換算でセメントクリンカの質量に対して、0.8〜2.0質量%であり、セメントクリンカ中のスズ含有成分の割合は、スズ換算でセメントクリンカの質量に対して、40〜250ppmである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、セメントクリンカに石膏を添加してなるセメント組成物であり、セメントクリンカはSO
3含有成分およびスズ含有成分を含む。以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
(セメントクリンカ)
本発明のセメント組成物に使用されるセメントクリンカは、セメント組成物を構成する主要組成物である。セメントクリンカは、たとえば、石灰石(CaO成分化合物)、粘土(Al
2O
3成分化合物、SiO
2成分化合物)、ケイ石(SiO
2成分化合物)および酸化鉄原料(Fe
2O
3成分化合物)などのセメントクリンカ原料と、硫黄含有化合物(SO
3成分化合物)と、スズもしくはスズ化合物(スズ成分化合物)とを適量ずつ配合し、たとえば、1450℃前後の高温で焼成して製造される。
【0011】
セメントクリンカ中のSO
3含有成分の割合は、SO
3換算でセメントクリンカの質量に対して、0.8〜2.0質量%であり、好ましくは1.0〜1.8質量%であり、より好ましくは1.2〜1.6質量%である。SO
3含有成分の割合が0.8質量%より小さいと、セメントクリンカに添加する石膏の量を十分に低減できない場合があり、SO
3含有成分の割合が2.0質量%より大きいと、セメントクリンカの被粉砕性が非常に低下する場合がある。なお、セメントクリンカ中のSO
3換算でのSO
3含有成分の割合は、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定することができる。
【0012】
セメントクリンカ中のSO
3では、セメントクリンカ中のアルカリ金属硫酸塩、無水石膏およびセメントクリンカ中のシリケート相(後述のエーライトおよびビーライト)に分配される。シリケート相に分配されたSO
3はシリケート相に固溶している。したがって、SO
3含有成分は、セメントクリンカ中のアルカリ金属硫酸塩、無水石膏およびシリケート相に固溶しているSO
3である。
【0013】
通常、セメントクリンカ中のSO
3の割合が2.0質量%程度になるまでは、セメントクリンカ中のSO
3はアルカリ金属硫酸塩およびシリケート相に分配される。すなわち、セメントクリンカ中のSO
3の割合が2.0質量%程度になるまでは、セメントクリンカ中のSO
3の一部によりアルカリ金属硫酸塩が生成し、残りのSO
3はセメントクリンカのシリケート相に固溶する。そして、セメントクリンカには、無水石膏はほとんど生成しない。しかし、セメントクリンカ中のSO
3の割合が2.0質量%程度になると、アルカリ金属硫酸塩の生成は飽和状態になる。そして、セメントクリンカ中のSO
3の割合が2.0質量%を超えると、セメントクリンカ中のSO
3は無水石膏にも分配され、アルカリ金属硫酸塩の他に無水石膏が生成するようになる。しかしながら、本発明では、セメントクリンカはスズ含有成分を含むために、アルカリ金属硫酸塩の生成が飽和状態になる前に、セメントクリンカ中のSO
3は無水石膏に分配されるようになる。そして、セメントクリンカ中のSO
3の割合が2.0質量%よりも小さくても、セメントクリンカ中のSO
3は無水石膏にも分配され、セメントクリンカ中に無水石膏が生成するようになる。
【0014】
セメントクリンカは、SO
3換算でセメントクリンカの質量に対して、好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.50質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上の無水石膏を含むことが好ましい。無水石膏の割合が0.10質量%よりも小さいと、石膏の添加量を減少させる効果が小さくなる場合がある。なお、セメントクリンカ中のSO
