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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-189616(P2015-189616A)
(43)【公開日】2015年11月2日
(54)【発明の名称】サファイア単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/20 20060101AFI20151006BHJP
   C30B 11/00 20060101ALI20151006BHJP
【FI】
   C30B29/20
   C30B11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-67171(P2014-67171)
(22)【出願日】2014年3月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】正 義彦
(72)【発明者】
【氏名】岡野 勝彦
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BB01
4G077CD04
4G077EG02
4G077EG11
4G077EG25
4G077HA02
4G077HA12
4G077MA02
4G077MB08
4G077MB21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】一方向凝固法により、高品質のサファイア単結晶を簡易かつ低コストで育成することができる、サファイア単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】W、MoまたはW−Mo合金からなり、内底面3のうち、内周面2との境界部4に傾斜部またはR部が形成された坩堝1の内部に種結晶6aを収容し、種結晶6a上に原料9を充填して、一方向凝固法によりサファイア単結晶を育成する。この際、坩堝1の内底面3の平坦部5と種結晶6aの下面8aとの間に、少なくとも1枚の平板からなり、下面14の面積が、平坦部5の面積の70%〜100%であるスペーサ12を、種結晶6aの下面8aと境界部4とを接触させないように、かつ、種結晶6aを支持するように配置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
W、MoまたはW−Mo合金からなり、内底面のうち、内周面との境界部に傾斜部またはR部が形成された坩堝の内部に、種結晶を収容し、該種結晶上に原料を充填して、一方向凝固法により結晶育成を行うサファイア単結晶の製造方法であって、
前記坩堝の内底面の平坦部と前記種結晶の下面との間に、少なくとも1枚の平板からなり、下面の面積が、該平坦部の面積の70%〜100%であるスペーサを、該種結晶の下面と前記境界部とを干渉させないように、かつ、該種結晶を支持するように配置する、サファイア単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記スペーサは、複数の平板を積層したものである、請求項1に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記スペーサの厚さは、前記境界部の垂直方向の高さの100%〜200%である請求項1または2に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記スペーサは、サファイア単結晶の融点以上である酸化物または金属からなる、請求項1〜3のいずれかに記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記スペーサは、サファイアからなる、請求項4に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記スペーサは、イリジウム、オスミウム、タングステン、タンタル、ハフニウム、ルテニウム、テクネチウム、モリブデンからなる群から選択される1種の金属、または、この群から選択される少なくとも2種の金属で構成される合金からなる、請求項4に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記スペーサは、300Kにおける熱伝導率が、40W/m・K〜250W/m・Kである、請求項1〜6のいずれかに記載のサファイア単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア単結晶の製造方法、特に、高融点金属からなる坩堝を用いて一方向凝固法によりサファイア単結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネや省スペースなどの要求から、照明装置として白色LEDが広く用いられている。