特開2015-17073(P2015-17073A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-170734−メチルテトラヒドロピランを溶媒とするアルキルグリニャール試薬の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-17073(P2015-17073A)
(43)【公開日】2015年1月29日
(54)【発明の名称】4−メチルテトラヒドロピランを溶媒とするアルキルグリニャール試薬の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 3/02 20060101AFI20141226BHJP
【FI】
   C07F3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-146456(P2013-146456)
(22)【出願日】2013年7月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】岡部 史彦
(72)【発明者】
【氏名】藤 純市
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA02
4H048AC90
4H048BB25
4H048VA14
4H048VB30
(57)【要約】
【課題】アルキルヨウ素化合物とマグネシウムを用いてグリニャール試薬を製造する際の問題を解決する。
【解決手段】下記式(1)
RI (1)
(式中、Rはメチル基またはエチル基を表し、Iはヨウ素原子を表す。)で示されるアルキルヨウ素化合物とマグネシウムを4−メチルテトラヒドロピラン中で反応させて、下記式(2)
RMgI (2)
で示されるグリニャール試薬を製造する方法。
本発明によれば、アルキルヨウ素化合物とマグネシウムを用いてグリニャール試薬を簡便に製造でき、機器や設備などのコストを抑制でき、また次工程での反応操作を簡素化できる。さらに溶媒としての4−メチルテトラヒドロピランの再使用が可能となるので、溶媒の使用量を低減できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
RI (1)
(式中、Rはメチル基またはエチル基を表し、Iはヨウ素原子を表す。)で示されるアルキルヨウ素化合物とマグネシウムを4−メチルテトラヒドロピラン中で反応させて、下記式(2)
RMgI (2)
で示されるグリニャール試薬を製造する方法。
【請求項2】
アルキルヨウ素化合物がヨウ化メチルである請求項1に記載のグリニャール試薬の製造方法。
【請求項3】
式(2)で示されるグリニャール試薬を用いて、4−メチルテトラヒドロピラン中で求核付加反応を行うことを特徴とするグリニャール反応生成物の製造方法。
【請求項4】
グリニャール反応の後、水を加え、反応により生成した化合物を4−メチルテトラヒドロピラン層へ抽出する請求項3に記載のグリニャール反応生成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルヨウ素化合物とマグネシウムを用いて4−メチルテトラヒドロピラン中でグリニャール試薬を製造する方法、およびかかるグリニャール試薬を用いたグリニャール反応生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
求核付加反応によるアルキル化は有機合成の基本的手法であり、中でもグリニャール反応は最も有用な方法である(例えば非特許文献1参照)。グリニャール反応は、高い反応性を有する有機金属反応剤(グリニャール試薬)により炭素−炭素結合を形成する反応であり、グリニャール試薬はジエチルエーテル溶媒中でハロゲン化アルキルにマグネシウムを反応させることにより合成される。グリニャール反応の中でも、炭素数を1つ延ばすメチル化反応は特に重要な工程である(例えば非特許文献2参照)。
【0003】
メチルカルバニオンをカルボニル化合物やエポキシドなどに求核反応させる試薬として、メチルグリニャール試薬は一般的に用いられる(例えば特許文献1参照)。メチルグリニャール試薬はジエチルエーテル溶媒中でヨウ化メチルとマグネシウムを反応させることにより合成することができる(例えば非特許文献3参照)。しかし、ジエチルエーテルは低沸点の特殊引火物であり麻酔性が高く、安全管理上、製造プロセスにおいてもグリニャール反応の溶媒として用いることにも問題がある。
【0004】
