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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-189899(P2015-189899A)
(43)【公開日】2015年11月2日
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20151006BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20151006BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20151006BHJP
【FI】
   C09K3/14 550C
   H01L21/304 622D
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-69279(P2014-69279)
(22)【出願日】2014年3月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】横田 周吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章太
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 朝彦
(72)【発明者】
【氏名】大和 泰之
(72)【発明者】
【氏名】坂部 晃一
(72)【発明者】
【氏名】井澤 由裕
(72)【発明者】
【氏名】吉▲崎▼ 幸信
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 千晶
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158CA04
3C158CA05
3C158DA02
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158ED01
3C158ED04
3C158ED10
3C158ED22
3C158ED23
3C158ED24
3C158ED26
5F057AA21
5F057BA15
5F057BB15
5F057BB16
5F057BB19
5F057BB32
5F057BB33
5F057BB34
5F057BB40
5F057CA12
5F057DA03
5F057EA03
5F057EA21
5F057EA26
(57)【要約】
【課題】CMP後の研磨対象物の表面に残留する不純物を十分に除去する手段を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の研磨用組成物は、砥粒または有機化合物(A)を含有する研磨用組成物(A)で研磨した後に使用される研磨用組成物であって、フッ素原子、酸素原子、窒素原子、及び塩素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含み分子量が100以上である有機化合物(B)、pH調整剤、並びに0〜1質量%の砥粒を含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒または有機化合物(A)を含有する研磨用組成物(A)を用いて研磨した後に使用される研磨用組成物であって、
フッ素原子、酸素原子、窒素原子、及び塩素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含み分子量が100以上である有機化合物(B)、pH調整剤、並びに0〜1質量%の砥粒を含む、研磨用組成物。
【請求項2】
前記有機化合物(B)が、ヒドロキシ基を3つ以上有する、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記有機化合物(B)が、アミノ基を1つ以上有する、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
研磨対象物が、疎水性物質である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
研磨対象物を請求項1〜4のいずれか1項に記載の研磨用組成物を使用して研磨する、研磨方法。
【請求項6】
研磨対象物を請求項5に記載の研磨方法で研磨する工程を含む、基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。より詳細には、本発明は、CMP後の研磨対象物表面に残留した不純物を取り除くための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化膜、シリコン窒化物や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
CMP工程後の半導体基板表面には、不純物(ディフェクト)が多量に残留している。不純物としては、CMPで使用された研磨用組成物由来の砥粒、金属、防食剤、界面活性剤等の有機物、研磨対象物であるシリコン含有材料、金属配線やプラグ等を研磨することによって生じたシリコン含有材料や金属、更には各種パッド等から生じるパッド屑等の有機物などが含まれる。
【0004】
半導体基板表面がこれらの不純物により汚染されると、半導体の電気特性に悪影響を与え、デバイスの信頼性が低下する可能性がある。更に、有機物による汚染が著しい場合は、デバイスが破壊されてしまうおそれがある。したがって、CMP工程後に洗浄工程を導入し、半導体基板表面からこれらの不純物を除去する必要がある。
【0005】
