特開2015-192704(P2015-192704A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大学共同利用機関法人自然科学研究機構の特許一覧

特開2015-192704コミュニケーション能力の評価を支援する方法及び当該能力の評価システム
<>
  • 特開2015192704-コミュニケーション能力の評価を支援する方法及び当該能力の評価システム 図000006
  • 特開2015192704-コミュニケーション能力の評価を支援する方法及び当該能力の評価システム 図000007
  • 特開2015192704-コミュニケーション能力の評価を支援する方法及び当該能力の評価システム 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-192704(P2015-192704A)
(43)【公開日】2015年11月5日
(54)【発明の名称】コミュニケーション能力の評価を支援する方法及び当該能力の評価システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20151009BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20151009BHJP
【FI】
   A61B5/10 310B
   A61B10/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-71335(P2014-71335)
(22)【出願日】2014年3月31日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省、平成21年度〜平成25年度科学技術試験研究委託事業「社会的行動の基盤となる脳機能の計測・支援のための先端的研究開発」に関わる受託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】定藤 規弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉邦
(72)【発明者】
【氏名】小池 耕彦
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038PR00
4C038PS07
4C038VA11
4C038VA14
4C038VA17
4C038VB15
(57)【要約】
【課題】自閉症スペクトラム障害や自閉症スペクトラム傾向を特徴付けるコミュニケーション能力を客観的に評価する方法を提供する。
【解決手段】第1の被験者と当該第1の被験者とコミュニケーション可能な対象体とがコミュニケーション可能に配置された状態において、所定時間にわたって同時期に両者それぞれに生じる意図的でない動きに関する運動情報を取得し、両者の運動情報に対して因果解析を実施して前記第1の被験者が前記対象体から受ける因果的影響量を同定するようにする。因果的影響量に基づいて第1の被験者のコミュニケーション能力を評価できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コミュニケーション能力の評価支援方法であって、
第1の被験者と当該第1の被験者とコミュニケーション可能な対象体とがコミュニケーション可能に配置された状態において、所定時間にわたって同時期に両者それぞれに生じる意図的でない動きに関する運動情報を取得するステップと、
前記両者の運動情報に対して因果解析を実施して前記第1の被験者が前記対象体から受ける因果的影響量を同定するステップと、
を備え、
前記因果的影響量に基づいて前記第1の被験者のコミュニケーション能力の評価を支援する、方法。
【請求項2】
前記運動情報を取得するステップは、前記両者を静止立位で対向配置して前記運動情報を取得するステップである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記運動情報を取得するステップは、前記運動情報として、前記両者の重心移動に基づく運動情報を取得するステップである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記重心移動は、前記両者の対向方向に沿う重心移動である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記対象体は第2の被験者であり、
前記因果的影響量を同定するステップは、前記第2の被験者が前記第1の被験者から受ける因果的影響量も同定するステップである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記コミュニケーション能力の評価結果に基づき自閉症スペクトラム傾向を診断支援する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記コミュニケーション能力の評価結果に基づき、自閉症スペクトラム障害を診断支援する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
複数の被験者を含む集団における相対的なコミュニケーション能力の評価支援方法であって、
前記複数の被験者から選択される2者からなるペアがコミュニケーション可能に配置された状態において、所定時間にわたって同時期に両者それぞれに生じる意図的でない動きに関する運動情報を取得するステップと、
