特開2015-193493(P2015-193493A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-193493(P2015-193493A)
(43)【公開日】2015年11月5日
(54)【発明の名称】高比重アルミナおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/02 20060101AFI20151009BHJP
【FI】
   C01F7/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-71454(P2014-71454)
(22)【出願日】2014年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 祐二
(72)【発明者】
【氏名】中西 哲也
(72)【発明者】
【氏名】田内 茂顕
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB02
4G076BA26
4G076BA43
4G076BC01
4G076BC07
4G076CA03
4G076CA26
4G076CA27
4G076CA28
4G076DA02
4G076FA02
(57)【要約】
【課題】樹脂との親和性が良好であり、高充填が可能な表面性状を有する高比重球状アルミナ粉末とその製造方法を提供する。
【解決手段】平均粒子径が50μm以下、真球度が0.9以上、真比重が3.9以上である高比重球状アルミナ粉末であって、加熱放出ガス分析における200℃までの累積水分表出量が1000℃までの総放出水分量の40%以下であること、550℃までの累積水分放出量が1000℃までの総放出水分量の90%以上であること、かつ、600〜1000℃までの累積水分放出量が1000℃までの総放出水分量の10%以下であることを満足する高比重球状アルミナ粉末。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径(D50)が50μm以下、真球度が0.9以上、真比重が3.9以上である高比重球状アルミナ粉末であり、加熱放出ガス分析における200℃までの累積水分放出量が1000℃までの総放出水分量の40%以下であること、550℃までの累積水分放出量が1000℃までの総放出水分量の90%以上であること、かつ600〜1000℃までの累積水分放出量が1000℃までの総放出水分量の10%以下であることを特徴とする高比重球状アルミナ粉末。
【請求項2】
平均粒子径が50μm以下、真球度が0.9以上、真比重が3.9以上であり、加熱放出ガス分析における550℃までの累積水分放出量が1000℃までの総放出水分量の90%未満の高比重球状アルミナ粉末を、80℃以上の熱水で処理することを特徴とする請求項1に記載の高比重球状アルミナ粉末の製造方法。
【請求項3】
平均粒子径が50μm以下、真球度が0.9以上、真比重が3.9以上であり、加熱放出ガス分析における、550℃までの累積水分放出量が1000℃までの総放出水分量の90%未満の高比重球状アルミナ粉末を、70℃以上のアルカリ性の水溶液にて処理、洗浄することを特徴とする請求項1に記載の高比重球状アルミナ粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂の充填材等として有用な高比重球状アルミナ粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体の高集積化や取り扱い電力の増大などによる電気機器の発熱が大きくなり、放熱が喫緊の課題となっている。従来は主にアルミナなどを焼結して作製したセラミックス基板を用いてデバイスの放熱を行っていたが、セラミックス基板は生産性が悪いほか、高価で脆く、重いという問題がある。これを解決するため、例えばアルミニウムなどの厚い金属板を放熱板としたメタルベース基板が考案され、現在市場が広がりを見せている。
【0003】
メタルベース基板は厚い金属板の上に樹脂製の絶縁層を配し、その上に回路を形成し、半導体を実装するものであるが、この絶縁層には熱をよく逃がす性質が求められる。このため、メタルベース基板の絶縁層は、樹脂に熱伝導性のフィラーを高充填することによって、絶縁性を確保しつつ、熱伝導性が付与されている。
【0004】
絶縁樹脂層の熱伝導性を高めるために、1)樹脂の高熱伝導化、2)フィラーの高熱伝導化、3)フィラーの高充填化、というそれぞれ独立した3つのアプローチがある。
【0005】
アルミナは、比較的安価でありながら化学的に安定であり、熱伝導性も比較的高いことから、有用な熱伝導性材料として広く検討されている。フィラーには様々な形状のものが存在するが、形状によって特徴が大きく変化することについては、これまでに数多くの報告例がある。
【0006】