3がすべて無水石膏に分配されることが好ましいので、無水石膏の割合の上限値は、SO
3換算でセメントクリンカの質量に対して2.0質量%である。
【0015】
セメントクリンカ中のスズ含有成分の割合は、スズ換算でセメントクリンカの質量に対して、40〜250ppmであり、好ましくは80〜200ppmであり、より好ましくは80〜100ppmである。これにより、セメントクリンカ中のSO
3の割合が小さくても、セメントクリンカ中に無水石膏を生成させることができる。また、セメントクリンカ中のSO
3は無水石膏にも分配されるので、アルカリ金属硫酸塩に分配されるSO
3の量が減少し、これにより、アルカリ金属硫酸塩の生成を抑制することができる。上述したように、アルカリ金属硫酸塩は、硫酸イオンの供給源となり、セメント組成物の急結を抑制することができる。しかし、アルカリ金属硫酸塩の生成量が大きくなると、アルカリ金属硫酸塩は、セメント組成物を水と混合したとき、水中のSO
3の濃度を急激に上昇させ、混和剤のセメント組成物の表面の吸着を減少させ、セメント組成物の流動性を悪化させる。したがって、アルカリ金属硫酸塩よりも無水石膏が生成することが好ましい。
【0016】
セメントクリンカ中のスズ含有成分の割合が40ppmよりも小さいと、セメントクリンカ中に生成する無水石膏の生成量が非常に小さくなったり、セメントクリンカ中に無水石膏を生成させるために必要なSO
3の含有量が非常に高くなったりする場合がある。また、セメントクリンカ中のスズ含有成分の割合が250ppmよりも大きいと、かえって無水石膏の生成が小さくなる。なお、スズ換算でのセメントクリンカ中のスズ含有成分の割合は、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定することができる。
【0017】
セメントクリンカは、セメント化合物として、3CaO・SiO
2(略号:C
3S)、2CaO・SiO
2(略号:C
2S)、3CaO・Al
2O
3(略号:C
3A)および4CaO・Al
2O
3・FeO
3(略号:C
4AF)を含む。また、セメントクリンカは、エーライトおよびビーライトの主要鉱物と、その主要鉱物の結晶間に存在するアルミネート相およびフェライト相の間隙相などとから構成される。エーライトはC
3Sを主成分とし、ビーライトはC
2Sを主成分とし、アルミネート相はC
3Aを主成分とし、フェライト相はC
4AFを主成分とする。エーライトおよびビーライトが上述のシリケート相に対応する。
【0018】
石膏は、セメントクリンカ中の3CaO・Al
2O
3の水和を遅らせるためにセメントクリンカに添加される。このことから、セメントクリンカにSO
3およびスズを含有させて、石膏の添加量を低減させる効果は、セメントクリンカ中の3CaO・Al
2O
3の割合が比較的高い、普通ポルトランドセメントおよび早強ポルトランドセメントにおいてとくに高い。したがって、普通ポルトランドセメントおよび早強ポルトランドセメントの組成から、3CaO・SiO
2、2CaO・SiO
2、3CaO・Al
2O
3および4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3の合計100質量部に対して、3CaO・SiO
2の割合は、好ましくは48〜70質量部であり、2CaO・SiO
2の割合は、好ましくは5〜25質量部であり、3CaO・Al
2O
3の割合は、好ましくは7〜12質量部である。
【0019】
なお、セメントクリンカにおける3CaO・SiO
2、2CaO・SiO
2、3CaO・Al
2O
3および4CaO・Al
2O
3・FeO
3の割合は、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」により測定したセメントクリンカにおけるCaO、SiO
2、Al
2O
3およびFe
2O
3の割合から、セメント化学の分野でボーグ式と呼ばれる計算式により求めた値である(たとえば、大門正機編訳「セメントの化学」、内田老鶴圃(1989)、p.11を参照)。
