されるかさ体積の100容量部に対して、好ましくは0.05〜10容量部であり、より好ましくは0.35〜4.5容量部である。ダスト加熱装置30で加熱される固体熱媒体の集塵ダストに対する割合が0.05〜10容量部であると、集塵ダストを効率的に撹拌することができる。
【0028】
図1に示すように、ダスト加熱装置30から排出された水銀(Hg)は水銀回収装置40に移送される。また、ダスト加熱装置30から排出された集塵ダストおよび固体熱媒体は、所望により熱媒体回収装置50に移送されてもよい。
【0029】
(水銀回収装置)
水銀回収装置40は、ダスト加熱装置30による加熱によって集塵ダストから揮発した水銀(Hg)を回収する。水銀回収装置40は、セメントの製造工程で、水銀回収装置として通常用いられるものであればとくに限定されない。水銀回収装置40は、たとえば、活性炭などの吸着剤に水銀を吸着させて水銀を回収してもよい。また、水銀回収装置40は、水銀を含有するダスト加熱装置30の排気を水銀の飽和温度以下に冷却し、水銀を凝縮して回収してもよい。
【0030】
(熱媒体回収装置)
熱媒体回収装置50は、集塵ダストと混合している固体熱媒体を集塵ダストから分離して回収する。熱媒体回収装置50は、集塵ダストと混合している固体熱媒体を集塵ダストから分離して回収することができれば、とくに限定されない。たとえば、集塵ダストは通過できるが固体熱媒体は通過できないような穴径の開口部を有する振動ふるいに集塵ダストおよび固体熱媒体の混合物を通過させることにより、集塵ダストと混合している固体熱媒体を集塵ダストから分離して回収してもよい。回収された固体熱媒体は、熱媒体加熱装置20によって再び加熱されてもよい。また、回収された固体熱媒体は、後述の熱媒体供給装置70に移送されてもよい。固体熱媒体から分離された集塵ダストは、セメントの原料Lとして使用される。
【0031】
(水銀分析装置)
水銀分析装置60は、ダスト加熱装置30により加熱される前の集塵ダスト中の水銀の濃度およびダスト加熱装置30により加熱された後の集塵ダスト中の水銀の濃度を測定する。水銀分析装置60は、集塵ダスト中の水銀の濃度を測定できるものであれば、とくに限定されない。たとえば、水銀分析装置60は、冷原子吸光法で集塵ダスト中の水銀の濃度を測定してもよい。
【0032】
水銀分析装置60により測定された、ダスト加熱装置30により加熱される前の集塵ダスト中の水銀の濃度とダスト加熱装置30により加熱された後の集塵ダスト中の水銀の濃度とから算出した水銀揮発率に基づいて、熱媒体加熱装置20による固体熱媒体の加熱温度を制御してもよい。水銀揮発率は、ダスト加熱装置30により加熱される前の集塵ダスト中の水銀の濃度をAmg/kgとし、ダスト加熱装置30により加熱された後の集塵ダスト中の水銀の濃度をBmg/kgとした場合、(A−B)/A×100の式からで算出される。この場合、水銀揮発率が、所定の基準範囲よりも低い場合、熱媒体加熱装置20の加熱温度を上昇させ、集塵ダスト中の水銀の揮発を促進させてもよい。また、水銀揮発率が、所定の基準範囲よりも高い場合、熱媒体加熱装置20の加熱温度を低下させて、集塵ダスト中の水銀の揮発を抑制させてもよい。
【0033】
(熱媒体供給装置)
熱媒体供給装置70は、熱媒体加熱装置20に固体熱媒体を供給する。熱媒体供給装置70は、上記水銀揮発率に基づいて、熱媒体加熱装置20に供給する固体熱媒体の量を制御してもよい。この場合、水銀揮発率が、所定の基準範囲よりも低い場合、熱媒体加熱装置20に供給する固体熱媒体の量を増加させ、集塵ダスト中の水銀の揮発を促進させてもよい。また、水銀揮発率が、所定の基準範囲よりも高い場合、熱媒体加熱装置20に供給する固体熱媒体の量を減少させて、集塵ダスト中の水銀の揮発を抑制させてもよい。
【0034】
熱媒体供給装置70に、熱媒体回収装置50により回収された固体熱媒体を供給してもよい。また、熱媒体供給装置70に、固体熱媒体供給ラインS(図1参照)から、新しい固体熱媒体を供給してもよい。
【0035】
[排ガスの処理方法]
次に、本発明の排ガスの処理方法を説明する。本発明の排ガスの処理方法は、集塵ダストを加熱するとき、加熱された固体熱媒体を集塵ダストに添加して、集塵ダストを加熱するときに使用するエネルギーを抑制させるとともに、集塵ダストを撹拌して水銀の揮発を促進させる。以下、本発明の排ガスの処理方法を説明する。
【0036】
本発明の排ガスの処理方法は、集塵工程と熱媒体加熱工程とダスト加熱工程と水銀回収工程とを含む。また、本発明の排ガスの処理方法は熱媒体回収工程をさらに含んでもよい。さらに、本発明の排ガスの処理方法は、水銀分析工程と熱媒体供給工程とを含んでもよい。
【0037】
(集塵工程)
集塵工程では、排ガスに含まれるダストを集塵する。集塵工程は、たとえば、上記の集塵装置10を使用して実施される。
【0038】
(熱媒体加熱工程)
