【実施例】
【0043】
種々のルイス酸、ルイス塩基の組み合わせ、種々の合成条件により、L−ラクチドとアルコールとの開環付加反応を試み評価した。
【0044】
以下の合成例で使用した試薬並びに得られたポリマー等の測定機器等について記す。
1H NMRスペクトルの測定には、JNM−LA400スペクトロメーター(日本電子株式会社製)を用いた。
【0045】
トルエンはNa/ベンゾフェノンから蒸留により精製して用いた。L−ラクチド(以下、L−LA)はシグマアルドリッチ ジャパン株式会社製、Tris(pentafluorophenyl)borane/toluene 13.6wt%(以下、B(C
6F
5)
3)は東ソー株式会社製、benzyl alcohol(以下、BnOH)、tert−butyl alcohol(以下、tBuOH)、trimesitylphosphine(以下、Mes
3P)、tricyclohexylphosphine(以下、Cy
3P)及びtriphenylphosphine(以下、Ph
3P)は、和光純薬株式会社製、2−propanol(以下、iPrOH)は東京化成工業株式会社製のものを用いた。
【0046】
(実験No.1−9)
まず、ルイス酸(LA)としてB(C
6F
5)
3、ルイス塩基(LB)としてMes
3Pを用い、種々の配合比にて、L−LAとBnOHの開環付加反応により乳酸二量体ベンジルエステルを生成し、配合比の影響について検証した。
【0047】
以下に記すようにL−LAとBnOHの開環付加反応を行った。まず、トルエンにL−LAを加えた溶液に、B(C
6F
5)
3のトルエン溶液を加えた。続いて、この混合物に、Ph
3Pのトルエン溶液を加えた。最後に、BnOHを加え、100℃で所定時間攪拌して、開環付加反応させた。攪拌後、反応溶液から溶媒を減圧留去し、生成物を得た(実験No.1〜4)。
【0048】
得られた生成物について、
1H NMRスペクトルを測定し、後述する手法にてL−LA及びBnOHの転化率(Conversion[%])、平均重合度(n)を求めた。
【0049】
また、ルイス塩基としてCy
3Pを用い、上記と同様の手法でL−LAとBnOHの開環付加反応を行い、転化率、平均重合度を求めた(実験No.5〜7)。
【0050】
また、ルイス塩基としてMes
3Pを用い、上記と同様の手法でL−LAとBnOHの開環付加反応を行い、転化率、平均重合度を求めた(実験No.8〜9)。
【0051】
実験No.1〜9の実験条件、転化率、平均重合度を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
実験No.1〜9のいずれにおいても平均重合度が1.1〜1.8であり、ベンジル乳酸は検出されず、選択的に乳酸二量体エステルが生成されていることがわかる。
【0054】
なお、室温で行った実験No.4では、72時間反応させてもL−LAの転化率が44.0%と100℃で24時間反応させた実験No.2に比べて劣っていることから、高温で行うことにより反応速度が高まることがわかる。
【0055】
また、転化率としては、ルイス塩基としてCy
3Pを用いた場合が良好であったため、以下の実験については、ルイス塩基としてCy
3Pを用いて行った。
【0056】
(実験No.10〜15)
L−LAとBnOHの配合割合を異ならせ、上記と同様の手法でL−LAとBnOHの開環付加反応を行い、転化率、平均重合度を求めた。
【0057】
ここで、
図1に示す実験No.12の
1H NMRスペクトルを例にして、L−LA及びBnOHの転化率の求め方について説明する。
図1の
1H NMRスペクトルは、実験No.2の反応後の試料について測定したものである。この
1H NMRスペクトルからは、反応後は原料であるL−LA、BnOH及び生成物である乳酸二量体エステルが混合している状態であり、重合体や乳酸ベンジル等の副成物が生成していないこともわかる。
【0058】
L−LAの転化率(Conversion
L−LA)は、生成物のメチン基のシグナル強度(Int
methine,product)と生成物のメチン基のシグナル強度及び未反応のL−LAのメチン基のシグナル強度(Int
methine,L−LA)との割合から求めた。即ち、
図1に示す
1H NMRスペクトルにおける(シグナルc+シグナルg)/{(シグナルc+シグナルg)+(シグナルe)}×100により求めた。
【0059】
また、BnOHの転化率(Conversion
BnOH)は、生成物のメチレン基のシグナル強度(Int
methylene,product)と生成物のメチレン基のシグナル強度及び未反応のBnOHのメチレン基のシグナル強度(Int
methylene,BnOH)との割合から求めた。即ち、
図1に示す
1H NMRスペクトルにおける(シグナルd)/{(シグナルd)+(シグナルf)}×100により求めた。
【0060】
また、平均重合度(n)は、生成物の内部メチン基のシグナル強度と生成物のOH基に隣接するメチン基のシグナル強度との割合から求めた。即ち、
図1に示す
1H NMRスペクトルにおける(シグナルe)/(シグナルg)×100により求めた。
【0061】
下表2に実験No.10〜15の実験条件、転化率、平均重合度を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
いずれの割合でも、平均重合度は1.1〜1.7であり、乳酸ベンジルは検出されず、アルコールを過剰に用いなくても選択的に乳酸二量体エステルを生成できることがわかる。なお、反応速度の観点からは、BnOHがL−LAに対して当量であるよりも、L−LA、BnOHのいずれかの配合比率が高い方がよいと考えられる。
【0064】
(実験No.16〜18)
BnOHの他、tBuOH、iPrOHを用い、上記と同様の手法でL−LAとアルコールの開環付加反応を行い、転化率、重合度を求めた。実験No.16〜18の実験条件、転化率、重合度を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
第2級アルコール、第3級アルコールを用いた場合、選択的に乳酸二量体エステルが生成されるものの、転化率が非常に低い結果となった。第2級アルコール、第3級アルコールでは、ルイス酸、ルイス塩基のかさ高さから反応が進行しにくく、アルコールとして第1級アルコールを用いることが好ましいことがわかる。
【0067】
(実験No.19〜22)
続いて、ルイス酸のみ、或いは、ルイス塩基のみを用い、上記と同様の手法でL−LAとBnOHの開環付加反応を行い、転化率、重合度を求めた。実験No.19〜22の実験条件、転化率、平均重合度を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
ルイス酸のみを用いた場合、転化率は低いものの、ルイス塩基のみを用いた場合、転化率は50%程度であり、ルイス塩基のみでも、L−LAとBnOHとの開環付加反応を促進させ、乳酸二量体エステルを生成する触媒機能を有することがわかる。