【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は本実施例により何等限定されるものではない。なお以下の実施例において、樹脂のガラス転移温度をはじめとする各項目は、下記の方法により測定した。
【0054】
[ガラス転移温度 ℃]
エラストマーを含む樹脂のガラス転移温度は、重合体のペレットの一部を採取して、示差熱走査型熱量計(メトラー社製「TA−4000」)を使用して昇温速度10℃/分にて測定した。
【0055】
[制振性能(tanδ)]
制振性能の値は、下記実施例で得た複合体を幅3mm、厚み1.5mm、試料長15mmに切り出し、GABO社製の動的粘弾性装置「EPLEXOR 150N」を用いて、周波数10Hz、昇温速度3℃/minにて、−80℃から弾性率が低下する温度まで測定を行い、25℃でのtanδの値を求めた。この値が大きいほど、常温付近での制振性能の優れることを示す。
【0056】
[曲げ弾性率 GPa]
繊維強化樹脂複合体に関して、24℃における曲げ弾性率は、JISK7074に準拠して測定した。
【0057】
[含浸性]
強化繊維基材の含浸性に関する評価は、繊維強化樹脂複合体の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、断面中にボイドが占める面積比率により以下の通り3段階で評価した。
○:ボイドが占める面積が10%未満
△:ボイドが占める面積が10%以上30%未満
×:ボイドが占める面積が30%以上
【0058】
[賦形成形性]
強化繊維基材の賦形成形性に関し、
図6のような金型を用いて成形した際の、成形体の外観を観察することにより、以下の観点から3段階で評価した。
○:外観に皺などが見られず、良好である。
△:一部外観に皺などが見られる。
×:成形体の一部に穴などが見られ、不良である。
【0059】
〔参考例1〕
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン3000ml、開始剤として濃度10.5質量%のsec−ブチルリチウム(シクロヘキサン溶液)4.6mlを仕込み、50℃に昇温した後、スチレンを320ml加えて60分間重合した。
その後、温度を40℃に低下させ、THFを25ml加え、イソプレンとブタジエンの50/50(質量比)の混合物を10ml加えて反応させ、3分間おいてから同量のイソプレンとブタジエンの50/50(質量比)の混合物を加えて反応させるという操作を繰り返して行い、最終的にイソプレンとブタジエンの混合物を合計450ml加え、その後さらに150分間反応を追い込んだ後、メタノール0.26mlで重合を停止し、ブロック共重合体を含む重合反応液を得た。上記で得られた重合反応溶液中に、オクチル酸ニッケルおよびトリエチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下に添加し、水素圧力0.8MPa、80℃で5時間の水素添加反応を行ない、ブロック共重合体の水素添加物(1)を得た。
【0060】
〔参考例2〕
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン3000ml、開始剤として濃度10.5質量%のsec−ブチルリチウム(シクロヘキサン溶液)19mlを仕込み、50℃に昇温した後、スチレンを120ml加えて60分間重合した。
その後、イソプレンを750ml加えて2時間重合を行い、さらにスチレン120mLを加えて3時間重合を行った。その後、メタノール1.1mlで重合を停止し、ブロック共重合体を含む重合反応液を得た。上記で得られた重合反応溶液中に、オクチル酸ニッケルおよびトリエチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下に添加し、水素圧力0.8MPa、80℃で5時間の水素添加反応を行ない、ブロック共重合体の水素添加物(2)を得た
【0061】
また、以下の例において、エラストマーとして使用した樹脂の詳細は表1の通りである。なお、前述したように、重合体ブロック(a)はビニル芳香族化合物重合体ブロックからなる重合体ブロックを表し、重合体ブロック(b)はガラス転移温度が−40℃〜30℃の範囲にある重合体ブロック、すなわち共役ジエン系重合体ブロックを表す。また、分子量とは、GPCを用いてポリスチレン換算により算出した数平均分子量を指す。