前記両者の運動情報に対して因果解析を実施して前記両者のそれぞれが他方から受ける因果的影響量を同定するステップと、
を、前記複数の被験者について実施し、
前記複数の被験者の前記因果的影響量に基づいて前記集団における相対的なコミュニケーション能力の評価を支援する、方法。
【請求項9】
コミュニケーション能力の評価システムであって、
第1の被験者と当該第1の被験者とコミュニケーション可能な対象体とがコミュニケーション可能に配置された状態において、所定時間にわたって同時期に両者それぞれに生じる意図的でない動きに関する運動情報を取得する運動情報取得手段と、
前記両者の運動情報に対する因果解析を実施して前記第1の被験者が前記対象体から受ける因果的影響量を同定する手段と、
を備える、システム。
【請求項10】
前記運動情報を取得する手段は、重心動揺計測ユニットを備える、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
コミュニケーション能力の評価装置であって、
第1の被験者と当該第1の被験者とコミュニケーション可能な対象体とがコミュニケーション可能に配置された状態において、所定時間にわたって同時期に両者それぞれに生じる意図的でない動きに関する運動情報を取得する運動情報取得部と、
前記両者の運動情報に対する因果解析を実施して前記第1の被験者が前記対象体から受ける因果的影響量を同定する因果的影響量同定部と、
を備える、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、コミュニケーション能力の評価を支援する方法及び当該能力の評価システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
コミュニケーション能力に関する障害として、自閉症スペクトラム障害が挙げられる。自閉症スペクトラム障害とは、自閉症からアスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害までを含む概念である。最近の精神疾患の診断基準であるDSM-5(非特許文献1)によれば,自閉症スペクトラム障害には大きく2つの特徴が挙げられている。ひとつは社会的相互作用(主に非言語コミュニケーション)およびコミュニケーション(主に言語コミュニケーション)の質的障害であり、もうひとつは限局した興味や行動である。近年,定型発達者においても,少なからず同様の自閉傾向が存在していることがわかってきている。これら障害者から定型発達者までに存在する連続的な傾向を自閉症スペクトラム傾向という。
【0003】
特に前者の特徴(社会的相互作用およびコミュニケーションの質的な障害)に関連する科学的な事実として,非言語行動の模倣(特に無意識に生じる模倣)の減退が報告されている(非特許文献2)。この報告によれば、模倣行動の減退については自閉症スペクトラム傾向のある定型発達者においても報告されている(非特許文献3)。
【0004】
自閉症スペクトラム障害の診断は、概して、精神科医、小児科医及び臨床心理士等が対象者の社会的行動等の観察結果に基づいて行ってきた。また、自閉症スペクトラム傾向までを定量化する場合には、質問紙が用いられている。
【0005】
一方、眼球運動を計測する自閉症診断支援装置(特許文献1)等も開発されてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−223713号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】http://www.dsm5.org/Pages/Default.aspx
【非特許文献2】McIntosh, D. N., Reichmann-Decker, A., Winkielman, P., and Wilbarger, J. L. (2006). “When the social mirror breaks: deficits in automatic, but not voluntary, mimicry of emotional facial expressions in autism,” Dev. Sci. 9, 295-302.
【非特許文献3】Hermans, E. J., Van Wingen, G., Bos, P. A., Putman, P., and Van Honk, J. (2009). “Reduced spontaneous facial mimicry in women with autistic traits,” Biol. Psychol. 80, 348-353.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自閉症スペクトラム障害についての有効な治療薬は今のところ見出されていない。したがって、自閉症スペクトラム障害については、早期発見と早期の教育的介入が要請されている。しかしながら、自閉症スペクトラム障害の専門家が少ないことのほか、診断は容易ではない。また、自閉症スペクトラム傾向については、自記式であるため、客観性に欠けるという問題を排除できない。
【0009】
さらに、自閉症診断支援装置等では、対象者が患者に限定されており、また、眼球運動計測など特殊な装置を必要とする。
【0010】