そこで、グリニャール試薬の製造工程においては、工業的にはテトラヒドロフランが溶媒として用いられている。テトラヒドロフランを用いる場合、メチルグリニャール試薬は塩化メチル(bp.−24℃)、臭化メチル(bp.4℃)とマグネシウムを反応させることにより合成できるが、この場合は耐圧容器や低温設備が必要となる。このため、ハロゲン化アルキルとして適度な沸点を持つヨウ化メチル(bp.42℃)を用いることが望まれている。しかし、テトラヒドロフラン中におけるヨウ化メチルとマグネシウムとの反応では、副反応などのためメチルグリニャール試薬を高収率で調製できない。
【0005】
また、調製したメチルグリニャール試薬をテトラヒドロフラン溶媒のままカルボニル化合物やエステル化合物などと反応させると、反応を停止するために水を加えた際にテトラヒドロフランと水が混和するため、生成物の分離工程が煩雑化したり収率が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Grignard Reactions of Non-Metallic Substances, Prentice Hall, Englewood, Cliffs, New Jersey(1954)
【非特許文献2】有機合成のコンセプト、丸善-Willy(1997)
【非特許文献3】ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサエティ(J.Chem.Soc.),p2649(1949)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−183267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アルキルヨウ素化合物とマグネシウムを用いてグリニャール試薬を製造する際の上記の問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、ヨウ化メチルとマグネシウムとのグリニャール試薬製造工程において、4−メチルテトラヒドロピランを溶媒として用いることにより、安定して高収率でグリニャール試薬が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]下記式(1)
RI (1)
(式中、Rはメチル基またはエチル基を表し、Iはヨウ素原子を表す。)
で示されるアルキルヨウ素化合物(以下、アルキルヨウ素化合物(1)と称する)とマグネシウムを4−メチルテトラヒドロピラン中で反応させて、下記式(2)
RMgI (2)
で示されるグリニャール試薬(以下、グリニャール試薬(2)と称する)を製造する方法;
[2]アルキルヨウ素化合物(1)がヨウ化メチルである[1]のグリニャール試薬(2)の製造方法;
[3]グリニャール試薬(2)を用いて4−メチルテトラヒドロピラン中で求核付加反応を行うことを特徴とするグリニャール反応生成物の製造方法;および
[4]グリニャール反応の後、水を加え、反応により生成した化合物を4−メチルテトラヒドロピラン層へ抽出する[3]のグリニャール反応生成物の製造方法;である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルキルヨウ素化合物とマグネシウムを用いてグリニャール試薬を簡便に製造でき、機器や設備などのコストを抑制でき、また次工程での反応操作を簡素化できる。さらに溶媒としての4−メチルテトラヒドロピランの再使用が可能となるので、溶媒の使用量を低減できる。また、高極性化合物へのグリニャール反応の適用拡大が実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、アルキルヨウ素化合物(1)とマグネシウムを4−メチルテトラヒドロピラン中で反応させて、グリニャール試薬(2)を製造する方法である。
本発明の方法で使用するアルキルヨウ素化合物(1)の具体例は、ヨウ化メチルおよびヨウ化エチルである。
【0013】
本発明の方法で用いるマグネシウムとしては、顆粒のマグネシウム、具体的にはマグネシウム削片、マグネシウムダスト、マグネシウム粉末などの形態が好ましい。マグネシウムはアルキルヨウ素化合物(1)に対して少なくとも1モル倍用い、1.1〜2モル倍用いるのが好ましく、1.2〜1.3モル倍用いるのがより好ましい。マグネシウムの量がアルキルヨウ素化合物(1)に対して2モル倍を超える場合、反応を促進させるなどの利点がなくなってしまい、さらに反応終了時に未反応のマグネシウムを除去しなければならなくなるなどの問題がある。
【0014】
