【解決手段】樹脂(A)と高比重球状アルミナ粉末(B)を含む樹脂組成物であって、高比重球状アルミナ粉末(B)が、平均粒子径が50μm以下、真球度が0.9以上、真比重が3.9以上であり、真空下、400℃での拡散反射FT−IR法による高比重球状アルミナ粉末表面水酸基の赤外吸収スペクトルのクベルカンムンク吸光度が3720cm
樹脂(A)と高比重球状アルミナ粉末(B)を含む樹脂組成物であって、高比重球状アルミナ粉末(B)が、平均粒子径が50μm以下、真球度が0.9以上、真比重が3.9以上であり、真空下、400℃での拡散反射FT−IR法による高比重球状アルミナ粉末表面水酸基の赤外吸収スペクトルのクベルカンムンク吸光度が3720cm-1で0.001
0以上、かつ3550cm-1で0.0012以上であることを特徴とする高熱伝導性アルミナ粉末含有樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
本発明の高熱伝導性アルミナ粉末含有樹脂組成物(以下、樹脂組成物と記すことがある。)は、樹脂(A)と、高熱伝導性アルミナ粉末(B)を含有する。
【0018】
樹脂(A)は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が使用できる。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、クレゾール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂を用いることができる。好ましくは、光又は熱硬化性の樹脂であり、より好ましくは、熱膨張率が小さく、耐熱性、接着性に優れたエポキシ樹脂である。
【0019】
高熱伝導性アルミナ粉末(B)は、平均粒子径が50μm以下、真球度が0.9以上、真比重が3.9以上であり、真空下、400℃での拡散反射FT−IR法による高比重球状アルミナ粉末表面水酸基の赤外吸収スペクトルのクベルカンムンク吸光度(KM)が3720cm
-1で0.0010以上、かつ3550cm
-1で0.0012以上である。
【0020】
アルミナ粉末の種類としては、例えば、結晶性アルミナ、溶融アルミナ等が挙げられる。最密充填による高熱伝導性を図る観点から、結晶性アルミナ、溶融アルミナのいずれでもよいが、上記特性を満足する必要がある。
【0021】
一般的な球状アルミナ粉末は、火炎溶融法によって製造されているため多結晶体であり、α-アルミナ以外のγ-アルミナやδ-アルミナなどの遷移アルミナをも含む。α-アルミナはアルミナの結晶系のなかでも最も比重が高く、かつ熱伝導率が高いため、アルミナ粉末の比重が3.98に近ければ近いほど熱伝導性が良好となるが、実際にはアルミナ粉末の内部に若干の空隙を含むこともあるため、高比重球状アルミナ粉末の比重は3.9以上であればよい。高比重のアルミナ粉末を得る方法ついては、塊状のαアルミナの粉砕や、アルミニウムアルコキシドの分解、アルミナ粉末の再焼成などによる方法があげられるが、市販品としてあるような通常の球状アルミナ粉末を後焼成する方法が好ましい。塊状のα-アルミナの粉砕は粒子形状が不定形となるため、比表面積が大きくなり混練性が低下するほか、薬品や熱処理による球状化も真球度の高いものを作製することが難しい。また、アルミニウムアルコキシドの分解による方法も球状のフィラーを得ることが難しいほか、大粒径の粒子を得ることもまた困難である。
【0022】
上記のように通常の球状アルミナ粉末は、αアルミナ以外の結晶系のアルミナ(遷移アルミナ)が含まれているが、これらの遷移アルミナは、いずれも1100℃以上の高温でαアルミナ結晶に転移するため、1100℃以上の温度でアルミナ粒子同士の焼結や、融解による形状の悪化を抑えるような条件で再焼成することによって、球状を維持したまま高比重のアルミナ粉末を得ることが可能である。真比重が3.9以上の高比重アルミナ粉末はほぼα-アルミナ単体からなるが、α-アルミナは他の遷移アルミナに比べて表面水酸基が少ないため、樹脂との親和性やシランカップリング剤との反応性が通常球状アルミナ粉末よりも低下する。このため、高比重アルミナ粉末を充填した樹脂組成物の物性が、従来の通常球状アルミナを使用したものよりも低下してしまい、それ故に充填量を上げられず、高熱伝導性を有効に活用することができなかった。しかし、上記クベルカンムンク吸光度(KM)をある一定値以上とすることで、高比重球状アルミナ粉末の樹脂とに親和性性や、シランカップリング剤との反応性を向上させることができ、高比重球状アルミナを高充填した樹脂組成物の電極耐電圧および熱伝導率を向上させることができることが見出された。
【0023】
このような吸光度(KM)を満足する高比重球状アルミナ粉末は湿式もしくは乾式の表面改質処理を行うことによって得られるが、処理の均一性などの面から湿式処理が好ましく、例えば熱水で20分以上撹拌することによって、得ることができる。
なお、この時の水温は70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。さらに、アルミナはアルカリ性の水溶液に少量溶解することから、熱水にアルカリ性物質を添加すると、高比重球状アルミナの表面改質効果が高まることからより好ましい。
熱水にアルカリ性物質を添加する場合は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの強アルカリ性を示すアルカリ金属の水酸化物が好ましく、その濃度は0.1M以上が好ましく、0.5〜5Mがより好ましい。なお、処理水に水溶性のアルカリ性物質を添加した場合は、処理水を脱水した後に純水で複数回洗浄を行うことが好ましい。このとき酸で中和処理を行ってしまうと、表面改質の効果を低減させてしまうため好ましくない。
【0024】
