【課題】 セメント製品の乾燥収縮ひずみを簡便な方法で有効に低減して、ひび割れ発生を有効に抑制することができる、ひび割れ低減型セメント製品の製造方法及びひび割れ低減型セメント製品提供する。
【解決手段】 本発明のひび割れ低減型セメント製品の製造方法は、少なくともセメント、水及び繊維を含み膨張材を含まないセメント組成物を蒸気養生し、得られたセメント製品の表面に、表面改質剤を塗布するか、水中養生するか、又は両者を実施することにより製造する。
請求項2記載のひび割れ低減型セメント製品の製造方法において、水中養生後に得られたセメント製品の表面に、セメント用表面改質剤を塗布することを特徴とする、ひび割れ低減型セメント製品の製造方法。
請求項1又は3記載のひび割れ低減型セメント製品の製造方法において、セメント用表面改質剤は、シラン系セメント用表面改質剤であることを特徴とする、ひび割れ低減型セメント製品の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄筋コンクリート構造物や鉄骨鉄筋コンクリート構造物等の建築構造物の分野においては、耐震性の向上等の観点から、耐久性のより高いものが要求されている。
かかるコンクリート構造物の高耐久化を図るためには、初期欠陥となるひび割れを防止しなければならず、ひび割れの発生主要因の一つに、乾燥収縮がある。
コンクリートは乾燥に伴ってその体積を減少させ、コンクリート構造物にかかる乾燥収縮が生じると、ひび割れは発生する。
従って、乾燥収縮に起因するひび割れを主として抑制もしくは防止する必要がある。
【0003】
モルタルやコンクリートの乾燥収縮によるひび割れ抵抗性を向上させるには、膨張材や石膏を添加する方法や乾燥収縮低減剤を用いる方法がこれまで提言されてきている。
例えば、乾燥収縮を低減させるために、「コンクリートの自己収縮研究委員会報告書」2002年9月、(社)日本コンクリート工学協会、p.207−210」(非特許文献1)には、膨張材や収縮低減剤が提案されている。
更に、「日本建築学会、膨張材・収縮低減剤を使用したコンクリートの技術の現状 2013年7月」(非特許文献2)には、乾燥収縮を低減させるには、膨張材や石膏、収縮低減剤をセメントに混和する方法が有効であることが提案されている。
【0004】
特許第4822498号公報(特許文献1)には、膨張材、乾燥収縮低減剤及びアルカリ金属塩を含有し、膨張材100重量部に対して、乾燥収縮低減剤が2〜30重量部、アルカリ金属塩が0.01〜2.0重量部であり、膨張材がJIS A 6202「コンクリート用膨張材」に適合する石灰系膨張材又はエトリンガイト系膨張材であり、乾燥収縮低減剤が下記式(1)で表される化合物を有効成分とするものであり、アルカリ金属塩がアルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属硫酸塩から選ばれる一種又は二種以上であるセメント混和剤をセメントに混合して使用し、セメント硬化体のひび割れを低減させることが、特開2011−102201号公報(特許文献2)や特開2011−102202号公報(特許文献3)には、収縮低減剤をコンクリートに混合して使用することが開示されている。
【0005】
また、特開2012−254890号公報(特許文献4)には、予め練り混ぜられた硬練りのベースコンクリートに、該ベースコンクリート中のセメント100質量部当たり、収縮低減用流動化剤を0.1〜8.0質量部の割合となるよう添加して混合し、乾燥収縮低減性及び高流動性を同時に付与することを特徴とする低収縮AEコンクリートの調製方法が開示されており、特開2009−249228号公報(特許文献5)、特開2010−006626号公報(特許文献6)には、セメント、石膏、水、細骨材、粗骨材、乾燥収縮低減剤、空気連行剤及びセメント分散剤を含有してなる低収縮AEコンクリート組成物の調製において、乾燥収縮低減剤として特定の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルを用い、更に空気連行剤として特定の有機リン酸エステル化合物を用いることが記載されている。
