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  • 特開2015192641-タンパク質の製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-192641(P2015-192641A)
(43)【公開日】2015年11月5日
(54)【発明の名称】タンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 1/04 20060101AFI20151009BHJP
【FI】
   A23J1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-73336(P2014-73336)
(22)【出願日】2014年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 健志
(72)【発明者】
【氏名】武田 浩郁
(57)【要約】
【課題】工業的に有利に、魚肉からタンパク質を製造する方法を提供する。
【解決手段】魚肉からタンパク質を製造する方法であって、(1)魚肉を冷凍する工程、(2)前記工程(1)で得られた冷凍魚肉又はその解凍物を粉砕する工程、(3)前記工程(2)で得られた粉砕魚肉を加温する工程、及び(4)前記工程(3)で得られた加温魚肉を乾燥し、粉末状のタンパク質を得る工程、を有することを特徴とする製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉からタンパク質を製造する方法であって、
(1)魚肉を冷凍する工程、
(2)前記工程(1)で得られた冷凍魚肉又はその解凍物を粉砕する工程、
(3)前記工程(2)で得られた粉砕魚肉を加温する工程、及び
(4)前記工程(3)で得られた加温魚肉を乾燥し、粉末状のタンパク質を得る工程、
を有することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)において、-40℃を超え、0℃以下の温度範囲で、2週間以上の期間で、魚肉を保持することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(3)における加温が、70〜100℃の温度範囲で、前記工程(1)で得られた冷凍魚肉を加温することを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程(4)における乾燥が、加熱乾燥である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
すりみの主成分は筋原繊維タンパク質である。このため魚肉からすりみの製造は、魚肉からタンパク質を製造していることにもなる。すりみは、魚から頭、内臓、骨、皮等を取り除き、残った身の部分を洗いながらよく水にさらし、細かくすりつぶしたものである。具体的には、(1)原料とする魚から頭と内臓を取り外し、採肉機にかけてミンチ状にする工程、(2)ミンチ状にした魚肉を水洗い処理する工程、(3)水洗い処理した魚肉から皮、スジ、骨を取り除く工程、(4)取り除いた魚肉を脱水する工程、(5)脱水した魚肉に冷凍変性防止剤の糖やリン酸塩を添加して混ぜる工程、(6)冷凍する工程を含む。かくして製造されるすりみは、これに塩を添加して加熱するとゲル化するという特性を有する。
【0003】
従来、すりみの製造技術では、魚肉に、食塩、冷凍変性防止剤(糖やリン酸塩)等を添加することが必要である(特許文献1)。そのため、低塩食品や健康食品としては相応しくない。また、冷凍すりみを粉末化する際には、凍結乾燥が採用されており、工程が煩雑であり、工業的に生産する上で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-273590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、工業的に有利に、魚肉からタンパク質を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記課題を解決すべく検討した結果、魚肉からタンパク質を製造する方法において、魚肉を冷凍する工程と、冷凍魚肉又はその解凍後の魚肉を粉砕する工程と、粉砕魚肉を加温する工程と、加温魚肉を乾燥する工程とを組み合わせることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、以下の通りである。