表面改質処理後の高比重球状アルミナ粉末は、不織布などのフィルターを用いて処理水より濾別し、熱風乾燥器などにより100℃以上の温度で8時間以上乾燥し、水分を除去したものが好ましい。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、高比重球状アルミナ粉末(B)をフィラーとして含むが、高比重球状アルミナ粉末(B)と共に他の高熱伝導セラミックス粉末を使用してもよい。他の高熱伝導セラミックス粉末としては、熱伝導率が5W/m・K以上のものが適する。かかる他の高熱伝導セラミックス粉末としては、アルミナ、窒化アルミニウム、結晶シリカ、窒化ホウ素、窒化ケイ素等があり、価格や化学的安定性、粉末粒子形状から窒化アルミニウムや窒化ホウ素、窒化ケイ素などが好ましく挙げられる。他の高熱伝導セラミックス粉末は、高比重球状アルミナ粉末(B)と高比重球状アルミナ粉末(B)の合計に対し、0〜70wt%の範囲が好ましく、より好ましくは0〜50wt%の範囲である。
【0026】
フィラーとして配合される高比重球状アルミナ粉末(B)又は他の高熱伝導セラミックス粉末の粒度分布は、以下のように配合されることが好ましい。以下、フィラーというときは、特段の断りがない限り、高比重球状アルミナ粉末(B)を単独で使用するときは高比重球状アルミナ粉末(B)を意味し、他の高熱伝導セラミックス粉末を併用するときは両者を意味すると解される。
【0027】
i) 平均粒子径D50が0.1〜1.0μmの小粒径フィラーを、フィラーの全量に対し、15〜25wt%、好ましくは18〜22wt%、
ii) 平均粒子径D50が3〜20μmの範囲内の中粒径フィラーを、フィラーの全量に対し、15〜45wt%、好ましくは18〜42wt%、
iii) 平均粒子径D50が30〜60μmの範囲内の大粒径フィラーを、フィラーの全量に対し、40〜70wt%、好ましくは45〜65wt%。
ここで、上記小粒径フィラーと中粒径フィラーと大粒径フィラーの合計は100wt%であり、フィラー全体としてD50は50μm以下である。
【0028】
フィラーの粒子径分布が上記範囲から外れると高熱伝導性と絶縁性との両立が困難になり、樹脂組成物を硬化させた硬化物において、十分な放熱特性と耐電圧特性が得られない。また、フィラーの粒子径分布が上記範囲から外れると、ワニスとした場合の粘度、または樹脂フィルムとした場合の溶融粘度が増大して、例えば絶縁性の接着剤層とした場合の加工性や接着性が低下したり、表面状態が悪くなったりすることもある。なお、平均粒子径D50とは、フィラーの全体積を100%としたとき、粒子径の体積分率の累積カーブにおいて50%累積となるときの粒子径を意味する。
【0029】
フィラーのうち、大粒径フィラーおよび/または中粒径フィラーには、特に高比重球状アルミナ粉末(B)を使うことが熱伝導率の向上に効果的であり、フィラーの総重量の40wt%以上を高比重球状アルミナ粉末(B)とすることが好ましく、大粒径フィラーの全量を高比重球状アルミナ粉末(B)とすることがより好ましい。ただし、この場合の大粒径フィラーのD50は50μm以下とすることがよい。
また、フィラーの全量に対し、大粒径フィラーの配合量を50wt%以上にすることで、硬化物の厚み方向において大粒径フィラーが密に充填された状態となって厚み方向の熱伝導のパスが増加し、放熱特性を向上させることができる。それに対し、大粒径フィラーの配合量が少な過ぎると硬化物の厚み方向において隣接する大粒径フィラー間隔が開いて熱伝導のパスが少なくなり、放熱特性が低下する傾向がある。
【0030】
また、大粒径フィラーに加え、中粒径フィラー及び小粒径フィラーを上記i)、ii)で規定するとおり配合することによって、大粒径フィラーの隙間を中粒径フィラー及び小粒径フィラーで埋めることが可能になって最密充填状態となり、放熱特性を向上させることができる。それに対し、中粒径フィラー及び小粒径フィラーが、合計で30質量%未満の添加量であると、大粒径フィラーの隙間を中粒径フィラー及び小粒径フィラーで埋めることが出来ずに、充填不良となり、放熱特性の低下をまねく。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、高比重球状アルミナ粉末(B)含有量は、樹脂組成物の40wt%以上であることが好ましい。また、高比重球状アルミナ粉末(B)を含むフィラー全体としては、その含有量が70〜90wt%の範囲内であり、75〜85wt%の範囲内がより好ましい。ここで、フィラーの含有量は、樹脂組成物中の固形分あたりの含有量を意味する。
樹脂組成物中のフィラーの含有率は、多くなるほど放熱特性の向上を図ることが可能になる。樹脂組成物の固形分におけるフィラーの含有率が70wt以上であれば、熱伝導が十分に向上し、十分な放熱特性が発現する。一方、フィラーの含有率が90wt%より多くなると、耐電圧特性の低下を招くほか、ワニスとした場合の粘度が増大したり、樹脂フィルムとした場合の溶融粘度が増大して、加工性や接着性が低下したり、表面状態が悪くなったりすることがある。
【0032】
なお、樹脂組成物の固形分とは、例えば樹脂組成物が所定の溶剤を含むワニスの場合、このワニスを用いて絶縁層や接着剤層などの硬化物を形成する過程で、乾燥や硬化によって溶剤が除去された後に最終的に残る固形分を意味する。ここで、ワニスは、樹脂組成物の粘度を低減させて加工性を向上させることを目的として溶剤を含有させたものであるが、最終的に絶縁層や接着剤層などの硬化物を形成した後では、溶剤は乾燥、熱処理により除去される。従って、樹脂組成物中での成分の含有率は、樹脂組成物の固形分に対する成分含有率を用いて規定することとした。なお、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて任意成分が配合される場合もあるが、その場合には別途配合された任意成分も含めて固形分量を計算すればよい。
【0033】
次に、本発明の樹脂組成物における(A)成分である樹脂原料の好ましい態様として、エポキシ樹脂系材料を用いる場合を例に挙げて説明する。エポキシ樹脂系材料は、例えば(イ)エポキシ樹脂、(ロ)硬化剤、及び(ハ)フェノキシ樹脂を含有する。
【0034】