本発明の方法では、4−メチルテトラヒドロピランを用いることが特徴である。本発明の製造方法において、4−メチルテトラヒドロフランと共にテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)などのエーテル系溶媒や、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒を混合して用いてもよいが、回収・再利用の観点からは、4−メチルテトラヒドロピランを単独で用いることが望ましい。
4−メチルテトラヒドロピランは通常、蒸留および脱水処理をして用いる。4−メチルテトラヒドロピランの使用量に特に制限はないが、通常、マグネシウムに対して2〜50質量倍であり、5〜30質量倍であるのが好ましい。
【0015】
4−メチルテトラヒドロピランは、例えば後述する参考例に従い、3−メチル−1,5−ペンタンジオールより製造することができる。
【0016】
4−メチルテトラヒドロピランは環状エーテルであるが、従来より広く用いられているテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどに比べて低極性で、23℃における水への溶解度が1.5%であって水との相溶性が低い。そのため、有機合成反応における溶媒として用いた場合、反応後の処理時の分液操作を行う際に別の低極性溶媒をさらに添加したり、または別の低極性溶媒で置換したりする必要がない。また、4−メチルテトラヒドロピランは水と共沸する(共沸点85℃、共沸組成物:水19wt%)ため、エステル化やアセタール化などの、反応の進行に伴って水が発生する平衡反応を追い込む場合に共沸脱水によって水を系外に除去しながら反応を行うことが可能である。また、4−メチルテトラヒドロピランは沸点が105℃と他のエーテル系溶媒に比べて高く、高温が必要な反応に対して適用しやすい。
沸点が比較的高くかつ水溶性の低い他のエーテル系溶媒としてシクロペンチルメチルエーテルが挙げられるが、グリニャール反応などの有機金属化合物を用いた反応の場合には溶解性に劣り、反応成績が低い。一方、4−メチルテトラヒドロピランはその構造上酸素原子が金属と配位しやすいことに起因して、反応成績が高いという利点を有する。
【0017】
4−メチルテトラヒドロピランと、他の(環状)エーテルに関する基礎物性を表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
本発明の方法は、通常、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下で、4−メチルテトラヒドロピランとマグネシウムからなる溶液中に、アルキルヨウ素化合物(1)を必要に応じて4−メチルテトラヒドロピランの溶液として添加することにより行う。反応温度は通常0℃〜添加する反応液の還流温度以下であり、25℃〜反応液の還流温度の間が好ましい。
【0020】
反応時間は反応装置の大きさやアルキルヨウ素化合物(1)の量により変化するが、アルキルヨウ素化合物(1)を添加した後、反応を完結させてグリニャール試薬(2)を得るために、通常、好ましくは1〜10時間の範囲で還流温度に保つことが好ましい。
【0021】
本発明はまた、グリニャール試薬(2)を用いて4−メチルテトラヒドロピラン中で求核付加反応を行うグリニャール反応生成物の製造方法;およびグリニャール反応の後、水を加え、反応により生成した化合物を4−メチルテトラヒドロピラン層へ抽出するグリニャール反応生成物の製造方法である。
【0022】
本発明の方法で、グリニャール試薬(2)を用いて4−メチルテトラヒドロピラン中で求核付加反応を行う化合物としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、3−フェニルプロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド化合物;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、ベンゾフェノンなどのケトン化合物;ギ酸メチル、酢酸メチル、安息香酸エチル、アニス酸メチルなどのエステル化合物;ギ酸、酢酸、安息香酸、アニス酸などのカルボン酸化合物;ギ酸クロリド、酢酸クロリド、安息香酸クロリド、アニス酸クロリドなどの酸クロリド化合物などの酸ハロゲン化合物;N,N’−ジメチル酢酸アミド、N,N’−ジエチルベンズアミドなどのアミド化合物;アセトニトリル、アクリロニトリル、ベンゾニトリル、テレフタロニトリルなどのニトリル化合物;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのラクトン化合物;プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、スチレンオキシドなどのエポキシ化合物;オキセタンなどの4員環状化合物などを用いることができる。