【0007】
項1. 魚肉からタンパク質を製造する方法であって、
(1)魚肉を冷凍する工程、
(2)前記工程(1)で得られた冷凍魚肉又はその解凍物を粉砕する工程、
(3)前記工程(2)で得られた粉砕魚肉を加温する工程、及び
(4)前記工程(3)で得られた加温魚肉を乾燥し、粉末状のタンパク質を得る工程、
を有することを特徴とする製造方法。
【0008】
項2. 前記工程(1)において、-40℃を超え、0℃以下の温度範囲で、2週間以上の期間で、魚肉を保持することを特徴とする、前記項1に記載の製造方法。
【0009】
項3. 前記工程(3)における加温が、70〜100℃の温度範囲で、前記工程(1)で得られた冷凍魚肉を加温することを特徴とする、前記項1又は2に記載の製造方法。
【0010】
項4. 前記工程(4)における乾燥が、加熱乾燥である、前記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、工業的に有利に、魚肉からタンパク質を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の製造方法の一態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の魚肉からタンパク質を製造する方法について詳細に説明する。
【0014】
本発明の魚肉からタンパク質を製造する方法は、
(1)魚肉を冷凍する工程、
(2)前記工程(1)で得られた冷凍魚肉又はその解凍物を粉砕する工程、
(3)前記工程(2)で得られた粉砕魚肉を加温する工程、及び
(4)前記工程(3)で得られた加温魚肉を乾燥し、粉末状のタンパク質を得る工程、
を有することを特徴とする。
【0015】
斯くして、本発明の製造方法によれば、工業的に有利に、魚肉からタンパク質を製造することができる。
【0016】
従来、すりみを製造する方法として、一般的なすりみの製造工程を利用し、添加物を添加せずに、裏漉しされた水晒し魚肉を使用することが知られていた。しかしながら、既存のすりみの製造方法では、魚肉に含まれるタンパク質同士が結合し、ゲル化するため、細かく粉砕することできないという理由から、加熱等を利用して粉末化することが出来なかった。
【0017】
本発明は、魚肉を冷凍する工程と、冷凍魚肉又はその解凍後の魚肉を粉砕する工程と、粉砕魚肉を加温する工程と、加温魚肉を乾燥する工程とを組み合わせることにより、魚肉からタンパク質を製造する方法であり、従来の食塩、冷凍変性防止剤(糖やリン酸塩)等を添加することによりすりみを製造する方法とは異なる。また、本発明は、魚肉タンパク質を粉末化することが可能である。つまり、本発明は、従来のすりみを製造する方法とは異なる、全く新しい魚肉からタンパク質を製造する方法である。
【0018】
以下、本発明の各工程を、図1を参照しながら説明する。但し、図1は本発明の製造方法の一態様を示すものであり、本発明はこれに限定されない。
【0019】
図1の工程(1)は、魚肉を冷凍する工程である。工程(1)において、-40℃を超え、0℃以下の温度範囲で、2週間以上の期間で、魚肉を保持することが好ましい。工程(1)の前に、採肉、細肉(ミンチ)、水晒し、脱水及び裏漉しの工程があっても良い。
【0020】
図1の工程(2)は、工程(1)で得られた冷凍魚肉又はその解凍物を粉砕する工程である。工程(2)の前に、冷凍魚肉を解凍する工程があっても良い。
【0021】
図1の工程(3)は、前記工程(2)で得られた粉砕魚肉を加温する工程である。工程(3)における加温は、70〜100℃の温度範囲で、粉砕魚肉を加温することが好ましい。工程(2)の後に、賦形剤投入、スプレッターの工程があっても良い。
【0022】