洗浄工程では、半導体基板表面から不純物を除去するために洗浄剤が使用され、これまでにも様々な洗浄剤が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/040324号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記洗浄工程によっても、不純物を十分に除去することができず、半導体基板等の研磨対象物の表面に不純物が残存してしまうという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、CMP後の研磨対象物の表面に残留する不純物を十分に除去する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、CMP後に、新規な研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することにより、後の洗浄工程における洗浄効果が著しく向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の研磨用組成物は、砥粒または有機化合物(A)を含有する研磨用組成物(A)で研磨した後に使用される。そして、当該研磨用組成物は、フッ素原子、酸素原子、窒素原子、及び塩素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含み分子量が100以上である有機化合物(B)、pH調整剤、並びに0〜1質量%の砥粒を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、CMP後の研磨対象物の表面に残留する不純物を十分に除去することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明が以下の形態のみに制限されるわけではない。
【0013】
<研磨用組成物>
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物は、砥粒または有機化合物(A)を含有する研磨用組成物(A)を用いて研磨した後に使用される研磨用組成物であって、フッ素原子、酸素原子、窒素原子、及び塩素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含み分子量が100以上である有機化合物(B)、pH調整剤、並びに0〜1質量%の砥粒を含有することを特徴とする。なお、本明細書では、本発明に係る研磨用組成物を、研磨用組成物(A)と区別するために、「研磨用組成物(B)」とも称する。また、「研磨用組成物(A)を用いた研磨」、「研磨用組成物(B)を用いた研磨」を、それぞれ「研磨(A)」、「研磨(B)」とも称する。
【0014】
上述のように、CMP(研磨(A))後の研磨対象物表面は、CMPで使用された研磨用組成物(研磨用組成物(A))由来の砥粒や金属、防食剤、界面活性剤等の有機物、研磨対象物であるシリコン含有材料、金属配線やプラグ等を研磨することによって生じたシリコン含有材料や金属、更には各種パッド等から生じるパッド屑等の有機物などの不純物により汚染されている。本形態の研磨用組成物(B)はこのような不純物が付着した研磨対象物の研磨に適用されることにより、後の洗浄工程における洗浄効果が著しく向上し、研磨対象物表面から、不純物を十分に除去することができる。
【0015】
本形態の研磨用組成物(B)がこのような効果を発揮できる詳細なメカニズムは不明であるが、本発明者らは以下のように推察している。ただし、本発明は上記メカニズムによって制限されるものではない。
【0016】
研磨(A)において研磨対象物表面には、研磨用組成物(A)由来の砥粒や有機化合物、研磨対象物が研磨されることによって生じた不純物、パッド屑等が付着するが、これらの不純物の付着は、不純物表面と研磨対象物表面とに帯電した電荷や、疎水性相互作用によって起こると考えられる。本形態の研磨用組成物(B)に含まれる有機化合物(B)は、フッ素原子、酸素原子、窒素原子、及び塩素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含むことを特徴としているが、これらの電気陰性度が高い原子が存在することにより分子内で分極が起こり、一部が親水性となっている。また分子量が100以上であるので、疎水性部分も有することとなる。そのため、研磨用組成物(B)を用いて研磨を行うことにより、有機化合物(B)が不純物と置換されたり、疎水性相互作用により不純物の周囲を取り囲んで浮かび上がらせたりすることにより、研磨対象物表面から不純物が除去されやすくなる。また、有機化合物(B)は、上述のように分子の一部が親水性となっているため、研磨対象物表面の濡れ性が向上するとともに、その後、水などで洗浄されることにより、有機化合物(B)自身は容易に除去されうる。以下、本形態の研磨用組成物(B)の各構成成分について詳細に説明する。
【0017】
[有機化合物(B)]
有機化合物(B)は、CMPにより研磨対象物の表面に残留する不純物を、後の洗浄工程において除去しやすくする機能を有する。有機化合物(B)は、フッ素原子、酸素原子、窒素原子、及び塩素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含むことを特徴とする。有機化合物(B)は、このような電気陰性度が高い原子を有することにより、分子内で分極が起こり、一部が親水性を有し得る。その結果、不純物が除去されやすくなる共に、研磨対象物表面の濡れ性を向上させることができる。なかでも、より分極が起こりやすくなるという観点から、有機化合物(B)は、フッ素原子、酸素原子、窒素原子を有することが好ましい。
【0018】
また、有機化合物(B)に含まれる官能基(酸素原子または窒素原子を含む官能基)も、特に制限されないが、ヒドロキシ基、アミノ基等が挙げられる。なかでも、濡れ性向上の観点から、有機化合物(B)は、ヒドロキシ基を有することが好ましい。さらにヒドロキシ基を有する場合、有機化合物(B)は、1分子中にヒドロキシ基を3つ以上有することが好ましい。また、再付着防止の観点から、有機化合物(B)は、アミノ基を1つ以上有することが好ましい。さらにアミノ基を有する場合、有機化合物(B)は環状アミン構造を有していてもよい。
【0019】
有機化合物(B)の具体例としては、ヒドロキシ基を有する有機化合物として、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリグリセリン、ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテル等が挙げられる。アミノ基を有する有機化合物として、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミドエーテル等が挙げられる。環状アミン構造を有する有機化合物としては、ポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。フッ素原子を有する有機化合物としてはフッ素化アルキル置換グリコール、部分フッ素化アルコール置換グリコール等が挙げられる。塩素原子を有する化合物としては塩化アルキル置換グリコール、部分塩化アルコール置換グリコール等が挙げられる。