【0006】
しかし、膨張材や石膏を添加する方法は、モルタルの練混ぜ時間が長くなること、モルタルの製造に時間がかかること、膨張材および石膏は比表面積が大きく空気中の水分と反応し、品質が変化し易いので取扱いが難しいこと、過剰混和による異常膨張によるひび割れ等の危険性を有していた。
また、乾燥収縮低減剤を用いる方法は、空気連行性を有するため、細骨材の粒度、練混時間等のモルタル製造時の影響を受けやすく、モルタルの空気量の調整に時間がかかるとともに、耐凍結融解抵抗性が劣る課題があった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を以下の好適例により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明のひび割れ低減型セメント製品の製造方法は、セメント組成物を蒸気養生し、得られたセメント製品を水中養生するか、あるいはセメント製品の表面にセメント用表面改質剤を塗布するか、またはセメント製品を水中養生しかつセメント用表面改質剤を塗布して、ひび割れ低減型セメント製品を製造する方法である。
【0015】
本発明に用いるセメント組成物には、少なくともセメントと水とを含有するセメントペースト、更に細骨材を含むモルタルや、細骨材及び粗骨材を含むコンクリート組成物が含有されるものとする。
【0016】
セメントとしては、特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント等のJIS R 5210:2009に規定されるポルトランドセメント、JIS R 5211:2009に規定される高炉セメント、JIS R 5213:2009に規定されるフライアッシュセメント、JIS R 5212:2009に規定されるシリカセメント及びJIS R 5214:2009に規定されるエコセメント等を例示することができ、これらの単独で又は混合して用いることができる。
また、本発明で使用するセメントには、長期強度の向上、乾燥収縮の緩和のため、ポゾラン活性を有する材料である高炉スラグ粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石粉末、石英粉末、二水石膏、半水石膏、I型及びII型及びIII型無水石膏等の混和材を、単独でもしくは併用して、適量配合することも可能である。
【0017】
また、本発明のセメント組成物の一形態であるモルタルには細骨材が、また本発明のセメント組成物の一形態であるコンクリートには、細骨材及び粗骨材が含有されるが、これらの粗骨材や細骨材の種類は、特に限定されるものではない。
粗骨材としては、例えば、粒径2.5〜40mmの砂利、砕石等の公知の粗骨材、これらの混合物や軽量骨材等が挙げられる。
また、細骨材としては、山砂、川砂、陸砂、砕砂、海砂、珪砂3〜7号等の比較的粒径の細かい細骨材、JIS A 5011:2003に記載される高炉スラグ骨材、フェロニッケルスラグ骨材、銅スラグ骨材、電気炉酸化スラグ骨材または珪砂粉、石灰石粉等の微粉末等の公知の細骨材を使用することができる。
【0018】
また、セメント組成物には、各種添加剤を必要に応じて、配合することができる。
各種添加剤としては、セメント組成物を調製する際に添加される公知の添加剤であれば、用途に応じて添加することができ、例えば、無機混和材、AE剤、減水剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、消泡剤、防錆剤、防凍剤、着色剤、空気連行剤等の混和材や、耐久性を向上させるための炭素繊維や鋼繊維や化学繊維等の補強材を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
減水剤としては、例えば、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系等の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤等の液状または粉末状のいずれの公知の減水剤も使用できる。
【0019】