(イ)エポキシ樹脂としては、樹脂組成物から絶縁性の接着剤層や樹脂フィルムを作製した場合に、十分な絶縁性、密着性、耐熱性、機械的強度、加工性等を付与する。このエポキシ樹脂としては、特に制限なく使用できるが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂等の分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂を例示することができる。これらのエポキシ樹脂は1種又は2種以上を用いることができる。また、エポキシ樹脂の純度については、耐電圧特性、耐湿信頼性向上の観点からイオン性不純物や加水分解性塩素が少ないものであることが好ましい。更に、Bステージ状態(半硬化の状態)の樹脂フィルムとした場合の割れを防止するという観点から、エポキシ樹脂100重量部に対して、液状のエポキシ樹脂を好ましくは30重量部以上、より好ましくは50重量部以上配合することがよい。ここで、液状とは、25℃で流動性を有する液体であることを意味し、具体的には、粘度20000Pa・s以下の液体を意味する。エポキシ樹脂として、液状のエポキシ樹脂を配合することにより、Bステージ状態の樹脂フィルムの軟化点を低下させ、表面の割れを抑制することができる。
【0035】
また、(イ)エポキシ樹脂は、エポキシ当量が150〜220の範囲内、好ましくは150〜200の範囲内にあるエポキシ樹脂を、エポキシ樹脂の全量に対して50重量%以上、好ましくは60重量%以上含有することがよい。このエポキシ当量が150〜220の範囲内にあるエポキシ樹脂は、2種以上のエポキシ樹脂の組み合わせであってもよい。全エポキシ樹脂の平均のエポキシ当量が150を下回ると、エポキシ樹脂の結晶性が高くなり、溶剤溶解性が低下し、Bステージの樹脂フィルムが作製困難となることやBステージ割れが生じやすくなる。一方、全エポキシ樹脂の平均のエポキシ当量が220を上回ると、樹脂組成物の硬化後のガラス転移温度(Tg)が低下する傾向になる。
【0036】
上記樹脂組成物を硬化させて得られる本発明の硬化物のガラス転移温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは100〜180℃の範囲にあることがよい。硬化後の硬化物のガラス転移温度が100℃未満では、回路基板の実使用温度以下となり、金属配線からの金属イオンの発生を抑制する作用(耐マイグレーション性)が低下する傾向になる。なお、硬化物のガラス転移温度の測定は、例えば以下のようにして実施できる。まず、樹脂組成物をメチルエチルケトン溶剤に溶解して90重量%樹脂溶液とした後、縦×横×厚さ=50×150×1mmのフッ素樹脂シート上に塗布し、135℃で5分間乾燥して溶剤を蒸発させる。その後、塗布面に同一形状の別のフッ素樹脂シートを重ね、170℃で1時間、真空加熱プレスを行って、試料となる硬化物フィルムを調製する。このように調製した試料の温度分散tanδ曲線を、動的粘弾性測定装置を用い、周波数10Hz、温度範囲−150〜200℃、昇温速度2℃/分の条件で測定し、得られた温度−tanδ曲線のピーク温度をガラス転移温度(Tg)とすることができる。
【0037】
イ)エポキシ樹脂の含有率は、例えばエポキシ系樹脂原料の固形分100重量部に対して20〜90重量部の範囲内であることが好ましく、40〜80重量部の範囲内がより好ましい。エポキシ樹脂の含有量が前記固形分100重量部に対して90重量部より多くなると、樹脂組成物のBステージ状態での作業性の低下や、硬化物が脆くなり、接着力の低下や耐熱性の低下、耐温度サイクル性の低下などが生じることがある。一方、エポキシ樹脂の含有量が前記固形分100重量部に対して20重量部未満であると、樹脂組成物の硬化が不十分となり、接着力の低下や耐熱性の低下が生じることがある。
【0038】
(ロ)硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化させる目的で配合されるものであり、樹脂組成物から絶縁層、接着剤層や樹脂フィルムを作製した場合に、十分な絶縁性、密着性、耐熱性、機械的強度等を付与するもので、アミン系やフェノール系、酸無水物系など一般的なエポキシ樹脂用の硬化剤であれば使用することができるが、中でもイミダゾール化合物が好ましく使用される。イミダゾール化合物は、例えば硬化時の熱処理において加熱されてもアンモニウムイオンを遊離させることがないため、硬化剤としてイミダゾール化合物を用いることによって、樹脂組成物を硬化させた硬化物中のアンモニウムイオンの量を容易に50重量ppm以下に抑えることができる。
【0039】
イミダゾール化合物としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4―メチル−2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等を挙げることができる。上記イミダゾール化合物の中でも、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールを用いることが最も好ましい。一般に、イミダゾール化合物をエポキシ樹脂の硬化剤として使用する場合、イミダゾール化合物の活性が高いために硬化反応が進行しやすく、硬化反応のコントロールが難しい側面がある。2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールは、分子内に反応性の高いヒドロキシル基を2つ有しているが、反面、嵩高い官能基で反応性を抑える作用を有するフェニル基も有しているため、硬化剤としての活性を適度に抑えることが可能であり、硬化反応を適度にコントロールしやすい。また、硬化剤として2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールを使用することによって、例えば樹脂組成物の塗工時の温度を高めに設定することができる。
【0040】