本明細書は、自閉症スペクトラム障害や自閉症スペクトラム傾向を特徴付ける社会的相互作用およびコミュニケーションの能力を客観的に評価する方法及び当該方法に用いるシステム等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、コミュニケーション可能な状態における二者の一方の動きが他方の動きから受ける影響の大きさと自閉症スペクトラム傾向には強い関連性があると推論した。さらに、実際のコミュニケーション可能な状態での模倣行動及びその原因となる相手からの影響の受けやすさを簡便に計測することができれば,自閉症スペクトラム傾向を含む自閉症スペクトラム障害、広くはコミュニケーション能力の測定が可能となるであろうと推測した。本発明者らは、種々の検討を行い、二者が対向してコミュニケーション可能な状態での二者の重心動揺などの身体の動きに対して因果解析を適用した。そして、この因果解析により、双方向の影響量を分離し、他方の動きから受ける影響の受けやすさを因果的影響量として個別に測定することに成功した。さらに、この因果的影響量が、自閉症所スペクトラム傾向と一定の関係を示すという知見を得るに至った。
【0012】
なお、本明細書において、「コミュニケーション」は、非言語及び言語コミュニケーションを包含するものとする。非言語及び言語コミュニケーションとは、精神疾患の診断基準であるDSM-5における「社会的相互作用」及び「コミュニケーション」がそれぞれ非言語コミュニケーション及び言語コミュニケーションを意味することに基づくものである。したがって、「コミュニケーション」の語は、非言語コミュニケーション及び言語コミュニケーションの双方を包含しているが、これらの一方であってもよいし双方を意図していてもよい。非言語コミュニケーションとしては典型的には、アイコンタクトやジェスチャが挙げられる。また、言語コミュニケーションとしては、典型的には会話等が挙げられる。
【0013】
また、「コミュニケーション能力」とは、これらのコミュニケーションを遂行する能力を意味するものとする。コミュニケーション能力には、自閉症スペクトラム障害及び自閉症スペクトラム傾向と関連していることが広く知られている。
【0014】
本明細書によれば、これらの知見に基づき以下の手段が提供される。
【0015】
(1)コミュニケーション能力の評価支援方法であって、
第1の被験者と当該第1の被験者とコミュニケーション可能な対象体とがコミュニケーション可能に配置された状態において、所定時間にわたって同時期に両者それぞれに生じる意図的でない動きに関する運動情報を取得するステップと、
前記両者の運動情報に対して因果解析を実施して前記第1の被験者が前記対象体から受ける因果的影響量を同定するステップと、
を備え、
前記因果的影響量に基づいて前記第1の被験者のコミュニケーション能力の評価を支援する、方法。
(2)前記運動情報を取得するステップは、前記両者を静止立位で対向配置して前記運動情報を取得するステップである、(1)に記載の方法。
(3)前記運動情報を取得するステップは、前記運動情報として、前記両者の重心移動に基づく運動情報を取得するステップである、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記重心移動は、前記両者の対向方向に沿う重心移動である、(3)に記載の方法。
(5)前記対象体は第2の被験者であり、
前記因果的影響量を同定するステップは、前記第2の被験者が前記第1の被験者から受ける因果的影響量も同定するステップである、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記コミュニケーション能力の評価結果に基づき自閉症スペクトラム傾向を診断支援する、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)前記コミュニケーション能力の評価結果に基づき、自閉症スペクトラム障害を診断支援する、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(8)複数の被験者を含む集団における相対的なコミュニケーション能力の評価支援方法であって、
前記複数の被験者から選択される2者からなるペアがコミュニケーション可能に配置された状態において、所定時間にわたって同時期に両者それぞれに生じる意図的でない動きに関する運動情報を取得するステップと、
前記両者の運動情報に対して因果解析を実施して前記両者のそれぞれが他方から受ける因果的影響量を同定するステップと、
を、前記複数の被験者について実施し、
前記複数の被験者の前記因果的影響量に基づいて前記集団における相対的なコミュニケーション能力の評価を支援する、方法。
(9)コミュニケーション能力の評価システムであって、
第1の被験者と当該第1の被験者とコミュニケーション可能な対象体とがコミュニケーション可能に配置された状態において、所定時間にわたって同時期に両者それぞれに生じる意図的でない動きに関する運動情報を取得する運動情報取得手段と、
前記両者の運動情報に対する因果解析を実施して前記第1の被験者が前記対象体から受ける因果的影響量を同定する手段と、
を備える、システム。
(10)前記運動情報を取得する手段は、重心動揺計測ユニットを備える、(9)に記載のシステム。
(11)コミュニケーション能力の評価装置であって、
第1の被験者と当該第1の被験者とコミュニケーション可能な対象体とがコミュニケーション可能に配置された状態において、所定時間にわたって同時期に両者それぞれに生じる意図的でない動きに関する運動情報を取得する運動情報取得部と、
前記両者の運動情報に対する因果解析を実施して前記第1の被験者が前記対象体から受ける因果的影響量を同定する因果的影響量同定部と、