【0020】
(セメントクリンカの製造)
次に、セメントクリンカの製造の一例について説明する。セメントクリンカ原料としては、Ca、Si、Al、Fe、SnおよびSを含むものであれば、元素単体物、酸化物、炭酸化物などの形態を問わず用いることができ、また、それらの混合物を用いることができる。天然原料の例として、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料が挙げられ、工業的な原料の例として、上記元素を含む廃棄物原料、高炉スラグ、フライアッシュなどが挙げられる。また、かかるセメントクリンカ原料の混合割合に関しては、とくに限定されるものではなく、目的とする鉱物組成に対応した成分組成となるように原料配合を定めることができる。硫黄含有化合物としては硫黄を含むものであれば単体硫黄、硫黄のオキソ酸などの形態を問わず用いることができ、また、それらの混合物を用いることができる。硫黄含有化合物の例としては、硫酸、石油精製課程で回収された単体硫黄、非鉄精錬課程で回収された単体硫黄、および火力発電で回収された単体硫黄などが挙げられる。また、セメントクリンカの焼成に使用される燃料を、石炭から、石炭よりも硫黄の含有量が高い燃料(たとえば、石油精製課程で発生するオイルコークス)に代えることにより、セメントクリンカ中のSO
3の割合を所望の割合にするようにしてもよい。スズもしくはスズ化合物の例としては、金属スズ、フッ化スズ、塩化スズ、酸化スズ、硫酸スズおよび硝酸スズなどが挙げられる。
【0021】
目的とするセメントクリンカが得られるような組成で混合されたセメントクリンカ原料と硫黄含有化合物とスズもしくはスズ化合物とを、下記の焼成条件で焼成し、冷却する。焼成は、通常、電気炉やロータリーキルンなどを用いて行われる。焼成方法としては、たとえば、セメントクリンカ原料を、所定の第1焼成温度および第1焼成時間で加熱して焼成を行う第1焼成工程と、該第1焼成工程後、第1焼成温度から所定の第2焼成温度まで所定の昇温時間をかけて昇温させる昇温工程と、該昇温工程後、第2焼成温度および所定の第2焼成時間で加熱して焼成を行う第2焼成工程と、を含む方法が挙げられる。たとえば、電気炉を用いた場合、セメントクリンカ原料を、1000℃の焼成温度(第1焼成温度)で30分間(第1焼成時間)加熱して焼成を行った後(第1焼成工程)、1450℃(第2焼成温度)まで30分間(昇温時間)かけて昇温させ(昇温工程)、さらに1450℃で15分間(第2焼成時間)加熱して焼成を行った後(第2焼成工程)、焼成物を急冷することにより、セメントクリンカを製造することができる。
【0022】
(石膏)
上述したように、本発明のセメント組成物は、セメントクリンカに石膏を添加することにより作製される。セメントクリンカに添加される石膏は、セメントクリンカ中の3CaO・Al
2O
3と反応してエトリンガイトを生成し、3CaO・Al
2O
3の水和の進行を遅延させることができるものであれば、とくに限定されない。たとえば、セメントクリンカには二水石膏が添加される。セメント組成物全量基準でのSO
3換算の二水石膏の割合は、たとえば、1.7〜3.7質量%である
【0023】
(セメント組成物のその他の成分)
本発明のセメント組成物には、流動性、水和速度または強度発現の調節用として、石灰石、フライアッシュ、高炉スラグあるいはシリカフュームを添加することができる。この場合、石灰石としては、CaCO
3量をCaO基準で53質量%以上含有しているものが好ましい。なお、CaO換算量は、JIS M 8850 1994「石灰石分析方法」に準じて測定した値である。石灰石を適量添加することにより、とくに初期強度の向上および流動性改善に有効である。高炉スラグ粉末を添加する場合には、水砕スラグで、その塩基度((CaO質量%+MgO質量%+Al
2O
3質量%)/SiO
2質量%)が1.70以上、好ましくは1.80以上のものを使用することができる。さらに、フライアッシュは、JIS A 6201:1999「コンクリート用フライアッシュ」に規定のI種、II種、III種あるいはIV種、好ましくはI種またはII種のものがセメントの水和促進にも有効に作用する。