セメント組成物に含有される無機混和剤としては、以下のものを好適に用いることができる。
無機混和剤としては、特に、珪酸質系鉱物質微粉末、炭酸リチウム、及び、膨張材または早強ポルトランドセメントから成り、当該珪酸質系鉱物質微粉末を84.5〜91.5質量%、炭酸リチウムを1.0〜3.0質量%、膨張材または早強ポルトランドセメントを7.5〜12.5質量%で含む、塩化物イオン浸透抑制無機混和材を好適に用いることができる。
【0020】
当該塩化物イオン浸透抑制無機混和材に含まれる珪酸質系鉱物質微粉末としては、SiO
2を55〜65質量%含む鉱物微粉末を好適に使用することができる。特に珪酸質系鉱物質微粉末は、微粉末とすることが塩化物イオン浸透性を抑制する点から望ましく、ブレーン比表面積は5050〜5850cm
2/gであること望ましい。
更に、該珪酸質系鉱物質微粉末は、湿分が約0.2質量%以下、強熱減量が約2.4質量%以下、密度が2.35〜2.45g/cm
3であるものがより望ましく例示される。
【0021】
また塩化物イオン浸透抑制無機混和材に含まれる膨張材としては、カルシウムサルホアルミネート系膨張材、石灰石膨張材及びエトリンガイト−石灰複合系膨張材等を例示することができる。特に、カルシウムサルホアルミネート系膨張材を、好適に用いることができる。
例えばカルシウムサルホアルミネート系膨張材は、ブレーン比表面積が2550〜3350cm
2/g、強熱減量が1.6質量%以下、MgOが1.0〜2.0質量%を含むものを好適に例示することができる。
また、例えばエトリンガイト−石灰複合系膨張材は、遊離石灰を約50質量%、アーウイン(3CaO・Al
2O
3・CaSO
4)を約20質量%、無水石膏を約30質量%、MgOを0.9〜2.0質量%含み、ブレーン比表面積が2900〜3300cm
2/g、強熱減量が1.6質量%以下のものを好適に例示することができる。
【0022】
更に、塩化物イオン浸透抑制無機混和材に含まれる早強ポルトランドセメントは、C
3Sが60〜68質量%、C
2Sが6〜14質量%、間隙室(C
3A+C
4AF)が15.5〜18質量%、ブレーン比表面積が4400〜7000cm
2/gのものを好適に例示することができる。
【0023】
また、塩化物イオン浸透抑制無機混和材に含まれる炭酸リチウムは、Li
2CO
3を95質量%以上含み、レーザー回折・散乱式粒度分析計(日機装(株)製マイクロトラック)によって測定した10%通過粒径が3〜8μm、50%通過粒径が7〜20μm、90%通過粒径が12〜150μmとなる粒度分布を有するものを好適に例示することができる。
【0024】
かかる塩化物イオン浸透抑制無機混和材に用いる珪酸質系鉱物質微粉末は、上記珪酸質系鉱物質微粉末と、炭酸リチウムと、膨張材又は早強ポルトランドセメントとを均一に混合することにより得られ、これらの材料が均一に混合されればその混合方法は特に限定されない。
【0025】
かかる塩化物イオン浸透抑制無機混和材は、セメント組成物に配合添加することで、得られるセメント組成物に、良好な強度発現性と塩化物イオン浸透抵抗性を付与することが可能となる。
【0026】
塩化物イオン浸透抑制無機混和材は、セメント組成物のセメント及び塩化物イオン浸透抑制無機混和材からなる結合材100質量部中、塩化物イオン浸透抑制無機混和材が15〜30質量部、望ましくは20〜30質量部含有される。
塩化物イオン浸透無機混和材は、特にプレキャストコンクリート製品に用いるセメント組成物に有行に配合して用いることができる。
【0027】
本発明のセメント組成物の製造方法は、セメント及び水、必要に応じて添加配合される細骨材、粗骨材、例えば上記塩化物イオン浸透抑制無機混和材等の無機混和材、繊維等の補強材を所定量配合して、混合練り混ぜて調製することができる。
また、混練方法は、特に限定されず、水以外の材料を予め混合して、これに水を配合しても、全ての原材料を一度に混合しても均一に混練できる方法であれば特に限定されない。
セメント組成物中の水/セメント質量比は限定されず、水の量は、使用する材料の種類や配合により変化させることができる。
【0028】
