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特開2015-193890複合ニッケル微粒子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-193890(P2015-193890A)
(43)【公開日】2015年11月5日
(54)【発明の名称】複合ニッケル微粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20151009BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20151009BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20151009BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20151009BHJP
【FI】
   B22F1/00 M
   B22F1/02 D
   B22F9/24 C
   C22C19/03 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2014-72711(P2014-72711)
(22)【出願日】2014年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591065549
【氏名又は名称】福岡県
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100107559
【弁理士】
【氏名又は名称】星宮 勝美
(74)【代理人】
【識別番号】100166257
【弁理士】
【氏名又は名称】城澤 達哉
(72)【発明者】
【氏名】井上 修治
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】有村 雅司
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 国孝
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA06
4K017BA03
4K017BB09
4K017BB18
4K017CA01
4K017DA01
4K017DA07
4K017EJ01
4K017FA16
4K017FB03
4K018BA04
4K018BB04
4K018BB05
4K018BB06
4K018BD04
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】 ニッケル微粒子の焼結時の熱収縮を抑制し、焼結開始温度を高める。
【解決手段】 複合ニッケル微粒子100は、ニッケル元素を含有するマトリックス部1と、該マトリックス部1に固定されたバリウム元素及びチタン元素を含む固定化複合酸化物10と、を備えている。固定化複合酸化物10は、好ましくは、マトリックス部1の表面に点在して、ほぼ均等な分布で固定化されている。複合ニッケル微粒子100は、X線回折によりペロブスカイト構造を示すピークが観測されない。固定化複合酸化物10におけるバリウム元素及びチタン元素のモル比は、例えば1:9〜9:1の範囲内である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル元素を含有するマトリックス部と、該マトリックス部に固定されたバリウム元素及びチタン元素を含む複合酸化物と、を備えた複合ニッケル微粒子であって、X線回折によりペロブスカイト構造を示すピークが観測されないことを特徴とする複合ニッケル微粒子。
【請求項2】
前記複合酸化物の結晶化度が0.6以下である請求項1に記載の複合ニッケル微粒子。
【請求項3】
X線回折により観測されるピークが、ニッケルのfcc又はhcpのピークのみである請求項1又は2に記載の複合ニッケル微粒子。
【請求項4】
バリウム元素及びチタン元素のモル比が1:9〜9:1の範囲内である請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合ニッケル微粒子。
【請求項5】
全金属成分に対し、バリウム元素及びチタン元素の合計が1〜10質量%の範囲内である請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合ニッケル微粒子。
【請求項6】
バリウム元素及びチタン元素の合計に対する酸素元素のモル比{酸素元素のモル数/(バリウム元素のモル数+チタン元素のモル数)}が2.0〜6.0の範囲内である請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合ニッケル微粒子。
【請求項7】
前記マトリックス部の表面に、硫黄含有化合物又は硫黄元素が被覆されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合ニッケル微粒子。
【請求項8】
前記マトリックス部は、ニッケル塩及び有機アミンを含む混合物から、湿式還元法によりニッケルイオンを還元して金属ニッケルを析出させて得られるものであり、前記複合酸化物は、前記ニッケルイオンを還元して金属ニッケルを析出させる過程において固定されたものである請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合ニッケル微粒子。
【請求項9】
ニッケル元素を含有するマトリックス部と、該マトリックス部に固定されたバリウム元素及びチタン元素を含む複合酸化物と、を備えた複合ニッケル微粒子の製造方法であって、
下記の工程Ia〜Ic;
Ia)ニッケル塩及び有機アミンを含む混合物を加熱してニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る工程、
Ib)バリウム元素及びチタン元素を含む複合酸化物の微粒子を有機アミンに分散させた分散液を準備する工程、
Ic)前記錯化反応液と前記分散液を混合して得られる混合物を加熱して、前記錯化反応液中のニッケルイオンを還元し、ニッケル元素を含有する前記マトリックス部を形成するとともに、前記複合酸化物の微粒子を前記マトリックス部に固定させて、複合ニッケル微粒子のスラリーを得る工程、
を備えていることを特徴とする複合ニッケル微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記複合酸化物の微粒子の結晶化度が0.6以下である請求項9に記載の複合ニッケル微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記複合酸化物の微粒子におけるバリウム元素及びチタン元素のモル比が1:9〜9:1の範囲内である請求項9又は10に記載の複合ニッケル微粒子の製造方法。
【請求項12】
前記工程Icにおける加熱が、マイクロ波照射によるものである請求項9〜11のいずれか1項に記載の複合ニッケル微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐焼結性が改善された複合ニッケル微粒子及びその製造方法に関し、より詳しくは、例えば積層セラミックスコンデンサ(MLCC)の内部電極材料などの用途に利用できる複合ニッケル微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MLCCは、セラミックス誘電体と内部電極とを交互に層状に重ねて圧着し、焼成して一体化させたものである。このようなMLCCの内部電極を形成する際には、内部電極材料である金属ニッケル微粒子をペースト化したのち、これをセラミックス基板上に印刷する。次いで、乾燥、積層及び圧着した後、通常、酸素雰囲気下で約250〜400℃に加熱して有機物を除去するための脱バインダー処理を行なう。このような加熱処理を行なうことによって、金属ニッケル微粒子は酸化され、それにより体積膨張が起きる。さらにその後、還元性雰囲気下で高温(例えばチタン酸バリウム系セラミックス誘電体では約1200〜1400℃)で焼結を行なうが、この焼結により、一旦酸化された金属ニッケル微粒子が還元されるとともに、体積の収縮が生じる。
【0003】
このように、MLCCの製造工程では、酸化反応や還元反応によって金属ニッケル微粒子が膨張・収縮して体積変化が生じる。また、セラミックス誘電体も焼結により膨張・収縮し、体積変化が生じる。ところが、金属ニッケル微粒子とセラミックス誘電体とでは、焼結時における膨張・収縮による体積変化の挙動が異なる。すなわち、金属ニッケル微粒子の焼結開始温度(約500℃)とセラミックス誘電体の焼結開始温度(約1000℃)が大きく異なるために、デラミネーションやクラック等の欠陥を生じるおそれがある。
【0004】
近年、MLCCにおいて小型化・高容量化が進み、内部電極の薄膜化が求められるに伴って金属ニッケル微粒子もナノサイズのものが求められている。しかし、サイズ効果の影響によって、金属ニッケル微粒子が小粒径化していくとより低温で収縮する傾向が強くなる。特に、金属ニッケル微粒子がナノサイズになると、サイズ効果によって上記デラミネーションやクラック等の欠陥が発生しやすくなる。従って、例えば150nm以下の粒径を有する金属ニッケル微粒子の焼結時の熱収縮を抑制し、焼結開始温度を高める工夫が求められている。
【0005】
金属微粒子の焼結時の熱収縮を抑制し、焼結開始温度を高める(つまり、耐焼結性を改善する)ため、ニッケル微粒子の表面を酸化物で被覆する技術が提案されている(特許文献1〜4)。その中で、例えば特許文献1では、表面の少なくとも一部に、式A(x+2y) [式中、AはCa、Sr及びBaの1種又は2種以上の元素、BはTi及びZrの1種又は2種の元素を表わし、xとyは次式を満足する数を表わす。0.5≦y/x≦4.5]で示される複合酸化物層を有するニッケル微粒子の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3475749号公報
