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特開2015-180718フタロシアニン色素、これを用いた色素増感太陽電池及び光電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-180718(P2015-180718A)
(43)【公開日】2015年10月15日
(54)【発明の名称】フタロシアニン色素、これを用いた色素増感太陽電池及び光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   C09B 47/18 20060101AFI20150918BHJP
   H01G 9/20 20060101ALI20150918BHJP
【FI】
   C09B47/18
   H01G9/20 113B
   H01G9/20 113C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-36390(P2015-36390)
(22)【出願日】2015年2月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-44021(P2014-44021)
(32)【優先日】2014年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術開発/太陽光発電システム次世代高性能技術の開発/三層協調界面構築による高効率・低コスト・量産型色素増感太陽電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】山口 能弘
(72)【発明者】
【氏名】越智 紀章
(72)【発明者】
【氏名】長浜 拓男
(72)【発明者】
【氏名】太田 剛
(57)【要約】      (修正有)
【課題】近赤外領域における吸収波長範囲が広く光電変換効率の良好な新規な色素と、これを用いた光電変換素子及び色素増感太陽電池を提供する。
【解決手段】式(1)で表わされるフタロシアニン色素。

(MはSi等;R1〜R6はC1〜30の置換基、X1〜X12は電子供与基、A1及びA2の一方はアンカー基、他方はH又は電子供与基、Qは隣接環と縮合するベンゼン環等)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフタロシアニン色素。
【化1】
式中、Mは、ケイ素原子、スズ原子、チタン原子、ゲルマニウム原子、ルテニウム原子、又はアンチモン原子を表す。R1〜R6は、炭素数1〜30の置換基を表す。X1〜X12は、電子供与基を表す。A1及びA2のいずれか一方はアンカー基を表し、他方は水素原子又は電子供与基を表す。Qは、隣接環と縮合する置換又は無置換のベンゼン環又はナフタレン環を表す。
【請求項2】
Qが下記式(2)又は下記式(3)で表される置換又は無置換のベンゼン環又はナフタレン環である請求項1に記載のフタロシアニン色素。
【化2】
式中、*は、隣接環に縮合する部位である。Z1〜Z2は、それぞれ独立に水素原子又は電子供与基を表し、Y1〜Y4は、それぞれ独立に水素原子又は電子供与基を表す。A1及びA2は、式(1)と同意である。
【請求項3】
色素を用いる光電変換素子において、色素として請求項1又は2に記載のフタロシアニン色素を用いることを特徴とする光電変換素子。
【請求項4】
色素として請求項1又は2に記載のフタロシアニン色素に加えて、該色素と吸収領域の異なる色素を用いることを特徴とする請求項3に記載の光電変換素子。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の光電変換素子を用いて構成したことを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の光電変換素子を少なくとも1つ以上含み、かつ2つ以上の光電変換素子から構成されることを特徴とする請求項6に記載の色素増感太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子用に適するフタロシアニン色素、これらを単独または他の色素と併用する光電変換素子及び色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は、光センサー、太陽電池等の光発電装置に使用されている。色素によって増感された半導体微粒子を用いる光電変換素子が特許文献1等で知られている。
【0003】
太陽電池としては、単結晶、多結晶あるいはアモルファスのシリコン半導体を用いた太陽電池が、電卓などの電気製品や住宅用などに広く用いられている。しかしながら、このようなシリコン半導体を用いた太陽電池の製造には、プラズマCVDや高温結晶成長プロセスなどの高精度プロセスが用いられるため、多大のエネルギーを必要とすると共に、真空を必要とする高価な装置が必要なために製造コストが高くなっている。
【0004】
そこで、低コストで製造可能な太陽電池として、例えば、酸化チタンのような酸化物半導体にルテニウム金属錯体のような光増感色素を吸着させた材料を用いた色素増感太陽電池が提案されている。色素増感太陽電池は具体的には、例えばインジウム添加酸化スズのような透明導電層を設けた透明ガラス板あるいは透明樹脂板のような透明絶縁材料の透明導電層側に、例えばルテニウム錯体からなる色素を表面に吸着した酸化チタンなどを半導体層として形成した負極と、正極となる白金などの金属層あるいは導電層を設けた透明ガラス板あるいは透明樹脂板のような透明絶縁材料との間に電解質の液を封入したものがある。色素増感太陽電池に光が照射されると、負極では光を吸収した色素の電子が励起し、励起した電子が半導体層に移動し、更に透明電極へと導かれ、正極では導電層からくる電子により電解質を還元する。還元された電解質は色素に電子を伝えることで酸化され、このサイクルで色素増感太陽電池が発電すると考えられている。
【0005】
現在、色素増感太陽電池はシリコン太陽電池に比して照射光エネルギーに対する発電エネルギー効率が低く、その効率を上げることが実効的な色素増感太陽電池を製造する上での重要な課題となっている。色素増感太陽電池の効率は、それを構成する各要素の特性や、更にそれら要素の組み合わせによっても影響を受けると考えられており、さまざまな試みがなされている。中でも、光増感作用を持つ色素について、より高効率な増感色素の開発に注力されている。現在知られている高効率色素としてN719等の可視光領域で高性能を示すRu色素がある。これらの色素は可視光領域の光電変換効率は高いが、近赤外領域の光電変換効率が低く、近赤外領域近傍に吸収帯を有する色素の開発が望まれている。