フィラーの熱伝導性は、結晶数が少なく、真比重および純度が高いものほど良好となる。アルミナに関しては、最も真比重が高いαアルミナ単結晶が最も高い熱伝導性を示すが、球状アルミナは火炎溶融法により製造されることが一般的であるため、αアルミナ以外の結晶系も含まれる多結晶体となる。αアルミナ以外の結晶系は、いずれも高温により最終的にαアルミナに遷移していくため、球状アルミナを高温で再焼成することで球状を維持したままαアルミナ比率を高め、再焼成前の通常のアルミナよりも熱伝導性も高くすることができる。しかし、火炎溶融法により製造された通常のアルミナを再焼成して得られた高比重球状アルミナを実際に樹脂に混練すると、通常アルミナよりも硬化体物性が低下してしまう問題があった。この原因は、焼成によってアルミナ表面の水酸基が失われてしまうためであると考えられ、通常の球状アルミナ粉末よりも樹脂との濡れ性の悪化や、シランカップリング剤との反応点の減少による樹脂との化学結合の形成ができないことと考えられる。
【0007】
一般的な表面状態を改善する方法として、例えば特許文献1には窒化ホウ素および、窒化アルミニウム粒子に紫外線を照射することにより粒子表面の表面エネルギーを増加させ、混練性を改善する方法が提案されている。しかしながら、アルミナは窒化ホウ素よりも化学的安定性に優れることもあって、紫外線照射による表面の改質は難しいという問題があった。
【0008】
特許文献2には、平均粒径1〜10μmの球状アルミナを1100〜1500℃の熱処理をし、α化率80%、比重3.85以上に高めたアルミナ粉末とそれを使用した高熱伝導絶縁材料用の樹脂組成物が開示されている。この方法は、熱処理によってα化率を高める方法がとられているので、粒子表面の水酸基が失われて樹脂との親和性が低下してしまい、特に樹脂組成物の硬化体の機械物性および絶縁破壊電圧が低下する問題があった。
【0009】
特許文献3、4には、アルミナ原料を2200〜2400℃で火炎溶融し、40〜120L/hrの水噴霧で急冷することにより、孤立OH基の多い球状アルミナ粉末を製造する方法が開示されている。しかしながら、急冷により製造される球状アルミナ粉末は従来よりもαアルミナ以外の結晶系の割合の多い多結晶体になり易く、その熱伝導率が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2013/046784
【特許文献2】特開2014−9140号公報
【特許文献3】特開2011−98841号公報
【特許文献4】特開2011−102215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、樹脂との親和性が良好であり、高充填が可能な表面性状を有する高比重球状アルミナ粉末と、その製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、平均粒子径(D50)が50μm以下、真球度が0.9以上、真比重が3.9以上である高比重球状アルミナ粉末であり、加熱放出ガス分析における200℃までの累積水分放出量が1000℃までの総放出水分量の40%以下であること、550℃までの累積水分放出量が1000℃までの総放出水分量の90%以上であること、かつ600〜1000℃までの累積水分放出量が1000℃までの総放出水分量の10%以下であることを特徴とする高比重球状アルミナ粉末である。
【0013】
また、本発明は、平均粒子径が50μm以下、真球度が0.9以上、真比重が3.9以上であり、加熱放出ガス分析における550℃までの累積水分放出量が1000℃までの総放出水分量の90%未満の高比重球状アルミナ粉末を、80℃以上の熱水で処理すること、又は70℃以上のアルカリ性の水溶液にて処理、洗浄することを特徴とする上記の高比重球状アルミナ粉末の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表面性状を有する高比重球状アルミナ粉末は、高比重を維持したまま、樹脂との親和性が良く、シランカップリング剤の効果も大きいことから、様々な樹脂に高充填することができる。このため、自動車、携帯電子機器、産業機器、家庭用電化製品等の放熱シートや、メタルベース基板、モールディングのようなコンパウンド等の高熱伝導フィラーとして広く使用することができる。このような効果は、焼成によってアルミナ表面の水酸基が失われてしまった高比重球状アルミナ粉末の表面を改質することで、樹脂との濡れ性や、シランカップリング剤との反応性が改善されたことによるものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の高比重球状アルミナ粉末は、平均粒子径が50μm以下、真球度が0.9以上、真比重が3.9以上である高比重球状アルミナ粉末であり、加熱放出ガス分析において、次の特性を満足する。
a) 200℃までの累積水分放出量Aが、1000℃までの総放出水分量Dの40%以下であること、
b) 550℃までの累積水分放出量Bが、1000℃までの総放出水分量Dの90%以上であること、及び