この白色LEDは、サファイア単結晶基板上にGaN系半導体を形成した青色LEDと、蛍光体とを組み合わせて構成される。このため、白色LEDの需要の増加に伴い、サファイア単結晶基板の需要も急激に増加している。また、白色LEDを一般照明用に用いるには、その低コスト化が必要とされるため、サファイア単結晶基板に対しても、低価格化が要望されている。
【0003】
一般に、サファイア単結晶基板は、サファイア原料融液(アルミナ融液)より育成したサファイア単結晶インゴットから、円盤状のウエーハを切り出すことによって製造される。サファイア単結晶の育成方法には、チョクラルスキー法(Czochralski Method、回転引き上げ法)やEFG法(Edge-definedFilm-fed Growth Method、リボン状結晶成長法)に代表される、融液から単結晶を引き上げて固化させる引き上げ法と、垂直ブリッジマン法(Vertical Bridgman Method)やVGF法(VerticalGradient Freeze Method、垂直温度傾斜凝固法)に代表される、サファイア原料融液を坩堝中で固化させる一方向凝固法などがある。
【0004】
このうち、一方向凝固法は、育成されたサファイア単結晶を引き上げる必要がないため、結晶育成装置の小型化や簡略化ができるばかりでなく、育成するサファイア単結晶の育成方位の自由度が高く、c軸方向の基板を容易に得ることができ、さらには、直径6インチ(152.4mm)を超えるような大口径のサファイア単結晶の製造にも対応可能であるという点において、引き上げ法よりも優れているとされている。このため、現在、一方向凝固法によるサファイア単結晶の製造方法の実用化が進められている。
【0005】
ここで、一方向凝固法によるサファイア単結晶の育成では、育成後に、坩堝からサファイア単結晶を取り出すことが必要とされる。しかしながら、坩堝材料とサファイアの線膨張率の関係によっては、冷却時の熱収縮によりサファイア単結晶が締め付けられ、サファイア単結晶の取り出しに際し、坩堝を破壊しなければならなくなったり、サファイア単結晶に欠陥が発生するといった問題が生じる。また、サファイアの融点が約2040℃と高温であることに起因して、従来、坩堝として使用することができる材料が、高温耐久性に優れる高価な貴金属などに限られており、ランニングコストの低減を図ることが困難であるという問題もある。
【0006】
これらの問題に対して、特開2011−42650号公報では、一方向凝固法によるサファイア単結晶の育成に使用する坩堝の材料として、タングステン(W)、モリブデン(Mo)またはW−Mo合金が提案されている。これらの材料は、高温耐久性を備え、かつ、サファイアよりも線膨張率が小さいため、育成後のサファイア単結晶を、坩堝を破壊せずに取り出すことが可能であると考えられる。また、これらの材料は、貴金属に比べて安価であるため、ランニングコストの低減を図ることができると考えられる。
【0007】
このような坩堝を使用したサファイア単結晶の育成においては、最適な凸状の成長界面を形成および維持して、高品質のサファイア単結晶を育成する観点から、サファイア単結晶と、W、MoまたはW−Mo合金との線膨張率の関係を考慮した上で、種結晶を、坩堝底部の種結晶収容部の形状よりもやや小さい同一の形状に加工して、坩堝の内周面または内底面と、種結晶との間の隙間を最小とすることが好ましいとされている。
【0008】
一方、W製、Mo製またはW−Mo合金製の坩堝は、その性質上、粉末治金法や絞り加工などの方法により作製することが必要とされるところ、これらの加工方法では、技術的な制約により、坩堝1の内底面3のうち、内周面2との境界部4に傾斜部またはR部を形成せざるを得ない(図3参照)。このため、このような坩堝1を用いて、サファイア単結晶の育成を行う場合、この傾斜部やR部の存在により、育成結晶に種々の欠陥が発生するおそれがある。
【0009】