図1の工程(4)は、工程(3)で得られた加温魚肉を乾燥し、粉末状のタンパク質を得る工程である。工程(4)における乾燥は、加熱乾燥であることが好ましい。この乾燥により、魚肉から粉末状のタンパク質を製造することができる。
【0023】
(1)魚肉を冷凍する工程
本発明の製造方法は、工程(1)として、魚肉を冷凍する工程を有する。魚肉を冷凍することにより、魚肉を凍結させることが可能である。
【0024】
魚類を冷凍して凍結させる技術は、急速冷凍と緩慢冷凍とに大別される。
【0025】
急速冷凍は、緩慢冷凍と比べて、魚肉細胞の破壊を抑制できる点で有利である。急速凍結する方法には、液体窒素を噴霧する方法(液化ガス凍結法)、低温の空気を吹き付ける空気凍結法、金属板接触凍結法、塩類溶媒を冷却冷媒とするブライン凍結法等がある。これらの方法は、冷却媒体となる空気、金属板、ブライン(塩類溶液)を冷却し、その冷却媒体に肉片を接触させて凍結させる。空気凍結法は、-60〜-50℃といった非常に低い温度の空気を必要とする。ブライン凍結法は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の水溶液を冷やし、その水溶液に浸漬したり、或いは前記水溶液を噴霧したりして肉片を凍結させる方法である。ブラインのように液体による凍結の場合には熱伝達率が大きいため、空気凍結法に比べて高い温度、例えば-30℃程度の温度にて急速に凍結させることができる。金属接触凍結法は、中空の金属板の内部に冷媒を介在させ、その金属板に冷凍対象を接触させて凍結させる方法である。
【0026】
緩慢冷凍では、通常の家庭用の冷凍冷蔵庫を使用して、魚類を冷凍して凍結させることができる。
【0027】
工程(1)の魚肉を冷凍保持する温度は、-40℃程度を超え、0℃程度以下の温度範囲であることが好ましい。この温度範囲で冷凍保持することにより、加温工程後に、良好に粉末化できる水分量を含む魚肉タンパク質を製造することが可能になる。また、魚肉タンパク質を加温した後に、乾燥して粉末化する場合に、粒度の小さい粉末に製造することが可能になる。魚肉を冷凍保持する温度は、-38〜-10℃程度がより好ましく、-35〜-10℃程度が更に好ましく、-35℃程度が特に好ましい。
【0028】
工程(1)の魚肉を冷凍保持する期間は、通常1週間程度以上、好ましくは2週間程度以上である。この期間中、冷凍保持することにより、加温工程後に、良好に粉末化できる水分量を含む魚肉タンパク質を製造することが可能になる。また、魚肉タンパク質を加温した後に、乾燥させて粉末化する場合に、粒度の小さい粉末に製造することが可能である。魚肉を冷凍保持する期間は、2週間以上がより好ましい。
【0029】
原魚から採肉、細肉(ミンチ)、水晒し、脱水及び裏漉しの工程
本発明の製造方法では、工程(1)の前に、採肉、細肉(ミンチ)、水晒し、脱水及び裏漉しの工程があっても良い。
【0030】
採肉工程は、原魚から、頭、内臓、骨、皮を除去して魚肉を採取する工程である。このとき、水洗しながら除去作業を行ってもよい。原魚としては、特に制限されないが、スケトウダラ、タイ、アジ、シイラ、シロザケ、ホッケ等が好適に用いられる。
【0031】
例えば、原魚を、包丁等を用いて三枚におろすことにより、魚からの採肉が可能である。
【0032】
例えば、原魚から、頭と骨、内臓を取り除き、ロール式採肉機(SRS2型、(株)ヤナギヤ:ドラム孔径6mm)を用いて、皮と魚肉(落とし身)を分離することで、採肉が可能である。
【0033】
細肉(ミンチ)化工程は、魚肉を、ボールカッター等を用いて細切り(ミンチがけ)する工程であるが、ロール式採肉機等を使用した場合は、この工程を省くことが可能である。
【0034】
水晒し工程は、採取された魚肉又は細肉を水に晒し、脂分、水溶性蛋白を洗い流す工程である。
【0035】
例えば、落とし身に水を投入し、撹拌することにより、水晒し処理が可能である。水晒し処理は繰り返し行うことも可能である。状況に応じて、細肉化工程は、この工程後に入れることも可能である。
【0036】
脱水工程は、水に晒した魚肉の余分な水分を、スクリュープレス等を用いて除去する工程である。魚肉中の水分量を82質量%程度以下まで、水分を除去することが好ましい。