イミダゾール化合物は、通常はエポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物において、硬化促進剤として配合されることが多いが、本実施の形態の樹脂組成物においては、硬化剤としてイミダゾール化合物以外の物質を使用しないため、エポキシ樹脂同士の縮合反応によって樹脂組成物を硬化させることができる。この場合、エポキシ樹脂の末端(又はエポキシ樹脂同士の縮合反応における架橋点の間)にイミダゾール化合物が結合し、この結合部位が触媒機能を奏することによって、エポキシ樹脂同士の縮合反応を促進するものと考えられる。このような反応特性から、イミダゾール化合物を硬化剤として機能させることができ、付加型の硬化剤成分を配合した反応系と比較すると、硬化剤としての配合量も低く抑えることができる。このようにイミダゾール化合物は、触媒型の硬化剤であるため、例えばジシアンジアミドやフェノールノボラック樹脂等の付加型の硬化剤成分が存在すると、付加型の硬化剤成分とエポキシ樹脂とが優先的に反応し、エポキシ樹脂単独での縮合反応は起こりにくい。
【0041】
(ロ)硬化剤の含有率は、例えばエポキシ系樹脂原料の固形分100重量部に対して2〜10重量部の範囲内であることが好ましく、3〜8重量部の範囲内がより好ましい。硬化剤の含有量が10重量部より多くなると、エポキシ樹脂に由来するハロゲン元素をハロゲンイオンとして誘発する恐れがある。一方、硬化剤の含有量が2重量部未満であると、硬化反応が十分に進行せず、接着力が低下したり、硬化時間が長くなって使用性が低下したりすることがある。また、十分な機械的強度を有する樹脂組成物が得られず好ましくない。
【0042】
(ハ)フェノキシ樹脂は、樹脂組成物から絶縁層、接着剤層や樹脂フィルムを作製した際の可とう性を向上させる成分である。フェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールAF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、臭素化ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、リン含有フェノキシ樹脂等が挙げられる。使用するフェノキシ樹脂の重量平均分子量は、例えば10,000〜200,000の範囲内が好ましく、20,000〜100,000の範囲内がより好ましい。フェノキシ樹脂の重量平均分子量が10,000より小さい場合には、エポキシ樹脂組成物の耐熱性、機械的強度、可とう性の低下を招くことがある。逆に、フェノキシ樹脂の重量平均分子量が200,000より大きいと有機溶剤への溶解性や、エポキシ樹脂、硬化剤との相溶性の低下を招くことに加えて、ワニスとした場合の粘度、または樹脂フィルムとした場合の溶融粘度が増大して、絶縁層、接着剤層としての加工性や接着性が低下したり、表面状態が悪くなったりする。尚、ここでの重量平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値である。
【0043】
(ハ)フェノキシ樹脂の含有量は、例えばエポキシ系樹脂原料の固形分100重量部に対して90重量部以下であることが好ましく、15〜70重量部の範囲内がより好ましい。フェノキシ樹脂の含有量が90重量部より多くなると、有機溶剤への溶解性が低下したり、(イ)エポキシ樹脂や(ロ)硬化剤との相溶性の低下を招いたりすることがある。また、ワニスとした場合の粘度や樹脂フィルムとした場合の溶融粘度が増大して、絶縁層、接着剤層としての加工性、接着性が低下したり、表面状態が悪くなったりすることがあり、さらに、耐熱性の低下を招く場合もある。
【0044】
本発明の樹脂組成物では、(イ)エポキシ樹脂中に、エポキシ当量が150〜220の範囲内にあるエポキシ樹脂をエポキシ樹脂の全量に対して50重量%以上含むことが好ましい。このエポキシ樹脂に組み合わせて、(ハ)フェノキシ樹脂を配合することによって、絶縁層、接着剤層や樹脂フィルムを作製した際の可とう性を向上させることが可能であり、さらに、硬化物の耐熱性の低下を補うことができる。
【0045】
樹脂組成物において、上記(イ)エポキシ樹脂の主体となるエポキシ樹脂として、エポキシ当量が150〜220の範囲内にある(イ’)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(2官能)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(多官能)又はトリフェニルメタン型エポキシ樹脂(多官能)を使用し、(ロ)硬化剤として、(ロ’)2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールを用いる組み合わせが好ましく、さらに、これらとともに、(ハ)フェノキシ樹脂として、(ハ’)ビスフェノールA型フェノキシ樹脂を用いる組み合わせが最も好ましい。かかる(イ’)〜(ハ’)の組み合わせにより、長期に亘って接着力および絶縁性が低下しにくく、耐電圧特性に優れた絶縁層や接着剤層を形成できる。また、樹脂組成物を硬化させた硬化物において、優れた熱伝導性が得られるとともに、Bステージ成形品においては、柔軟性・可とう性が改善され、表面割れを防止できる。さらに、フィラーを配合したワニスの状態でも粘度が好ましくは1000〜20000Pa・sの範囲内、より好ましくは2000〜10000Pa・sの範囲内に維持され、フィラーの沈降を長期間抑制することが可能になる。なお、(イ)エポキシ樹脂において、エポキシ当量が150〜220の範囲内にある2官能のエポキシ樹脂と、エポキシ当量が150〜220の範囲内にある多官能のエポキシ樹脂とを併用することが特に好ましい。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、上記成分に加え、必要に応じて、例えば溶剤、ゴム成分、フッ素系、シリコーン系等の消泡剤、レベリング剤等を添加することができる。また、金属基板、銅配線等の部材との密着性向上の観点から、例えば、シランカップリング剤、熱可塑性オリゴマー等の密着性付与剤を添加することができる。さらに、この樹脂組成物には、高熱伝導セラミック粉末以外の充填剤として、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、他の無機充填剤、有機充填剤を添加してもよい。無機充填剤としては、例えばシリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等を挙げることができる。また、有機充填剤としては、例えば、シリコンパウダー、ナイロンパウダー、アクリロニトリル−ブタジエン系架橋ゴム等を挙げることができる。これらの充填剤については、その1種又は2種以上を用いることができる。また、樹脂組成物には、必要に応じて、フタロシアニン・グリーン、フタロシアニン・ブルー、カーボンブラック等の着色剤を配合することができる。