【0024】
また、本発明のセメント組成物に、AE減水剤、高性能減水剤または高性能AE減水剤、とくにポリカル系高性能AE減水剤を添加することにより、コンクリートの流動性および強度をより向上させることができる。
【0025】
(モルタルおよびコンクリート)
本発明のセメント組成物を、水と混合することにより、セメントミルクを作製することができ、水および砂と混合することにより、モルタルを作製することができ、砂および砂利と混合することにより、コンクリートを製造することができる。また、上記セメント組成物からモルタルやコンクリートを作製する際、高炉スラグやフライアッシュなどを添加することもできる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例は、本発明を限定するものではない。
【0027】
[評価方法]
実施例および比較例のセメント組成物に含まれるセメントクリンカを次の評価方法で評価した。
(セメントクリンカ中のSO
3の割合)
SO
3換算でのセメントクリンカ中のSO
3含有成分の割合は、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定した。
【0028】
(セメントクリンカ中の無水石膏の生成の有無)
呼び寸法90μmのふるいを全通するまで遊星ボールミルにて粉砕したセメントクリンカ粉末5.0gをサリチル酸−メタノール溶液(20g+200mL)中で2時間攪拌し、1時間静置した。これにより、セメントクリンカ中のエーライトおよびビーライトはサリチル酸−メタノール溶液により溶解する。次いで、残分をろ過(ろ紙:No.5C)し、メタノールでさらに洗浄し、60℃、20時間の条件で乾燥した後、回収した。回収した残分について、以下の測定条件で粉末X線回折測定を行い、セメント組成物に無水石膏が生成しているか否かを調べた。
粉末X線回折装置:スペクトリス(株)製、「X'Pert Pro」
リートベルト回折ソフト:スペクトリス(株)製、「High Score Plus」
X線管球:Cu
管電圧−管電流:45kV−40mA
測定範囲(2θ):10〜70°
ステップ幅:0.0167°
スキャン速度:0.1013°/秒
【0029】
(セメントクリンカ中の無水石膏の割合)
硫黄含有化合物を添加しないで、SO
3を含まないセメントクリンカ(後述の比較例1のセメント組成物のセメントクリンカ)を作製し、上述のサリチル酸−メタノール処理を行った。そして、このSO
3を含まないセメントクリンカのサリチル酸−メタノール処理の残分の質量に対する、無水石膏の割合を求めようとするセメントクリンカのサリチル酸−メタノール処理の残分の質量の増加分は、セメントクリンカ中の半水石膏の質量に対応すると仮定した(上記非特許文献1の第71ページ参照)。これより、無水石膏の割合を求めるセメントクリンカのサリチル酸−メタノール処理の残分の質量からSO
3を含まないセメントクリンカのサリチル酸−メタノール処理の残分の質量を引き算して、セメントクリンカ中の無水石膏の質量を算出し、この算出した値を、SO
3に換算し、換算した値をサリチル酸−メタノール処理前のセメントクリンカの質量で割り算して、SO
3に換算したセメントクリンカ中の無水石膏の割合を求めた。
【0030】
(セメントクリンカ中のアルカリ金属硫酸塩の割合)
セメントクリンカ中の水溶性アルカリはセメントクリンカ中のアルカリ金属硫酸塩に由来するので、セメントクリンカ中の水溶性アルカリ量を、ASTM C 114:1999"Methods for Chemical Analysis of Hydraulic Cement"の"Water−Sloluble Alkalies"にしたがい定量し、その定量結果を用いて、SO
3に換算したセメントクリンカ中のアルカリ金属硫酸塩の割合を算出した。
【0031】
(セメントクリンカにおけるシリケート相に固溶しているSO
3の割合)