【0062】
【表1】
【0063】
[実施例1]
(手順1)A成分として、表1のエラストマー(1)を用い、一方、B成分として、分子量2000のポリエチレングリコール8モル%と5−ナトリウムスルホイソフタル酸を5モル%共重合した固有粘度[η]0.52のポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、A成分とB成分との複合比を75:25の質量比とし、それぞれを別々の押出し機で溶融させ、芯鞘断面で複合繊維を複合紡糸ノズルより吐出させた。
(手順2)ついで紡糸口金より吐出された糸条を、長さ1.0mの横吹付け型冷却風装置により冷却した後、連続して紡糸口金直下から1.3mの位置に設置した長さ1.0m、内径30mmのチューブヒーター(内壁温度:180℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した後、チューブヒーターから出てきた繊維に油剤を付与し、引き続いてローラーを介して3000m/分の引取り速度で巻き取って、111dtex/24フィラメントの複合繊維を製造した。
(手順3)得られた複合繊維から、目付け52.4g/m
2、厚さ0.334mmの織物を得た。この織物に精練を施した後、可性ソーダ20g/L、浴比1:30のアルカリ水溶液(液温100℃)中に30分間浸漬し、B成分であるPETを選択的に溶解除去した。得られたエラストマー(1)のみからなる織物の目付けは39.3g/m
2であった。
(手順4)強化繊維は炭素繊維織物(東邦テナックス社製「W−3101:3K織物、目付け200g/m
2」)を用いた。炭素繊維織物の上下両面に、上記で得られたエラストマー(1)からなる織物を2枚ずつ重ね合わせ合わせたものを1セットの複合基材とし、それを6枚積層させた後(総目付け=2143g/m
2)、220℃で10分間圧縮成形して平板を成形した。成形時における複合基材の設置などの取扱性は良好であった。
(手順5)得られた複合体の外観は良好であり、また複合体断面内のボイドも殆ど観測されなかった。室温での曲げ弾性率は7.1GPaであり、剛性に優れるものであった。また、tanδは0.154と高い値を示し、制振性能に優れていた。
(手順6)手順4と同様の繊維基材を用いて
図6に示す金型にて賦形成形を実施した。得られた成形体は目立った皺や基材の目ズレなども起こっておらず、外観は良好であった。成形時の取扱性に関しても良好であった。
【0064】
[実施例2]
(手順1)実施例1の手順2で得られた複合繊維フィラメントを集束させ、総繊度を190texとし、この複合繊維と、炭素繊維フィラメント(東邦テナックス社製「HTS40:3Kフィラメント、総繊度200tex」)とを用い、経糸、緯糸ともに複合繊維と炭素繊維を交互に配した織物を得た。得られた織物の目付けは390g/m
2であった。
(手順2)得られた交織織物に精練を施した後、可性ソーダ20g/L、浴比1:30のアルカリ水溶液(液温100℃)中に30分間浸漬し、B成分であるPETを選択的に溶解除去した。得られたエラストマー(1)のみからなる繊維と炭素繊維との交織織物の目付けは342g/m
2であった。
(手順3)得られた交織織物を複合基材として6枚積層させた後(総目付け=2052g/m
2)、220℃で10分間圧縮成形して平板を成形した。成形時における強化繊維基材の設置などの取扱性は良好であった。
(手順4)得られた複合体の外観は良好であり、また複合体断面内のボイドも殆ど観測されなかった。室温での曲げ弾性率は7.5GPaであり、剛性に優れるものであった。また、tanδは0.146と高い値を示した。
(手順5)手順3と同様の繊維基材を用いて
図6に示す金型にて賦形成形を実施した。得られた成形体は目立った皺や基材の目ズレなども起こっておらず、外観は良好であった。成形時の取扱性に関しても良好であった。
【0065】
[実施例3]
(手順1)実施例1の手順2で得られた複合繊維フィラメントを集束させ、総繊度を140texとし、この複合繊維と炭素繊維フィラメント(東邦テナックス社製「HTS40:3Kフィラメント、繊度200tex」)とを混繊することで、混繊糸を得た。この混繊糸を用いて、目付け390g/m