たとえば、図4(a)に示すように、境界部4と干渉しないような外径を有する種結晶6を用いてサファイア単結晶を育成する場合、種結晶6の外周面7と坩堝1の内周面2との間の隙間10が大きくならざるを得ず、この部分に多量の原料融液9が流れ込むことにより、育成するサファイア単結晶の外周部が多結晶化してしまう。一方、図4(b)に示すように、隙間10aがほとんど生じないような外径を有する種結晶6aを用いてサファイア単結晶を育成する場合、種結晶6aの下面8aと境界部4が干渉することに起因して、下面8aと内底面3との間に隙間11が形成されてしまう。このような隙間11が存在すると、育成結晶または種結晶中の熱が十分に排熱されず、サファイア単結晶の育成に好適な凸状の成長界面を形成し、維持することが困難となる。
【0010】
これに対して、特開2003−104797号公報には、垂直ブリッジマン法によるランガンサイト型単結晶の育成において、坩堝の内面に、底部に向かって小径となるようなテーパを形成するとともに、種結晶の外観形状を、坩堝の下部の形状に倣ったものとする技術が記載されている。このような技術によれば、種結晶の外周面と坩堝の内周面との間、および、種結晶の下面と坩堝の内底面との間に形成される隙間を最小限に抑えることができる。しかしながら、サファイア単結晶は硬度が高く脆いため、種結晶をこのような形状に加工するには手間と時間がかかり、この技術を工業規模の生産に適用することは困難である。
【0011】
また、特開2000−169280号公報や特開2004−035281号公報には、垂直ブリッジマン法による四ホウ酸リチウム単結晶の育成において、あくまでも育成開始の固液界面高さを調整するためではあるが、種結晶の下面と坩堝の内底面との間に、坩堝の下部の形状と倣った形状を有するスペーサを配置することにより、結晶育成時の温度勾配を制御する技術が記載されている。
【0012】
しかしながら、これらの文献で対象とする四ホウ酸リチウムは融点が917℃程度であり、サファイア単結晶の融点と比べて1000℃以上も低温であるため、これらの文献に記載の技術は、高融点金属製の坩堝を用いることに起因する上記問題とは本来的に無関係である。すなわち、四ホウ酸リチウム単結晶の育成では、坩堝の材料とその加工方法を適宜選択することにより、坩堝の内底面のうち、内周面との境界部に傾斜部やR部が存在しない坩堝を容易に得ることができる。また、この技術では、スペーサの形状を坩堝下部の形状と倣った形状とすることから、このようなスペーサを、高融点金属製の坩堝を用いた工業的規模のサファイア単結晶の生産に適用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2011−042560号公報
【特許文献2】特開2003−104797号公報
【特許文献3】特開2004−035281号公報
【特許文献4】特開2000−169280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、一方向凝固法によるサファイア単結晶の育成に際して、W、MoまたはW−Mo合金からなる坩堝の内底面のうち、内周面との境界部に形成される傾斜部やR部の存在にかかわらず、高品質のサファイア単結晶を簡易かつ低コストで育成することができる、サファイア単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のサファイア単結晶の製造方法は、W、MoまたはW−Mo合金からなり、内底面のうち、内周面との境界部に傾斜部またはR部が形成された坩堝の内部に、種結晶を収容し、該種結晶上に原料を充填して、一方向凝固法により結晶育成を行うサファイア単結晶の製造方法である。特に、本発明のサファイア単結晶の製造方法は、前記坩堝の内底面のうち、平坦部と前記種結晶の下面との間に、少なくとも1枚の平板からなり、下面の面積が、該平坦部の面積の70%〜100%であるスペーサを、該種結晶の下面と前記境界部とを干渉させないように、かつ、該種結晶を支持するように配置することを特徴とする。
【0016】
前記スペーサは、複数の平板を積層したものであってもよい。
【0017】
前記スペーサの厚さは、前記境界部の垂直方向の高さの100%〜200%であることが好ましい。
【0018】
前記スペーサは、サファイア単結晶の融点以上である酸化物または金属からなることが好ましい。
【0019】
前記スペーサが酸化物からなる場合、該酸化物はサファイアであることが好ましい。また、前記スペーサが金属からなる場合、該金属は、イリジウム、オスミウム、タングステン、タンタル、ハフニウム、ルテニウム、テクネチウム、モリブデンからなる群から選択される1種の金属、または、この群から選択される少なくとも2種の金属で構成される合金からなることが好ましい。