【0047】
本発明の樹脂組成物は、上記の必須成分および任意成分を混合することにより調製できる。この場合、溶剤を含むワニスの形態とすることが好ましい。すなわち、樹脂組成物は、所定の溶剤に溶解又は分散させてワニスを形成するようにしてもよい。ここで使用可能な溶剤としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド系溶剤、1−メトキシ−2−プロパノ−ル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤等の1種又は2種以上を混合したものを例示できる。硬化剤、フィラー、さらに、必要により添加される任意成分の中で無機充填剤、有機充填剤、着色剤等については、溶剤中に均一分散していれば、必ずしも溶剤に溶解していなくてもよい。
【0048】
ワニスは、例えば、以下に示す手順に従い調製することができる。まず、(ハ)フェノキシ樹脂を攪拌機付容器にて攪拌しながら適切な溶剤に溶解する。次に、この溶液に(イ)エポキシ樹脂、(ロ)硬化剤、さらに、任意成分を混合し、撹拌、溶解させる。なお、(イ)エポキシ樹脂の種類によっては、別途溶剤にエポキシ樹脂を溶解させた状態のものを調製しておき、それを混合するようにしてもよい。次に、この混合溶液にフィラーを配合し、攪拌し、均一に分散させることによって、樹脂組成物のワニスを作製することができる。
【0049】
ワニスは、粘度が1000〜20000Pa・sの範囲内であることが好ましく、2000〜10000Pa・sの範囲内であることがより好ましい。ワニスの粘度が1000Pa・sより小さい場合には、フィラーの沈降が生じやすくなり、また塗工時のムラやはじきなどを生じやすくなる。一方、ワニスの粘度が20000Pa・sより大きい場合は、流動性の低下により、塗工性が低下し、均一な塗膜の作製が困難になる。
【0050】
また、本発明の樹脂組成物においては、樹脂組成物の固形分当たりの煮沸抽出水ナトリウムイオンが20ppm以下、好ましくは5ppm以下であることが好ましい。樹脂組成物は、耐電圧特性向上の観点から不純物金属が可及的に低減されたものであることが好ましい。アルミナ粉末には、製法上の理由からアルミナ中にナトリウムが残存する可能性があり、これらは耐電圧特性に大きな影響を与えかねない。そのため、ナトリウムイオンの量が上記範囲内となるようにすることが好ましい。ナトリウムイオンの量を上記範囲内にするためには、市販品のアルミナの中でも、ナトリウムイオンの量が少ない高純度グレードを使用することが好ましい。
【0051】
次に、本発明の一実施の形態に関する樹脂フィルムについて説明する。この樹脂フィルムは、半硬化状態の樹脂と、フィラーとを含有する。本実施の形態の樹脂フィルムにおける上記フィラーの粒子径、その配合比、その最大粒子径、その平均粒子径、その含有量や、樹脂フィルムの膜厚、ナトリウムイオン濃度などは、上記樹脂組成物において説明した内容と同様である。
【0052】
本発明の半硬化樹脂フィルムは、Bステージ状態の樹脂フィルムであり、これは上記ワニスを支持材としてのベースフィルム上に塗布し、乾燥させることで得ることができる。また、上記ワニスを銅箔上に塗布し、乾燥させることによって樹脂フィルム付き銅箔を形成することもできる。ここで、樹脂フィルムの厚みは特に限定されるものではないが、硬化時の加圧条件や、樹脂フィルムの寸法の違いによる硬化後の膜厚の変動を考慮して、例えばBステージ状態の樹脂フィルムの膜厚は、硬化物の膜厚に対して、1.06〜1.33倍の範囲内とすることができる。別の観点から、硬化物の膜厚を150〜200μmの範囲内とするために、Bステージ状態の樹脂フィルムの膜厚を159〜266μmの範囲内とすることができる。Bステージ状態の樹脂フィルム(樹脂フィルム付き銅箔)は、折り曲げた場合に表面に割れ(クラック)が発生すると、製品としての価値が損なわれる。このようなBステージ状態での表面割れは、常温で固体の樹脂成分を多く配合することによって発生しやすくなる。硬化物中のアンモニウムイオンの含有量を低減する観点から、フェノールノボラック系の硬化剤を使用することも考えられるが、一般的に固体であるため、表面割れを生じやすい。しかし、硬化剤としてイミダゾール化合物を使用することによって、エポキシ系樹脂原料に占める固体の樹脂成分の割合を低く抑えることができるため好ましく使用される。また、イミダゾール化合物は、例えばフェノールノボラック系の硬化剤成分を配合した場合と比較すると、硬化剤としての配合量も低く抑えることができるため、常温で液状又は半固形の成分をより多く配合することができるので、Bステージ状態での柔軟性、可とう性が向上し、表面割れを防止することができるので好ましい。
【0053】
また、樹脂フィルム、又は樹脂フィルム付き銅箔(硬化前)のフィルムの柔軟性については、溶剤残存率が高いほどフィルムの柔軟性が良好な傾向にある。ただし、溶剤残存率が高すぎると、樹脂フィルム、又は樹脂フィルム付き銅箔(硬化前)にタックが発生したり、硬化時に発泡したりする。したがって、溶剤残存率は1重量%以下が好ましい。なお、溶剤残存率は、180℃雰囲気にて60分乾燥した際の、樹脂フィルム部分の正味重量減少率の測定により求めた値である。
【0054】
また、上記樹脂フィルム及び樹脂フィルム付き銅箔は、溶剤を含まない樹脂組成物を支持材としてのベースフィルム上に加熱溶融状態で塗布した後、冷却するようにして得てもよい。
【0055】