【特許文献2】特許第4229566号公報
【特許文献3】特許第3772726号公報
【特許文献4】特許第4780272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の実施例によれば、複合酸化物層を有するニッケル微粒子について、X線回折(XRD)でペロブスカイト構造のBaTiO結晶のピークが検出されている。このことから、特許文献1のニッケル微粒子は、結晶化度の高いBaTiOの皮膜を有するものと考えられる。しかし、ニッケル微粒子に固着(固定化)させるBaTiOが高結晶性の場合は、ニッケル表面との相互作用(NiとBaTiOの結合)が弱く、得られる複合ニッケル微粒子において、BaTiO量が少なくなり、固着面積も小さくなり、熱収縮を抑える効果が低い、という課題があった。
【0008】
本発明の目的は、ニッケル微粒子の焼結時の熱収縮を抑制し、焼結開始温度を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、バリウム元素及びチタン元素を含むアモルファス状の複合酸化物をニッケル微粒子に複合化することによって、ニッケル微粒子の耐焼結性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の複合ニッケル微粒子は、ニッケル元素を含有するマトリックス部と、該マトリックス部に固定されたバリウム元素及びチタン元素を含む複合酸化物と、を備えた複合ニッケル微粒子であって、X線回折によりペロブスカイト構造を示すピークが観測されないことを特徴とする。
【0011】
本発明の複合ニッケル微粒子は、前記複合酸化物の結晶化度が0.6以下であってもよい。
【0012】
本発明の複合ニッケル微粒子は、X線回折により観測されるピークが、ニッケルのfcc又はhcpのピークのみであってもよい。
【0013】
本発明の複合ニッケル微粒子は、バリウム元素及びチタン元素のモル比が1:9〜9:1の範囲内であってもよい。
【0014】
本発明の複合ニッケル微粒子は、全金属成分に対し、バリウム元素及びチタン元素の合計が1〜10質量%の範囲内であってもよい。
【0015】
本発明の複合ニッケル微粒子は、バリウム元素及びチタン元素の合計に対する酸素元素のモル比{酸素元素のモル数/(バリウム元素のモル数+チタン元素のモル数)}が2.0〜6.0の範囲内であってもよい。
【0016】
本発明の複合ニッケル微粒子は、前記マトリックス部の表面に、硫黄含有化合物又は硫黄元素が被覆されていてもよい。
【0017】
本発明の複合ニッケル微粒子において、前記マトリックス部は、ニッケル塩及び有機アミンを含む混合物から、湿式還元法によりニッケルイオンを還元して金属ニッケルを析出させて得られるものであり、前記複合酸化物は、前記ニッケルイオンを還元して金属ニッケルを析出させる過程において固定されたものであってもよい。
【0018】
本発明の複合ニッケル微粒子の製造方法は、ニッケル元素を含有するマトリックス部と、該マトリックス部に固定されたバリウム元素及びチタン元素を含む複合酸化物と、を備えた複合ニッケル微粒子の製造方法である。本発明の複合ニッケル微粒子の製造方法は、下記の工程Ia〜Ic;
Ia)ニッケル塩及び有機アミンを含む混合物を加熱してニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る工程、
Ib)バリウム元素及びチタン元素を含む複合酸化物の微粒子を有機アミンに分散させた分散液を準備する工程、
Ic)前記錯化反応液と前記分散液を混合して得られる混合物を加熱して、前記錯化反応液中のニッケルイオンを還元し、ニッケル元素を含有する前記マトリックス部を形成するとともに、前記複合酸化物の微粒子を前記マトリックス部に固定させて、複合ニッケル微粒子のスラリーを得る工程、
を備えている。
【0019】
本発明の複合ニッケル微粒子の製造方法は、前記複合酸化物の微粒子の結晶化度が0.6以下であってもよい。
【0020】
本発明の複合ニッケル微粒子の製造方法は、前記複合酸化物の微粒子におけるバリウム元素及びチタン元素のモル比が1:9〜9:1の範囲内であってもよい。
【0021】
本発明の複合ニッケル微粒子の製造方法は、前記工程Icにおける加熱が、マイクロ波照射によるものであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の複合ニッケル微粒子は、バリウム元素及びチタン元素を含むアモルファス状の複合酸化物がニッケル微粒子に固定化されているため、焼結時に複合ニッケル微粒子の急激な収縮を効果的に抑制できる。従って、例えば積層セラミックコンデンサの製造過程で、焼結時のデラミネーションやクラック等の欠陥の発生を防ぐことができる。このような複合ニッケル微粒子は、積層セラミックコンデンサの内部電極の材料などの用途に好適に用いることができる。
【0023】
また、本発明の複合ニッケル微粒子の製造方法によれば、バリウム元素及びチタン元素を含むアモルファス状の複合酸化物の微粒子の分散液を、マトリックス部を合成するための錯化反応液に混合し、加熱する。これによって、アモルファス状の複合酸化物の微粒子が比較的均一な分布でマトリックス部に固定されるため、耐焼結性に優れた複合ニッケル微粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態に係る複合ニッケル微粒子の模式図である。
図2】実施例1で得られた複合ニッケル微粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図3】実施例1で得られた複合ニッケル微粒子の熱機械分析(TMA)の測定結果である。
図4】実施例2で得られた複合ニッケル微粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図5】実施例2で得られた複合ニッケル微粒子の熱機械分析(TMA)の測定結果である。
図6】実施例3で得られた複合ニッケル微粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図7】実施例3で得られた複合ニッケル微粒子の熱機械分析(TMA)の測定結果である。
図8】実施例4で得られた複合ニッケル微粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図9】実施例4で得られた複合ニッケル微粒子の熱機械分析(TMA)の測定結果である。
図10】実施例5で得られた複合ニッケル微粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図11】実施例5で得られた複合ニッケル微粒子の熱機械分析(TMA)の測定結果である。
図12】実施例6で得られた複合ニッケル微粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図13】実施例6で得られた複合ニッケル微粒子の熱機械分析(TMA)の測定結果である。
図14】比較例1で得られたニッケル微粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図15】比較例1で得られたニッケル微粒子の熱機械分析(TMA)の測定結果である。
図16】比較例2で得られた複合ニッケル微粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図17】比較例2で得られた複合ニッケル微粒子の熱機械分析(TMA)の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[複合ニッケル微粒子]
以下、適宜図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る複合ニッケル微粒子の模式図である。本実施の形態の複合ニッケル微粒子100は、ニッケル元素を含有するマトリックス部1と、該マトリックス部1に固定されたバリウム元素及びチタン元素を含む複合酸化物(以下、「固定化複合酸化物」と記すことがある)10と、を備えている。
【0026】
<マトリックス部>
本実施の形態の複合ニッケル微粒子100において、マトリックス部1は、例えば球状、疑似球状等の形状の微粒子であり、主成分としてニッケル元素を含有する。マトリックス部1は、ニッケル以外の元素を含有することができる。ニッケル以外の金属としては、例えば、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、シリコン、アルミニウム、リン等の卑金属、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム、ネオジウム、ニオブ、ホロニウム、ディスプロヂウム、イットリウム等の貴金属、希土類金属を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上含有していてもよく、また水素、炭素、窒素、硫黄、ボロン等の金属元素以外の元素を含有していてもよいし、これらの合金であってもよい。
【0027】
マトリックス部1は、後述するように、ニッケル塩及び有機アミンを含む混合物から、湿式還元法によりニッケルイオンを還元して金属ニッケルを析出させて得られるものであることが好ましい。そして、固定化複合酸化物10は、ニッケルイオンを還元して金属ニッケルを析出させる過程において固定されたものであることが好ましい。
【0028】
マトリックス部1の表面は、硫黄含有化合物又は硫黄元素によって被覆されていることが好ましい。硫黄含有化合物又は硫黄元素による被覆は、後述するように、複合ニッケル微粒子100に硫黄粉末又は硫黄含有化合物を添加することによって可能となる。
【0029】
<固定化複合酸化物>