【0020】
前記スペーサは、酸化物または金属のいずれからなる場合であっても、300Kにおける熱伝導率が、40W/m・K〜250W/m・Kであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、一方向凝固法によるサファイア単結晶の育成に際して、W、MoまたはW−Mo合金からなる坩堝の内底面のうち、内周面との境界部に形成される傾斜部やR部の存在にかかわらず、高品質のサファイア単結晶を簡易かつ低コストで育成することができる。このため、本発明の工業的意義はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明のサファイア単結晶の製造方法の実施形態の一例を説明するための概略断面図である。
図2図2(a)および(b)は、本発明のサファイア単結晶の製造方法の実施形態の他の例を説明するための概略断面図である。
図3図3は、従来技術のサファイア単結晶の育成に用いられる坩堝の形状を説明するための概略断面図である。
図4図4(a)および(b)は、従来技術の一方向凝固法によってサファイア単結晶を育成するに際して生じる問題を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、上述した問題に鑑みて、一方向凝固法によるサファイア単結晶の育成において、種結晶と坩堝との間に生じる隙間を抑制し、高品質のサファイア単結晶を低コストで製造する方法について鋭意研究を重ねた。その結果、坩堝の内底面上に種結晶を載置するに際して、坩堝の内底面の平坦部と種結晶の下面との間に、所定サイズの平板状スペーサを配置し、かつ、このスペーサによって種結晶を支持することによって、種結晶または坩堝を高精度で加工することなく、高品質のサファイア単結晶を育成することができるとの知見を得た。本発明は、この知見に基づき完成されたものである。以下、図1および図2を参照しながら、本発明を詳細に説明する。
【0024】
(1)坩堝
本発明のサファイア単結晶の製造方法に使用される坩堝1の材料には、サファイアよりも高融点であり、かつ、高温耐久性を備える、W(融点:3380℃)、Mo(融点:2620℃)またはW−Mo合金が用いられる。これらの材料は、サファイア単結晶のc軸に垂直な方向の線膨張率と同程度であるか、これよりも低い線膨張率を有するため、冷却時の熱収縮によってサファイア単結晶に生じる応力を軽減ないしは解消することが可能となる。このため、冷却後における坩堝1からのサファイア単結晶の取り出しを容易に行うことができるばかりでなく、サファイア単結晶に欠陥が生じることを効果的に防止することができる。
【0025】
坩堝1の材料としては、特に、WまたはWを30質量%以上、好ましくは50質量%以上含有するW−Mo合金を好適に使用することができる。WまたはWを30質量%以上含有するW−Mo合金は、その線膨張率がサファイア単結晶の線膨張率よりも十分に小さいため、このような材料から構成される坩堝1を用いた場合には、育成後におけるサファイア単結晶の取り出しをより容易に行うことができる。
【0026】
なお、これらの材料から構成される坩堝1は、上述したように粉末治金法や絞り加工法によって作製されることが必要であるとされているが、本発明のサファイア単結晶の製造方法によれば、後述するスペーサの作用に、この坩堝1の内底面3のうち、内周面2との境界部4に形成される傾斜部またはR部を、切削加工などにより削除せずとも、種結晶6と坩堝1との間に形成される隙間を抑制することができるため、低コストで、欠陥の発生を防止し、高品質のサファイア単結晶を得ることが可能となる。
【0027】
(2)スペーサ
本発明のサファイア単結晶の製造方法では、図1に示すように、坩堝1の内底面3と種結晶6aの下面8aとの間に、少なくとも1枚の平板からなるスペーサ12が、種結晶6aを支持するように配置される。このため、坩堝1の内底面3のうち、内周面2との境界部4に形成される傾斜部またはR部を、切削加工などにより削除せずとも、種結晶6aの外周面7aと坩堝1の内周面2との間に形成される隙間10bの大きさを十分に小さなものとすることができ、隙間10bに多量の原料融液9が流れ込むことにより、育成するサファイア単結晶の外周部が多結晶化することを効果的に防止することが可能となる。また、種結晶6aの下面8aと坩堝1の内底面3との間に隙間を形成させずに、スペーサ12を介して排熱することができ、育成結晶や原料融液9の温度勾配を適切に制御し、サファイア単結晶の育成に好適な成長界面を形成し、維持することが可能となる。