【0006】
この近赤外領域近傍に吸収帯を有する光電変換素子用の有機色素については、特許文献1乃至3及び非特許文献1乃至3等でいくつかの化合物が知られている。また、フタロシアニン色素についても、これらの文献で知られている。
【0007】
しかしながら、近赤外領域近傍に吸収帯を有するフタロシアニン色素は色素間で強く起こる会合現象と、深いLUMO準位に由来する発電性能低下のため、十分な変換効率を発現していない。
【0008】
光電変換素子及び色素増感太陽電池に適した近赤外領域近傍に吸収帯を有するフタロシアニン色素を提供するため、フタロシアニン色素同士の会合現象の抑制と最適な軌道エネルギー準位を両立するように分子設計をする必要がある。しかし、フタロシアニン化合物について、先行文献において多くの構造が開示されながら、いずれの構造も十分な変換効率を発現しないことは、この分子設計の困難さを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−74003号公報
【特許文献2】特開2003−123863号公報
【特許文献3】特開2011−60669号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】S.Mori et al,J.Am.Chem.Soc.132、4054−4055(2010)
【非特許文献2】N.Kobayashi et al,J.Am.Chem.Soc.133、19642−19645(2011)
【非特許文献3】B. Lim et al,Organic Letters, 15、784-787(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、近赤外領域における吸収波長範囲が広く光電変換効率の良好な新規な色素を提供し、これを用いた光電変換素子及び色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記式(1)で表されるフタロシアニン色素である。
【化1】
【0013】
式中、Mは、ケイ素原子、スズ原子、チタン原子、ゲルマニウム原子、ルテニウム原子、又はアンチモン原子を表す。R1〜R6は、炭素数1〜30の置換基を表す。X1〜X12は、電子供与基を表す。A1及びA2のいずれか一方はアンカー基を表し、他方は水素原子又は電子供与基を表す。Qは、隣接環と縮合する置換又は無置換のベンゼン環又はナフタレン環を表す。
【0014】
また、本発明は、Qが下記式(2)又は下記式(3)で表される置換又は無置換のベンゼン環又はナフタレン環である上記のフタロシアニン色素である。
【化2】
式中、*は、隣接環に縮合する部位である。Z1〜Z2それぞれ独立に、水素原子又は電子供与基を表し、Y1〜Y4はそれぞれ独立に、水素原子又は電子供与基を表す。
【0015】
また、本発明は、色素を用いる光電変換素子において、色素として上記フタロシアニン色素を用いることを特徴とする光電変換素子である。
【0016】
また、本発明は、色素として上記フタロシアニン色素の他に、該色素と吸収領域の異なる色素を用いることを特徴とする光電変換素子である。
【0017】
また、本発明は、上記光電変換素子を用いて構成したことを特徴とする色素増感太陽電池である。
【0018】
また、本発明は、上記光電変換素子を少なくとも1つ以上含み、かつ2つ以上の光電変換素子から構成されることを特徴とする色素増感太陽電池である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のフタロシアニン色素は、フタロシアニン骨格に共有結合もしくは配位結合したケイ素原子に嵩高い軸配位子を持つ構造であり、この嵩高い軸配位子がフタロシアニン骨格を覆うように広がるため、フタロシアニン色素の会合状態を防ぐことができる。また、芳香族環の一部にアンカー基を付与し、他の芳香族環に電子供与基を付与した非対称構造であることにより、従来のフタロシアニン色素よりも吸収波長が長波長領域に達すると共に、浅いLUMO準位を有する。そのため、本発明のフタロシアニン色素を使用した光電変換素子及びこれを用いて構成した色素増感太陽電池は、特に近赤外光領域における光電変換効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】色素増感太陽電池の一例を示す断面図である。
図2】本発明のフタロシアニン色素A−8のUV−VISスペクトルである。
図3】本発明のフタロシアニン色素A−8のH−NMRスペクトルである。
図4】本発明のフタロシアニン色素A−14のUV−VISスペクトルである。
図5】本発明のフタロシアニン色素A−14のH−NMRスペクトルである。
図6】本発明のフタロシアニン色素A−29のUV−VISスペクトルである。
図7】本発明のフタロシアニン色素A−29のH−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のフタロシアニン色素は、上記式(1)で表される構造である。上記式(1)において、Mは、ケイ素原子、スズ原子、チタン原子、ゲルマニウム原子、ルテニウム原子、又はアンチモン原子を表す。好ましくは、合成しやすさという理由から、ケイ素又はゲルマニウム原子である。
【0022】
1〜R6は、炭素数1〜30の置換基を表すが、好ましくは、軸配位子の形成のしやすさという理由から、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基である。より好ましくは、アルキル基である。
【0023】
1〜R6がアルキル基である場合、炭素数1〜30のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜12のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数2〜10のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基である。特に好ましくは、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基が挙げられる。
【0024】