樹脂フィルム又は樹脂フィルム付き銅箔を形成する際に用いる支持材としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、銅箔、アルミ箔、離型紙等を挙げることができる。支持材の厚みは、例えば10〜100μmとすることができる。支持材として、銅箔、アルミ箔等の金属箔を用いる場合、金属箔は、例えば電解法、圧延法等により製造されたものであってもよい。なお、これらの金属箔においては絶縁層との接着性を高める観点から、絶縁層と接する側の面が粗化処理されていることが好ましい。
また、樹脂フィルム又は樹脂フィルム付き銅箔は、支持材としてのベースフィルム上に貼り合わせた後、銅箔に接していないもう一方の面を、保護材としてのフィルムで覆い、ロール状に巻き取って保存することもできる。この際に用いられる保護材としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、離型紙等を挙げることができる。この場合、保護材の厚みは例えば10〜100μmとすることができる。
【0056】
次に、本発明の硬化物について説明する。硬化物は、樹脂とフィラーを含有する。硬化物における上記フィラーの粒子径、その配合比、その最大粒子径、その平均粒子径、その含有量や、硬化物の膜厚などは、上記樹脂組成物において説明した内容と同様である。
この硬化物は、例えば、樹脂組成物から上記Bステージ状態の樹脂フィルム(又は樹脂フィルム付き銅箔)を調製した後、例えば150℃〜250℃の範囲内の温度に加熱して硬化させることによって製造できる。このようにして得られる硬化物は、熱伝導率が例えば10W/mK以上であることが好ましく、11W/mK以上であることがより好ましい。硬化物の熱伝導率が10W/mK以上であることにより、放熱特性が優れたものとなり、高温環境で使用される回路基板等への適用が可能になる。このように優れた熱伝導率は、上記高比重球状アルミナ粉末(B)を使用することと、フィラーの配合量を上記範囲内に調節することによって可能になる。
【0057】
また、本発明の硬化物は、絶縁破壊電圧が5kV以上であることが好ましい。硬化物の絶縁破壊電圧が5kV以上であることにより、十分な絶縁性が確保できることから、回路基板、電子部品等への適用が可能になる。このように優れた耐電圧特性は、高比重球状アルミナ粉末(B)を使用することと、配合量を上記範囲内に調節することによって可能になる。
【0058】
次に、本発明の実施の形態である金属ベース回路基板を製造する方法の一例について説明する。ここでは、アルミニウム基板を用いたアルミニウムベース回路基板を例示する。まず、樹脂組成物から上記の樹脂フィルム付き銅箔を得た後、この樹脂フィルム付き銅箔を、アルミニウム基板の上にバッチ式真空プレスを用いて、例えば、温度150〜250℃、圧力1.0〜30MPaの条件で接着する。この際、アルミニウム基板面に樹脂フィルム面を接触させ、支持材としての銅箔を上面とした状態で加熱、加圧して、エポキシ樹脂を硬化させることにより、アルミニウム基板に貼り付ける。このようにして、樹脂フィルムを絶縁性の接着剤層として、銅箔層とアルミニウム基板との間に介在させた積層体を得ることができる。次に、エッチングによって所定箇所の銅箔を除去することにより回路配線を形成し、最終的にアルミニウムベース回路基板を得ることができる。なお、アルミニウム基板の厚さについては、特に制限はないが、一般的には例えば0.5〜3.0mmとすることができる。
【0059】
本発明の樹脂組成物を用いて、銅による導体層、絶縁性の接着剤層、及びアルミニウム層からなるアルミニウムベース回路基板を得るには、前記方法のほかに、アルミニウム基板面に接着剤層を形成し、この接着剤層の上に銅箔を載せて、加熱、加圧しながら硬化させる方法、又はアルミニウム基板面に絶縁性の接着剤層を形成し、硬化させた後に、銅めっきにより銅の導体層を形成する方法を採用してもよい。なお、このときの接着剤層の形成に関しては、ワニスを塗布した後に加熱により溶剤を揮発させる方法、無溶剤のペーストを塗布する方法、あるいは樹脂フィルムを貼り合せる方法のいずれを用いてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0061】
[熱伝導率]
所定量のBステージの樹脂フィルムを用いて、圧縮プレス成形機にて180℃で10分加熱し、プレスから取り出した後、さらに乾燥機中にて180℃で50分加熱することにより、直径50mm、厚さ5mmの円盤状試験片を得た。この試験片を、英弘精機製熱伝導率測定装置HC−110を用いて、定常法により熱伝導率[W/m・K]を測定した。
【0062】
[電極耐電圧]
耐電圧特性については絶縁破壊電圧により評価した。先ず、フィルム状樹脂付き銅箔を、バッチ式真空プレスを用いて、圧力10MPa、最高温度180℃で1時間維持の温度プロファイルにおいて、厚さ1.5mmのアルミニウム基板にプレスし、硬化させた。その際、アルミニウム基板面にフィルム状樹脂面を接触させ、銅箔を上面とした状態で加圧してアルミニウム基板に貼り付けた。そして、この試験片を180×180mmに切り取り、銅箔側のそのエリア内に、1箇所当たり直径20mmの円形測定電極を等間隔で縦2列、横2列の計4箇所、銅箔のエッチングすることにより形成した。このとき、4箇所の測定電極は互いに絶縁されていなければならない。このようにして得られた試験片を、多摩電測製TP−516UZを用いて、23℃の絶縁油中での短時間破壊試験法により1サンプルあたり複数枚測定した。そして各サンプルの絶縁破壊電圧の値として、複数枚の同一サンプルの絶縁破壊電圧測定値の平均値を採用した。
【0063】
[電気信頼性]