2の織物を得た。
(手順2)得られた織物に精練を施した後、可性ソーダ20g/L、浴比1:30のアルカリ水溶液(液温100℃)中に30分間浸漬し、B成分であるPETを選択的に溶解除去した。得られたエラストマー(1)のみからなる繊維と炭素繊維との混繊糸からなる織物の目付けは342g/m
2であった。
(手順3)得られた織物を複合基材として6枚積層させた後(総目付け=2052g/m
2)、220℃で10分間圧縮成形して平板を成形した。成形時における強化繊維基材の設置などの取扱性は良好であった。
(手順4)得られた複合体の外観は良好であり、また複合体断面内のボイドも殆ど観測されなかった。室温での曲げ弾性率は7.6GPaであり、剛性に優れるものであった。また、tanδは0.145と高い値を示した。
(手順5)手順2と同様の繊維基材を用いて
図6に示す金型にて賦形成形を実施した。得られた成形体は目立った皺や基材の目ズレなども起こっておらず、外観は良好であった。成形時の取扱性に関しても良好であった。
【0066】
[実施例4]
(手順1)実施例1の手順2で得られた複合繊維から、目付け59.9g/m
2、厚さ0.382mmの織物を得た。この織物に精練を施した後、可性ソーダ20g/L、浴比1:30のアルカリ水溶液(液温100℃)中に30分間浸漬し、B成分を選択的に溶解除去した。得られた織物の目付けは44.9g/m
2であった。
(手順2)強化繊維は炭素繊維織物(東邦テナックス社製「W−3101:3K織物、目付け200g/m
2」)を用いた。炭素繊維織物の上下両面に、上記で得られたA成分からなる織物を1枚ずつ重ね合わせ合わせたものを1セットとし、それを7枚積層させた後(総目付け=2029g/m
2)、220℃で10分間圧縮成形して平板を成形した。成形時における強化繊維基材の設置などの取扱性は良好であった。
(手順3)得られた複合体の外観は良好であり、また複合体断面内のボイドも殆ど観測されなかった。室温での曲げ弾性率は9.1GPaであり、剛性に優れるものであった。また、tanδは0.132と高い値を示した。
(手順4)手順2と同様の繊維基材を用いて
図6に示す金型にて賦形成形を実施した。得られた成形体は目立った皺や基材の目ズレなども起こっておらず、外観は良好であった。成形時の取扱性に関しても良好であった。
【0067】
[実施例5]
(手順1)実施例1の手順2で得られた複合繊維から、目付け44.4g/m
2、厚さ0.283mmの織物を得た。この織物に精練を施した後、可性ソーダ20g/L、浴比1:30のアルカリ水溶液(液温100℃)中に30分間浸漬し、B成分を選択的に溶解除去した。得られた織物の目付けは33.3g/m
2であった。
(手順2)強化繊維は炭素繊維織物(東邦テナックス社製「W−3101:3K織物、目付け200g/m
2」)を用いた。炭素繊維織物の上下両面に、上記で得られたA成分からなる織物を1枚ずつ重ね合わせ合わせたものを1セットとし、それを8枚積層させた後(総目付け=2133g/m
2)、220℃で10分間圧縮成形して平板を成形した。成形時における強化繊維基材の設置などの取扱性は良好であった。
(手順3)得られた複合体の外観は良好であり、また複合体断面内のボイドも殆ど観測されなかった。室温での曲げ弾性率は11.5GPaであり、剛性に優れるものであった。また、tanδは0.115と高い値を示した。
(手順4)手順2と同様の繊維基材を用いて
図6に示す金型にて賦形成形を実施した。得られた成形体は目立った皺や基材の目ズレなども起こっておらず、外観は良好であった。成形時の取扱性に関しても良好であった。
【0068】
[比較例1]
(手順1)表1のエラストマー(1)を用いて、加熱加圧成形により目付け85.2g/m
2の繊維でないフィルムのシートを作製した。
(手順2)強化繊維は炭素繊維織物(東邦テナックス社製「W−3101:3K織物、目付け200g/m
2」)を用いた。炭素繊維織物の上下両面に、上記で得られたエラストマー(1)からなるシートを1枚ずつ重ね合わせ合わせたものを1セットとし、それを6枚積層させた後(総目付け=2222g/m
2)、220℃で10分間圧縮成形して平板を成形した。成形時における強化繊維基材の設置などの取扱性は良好であった。