【0028】
(形状)
スペーサ12の形状は、平板状である限り制限されることはなく、坩堝1の内底面3上にスペーサ12が安定して載置されるような形状を選択すればよい。たとえば、一般的な円筒形状の坩堝1を使用する場合、スペーサ12としては、円板状のものを使用すればよい。
【0029】
ただし、スペーサ12としては、下面14の面積が、坩堝1の内底面3のうち、境界部4を除く部分、すなわち、平坦部5の面積の70%〜100%、好ましくは85%〜98%、より好ましくは90%〜98%であるものを使用することが必要となる。下面14の面積が70%未満では、隙間10bや隙間11aを十分に小さなものとすることができない。また、排熱効率の低下や排熱経路が種結晶の中心部に集中することで、水平方向の温度勾配が急峻になり、育成結晶の多結晶化や熱ひずみの発生といった問題が生じるおそれがある。なお、スペーサ12の上面13の外径が坩堝1の内径よりも小さい限り、上面13の面積は制限されることはなく、平坦部5の100%以上とすることも可能である。
【0030】
また、スペーサ12の厚さは、スペーサ12上に種結晶6aを載置した状態で、種結晶6aの下面8aが、坩堝1の境界部4と干渉しない限り、特に制限されることはない。ただし、スペーサ12があまりに厚いと、隙間11aが大きくなり、育成時の排熱効率が低下するおそれがある。このため、スペーサ12の厚さは、境界部4の垂直方向の高さの100%〜200%とすることが好ましく、100%〜150%とすることがより好ましく、100%〜120%とすることがさらに好ましい。
【0031】
なお、図1の実施形態では、スペーサ12は、1枚の平板から構成されているが、工業規模の生産を前提とした場合、種結晶6aの寸法公差や収容位置あるいは坩堝1の寸法公差によっては、坩堝1の内底面3と種結晶の6aの下面8aとの間の空間の形状や大きさが変動する場合がある。このような場合、図2(a)に示すように、同じ大きさを有する2枚以上の平板を用いてスペーサ12aを構成してもよい。あるいは、図2(b)に示すように、異なる大きさを有する2枚以上の平板を用いてスペーサ12bを構成してもよい。このように個々の坩堝1や種結晶6aの形状に応じて、使用するスペーサ12の形状、大きさおよび枚数を適宜選択することで、隙間10bや隙間11b、11cを最小限に抑制し、育成するサファイア単結晶の品質をより高いものとすることができる。
【0032】
(材質)
スペーサ12の材質としては、坩堝1と同様に高温耐久性を備えている限り制限されることはなく、公知の酸化物または金属を使用することができる。
【0033】
このような酸化物としては、アルミナ(Al23、融点:2040℃)、酸化イットリウム(Y23、融点:2410℃)、酸化クロム(Cr23、融点:2435℃)、酸化ジルコニウム(ZrO2、融点:2677℃)、酸化マグネシウム(MgO、融点:2800℃)、酸化ハフニウム(HfO2、融点:2810℃)などを挙げることができる。なお、スペーサ12の材質としてサファイア単結晶を使用する場合、その結晶方位は特に制限されることはないが、育成結晶の多結晶化を確実に防止する観点から、種結晶6aと同様に、c軸方向のものを使用することが好ましい。
【0034】
また、金属としては、イリジウム(Ir、融点:2443℃)、オスミウム(Os、融点:3045℃)、タングステン(W、融点:3380℃)、タンタル(Ta、融点:2985℃)、ハフニウム(Hf、融点:2233℃)、ルテニウム(Ru、融点:2250℃)、テクネチウム(Tc、融点:2157℃)、モリブデン(Mo、融点:2620℃)からなる群から選択される1種の金属、または、この群から選択される少なくとも2種の金属で構成される合金を挙げることができる。
【0035】
なお、スペーサ12の材質としては、酸化物または金属のいずれを選択する場合であっても、300Kにおける熱伝導率が、40W/m・K〜250W/m・Kであるものが好ましく、90W/m・K〜200W/m・Kであるものがより好ましく、130W/m・K〜180W/m・Kであるものがさらに好ましい。300Kにおける熱伝導率が40W/m・K未満では、原料融液9および育成結晶内の熱を十分に排熱することができないため、適切な温度勾配および成長界面を形成することができないおそれがある。一方、300Kにおける熱伝導率が250W/m・Kを超えると、単位時間当たりの排熱量が著しく増大し、種結晶6aが過度に冷却されるため、適切な温度勾配および成長界面を形成することができなくなるおそれがある。