1〜R6がアルコキシ基である場合、炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜12のアルコキシ基であり、更に好ましくは炭素数2〜10のアルコキシ基である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ドデシルオキシ基が挙げられる。
【0025】
1〜R6が芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基である場合、炭素数6〜30の芳香族炭化水素基、又は炭素数2〜30の芳香族複素環基が好ましく、より好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、フェナンスレン、アントラセン、クリセン、フラン、チオフェン、ピロール、カルバゾール、又はこれら芳香環が複数連結された芳香族化合物から水素を除いて生じる基である。フェニル基又はナフチル基が更に好ましい。
【0026】
1〜X12はそれぞれ独立に電子供与基である。好適な電子供与基としては、アルキル基、ヒドロキシル基、チオール基、セレノール基、テルロール基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルセレノ基、アルキルテルロ基、アルキルアミノ基、フェノキシ基、チオフェノキシ基、フェニルセレノ基、フェニルテルロ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基を表す。好ましくは、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基、フェノキシ基、チオフェノキシ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基が挙げられる。より好ましくはアルコキシ基、アルキルチオ基、フェノキシ基、又はチオフェノキシ基である。
【0027】
1〜X12がアルキル基である場合、炭素数1〜30のアルキル基が好ましく、より好ましくは、炭素数1〜12のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基である。特に好ましくは、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基が挙げられる。
【0028】
1〜X12が、アルコキシ基である場合、炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましく、より好ましくは、炭素数1〜12のアルコキシ基である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ドデシルオキシ基が挙げられる。
【0029】
1〜X12が、アルキルチオ基、アルキルセレノ基又はアルキルテルロ基である場合、RS-、RSe-、又はRTe-で表わされるアルキルチオ基、アルキルセレノ基又はアルキルテルロ基であることが好ましい。上記Rとしては、炭素数1〜30のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜12のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基が挙げられる。
【0030】
1〜X12が、アルキルアミノ基である場合、炭素数2〜30のアルキルアミノ基が好ましく、より好ましくは、炭素数1〜12のアルキル基を有するジアルキルアミノ基であり、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、ジオクチルアミノ基、ジドデシルアミノ基が挙げられる。
【0031】
1〜X12が、フェノキシ基、チオフェノキシ基、フェニルセレノ基、フェニルテルロ基、フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基である場合、これらは置換基を有してもよい。すなわち、これらはいずれもベンゼン環(フェニル基)を有するが、このベンゼン環に置換する置換基を有してもよい。
例えば、X1〜X12が、フェノキシ基である場合、下記式(4)に示すXのような構造で表される。
【化3】
ここで、B1〜B5は、それぞれ独立に、水素原子又は一価の置換基である。一価の置換基の場合、任意の置換基を選択できるが、好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、フェノキシ基、チオフェノキシ基等の電子供与基である。より好ましくは、アルコキシ基、アルキルチオ基である。アルコキシ基の場合、好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基であり、より好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基である。
【0032】
環Qは、隣接環と縮合する置換又は無置換のベンゼン環又はナフタレン環である。好ましくは、上記式(2)又は式(3)で表される置換又は無置換のベンゼン環又はナフタレン環である。式中、*を付した部位は、隣接環(含窒素五員環)に縮合する部位であり、この炭素原子は隣接環と共有される。
【0033】
1及びA2のいずれか一方はアンカー基を表し、他方は水素原子又は電子供与基を表す。アンカー基とは、後述する色素増感太陽電池における金属酸化物の表面に化学的に吸着する基である。アンカー基としては、具体的には、カルボキシル基、カルボキシビニル基、カルボキシエチニル基、4−カルボキシフェニル基、4−カルボキシフェニルビニル基、4−カルボキシフェニルエチニル基、4−カルボキシビニルフェニル基、4−カルボキシエチニルフェニル基、4−カルボキシフェニル基、4−カルボキシフェニルビニル基、4−カルボキシフェニルエチニル基、4−カルボキシビニルフェニル基、4−カルボキシエチニルフェニル基、リン酸基が挙げられる。好ましくは、金属酸化物の表面への吸着のしやすさと合成しやすさのバランスという理由から、カルボキシル基又はカルボキシビニル基である。
【0034】