(手順3)得られた複合体の外観は良好であったが、複合体断面内のボイドが観測され、含浸性に劣る結果であった。また、室温での曲げ弾性率は6.3GPaであり、剛性にやや劣るものであった。また、tanδは0.159と高い値を示した。
(手順4)手順4と同様の繊維基材を用いて
図6に示す金型にて賦形成形を実施した。得られた成形体はやや皺や基材の目ズレなどが起こり、外観不良が発生し、賦形成形性に劣るものであった。成形時の取扱性に関しては良好であった。
【0069】
[比較例2]
(手順1)表1のエラストマー(1)の樹脂を予め粉砕し、パウダーとした。
(手順2)強化繊維は炭素繊維織物(東邦テナックス社製「W−3101:3K織物、目付け200g/m
2」)を用いた。炭素繊維織物に、上記で得られた(1)からなるパウダーを塗し、220℃、5分間加熱加圧成形することで、目付け340g/m
2の強化繊維基材を得た。それを6枚積層させた後(総目付け=2040g/m
2)、220℃で10分間圧縮成形して平板を成形した。成形時における強化繊維基材の設置などの取扱性は良好であった。
(手順3)得られた複合体の外観は、樹脂量にムラがあり劣るものであった。複合体断面内のボイドは殆ど観測されなかった。室温での曲げ弾性率は6.2GPaであり、剛性に劣るものであった。また、tanδは0.149と高い値を示した。
(手順4)手順1と同様の繊維基材を用いて
図6に示す金型にて賦形成形を実施した。得られた成形体は樹脂ムラに加えて、やや皺や基材の目ズレなどが起こり、外観不良が発生し、賦形成形性に劣るものであった。成形時の取扱性に関しては良好であった。
【0070】
[比較例3]
(手順1)繊維のA成分を表1のエラストマー(2)を用いる以外は実施例1と同様にして、繊維化並びに織物の作成、加熱加圧成形を行った。
(手順2)得られた複合体の外観は良好であり、また複合体断面内のボイドも殆ど観測されなかった。室温での曲げ弾性率は2.7GPaであり、剛性に劣るものであった。また、tanδは0.058と、実施例に比べて制振性能に劣るものであった。
(手順3)手順1と同様の繊維基材を用いて
図6に示す金型にて賦形成形を実施した。得られた成形体は目立った皺や基材の目ズレなども起こっておらず、外観は良好であった。成形時の取扱性に関しても良好であった。
【0071】
[比較例4]
(手順1)繊維強化樹脂複合体のマトリックス樹脂として、エラストマーの代わりにポリエーテルイミド(PEI)を用いるために、サービックイノベイティブプラスチックス社製「ULTEM(登録商標)9011」(ガラス転移温度:217℃)の樹脂ペレットを150℃で12時間真空乾燥した。
(手順2)上記樹脂ペレットを紡糸ヘッド温度390℃、紡糸速度1500m/分、吐出量50g/分の条件で丸孔ノズルより吐出し、2640dtex/1200fのPEI繊維マルチフィラメントを得た。次いで、得られた繊維を10mmにカットした。
(手順3)得られた繊維の外観は毛羽などなく良好で、単繊維の平均繊度は2.2dtex、平均カット長は10.1mmであった。
(手順4)(手順3)で得られたPEI繊維を97wt%、バインダーとしてポリビニルアルコール繊維を3wt%、とからなるスラリーを用いて湿式抄紙し、目付け72.4g/m
2の紙を得た。
(手順5)強化繊維基材は炭素繊維織物(東邦テナックス社製「W−3101:3K織物、目付け200g/m
2」)を用いた。炭素繊維織物の上下両面に、(手順4)で得られた紙を2枚ずつ重ね合わせ合わせたものを1セットとし、それを6枚積層させた後(総目付け=2069g/m
2)、360℃で10分間圧縮成形して平板を成形した。成形時における強化繊維基材の設置などの取扱性は良好であった。
(手順5)得られた複合体の外観は良好であり、また複合体断面内のボイドも殆ど観測されなかった。室温での曲げ弾性率は43.2GPaであり、剛性に優れるものであった。しかし、tanδは0.080と、実施例に比べて制振性に劣る結果であった。
(手順6)手順4と同様の繊維基材を用いて
図6に示す金型にて賦形成形を実施した。得られた成形体は目立った皺や基材の目ズレなども起こっておらず、外観は良好であった。成形時の取扱性に関しても良好であった。
【0072】
表2の結果から明らかなように、実施例の繊維強化樹脂複合体は、剛性と制振性に優れることが分かった。
【0073】
【表2】