セメントクリンカ中のSO
3の割合から、SO
3に換算したセメントクリンカ中の無水石膏の割合とSO
3に換算したセメントクリンカ中のアルカリ金属硫酸塩の割合とを引き算して、セメントクリンカにおけるシリケート相に固溶しているSO
3の割合を算出した。
【0032】
(セメントクリンカ中のスズの割合)
スズ換算でのセメントクリンカ中のスズ含有成分の割合は、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定した。
【0033】
実施例および比較例のセメント組成物を次の評価方法で評価した。
(流動性試験)
セメント組成物と、水分と、減水剤(BASFポゾリス社製 15S)を混練することで、セメントペーストを作製した。水分の添加量としては、得られる各セメントペーストがJIS R 5201に規定する方法で測定される標準軟度となるような水分量とした。減水剤の添加量としては、セメント組成物の重量に対して1重量%とした。JIS R 5201の「セメントの物理試験方法」における「8.凝結試験」で使用する装置(ビカー針装置および、セメントペースト容器)を用いて、上記セメントペーストに対して、流動性試験を行った。セメントペーストを収容する容器として、上記ビカー針装置のセメントペースト容器を用い、セメントペースト容器中に上記のセメントペーストを流し込んだ。そして、セメントペーストの上面を略水平な状態にした。セメントペースト中に降下させる棒部材として、上記ビカー針装置の標準棒を用い、標準棒の下方にセメントペーストを収容したセメントペースト容器を配置した。
【0034】
次に、標準棒の下端部をセメントペーストの上面に接触させた状態から棒部材の自重によってセメントペーストに対して荷重を加えた。これにより、標準棒をセメントペースト中へ降下させた。そして、標準棒がセメントペースト中に降下し始めてから30秒経過した時の降下距離を測定した。なお、降下距離の測定は、混練した直後のセメントペーストをセメントペースト容器内に流し込んだ直後を0分とし、0分後、5分後、10分後、15分後の各時間においてセメントペーストに対して行った。
【0035】
(異常凝結試験)
JIS R 5201の「セメントの物理試験方法」における「8.凝結試験」にならい、標準軟度となるセメントペーストを作製した。セメントペーストを収容する容器として、JIS R 5201規定のセメントペースト容器を用い、セメントペースト容器中に上記のセメントペーストを流し込み、セメントペーストの上面を平滑にした。セメントペースト中に降下させる棒部材として、上記ビカー針装置の標準棒を用い、標準棒の下方にセメントペーストを収容したセメントペースト容器を配置した。
【0036】
次に、標準棒の下端部をセメントペーストの上面に接触させた状態から棒部材の自重によってセメントペーストに対して荷重を加え、これにより、標準棒をセメントペースト中へ降下させた。標準棒がセメントペースト中に降下し始めてから30秒経過した時の降下距離を測定した。なお、降下距離の測定は、混練した直後のセメントペーストをセメントペースト容器内に流し込み後、5分後および10分後として、30秒後の降下量が15mm以下であった場合、この試料を異常凝結性と判定する。
【0037】
(圧縮強さ)
JIS R 5201 「セメントの物理試験方法」の「(5)強さ試験」の「(a)圧縮強さ」に準拠して、実施例および比較例のセメント組成物について材齢7日および材齢28日の供試体を測定した。なお、モルタル圧縮強さを評価するための供試体は、JIS R 5201 「セメントの物理試験方法」の「10.4 供試体の作り方」に準拠して作製した。
【0038】
[実施例および比較例のセメント組成物の作製]
以下のようにして、実施例および比較例のセメント組成物を作製した。
【0039】
<実施例1〜6、比較例1〜9>
(セメントクリンカの作製)
セメントクリンカ原料として、二酸化珪素(キシダ化学(株)製、試薬1級、SiO
2)、酸化鉄(III)(関東化学(株)製、試薬特級、Fe
2O