1及びA2のいずれかが、電子供与基である場合、かかる電子供与基としては、X1〜X12で説明した電子供与基と同様な基が挙げられる。具体的には、アルキル基、ヒドロキシル基、チオール基、セレノール基、テルロール基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルセレノ基、アルキルテルロ基、アルキルアミノ基、フェノキシ基、チオフェノキシ基、フェニルセレノ基、フェニルテルロ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基であり、好ましくは、電子供与性の大きさと合成しやすさとのバランスいう理由から、フェノキシ基又はチオフェノキシ基である。ここで、フェノキシ基、チオフェノキシ基、フェニルセレノ基、フェニルテルロ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基におけるベンゼン環は置換基を有することができ、この場合の置換基は、一価の置換基である。好ましくは、上記式(4)におけるB1〜B5のような一価の置換基である
【0035】
1〜Z2は、それぞれ独立に水素原子又は電子供与基を表し、好ましくは水素原子である。電子供与基である場合、電子供与基としては、X1〜X12で説明した電子供与基と同様な基が挙げられる。例えば、Z1〜Z2はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、チオール基、セレノール基、テルロール基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルセレノ基、アルキルテルロ基、アルキルアミノ基、フェノキシ基、チオフェノキシ基、フェニルセレノ基、フェニルテルロ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基を表す。好ましくは、軌道準位の制御と合成のしやすさという理由から、水素原子である。
【0036】
1〜Y4は、それぞれ独立に水素原子又は電子供与基を表し、好ましくは水素原子である。電子供与基である場合、電子供与基としては、X1〜X12で説明した電子供与基と同様な基が挙げられる。例えば、Y1〜Y4はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、チオール基、セレノール基、テルロール基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルセレノ基、アルキルテルロ基、アルキルアミノ基、フェノキシ基、チオフェノキシ基、フェニルセレノ基、フェニルテルロ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基を表す。好ましくは、軌道準位の制御と合成のしやすさという理由から、水素原子である。
【0037】
これら、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルセレノ基、アルキルテルロ基、又はアルキルアミノ基である場合、好ましい例及び具体例としては、X1〜X12と同様の基である。
【0038】
以下に式(1)で表されるフタロシアニン色素の好ましい具体例を示す。なお、具体例において、Phはフェニル基を表す。
【0039】
【化4】
【化5】
【0040】
式(1)で表されるフタロシアニン色素の他の好ましい具体例を、表1に示す。ここで、RはR1-R6、XはX1-X12、ZはZ1-Z2、YはY1-Y4を表し、1種類の基だけが示されている場合は、全部がその基である。Zの欄が空欄のときはQが式(3)で表され、Yの欄が空欄のときはQが式(2)で表されると理解される。
【0041】
【表1】
【0042】
式(9)で表されるフタロシアニン色素は次のスキームに従って合成することができる。
まずは、フタロシアニン骨格の原料となるテトラブトキシフタロニトリル(A-2)の合成を行なう。
炭酸カリウムの存在下、テトラフルオロフタロニトリル(A-1)とn-ブタノールとをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中で加熱攪拌する。濾過により炭酸カリウムを除去した後、溶媒を留去する。カラム精製を行なうことによりA-2を得る。
A-2、6-ブロモ-2,3-ジシアノナフタレン(A-3)、酢酸亜鉛、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)をn-ペンタノールに入れ還流する。n-ペンタノールを留去した後、カラム精製を行なうことにより中間体(A-4)を得る。ピリジン中、A-4をピリジン塩酸塩で処理する。溶媒留去後、抽出、水洗、乾燥する。溶媒留去後、カラム精製を行なうことにより中間体(A-5)を得る。トリプロピルアミン(TPA)の存在下、A-5とトリクロロシランとをジクロロメタン中で撹拌する。水、トリエチルアミンを加えて処理した後、抽出、水洗、乾燥する。溶媒留去後、カラム精製を行なうことにより中間体(A-6)を得る。A-6にクロロトリヘキシルシランとピリジンを入れ還流する。溶媒留去後、カラム精製し、中間体(A-7)を得る。窒素雰囲気下、ビス(トリ-t-ブチルホスフィン)パラジウムを触媒として用い、A-7とアクリル酸、ジシクロメチルアミンとをトルエン中で加熱攪拌する。抽出、水洗、乾燥した後、溶媒を留去する。カラム精製を行なうことにより、フタロシアニン色素A-8(式(9)のフタロシアニン色素)を得る。このようなスキームは、以上に述べた他のフタロシアニン色素の合成にも適用できる。
【0043】
【化6】
【化7】
【0044】
本発明の光電変換素子又は色素増感太陽電池は、上記式(1)で表されるフタロシアニン色素を増感色素として含む。なお、色素増感太陽電池は光電変換素子を利用するものであるため、両者の説明の多くが共通するので、共通する説明は色素増感太陽電池で代表して説明する。
【0045】
本発明の色素を用いた光電変換素子又は色素増感太陽電池の基本構成の一例を図1により説明する。図1は光電変換素子の一例を示す断面図であり、基板1上に、導電層2と半導体層に増感用の色素が吸着された色素吸着半導体層3が、積層された電極10と、基板4上に導電層5が設けられた対向電極11を有し、両電極間に電解質層6を配した構成となっている。色素吸着半導体層3は、電極の一部を構成するため半導体電極ともいう。色素吸着半導体層3はチタニアあるいは金属酸化物微粒子を用い1つの層として塗工・焼結されたもの、又は複数回の塗工・焼結により形成された層であり、色素が吸着された半導体層であり、酸化チタン粒子等の金属酸化物粒子とこの粒子の表面を覆うように存在する増感色素からなっている。なお、光は電極10側から入る。そして、本発明の色素増感太陽電池は、上記と同様な基本構成を有するが外部回路で仕事をさせるようにしたものである。そして、色素増感太陽電池を製造は、公知の方法でよい。
【0046】