を備える、装置。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】コミュニケーション能力の評価システムの一例を示す図である。
図2】コミュニケーション能力の評価支援方法のフローの一例を示す図である。
図3】ノイズ寄与率(因果的影響量)とAQスコアとの相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書の開示は、コミュニケーション能力の評価支援方法及び当該能力の評価システム等に関する。本開示によれば、コミュニケーション可能な状態における被験者の意図しない動きに関する運動情報を取得し、この運動情報に対して因果解析を適用することで被験者の固有の影響の受けやすさを、因果的影響量として同定する。
【0018】
本開示によって得られる因果的影響量は、被験者の備える他者からの影響の受けやすさであり、コミュニケーション能力に関連付けられる自閉症スペクトラム傾向と相関関係にある。このため、本開示によれば、因果的影響量に基づいて被験者が備えるコミュニケーション能力を、評価できる。
【0019】
本開示によれば、意図しない動きに関する運動情報を利用するため、客観性が高い評価支援が可能となっている。また、同様の理由から、安定して評価支援が可能となっている。また、本開示によれば、被験者の意図しない動きに関する運動情報を取得し、それを解析することにより、比較的簡易にコミュニケーション能力を評価できる。
【0020】
また、本開示によれば、二者の被験者について同時にそれぞれに固有の因果的影響量を同定し、コミュニケーション能力を評価できる。さらに、本開示によって得られる因果的影響量は、被験者固有の情報である。したがって、複数の被験者につき得られた因果的影響量を利用することで、個々の被験者の固有のコミュニケーション能力のほか、複数の被験者間の相対的なコミュニケーション能力を把握することができる。
【0021】
以下、本開示の各種実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。
【0022】
(コミュニケーション能力の評価支援方法)
本開示のコミュニケーション能力の評価支援方法は、概してヒトのコミュニケーション能力の評価支援方法である。また、本評価支援方法が対象とするコミュニケーション能力は、上述のとおり、言語コミュニケーション能力であってもよいし、非言語コミュニケーション能力であってもよいし、これら双方であってもよい。また、自閉症スペクトラム障害や自閉症スペクトラム傾向であってもよい。
【0023】
図1には、本評価支援方法を実施するためのシステム10の一例を示し、図2には、本評価支援方法のフローの一例を示す。以下、本システム10について説明し、その後、本評価支援方法について説明する。
【0024】
(コミュニケーション能力の評価支援システム)
図1に示す、本開示のコミュニケーション能力の評価システム10は、第1の被験者と当該第1の被験者とコミュニケーション可能な対象体とがコミュニケーション可能に配置された状態で、所定時間にわたって同時期に両者に生じる意図的でないそれぞれの動きに関する運動情報を取得する運動情報取得手段20と、両者のそれぞれの運動情報に基づく因果解析によって前記第1の被験者が前記対象体から受ける因果的影響量を同定する因果的影響量同定手段40と、を備えることができる。本システムによれば、被験者のコミュニケーション能力を客観的に評価できるほか、安定的にかつ簡易に評価することができる。
【0025】
本評価システム10は、図1に示す態様では、第1の被験者2及び対象体4につき、静止立位状態でのコミュニケーション状態下でコミュニケーション能力の評価を意図したものとなっている。図1に示すように、本評価システム10は、運動情報取得手段20としては、重心動揺計測ユニットを備えている。重心動揺計測ユニットは、第1の被験者2と対象体4との双方の重心動揺を計測可能に2つの重心動揺計を備えている。
【0026】
さらに、本システム10は、運動情報取得手段20に入力された運動情報を因果的影響量同定手段40に出力するBluetooth(登録商標)等の 通信手段を備えている。なお、通信手段はこれに限定するものではなく、各種有線及び無線通信の他,同期に十分な精度があればインターネット経由の通信等でも良い。
【0027】
本評価システム10は、因果的影響量同定手段40として、CPU等の制御手段やそのほか記憶手段等を備えうるコンピュータを備えている。コンピュータは、取得した運動情報に対して因果解析を実施するためのプログラムを実行可能に構成されている。コンピュータは、運動情報の入力を待機し、入力された運動情報に基づき、因果的影響量に対して因果解析を行い、因果的影響量の同定を実行するように構成されている。
【0028】
(コミュニケーション能力の評価支援方法)
以下、本評価支援方法に関し、図1に示す本評価システム及び図2に示す本評価支援方法のフローを適宜参照しつつ、説明する。なお、以下の説明における本評価支援方法の各種態様は、図1に示す本評価システムにおいても適用される。
【0029】
本評価支援方法は、運動情報を取得するステップS100と、取得した運動情報に基づく因果解析によって因果的影響量を同定するステップS200と、を備えることができる。これらのステップS100、S200は、本評価システム10が実行することができる。
【0030】
(運動情報を取得するステップ)(ステップS100)