c) 600〜1000℃までの累積水分放出量Cが、1000℃までの総放出水分量Dの10%以下である。
上記総放出水分量Dに対する累積水分放出量Aの比は、40%以下であるが、好ましくは、25〜38%の範囲である。上記総放出水分量Dに対する累積水分放出量Bの比は、90%以上であるが、好ましくは、90〜95%の範囲である。上記総放出水分量Dに対する累積水分放出量Cの比は、10%以下であるが、好ましくは、5〜8%の範囲である。
【0016】
ここで、加熱放出ガス分析の条件は実施例に記載の条件に従う。また、加熱放出ガス分析に付す初期状態の高比重球状アルミナ粉末は、常温25℃、相対湿度RH30%の条件で24h以上放置されたものである。
【0017】
本発明の高比重球状アルミナ粉末の製造方法は、平均粒子径が50μm以下、真球度が0.9以上、真比重が3.9以上の高比重球状アルミナ粉末を80℃以上の熱水、または70℃以上のアルカリ性の水溶液にて処理する方法である。この製造方法では、原料と使用する高比重球状アルミナ粉末と、製品として得られる高比重球状アルミナ粉末は、表面状態は変化しているが、平均粒子径、真球度、真比重は、殆ど変化しないので、平均粒子径、真球度、真比重に係る説明は、両方に共通する。
【0018】
本発明は、高比重球状アルミナの表面を改質することにより、上記加熱放出ガス分析における特定温度領域での水分放出量をある一定値以下又は以上にすることである。本発明により得られた高比重球状アルミナ粉末は樹脂との親和性が高いため、高比重球状アルミナを高充填した樹脂組成物の電極耐電圧および熱伝導率を向上させることができる。
【0019】
高比重球状アルミナ粉末の表面改質は、例えば熱水で20分以上撹拌することによって、フィラー表面水酸基に由来する上記加熱放出ガス分析における特定温度領域での水分放出量をある一定値以下にすることができる。この時の水温は70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。
【0020】
更に、アルミナはアルカリ性の水溶液に少量溶解することから、熱水にアルカリ性物質を添加すると、高比重球状アルミナの表面改質効果が高まることからさらに好ましい。熱水にアルカリ性物質を添加する場合は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの強アルカリ性を示すアルカリ金属の水酸化物が好ましく、その濃度は0.1M以上が好ましく、0.5〜5Mがより好ましい。なお、処理水に水溶性のアルカリ性物質を添加した場合は、処理水を脱水した後に純水で複数回洗浄を行うことが好ましい。このとき酸で中和処理を行ってしまうと、表面改質の効果を低減させてしまうため好ましくない。
【0021】
表面改質処理後の高比重球状アルミナ粉末は、不織布などのフィルターを用いて処理水より濾別し、熱風乾燥器などにより100℃以上の温度で8時間以上乾燥し、水分を除去することが好ましい。
【0022】
高比重球状アルミナ粉末の平均粒径D50は、5μm以上、50μm以下であることが好ましく、10μm以上、50μm以下がより好ましい。
アルミナ粉末の平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱式 粒子径・粒度分布測定によって測定される。なお、平均粒子径D50とは、フィラーの全体積を100%としたとき、粒子径の体積分率の累積カーブにおいて50%累積となるときの粒子径を意味する。
【0023】
アルミナ粉末は破砕形状、多面体、芋状、球状などの様々な形状が存在するが、球状で、真球度が0.9以上であることが好ましい。粒子形状が球状であることによって比表面積が小さくなるため、樹脂への高充填が可能となるほか、高充填時のワニス粘度を低減することができる。
【0024】
アルミナ粉末の真球度は、まず粒子像計測装置で撮影された一個一個の粒子像の周囲長と、その粒子像の面積に相当する円の周囲長を解析し、次式(1)にて計算される粉末粒子の円形度の2乗から得られる。
円形度=(撮影粒子投影面積相当円の周囲長)÷(撮影粒子像の周囲長)・・・(1)
なお、真球度の数値は粒子形状が真球に近似するにしたがって1に近似していき、粒子形状が真球より異なるにしたがい1よりも小さくなる。
【0025】
高比重球状アルミナ粉末の真比重は、α−アルミナ単結晶(比重:3.98)に近ければ近いほど良い。市販の一般的な球状アルミナ粉末は火炎溶融法によって製造されているため多結晶体であり、α−アルミナ以外のγ−アルミナやδ−アルミナなどの遷移アルミナをも含む。α−アルミナはアルミナの結晶系のなかでも最も比重が高く、かつ熱伝導率が高いため、アルミナ粉末の比重が3.98に近ければ近いほど熱伝導性が良好となる。実際にはアルミナ粉末の内部には若干の空隙を含むこともあるため、高比重球状アルミナ粉末の比重は3.9以上であることが好ましい。なお、アルミナ粉末の真比重は、JIS R9301−2−1アルミナ粉末の物性測定方法−ピクノメーター法による真密度に記載の方法を元に測定される数値である。