【0020】
上記有機化合物(B)は、公知方法により合成したものであってもよいし、市販品を用いても構わない。なかでも、不純物の除去効果や、入手のしやすさ等の観点から、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレン(6)ポリグリセリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリン酸アミドエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミン、部分フッ素化アルコール置換グリコール等であることが好ましい。なお、上記有機化合物(B)は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0021】
有機化合物(B)の分子量(重量平均分子量)は、必須に100以上であり、好ましくは100〜100000であり、より好ましくは300〜80000であり、さらに好ましくは500〜50000である。分子量(重量平均分子量)が100未満であると、疎水性部分を有することができず、十分な不純物除去効果が発揮されないことから、分子量が100以上であることが必須の条件となる。一方、分子量(重量平均分子量)が100000以下であると、水に分散できる。なお、本明細書において、重量平均分子量は、GPC−MALS法により測定された値を採用するものとする。なお、比較的低分子量の水溶性ポリマーの場合には、NMR法により重量平均分子量を測定してもよい。
【0022】
有機化合物(B)の含有量は、特に制限されないが、研磨用組成物の総量に対し、好ましくは0.0001〜1質量%であり、より好ましくは0.0005〜0.8質量%であり、さらに好ましくは、0.001〜0.5質量%である。有機化合物(B)の含有量が0.0001質量%以上であると、研磨対象物表面の不純物(特に有機物)を十分に除去することができる。一方、含有量が1質量%以下であると、研磨(B)後に研磨対象物表面に有機化合物(B)が残留してしまうのを抑制することができる。
【0023】
[pH調整剤]
本形態の研磨用組成物は、pH調整剤を必須に含み、これにより研磨用組成物が所望の範囲に調整されうる。なお、研磨用組成物のpHは、特に制限されないが、好ましくは1〜13であり、より好ましくは1.5〜12.5であり、さらに好ましくは2〜12である。pHが2以上であると、取扱いが容易になる。一方、pHが12以下であると、砥粒が含まれる際に、砥粒の溶解を抑制することができる。
【0024】
pH調整剤としては、当該技術分野でpH調整剤として使用される酸またはアルカリを適宜採用することができる。なお、酸またはアルカリは、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。
【0025】
酸としては、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸等の有機酸等が挙げられる。アルカリとしては、例えば、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア水、エチレンジアミンおよびピペラジンなどのアミン、ならびにテトラメチルアンモニウムおよびテトラエチルアンモニウムなどの第4級アンモニウム塩が挙げられる。なお、これらの酸またはアルカリは、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0026】
研磨用組成物における酸またはアルカリの含有量は、研磨用組成物が上記pHの範囲となるような量であれば、特に制限されない。
【0027】
[分散媒または溶媒]
本形態の研磨用組成物は、各成分を分散または溶解するための分散媒または溶媒として水を含むことが好ましい。より好ましくは、溶媒が水である。他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。
【0028】
[砥粒]
本形態の研磨用組成物は、必要に応じて、砥粒をさらに含んでもよい。ただ本発明の効果を得るためには有機化合物(B)以外の分子量が100以上である有機物の濃度は低濃度であることが好ましく、実質的には含まないことが好ましい。
【0029】
特に、本形態の研磨用組成物は、砥粒を実質的に含まないものであることが好ましい。なお、当該砥粒は、後述の研磨用組成物(A)に含まれる砥粒と同様であり、研磨用組成物(A)において詳細に説明する。具体的には、砥粒の含有量が、研磨用組成物の総量に対し、必須に1質量%以下であり、好ましくは0.8質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下である。砥粒の含有量が1質量%を超えると、後の洗浄工程によっても研磨対象物表面に砥粒が残留する可能性がある。
【0030】
本形態の研磨用組成物(B)の製造方法は、特に制限されず、上記の各成分を、水中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10〜40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0031】
[研磨用組成物(A)]
研磨用組成物(A)は、砥粒または有機化合物(A)の少なくとも一方を含有する。
【0032】
砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させる。
【0033】
砥粒は、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。なかでも、入手が容易であること、またコストの観点から、シリカが好ましく、コロイダルシリカがより好ましい。なお、これらの砥粒は1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。また、砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0034】