電気信頼性については、恒温恒湿バイアス試験によって評価した。先ず、塗工基材である離形層付きPETフィルムから引きはがした未硬化樹脂シート(165mm角)の両面に、厚さ70μm電解銅箔(170mm角)の粗化面が樹脂シート側になるよう積層後、バッチ式真空プレスを用いて、圧力10MPa、最高温度180℃で1時間維持の温度プロファイルにおいて、加熱圧着し両面銅張積層板を作製した。作製した両面銅張積層板を160×160mmに整角したのち、PETフィルムから引きはがした側の銅箔面に、1箇所当たり直径20mmの円形電極を等間隔で縦2列、横2列の計4箇所をエッチング処理により形成した。そして、さらにこの4箇所の測定電極をそれぞれ電極より10mm以上の絶縁層を確保可能なサイズの個片に切り離し、恒温恒湿バイアス試験用の試験片とした。このようにして得られた試験片は、円形測定電極とその裏面の銅箔にバイアス印加用の配線を半田付けしたのち、恒温恒湿器を備えた楠本化成社製SIRシリーズ絶縁劣化、特性評価システム装置を用い85℃、85%RHの雰囲気化でDC1kVのバイアスを連続印加し、250時間の間、試験片の絶縁抵抗値を測定し続けた。試験片の良否については、絶縁性が維持されているか否かとし、その判定基準は試験片の絶縁抵抗値が1.0×10
6Ωを下回った場合を絶縁不良と判断とした。なお、試験結果は、試験に投入した各例ごとに4枚の試験片を使用し、250時間後も全て絶縁不良が無ければ◎、2枚以上絶縁不良が無ければ○、1枚のみ絶縁不良が無かった場合を△、全て絶縁不良となった場合を×とした。
【0064】
[ボイド量]
アルファミラージュ社製電気比重計EW-300SGにより、液温23℃におけるBステージ状態の樹脂シートと、熱伝導率測定用の樹脂硬化物の密度をアルキメデス法により測定し、Bステージ状態の樹脂フィルムと硬化物の密度測定結果から、下式によって樹脂フィルム中のボイド量の計算をおこなった。
V(void) vol%=(1/ρ(樹脂フィルム)-1/ρ(硬化物))*ρ(樹脂シート)*100vol%
なお、厳密には上記式において、プレス後に残存する微少なボイドおよび硬化に伴う硬化収縮を考慮すべきであるが、この計算ではこれを考慮しない概算である。
【0065】
[三点曲げ試験片の作成方法およびその測定]
Bステージ状態の樹脂フィルムを折りたたみ、幅10mm、長さ100mm、厚さ4mmの形であけられた金型に入れて、180℃、15MPa、10分の条件でプレスをおこなった。得られた試験片は180℃、1hの条件でポストキュア処理をおこなった。得られた試験片は研磨により周囲の突起を除去した。三点曲げ試験はJIS K-7171に従って測定をおこなった。装置は島津製作所社製AUTOGRAPH AGS-X 10kNを用いた。
【0066】
[ナトリウムイオン含有率]
所定量のフィルム状樹脂を用いて、圧縮プレス成形機にて180℃で10分加熱し、プレスから取り出した後、さらに乾燥機中にて180℃で50分加熱することにより、硬化物試験片を得た。このようにして得られた硬化物1gを純水50cc中に、121℃にて20時間抽出した。この抽出水について、DIONEX製イオンクロマト測定装置DX−300を用いて、ナトリウムイオン濃度を測定した。ナトリウムイオンの含有率は、硬化物に対するナトリウムイオンの重量分率(ppm)で示した。
【0067】
高熱伝導性樹脂組成物、及び樹脂フィルムを作製するために使用した原料とその略号は以下の通りである。
(イ)エポキシ樹脂
・ エポトート8125:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学製、エポトート8125(商品名)、エポキシ当量175、液状)
・ EPPN−501H;トリフェニルメタン型エポキシ樹脂(日本化薬製、EPPN−501H(商品名)、エポキシ当量170、半固形)
(ロ)硬化剤
・ 2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業製、キュアゾール2PHz−PW(商品名))
(ハ)フェノキシ樹脂
・ ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(新日鉄住金化学製、YP−50(商品名))
(ニ)シランカップリング剤
・ サイラエースS−510(チッソ製)
【0068】
・アルミナ粉末(1):通常球状アルミナ粉末、マイクロン社製、商品名;AL35−75R、球状、結晶性、平均粒子径D50:35μm
・アルミナ粉末(2):高比重球状アルミナ粉末、マイクロン社製、商品名;TA22B、球状、結晶性、平均粒子径D50:35μm
・アルミナ粉末(3):マイクロン社製、商品名;AL10−75R、球状、結晶性、平均粒子径D50:10μm、比重:3.83
アルミナ粉末(4):アドマテックス社製、商品名;AO−802、球状、結晶性、平均粒子径D50:0.7μm、比重:3.75
【0069】
参考例1
表面改質された高比重球状アルミナ粉末は下記の処理により得た。
高比重球状アルミナ粉末(2)を25℃の純水に懸濁し、5時間撹拌を行った。その後、不織布を使用したフィルターでアルミナ粉末を濾別し、100℃に設定した熱風乾燥器内で8時間乾燥を行い、表面改質高比重アルミナ粉末(2A)を得た。
【0070】
参考例2
高比重球状アルミナ粉末(2)を純水中に懸濁させたのち、懸濁液の水温を100℃まで加温し、20分間撹拌を行った。その後、不織布を使用したフィルターでアルミナ粉末を濾別し、100℃に設定した熱風乾燥器内で8時間乾燥を行い、表面改質高比重アルミナ粉末(2B)を得た。
【0071】
参考例3
高比重球状アルミナ粉末(2)を1Mの水酸化ナトリウム水溶液に懸濁し、懸濁液の液温を80℃まで加温したのち、10時間撹拌を行った。その後、不織布を使用したフィルターでアルミナ粉末を濾別し、濾別後の洗浄水のpHが7になるまで水洗と濾過を繰り返した。洗浄後のアルミナ粉末は100℃に設定した熱風乾燥器内で8時間乾燥を行い、表面改質高比重アルミナ粉末(2C)を得た。
【0072】
参考例4〜5
得られた表面改質高比重アルミナ粉末(2A〜2C)、及び原料として使用したアルミナ粉末(1)および(2)について、粒度分布測定、真比重測定、比表面積測定を行った後、加熱拡散反射法を用いた赤外吸収分光分析によるKM吸光度の測定による表面性状の調査と吸油量試験を行った。結果を表1にまとめて示す。
【0073】
[平均粒子径(D50)]