【0026】
原料として使用する高比重アルミナ粉末を得る方法ついては、塊状のαアルミナの粉砕や、アルミニウムアルコキシドの分解、アルミナ粉末の再焼成などによる方法があげられるが、通常の球状アルミナ粉末を後焼成する方法が好ましい。塊状のαアルミナの粉砕は粒子形状が不定形となるため、比表面積が大きくなり混練性が低下するほか、薬品や熱処理による球状化も難しい。また、アルミニウムアルコキシドの分解による方法も球状のフィラーを得ることが難しいほか、大粒径の粒子を得ることもまた困難である。
【0027】
通常の球状アルミナ粉末は、一般的に火炎溶融法により製造されているため、粒子内にはαアルミナ以外の結晶系のアルミナ(遷移アルミナ)が含まれている。しかし、これらの遷移アルミナは、いずれも1100℃以上の高温でαアルミナ結晶に転移するため、1100℃以上の温度でアルミナ粒子同士の焼結や、融解による形状の悪化を抑えるような条件にて再焼成することによって、球状を維持したまま高比重のアルミナ粉末を得ることが可能である。
【0028】
表面改質処理による高比重球状アルミナ粉末の水分の吸着状態は、加熱放出ガス分析における特定温度領域での水分放出量を用いて確認できる。
【0029】
本発明による表面改質された高比重球状アルミナ粉末は、粉末粒子表面の水酸基が多いため、シランカップリング剤との反応性が良好である。そのため、さらにシランカップリング剤を使用して表面を改質することができる。例えば改質に使用できるカップリング剤としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ジチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどを用いることができる。
【0030】
また、シランカップリング剤の代わりに他の表面処理剤を使用することもできる。表面処理剤としては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどのシラン系処理剤や、チタネート系、アルミネート系処理剤などを用いることができる。
【0031】
本発明の高比重球状アルミナ粉末は、表面改質されているためカップリング剤との反応性が高く、また様々な樹脂との親和性も良好である。また、本発明の球状アルミナ粉末をカップリング剤で処理したものはアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂等の様々な熱可塑性や硬化性の樹脂との密着性に優れた複合体とすることが可能である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。使用した材料および評価方法を下記に示す。
【0033】
・アルミナ粉末A:汎用球状アルミナ粉末、新日鉄住金マテリアルズ株式会社マイクロン社の球状アルミナ粉末AL35−75R(D50:35μm、真比重:3.80)
・アルミナ粉末B;高比重球状アルミナ粉末、新日鉄住金マテリアルズ株式会社マイクロン社の高比重球状アルミナ粉末TA22B(D50:35μm、真比重:3.94)
【0034】
・平均粒子径(D50)の測定
アルミナ粉末を0.2重量%ヘキサメタりん酸ナトリウム溶液に試料濃度が0.04重量%になるように混合し、超音波ホモジナイザーを用いて3分間分散させた。このフィラー分散液を、粒度分布測定装置マイクロトラックMT3300EX(日機装製)を用いて、波長780nmの半導体レーザの照射により得られた散乱光から粒子径分布を測定した。平均粒子径D50は、前記測定法により得られた粒子径分布において、粒子の全体積を100%としたとき、粒子径の体積分率の累積カーブにおいて50%累積となるときの粒子径を示す。
【0035】
・真比重の測定
JIS R9301−2−1アルミナ粉末の物性測定方法−ピクノメーター法による真密度に記載の方法を元に測定した。真比重が高いほど熱伝導性に優れる。
【0036】
・真球度の測定
シスメックス社製湿式フロー式粒子径・形状分析装置FPIA−3000を用いた。測定はビーカーに所定量のアルミナ粉末を入れ、蒸留水中で攪拌しながら超音波を3分間照射したのち、マグネットスターラで攪拌しながら吸引ピペットにより装置に投入して行い、得られたデータは75μm以下の粒子経範囲で解析し、各アルミナ粉末の真球度を算出した。
【0037】
・比表面積の測定
株式会社マウンテック製の全自動BET比表面積測定装置Massorb HM−1201を使用して、BET一点法測定にて実施した。
【0038】
・加熱放出ガスの分析
得られた表面改質高比重球状アルミナ粉末は、日鉄住金テクノロジー社製TE−360S 真空中加熱ガス抽出・質量分析装置と、アネルバ社製四重極質量分析計M201QA−TDMによって構成される加熱放出ガス分析装置にて分析を行った。