本実施の形態の複合ニッケル微粒子100において、固定化複合酸化物10は、バリウム元素及びチタン元素を含有する複合酸化物によって構成されている。固定化複合酸化物10が、バリウム元素及びチタン元素を含有する複合酸化物であることによって、例えば複合ニッケル微粒子100をMLCCの電極材料として利用した場合に、電極層に隣接するBaTiOの誘電体層におけるBaとTiの量的なバランスが変化しにくく、誘電率の変動を回避できる。また、固定化複合酸化物10を固定化した複合ニッケル微粒子100は、分散性にも優れる。
【0030】
本実施の形態の複合ニッケル微粒子100は、X線回折によりペロブスカイト構造を示すピークが観測されない。このことは、固定化複合酸化物10中に存在する結晶状態のBaTiOの量が低く、相対的にアモルファス状態のバリウム−チタン酸化物の量が多いことを示している。本願発明者らは、アモルファス状態の複合酸化物は、高結晶性の複合酸化物に比べると、マトリックス部1に固着(固定化)しやすい傾向にあることを見出している。このような知見のもと、マトリックス部1に固着(固定化)させる複合酸化物が高結晶性の場合は、ニッケル表面との相互作用(NiとBaTiOの結合)が弱く、得られる複合ニッケル微粒子のBaTiO量が少なくなると考えられる。また、複合酸化物が高結晶性であると、マトリックス部1の表面での固着面積も小さくなり、焼収縮を抑える効果が低くなる。それに対し、本実施の形態の複合ニッケル微粒子100では、不定形をなすアモルファス状態を多く含む複合酸化物をマトリックス部1の表面に固定化させて固定化複合酸化物10を形成しているため、マトリックス部1の表面に存在する複合酸化物量を多くすることができる。また、アモルファス状態の複合酸化物の微粒子は、マトリックス部1のNi表面上の酸化物(Ni−O、Ni−OH)との結合も強くなると考えられる。従って、マトリックス部1の表面での固定化複合酸化物10の固着面積を大きくすることができ、優れた熱収縮抑制効果を発揮する。このような観点から、固定化複合酸化物10を形成する複合酸化物の結晶化度は0.6以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0であることが最も好ましい。結晶化度が0.6以下で、全金属成分100重量部に対してバリウムとチタンの合計が10重量部以下であると、複合ニッケル微粒子100をX線回折により測定した場合、ペロブスカイト構造を示すピークが観測されなくなる。ここで、複合酸化物の結晶化度は、X線回折のチャートから、以下の式(1)で求めることができる。
結晶化度=S/(S+S) …(1)
[Sは結晶由来ピーク面積、Sは非晶質部由来ピーク面積を意味する]
【0031】
本実施の形態の複合ニッケル微粒子100において、固定化複合酸化物10は、例えばBaTi[式中、x、y、zは正の数を意味し、x/yは0.1〜9.0の範囲内であり、z/(x+y)は2.0〜5.0の範囲内である]で表すことができる。このように、固定化複合酸化物10は、チタン酸バリウムの化学量論比よりもバリウム元素とチタン元素とのモル比の幅が大きく、かつ、バリウム元素とチタン元素の合計量に対する酸素元素のモル比が多くなっている。このように酸素元素の割合が多くなることによって、アモルファス状態になりやすく、固定化複合酸化物10の好ましい態様となる。
【0032】
また、本実施の形態の複合ニッケル微粒子100において、固定化複合酸化物10は、チタン及びバリウム以外の金属元素を含有していてもよい。チタン及びバリウム以外の金属元素としては、例えば遷移金属元素、アルカリ土類金属元素などを挙げることができる。遷移元素としては、例えばスカンジウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛等の第一遷移元素(3d遷移元素);イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム等の第二遷移元素(4d遷移元素);セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等の第三遷移元素(4f遷移元素)などを挙げることができる。これらの遷移金属元素は2種以上を含有することもできる。アルカリ土類金属元素としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ラジウム等を挙げることができる。これらのアルカリ土類金属元素は、2種以上を含有することもできるし、上記遷移金属元素とともに含有してもよい。これらの金属元素は、固定化複合酸化物10の複合化による複合ニッケル微粒子100の耐焼結性を促進させる働きを有する。
【0033】
<複合ニッケル微粒子の形態>
図1に示すように、複合ニッケル微粒子100において、固定化複合酸化物10は、マトリックス部1に固定化された状態で存在し、好ましくは、マトリックス部1の表面に点在して、ほぼ均等な分布で固定化されている。ここで、「固定化」とは、固定化複合酸化物10がマトリックス部1に固着している状態であり、固定化複合酸化物10の一部分もしくは全体がマトリックス部1に埋包された状態を含む。固定化複合酸化物10が、マトリックス部1に固定化された状態で存在することによって、固定化複合酸化物10が脱離しにくくなり、良好な耐焼結性を発揮できる。
【0034】
本実施の形態の複合ニッケル微粒子100の一次粒子の平均粒子径は、10nm〜150nmの範囲内が好ましく、40〜150nmの範囲内がより好ましい。ここで、「複合ニッケル微粒子100の一次粒子」とは、マトリックス部1と、そこに固定化された固定化複合酸化物10との両方を含む状態を意味する。複合ニッケル微粒子100の一次粒子の平均粒子径が10nmを下回ると、比表面積が増大し、表面自由エネルギーの増大により焼結開始温度が低温化し、凝集粒子が増大する。また、複合ニッケル微粒子100の一次粒子の平均粒子径が10nmを下回ると、誘電体層とのデラミネーションが激しくなることから例えばMLCCの内部電極材料としての実用性を欠くとともに、脱バインダー時の加熱で複合ニッケル微粒子100同士が凝集又溶融しやすくなり、また酸素を取り込みやすくなるため、複合ニッケル微粒子100の体積膨張や収縮変化が大きくなる。一方、MLCCの内部電極材料として、従来は、平均粒子径が200nm以上の複合ニッケル微粒子100が使用されていたが、内部電極層の薄膜化に伴い150nm以下の平均粒子径の複合ニッケル微粒子100が求められている。すなわち、複合ニッケル微粒子100の平均粒子径が150nmを上回ると、最小径の粒子及び最大径の粒子の分布幅が大きくなり、薄膜化したMLCCの内部電極材料に利用した場合に、巨大粒子の存在によりショート不良を起こしやすい。
【0035】
なお、本実施の形態の複合ニッケル微粒子100は、粒子径の変動係数(CV)が0.25以下であることが好ましい。変動係数を0.25以下とすることで、MLCCの製造過程で、ペースト塗布後の乾燥塗膜の表面平滑性が得られやすい。
【0036】
<組成>
本実施の形態の複合ニッケル微粒子100は、全質量に対して金属換算の金属元素を90質量%以上含有することが好ましい。複合ニッケル微粒子100中の金属元素の含有量が90質量%未満であると、電気抵抗が大きくなり、例えばMLCCの内部電極材料用途として好ましくない。なお、以下の説明において、各種元素の含有量は、複合ニッケル微粒子100の元素分析により確認することができる。
【0037】
本実施の形態の複合ニッケル微粒子100は、全金属成分に対し、バリウム元素及びチタン元素の合計が1〜10質量%の範囲内であることが好ましく、2〜5質量%の範囲内であることがより好ましい。全金属成分に対するバリウム元素及びチタン元素の合計量が1質量%未満では、耐焼結を向上させる効果が十分に得られない場合があり、10質量%を超えると、複合ニッケル微粒子100を例えばMLCCとしての電極材料として使用したときの電極性能が著しく悪化する場合がある。
【0038】
また、本実施の形態の複合ニッケル微粒子100において、バリウム元素及びチタン元素のモル比(バリウム元素のモル数:チタン元素のモル数)は、例えば1:9〜9:1の範囲内であることが好ましく、2:8〜8:2の範囲内であることがより好ましい。バリウム元素及びチタン元素のモル比が上記範囲内であれば、例えばMLCC用途の電極材料として使用したときの脱バインダー工程における耐焼結性を担保しつつ、チタン酸バリウムと組成が大きく変化しないので、焼成工程(電極形成工程)において複合酸化物が誘電体層へ拡散した場合であっても、誘電体層の誘電特性に影響を与えにくいが、上記範囲を外れると、誘電体層の誘電特性を悪化させる懸念がある。
【0039】
本実施の形態の複合ニッケル微粒子100は、酸素元素を含有していてもよい。複合ニッケル微粒子100における酸素元素の含有量は、例えば、1.5〜5.0質量%の範囲内であり、好ましくは2.0〜4.0質量%の範囲内がよい。酸素元素の含有量が、1.5質量%未満であると、複合ニッケル微粒子100の表面活性を抑制する効果が不十分になる傾向があり、5.0質量%を超えると、電気抵抗が大きくなり、電極特性に悪影響を及ぼす傾向となる。
【0040】
また、本実施の形態の複合ニッケル微粒子100において、バリウム元素及びチタン元素の合計に対する酸素元素のモル比{酸素元素のモル数/(バリウム元素のモル数+チタン元素のモル数)}は、例えば2.0〜6.0の範囲内であることが好ましく、3.0〜5.0の範囲内であることがより好ましい。バリウム元素及びチタン元素の合計に対する酸素元素のモル比が上記範囲内であると、例えばMLCC用途の電極材料として使用したときの脱バインダー工程における耐焼結性を向上させることができるが、上記範囲を外れると、電気抵抗が大きくなり、電極特性に悪影響を及ぼす傾向となる。
【0041】