また、二酸化炭素、二硫化炭素などのC化合物;、酸素、硫黄などの分子状化合物;ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジフェニルスルホンなどのスルホン化合物などの含硫黄有機化合物;メチルイソシアネート、フェニルエソシアネートなどのイソシアネート化合物、ニトロソベンゼン、p−ジニトロベンゼン、p−ニトロソトルエンなどのニトロソ化合物などの含窒素有機化合物も用いることができる。中でも、アルデヒド化合物、ケトン化合物、エステル化合物、カルボン酸化合物、酸ハロゲン化合物、アミド化合物、ニトリル化合物、ラクトン化合物およびエポキシ化合物は、本発明の方法を好適に適用できる。
【0023】
本発明の方法では、通常、上記した求核付加反応を行う化合物の4−メチルテトラヒドロピラン溶液にグリニャール試薬(2)を添加し、求核付加反応によりアルキル基を導入する。なお、グリニャール試薬(2)に上記した求核付加反応を行う化合物の4−メチルテトラヒドロピラン溶液を添加しても何ら差し支えない。4−メチルテトラヒドロピランに加えて、テトラヒドロフラン、ジオキサンまたはジグライムなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒を混合して本発明の方法を行ってもよいが、回収再利用の観点からは、4−メチルテトラヒドロピランを単独で用いることが好ましい。
【0024】
グリニャール反応の後、水を加え、グリニャール反応生成物を4−メチルテトラヒドロピラン層へ抽出分離する。4−メチルテトラヒドロピランは水と分離するので、容易にグリニャール反応生成物を取得できる。また、4−メチルテトラヒドロピランは蒸留により回収して再使用できるので、溶媒の使用量を低減できる。
【0025】
アルキルヨウ素化合物(1)がヨウ化メチルの場合、本発明の方法の具体例として、例えば以下の反応式を示すことができる。
【0026】
【化1】
【実施例】
【0027】
以下、実施例等により本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。なお、実施例等における各成分の分析にはガスクロマトグラフ装置(島津製作所製,GC−14B)を用い、分析カラムとしてJ&W製DB−1カラム(長さ30m,直径0.32mm,膜厚1μm)を用いた。
【0028】
参考例1
温度計、滴下漏斗、撹拌装置および単蒸発装置として冷却管と受器を装備した容量1Lの三口フラスコに、p−トルエンスルホン酸23.2g、3−メチル−1,5−ペンタンジオール420gを入れ、オイルバスを155℃に設定して、内温135℃になるまで攪拌しながら加熱した。該温度に達した段階で、冷却管および受器に有機層および水層の留出が確認された。その後、有機層および水層を留出させながら、滴下漏斗から3−メチル−1,5−ペンタンジオール5058gを留出量見合いで41時間かけて連続的に添加したところ、受器に有機層4481gおよび水層679gが留出した。留出した有機層を分離し、ガスクロマトグラフィーによって分析したところ、4−メチルテトラヒドロピランの純度は99.6%、カールフィッシャー水分計(平沼産業株式会社製AQ−2200)によって求めた含水率は1.3%であった。得られた有機層を、SUSヘリパックを充填した蒸留塔(径3cm、搭長1m、約20段)の塔頂部にディーンスターク水分離器を取り付け、大気圧下、内温100〜130℃、塔頂温度85〜105℃で共沸脱水を行うことによって液中の含水量を250ppmまで低減させた。その後、ディーンスターク水分離器から蒸留装置に取り替えて還留比5、内温110〜113℃、塔頂温度105℃で蒸留精製することによって、純度99.9%以上、水分50ppm以下の4−メチルテトラヒドロピランを3662g得た。なお、ガスクロマトグラフィーでの分析条件は以下の通りである。
装置:GC−14B(株式会社島津製作所製)
使用カラム:G−300(内径1.2mm×長さ20m)、化学物質評価研究機構社製
分析条件:注入口温度220℃、検出器温度220℃
カラム温度:60℃で5分保持→220℃まで15℃/分で昇温→220℃で5分保持
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
【0029】
実施例1[メチルマグネシウムヨージド(MeMgI)の調製]