【0036】
(3)サファイア単結晶の製造方法
本発明のサファイア単結晶の製造方法は、坩堝1の内底面3の平坦部5に、上述したスペーサ12を配置した後、スペーサ12上に単結晶6aを載置することを特徴とする。この際、坩堝1の境界部4と種結晶6aの形状および大きさを考慮して、種結晶6aの下面8aと境界部4とが干渉せず、かつ、隙間10bおよび隙間11aが最小限となるように、使用するスペーサ12の形状、大きさ、枚数を適切に選択することが重要となる。
【0037】
なお、本発明のサファイア単結晶の製造方法では、使用する坩堝および種結晶の大きさが制限されることはないが、目的とするサファイア単結晶の大きさに応じて、適切に選択する必要がある。たとえば、外径が100mm〜105mm、全長が130mmのサファイア単結晶を育成する場合、坩堝1として、内径が102mm〜120mm、深さが280mm〜400mmのものを使用することが好ましい。また、種結晶6aとしては、外径が100mm、高さが50mmのもの、すなわち、隙間10bが0.5mm〜2mm程度、好ましくは0.6mm〜1.0mm程度となるものを好適に使用することができる。特に、本発明によれば、坩堝1の境界部4の形状や大きさにかかわらず、種結晶6aとして上記サイズを有するものを使用することが可能となる。
【0038】
また、本発明のサファイア単結晶の製造方法は、上述した点を除き、従来の一方向凝固法によるサファイア単結晶の製造方法と同様である。すなわち、本発明のサファイア単結晶の製造方法は、加熱方法、原料、雰囲気ガスの種類や圧力、加熱温度あるいは育成時間などの育成条件によって制限されることはなく、これらの育成条件は、育成するサファイア単結晶の大きさや育成装置の特性に応じて適宜選択することができる。
【0039】
このような本発明のサファイア単結晶の製造方法によれば、坩堝1と種結晶との間に形成される隙間10bおよび11aを最小限に抑制することができるため、育成中における成長界面を、サファイア単結晶の育成に好適な凸状に維持することが可能となるばかりでなく、育成後のサファイア単結晶の外周部が多結晶化することを効果的に防止することが可能となる。また、本発明の製造方法によれば、このような高品質のサファイア単結晶を、坩堝やスペーサなどに対して複雑な加工を施す必要がなく、きわめて簡易な方法で得ることができるため、その製造コストの低減を図ることが可能となる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。
【0041】
(実施例1)
はじめに、サファイア単結晶育成用坩堝として、深さ300mm、内径105mm(平坦部5の直径95mm)、外径130mmのW製の坩堝1を用意した。なお、坩堝1は、内底面3側から開口端部側に向かって2°の傾斜で拡径しており、内周面2と内底面3との境界部4にはR部(R=5mm)が形成されたものであった。
【0042】
スペーサ12aとして、直径80mm、厚さ5mmのc面サファイア単結晶基板(300Kにおける熱伝導率:42W/m・K)を2枚用意し、これらのサファイア単結晶基板を、図2(a)に示すように積層した後、坩堝1の内底面3とスペーサ12aの下面14aとの間に隙間が生じないように、スペーサ12aを内底面3上に配置した。このスペーサ12aの上面13aおよび下面14aの面積は、坩堝1の内底面3の平坦部5の面積の70.9%であり、厚さは、境界部4の垂直方向の高さの100%であった。続いて、スペーサ12aの上面13aに、直径103mm、高さ50mmの円柱形状で、軸方向の結晶方位がc面であるサファイア単結晶を種結晶6aとして、この種結晶6aの下面8aとスペーサ12aの上面13aとの間に隙間が生じないように載置するとともに、種結晶6aの上部に、アルミナ(サファイア多結晶)からなる原料9を3kg充填した。なお、スペーサ12aの上面13aに種結晶6aを載置した状態で、坩堝1の内周面2と種結晶6aの外周面7aの間の隙間10bは1mmであった。
【0043】