砥粒は表面修飾されていてもよい。通常のコロイダルシリカは、酸性条件下でゼータ電位の値がゼロに近いために、酸性条件下ではシリカ粒子同士が互いに電気的に反発せず凝集を起こしやすい。これに対し、酸性条件でもゼータ電位が比較的大きな負の値を有するように表面修飾された砥粒は、酸性条件下においても互いに強く反発して良好に分散する結果、研磨用組成物の保存安定性を向上させることになる。このような表面修飾砥粒は、例えば、アルミニウム、チタンまたはジルコニウムなどの金属あるいはそれらの酸化物を砥粒と混合して砥粒の表面にドープさせることにより得ることができる。
【0035】
なかでも、特に好ましいのは、表面に有機酸を固定化したコロイダルシリカ(有機酸修飾されたコロイダルシリカ)である。研磨用組成物中に含まれるコロイダルシリカの表面への有機酸の固定化は、例えばコロイダルシリカの表面に有機酸の官能基が化学的に結合することにより行われている。コロイダルシリカと有機酸を単に共存させただけではコロイダルシリカへの有機酸の固定化は果たされない。例えば、有機酸の一種であるスルホン酸を固定化したコロイダルシリカ(スルホン酸修飾されたコロイダルシリカ)は、“Sulfonic acid−functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246−247 (2003)に記載の方法で調製することができる。具体的には、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2−Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228−229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2−ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0036】
砥粒の平均一次粒子径の下限は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。また、砥粒の平均一次粒子径の上限は、500nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、70nm以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度は向上し、また、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にディッシングが生じるのをより抑えることができる。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0037】
研磨用組成物(A)が砥粒を含む場合における、砥粒の含有量の下限は、0.005質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましく、3質量%以上であることが最も好ましい。また、砥粒の含有量の上限は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物の研磨速度が向上し、また、研磨用組成物(A)のコストを抑えることができ、研磨用組成物(A)を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にディッシングが生じるのをより抑えることができる。
【0038】
有機化合物(A)は、特に限定されないが、研磨レートやエッチングレートを抑制するために添加される剤などが挙げられ、具体的には、金属に対する金属防食剤、シリコン含有材料に対する2価アルコール等が挙げられる。
【0039】
金属防食剤は、特に制限されないが、好ましくは複素環化合物または界面活性剤である。複素環化合物中の複素環の員数は特に限定されない。また、複素環化合物は、単環化合物であってもよいし、縮合環を有する多環化合物であってもよい。
【0040】
金属防食剤として使用可能な複素環化合物としては、例えば、ピロール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、ピリジン化合物、ピラジン化合物、ピリダジン化合物、ピリンジン化合物、インドリジン化合物、インドール化合物、イソインドール化合物、インダゾール化合物、プリン化合物、キノリジン化合物、キノリン化合物、イソキノリン化合物、ナフチリジン化合物、フタラジン化合物、キノキサリン化合物、キナゾリン化合物、シンノリン化合物、ブテリジン化合物、チアゾール化合物、イソチアゾール化合物、オキサゾール化合物、イソオキサゾール化合物、フラザン化合物等の含窒素複素環化合物が挙げられる。
【0041】
さらに具体的な例を挙げると、ピラゾール化合物の例としては、例えば、1H−ピラゾール、4−ニトロ−3−ピラゾールカルボン酸、3,5−ピラゾールカルボン酸、3−アミノ−5−フェニルピラゾール、5−アミノ−3−フェニルピラゾール、3,4,5−トリブロモピラゾール、3−アミノピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3,5−ジメチル−1−ヒドロキシメチルピラゾール、3−メチルピラゾール、1−メチルピラゾール、3−アミノ−5−メチルピラゾール、4−アミノ−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン、アロプリノール、4−クロロ−1H−ピラゾロ[3,4−D]ピリミジン、3,4−ジヒドロキシ−6−メチルピラゾロ(3,4−B)−ピリジン、6−メチル−1H−ピラゾロ[3,4−b]ピリジン−3−アミン等が挙げられる。
【0042】
イミダゾール化合物の例としては、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルピラゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、5,6−ジメチルベンゾイミダゾール、2−アミノベンゾイミダゾール、2−クロロベンゾイミダゾール、2−メチルベンゾイミダゾール、2−(1−ヒドロキシエチル)ベンズイミダゾール、2−ヒドロキシベンズイミダゾール、2−フェニルベンズイミダゾール、2,5−ジメチルベンズイミダゾール、5−メチルベンゾイミダゾール、5−ニトロベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0043】