本実施の形態の複合ニッケル微粒子100は、硫黄元素を含有していてもよい。複合ニッケル微粒子100の硫黄元素の量は、複合ニッケル微粒子100に対し、好ましくは0.15〜0.6質量%の範囲内であり、より好ましくは0.2〜0.45質量%の範囲内である。複合ニッケル微粒子100の表面に存在する硫黄元素は、焼結時の熱収縮を効果的に抑制する作用を有する。
【0042】
本実施の形態の複合ニッケル微粒子100は、X線回折により観測されるピークが、ニッケルのfcc(面心立方格子)又はhcp(六方最密格子)のピークのみであることが好ましい。上記のとおり、複合ニッケル微粒子100は、X線回折によりペロブスカイト構造を示すピークが観測されない。従って、複合ニッケル微粒子100全体のX線回折ではニッケルに由来する結晶構造しか確認できないことが好ましい。
【0043】
[複合ニッケル微粒子の製造方法]
次に、本実施の形態の複合ニッケル微粒子100の製造方法について説明する。複合ニッケル微粒子100は、例えば、気相法や液相法などの方法により得られるが、その製造方法については特に限定されない。気相法は液相法に比べて製造コストが高価になりがちであるので、液相法を適用することが有利である。液相法のなかでも、粒子径分布が狭い複合ニッケル微粒子100を短時間で容易に製造する方法として、下記の工程Ia〜Icを備える方法が好ましい。
【0044】
工程Ia)ニッケル塩及び有機アミンを含む混合物を加熱してニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る工程(錯化反応液生成工程):
ニッケル塩(ニッケル前駆体)としては、例えば塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、カルボン酸ニッケル、Ni(acac)(β−ジケトナト錯体)、ステアリン酸ニッケル等を挙げることができる。例えば、塩化ニッケル六水和物(NiCl・6HO)は、錯体であるtrans―[NiCl(HO)]と、それに弱く結合した2個の水分子からなり、6個の水分子のうち4個のみが直接ニッケルと結合した構造を有している。このような構造のニッケル六水和物の水分子は容易にアミンなどによって置換され得るため、アミンと混合することで容易にアミン錯体を形成することができる。ニッケル前駆体の一部もしくは全部として塩化ニッケル(II)を用いることで、結晶性が高い金属ニッケルを生成することができる。
【0045】
また、ニッケル塩として、還元過程での解離温度(分解温度)が比較的低いカルボン酸ニッケルを用いることも好ましい。カルボン酸ニッケルとしては、例えば炭素数が1〜12のカルボン酸ニッケルを用いることができる。カルボン酸ニッケルは、カルボキシ基が1つのモノカルボン酸であってもよく、カルボキシ基が2つ以上のカルボン酸であってもよい。また、非環式カルボン酸であってもよく、環式カルボン酸であってもよい。好ましいカルボン酸ニッケルとして、例えばギ酸ニッケル、酢酸ニッケル等を用いることができる。
【0046】
ニッケル塩は、任意の有機溶媒に溶解させた状態で使用することが好ましい。有機溶媒は、ニッケル塩を溶解できるものであれば、特に限定されず、例えばエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、金属塩に対して還元作用があるエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類等の有機溶媒が好ましい。
【0047】
有機アミンとしては、1級の有機アミン(以下、「1級アミン」と略称する。)が好ましい。この1級アミンは、ニッケル塩との混合物を溶解することにより、ニッケルイオンとの錯体を形成することができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮しやすく、加熱による還元温度が高温のニッケル塩に対して有利に使用できる。1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定するものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。
【0048】
常温で液体の1級アミンは、ニッケル錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級の有機アミンであっても、加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0049】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成する複合ニッケル微粒子100の粒径を制御することができる。複合ニッケル微粒子100の粒径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られる複合ニッケル微粒子100の粒径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。
【0050】
1級アミンは、還元反応後に、生成した複合ニッケル微粒子100の固体成分と溶剤または未反応の1級アミン等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からは室温で液体のものが好ましい。更に、1級アミンは、ニッケル錯体を還元して複合ニッケル微粒子100を得るときの反応制御の容易性の観点から、還元温度より沸点が高いものが好ましい。1級アミンの量は、ニッケル塩1molに対して2mol以上用いることが好ましく、2.2mol以上用いることがより好ましい。1級アミンの量が2mol未満では、得られる複合ニッケル微粒子100の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からは20mol以下とすることが好ましい。
【0051】
均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、1級アミンとは別の有機溶媒を新たに添加してもよい。使用できる有機溶媒としては、1級アミンとニッケルイオンとの錯形成を阻害しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数8〜18のアルコール系有機溶媒等を使用することができる。また、マイクロ波照射による加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましく、より好ましくは200〜300℃の範囲内にあるものを選択することがよい。このような有機溶媒の具体例としては、例えばテトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。
【0052】
錯形成反応は室温に於いても進行することができるが、十分且つ、より効率の良い錯形成反応を行うために、例えば100℃〜165℃の範囲内に加熱して反応を行うことが好ましい。この加熱は、後に続くニッケル錯体(又はニッケルイオン)の加熱還元の過程と確実に分離し、前記の錯形成反応を完結させるという観点から、上記上限を適宜設定することができる。なお、この加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよい。
【0053】
Ib)バリウム元素及びチタン元素を含む複合酸化物の微粒子を有機アミンに分散させた分散液を準備する工程(複合酸化物分散液調製工程):
本工程で使用するバリウム元素及びチタン元素を含む複合酸化物の微粒子(以下、「複合酸化物微粒子」と記すことがある)の平均粒子径は、例えば5nm〜15nmの範囲内にあることが好ましく、5nm〜10nmの範囲内がより好ましい。使用する複合酸化物微粒子の平均粒子径は、マトリックス部1に固定化された後の状態でも同じ粒子径となるため、上記のとおり、5nmを下回ると、耐焼結性を改善する効果が十分に得られなくなる傾向となり、15nmを超えると、複合酸化物微粒子の吸着サイト減少に伴う複合酸化物微粒子の固定数量の減少や、マトリックス部への不均一な固定化(固定ムラ)の原因となる。
【0054】
本工程Ibで用いる複合酸化物微粒子は、バリウム元素及びチタン元素のモル比が1:9〜9:1の範囲内であるものを使用することが好ましく、2:8〜8:2の範囲内であることがより好ましい。バリウム元素及びチタン元素のモル比が上記範囲内であれば、例えばMLCC用途の電極材料として使用したときの脱バインダー工程における耐焼結性を担保しつつ、チタン酸バリウムと組成が大きく変化しないので、焼成工程(電極形成工程)において複合酸化物が誘電体層へ拡散した場合であっても、誘電体層の誘電特性に影響を与えにくいが、上記範囲を外れると、耐焼結性の改善効果が十分に得られない。
【0055】
また、本工程Ibで用いる複合酸化物微粒子は、工程Iaのニッケル塩に含まれるニッケル元素100重量部に対し、0.1〜10重量部の範囲内とすることが好ましい。ニッケル元素100重量部に対する複合酸化物微粒子の量が0.1重量部未満では、固定化複合酸化物10の複合化による耐焼結性の改善効果が不十分となり、10重量部を超える場合は、電気抵抗が大きくなり、電極特性に悪影響を及ぼす傾向となる。
【0056】
本工程Ibでは、複合酸化物微粒子を有機溶媒に分散させて複合酸化物微粒子の分散液を調製する。複合酸化物微粒子を有機溶媒に分散させる方法は、特に制限なく、例えば撹拌等の手法によって複合酸化物微粒子のスラリーを調製することができる。ここで、有機溶媒としては、複合酸化物微粒子を分散できるものであり、かつ錯化反応液と混合可能な溶媒であれば特に限定されない。有機溶媒としては、例えばエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、錯化反応液の調製に1級アミン等の有機アミンを用いる場合は、本工程でも有機アミンを用いることが好ましい。
【0057】