撹拌子を備えた容量100mlのナスフラスコに、アルゴン雰囲気下でマグネシウム0.87g(36mmol)および4−メチルテトラヒドロピラン6mlを加えて内温を40℃にし、1,2−ジブロモエタン50mgを加え同温度で5分撹拌した。次いで、ヨウ化メチル4.26g(30mmol)を4−メチルテトラヒドロピラン24mlに溶解させた溶液を反応液が還流状態を保つように添加した。滴下終了後、還流下で1時間撹拌し、メチルマグネシウムヨージド(MeMgI)の4−メチルテトラヒドロピラン溶液を得た。
【0030】
実施例2[MeMgIのベンズアルデヒドへの付加反応]
撹拌子を備えた容量100mlのナスフラスコに、アルゴン雰囲気下でベンズアルデヒド2.87g(27mmol)の4−メチルテトラヒドロピラン溶液を調製し、ここに実施例1で調製したMeMgIの4−メチルテトロヒドロピラン溶液を室温で滴下した。滴下終了後、室温で1時間反応し、水、次いで希塩酸水溶液を加えて水層のpHを4に調整し、4−メチルテトラヒドロピラン層と水層を分液した。4−メチルテトラヒドロピラン層中の1−フェニルエタノールをガスクロマトグラフィー(GC)で定量したところ、収率92%であった。
【0031】
比較例1
実施例1において、4−メチルテトラヒドロピランの代わりにテトラヒドロフランを用いた以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、溶液が白濁し、マグネシウムが黒くなった。
比較例2
実施例2において、ベンズアルデヒドの溶液を調製する際に4−メチルテトラヒドロピランの代わりにテトラヒドロフランを用い、また、メチルマグネシウムヨージド(MeMgI)の4−メチルテトラヒドロピラン溶液にベンズアルデヒドの溶液を添加した。この結果、1−フェニルエタノールの生成は認められなかった。
【0032】
参考例1
実施例1において、4−メチルテトラヒドロピランの代わりにジメチルエーテルを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ってメチルマグネシウムヨージド(MeMgI)のジメチルエーテル溶液を得た。続いて、溶媒として4−メチルテトラヒドロピランの代わりにジメチルエーテルを用いた他は、実施例2と同様の操作を行った。生成した1−フェニルエタノールをGCで定量したところ、収率91%であった。
【0033】
実施例3
実施例1で調製したMeMgI溶液(30mmol換算)を、表2に示すアルデヒド化合物、ケトン化合物、エステル化合物の4−メチルテトラヒドロピラン溶液に添加して、1時間室温で反応させた後、表2に示すグリニャール反応生成物をGCで定量した。反応結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
実施例4
撹拌子を備えた容量100mlのナスフラスコに、アルゴン雰囲気下でマグネシウム3.50g(144mmol)および4−メチルテトラヒドロピラン20mlを加えて内温を40℃にし、1,2−ジブロモエタン0.1gを加え同温度で5分撹拌した。次いでヨウ化メチル17.0g(120mmol)を4−メチルテトラヒドロピラン80mlに溶解させた溶液を、反応液が還流状態を保つように添加した。滴下終了後、還流下で1時間撹拌し、メチルマグネシウムヨージド(MeMgI)の4−メチルテトラヒドロピラン溶液を得た。
次に、撹拌子を備えた容量200mlのナスフラスコに、アルゴン雰囲気下でベンズアルデヒド10.6g(100mmol)および4−メチルテトラヒドロピラン20mlを加え、上記で調製したMeMgIの4−メチルテトラヒドロピラン溶液を30分かけて添加し、室温でさらに1.5時間撹拌した。反応液に水100mlを添加し、さらに希硫酸で水層のpHを4〜5に調節した。4−メチルテトラヒドロピラン層と水層を分液し、4−メチルテトラヒドロピラン層を水100mlおよび飽和食塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥し、4−メチルテトラヒドロピランを減圧下で留去して濃縮することで粗1−フェニルエタノール10.7gを収率86%(GC定量)で得た。また、留去した4−メチルテトラヒドロピランの回収量は105mlであった(回収率80%)。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、アルキルヨウ素化合物とマグネシウムを用いてグリニャール試薬を簡便に製造でき、機器や設備などのコストを抑制でき、また次工程での反応操作を簡素化できる。さらに溶媒としての4−メチルテトラヒドロピランの再使用が可能となるので、溶媒の使用量を低減できる。また、高極性化合物へのグリニャール反応の適用拡大が実現できる。