特開2015-168590(P2015-168590A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-168590セメントクリンカの製造方法、セメントクリンカ及びセメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-168590(P2015-168590A)
(43)【公開日】2015年9月28日
(54)【発明の名称】セメントクリンカの製造方法、セメントクリンカ及びセメント
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/38 20060101AFI20150901BHJP
   C04B 7/345 20060101ALN20150901BHJP
【FI】
   C04B7/38ZAB
   C04B7/345
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-42913(P2014-42913)
(22)【出願日】2014年3月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】清水 準
(72)【発明者】
【氏名】松尾 透
(57)【要約】      (修正有)
【課題】十分に短時間で強度を発現しうるセメントクリンカの製造方法、セメントクリンカ及びセメントを提供する。
【解決手段】早期強度発現のためのアルミニウム源として、アルミニウム残灰が含まれ、且つ、MgAl24が0.9〜2.7重量%、AlNが1.0〜3.1重量%含まれている原料を焼成することにより、短時間で硬化を開始し、所望の強度を発現しうるセメント用のクリンカを経済的に得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム残灰が含まれ、且つ、MgAl24が0.9重量%以上2.7重量%以下、AlNが1.0重量%以上3.1重量%以下含まれている原料を焼成してセメントクリンカを製造するセメントクリンカの製造方法。
【請求項2】
アルミニウム残灰が含まれ、且つ、MgAl24が0.9重量%以上2.7重量%以下、AlNが1.0重量%以上3.1重量%以下含まれている原料が焼成されてなるセメントクリンカ。
【請求項3】
アルミニウム残灰が含まれ、且つMgAl24が0.9重量%以上2.7重量%以下、AlNが1.0重量%以上3.1重量%以下含まれている原料が焼成されてなるクリンカを含むセメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカの製造方法、及びセメントクリンカおよびそれを含むセメントに関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの原料となるセメントクリンカは、石灰石、粘土等の原料を、粉砕、焼成することで製造される。原料の配合は、セメントの特性や用途によって相違する。
例えば、早期に強度を発現しうるいわゆる速硬性セメント用のセメントクリンカには、原料中にアルミナ(Al23)源を配合して焼成することが行われている。
【0003】
特許文献1には、アルミナ源として、アルミニウム残灰およびドロマイドを原料中に配合することで、早強性セメント用クリンカを製造することが記載されている。特許文献1に記載の製造方法によれば、原料中のアルミナ源として、産業廃棄物であるアルミニウム残灰を用いるため、比較的短時間で強度を得られる早強セメントに適したクリンカを経済的に得ることができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の早強性セメント用クリンカは、硬化開始時間が遅く、所望の強度を発現するためには1日程度はかかる。従って、より短時間で硬化し、所望の強度を発現しうるいわゆる速硬性セメント用のクリンカとしては不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭63−57376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題を鑑みて、より短時間で高強度を発現しうるセメントクリンカの製造方法、セメントクリンカ及びセメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るクリンカの製造方法は、アルミニウム残灰が含まれ、且つ、MgAl24が0.9重量%以上2.7重量%以下、AlNが1.0重量%以上3.1重量%以下含まれている原料を焼成してセメントクリンカを製造する。
【0008】