セメント組成物を製造する混練装置としては、任意の公知の装置を使用することが可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ等を例示することができる。
【0029】
このようにして調製したセメント組成物を打設して製造したセメント製品に蒸気養生を実施する。
蒸気養生方法としては、公知の任意の蒸気養生方法を適用することができ、例えば、20℃で4時間前養生を行い、その後40〜50℃で3〜5時間蒸気養生を行うことができる。
【0030】
蒸気養生を実施したセメント製品の表面に、セメント用表面改質剤を塗布する。セメント用表面改質剤としては、シラン系セメント用表面改質剤が好ましく、例えば、リフレパセットA1000(住友大阪セメント株式会社製)、リフレパセットD70(住友大阪セメント株式会社製)、アクアシール1400(大同塗料株式会社製)等を例示することができる。
かかるセメント用表面改質剤、特にシラン系セメント用表面改質剤をセメント製品表面1m
3あたり100g〜300g塗布することが望ましい。かかる塗布量により、セメント製品の乾燥収縮ひずみの発生を抑制することが可能となる。
【0031】
または、蒸気養生を実施したセメント製品を、水中養生する。例えば、水中養生条件としては、20℃±2℃の水中で7日以上の水中養生を実施することで、セメント製品の乾燥収縮ひずみの発生を抑制することが可能となる。
更に、かかる水中養生を実施した後に、前記セメント系表面改質剤をセメント製品の表面に塗布してもよく、この工程により、更に有効にセメント製品の乾燥収縮ひずみの発生を抑制することが可能となる。
【0032】
このように製造したひび割れ低減型セメント製品は、例えば、蒸気養生を5時間実施して水中養生及び/又は表面改質剤の塗布を行った場合に、蒸気養生を24時間実施した場合のセメント製品の最終乾燥収縮ひずみと比較して、得られる最終乾燥収縮ひずみをほぼ同等とすることができ、良好な耐ひび割れ低減性を有することとなり、耐久性を向上することができる。
【実施例】
【0033】
本発明を具体的な実施例及び試験例により詳述する。
(使用材料)
以下の使用材料を用いて、下記実施例、比較例及び試験例を実施した。
・普通ポルトランドセメント(C):住友大阪セメント株式会社製
・細骨材(S):砕砂
・無機混和材(AD):下記表1に示す配合の無機混和材
・膨張材(EX):エトリンガイト系膨張材 商品名「SACS」、住友大阪セメント株式会社製
・ビニロン繊維(Vf):商品名RF4000、クラレ製
・高性能減水剤(SP):商品名マスターグレニウム8000P、SFジャパン製
・AE剤(AE):商品名マスターエア202、BASFジャパン製
・水(W):水道水
【0034】
【表1】
【0035】
(実施例1〜4及び比較例1〜4)
上記の各材料を用いて、以下の表2に示す配合割合で混合して、モルタル組成物を調製した。
なお、表2中、高性能減水剤及びAE剤の配合量は、結合材B(普通ポルトランドセメント(C)+混和材(AD))に対して、外割質量%で示したもので、高性能減水剤は1.0質量%、AE剤は0.001質量%である。
【0036】
具体的には、モルタル組成物の調製は温度20℃の恒温室で行い、練混量は35Lとし、モルタルの練混ぜ時間は、セメント、混和材、細骨材を15秒間空練りした後に、水を投入して120秒間練り混ぜ、かき落としを行い、さらに120秒練り混ぜ、ビニロン繊維を投入後、60秒練り混ぜて調製した。
【0037】
【表2】
【0038】
次いで、各モルタル組成物を10cm×10cm×40cmの角柱の型枠に打ち込み、角柱の供試体の中央に埋め込みひずみ計(KM−1000BT、東京測器研究所製)を埋込んで、温度20℃、湿度60%の環境下で前養生を実施した。次いで、下記表3に示す蒸気養生条件にて蒸気養生を行い、次いで、表3に示す蒸気養生後の処理を行って、10cm×10cm×40cm角柱のモルタル試験供試体を製造した。
【0039】
【表3】
【0040】
各モルタル試験供試体の乾燥収縮ひずみを、各試験供試体の中央に埋め込んだ前記ひずみ計(KM−1000BT、東京測器研究所製)により測定した。
その結果を
図1に示す。