次に、坩堝1を、育成炉にセットし、VGF法によるサファイア単結晶の育成を行った。具体的には、坩堝1を、育成炉の支持軸上に載置し、チャンバを密封した後、0.1Pa程度まで真空引きし、5L/分の流量でアルゴンガスを導入した。この状態で、ヒータ(抵抗加熱装置)へ電力を投入し、原料9の表面温度が2040℃となるまで加熱するとともに、種結晶6aの上部30mmと原料融液を融解させた。続いて、ヒータへの投入電力を調整することで、坩堝1の上方から下方に向かって、原料融液9の温度が10℃/cmで低下するような温度勾配を形成し、この温度勾配を維持したまま、3℃/hrで60時間かけて、1920℃まで降温することにより、サファイア単結晶の育成を行った。
【0044】
このようにして得られたサファイア単結晶を室温まで冷却した後、目視で観察することにより評価した。具体的には、サファイア単結晶に結晶欠陥が存在しなかったものを「優(◎)」、僅かに結晶欠陥が存在したが、収率に影響がないものを「良(○)」、結晶欠陥が存在したが、収率が大幅に低下せず、実用上、許容範囲内であるものを「可(△)」、結晶欠陥が多数存在し、サファイア単結晶基板の収率に影響があるものを「不可(×)」として評価した。この結果、実施例1で得られたサフィア単結晶は、僅かながら結晶欠陥が存在するものの、実用上、問題ないものであることが確認された。この結果を表1に示す。
【0045】
(実施例2〜21)
スペーサとして、表1に示すものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、サファイア単結晶の育成を行った。このようにして得られたサファイア単結晶を目視により観察した結果、いずれも多結晶化などの結晶欠陥はほとんど発見されず、実用上、問題ないものであることが確認された。これらの結果を表1に示す。
【0046】
(比較例1)
スペーサ12aを使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、サファイアは単結晶の育成を行った。なお、比較例1では、種結晶6aを坩堝1内に収容した状態において、種結晶6aの下面8aと、坩堝1の内底面3との間に約4mmの隙間11が存在した。
【0047】
このようにして得られたサファイア単結晶を目視により観察した結果、サファイア単結晶の外周部が多結晶化しており、サファイア単結晶基板の収率に影響があることが確認された。これは隙間11が存在することにより、種結晶6aからの排熱が十分に行われず、成長界面の形状が、融液に向かって凹状に変化したためと考えられる。
【0048】
(比較例2〜5)
スペーサとして、表1に示すものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、サファイア単結晶の育成を行った。このようにして得られたサファイア単結晶を目視により観察した結果、多結晶化などの結晶欠陥が多数存在しており、サファイア単結晶基板の収率に影響があることが確認された。これらの結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、サファイア単結晶基板が大口径化した場合にも有効とされるブリッジマン法やVGF法などの一方向凝固法によるサフィア単結晶の育成において、坩堝や種結晶に対して複雑な加工を施さず、きわめて簡易な方法で、結晶欠陥の少ない高品質のサファイア単結晶を得ることができる。このため、サフィア単結晶基板、さらには、このサファイア単結晶基板を用いた白色LEDの低コスト化を実現することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 坩堝
2 内周面
3 内底面
4 境界部
5 平坦部
6、6a 種結晶
7、7a 種結晶の外周面
8、8a 種結晶の下面
9 原料(原料融液)
10、10a、10b 隙間
11、11a、11b、11c 隙間
12、12a、12b スペーサ
13、13a、13b スペーサの上面
14、14a、14b スペーサの下面
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2014年4月1日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
W、MoまたはW−Mo合金からなり、内底面のうち、内周面との境界部に傾斜部またはR部が形成された坩堝の内部に、種結晶を収容し、該種結晶上に原料を充填して、一方向凝固法により結晶育成を行うサファイア単結晶の製造方法であって、