本発明によれば、アルミニウム残灰が含まれ、且つ、MgAl24が0.9重量%以上2.7重量%、AlNが1.0重量%以上3.1重量%以下含まれている原料を焼成することにより、短時間で硬化を開始し、所望の強度を発揮しうるセメント用のクリンカを経済的に得ることができる。
【0009】
本発明に係るクリンカは、アルミニウム残灰が含まれ、且つ、MgAl24が0.9重量%以上2.7重量%以下、AlNが1.0重量%以上3.1重量%以下含まれている原料が焼成されてなる。
本発明に係るセメントは、アルミニウム残灰が含まれ、且つMgAl24が0.9重量%以上2.7重量%以下、AlNが1.0重量%以上3.1重量%以下含まれている原料が焼成されてなるクリンカを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より短時間で高強度を発現しうるセメント用のクリンカの製造方法、セメントクリンカ及びセメントを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るセメントクリンカの製造方法、セメントクリンカ及びセメントについて、具体的に説明する。
【0012】
まず、本発明のセメントクリンカの製造方法について説明する。
本実施形態のセメントクリンカの製造方法は、アルミニウム残灰が含まれ、且つ、MgAl24が0.9重量%以上2.7重量%以下、AlNが1.0重量%以上3.1重量%以下含まれている原料を焼成してセメントクリンカを製造する方法である。
【0013】
前記原料は、アルミニウム残灰を含む。
アルミニウム残灰は、金属アルミニウムやアルミニウ合金を溶解する際、あるいは再溶解する際に発生する残灰であり、多くのアルミナ(Al23)を含むものである。
かかるアルミニウム残灰は、産業廃棄物として処理する必要があり、その処理にも費用がかかり、処理方法が問題になっている。
本実施形態の原料には、アルミナ源としてアルミニウム残灰を利用するため、原料コストを抑制することができる。
【0014】
アルミニウム残灰としては、特に限定されるものではないが、例えば、MgAl24が11.5重量%以上35.0重量%以下、好ましくは15.0重量%以上30.0重量%以下程度、AlNが13.5重量%以上40.0重量%以下、好ましくは18.0重量%以上35.0重量%以下程度含まれているアルミニウム残灰が好ましい。
アルミニウム残灰にMgAl24及びAlNが前記範囲の量で含まれている場合には、原料中のMgAl24及びAlNの量を後述する範囲に調整しやすいため好ましい。
【0015】
アルミニウム残灰は、例えば、使用前にMgAl24量を蛍光X線分析装置(Axios:スペクトリス社製)を使用して求め、AlNの量をJIS R 1675に記載の方法に従い測定して、前記範囲のものを選択して用いても良い。
【0016】
本実施形態の原料は、前記アルミニウム残灰の他に、通常、セメント原料として用いられる他の成分が配合されうる。
例えば、カルシウム源としての石灰石、ケイ素源としての粘土、フッ素源としての蛍石、硫黄源としての無水石膏などが挙げられる。
【0017】
原料中の各成分の配合量としては、例えば、以下のような配合量が挙げられる。
アルミニウム残灰は、例えば、7.60質量%以上7.80質量%以下、好ましくは、7.65質量%以上7.75質量%以下程度である。
カルシウム源として石灰石を用いる場合には、例えば、73.4質量%以上73.7質量%以下、好ましくは、73.5質量%以上73.6質量%以下程度である。
ケイ素源として粘土を用いる場合には、例えば、14.7質量%以上15.2質量%以下、好ましくは、14.9質量%以上15.1質量%以下程度である。
フッ素源として蛍石を用いる場合には、例えば、2.59質量%以上2.62質量%以下、好ましくは、2.60質量%以上2.61質量%以下程度である。
硫黄源として無水石膏を用いる場合には、例えば、1.14質量%以上1.18質量%以下、好ましくは、1.15質量%以上1.17質量%以下程度である。
【0018】
本実施形態の原料には、MgAl24が0.9重量%以上2.7重量%以下、好ましくは、1.2質量%以上2.3質量%以下程度、AlNが1.0重量%以上3.1重量%以下、好ましくは、1.4質量%以上2.7質量%以下程度含まれている。
原料中のMgAl24及びAlNの量が前記範囲である場合には、セメントとした場合に、短時間で硬化が開始し、十分な強度が得られるセメントクリンカを製造することができるため好ましい。
【0019】
本実施形態の原料には、Al23が1.6重量%以上5.2重量%以下、好ましくは2.3重量%以上4.6重量%以下程度含まれていてもよい。