なお、乾燥収縮ひずみ値は、乾燥を開始した時点から測定を開始した。
【0041】
得られた乾燥収縮ひずみ値から、日本建築学会「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)」の下記式(1)を用いて、各モルタル試験供試体の最終乾燥収縮ひずみ推定値を求めた。
なお、セメント製品の乾燥収縮ひずみ発現は、長期に亘り最終値に漸近するといった特性上、下記式(1)の関数式で近似して推定しているものである。
上記式(1)より求めた各モルタル試験供試体の最終乾燥収縮ひずみ推定値の結果を表4に示す。
【0042】
【数1】
【0043】
ここで上記式中、ε(t
0)は乾燥収縮開始材齢t
0日の乾燥収縮ひずみ((×10
−6)、ε(t)は乾燥収縮開始材齢t日の乾燥収縮ひずみ(×10
−6)、ε
∞は乾燥収縮ひずみの最終値(×10
−6)、α、βは実験定数である。
【0044】
上記式(1)の近似式に、上記モルタル試験供試体の任意の短期材齢(t
E)日における乾燥収縮ひずみの具体的測定データ(ε(t
E)(×10
−6))を代入し、乾燥収縮ひずみの最終値(ε
∞)を求めることによって長期的な乾燥収縮ひずみ(ε(t
L)(×10
−6))を推定している。
なお、コンクリートの乾燥収縮ひずみを測定するJIS A 1129に規定される長さ変化試験により、乾燥収縮ひずみの規制値は材齢6ヶ月が対象となっている。
【0045】
上記式(1)は日本建築学会「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)」が採用しているものであり、乾燥収縮ひずみの膨大なデータに基づき、α=0.16(V/S)
1.8(Vはコンクリート試験体の容積(mm
3)、Sは試験体の表面積(mm
2)と規定しており、またJIS規格(JIS A 1129)で定められた乾燥収縮ひずみを測定する長さ変化試験ではV/S=22.2mmのため、α=42.4となる)、β=1.4(V/S)
−0.18(β=0.8)と定めている。
【0046】
【表4】
【0047】
上記表4の結果より、表面改質剤「リフレパセットA1000」をモルタル部材の表面に塗布した実施例2の場合は、表面改質剤「リフレパセットA1000」によりモルタル試験体表面からの乾燥が抑えられ、従来養生方法の比較例1に比べ、最終乾燥収縮ひずみが約100×10
−6小さくなっていることがわかる。
また、蒸気養生後に水中養生を実施した実施例3及び4の場合には、水中養生によってモルタルの緻密化が進むため、水中養生期間28日(実施例3)では最終乾燥収縮ひずみが約250×10
−6、7日(実施例4)では約220×10
−6小さくなっていることがわかる。水中養生期間7日と28日では、最終乾燥収縮ひずみの低減量が同程度であるため、7日以上の水中養生を行うことによって、乾燥収縮ひずみを低減できると考えられる。
【0048】
蒸気養生後、水中養生を28日間実施し、更に表面改質剤「リフレパセットA1000」を塗布した実施例1の場合は、水中養生と表面改質剤との相乗効果により最終収縮ひずみは約300×10
−6小さくなり、比較例1と比べて75%程度の乾燥収縮ひずみを低減できたことが明らかである。
【0049】
蒸気養生の最高温度保持時間を24時間実施した比較例3の場合の最終乾燥収縮ひずみは、モルタルが緻密化するため、水中養生を実施した場合とほぼ同程度の最終乾燥収縮ひずみとなった。
しかし、蒸気養生の最高時間を24時間保持することは、実際の工場設備では実現が難しく、燃料費が高くなるという問題があるが、本発明の実施例のモルタル部材は、蒸気養生を長時間実施した比較例3と同程度の最終乾燥収縮ひずみ値を得ることができるため、本発明の方法は、簡便で経済的な、ひび割れ抑制方法であることが明確である。
【0050】
また、比較例4では、一般に、乾燥収縮ひずみ低減効果があると知られている膨張材を用いたモルタル部材であるが、比較例1と同等の最終乾燥収縮ひずみ値となり、乾燥収縮ひずみ低減効果は認められなかった。これは、ビニロン繊維の剛性が小さいため、十分なケミカルプレストレス効果を付与することができなかったためと考えられる。