トリアゾール化合物の例としては、例えば、1,2,3−トリアゾール(1H−BTA)、1,2,4−トリアゾール、1−メチル−1,2,4−トリアゾール、メチル−1H−1,2,4−トリアゾール−3−カルボキシレート、1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸、1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸メチル、1H−1,2,4−トリアゾール−3−チオール、3,5−ジアミノ−1H−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール−5−チオール、3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−ベンジル−4H−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メチル−4H−1,2,4−トリアゾール、3−ニトロ−1,2,4−トリアゾール、3−ブロモ−5−ニトロ−1,2,4−トリアゾール、4−(1,2,4−トリアゾール−1−イル)フェノール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−3,5−ジプロピル−4H−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−3,5−ジメチル−4H−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−3,5−ジペプチル−4H−1,2,4−トリアゾール、5−メチル−1,2,4−トリアゾール−3,4−ジアミン、1H−ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、1−アミノベンゾトリアゾール、1−カルボキシベンゾトリアゾール、5−クロロ−1H−ベンゾトリアゾール、5−ニトロ−1H−ベンゾトリアゾール、5−カルボキシ−1H−ベンゾトリアゾール、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール、5,6−ジメチル−1H−ベンゾトリアゾール、1−(1’,2’−ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]−5−メチルベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]−4−メチルベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0044】
テトラゾール化合物の例としては、例えば、1H−テトラゾール、5−メチルテトラゾール、5−アミノテトラゾール、および5−フェニルテトラゾール等が挙げられる。
【0045】
インダゾール化合物の例としては、例えば、1H−インダゾール、5−アミノ−1H−インダゾール、5−ニトロ−1H−インダゾール、5−ヒドロキシ−1H−インダゾール、6−アミノ−1H−インダゾール、6−ニトロ−1H−インダゾール、6−ヒドロキシ−1H−インダゾール、3−カルボキシ−5−メチル−1H−インダゾール等が挙げられる。
【0046】
インドール化合物の例としては、例えば1H−インドール、1−メチル−1H−インドール、2−メチル−1H−インドール、3−メチル−1H−インドール、4−メチル−1H−インドール、5−メチル−1H−インドール、6−メチル−1H−インドール、7−メチル−1H−インドール、4−アミノ−1H−インドール、5−アミノ−1H−インドール、6−アミノ−1H−インドール、7−アミノ−1H−インドール、4−ヒドロキシ−1H−インドール、5−ヒドロキシ−1H−インドール、6−ヒドロキシ−1H−インドール、7−ヒドロキシ−1H−インドール、4−メトキシ−1H−インドール、5−メトキシ−1H−インドール、6−メトキシ−1H−インドール、7−メトキシ−1H−インドール、4−クロロ−1H−インドール、5−クロロ−1H−インドール、6−クロロ−1H−インドール、7−クロロ−1H−インドール、4−カルボキシ−1H−インドール、5−カルボキシ−1H−インドール、6−カルボキシ−1H−インドール、7−カルボキシ−1H−インドール、4−ニトロ−1H−インドール、5−ニトロ−1H−インドール、6−ニトロ−1H−インドール、7−ニトロ−1H−インドール、4−ニトリル−1H−インドール、5−ニトリル−1H−インドール、6−ニトリル−1H−インドール、7−ニトリル−1H−インドール、2,5−ジメチル−1H−インドール、1,2−ジメチル−1H−インドール、1,3−ジメチル−1H−インドール、2,3−ジメチル−1H−インドール、5−アミノ−2,3−ジメチル−1H−インドール、7−エチル−1H−インドール、5−(アミノメチル)インドール、2−メチル−5−アミノ−1H−インドール、3−ヒドロキシメチル−1H−インドール、6−イソプロピル−1H−インドール、5−クロロ−2−メチル−1H−インドール等が挙げられる。
【0047】
これらの複素環化合物の中でもトリアゾール化合物が好ましいは、特に、1H−ベンゾトリアゾール、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール、5,6−ジメチル−1H−ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]−5−メチルベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]−4−メチルベンゾトリアゾール、1,2,3−トリアゾール、および1,2,4−トリアゾールが好ましい。これらの複素環化合物は、研磨対象物表面への化学的または物理的吸着力が高いため、研磨対象物表面により強固な保護膜を形成することができる。このことは、本発明の研磨用組成物(B)を用いて研磨した後の、研磨対象物の表面の平滑性を向上させる上で有利である。なお、金属防食剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、金属防食剤は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0048】