かくして、次の冷凍工程において、魚肉を良好に冷凍させることが可能になる。
【0037】
一方、すりみでは、脱水工程の後に、ショ糖、ソルビット、トレハロース、リン酸塩等の冷凍変性防止剤を混入し、練る工程を必要とするが、本発明では、これらを混入する必要は必ずしも無い。
【0038】
冷凍魚肉を解凍する工程
本発明の製造方法では、工程(1)の後であって、次の工程(2)の前に、冷凍魚肉を解凍する工程があっても良い。
【0039】
解凍工程は、冷凍魚肉を水に晒したり、ポリエチレンシート等の袋に魚肉を入れ流水に晒したりすることにより行うことができる。また、3℃の冷蔵庫での長期自然解凍等によっても、冷凍魚肉を解凍することができる。
【0040】
(2)冷凍魚肉又はその解凍物を粉砕する工程
本発明の製造方法は、工程(2)として、冷凍魚肉又はその解凍物を粉砕する工程を有する。また、粉砕する工程は、後述の工程(3)の後で実施しても問題はない。
【0041】
本発明の製造方法は、後述の工程(3)の前に実施すること、工程(3)の後で実施すること、工程(3)の前後で実施すること、を含む。
【0042】
冷凍魚肉又はその解凍物を粉砕することにより、後述する工程(4)の乾燥工程により、良好に粉末状のタンパク質を得ることが可能になる。
【0043】
粉砕工程は、流水に晒した魚肉を、粉砕機を用いて所定サイズに粉砕する工程である。
【0044】
粉砕のサイズとしては、特に限定する必要性はないが、1.9mm以下がより好ましい。
【0045】
(3)冷凍魚肉を加温する工程
本発明の製造方法は、工程(3)として、工程(2)で製造した粉砕魚肉を加温する工程を有する。
【0046】
工程(3)の魚肉を加温する温度は、70〜100℃程度の温度範囲であることが好ましい。この温度範囲で加温することにより、加温工程後に乾燥したときに魚肉タンパク質を良好に粉末化することができる。魚肉を加温する温度は、70〜95℃程度がより好ましく、80〜90℃程度が特に好ましい。
【0047】
冷凍魚肉の加温は、例えば、魚肉を温水・熱水に投入したり、マイクロウェーブ等で振動させ発熱させたり、水蒸気を当てたり、熱気を当てたり、直接火を当てたりすることにより行うことができる。また、冷凍魚肉の加温は、撹拌・混合を伴いながら行うことができる。
【0048】
工程(2)の魚肉を加温する時間は、特に限定されないが、10分間〜1時間程度の範囲であることが好ましい。
【0049】
例えば、魚肉を、70℃程度の温水に投入し、攪拌しながら、加熱し、85℃程度に達した状態で、10分間程度保持することが好ましい。
【0050】
賦形剤投入、破砕の工程
本発明の製造方法では、工程(3)の後に、賦形剤投入、破砕の工程があっても良い。
【0051】
賦形剤投入工程は、例えば攪拌等により行うことができる。具体的には、上記工程(2)で調製した加温魚肉に水を加えて分散させ、攪拌している中に賦形剤を投入することができる。
【0052】
賦形剤としては、特に制限されない。賦形剤としては、D-マンニトール、D-ソルビトール、エリスリトール、キシリトールなどの糖アルコール、乳糖、ブドウ糖、果糖、白糖、粉末還元麦芽糖水アメなどの糖類、粉末セルロース、デキストリン、β-シクロデキストリン、沈降性炭酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、酸化マグネシウム、乳酸カルシウム、合成ヒドロタルサイト、カオリン等が挙げられる。更に、でん粉、食物繊維、流動化剤、香料等が挙げられる。賦形剤としては、糖類、無水リン酸水素カルシウム等が好ましい。
【0053】
破砕工程は、スプレッド、切断、ミンチ、擂潰等により行うことができる。
【0054】
(4)加温魚肉を乾燥し、粉末状のタンパク質を得る工程
本発明の製造方法は、工程(4)として、工程(3)で調製した加温魚肉を乾燥し、粉末状のタンパク質を得る工程を有する。
【0055】
工程(4)における乾燥は、加熱乾燥等が挙げられる。その中でも短時間で乾燥できる、簡便である等の理由から、加熱乾燥が好ましい。
【0056】