運動情報を取得するステップS100は、第1の被験者2と当該第1の被験者とコミュニケーション可能な対象体4とがコミュニケーション可能に配置された状態において、所定時間にわたって両者に同時期に生じる意図的でない動きに関する運動情報を取得するステップとすることができる。
【0031】
(第1の被験者)
本ステップS100における第1の被験者2は、コミュニケーション能力の評価対象である。第1の被験者2は、好ましくはヒトであり、特に限定されないが、自閉症スペクトラム障害又は自閉症スペクトラム傾向の可能性ある個体であることが好ましい。定型発達者であってもよい。
【0032】
第1の被験者2は、静止して立位可能な個体であることが好ましい。こうした個体であると、後述するように重心動揺等、簡易な計測により運動情報を取得できるからである。なお、必ずしも静止して立位可能でない個体であってもよい。例えば、0才か2才未満の乳幼児であってもよい。こうした個体の場合には、当該個体を概ね静止可能な座位の状態で運動情報を取得すればよい。具体的には、母親などの個体の膝上に座位にて保持してもよいし、適用な保持具によって座位にて固定してもよい。
【0033】
(対象体)
第1の被験者2とコミュニケーション可能な対象体4としては、ヒトであってもよいし、例えば、ロボットであってもよい。
【0034】
対象体4は、好ましくは第1の被験者2と同様ヒトである。また、対象体4は、好ましくは、第1の被験者2と同様、コミュニケーション能力の評価対象個体である。こうすることで、二者について同時に固有の因果的影響量を同定し、コミュニケーション能力を評価できる。対象体4は、第1の被験者2と同性であってもよいし異性であってもよい。また、第1の被験者2との年齢差も特に限定されない。
【0035】
本評価支援方法において、対象体4は、ロボットであってもよい。ロボットが第1の被験者2とコミュニケーション可能であるためには、第1の被験者2の動きに対して所定の関連性を持った、すなわち、所定の因果的影響量となるような動きを発生するようにプログラムされていることが好ましい。ロボットは、好ましくは、ヒトの外観を模倣した外形を備えたヒト型ロボットである。ロボットは、ロボット自体が、第1の被験者2の動きを検知して、それに応じて所定の動きをするようにプログラムされていてもよいし、ロボット自体又はロボット以外で検知した第1の被験者2の動きに応じて外部から制御されるようになっていてもよい。こうしたヒト型ロボットによる検知形態及び制御形態は当業者であれば適宜組み合わせて、本評価支援方法に適合させることができる。対象体4がロボットである場合、ロボットを本システム10に含めることができる。
【0036】
本ステップS100において、第1の被験者2と対象体4とはコミュニケーション可能に配置される。両者は、コミュニケーション可能であればどのように配置されてもよい。例えば、横に並んで配置して、互いに顔だけを他方に指向する形態が可能であるが、好ましくは対向配置である。すなわち、両者は、互いに正面に向き合った状態で対向配置されることが好ましい。対向配置であると、意図的でない動きに関する運動情報を取得しやすい傾向がある。
【0037】
両者が例えば対向配置でコミュニケーション可能とするには、両者間の距離は、1m以内であることが好ましい。この範囲であると両者間でアイコンタクトが容易であるほか他方の動きを把握しやすく、因果的影響量が運動情報に反映されやすいからである。一方、両者間の距離は10cm以上が好ましい。10cm未満では近すぎて安定した運動情報の取得に支障が出る可能性がある。本評価支援方法の確度の向上のためには,好ましくは、両者間の距離が10cm以上であって100cm以下の範囲内でできるだけ近いほうが良い。より好ましくは15cm以上70cm以下であり、さらに好ましくは20cmである。なお、第1の被験者と対象体との距離は、例えば、対向する一方のつま先から他方のつま先までの距離で規定することができる。
【0038】
また、コミュニケーション可能とするには、第1の被験者と対象体との目線高さの相違が20cm以内であることが好ましい。この範囲内であると、アイコンタクトが容易であり、因果的影響量が運動情報に反映されやすいからである。本評価支援方法の確度を向上させるためには、前記相違は、より好ましくは15cm以内であり、さらに好ましくは10cm以内であり、一層好ましくは5cm以内である。
【0039】
第1の被験者と対象体との目線高さの調整は、上記範囲となるような伸長又は高さの第1の被験者と対象体とを組み合わせるほか、両者の配置高さを調節するようにしてもよい。例えば、運動情報を立位で測定する場合において、立位する高さ位置を調節するようにしてもよい。
【0040】
コミュニケーション可能な状態としては、最も単純なアイコンタクトのほか、会話によるコミュニケーション可能な状態であってもよいし、これらを組み合わせてもよい。アイコタクトによる場合には、開眼が必要であるが、会話のみによる場合は、必ずしも開眼していなくてもよい。なお、アイコンタクトのみでコミュニケーション可能とする場合には、第1の被験者2には、対象体の目を見るように指示するほか、コミュニケーション、すなわち、対象体が何を考えているのか、どんな性格や背景であるかなどを考えるよう補助課題を課すことが好ましい。なお、会話によるコミュニケーション可能な状態を含む場合にも、おおよそ上記した範囲内で対向配置される。本開示においては,個人に固有の特性を反映する因果的影響量を対象とするため,環境からの影響やコミュニケーションの目的によって双方の動きの順序が明確でない方が好ましい。また、本開示においては、意図的でない動きに関する運動情報を取得するものであるため、意図的なコミュニケーション状態を採用する場合には,同コミュニケーション状態に置いて引き起こされる複数の運動情報のうち,アイコンタクトや重心動揺などの意図的な動きを含み難い運動情報が意図的な動きの運動情報とは独立に取得できる状態が好ましい。またアイコンタクトなどの、大きな動きを伴わず、意図的な動きを含みに難いコミュニケーション可能な状態を採用することがより好ましい。