工程Ic)工程Iaで得た錯化反応液と、工程Ibで得た複合酸化物微粒子の分散液を混合して得られる混合物を加熱して、錯化反応液中のニッケルイオンを還元し、ニッケル元素を含有するマトリックス部1を形成するとともに、複合酸化物微粒子を前記マトリックス部1に固定させて、複合ニッケル微粒子100のスラリーを得る工程(複合ニッケル微粒子スラリー生成工程):
本工程では、工程Iaでニッケル塩と有機溶媒との錯形成反応によって得られた錯化反応液と、工程Ibで得られた複合酸化物微粒子の分散液を混合して得られる混合物を加熱する。これによって、錯化反応液中のニッケルイオンを還元して金属ニッケルを主成分とするマトリックス部1を生成させるとともに、固定化複合酸化物10をマトリックス部1に固定化させて、複合ニッケル微粒子100のスラリーを得ることができる。本工程における加熱の方法は、特に制限はなく、例えばヒーターによる加熱でもよく、マイクロ波照射による加熱でもよいが、マイクロ波照射によることが好ましい。なお、マイクロ波の使用波長は、特に限定するものではなく、例えば2.45GHzである。加熱温度は、得られる複合ニッケル微粒子100の形状のばらつきを抑制するという観点から、好ましくは170℃以上、より好ましくは180℃以上とすることがよい。加熱温度の上限は特にないが、処理を効率的に行う観点からは例えば270℃以下とすることが好適である。
【0058】
マイクロ波照射による錯化反応液の加熱は、該反応液内の均一加熱を可能とし、かつエネルギーを媒体に直接与えることができるため、急速加熱を行なうことができる。これにより、反応液全体を所望の温度に均一にすることができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元、核生成、核成長各々の過程を溶液全体において同時に生じさせ、結果として粒子径分布の狭い単分散なマトリックス部1の粒子を短時間で容易に製造することができる。従って、マイクロ波照射による加熱は、特に、平均粒子径が10〜150nmの範囲内にある複合ニッケル微粒子100を製造するのに好適である。このマトリックス部1の生成過程で、複合酸化物微粒子がマトリックス部1に取り込まれ、好ましくはマトリックス部1に部分的に埋包された状態でマトリックス部1に固定化されて固定化複合酸化物10が形成される。
【0059】
均一な粒子径を有する複合ニッケル微粒子100を生成させるには、錯化反応液生成工程の加熱温度を特定の範囲内で調整し、複合ニッケル微粒子スラリー生成工程における加熱温度よりも確実に低くしておくことで、粒径・形状の整った粒子が生成し易い。例えば、錯化反応液生成工程で加熱温度が高すぎるとニッケル錯体の生成とニッケル(0価)への還元反応が同時に進行し異種の金属種が発生することで、複合ニッケル微粒子スラリー生成工程での粒子形状の整った粒子の生成が困難となるおそれがある。また、複合ニッケル微粒子スラリー生成工程の加熱温度が低すぎるとニッケル(0価)への還元反応速度が遅くなり核の発生が少なくなるため粒子が大きくなるだけでなく、複合ニッケル微粒子100の収率の点からも好ましくはない。
【0060】
複合ニッケル微粒子スラリー生成工程においては、必要に応じ、前述した有機溶媒を加えてもよい。なお、前記したように、錯形成反応に使用する1級アミンを有機溶媒としてそのまま用いることが好ましい。
【0061】
上記のようにして複合ニッケル微粒子100を製造することができる。上記Ia〜Ic工程では、バリウム元素及びチタン元素を含む複合酸化物微粒子の分散液をマトリックス部1の原料となるニッケル塩及び有機アミンを含む混合物に添加すると、マトリックス部1の表面において複合酸化物がほぼ均等な分布で固定されて固定化複合酸化物10を形成するので、複合ニッケル微粒子100の耐焼結性を向上させることができる。なお、本実施の形態の複合ニッケル微粒子100の製造方法は、上記Ia〜Ic工程以外に、任意の工程を含むことが可能であり、例えば、以下の工程Id及び/又は工程Ieを含むことができる。
【0062】
工程Id)複合ニッケル微粒子単離工程:
本工程では、工程Icで得られた複合ニッケル微粒子スラリーを、例えば、静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、複合ニッケル微粒子100が得られる。
【0063】
工程Ie)硫黄成分添加工程:
本工程では、前記工程Icで得られた複合ニッケル微粒子100のスラリーに、硫黄粉末又は硫黄含有化合物を更に添加することによって、マトリックス部1の表面が、硫黄含有化合物又は硫黄元素により被覆された複合ニッケル微粒子100を得る。この場合、硫黄含有化合物としてニッケル原子と化学結合を可能とする硫黄原子を含む官能基を有する硫黄含有有機化合物を用いることが好ましい。硫黄粉末又は硫黄含有化合物の添加は、工程Icの還元反応に続く、複合ニッケル微粒子スラリーの状態で添加してもよく、又は還元反応によって得られる複合ニッケル微粒子スラリーから、一旦、複合ニッケル微粒子100を単離した後に、複合ニッケル微粒子100を液中に分散させてスラリーの状態としてから添加してもよい。工程の簡略化の観点から、硫黄粉末又は硫黄含有化合物の添加は、工程Icの還元反応に続く、複合ニッケル微粒子スラリーの状態で添加することが好ましい。
【0064】
硫黄含有有機化合物は、硫黄原子を分子内に含有する有機化合物であるが、このような有機化合物として、例えばチオール系化合物、スルフィド系化合物、チオフェン系化合物、スルホキシド系化合物、スルホン系化合物、チオケトン系化合物、スルフラン系化合物などが挙げられる。このなかでもチオール系化合物(メルカプト基を含有)、スルフィド系化合物(スルフィド基、又はジスルフィド基を含有)は、硫黄原子の活性が高いために、反応性に優れており、複合ニッケル微粒子100の表面をNi−Sの化学結合で被覆することができ、例えば複合ニッケル微粒子100の急激な加熱によっても、複合ニッケル微粒子100の表面酸化を抑えることができるので好ましい。また、複合ニッケル微粒子100の分散性を向上させるために、脂肪族系の硫黄含有有機化合物が好ましい。
【0065】
メルカプト基を含有する硫黄含有有機化合物としては、複合ニッケル微粒子100の分散性の向上のために、炭化水素基を有する脂肪族チオール化合物が好ましく、より好ましくは炭素数1〜18の範囲内にある脂肪族チオール化合物がよい。
【0066】
スルフィド基を含有する硫黄含有有機化合物としては、複合ニッケル微粒子100の分散性の向上のために、炭化水素基を有する脂肪族メチルスルフィド化合物が好ましく、より好ましくは炭素数2〜18の範囲内にある脂肪族メチルスルフィド化合物がよい。このような脂肪族メチルスルフィド化合物は、R−S−CHで表される。ここで、Rは炭素数1〜20のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基から選ばれる1価の置換基である。
【0067】
ジスルフィド基を含有する硫黄含有有機化合物としては、複合ニッケル微粒子100の分散性の向上のために、炭化水素基を有する脂肪族ジスルフィド化合物が好ましく、より好ましくは炭素数2〜40の範囲内にある脂肪族ジスルフィド化合物がよい。このような脂肪族ジスルフィド化合物は、R−S−S―R’で表される。ここで、R、R’は独立に炭素数1〜20のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基から選ばれる1価の置換基である。
【0068】
脂肪族系の硫黄含有有機化合物の好ましい具体例としては、例えばメチルチオール、エチルチオール、プロピルチオール、ブチルチオール、ヘプチルチオール、ヘキシルチオール、オクチルチオール、ノニルチオール、デシルチオール(デカンチオール)、ウンデシルチオール、ドデシルチオール(ドデカンチオール)、テトラデシルチオール(テトラデカンチオール)、ヘキサデカンチオール、オクタデシルチオール、tert−ドデシルメルカプタン、シクロヘキシルチオール、ベンジルチオール、エチルフェニルチオール、2−メルカプトメチル−1,3−ジチオラン、2−メルカプトメチル−1,4−ジチアン、1−メルカプト−2,3−エピチオプロパン、1−メルカプトメチルチオ−2,3−エピチオプロパン、1−メルカプトエチルチオ−2,3−エピチオプロパン、3−メルカプトチエタン、2−メルカプトチエタン、3−メルカプトメチルチオチエタン、2−メルカプトメチルチオチエタン、3−メルカプトエチルチオチエタン、2−メルカプトエチルチオチエタン、2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール等の1価の脂肪族チオール化合物、1,1−メタンジチオール、1,2−エタンジチオール、1,1−プロパンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、2,2−プロパンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,2,3−プロパントリチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール、1,2−シクロヘキサンジチオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジチオール、3,4−ジメトキシブタン−1,2−ジチオール、2−メチルシクロヘキサン−2,3−ジチオール、1,1−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、チオリンゴ酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール(2−メルカプトアセテート)、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール(3−メルカプトプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,2−ジメルカプトプロピルメチルエーテル、2,3−ジメルカプトプロピルメチルエーテル、2,2−ビス(メルカプトメチル)−1,3−プロパンジチオール、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパンビス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパンビス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、1,1,1,1−テトラキス(メルカプトメチル)メタン、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(メルカプトメチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトプロピル)スルフィド、ビス(メルカプトメチルチオ)メタン、ビス(2−メルカプトエチルチオ)メタン、ビス(3−メルカプトプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタン、1,2−ビス(3−メルカプトプロピル)エタン、1,3−ビス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,3−ビス(2−メルカプトエチルチオ)プロパン、1,3−ビス(3−メルカプトプロピルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(2−メルカプトエチルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(3−メルカプトプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、テトラキス(メルカプトメチルチオメチル)メタン、テトラキス(2−メルカプトエチルチオメチル)メタン、テトラキス(3−メルカプトプロピルチオメチル)メタン、ビス(2,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、ビス(1,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、2,5−ジメルカプト−1,4−ジチアン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ジメルカプトメチル−2,5−ジメチル−1,4−ジチアン、ビス(メルカプトメチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトプロピル)ジスルフィド、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、ヒドロキシメチルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシプロピルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシプロピルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシプロピルジスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシプロピルジスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、2−メルカプトエチルエーテルビス(2−メルカプトアセテート)、2−メルカプトエチルエーテルビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ジチアン−2,5−ジオールビス(2−メルカプトアセテート)、1,4−ジチアン−2,5−ジオールビス(3−メルカプトプロピオネート)、チオジグリコール酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、4,4−チオジブチル酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、ジチオジグリコール酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、4,4−ジチオジブチル酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、チオジグリコール酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)、ジチオグリコール酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)等の脂肪族ポリチオール化合物、ドデシルメチルスルフィド、n−デシルスルフィドなどの脂肪族スルフィド、デカンジスルフィドなどの脂肪族ジスルフィドが挙げられる。なお、これらは特に限定されるものではなく、単独又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
硫黄含有有機化合物の添加量は、複合ニッケル微粒子100のマトリックス部1の表面積を考慮して決定されるものであり、仕込み時の金属ニッケル塩のニッケル元素100質量部に対して硫黄元素として、例えば0.01〜1質量部の範囲内、好ましくは0.05〜0.8質量部の範囲内となるようにすればよい。
【0070】
本実施の形態の複合ニッケル微粒子100によれば、バリウム元素及びチタン元素を含む固定化複合酸化物10が、ニッケルを主成分とするマトリックス部1に固定化されているため、焼結時に複合ニッケル微粒子100の急激な収縮を効果的に抑制できる。従って、例えば積層セラミックコンデンサの製造過程で、焼結時のデラミネーションやクラック等の欠陥の発生を防ぐことができる。このような複合ニッケル微粒子100は、積層セラミックコンデンサの内部電極の材料などの用途に好適に用いることができる。
【0071】
また、本実施の形態の複合ニッケル微粒子100の製造方法によれば、バリウム元素及びチタン元素を含む複合酸化物微粒子の分散液を、マトリックス部1を合成するための錯化反応液に混合し、加熱することによって、固定化複合酸化物10が比較的均一な状態でマトリックス部1に固定されるため、耐焼結性に優れた複合ニッケル微粒子100を得ることができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0073】
[平均粒子径の測定]
SEM(走査電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として一次粒子の平均粒子径を算出した。また、CV値(変動係数)は、(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出した。なお、CV値が小さいほど、粒子径がより均一であることを示す。
【0074】
[10%熱収縮温度]
試料を5Φ×2mmの円柱状成型器に入れ、プレス成型して得られる成型体を作製し、窒素ガス(水素ガス3%含有)の雰囲気下で、熱機械分析装置(TMA)により測定される10%熱収縮の温度を10%熱収縮温度とした。
【0075】
(合成例1)
乾燥窒素雰囲気中において、バリウムジエトキシド(Ba(OC)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti(OiC)をモル比で2:8となるようにメタノールとエチレングリコールモノメチルエーテル(EGMME)の混合溶媒に溶解し、0.7mol/Lのバリウム‐チタン複合酸化物の前駆体溶液を調製した。前駆体溶液を−40℃まで冷却した後、撹拌しながら水/メタノール混合溶液(体積比1:1)を滴下し加水分解を行った。混合溶液の滴下量は、水の添加量が前駆体溶液中の全金属(Ba及びTiの合計)のモル数に対して5モル倍となるようにした。加水分解後、80℃で5日間のエージングを行い、バリウム/チタン比が2:8の複合酸化物の微粒子を得た。
【0076】
(合成例2)
乾燥窒素雰囲気中において、バリウムジエトキシド(Ba(OC)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti(OiC)をモル比で3:7となるようにメタノールとエチレングリコールモノメチルエーテル(EGMME)の混合溶媒に溶解し、0.7mol/Lのバリウム‐チタン複合酸化物の前駆体溶液を調製した。後の処理は合成例1と同様に行い,バリウム/チタン比が3:7の複合酸化物の微粒子を得た。
【0077】
(合成例3)
乾燥窒素雰囲気中において、バリウムジエトキシド(Ba(OC)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti(OiC)をモル比で4:6となるようにメタノールとエチレングリコールモノメチルエーテル(EGMME)の混合溶媒に溶解し、0.7mol/Lのバリウム‐チタン複合酸化物の前駆体溶液を調製した。後の処理は合成例1と同様に行い,バリウム/チタン比が4:6の複合酸化物の微粒子を得た。
【0078】
(合成例4)
乾燥窒素雰囲気中において、バリウムジエトキシド(Ba(OC)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti(OiC)をモル比で8:2となるようにメタノールとエチレングリコールモノメチルエーテル(EGMME)の混合溶媒に溶解し、0.7mol/Lのバリウム‐チタン複合酸化物の前駆体溶液を調製した。後の処理は合成例1と同様に行い,バリウム/チタン比が8:2の複合酸化物の微粒子を得た。
【0079】
(合成例5)