基板1としては、透明な絶縁材料であれば特に限定されるものではなく、例えば通常のガラス板やプラスチック板などが挙げられ、更には屈曲性のあるものでも良く、例えばPET樹脂などが挙げられるが、好ましくは約500℃を上限にした酸化チタンを焼付ける工程に耐え得る耐熱材料であることであり、透明なガラス板が挙げられる。
【0047】
次に、この基板1の表面に基材の透明性を損なわないような導電層2を設けるが、導電層としてはいわゆる透明電極として知られているITO、FTO、ATOあるいはこれらを組み合わせたものでよく、更には透明性を損なわない厚みの金属層であってもよい。これらの導電層を設ける方法は特に限定されるものではなく、スパッタリング、蒸着(CVD及びPVDを含む)、スプレー、レーザアブレーションあるいはペースト化した各材料を用いるスピンコート、バーコート、スクリーン印刷の手法など既知の手法を用いることができる。中でも、スプレー法又は気相で行われるスパッタリング又は蒸着法が適する。
【0048】
この上に、色素吸着半導体層3を設ける。通常は半導体として金属酸化物の層を形成したのち、これに増感色素を吸着させる。金属酸化物としては、光電変換材料と知られているものが使用でき、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化スズ等を挙げることができる、中でも酸化チタン及び酸化スズが好ましい。酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型等の酸化チタンの他、水酸化チタン、含水酸化チタン類であってもよい。また、Nb、V又はTaの各元素の少なくとも1つを酸化チタンに対して30ppm〜5%の重量濃度(金属元素として)になるようドーピングしてもよい。このような金属酸化物であれば、本発明に用いることが可能であるが、平均粒子径が5〜500nm、好ましくは10〜200nmの範囲の微粒子であることがよい。
【0049】
金属酸化物の層を前記導電層2上に形成するが、その方法については、特に限定されるものではなく、例えばペースト化した金属酸化物をスピンコート、印刷、スプレーコートなどの各手法を用いても良い。また、製膜後に酸化チタン等の金属酸化物の焼結などを目的に焼成することも可能である。次に、金属酸化物に増感用の色素を吸着させて色素吸着金属酸化物として、色素吸着半導体層3とする。
【0050】
本発明では増感色素に特徴があり、その他の層又は材料は公知の構造又は材料とすることができ、図1に示す構造のものに限らない。
【0051】
色素吸着半導体層3を構成する材料は、半導体と色素であるが、通常、半導体は金属酸化物、好ましくは酸化チタン又は酸化スズであるので、半導体を金属酸化物又は酸化チタンで代表することがある。また、色素増感用の色素としては、上記式(1)で表わされるフタロシアニン色素を使用する。なお、必要により吸収波長領域を広げるためにこのフタロシアニン色素とは異なる範囲に最大吸収波長を有する他の色素を併用することも有利である。
【0052】
色素はこれを溶解する溶媒に溶解してチタニア半導体層に吸着させる。吸着溶媒は色素が可能である溶媒であれば、使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ノルマルブタノール等の脂肪族アルコール類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類、ラクトン類、カプロラクタム類を使用することができる。好ましくはメタノール、エタノール又はアセトニトリルである。
【0053】
色素溶液にデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸(DCA)等の共吸着剤を溶解した色素溶液を用い、吸着してもよい。
【0054】
色素は超臨界流体、加圧流体に溶解して吸着させてもよい。具体的には、炭酸ガスや炭酸ガスにエントレーナーを加えた溶液により吸着させることが好ましい。
【0055】
色素の吸着した金属酸化物には、更にCO2超臨界流体中でカルボン酸を吸着させてもよい。カルボン酸を吸着させる効果は、J. Photochem.and Photobio.A,Chem.164(2004)117により公知である。しかしながら、色素吸着やリンス処理と同様に、酸化チタン、酸化スズなどの金属酸化物の微細孔内部まで有効に吸着させることが重要である。色素の吸着した金属酸化物(色素の吸着した金属酸化物層を有する基板であってもよい)とカルボン酸を、圧力範囲5〜30Mpaであり、温度範囲が40〜60℃で形成されるCO2超臨界流体中又は加圧CO2中に置くことで、有効にカルボン酸を吸着できる。カルボン酸としては、好ましくは安息香酸、酢酸、アニス酸、ニコチン酸を挙げることができる。これらカルボン酸は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールのうちの少なくともいずれか1種類を含むアルコールに溶解した状態で使用することが好ましく、そのカルボン酸濃度が0.01〜10mol/Lの範囲であることが好ましい。さらに、色素の吸着は亜臨界状態の加圧下で吸着することが好ましく色素を溶媒に溶解させた溶液と炭酸ガスとの混合溶液中で吸着させたものであり、その炭酸ガスの圧力が1〜5MPa、温度が40℃〜60℃の範囲であることが好ましい。
【0056】
上記のように基板1、導電層2及び色素吸着半導体層3からなる電極10は負極として作用する。もう一方の正極として作用する電極(対向電極)11は図1に示すように、電極10と対向して配置する。正極となる電極は、導電性の金属などでよく、また、例えば通常のガラス板やプラスチック板などの基板4に金属膜や炭素膜等の導電層5を施したものでもよい。
【0057】
負極となる電極10と、正極となる対向電極11の間には、電解質層6を設ける。この電解質層6を構成する電解質の種類は、光励起され半導体への電子注入を果たした後の色素を還元するための酸化還元種を含んでいれば特に限定されず、液状の電解質であってもよく、これに公知のゲル化剤(高分子又は低分子のゲル化剤)やイオン液体と金属酸化物を混練した擬固体を添加して得られるゲル状の電解質であってもよい。
【0058】