本発明の製造方法では、加温魚肉を乾燥させることにより、簡便に、魚肉を粉末化することが可能である。そのため、凍結乾燥工程等の煩雑な工程が不要である。また、加温魚肉を乾燥すると、0.5mm孔径の篩を通り抜ける、粒度の小さい粉末状の魚肉を製造することが可能になる。その結果、タンパク質含量が高く、魚肉の質が平均化された、粉末状の魚肉タンパク質を製造することが可能である。
【0057】
例えば、加温魚肉を、200℃程度に熱した鍋等で30分間程度炒めることにより、粉末状の魚肉タンパク質の製造が可能である。
【0058】
また、本工程における、加温魚肉からの粉末状の魚肉タンパク質の収率は、高ければ高いほど、生産効率が上がるためによいと考えられる。加温魚肉からの粉末状の魚肉タンパク質の収率は、好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは14重量%以上である。
【0059】
(5)魚肉タンパク質
本発明の製造方法により製造される魚肉タンパク質は、タンパク質含量が高く、魚肉の質が平均化された、粉末状の魚肉タンパク質である。
【0060】
粉末状魚肉タンパク質中のタンパク質の含有量
粉末状魚肉タンパク質中のタンパク質の含有量は、特に制限されないものの、効率よくタンパク質を摂取できるよう、通常80〜100質量%程度であり、より好ましくは85〜100質量%程度であり、更に好ましくは90〜100質量%程度である。
【0061】
魚肉タンパク質の粉末化度(粒度)
魚肉タンパク質の乾燥物の粉末化度(粒度)は、好ましくは孔径0.5mmの篩に残る残渣(粒度が大きい乾燥物、以下「0.5mmOn」とも記す)が50質量%程度以下であり、孔径0.5mmの篩を通り抜ける粉末魚肉(粒度が小さい乾燥物、以下「0.5mmPass」とも記す。)が50質量%程度以上である。より好ましくは0.5mmOnが30質量%程度以下であり、0.5mmPassが70質量%程度以上である。より好ましくは0.5mmOnが25質量%程度以下であり、0.5mmPassが75質量%程度以上である。
【0062】
魚肉タンパク質の乾燥物の粉末化度(粒度)は、孔径0.5mmの篩(40メッシュ篩)を用いて、当該篩を通り抜ける粉末魚肉を測定することにより求めることができる。具体的には、先ず、孔径0.5mmの篩に残る残渣と、孔径0.5mmの篩を通り抜ける粉末魚肉を分ける。次いで、夫々の重量を測定する。尚、メッシュとは、ふるい網(JIS Z8801)の目の寸法及びこれを通過する粒子の寸法を表す単位である。
【0063】
魚肉タンパク質の用途
本発明の製造方法によれば、食塩、冷凍変性防止剤(糖やリン酸塩)等を添加することはなく、魚肉タンパク質を製造することができるため、低塩食品又は健康食品として、又はこれらの原料として、有効に用いることができる。また、魚肉の粉末化において、凍結乾燥を採用する必要も無く、煩雑な工程を経ずに、工業的に魚肉タンパク質を製造することが可能になる。
【0064】
粉末化された魚肉タンパク質を用いて魚肉成分を含有する製品(粉末製品、菓子、ケーキ又は医療食)を製造することが可能になる。また、粉末化された魚肉タンパク質を用いることにより、品質のばらつきが少ない魚肉成分を含有する製品(粉末製品、菓子、ケーキまたは医療食)を製造することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明をより明確に説明する。但し、本発明はかかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
実施例
魚肉を用いて、魚肉タンパク質を製造した。
【0067】
1.採肉工程(魚体前処理工程)
スケトウダラの身(500kg)を、包丁を用いて三枚におろし、スケトウダラドレス(240kg)を得た。
【0068】
2.細肉工程(落し身の調製工程)
採肉工程で得たスケトウダラドレス(240kg)を、ロール式採肉機((株)ヤナギヤ製SRS2型、ドラム孔径6mm)に投入し、細肉(落とし身)を得た。
【0069】
3.水晒し工程
細肉工程で得た細肉(落し身)に対して、細肉の重量に対して3〜5倍量(800L)の水を投入し、5分間撹拌することにより、水晒し処理を実施しした。
【0070】
4.脱水工程