乾燥窒素雰囲気中において、バリウムジエトキシド(Ba(OC)及びチタンテトライソプロポキシド(Ti(OiC)をモル比で5:5となるようにメタノールとエチレングリコールモノメチルエーテル(EGMME)の混合溶媒に溶解し、0.7mol/Lのバリウム‐チタン複合酸化物の前駆体溶液を調製した。前駆体溶液を−30℃まで冷却した後、撹拌しながら水/メタノール混合溶液(体積比1:1)を滴下し加水分解を行った。混合溶液の滴下量は、水の添加量が前駆体溶液中のTiに対して5モル倍となるようにした。加水分解後、80℃で2時間のエージングを行い、バリウム/チタン比が5:5の複合酸化物の微粒子を得た。
【0080】
(合成例6)
合成例5と同様に加水分解の処理まで行い,80℃のエージングを1時間行うことでバリウム/チタン比が5:5の複合酸化物の微粒子を得た。
【0081】
(実施例1)
<錯化反応液の調製>
60.0gの酢酸ニッケル四水和物(0.24mol)に690gのオレイルアミン(2.58mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって錯化反応液A−1’(ニッケルイオンの濃度;2wt%)を得た。
【0082】
<マトリックス部の形成及び複合酸化物の微粒子の固定>
得られた錯化反応液A−1’に、合成例1で合成した複合酸化物の微粒子(金属組成;Ba:Ti=2:8(モル比)、チタン元素;39.2wt%、バリウム元素;28.1wt% 結晶化度;0、X線回折によりペロブスカイト構造を示すピークが観測されない)をオレイルアミンに分散させたスラリー(固形分濃度;1wt%)の100g(仕込みニッケル元素100重量部に対し、6重量部の複合酸化物の微粒子を含有)を加えた後、マイクロ波を照射して250℃まで加熱し、その温度を5分間保持した後、この温度を保持した状態で、0.45gの1−ドデカンチオールを添加することによって、複合ニッケル微粒子A−1のスラリーを得た。
【0083】
<洗浄及び乾燥>
得られた複合ニッケル微粒子A−1のスラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して複合ニッケル微粒子A−1を得た。この複合ニッケル微粒子A−1の特徴は、次のとおりであった。
1)複合ニッケル微粒子A−1の元素分析;C;0.5、O;2.6、S;0.38(単位は質量%)。
2)複合ニッケル微粒子A−1の平均粒子径;90nm、CV値;0.18。
3)複合ニッケル微粒子A−1中の元素分析の結果、チタン元素を2.00wt%、バリウム元素を1.44wt%含有。その結果、O/(Ba+Ti)=3.11のモル比率を有する複合ニッケル微粒子。
4)複合ニッケル微粒子A−1のTMA測定結果より得られる10%収縮時の温度;725℃
【0084】
複合ニッケル微粒子A−1のSEM写真を図2に、熱機械分析(TMA)の測定結果を図3に示した。この結果、アモルファスなチタンとバリウムを含む複合酸化物がニッケルに固定化されることで耐焼結性を大幅に向上することができる。
【0085】
(実施例2)
<錯化反応液の調製>
60.0gの酢酸ニッケル四水和物(0.24mol)に690gのオレイルアミン(2.58mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって錯化反応液A−2’(ニッケルイオンの濃度;2wt%)を得た。
【0086】
<マトリックス部の形成及び複合酸化物の微粒子の固定>
得られた錯化反応液A−2’に、合成例2で合成した複合酸化物の微粒子(金属組成;Ba:Ti=3:7(モル比)、チタン元素;31.4wt%、バリウム元素;38.6wt%、結晶化度;0、X線回折によりペロブスカイト構造を示すピークが観測されない)をオレイルアミンに分散させたスラリー(固形分濃度;1wt%)の100g(仕込みニッケル元素100重量部に対し、6重量部の複合酸化物の微粒子を含有)を加えた後、マイクロ波を照射して250℃まで加熱し、その温度を5分間保持した後、この温度を保持した状態で、0.45gの1−ドデカンチオールを添加することによって、複合ニッケル微粒子A−2のスラリーを得た。
【0087】
<洗浄及び乾燥>
得られた複合ニッケル微粒子A−2のスラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して複合ニッケル微粒子A−2を得た。この複合ニッケル微粒子A−2の特徴は、次のとおりであった。
【0088】
1)複合ニッケル微粒子A−2の元素分析;C;1.4、O;2.9、S;0.36(単位は質量%)。
2)複合ニッケル微粒子A−2の平均粒子径;53nm、CV値;0.15。
3)複合ニッケル微粒子A−2中の元素分析の結果、チタン元素を1.6wt%、バリウム元素を1.97wt%含有。その結果、O/(Ba+Ti)=3.85のモル比率を有する複合ニッケル微粒子。
4)複合ニッケル微粒子A−2のTMA測定結果より得られる10%収縮時の温度;725℃
【0089】
複合ニッケル微粒子A−2のSEM写真を図4に、熱機械分析(TMA)の測定結果を図5に示した。
【0090】
(実施例3)
<錯化反応液の調製>
60.0gの酢酸ニッケル四水和物(0.24mol)に690gのオレイルアミン(2.58mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって錯化反応液A−3’(ニッケルイオンの濃度;2wt%)を得た。
【0091】
<マトリックス部の形成及び複合酸化物の微粒子の固定>
得られた錯化反応液A−3’に、合成例3で合成した複合酸化物の微粒子(金属組成;Ba:Ti=4:6(モル比)、チタン元素;24.8wt%、バリウム元素;47.5wt%、結晶化度0.4、X線回折によりペロブスカイト構造を示すピークが観測される)をオレイルアミンに分散させたスラリー(固形分濃度;1wt%)の100g(仕込みニッケル元素100重量部に対し、6重量部の複合酸化物の微粒子を含有)を加えた後、マイクロ波を照射して250℃まで加熱し、その温度を5分間保持した後、この温度を保持した状態で、0.45gの1−ドデカンチオールを添加することによって、複合ニッケル微粒子A−3のスラリーを得た。
【0092】
<洗浄及び乾燥>
得られた複合ニッケル微粒子A−3のスラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して複合ニッケル微粒子A−3を得た。この複合ニッケル微粒子A−3の特徴は、次のとおりであった。
1)複合ニッケル微粒子A−3の元素分析;C;0.9、O;2.5、S;0.39(単位は質量%)。
2)複合ニッケル微粒子A−3の平均粒子径;87nm、CV値;0.20。
3)複合ニッケル微粒子A−3中の元素分析の結果、チタン元素を1.3wt%、バリウム元素を2.5wt%含有。その結果、O/(Ba+Ti)=3.47のモル比率を有する複合ニッケル微粒子。
4)複合ニッケル微粒子A−3のTMA測定結果より得られる10%収縮時の温度;760℃
【0093】
複合ニッケル微粒子A−3のSEM写真を図6に、熱機械分析(TMA)の測定結果を図7に示した。
【0094】
(実施例4)
<錯化反応液の調製>
60.0gの酢酸ニッケル四水和物(0.24mol)に690gのオレイルアミン(2.58mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって錯化反応液A−4’(ニッケルイオンの濃度;2wt%)を得た。
【0095】
<マトリックス部の形成及び複合酸化物の微粒子の固定>
得られた錯化反応液A−4’に、合成例4で合成した複合酸化物の微粒子(金属組成;Ba:Ti=8:2(モル比)、チタン元素;6.3wt%、バリウム元素;72.5wt%、結晶化度;0.2、X線回折によりペロブスカイト構造を示すピークが観測される)をオレイルアミンに分散させたスラリー(固形分濃度;1wt%)の100g(仕込みニッケル元素100重量部に対し、6重量部の複合酸化物の微粒子を含有)を加えた後、マイクロ波を照射して250℃まで加熱し、その温度を5分間保持した後、この温度を保持した状態で、0.45gの1−ドデカンチオールを添加することによって、複合ニッケル微粒子A−4のスラリーを得た。
【0096】
<洗浄及び乾燥>
得られた複合ニッケル微粒子A−4のスラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して複合ニッケル微粒子A−4を得た。この複合ニッケル微粒子A−4の特徴は、次のとおりであった。
1)複合ニッケル微粒子A−4の元素分析;C;0.4、O;1.9、S;0.41(単位は質量%)。
2)複合ニッケル微粒子A−4の平均粒子径;70nm、CV値;0.23。
3)複合ニッケル微粒子A−4中の元素分析の結果、チタン元素を0.24wt%、バリウム元素を2.80wt%含有。その結果、O/(Ba+Ti)=4.68のモル比率を有する複合ニッケル微粒子。
4)複合ニッケル微粒子A−4のTMA測定結果より得られる10%収縮時の温度;560℃
【0097】
複合ニッケル微粒子A−4のSEM写真を図8に、熱機械分析(TMA)の測定結果を図9に示した。
【0098】
(実施例5)
<錯化反応液の調製>
60.0gの酢酸ニッケル四水和物(0.24mol)に690gのオレイルアミン(2.58mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって錯化反応液A−5’(ニッケルイオンの濃度;2wt%)を得た。
【0099】
<マトリックス部の形成及び複合酸化物の微粒子の固定>
得られた錯化反応液A−5’に、合成例5で合成した複合酸化物の微粒子(金属組成;Ba:Ti=5:5 (モル比)、チタン元素;19.2wt%、バリウム元素;55.1wt% 結晶化度0.3、X線回折によりペロブスカイト構造を示すピークが観測される)をオレイルアミンに分散させたスラリー(固形分濃度;1wt%)の100g(仕込みニッケル元素100重量部に対し、6重量部の複合酸化物の微粒子を含有)を加えた後、マイクロ波を照射して250℃まで加熱し、その温度を5分間保持した後、この温度を保持した状態で、0.45gの1−ドデカンチオールを添加することによって、複合ニッケル微粒子A−5のスラリーを得た。