前記坩堝の内底面の平坦部と前記種結晶の下面との間に、少なくとも1枚の平板からなり、下面の面積が、該平坦部の面積の70%〜100%であるスペーサを、該種結晶の下面と前記境界部とを接触させないように、かつ、該種結晶を支持するように配置する、サファイア単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記スペーサは、複数の平板を積層したものである、請求項1に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記スペーサの厚さは、前記境界部の垂直方向の高さの100%〜200%である請求項1または2に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記スペーサは、サファイア単結晶の融点以上である酸化物または金属からなる、請求項1〜3のいずれかに記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記スペーサは、サファイアからなる、請求項4に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記スペーサは、イリジウム、オスミウム、タングステン、タンタル、ハフニウム、ルテニウム、テクネチウム、モリブデンからなる群から選択される1種の金属、または、この群から選択される少なくとも2種の金属で構成される合金からなる、請求項4に記載のサファイア単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記スペーサは、300Kにおける熱伝導率が、40W/m・K〜250W/m・Kである、請求項1〜6のいずれかに記載のサファイア単結晶の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
たとえば、図4(a)に示すように、境界部4と接触しないような外径を有する種結晶6を用いてサファイア単結晶を育成する場合、種結晶6の外周面7と坩堝1の内周面2との間の隙間10が大きくならざるを得ず、この部分に多量の原料融液9が流れ込むことにより、育成するサファイア単結晶の外周部が多結晶化してしまう。一方、図4(b)に示すように、隙間10aがほとんど生じないような外径を有する種結晶6aを用いてサファイア単結晶を育成する場合、種結晶6aの下面8aと境界部4が接触することに起因して、下面8aと内底面3との間に隙間11が形成されてしまう。このような隙間11が存在すると、育成結晶または種結晶中の熱が十分に排熱されず、サファイア単結晶の育成に好適な凸状の成長界面を形成し、維持することが困難となる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
本発明のサファイア単結晶の製造方法は、W、MoまたはW−Mo合金からなり、内底面のうち、内周面との境界部に傾斜部またはR部が形成された坩堝の内部に、種結晶を収容し、該種結晶上に原料を充填して、一方向凝固法により結晶育成を行うサファイア単結晶の製造方法である。特に、本発明のサファイア単結晶の製造方法は、前記坩堝の内底面のうち、平坦部と前記種結晶の下面との間に、少なくとも1枚の平板からなり、下面の面積が、該平坦部の面積の70%〜100%であるスペーサを、該種結晶の下面と前記境界部とを接触させないように、かつ、該種結晶を支持するように配置することを特徴とする。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
また、スペーサ12の厚さは、スペーサ12上に種結晶6aを載置した状態で、種結晶6aの下面8aが、坩堝1の境界部4と接触しない限り、特に制限されることはない。ただし、スペーサ12があまりに厚いと、隙間11aが大きくなり、育成時の排熱効率が低下するおそれがある。このため、スペーサ12の厚さは、境界部4の垂直方向の高さの100%〜200%とすることが好ましく、100%〜150%とすることがより好ましく、100%〜120%とすることがさらに好ましい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
(3)サファイア単結晶の製造方法
本発明のサファイア単結晶の製造方法は、坩堝1の内底面3の平坦部5に、上述したスペーサ12を配置した後、スペーサ12上に単結晶6aを載置することを特徴とする。この際、坩堝1の境界部4と種結晶6aの形状および大きさを考慮して、種結晶6aの下面8aと境界部4とが接触せず、かつ、隙間10bおよび隙間11aが最小限となるように、使用するスペーサ12の形状、大きさ、枚数を適切に選択することが重要となる。