3)、炭酸カルシウム(キシダ化学(株)製、試薬1級、CaCO
3)、酸化アルミニウム(関東化学(株)製、試薬1級、Al
2O
3)、塩基性炭酸マグネシウム(キシダ化学(株)製、試薬特級、約4MgCO
3・Mg(OH)
2・5H
2O)、炭酸ナトリウム(キシダ化学(株)製、無水・特級、Na
2CO
3)およびリン酸三カルシウム(キシダ化学(株)製、試薬1級、Ca
3(PO
4)
2)を用いた。また、硫黄含有化合物として硫酸(関東化学(株)製、特級)を用いた。さらに、スズもしくはスズ化合物の例として酸化スズ粉末(和光純薬工業(株)製、型番:No.20−0160)を用いた。
【0040】
これらの配合量は、生成されるC
3S、C
2S、C
3AおよびC
4AFの組成が、表1に示す組成となるように、各原料の配合量を、ボーグ式を用いて決定した。なお、表1に示すC
3S、C
2S、C
3AおよびC
4AFの割合は、C
3S、C
2S、C
3AおよびC
4AFの合計質量に対する割合である。また、硫黄含有化合物とスズもしくはスズ化合物との配合量も、表1に示す組成となるように決定した。配合したセメントクリンカ原料を、電気炉に投入して1000℃で30分間の焼成を行った後、1000℃から1450℃まで30分間かけて昇温させ、さらに1450℃で15分間の焼成を行った後、焼成物を急冷して、各実施例、比較例に用いたセメントクリンカを作製した。
【0041】
(セメント組成物の作製)
上記作製したセメントクリンカと二水石膏とを、表1に示す組成となるように配合した。なお、表1に示す二水石膏の割合は、セメント組成物全量基準でのSO
3換算の二水石膏の割合である。配合物を、ブレーン比表面積が約3200〜約3500cm
2/gの範囲となるようにボールミルで粉砕して、各実施例、比較例のセメント組成物を作製した。
【0042】
【表1】
【0043】
表1の実施例1〜6が示すように、セメントクリンカ中のスズの割合が40〜250ppmの場合、セメントクリンカ中のSO
3の割合が2.00質量%以下であっても、セメントクリンカ中のSO
3の無水石膏の生成へ分配する割合が高くなる。一方、比較例1〜7が示すように、セメントクリンカ中のスズの割合が30ppm以下、または400ppm以上の場合、セメントクリンカ中のSO
3の割合が2.00質量%以下であると、セメントクリンカ中のSO
3の無水石膏の生成へ分配する割合が低くなる。比較例6および7では、セメントクリンカ中のスズの割合が40〜250ppmであるにもかかわらず、無水石膏が生成しなかったのは、セメントクリンカ中のSO
3の割合が低すぎたためであると考えられる。比較例10および11では、セメントクリンカはスズを含んでいないため、無水石膏が生成しなかった。
【0044】
次に、実施例および比較例のセメント組成物の流動性試験、異常凝結および圧縮強さの評価結果を以下の表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
実施例1〜6のセメント組成物は、SO
3換算で二水石膏を0.50〜1.70質量%しか添加していないにもかかわらず、SO
3換算で二水石膏を2.50質量%添加した比較例1のセメント組成物に比べて良好な流動性を有していた。一方、比較例2〜11のセメント組成物では、セメントクリンカにSO
3が含有されているにもかかわらず、二水石膏の添加量を比較例1に比べて減少させると、流動性が悪くなった。比較例2〜7、10および11のセメント組成物のセメントクリンカ中のアルカリ金属硫酸塩の割合が高いことから、比較例2〜7、10および11のセメント組成物の流動性は悪化したのは、セメントクリンカ中に無水石膏が生成しなかったことによるものと考察できる。比較例8および9のセメント組成物の流動性は、比較例1のセメント組成物の流動性に比べて良好である。しかし、比較例8および9のセメント組成物の流動性は、実施例1〜6のセメント組成物の流動性に比べて悪い。これは、流動性改善に対する無水石膏の効果が、流動性改善に対するアルカリ金属硫酸塩の効果に比べて高いためであると考察できる。