測定に先立ち、試料は所定量を精秤して装置に挿入後、2時間真空排気を行った後、試料を真空中で室温から1000℃まで毎分10℃の割合で定速昇温し、その間に試料より発生したH2Oガスの放出曲線を温度と単位質量あたりの質量スペクトル強度として求めた。
なお、H2Oの放出量を算出するにあたっては、日本鉄鋼連盟で販売している水素分析用管理試料JSS GS−7aを測定試料として同様に分析して得られた水素放出曲線を元に換算係数を求め、算出した。
【0039】
・吸油量の測定
アルミナ粉末の吸油量は、JIS K 5101−13−2顔料試験法−吸油量に記載の方法を元に測定した。吸油量が低いほど樹脂との親和性に優れる。
なお、油としては、煮あまに油に代わりに下記のエポキシ樹脂ワニスとポリイミド樹脂ワニスを使用した。
【0040】
ワニスとして、次のワニスa、b、cを用意した。
・ワニスa:エポキシ樹脂ワニス、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学製、エポトート8125(商品名)、エポキシ当量175、液状)をシクロペンタノンで固形分濃度85wt%に希釈した樹脂溶液
・ワニスb:ワニスaにシランカップリング剤として、サイラエースS−510(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、チッソ製)を1wt%添加した樹脂溶液
・ワニスc:ポリイミド樹脂ワニス、ピロメリット酸無水物(PMDA)と2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)の共重合物であるポリアミック酸のN,N−ジメチルアセトアミド溶液、固形分濃度10wt%
【0041】
実施例1
高比重アルミナ粉末Bを純水中に懸濁させたのち、懸濁液の水温を100℃まで加温し、20分間撹拌を行った。その後、不織布を使用したフィルターでアルミナ粉末を濾別し、100℃に設定した熱風乾燥器内で8時間乾燥を行い、表面改質高比重アルミナ粉末B1を得た。
【0042】
実施例2
高比重球状アルミナ粉末Bを1Mの水酸化ナトリウム水溶液に懸濁し、懸濁液の液温を80℃まで加温したのち、10時間撹拌を行った。その後、不織布を使用したフィルターでアルミナ粉末を濾別し、濾別後の洗浄水のpHが7になるまで水洗と濾過を繰り返した。洗浄後のアルミナ粉末は100℃に設定した熱風乾燥器内で8時間乾燥を行い、表面改質高比重アルミナ粉末B2を得た。
【0043】
比較例1
高比重球状アルミナ粉末Bを25℃の純水に懸濁し、5時間撹拌を行った。その後、不織布を使用したフィルターでアルミナ粉末を濾別し、100℃に設定した熱風乾燥器内で8時間乾燥を行い、表面改質高比重アルミナ粉末B3を得た。得られた表面改質高比重アルミナ粉末は、実施例と同様に物性を測定し表1に記載した。
【0044】
実施例及び比較例で得られた表面改質高比重アルミナ粉末(B1、B2、B3)、及び原料として使用したアルミナ粉末A(参考例1)とアルミナ粉末B(参考例2)の各種物性を測定し、まとめて表1に記載した。表1において、加熱放出ガス分析における単位は、10-3ml/gである。
【0045】
【表1】
【0046】
参考例1、2に示すように市販の通常球状アルミナ粉末Aは各種樹脂ワニスの吸油量は低いが真比重も低い。高比重アルミナ粉末Bは真比重は高いが、吸油量も高い。また、高比重球状アルミナの粉末Bはアルミナ粉末Aに比べて、200℃までにおける累積水分放出量の総H2Oガス放出量に対する割合が多くなっていた。アルミナ粉末における200℃までの温度領域でのH2Oガスの放出は、おもに粉末表面における吸着水に由来するものと見られることから、この温度域までにおける粉末表面の吸着水の少ないアルミナ粉末は吸着水の多いアルミナ粉末よりも樹脂ワニスとのなじみに優れることが示されている。
【0047】
実施例1、2及び比較例1で得た表面改質高比重アルミナ粉末B1、B2及びB3について検討すると、いずれの粉末においても平均粒径や比表面積、円形度については処理前と大きな差は見られなかったが、高比重球状アルミナ粉末B3では樹脂ワニスの吸油量は低下せず、表面改質処理の効果は確認できなかった。一方、実施例1および実施例2で得た高比重球状アルミナB1、B2は樹脂ワニスの吸油量が低下するとともに、シランカップリング剤を添加した樹脂ワニスbの吸油量が未添加の樹脂ワニスaよりもさらに減少する結果であった。さらに、高比重球状アルミナ粉末B1、B2の200℃までにおける累積放出H2Oガス量が総水分放出量の40%以下となっていたほか、さらに550℃までの累積H2Oガス放出量が総H2Oガス放出量の90%以上となっていた。このことは、表面改質処理によって高比重球状アルミナ粉末表面に水酸化アルミニウムやベーマイト等のアルミナ水和物に由来する水酸基が生成していると考えられ、表面改質によって真比重を高く維持したまま、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂およびシランカップリング剤を添加したエポキシ樹脂との親和性が良好な粒子表面状態とすることが可能とする。