原料中のAl23の量が前記範囲である場合には、セメントとした場合に、短時間で目的とする鉱物の生成が促進されるセメントクリンカを製造することができるため好ましい。
【0020】
本実施形態において原料は、焼成前に所望の粒度となるように粉砕してもよい。
前記粉砕は、例えば、竪型粉砕装置、ボールミル等の公知のセメント原料の粉砕手段、を用いて行なうことができる。
【0021】
前記原料は、SPキルン、NSPキルン、ロータリーキルン等の公知の焼成設備を用いて焼成することができる。
焼成は、例えば、前記原料が1325℃〜1375℃である時間が1.0時間〜2.0時間であるように焼成することが好ましい。
具体的には、予備焼成として800℃〜1100℃で0.5時間〜1.0時間加熱された原料の場合には、1325℃〜1375℃で0.5時間〜1.0時間焼成することが好ましい。
【0022】
原料を焼成することで粒子状のセメントクリンカが得られる。
かかるセメントクリンカはクリンカクーラ等で冷却され、さらに、仕上げミル、ボールミル等の公知の粉砕手段で所望の細かさになるまで粉砕することで、粉状のセメントクリンカが得られる。
【0023】
次に、本実施形態のセメントクリンカ及びセメントについて説明する。
本実施形態のセメントクリンカは、上述のように、アルミニウム残灰が含まれ、且つ、MgAl24が0.9重量%以上2.7重量%以下、AlNが1.0重量%以上3.1重量%以下含まれている原料が焼成されてなるセメントクリンカである。
【0024】
本実施形態のセメントクリンカは、例えば、鉱物組成として、C3S(3CaO・SiO2)が60.0重量%〜64.0重量%、C2S(2CaO・SiO2)が0.1重量%〜1.0重量%、C4AF(4CaO・Al23・Fe23)が4.0重量%〜5.0重量%程度であることが好ましい。
また、本実施形態のセメントクリンカ中のMgAl24の含有量は0.1重量%以下、AlNの含有量は0.1重量%以下程度であることが好ましい。
【0025】
さらに、本実施形態のセメントは、アルミニウム残灰を含み、且つ、MgAl24が0.9重量%以上2.7重量%以下、AlNが1.0重量%以上3.1重量%以下含まれている原料が焼成されてなるセメントクリンカを含むものである。
すなわち、上述した製造方法で製造されたクリンカを含むセメントである。
【0026】
より具体的には、上述のように粉砕されたセメントクリンカに、石膏、その他必要に応じた各成分を混合することで、各種セメントに調整される。
石膏は、セメントの品種によってその添加量が決定されるものであり、すなわちセメントとして調整された場合のSO3量からその添加量が決定される。前記SO3量は、例えば、JIS R 5210にセメントの種類毎に所定の量が決められている。
【0027】
本実施形態のセメントは、短時間で所望の強度が得られる速硬性セメントとして調整されることが好ましい。
速硬性セメントは、特殊なアルミン酸カルシウムと無水セッコウによるエトリンガイドの生成により早期強度発現性を付与したセメントである。
本実施形態のセメントは、例えば、セメント中に、C127であらわされる化合物(12CaO・7Al23)及びC3Sであらわされる化合物(3CaO・SiO2)の合計量(重量%)が70重量%以上であるようなセメントであることが好ましい。
かかる化合物の量である場合には、より短時間で所望の強度が得られる。
【0028】
尚、本実施形態において、前記各鉱物組成や前記化合物の含有量は、JIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」により測定及び算出することができる。
【0029】
本実施形態のセメントには、さらに、必要に応じて、高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ、石灰石等の混合成分が含まれていてもよい。
【0030】
上述のような本実施形態のセメントは、例えば、JIS R 5201に準拠して測定されるモルタルの圧縮強度(3時間)が、20N/mm2以上、好ましくは25N/mm2以上である速硬性セメントである。
また、JIS R 5201に準拠して測定される硬化時間が20分間〜60分間であるような速硬性セメントである。
【0031】
本実施形態のセメントクリンカを含むセメントは、上述のとおり極めて短時間で所望の強度が発現できる。また、原料としてアルミドロス残灰を用いることから、経済的に速硬性を有するセメント用のクリンカを得ることができ、同時に、アルミドロス残灰の処理としても有効である。
【0032】