【0041】
さらに、運動情報の取得に先立って、第1の被験者2と対象体4とは、後述する運動情報の取得に適した状態に配置される。ここで、運動情報とは、所定時間にわたって両者に同時期に生じる意図的でない動きに関する情報である。意図的でない動きとしては、具体的には、運動課題や実験刺激が付与されない状況での動きを意味している。より具体的には、例えば、意図的な動きをしないという課題を付与した状況での動きや意図的なコミュニケーション状態における意図的でない動きが挙げられる。
【0042】
本評価支援方法では、こうした意図的でない動きに関する運動情報を利用することで、客観性と安定性に優れた評価が可能となる。
【0043】
こうした運動情報としては、例えば、重心移動が挙げられる。重心移動は、意図的でない動きを反映しやすい傾向があるからである。また、重心移動は、簡易に計測できる点において有利である。重心移動には、第1の被験者と対象体とが向き合う方向に沿う対向軸方向、当該対向軸と直交する方向、及び全方位への移動等各種が包含される。好ましくは、対向軸方向における重心移動が挙げられる。当該重心移動によると、因果的影響量を反映しやすい傾向があるからである。
【0044】
重心移動を運動情報として取得するときには、第1の被験者2及び対象体4は、静止立位又は静止座位で配置されることができるが、図1に示すように、好ましくは静止立位である。静止立位であると、意図的でない動きを重心移動として計測しやすいからである。なお、重心移動を測定しやすくするために、立位時の両足間隔(左右のつま先間距離)を適宜設定することが好ましい。重心動揺を正確に測定するためには、左右の足はどの点においても接触していないほうが好ましい。例えば、前述の接触条件を満たした上で,3cm以上20cm以下の範囲でできる限り近い方が好ましく、さらに好ましくは約5cmである。
【0045】
また、他の運動情報としては、第1の被験者2及び対象体4の1又は2以上のポイントの移動が挙げられる。体の各部の動きも意図的でない動きを反映しやすい傾向があるからである。こうした動きは、頭部、手、肘、肩等の大まかなポイントのほか、額、眼球周辺、口元、指先など細部における動きなど、微妙な表情の変化(瞬きを含める場合もある。)に関連する動きであってもよい。こうしたポイントから選択される1又は2以上の動きの総量等が他の運動情報として挙げられる。
【0046】
身体上のポイントの移動を運動情報として取得するときには、第1の被験者2及び対象体4は、静止立位又は静止座位で配置されることができるが、好ましくは静止立位である。静止立位であると、意図的でない動きを各ポイントの移動として計測しやすいからである。重心移動の場合と同様に、静止立位におけるつま先間距離を適宜設定することができる。
【0047】
本ステップS100では、こうした状態、すなわち、コミュニケーション可能に配置された状態で、所定時間にわたって両者に同時期に生じる意図的でない動きに関する運動情報を取得する。運動情報の取得は、運動情報の種類によっても異なるが、重心移動は公知の重心動揺(移動)計等で計測でき、各ポイントの動きは、公知のモーションキャプチャー等により計測でき、眼球運動も公知の眼球運動計測器等により計測できる。本評価システム10は、運動情報取得手段20としての重心計測計ないしユニットに替えて又は当該ユニット等とともに、こうした他の計測機器等を、適宜必要なデータ送信手段とともに備えることもできる。
【0048】
運動情報を所定時間にわたり同時期に取得することで、後段で因果的影響量を同定することができる。運動情報の取得のための所定時間の長さについては特に限定されない。運動情報の種類に応じて、第1の被験者2等に固有の特徴が現れうる時間とすることができる。典型的には、数十秒〜数分程度であり、好ましくは2分以下であり、より好ましくは1分半であり、さらに好ましくは約1分である。運動情報は、こうした所定時間にわたる計測を1又は2以上繰り返して取得することが好ましい。なお、所定時間内における運動情報の取得は、時系列的であればよく、必ずしも連続的でなくてもよく、非連続的であってもよい。こうして取得した運動情報は、本評価システム10の因果的影響量同定手段40に入力され、因果解析に供される。
【0049】
運動情報を所定時間にわたり適切な時間精度で取得することで、後段で因果的影響量を同定することができる。運動情報の取得のための時間精度については2Hz以上20Hz以内が好ましい。精度が2Hz未満では運動情報が失われてしまう可能性があり,20Hzを超えると因果解析の精度が不正確になるためである。より好ましくは5Hz以上10Hz以内であり、さらに好ましくは10Hzである。なお、こうした規定以上の精度で運動情報を取得し、規定の精度までデータを間引くことが可能である。
【0050】
なお、対象体4がヒト型ロボットなど、予め所定の因果的影響量となるような動きをするように制御されている場合には、対象体4についての運動情報の取得を簡素化又は省略できる場合がある。
【0051】
(因果的影響量の同定ステップ)(ステップS200)