また、金属防食剤として使用される界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0049】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、アルキルエーテル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、およびこれらの塩等が挙げられる。
【0050】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルアミン塩等が挙げられる。
【0051】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0052】
非イオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびアルキルアルカノールアミドが挙げられる。中でもポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。
【0053】
これらの中でも好ましい界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、およびアルキルベンゼンスルホン酸塩である。これらの界面活性剤は、研磨対象物表面への化学的または物理的吸着力が高いため、研磨対象物表面により強固な保護膜を形成することができる。このことは、本発明の研磨用組成物(B)を用いて研磨した後の、研磨対象物の表面の平滑性を向上させる上で有利である。
【0054】
研磨用組成物(A)中の金属防食剤の含有量の下限は、0.001g/Lであることが好ましく、0.005g/Lであることがより好ましく、0.01g/Lであることがさらに好ましい。また、研磨用組成物(A)中の金属防食剤の含有量の上限は、10g/Lであることが好ましく、5g/Lであることがより好ましく、2g/Lであることがさらに好ましい。このような範囲であれば、金属の溶解を防ぎ研磨対象物表面の面荒れ等の表面状態の悪化を抑えることができる。
【0055】
2価アルコールとしては、例えば、メタンジオール、エチレングリコール(1,2−エタンジオール)、1,2−プロパンジオール、プロピレングリコール(1,3−プロパンジオール)、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,2−デカンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ジメチルペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオ−ル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ジメチロールオクタン、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘプタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、水添カテコール、水添レゾルシン、水添ハイドロキノン、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0056】
これらの中でも、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコールが好ましい。
【0057】
2価アルコールの分子量は、20000未満であることが好ましい。分子量が2万以上の場合、分散媒に均一に分散しづらくなり、固体として析出する等の影響でスラリーとしての扱いが困難になる場合がある。また、例えば、2価アルコールとしてポリエチレングリコール等の重合体を用いる場合は、分子量は重量平均分子量を用い、その重量平均分子量は、20000未満であることが好ましく、10000以下であることがより好ましく、5000以下であることがさらに好ましい。このような重量平均分子量の範囲であれば、溶媒に均一に分散し、多結晶シリコンやTEOS(Tetra Ethyl Ortho Silicate)等の研磨対象物とは異なる材料を含む層の研磨速度を抑制するという利点を充分に発揮することができる。なお、本明細書において上記の重合体の重量平均分子量は、クロマトグラフィー法(GPC法)より測定された値を採用する。
【0058】
研磨用組成物(A)中の2価アルコールの含有量は0.0001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.0005質量%以上、さらに好ましくは0.001質量%以上である。2価アルコールの含有量が多くなるにつれて、多結晶シリコンやTEOS等の研磨対象物とは異なる材料を含む層の研磨速度をより抑制する利点がある。また、研磨用組成物(A)中の前記2価アルコールの含有量は10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。前記2価アルコールの含有量が少なくなるにつれて、砥粒の凝集を回避できる利点がある。
【0059】
研磨用組成物(A)において、各成分を分散または溶解するための分散媒または溶媒は、上述の研磨用組成物(B)における分散媒または溶媒同様のものを使用することができるため、ここでは説明を省略する。また、必要に応じて、研磨用組成物(B)と同様のpH調整剤を使用し、pH調整してもよい。
【0060】
なお、本形態において、研磨用組成物(A)の製造方法および研磨(A)の方法は特に制限されず、本技術分野におけるCMP等の技術を適宜採用することができる。
【0061】
<研磨方法および基板の製造方法>
本発明の他の一形態によると、研磨対象物を上記研磨用組成物(B)を使用して研磨する、研磨方法が提供される。また、さらに他の一形態によると、研磨対象物を、当該研磨方法で研磨する工程を含む基板の製造方法が提供される。以下、本形態の研磨方法および基板の製造方法について説明する。なお、本形態における研磨対象物は、上述の研磨用組成物(A)を用いた研磨(A)を経た研磨対象物であり、好ましくは研磨(A)後、洗浄工程前の研磨対象物である。
【0062】
[研磨工程]
本形態における研磨対象物は、特に制限されないが、金属や、IV族材料、ケイ素材料を含む基板などであることが好ましい。当該研磨対象物を研磨して基板が製造されうる。金属としては、例えば、Cu、W、Al、Ta、TiNなどが挙げられる。IV族材料の例としては、Ge(ゲルマニウム)、SiGe(シリコンゲルマニウム)等が挙げられる。また、ケイ素材料の例としては、シリコン、ポリシリコン、酸化シリコン、窒化シリコン等が挙げられる。