熱媒体加熱工程では、固体熱媒体を加熱する。熱媒体加熱工程は、たとえば、上記の熱媒体加熱装置20を使用して実施される。固体熱媒体は、上述の排ガスの処理システムの説明で述べられたものと同様のものである。
【0039】
(ダスト加熱工程)
ダスト加熱工程では、集塵工程で集塵された集塵ダストおよび熱媒体加熱工程で加熱された固体熱媒体を混合しながら加熱する。ダスト加熱工程は、たとえば、上記のダスト加熱装置30を使用して実施される。
【0040】
(水銀回収工程)
水銀回収工程では、ダスト加熱工程により加熱された集塵ダストから揮発した水銀を回収する。水銀回収工程は、たとえば、上記の水銀回収装置40を使用して実施される。
【0041】
(熱媒体回収工程)
熱媒体回収工程では、水銀が揮発した前記集塵ダストと混合している固体熱媒体を集塵ダストから分離して回収する。そして、熱媒体加熱工程では、熱媒体回収工程により回収された固体熱媒体を加熱してもよい。熱媒体回収工程は、たとえば、上記の熱媒体回収装置50を使用して実施される。
【0042】
(水銀分析工程)
水銀分析工程では、ダスト加熱工程により加熱される前の集塵ダスト中の水銀の濃度およびダスト加熱工程により加熱された後の集塵ダスト中の水銀の濃度を測定する。水銀分析工程は、たとえば、上記の水銀分析装置60を使用して実施される。
【0043】
上述の熱媒体加熱工程は、上記水銀揮発率に基づいて、熱媒体加熱工程による固体熱媒体の加熱温度を制御してもよい。
【0044】
(熱媒体供給工程)
熱媒体供給工程では、熱媒体加熱工程に固体熱媒体を供給する。熱媒体供給工程は、たとえば、上記の熱媒体供給装置70を使用して実施される。さらに、熱媒体供給工程では、上記水銀揮発率に基づいて、熱媒体加熱工程に供給する固体熱媒体の量を制御してもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例は、本発明を限定するものではない。
【0046】
[実施例および比較例の実施]
実施例および比較例の排ガスの処理方法を以下のように実施した。
(実施例1〜11)
セメントキルンから排出された水銀を含む排ガスから集塵した集塵ダストを用いて、図1に示す排ガスの処理システムを使用して、実施例1〜11の排ガスの処理方法を実施した。(株)比良セラミックス製のφ2mmのアルミナボールを固体熱媒体として使用した。加熱装置における集塵ダストの処理量は14kg/時間であった。実施例1〜11の排ガスの処理方法における、固体熱媒体の温度、集塵ダスト100質量部に対する固体熱媒体の添加量およびダスト加熱装置の設定温度を、下記の表1〜4に示す。なお、固体熱媒体の加熱には、セメントキルンKから排出される高温ガスを使用せずに、加熱ヒーターのみを使用して固体熱媒体を加熱した。
【0047】
(比較例1〜4)
セメントキルンから排出された水銀を含む排ガスから集塵した集塵ダストを用いて、比較例1〜4の排ガスの処理方法を実施した。これらの実施には、図1に示す排ガスの処理システムから、熱媒体加熱装置、熱媒体回収装置および熱媒体供給装置を除いたシステムを使用した。加熱装置における集塵ダストの処理量は14kg/時間であった。比較例1〜4の排ガスの処理方法におけるダスト加熱装置の設定温度を下記の表1〜4に示す。
【0048】
[評価方法]
実施例および比較例の排ガスの処理方法を次の評価方法で評価した。
(水銀揮発率)
水銀分析装置(日本インスツルメンツ社製、型番:MA−2000)を使用して、ダスト加熱装置により加熱される前の集塵ダストの水銀濃度(A)(mg/kg)と、ダスト加熱装置により加熱された後の集塵ダストの水銀濃度(B)(mg/kg)とを測定した。そして、下記の式により水銀揮発率を算出した。
水銀揮発率(%)=(A−B)/A×100
実施例および比較例の排ガスの処理方法における水銀揮発率を下記の表1〜4に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
ダスト加熱装置の同じ設定温度の実施例と比較例とを比較した場合、全ての実施例の水銀揮発率は、比較例の水銀揮発率よりも高かった。これは、ダスト加熱装置の設定温度を高くしなくても、固体熱媒体によって集塵ダスト中の水銀の揮発を高めることができることを示している。上述したように、これは、固体熱媒体により集塵ダストが加熱されたことと、撹拌されたこととによるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の排ガスの処理システムおよび排ガスの処理方法は、廃棄物を原料として利用するセメント製造設備に有効に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 排ガスの処理システム
10 集塵装置
20 熱媒体加熱装置
30 ダスト加熱装置
40 水銀回収装置
50 熱媒体回収装置
60 水銀分析装置
70 熱媒体供給装置
C 煙突
D ダストまたは集塵ダスト
G セメントキルンからの排ガス
K セメントキルン
L セメント原料
M 固体熱媒体
図1
図2
図3