因果的影響量の同定ステップS200は、本評価システム10が、両者のそれぞれの運動情報に対して因果解析を実施することによって第1の被験者が対象体から受ける因果的影響量を同定するステップとすることができる。
【0052】
本ステップS200は、ステップS100で取得した両者の運動情報に対して因果解析を実施する。因果解析とは、概して、Granger causality (Granger, C. W. (1969), Investigating causal relations by econometric models and cross-spectral methods。 Econometrica: Journal of the Econometric Society, 424-438)及びAkaike’s causality(Akaike, H. (1968), “On the use of a linear model for the identification of feedback systems,” Ann. Inst. Stat. Math. 20, 425-439)に代表される多変量自己回帰モデルをベースとした因果解析を意味している。こうした因果解析によって求められる因果的影響量は数学的に等価である。
【0053】
取得した運動情報に対して因果解析を実施して因果的影響量を同定するには、例えば、以下のように実施できるほか、当業者であれば、適宜同定できる。以下、運動情報として重心動揺の時系列データに対してAkaike’s causality法を適用して因果的影響量を算出した例を示す。以下の例において、xは第1の被験者であり、yは対象体(ここでは被験者)である。
【0054】
まず多変量自己回帰モデルによって重心動揺の時系列データを分析する(式1,2)。
【0055】
【数1】
【0056】
ただし、上記式1及び2において、x(t),およびy(t)は対象となる二人の被験者の重心位置又は相対的な重心位置の変化を表す時系列データ、a、b、c、dはそれぞれ推定する自己回帰モデルの係数を示す。
【0057】
この式はそれぞれの重心動揺は自分の過去のデータと相手の過去のデータに係数を掛けた値の線形和で表現されるという意味である。Nは推定される自己回帰モデルの次数であり、Akaike’s information criteria (AIC)の手法を用いて推定する。なお、次数の推定にあたり、データの時間精度に依存する最大次数を設定することが好ましい。例えば、最大次数としては、規定の時間精度で5秒に取得できるデータポイント数以下が好ましく、更に好ましくは1秒に取得できるデータポイント数である。また、uはモデルにおけるノイズ成分を示す。その後,xからy,yからxのノイズ寄与率の積算値R(式3, 4はyからxの場合を示す)を計算する。
【0058】
【数2】
【0059】
rはノイズ寄与率の周波数表現である。rを積分することで,本発明で利用する積算ノイズ寄与率Rが得られる(式4)。この積算値R(式4)を、yからxが受けるx固有の因果的影響量とすることができる。なお、積分範囲は、適宜設定することができる。アルファ及びベータは、式1における変数aおよびbをフーリエ変換したものであり、σx2, σy2はそれぞれ変数x, yのノイズ成分(ux, uy)の分散値を示す。fnはナイキスト周波数と呼び,サンプリングレートの半値を示す。同様にして、y固有の因果的影響量を同定することができる。
【0060】
なお、対象体がヒト型ロボットなど、予め所定の因果的影響量となるような動きをするように制御されている場合には、対象体についての解析を簡素化ないし省略できる場合がある。
【0061】
こうして得られる因果的影響量は、自閉症スペクトラム傾向と相関関係を有している。すなわち、因果的影響量が大きいほど、自閉症スペクトラム障害から定型発達までを含む自閉症スペクトラム傾向の定量化に用いられるAQ(autism spectrum quotient)スコア(質問紙によって得られるスコア)が小さい傾向があり、因果的影響量が小さいほど、AQスコアが小さい傾向がある。
【0062】
このため、第1の被験者の因果的影響量を同定することによって、第1の被験者の自閉症スペクトラム傾向、ひいてはコミュニケーション能力を評価支援することができる。
【0063】
また、本評価支援方法によれば、第1の被験者がどのような対象体と配置しても、第1の被験者固有の因果的影響量を得ることができる。さらに、対象体を第2の被験者とすることで、同時に両者の因果的影響量を独立して得ることができる。
【0064】
以上説明したように、本評価支援方法によれば、第1の被験者と対象体とがコミュニケーション可能な状態で配置された状態での意図的でない動きに関する運動情報に対して因果解析を実施し、その結果得られる因果的影響量に基づいて、コミュニケーション能力を評価できる。このため、より客観的にかつ安定的に、しかも簡易に、コミュニケーション能力に関わる自閉症スペクトラム障害や自閉症スペクトラム傾向についての評価(診断)支援が可能となる。
【0065】
さらに、本評価支援方法は、複数の被験者を含む集団における相対的なコミュニケーション能力の評価支援方法としても利用できる。すなわち、複数の被験者から選択される2者からなるペアがコミュニケーション可能に配置された状態において、所定時間にわたって同時期に両者に生じる意図的でないそれぞれの身体の動きに関する運動情報を取得し、それぞれの運動情報に基づく因果解析によって両者のそれぞれが他方から受ける因果的影響量を同定することで、複数の被験者の因果的影響量に基づいて被験者の集団における相対的なコミュニケーション能力の評価することができる。本方法によれば、より客観的及び安定的に、しかも簡易に、集団における被験者のコミュニケーション能力を評価し、また、当該被験者のコミュニケーション能力のほか、集団内におけるコミュニケーション能力レベルを評価できる。