【0063】
なかでも、本発明の効果をより有効に得られるという観点から、研磨対象物は、疎水性物質であることが好ましい。本明細書において、疎水性物質とは、研磨前に協和界面科学株式会社製のウェハ洗浄処理評価装置CA−X200を用いて水滴を物質の表面に滴下し、写真をとり、θ/2法を用いて「接触角」を求めた時に、「接触角」が40°を超える物質のことをいう。疎水性物質としては、例えば、酸化物以外の物質が挙げられ、Cu、W、Al、Ta、TiN等の金属やポリシリコン、窒化シリコン等のケイ素材料が挙げられる。なかでも、有機物や砥粒の残留をより厳しく低減する必要があるという観点からシリコン、ポリシリコン、窒化シリコンであることが好ましい。
【0064】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0065】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0066】
本形態においては、研磨パッドは、ソフトパッドであることが好ましく、具体的には、パッド硬度が60以下、好ましくは50以下であることが好ましい。このようなソフトパッドを用いることにより研磨による傷(スクラッチ)を低減することができる。なお、本明細書において、パッド硬度とは、研磨パッドのショアD硬度を意味する。
【0067】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数、ヘッド回転数は、10〜500rpmが好ましく、研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5〜10psiが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましく、10〜10000ml/分程度であることが好ましい。研磨時間も特に制限されないが、研磨用組成物(B)を用いる工程については5〜60秒間であることが好ましい。このような範囲であれば、十分に不純物を除去することが可能である。
【0068】
[洗浄工程]
本形態においては、研磨終了後、研磨対象物の表面を洗浄する洗浄工程を設けることが好ましい。洗浄工程とは水や特殊な洗浄液をウェハにかけながら、同時にPVAスポンジ等のブラシで圧力をかけながらこする工程である。また、洗浄後の研磨対象物は、スピンドライヤ等により表面に付着した水滴を払い落として乾燥させることが好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例のみに制限されない。
【0070】
[実施例1]
<研磨用組成物(A)を使用した研磨(CMP)>
研磨用組成物(A)として、研磨用組成物A1(組成;スルホン酸修飾されたコロイダルシリカ(“Sulfonic acid−functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246−247 (2003)に記載の方法で作成、一次粒子径30nm、二次粒子径60nm、以下同様)6質量%、ポリエチレングリコール(分子量400)0.02質量%、溶媒:水、60%硝酸でpH=2に調整)を使用し、下記の条件で研磨を行った。
研磨対象物:200mmポリシリコンウェハ
研磨装置:200mmウェハ用片面研磨装置
研磨パッド:発砲ポリウレタン製パット(硬度90)
研磨圧力:2.3psi(1psi=6894.76Pa、以下同様)
研磨定盤回転数:93rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:100ml/分
ヘッド回転数:87rpm
研磨時間:60秒間。
【0071】
<研磨用組成物(B)を用いた研磨>
上記研磨用組成物(A)を使用した研磨(CMP)の後のポリシリコンについて、研磨用組成物(B)として、研磨用組成物B1(組成;ポリビニルアルコール(分子量10000)0.1質量%、溶媒;水、クエン酸でpH=4に調整)を使用し、下記の条件で研磨を行った。
研磨装置:200mmウェハ用片面研磨装置
研磨パッド:発砲ポリウレタン製パット(硬度90)
研磨圧力:1.5psi
研磨定盤回転数:88rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
スラリー供給量:100ml/分
ヘッド回転数:85rpm
研磨時間:10秒間。
【0072】
<洗浄>
60秒間、水をウェハにかけながら、PVAスポンジで圧力をかけながらこすった。
【0073】
[実施例2]
上記<研磨用組成物(B)を用いた研磨>において、研磨時間を15秒間としたこと以外は、実施例1と同様の方法で研磨および洗浄を行った。
【0074】
[比較例1]
上記<研磨用組成物(B)を用いた研磨>を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で研磨および洗浄を行った。
【0075】
[実施例3]
<研磨用組成物(A)を使用した研磨(CMP)>
研磨用組成物(A)として、研磨用組成物A2(組成;コロイダルシリカ(一次粒子径90nm、二次粒子径175nm)3質量%、ジポリオキシエチレン(6)ラウリルエーテルリン酸0.07質量%、溶媒:水、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)でpH=11に調整)を使用し、下記の条件で研磨を行った。
研磨対象物:300mmポリシリコン
研磨装置:300mmウェハ用片面研磨装置
研磨パッド:発砲ポリウレタン製パット(硬度90)
研磨圧力:2.0psi
研磨定盤回転数:63rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:300ml/分
ヘッド回転数:57rpm
研磨時間:60秒間。
【0076】
<研磨用組成物(B)を用いた研磨>
上記研磨用組成物(A)を使用した研磨(CMP)の後のポリシリコンについて、研磨用組成物(B)として、研磨用組成物B2(組成;ヒドロキシエチルセルロース(分子量1300000)0.03質量%、溶媒;水、アンモニア水でpH=10に調整)を使用し、下記の条件で研磨を行った。