例えば、溶液電解質に用いる電解質の例としては、ヨウ素とヨウ化物(LiI、NaI、KI、CsI、CaI2等の金属ヨウ化物、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等の4級アンモニウム化合物ヨウ素塩等)の組み合わせ、臭素と臭化物(LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2 等の金属臭化物、テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド等の4級アンモニウム化合物臭素塩等)の組み合わせ、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール、アルキルジスルフィド等のイオウ化合物、ビオロゲン色素、ヒドロキノン、キノン等が挙げられる。電解質は混合して用いてもよい。
【0059】
また、電解質としては、高沸点を有する溶融塩電解質が好ましい。半導体電極が色素吸着酸化チタン層からなる場合は、溶融塩電解質と組み合わせることにより、特に優れた電池特性を発揮する。溶融塩電解質組成物は溶融塩を含む。溶融塩電解質組成物は常温で液体であるのが好ましい。主成分である溶融塩は室温において液状であるか又は低融点の電解質であり、その一般的な例としては「電気化学」、1997年、第65巻、第11号、p.923 等に記載のピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等が挙げられる。溶融塩は単独で使用しても2種以上混合して使用してもよい。また、LiI、NaI、KI、LiBF4、CF3COOLi、CF3COONa、LiSCN、NaSCN等のアルカリ金属塩を併用することもできる。通常、溶融塩電解質組成物はヨウ素を含有する。溶融塩電解質組成物の揮発性は低いことが好ましく、溶媒を含まないことが好ましい。溶融塩電解質組成物はゲル化して使用してもよい。
【0060】
電解液に溶媒を使用する場合は、粘度が低く高イオン移動度を示し、優れたイオン伝導性を発現できる化合物であることが望ましい。このような溶媒の例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、3-メチル-2-オキサゾリジノン等の複素環化合物、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物、ジメチルスルホキシド、スルフォラン等の非プロトン極性物質、水等が挙げられる。これらの溶媒は混合して用いることもできる。
【0061】
電解質層6を設ける方法は特に限定されるものではなく、例えば両電極の間にフィルム状のスペーサ7を配置して隙間を形成し、その隙間に電解質を注入する方法でも良く、また、負極内面に電解質を塗布などした後に正極を適当な間隔をおいて積載する方法でも良い。電解質が流出しないよう、両極とその周囲を封止することが望ましいが、封止の方法や封止材の材質については特に限定するものではない。
なお、本発明の色素増感太陽電池の構成は、例えば、特開2007-200559号、特開2001-283941、特開2007-73505号、特開2001-283944号、WO2009/075101号、WO2010/150461号等の公報に記載されたような透明導電膜を省略した、いわゆるTCO-Less構造を持つものでもよい。
【実施例】
【0062】
以下、合成例及び実施例に基づいて本発明について更に詳細に説明する。なお、合成例は実施例であると理解される。
【0063】
合成例1
1000mlナスフラスコにA-1 (125mmol)、炭酸カリウム (3124mmol)、n-ブタノール (3124mmol)、DMF (400ml)を入れ、110℃で19時間反応させた。その後、濾過することにより、炭酸カリウムを除去した。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (ジクロロメタン)を行なうことにより、化合物 A-2 (85mmol, 68%)を得た。
窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコに化合物 A-2 (74mmol)、A-3 (18mmol)、酢酸亜鉛 (37mmol)、DBU (92mmol)、n-ペンタノール (500ml)を入れ21時間還流した。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (トルエン)を行なうことにより、化合物 A-4を含む混合物を得た。窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコに化合物 A-4を含む混合物、ピリジン塩酸塩 (1175mmol)、ピリジン (400ml)を入れ、110℃で20時間反応した。溶媒を留去した後、ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (トルエン)を行なうことにより、化合物 A-5 (0.59mmol, 3%)を得た。
窒素雰囲気下、500mlの三口フラスコに化合物 A-5 (0.33mmol)、ジクロロメタン (150ml)、トリプロピルアミン (15ml)を入れた。そこにトリクロロシラン (4.9mmol)を加えた。室温で65時間撹拌後、トリエチルアミン (38ml)、水 (75ml)を入れた。ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去し、カラム精製 (トルエン、→トルエン:酢酸エチル=3:1)を行うことにより、化合物 A-6 (0.19mmol, 58%)を得た。
500mlナスフラスコに化合物 A-6 (0.19mmol)、クロロトリヘキシルシラン (15mmol)、ピリジン (20ml)、トルエン (200ml)を入れ4時間還流した。溶媒を留去後、カラム精製 (トルエン)を行なうことにより、化合物 A-7を含む混合物を得た。窒素雰囲気下、化合物 A-7を含む混合物とアクリル酸 (2.7mmol)を、ビス(トリ-t-ブチルホスフィン)パラジウム (0.037mmol)、ジシクロヘキシルメチルアミン (0.90mmol)の存在下、トルエン (100ml)中、100℃で40時間反応させた。ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を留去した後、カラム精製 (クロロホルム)を行なうことにより、フタロシアニン色素A-8 (0.17mmol, 89%)を得た。反応式は上記に示した。フタロシアニン色素A-8のUV-VISスペクトルを図2、H-NMRスペクトルを図3に示す。
【0064】
合成例2
窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコに化合物 A-2 (81mmol)、4-ヨードフタロニトリル(A-9) (24mmol)、酢酸亜鉛 (49mmol)、DBU (122mmol)、n-ペンタノール (400ml)を入れ24時間還流した。溶媒を留去した後、ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (ジクロロメタン→ジクロロメタン:メタノール=10:1)を行なうことにより、化合物 A-10を含む混合物を得た。窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコに化合物 A-10を含む混合物、ピリジン塩酸塩 (2065mmol)、ピリジン (350ml)を入れ、110℃で24時間反応した。溶媒を留去した後、ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (トルエン→トルエン:酢酸エチル=10:1)を行なうことにより、化合物 A-11を含む混合物を得た。
窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコに化合物 A-11を含む混合物、ジクロロメタン (300ml)、トリプロピルアミン (30ml)を入れた。そこにトリクロロシラン (64mmol)を加えた。室温で67時間撹拌後、トリエチルアミン (75ml)、水 (150ml)を入れた。ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去し、カラム精製 (トルエン→トルエン:酢酸エチル=3:1)を行うことにより、化合物 A-12を含む混合物を得た。窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコに化合物 A-12を含む混合物、クロロトリヘキシルシラン (270mmol)、ピリジン (30ml)、トルエン (300ml)を入れ7時間還流した。溶媒を留去後、カラム精製 (トルエン)を行なうことにより、化合物 A-13を含む混合物を得た。窒素雰囲気下、化合物 A-13を含む混合物とアクリル酸 (24mmol)を、ビス(トリ-t-ブチルホスフィン)パラジウム (0.34mmol)、ジシクロヘキシルメチルアミン (8mmol)の存在下、トルエン (300ml)中、100℃で24時間反応させた。溶媒を留去した後、ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (ジクロロメタン)を行なうことにより、フタロシアニン色素A-14 (0.27mmol, 1%)を得た。反応式を下記に示した。フタロシアニン色素A-14のUV-VISスペクトルを図4、H-NMRスペクトルを図5に示す。
【0065】
【化8】
【0066】
合成例3
窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコにA-1 (27mmol)、炭酸カリウム (407mmol)、3,4,5-トリメトキシフェノール(A-15) (271mmol)、DMF (150ml)を入れ、110℃で13時間反応させた。その後、濾過することにより、炭酸カリウムを除去した。溶媒を留去した後、ジクロロメタンで抽出、10%水酸化カリウム水溶液で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (ジクロロメタン:アセトン=10:1)を行なうことにより、化合物 A-16 (23mmol, 85%)を得た。
窒素雰囲気下、500mlの三口フラスコに化合物 A-16 (19mmol)、A-9 (6mmol)、酢酸亜鉛 (12mmol)、DBU (29mmol)、n-ペンタノール (150ml)を入れ11時間還流した。溶媒を留去した後、ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (ジクロロメタン→ジクロロメタン:メタノール=10:1)を行なうことにより、化合物 A-17を含む混合物を得た。窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコに化合物 A-17を含む混合物、ピリジン塩酸塩 (509mmol)、ピリジン (300ml)を入れ、110℃で24時間反応した。溶媒を留去した後、ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (トルエン→ジクロロメタン→ジクロロメタン:酢酸エチル=10:1)を行なうことにより、化合物 A-18を含む混合物を得た。
窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコに化合物 A-18を含む混合物 (14g)、ジクロロメタン (500ml)、トリプロピルアミン (50ml)を入れた。そこにトリクロロシラン (72mmol)を加えた。室温で48時間撹拌後、トリエチルアミン (125ml)、水 (250ml)を入れた。濾過した後、ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去し、カラム精製 (ジクロロメタン:酢酸エチル=3:1)を行うことにより、化合物 A-19を含む混合物を得た。窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコに化合物 A-19を含む混合物、クロロトリヘキシルシラン (68mmol)、ピリジン (30ml)、トルエン (300ml)を入れ10時間還流した。溶媒を留去後、カラム精製 (ジクロロメタン:酢酸エチル=10:1)を行なうことにより、化合物 A-20を含む混合物を得た。窒素雰囲気下、化合物 A-20を含む混合物とアクリル酸 (6mmol)を、ビス(トリ-t-ブチルホスフィン)パラジウム (0.09mmol)、ジシクロヘキシルメチルアミン (2mmol)の存在下、トルエン (300ml)中、100℃で24時間反応させた。溶媒を留去した後、ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (ジクロロメタン:酢酸エチル=10:1→3:1)を行なうことにより、フタロシアニン色素A-21 (0.024mmol, 0.4%)を得た。反応式を下記に示した。
【0067】
【化9】
【化10】
【0068】
合成例4
窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコにA-22 (11mmol)、炭酸カリウム (257mmol)、2-プロピルフェノール(A-23) (43mmol)、DMF (300ml)を入れ、80℃で12時間反応させた。溶媒を留去した後、ジクロロメタンで抽出、10%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (ジクロロメタン)を行なうことにより、化合物 A-24 (9mmol, 82%)を得た。
窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコに化合物 A-2 (29mmol)、A-24 (9mmol)、酢酸亜鉛 (17mmol)、DBU (43mmol)、n-ペンタノール (300ml)を入れ24時間還流した。溶媒を留去した後、ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (トルエン)を行なうことにより、化合物 A-25を含む混合物を得た。窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコに化合物 A-25を含む混合物、ピリジン塩酸塩 (538mmol)、ピリジン (200ml)を入れ、110℃で24時間反応した。溶媒を留去した後、ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (トルエン)を行なうことにより、化合物 A-26を含む混合物を得た。窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコに化合物 A-26を含む混合物、ジクロロメタン (300ml)、トリプロピルアミン (30ml)を入れた。そこにトリクロロシラン (18mmol)を加えた。室温で67時間撹拌後、トリエチルアミン (75ml)、水 (150ml)を入れた。ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去し、カラム精製 (トルエン→トルエン:酢酸エチル=3:1)を行うことにより、化合物 A-27を含む混合物を得た。窒素雰囲気下、1000mlの三口フラスコに化合物 A-27を含む混合物、クロロトリヘキシルシラン (71mmol)、ピリジン (30ml)、トルエン (300ml)を入れ9時間還流した。溶媒を留去後、カラム精製 (トルエン)を行なうことにより、化合物 A-28を含む混合物を得た。窒素雰囲気下、化合物 A-28を含む混合物とアクリル酸 (3mmol)を、ビス(トリ-t-ブチルホスフィン)パラジウム (0.042mmol)、ジシクロヘキシルメチルアミン (1mmol)の存在下、トルエン (200ml)中、100℃で24時間反応させた。溶媒を留去した後、ジクロロメタンで抽出、水洗、硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、溶媒を留去し、カラム精製 (ジクロロメタン)を行なうことにより、フタロシアニン色素A-29 (0.047mmol, 0.5%)を得た。反応式は下記式(13)に示した。フタロシアニン色素A-29のUV-VISスペクトルを図6、H-NMRスペクトルを図7に示す。
【0069】
【化11】
【化12】
【0070】
実施例1
25mm×20mm×1.1mmの透明導電膜付ガラス基板としてジオマテック株式会社製のFTO(フッ素ドープ酸化スズ)膜付ガラス基板(商品名:高耐久性導電膜付ガラス)を使用した。
次に、導電性膜付き基板の導電性膜上に、酸化チタン膜を形成した。酸化チタンは、市販の酸化チタンペースト(ソラロニクス社製Dペースト)を使用した。これを、導電性膜付き基板の導電性膜上に、スキージ印刷の手法で20mm×5mmの範囲に塗工し、乾燥後500℃で焼成して厚み10〜15μmの酸化チタン層を形成した積層板を得た。
【0071】
色素としてフタロシアニン色素A-8を使用した。これを2×10-4mol/L、DCAを1×10-3mol/Lとなるようにエタノールに溶解させた。色素の吸着は、容器に上記色素溶液を入れ、更に上記酸化チタン層を形成した積層板を配置し、38時間静置後、容器から色素の吸着した積層板を取り出した。
【0072】
この積層板の酸化チタンの膜を形成した20mm×5mmの外周4辺に厚み50μmのアイオノマー樹脂からなるシート状の熱可塑性接着剤(三井デュポンポリケミカル社商品名;ハイミランシート)を、電解液が注入できるよう、外周部の2箇所に約1mm程度の隙間を設けるようにして貼り付けた。この熱可塑性接着剤は、封止材であると同時に、両極間のスペーサの役割を果たす。次に、正極となる厚み400nmの白金膜をスパッタリングの手法で形成したガラス基板を、白金側が酸化チタン側と対向するように前記熱可塑性接着剤フィルムを介して貼り合わせた。この熱可塑性接着剤フィルムの隙間から、1.0MのLiIと0.05Mのヨウ素を主成分として含むアセトニトリル溶液を毛細管現象を利用して基材と正極の間に満たした。電解質を満たした後、直ちに前記隙間をエポキシ樹脂接着剤で封止して、光電変換素子を得た。
【0073】
実施例2
色素A−8に代えて色素A−14を使用した他は、実施例1と同様にして光電変換素子を得た。
【0074】
実施例3
色素A−8に代えて色素A−21を使用した他は、実施例1と同様にして光電変換素子を得た。
【0075】
実施例4
色素A−8に代えて色素A−29を使用した他は、実施例1と同様にして光電変換素子を得た。
【0076】
比較例1
色素としてRu色素N719を使用した。これを3×10-4mol/Lとなるようにアセトニトリル:t−ブタノール=1:1に溶解させた。色素の吸着は、容器に上記色素溶液を入れ、更に実施例1と同様の方法で得た酸化チタン層を形成した積層板を配置し、60時間静置後、容器から色素の吸着した積層板を取り出した。その他は、実施例1と同様にして光電変換素子を得た。
【0077】
実施例及び比較例で作製した光電変換素子を色素増感太陽電池として、分光感度測定装置(分光計器社製、CEP-2000)を用い特性評価した。照射光の波長720 nm及び750 nmにおける光電変換率(%)を測定した結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【符号の説明】
【0079】
1:基板、2:導電層、3:色素吸着半導体層、4:基板、5:導電層、6:電解質層、7:スペーサ、10:電極、11:対向電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7