水晒し工程で得た水晒し肉を、スクリュープレスを用いて脱水し、脱水魚肉を得た。
【0071】
以上の工程より、脱水魚肉120kgを得た。脱水魚肉中の水分含有量は約82重量%であった。
【0072】
5.冷凍工程(魚肉の凍結工程)
5−1.冷凍期間の検討
脱水魚肉を5kgずつに取り分けて、コンダクトフリーザーを用いて脱水魚肉を急速に冷凍し、凍結させた。冷凍温度を-35℃に調整した。その後、冷凍魚肉を-35℃に設定した冷凍庫に移し、1週間、2週間、4週間又は8週間の期間で保管した。
【0073】
5−2.冷凍温度の検討
脱水魚肉を5kgずつに取り分けて、コンダクトフリーザーを用いて脱水魚肉を急速に冷凍し、凍結させた。冷凍温度を-10℃、-30℃、-35℃又は-40℃に調整した。その後、各冷凍魚肉を-10℃、-30℃、-35℃又は-40℃に設定した冷凍庫に移し、8週間の期間で保管した。
【0074】
6.粉砕工程
冷凍工程で凍結させた凍結魚肉を流水で解凍した。次いで、解凍後の魚肉を、直径1.9mmの孔を有する機器を用いて押し出すことにより、粉砕(ミンチ)した。
【0075】
7.加温工程
粉砕後の魚肉を60℃の温水に晒し、攪拌した。その後、温水を85℃まで上昇させ、そのまま10分間保持することにより、魚肉を加温した。
【0076】
8.乾燥工程(魚肉タンパク質の乾燥物を得る工程)
先ず、加温工程で得た加温魚肉を木綿で濾し、水分を除去した。次いで、水分除去後の魚肉を、200℃に設定したテフロン(登録商標)鍋で30分炒めることにより乾燥させ、魚肉タンパク質の乾燥物を得た。
【0077】
9.魚肉タンパク質の回収結果
粉末化された魚肉タンパク質の性状
<魚肉タンパク質の粉末化度(粒度)>
魚肉タンパク質の乾燥物の粉末化度(粒度)は、孔径0.5mmの篩(40メッシュ篩)を用いて、当該篩を通り抜ける粉末魚肉を測定することにより求めた。先ず、孔径0.5mmの篩に残る残渣(以下「0.5mmOn」とも記す)と、孔径0.5mmの篩を通り抜ける粉末魚肉(以下「0.5mmPass」とも記す)を分けた。次いで、0.5mmOn及び0.5mmPassの重量を測定し、0.5mmOnと0.5mmPassとの総重量に対する各々の割合を算出した。
【0078】
9−1.冷凍期間の検討結果
<加温工程>における解凍後の魚肉と粉砕後の魚肉との重量(kg)を比較すると、<冷凍工程>の有無により、その回収量に違いは無かった。
【0079】
<乾燥工程>における、加温魚肉と魚肉タンパク質の乾燥物との重量(kg)を比較した(表1)。魚肉タンパク質の乾燥物の重量は、0.5mmOn及び0.5mmPassの合計の重量である。
【0080】
【表1】
【0081】
<乾燥工程>における魚肉タンパク質の乾燥物の0.5mmOnと0.5mmPassとの割合(重量%)を比較した(表2)。
【0082】
冷凍工程、粉砕工程、加温工程及び乾燥工程を経ることにより、魚肉から粒度の小さい粉末状の魚肉タンパク質(0.5mmPass)を、効率的に高収率で製造できることが判明した。
【0083】
【表2】
【0084】
9−2.冷凍温度の検討結果
<加温工程>における解凍後の魚肉と粉砕後の魚肉との重量(kg)を比較すると、<冷凍工程>の冷凍温度の違いにより、その回収量に違いは無かった。
【0085】
<乾燥工程>における加温魚肉と粉末状の魚肉タンパク質との重量(kg)を比較した(表3)。粉末状の魚肉タンパク質の重量は、0.5mmOn及び0.5mmPassの合計の重量である。
【0086】
【表3】
【0087】
<乾燥工程>における魚肉タンパク質の乾燥物の0.5mmOnと0.5mmPassとの割合(重量%)を比較した(表4)。
【0088】
特定の温度範囲の冷凍工程、粉砕工程、加温工程及び乾燥工程を経ることにより、魚肉から粒度の小さい粉末状の魚肉タンパク質(0.5mmPass)を、効率的に製造できることが判明した。
【0089】
【表4】
【0090】
<考察>
本発明の製造方法によれば、魚肉を冷凍する工程と、冷凍魚肉又はその解凍後の魚肉を粉砕する工程と、粉砕魚肉を加温する工程と、加温魚肉を乾燥する工程とを組み合わせることにより、効率的に良好に魚肉から粉末状のタンパク質を製造することが可能である。
図1