研磨装置:300mmウェハ用片面研磨装置
研磨パッド:スエードタイプ研磨パッド(硬度10)
研磨圧力:1.5psi
研磨定盤回転数:88rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
スラリー供給量:300ml/分
ヘッド回転数:85rpm
研磨時間:30秒間。
【0077】
[実施例4]
上記<研磨用組成物(B)を用いた研磨>において、研磨パッドとして、スエードタイプ研磨パッド(硬度42)を使用したこと以外は、実施例3と同様の方法で研磨および洗浄を行った。
【0078】
[実施例5]
<研磨用組成物(A)を使用した研磨(CMP)>
研磨用組成物(A)として、研磨用組成物A3(組成;31%過酸化水素水1.0質量%、上記スルホン酸修飾されたコロイダルシリカ1.2質量%、ポリエチレングリコール(分子量400)0.0005質量%、溶媒:水、クエン酸でpH=2に調整)を使用し、下記の条件で研磨を行った。
研磨対象物:300mmTiNウェハ、300mmSiウェハ
研磨装置:300mmウェハ用片面研磨装置
研磨パッド:発砲ポリウレタン製パット(硬度90)
研磨圧力:1.5psi
研磨定盤回転数:93rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200ml/分
ヘッド回転数:87rpm
研磨時間:60秒間。
【0079】
<研磨用組成物(B)を用いた研磨>
上記研磨用組成物(A)を使用した研磨(CMP)の後のTiNウェハ、Siウェハについて、研磨用組成物(B)として、上記研磨用組成物B2を使用し、下記の条件で研磨を行った。
研磨装置:300mmウェハ用片面研磨装置
研磨パッド:スエードタイプ研磨パッド(硬度42)
研磨圧力:1.5psi
研磨定盤回転数:88rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
スラリー供給量:300ml/分
ヘッド回転数:85rpm
研磨時間:20秒間。
【0080】
[実施例6]
上記<研磨用組成物(B)を用いた研磨>において、研磨用組成物(B)として、研磨用組成物B3(組成;ポリビニルアルコール(分子量10000)0.1質量%、溶媒:水、29%アンモニア水でpH=10に調整)を使用したこと以外は、実施例5と同様の方法で研磨および洗浄を行った。
【0081】
[実施例7]
上記<研磨用組成物(B)を用いた研磨>において、研磨用組成物(B)として、研磨用組成物B4(組成;ポリビニルピロリドン(分子量40000)0.6質量%、溶媒:水、29%アンモニア水でpH=10に調整)を使用したこと以外は、実施例5と同様の方法で研磨および洗浄を行った。
【0082】
[比較例2]
上記<研磨用組成物(B)を用いた研磨>を行わなかったこと以外は、実施例5と同様の方法で研磨および洗浄を行った。
【0083】
[実施例8]
<研磨用組成物(A)を使用した研磨(CMP)>
研磨用組成物(A)として、研磨用組成物A4(組成;コロイダルシリカ(一次粒子径30nm、二次粒子径60nm)5質量%、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)でpH=11に調整、溶媒:水)を使用し、下記の条件で研磨を行った。
研磨対象物:ポリシリコンウェハ
研磨装置:300mmウェハ用片面研磨装置
研磨パッド:発砲ポリウレタン製パット(硬度90)
研磨圧力:1.8psi
研磨定盤回転数:97rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200ml/分
ヘッド回転数:103rpm
研磨時間:60秒間。
【0084】
<研磨用組成物(B)を用いた研磨>
上記研磨用組成物(A)を使用した研磨(CMP)の後のポリシリコンについて、研磨用組成物(B)として、研磨用組成物B5(組成;ポリオキシエチレン(6)ポリグリセリルエーテル(分子量450)0.1質量%、溶媒:水、水酸化カリウムでpH=10に調整)を使用し、下記の条件で研磨を行った。
研磨装置:300mmウェハ用片面研磨装置
研磨パッド:発砲ポリウレタン製パット(硬度90)
研磨圧力:1.5psi
研磨定盤回転数:88rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
スラリー供給量:200ml/分
ヘッド回転数:85rpm
研磨時間:15秒間。
【0085】
[実施例9]
上記<研磨用組成物(B)を用いた研磨>において、研磨用組成物(B)として、研磨用組成物B6(ポリオキシエチレン(6)ラウリン酸アミドエーテル0.1質量%、溶媒:水、水酸化カリウムでpH=10に調整)を使用したこと以外は、実施例8と同様の方法で研磨および洗浄を行った。
【0086】
[実施例10]
上記<研磨用組成物(B)を用いた研磨>において、研磨用組成物(B)として、研磨用組成物B7(ポリオキシエチレン(6)ステアリルアミン0.1質量%、溶媒:水、水酸化カリウムでpH=10に調整)を使用したこと以外は、実施例8と同様の方法で研磨および洗浄を行った。
【0087】
[実施例11]
上記<研磨用組成物(B)を用いた研磨>において、研磨用組成物(B)として、研磨用組成物B8(部分フッ素化アルコール置換グリコール(F(CF−(CH−CHO)―H)0.1質量%、溶媒:水、水酸化カリウムでpH=10に調整)を使用したこと以外は、実施例8と同様の方法で研磨および洗浄を行った。
【0088】
[比較例3]
上記<研磨用組成物(B)を用いた研磨>を行わなかったこと以外は、実施例8と同様の方法で研磨および洗浄を行った。
【0089】
<評価方法>
(研磨対象物表面のディフェクト数)
ウェハ表面検査装置(SP−1、KLA−Tencor社製)を使用し、0.13μm以上のサイズのディフェクトを測定評価した。
【0090】
(研磨対象物表面の濡れ性)
θ/2法を用いて水接触角の測定を行った。なお、測定には、協和界面科学株式会社製のウェハ洗浄処理評価装置CA−X200を用いた。
【0091】
結果を表1〜4に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
表1〜4に示すように、本発明の研磨用組成物(B)を用いることにより、研磨対象物表面の濡れ性が向上し、不純物(ディフェクト)が十分に除去されたことが示された。