【0100】
<洗浄及び乾燥>
得られた複合ニッケル微粒子A−5のスラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して複合ニッケル微粒子A−5を得た。この複合ニッケル微粒子A−5の特徴は、次のとおりであった。
1)複合ニッケル微粒子A−5の元素分析;C;0.50、O;2.32、S;0.40(単位は質量%)。
2)複合ニッケル微粒子A−5の平均粒子径;92nm、CV値;0.18。
3)複合ニッケル微粒子A−5中の元素分析の結果、チタン元素を0.78wt%、バリウム元素を2.41wt%含有。その結果、O/(Ba+Ti)=4.28のモル比率を有する複合ニッケル微粒子。
4)複合ニッケル微粒子A−5のTMA測定結果より得られる10%収縮時の温度;690℃
【0101】
複合ニッケル微粒子A−5のSEM写真を図10に、熱機械分析(TMA)の測定結果を図11に示した。
【0102】
(実施例6)
<錯化反応液の調製>
60.0gの酢酸ニッケル四水和物(0.24mol)に690gのオレイルアミン(2.58mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって錯化反応液A−6’(ニッケルイオンの濃度;2wt%)を得た。
【0103】
<マトリックス部の形成及び複合酸化物の微粒子の固定>
得られた錯化反応液A−6’に、合成例6で合成した複合酸化物の微粒子(金属組成;Ba:Ti=5:5 (モル比)、チタン元素;19.2wt%、バリウム元素;55.1wt% 結晶化度0、X線回折によりペロブスカイト構造を示すピークが観測されない)をオレイルアミンに分散させたスラリー(固形分濃度;1wt%)の100g(仕込みニッケル元素100重量部に対し、6重量部の複合酸化物の微粒子を含有)を加えた後、マイクロ波を照射して250℃まで加熱し、その温度を5分間保持した後、この温度を保持した状態で、0.45gの1−ドデカンチオールを添加することによって、複合ニッケル微粒子A−6のスラリーを得た。
【0104】
<洗浄及び乾燥>
得られた複合ニッケル微粒子A−6のスラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して複合ニッケル微粒子A−6を得た。この複合ニッケル微粒子A−6の特徴は、次のとおりであった。
1)複合ニッケル微粒子A−6の元素分析;C;1.0、O;2.3、S;0.40(単位は質量%)。
2)複合ニッケル微粒子A−6の平均粒子径;75nm、CV値;0.18。
3)複合ニッケル微粒子A−6中の元素分析の結果、チタン元素を0.93wt%、バリウム元素を2.66wt%含有。その結果、O/(Ba+Ti)=4.28のモル比率を有する複合ニッケル微粒子。
4)複合ニッケル微粒子A−6のTMA測定結果より得られる10%収縮時の温度;730℃
【0105】
複合ニッケル微粒子A−6のSEM写真を図12に、熱機械分析(TMA)の測定結果を図13に示した。
【0106】
(比較例1)
<溶解工程>
酢酸ニッケル四水和物60.0g(241.1mmmol))にオレイルアミン690g(2.58mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって酢酸ニッケルをオレイルアミンに溶解させた。
【0107】
<還元工程>
次いで、その溶液にマイクロ波を照射して250℃まで加熱し、その温度を5分間保持した後、この温度を保持した状態で、0.45gの1−ドデカンチオールを添加することによって、ニッケル微粒子B−1のスラリーを得た。
【0108】
<洗浄及び乾燥>
得られたニッケル微粒子B−1のスラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル微粒子B−1を得た。このニッケル微粒子B−1の特徴は、次のとおりであった。
1)ニッケル微粒子B−1の元素分析;C;0.5、O;1.7、S;0.40(単位は質量%)。
2)ニッケル微粒子B−1の平均粒子径;92nm、CV値;0.17。
3)ニッケル微粒子B−1のTMA測定結果より得られる10%収縮時の温度;470℃
【0109】
ニッケル微粒子B−1のSEM写真を図14に、熱機械分析(TMA)の測定結果を図15に示した。この結果、チタンとバリウムを含む複合酸化物が固定化されていないニッケル微粒子B−1は耐焼結性に劣ることがわかる。
【0110】
(比較例2)
ゾルゲル法で合成したペロブスカイト構造を有するチタン酸バリウムの微粒子(金属組成;Ba:Ti=5:5(モル比)、平均粒子径;10nm、結晶化度;0.8)をオレイルアミンに分散させようと試みたがすぐに沈殿し、分散しなかった。本スラリーを用いて、実施例1と同様の実験を行い、複合ニッケル微粒子B−2を得た。この複合ニッケル微粒子B−2の特徴は、次のとおりであった。
1)複合ニッケル微粒子B−2の元素分析;C;0.4、O;1.6、S;0.41(単位は質量%)。
2)複合ニッケル微粒子B−2の平均粒子径;87nm、CV値;0.17。
3)複合ニッケル微粒子B−2中の元素分析の結果、チタン元素を0.01wt%、バリウム元素を0.15wt%含有。その結果、O/(Ba+Ti)=73.0のモル比率を有する複合ニッケル微粒子。
4)複合ニッケル微粒子B−2のTMA測定結果より得られる10%収縮時の温度;425℃
【0111】
複合ニッケル微粒子B−2のSEM写真を図16に、熱機械分析(TMA)の測定結果を図17に示した。この結果、結晶性のチタン酸バリウムを用いた場合、ニッケル微粒子の表面に効率よく固定化されていないため、その複合ニッケル微粒子B−2は耐焼結性に劣ることがわかる。
【0112】
(比較例3)
市販のペロブスカイト構造を有するチタン酸バリウムの微粒子(戸田工業株式会社製、商品名;T−BTO−020RF、金属組成;Ba:Ti=5:5(モル比)、平均粒子径;20nm、結晶化度;1.0)を超音波ホモジナイザーにてオレイルアミンに分散させた。本スラリーを用いて、実施例1と同様の実験を行い、ニッケル微粒子組成物B−3を得た。このニッケル微粒子組成物B−3の特徴は、次のとおりであった。
1)ニッケル微粒子組成物B−3の元素分析;C;0.4、O;1.5、S;0.40(単位は質量%)。
2)ニッケル微粒子組成物B−3は、平均粒子径92nmのNi粒子と平均粒子径20nmのチタン酸バリウムの混合物。
3)ニッケル微粒子組成物B−3中の元素分析の結果、チタン元素を0.01wt%、バリウム元素を0.17wt%含有。その結果、O/(Ba+Ti)=64.8のモル比率を有するニッケル微粒子組成物。
4)ニッケル微粒子組成物B−3のTMA測定結果より得られる10%収縮時の温度;410℃
【0113】
この結果、結晶性のチタン酸バリウムを用いた場合、ニッケル微粒子の表面に効率よく固定化されていないため、そのニッケル微粒子組成物B−3は耐焼結性に劣ることがわかる。
【0114】
(比較例4)
比較例1で合成したニッケル微粒子B−1(平均粒子径 92nm)6.5重量部と実施例3で使用した合成例3の複合酸化物の微粒子の93.5重量部を乾式でよく混合して得られたニッケル微粒子組成物B−4の特徴は、次のとおりであった。
1)ニッケル微粒子組成物B−4の元素分析;C;0.4、O;2.7、S;0.38(単位は質量%)。
2)ニッケル微粒子組成物B−4は、平均粒子径92nmのNi粒子と平均粒子径10nmの複合酸化物の微粒子の混合物。
3)ニッケル微粒子組成物B−4中の元素分析の結果、チタン元素を1.3wt%、バリウム元素を2.6wt%含有。その結果、O/(Ba+Ti)=3.66のモル比率を有するニッケル微粒子組成物。
4)ニッケル微粒子組成物B−4のTMA測定結果より得られる10%収縮時の温度;420℃
【0115】
この結果、チタン酸バリウムを単純に混合した粒子では耐焼結性が向上し難いことがわかる。
【0116】
(比較例5)
比較例1で合成したニッケル微粒子B−1(平均粒子径 92nm)6.0重量部と実施例5で使用した合成例5の複合酸化物の微粒子の94.0重量部を乾式でよく混合して得られたニッケル微粒子組成物B−5の特徴は、次のとおりであった。
1)ニッケル微粒子組成物B−5の元素分析;C;0.4、O;2.52、S;0.3.6(単位は質量%)。
2)ニッケル微粒子組成物B−5は、平均粒子径92nmのNi粒子と平均粒子径10nmの複合酸化物の微粒子の混合物。
3)ニッケル微粒子組成物B−5中の元素分析の結果、チタン元素を0.8wt%、バリウム元素を2.35wt%含有。その結果、O/(Ba+Ti)4.66=のモル比率を有するニッケル微粒子組成物。
4)ニッケル微粒子組成物B−5のTMA測定結果より得られる10%収縮時の温度;450℃
【0117】
この結果、チタン酸バリウムを単純に混合した粒子では耐焼結性が向上し難いことがわかる。
【0118】
実施例1〜6と比較例1〜5の結果を表1及び表2に示す。ここで、比較例3〜5で得られたニッケル微粒子組成物B−3〜B−5は、ニッケル微粒子と複合酸化物の混合物であるので、表2中の比較例3〜5における「平均粒子径」は、ニッケル微粒子の平均粒子径を採用した。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
表1及び表2から、バリウム元素及びチタン元素を含む複合酸化物をニッケル微粒子に固定化したことによって、耐焼結性が大幅に改善していることがわかる。
【0122】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0123】
1…マトリックス部、10…固定化複合酸化物、100…複合ニッケル微粒子
図1
図3
図5
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図9
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