アルミナ粉末を分散媒である0.2重量%ヘキサメタりん酸ナトリウム溶液に試料濃度が0.04重量%になるように計量して混合し、超音波ホモジナイザーを用いて3分間分散させた。このフィラー分散液を、粒度分布測定装置マイクロトラックMT3300EX(日機装製)を用いて、波長780nmの半導体レーザの照射により得られた散乱光から粒子径分布を測定した。平均粒子径D50は、前記測定法により得られた粒子径分布において、粒子の全体積を100%としたとき、粒子径の体積分率の累積カーブにおいて50%累積となるときの粒子径を示す。
【0074】
[真比重測定]
アルミナ粉末の真比重は、JIS R9301−2−1アルミナ粉末の物性測定方法−ピクノメーター法による真密度に記載の方法を元に確認を行った。
【0075】
[真球度測定]
アルミナ粉末の円形度は、シスメックス社製湿式フロー式粒子径・形状分析装置FPIA−3000を用いた。測定はビーカーに秤量した所定量のアルミナ粉末を、蒸留水中で攪拌しながら超音波を3分間照射したのち、マグネットスターラで攪拌しながら吸引ピペットにより装置に投入して行い、得られたデータは75μm以下の粒子経範囲で解析し、各アルミナ粉末の真球度を算出した。
【0076】
[比表面積測定]
アルミナ粉末の比表面積測定は、株式会社マウンテック製の全自動BET比表面積測定装置Massorb HM−1201を使用して、BET一点法測定にて実施した。
【0077】
[KM吸光度]
得られた表面改質高比重球状アルミナ粉末は、エス・ティ・ジャパン社製STJ900℃加熱拡散反射装置を備えたフーリエ変換赤外吸光分析装置(アジレントテクノロジー社製Varian 660−IR)にてKM吸光度を測定した。なお、測定に先立ち、装置の真空排気後、測定試料を400℃まで昇温し、そのまま2時間保持した。測定条件は測定波数を400〜4000cm
-1の領域とし、分解能は4cm
-1とした。測定後はバックグラウンド補正をおこない、Kubelka−Munk式を用いて強度補正をおこなった。
【0078】
[吸油量]
高比重球状アルミナ粉末の吸油量は、JIS K 5101−13−2顔料試験法−吸油量に記載の方法を元に実施した。なお、油としては、煮あまに油に代わりに下記のエポキシ樹脂ワニスとポリイミド樹脂ワニスを使用した。
【0079】
・ワニスa;ビスフェノールA型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学製、エポトート8125(商品名)、エポキシ当量175、液状)をシクロペンタノンで固形分濃度85wt%に希釈した樹脂溶液
・ワニスb;エポキシ樹脂ワニスaにシランカップリング剤として、サイラエースS−510(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、チッソ製)を1wt%添加した樹脂溶液
・ワニスc;ピロメリット酸無水物(PMDA)と2,2ービス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)の共重合物であるポリアミック酸のN,N−ジメチルアセトアミド溶液 (固形分濃度10wt%)
【0080】
【表1】
【0081】
アルミナ粉末は真比重が高いほど熱伝導性に優れ、吸油量が少ないほど樹脂との親和性に優れる。アルミナ粉末(1)は、真比重が低いが、各種樹脂ワニスの吸油量は少なく、樹脂との親和性に優れるのに対し、高比重アルミナ粉末(2)は真比重が高いものの、吸油量が多く、樹脂との親和性は通常球状アルミナよりも低い。このとき、高比重球状アルミナ粉末(2)の特定の波長におけるKM吸光度は、非常に小さい数値であった。一方、表面改質処理を施した表面改質高比重アルミナ粉末(2A〜2C)のKM吸光度が未処理品よりも高くなっており、特にアルミナ粉末(2B〜2C)は吸油量の低下、すなわち、樹脂との親和性の向上が見られた。
これらの波長域の赤外吸収ピークはアルミナ粉末の最表面にある孤立水酸基およびアルミナ水和物に由来する水酸基の伸縮振動に帰属されることから、粉末粒子表面に親水基を有するアルミナ粉末は親水基を有さないアルミナ粉末よりも樹脂ワニスとの親和性に優れることが示されている。このことは、エポキシ樹脂ワニスaにシランカップリング剤を添加すること(エポキシ樹脂ワニスb)によって吸油量がさらに減少する結果からも明らかである。
【0082】
実施例1〜2、比較例1〜3及び
上記の原料を表2に示す割合で配合した。まず、フェノキシ樹脂のみを、攪拌機付容器にて、メチルイソブチルケトン(MIBK)に攪拌、溶解した。次に、このMIBK溶液に、エポキシ樹脂、硬化剤、シランカップリング剤を配合し、撹拌、溶解した。その後、この混合溶液にアルミナ粉末を配合し、攪拌、分散させ比較例1〜3及び実施例1、2の高熱伝導性樹脂組成物のワニスを作製した。
このワニスを、厚さ50μmの離型処理PETフィルム(三菱化学製MR−50)に、硬化物の膜厚が150μmとなるように塗工し、110℃で5分乾燥させてBステージ状態とした後、180℃で硬化させて、比較例1〜3及び実施例1、2の硬化物を得た。得られた硬化物について、絶縁破壊電圧を測定し、耐電圧特性を評価した。その結果を表2に併記した。なお、表2中、エポキシ系樹脂原料aの配合量は、高熱伝導性樹脂組成物の全固形分に対する質量%で示し、各アルミナ粉末の配合量は、高熱伝導性樹脂組成物の全固形分に対する質量%を記した。
【0083】
【表2】
【0084】
表2からアルミナ粉末(2B)、(2C)を使用した樹脂組成物の硬化物は、表面処理を行わなかった高比重球状アルミナを使用した樹脂組成物の硬化物よりもボイド量が少なく、電極耐電圧や曲げ弾性率および曲げ強度も通常球状アルミナを使用した樹脂組成物の硬化体と同等以上にまで向上した。一方、KM吸光度が一定値未満であった表面改質高比重アルミナ(2A)については、表面改質処理なしの高比重球状アルミナよりも硬化体の物性はさらに低下する結果となった。
このように、高比重球状アルミナ粉末表面を、特定のKM吸光度となるように調整することによって、高比重球状アルミナの特徴である高熱伝導性を維持しつつ、良好な物性を示す樹脂組成物の硬化体を作製することが可能となった。