本実施形態にかかるセメントクリンカの製造方法、セメントクリンカ、及びセメントは以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示して、本発明にかかるセメントクリンカの製造方法についてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
セメントクリンカの原料として、以下のものを準備した。各原料の化学組成は表1に示すとおりである。原料の化学組成は、蛍光X線分析装置(Axios:スペクトリス社製)を用いて測定した。また、強熱減量(Igloss)は、JIS R 5202に準拠して測定される強熱減量値である。
尚、アルミドロスA〜Dは、異なるアルミニウム工場から排出されたドロスの中から各成分の含有量が異なる4種類を選択した。

石灰石:栃木県唐沢産
粘土:栃木県唐沢産
蛍石:中国産
無水石膏:中国産
アルミドロスA
アルミドロスB
アルミドロスC
アルミドロスD
バン土頁岩:中国産
【0035】
【表1】
【0036】
前記原料中、アルミドロスA〜D及びバン土頁岩中のMgAl24、AlN、Al23含有量を表2に示す。尚、各含有量は、蛍光X線分析装置(Axios:スペクトリス社製)および粉末X線回折装置(Xpert MPD:スペクトリス社製)を用いて測定した。
【0037】
【表2】
【0038】
前記各原料を表3に示す割合で混合した。該混合した原料中のMgAl24、AlN、Al23含有量を表4に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
各混合された原料を、原料粉砕機(装置名:Pulverisette、フリッチュ社製)を用いて10分間粉砕した後、電気炉(MS−0819モトヤマ社製)で焼成温度1350℃で2.0時間焼成後、ボールミル粉砕装置(装置名:Pulverisette、フリッチュ社製)を用いて10分間粉砕して、実施例1,2及び比較例1乃至3のクリンカを焼成した。
得られた各クリンカの化学組成及び鉱物組成を表5、表6に示す。
尚、表6の鉱物組成は、前記測定した化合物量を基に、以下の式によって算出した。

Q:C127・CaF2=(1.9737×Al23)−(1.2602×Fe23

3S:3CaO・SiO2=[4.0714×{CaO−(f−CaO)}]−(7.6001×SiO2)−(3.5189×Al23)−(3.4273×Fe23)−(2.852×SO3)−(2.8654×TiO2)+(3.6839×Na2O)+(2.933×K2O)

2S:2CaO・SiO2=(2.87×SiO2)−(0.754×C3S)

4AF:4CaO・Al23・Fe23=3.0432×Fe23

2O:Na2O+K2O×0.658
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
各クリンカを用いてセメントを製造し、かかるセメントを用いてセメント硬化体(モルタル)の圧縮強さを測定した。
セメントは、前記各クリンカに石膏(中国産)をAl23とSO3のモル比が1:1.2となるように混合して製造した。
かかるセメントに、減水剤としてマイティ150(花王社製)1.0〜3.0質量%を、凝結遅延剤としてジェットセッター(住友大阪セメント社製)0.05〜0.2質量%を、さらに、砂(6号珪砂)をセメントに1対して、1.2の割合となるように配合し、水を水セメント比38.0%となるように注水しながら混合することでモルタルを得た。
かかるモルタルを用いて、JIS R 5210「セメントの物理試験方法」に準拠してモルタル圧縮強度を測定した。
【0045】
また、各モルタルのハンドリング時間を以下の方法で測定した。
直径1インチ高さ2インチの円錐形状の測定用コーンをビガー針装置に取付け、降下する際の全質量が350gとなるように設定する。
一方、各モルタルは、モルタルに注水してから5分毎に試料として採取し、該試料モルタルを、JIS R 5201に記載されたモルタル用凝結試験型枠にフロー試験の要領でモルタルを詰めて表面をならし、前記測定用コーンの尖端が試料モルタルの表面に接する位置にセットした後、該測定用コーンをモルタルに落下させた時の浸入深さを測定し、該浸入深さが1.5mmとなった時の注水時からの時間をハンドリング時間(分)とした。尚、前記圧縮強度およびハンドリング時間は、室温5℃で試験を実施した場合の結果を表7に、室温20℃で試験を実施した場合の結果を表8にそれぞれ示す。
【0046】
【表7】
【0047】
【表8】
【0048】
表7および8から明らかなように、5℃、20℃いずれの温度での測定でも、実施例1および2は短時間で硬化を開始し、且つ、3時間で高い圧縮強度を示した。