【0066】
以上の実施形態によれば、別個に又は予め取得していた運動情報について本評価システム10の因果的影響量同定手段40がステップS200をのみを実施するコミュニケーション能力評価支援方法も提供される。また、因果的影響量同定手段を備えるコミュニケーション能力の評価システムも提供される。
【0067】
また、以上の実施形態によれば、運動情報取得手段20を用いて、第1の被験者2及び対象体4の運動情報を取得する工程のみを行う、コミュニケーション能力評価のための運動情報取得方法も提供される。また、運動情報取得手段を備えるコミュニケーション能力評価のための運動情報取得システムも提供される。
【0068】
なお、以上の説明において、本評価システム10は、当業者であれば各種の形態で構成できることが明らかである。例えば、因果的影響量同定手段40は、独立したコンピュータでなくてもよく、運動情報取得手段20と一体化されたものであってもよい。また、本評価システム10は、運動情報や因果的影響量等を表示するディスプレイ等の適当な表示手段を備えることができる。
【0069】
また、以上の実施形態によれば、本評価システム10は、評価装置としても実施可能であることは明らかである。すなわち、本評価装置は、運動情報取得部と、因果的影響量同定部とを備える装置であってもよい。
【実施例】
【0070】
以下、本開示を具現化した具体例について説明するが、本開示は以下の具体例に限定されるものではない。
【0071】
女性同士および男性同士の19ペア38名(女性11ペア、男性8ペア、年齢22.5±4.6歳)について、コミュニケーション能力の評価を行った。本実験では、最も単純なコミュニケーション状態としてアイコンタクトでの静止立位を採用して、重心動揺計(Wii balance board, Nintendo)を二台用いて、2者の重心動揺を同時計測した。被験者は,つま先間距離20cmで開眼状態かつ正対面状態で重心動揺計の上に直立した(図1参照)。両被験者には、実験中、相手が何を考えているか,どんな人かなどについて考えるよう指示した。また、経過時間を数えることや,表情なども含め意図的な動きを行わないよう指示した。
【0072】
実験は1分間の計測とし、合計4回繰り返した。重心動揺計はBluetoothによる無線接続で計算機と接続され,重心位置の時系列データを100Hzのサンプリングレートで収集した。対象者の重心動揺データを一度10Hzに間引き,Akaike’s causality法を用いて因果的影響量を算出した。手続きとしては、既に説明した多変量自己回帰モデルの式1及び2によって重心動揺の時系列データを分析し、さらに、式3及び4等によって、両者の積算ノイズ寄与率を求めた。これらを全てのペアについて繰り返し実施し、全ての被験者につき、積算ノイズ寄与率を求めた。なお、ナイキスト周波数(fn)は、5Hzである。
【0073】
これら被験者につき、これらの実験後に、AQスコアシートを用いて自閉症スペクトラム傾向を示すAQスコアを取得した。積算ノイズ寄与率とAQスコアとのをブロットした結果を図3及び表1に示す。なお、AQスコアが35以上であると自閉症スペクトラム障害の傾向が強くなると言われている。
【0074】
【表1】

【0075】
図3及び表1に示すように、積算ノイズ寄与率と自閉症スペクトラム傾向に有意な相関が見られた(Kendall’s τ=−0.245,spearman's ρ=−0.356,p=0.028)。以上の結果は、定型発達者の自閉症スペクトラム傾向とノイズ寄与率の新規な関係性を開示するものである。すなわち、自閉症患者のみならず,定型発達者の自閉症スペクトラム傾向を、ノイズ寄与率(因果的影響量)として定量化できることで,実社会におけるコミュニケーション能力の評価等に広く利用可能であることがわかった。また,自閉症ではさらに自閉症スペクトラム傾向が低く,相手からの影響を受けにくいと考えられるため、ノイズ寄与率の積算値が小さくなることがわかる。したがって、因果的影響量は、広い年齢層で自閉症スペクトラム障害や自閉症スペクトラム傾向等の診断の支援技術としても利用できることがわかった。
【0076】
例えば、以上の結果から、ノイズ寄与率(%)とAQスコアとの相関関係に基づき、取得した因果的影響量(ノイズ寄与率%)により、自閉症スペクトラム傾向を推測できることもわかった。例えば、本実施例(時間情報取得の時間精度が10Hzである。)によれば、ノイズ寄与率が2%以上であれば自閉症スペクトラム障害である可能性が低く、2%未満であると自閉症スペクトラム傾向がより高まる傾向があり、1%以下であると、自閉症スペクトラム障害の可能性を考慮すべきであることが推測されうる。なお、ノイズ寄与率は、典型的には運動情報取得の時間精度に依存し、「自閉症スペクトラム障害と判定できる、あるいはその可能性があると判定できるノイズ寄与率は、上記時間精度により異なりうる。すなわち、時間精度を特定したノイズ寄与率により自閉症スペクトラム傾向が推測されうる。例えば、本実施例のように、10Hzなら1%であり、5Hzなら2%程度とすることができる。
【符号の説明】
【0077】
2 第1の被験者、4 対象体、10 コミュニケーション能力評価システム、20 運動情報取得手段、40 因果的影響量同定手段
図1
図2
図3