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特開2015-194396固体物質試料の極表面弾性率の測定方法及びそれを用いた樹脂表面の対膜接着性評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-194396(P2015-194396A)
(43)【公開日】2015年11月5日
(54)【発明の名称】固体物質試料の極表面弾性率の測定方法及びそれを用いた樹脂表面の対膜接着性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01Q 60/36 20100101AFI20151009BHJP
【FI】
   G01Q60/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-72380(P2014-72380)
(22)【出願日】2014年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】永尾 晴美
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 敦
(57)【要約】
【課題】表面が凝着力を有する樹脂フィルムの極表面の弾性率の評価方法を提供する。
【解決手段】原子間力顕微鏡を用いた表面がシランカップリング剤処理等により凝着力を持った樹脂フィルムの極表面の弾性率の測定方法であって、原子間力顕微鏡の探針を、固体物質試料に塑性変形を与えることなく弾性変形を与える範囲内の固体物質試料の変位量である弾性変位量で接触させる。このとき、固体物質試料の極表面の弾性率の算出に当たり、DMT弾性接触理論を用いる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子間力顕微鏡を用いた固体物質試料の極表面の弾性率の測定方法であって、
前記固体物質試料が表面に凝着力を有する樹脂フィルムであり、
前記原子間力顕微鏡の探針を、前記固体物質試料に塑性変形を与えることなく弾性変形を与える範囲内の前記固体物質試料の変位量である弾性変位量で接触させ、
前記固体物質試料の極表面の弾性率の算出に当たり、DMT弾性接触理論を用いることを特徴とする固体物質試料の極表面弾性率の測定方法。
【請求項2】
前記探針が前記固体物質試料へ押し込まれる際の探針に負荷される押込荷重と、その際の前記固体物質試料の変位量である押込変位量と、の関係を測定する押込工程と、前記固体物質試料へ押し込まれた探針が荷重を弱めて前記固体物質試料から離脱する際の離脱荷重と、その際の前記固体物質試料の変位量である離脱変位量と、の関係を測定する離脱工程と、前記押込工程と前記離脱工程とを対比して前記弾性変位量を決定することを特徴とする請求項1に記載の固体物質試料の極表面弾性率の測定方法。
【請求項3】
前記弾性変位量が10nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体物質試料の極表面弾性率の測定方法。
【請求項4】
前記探針のカンチレバーの反り量が3nm以下であることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の固体物質試料の極表面弾性率の測定方法。
【請求項5】
前記探針がダイヤモンドプローブであることを特徴とする請求項4に記載の固体物質試料の極表面弾性率の測定方法。
【請求項6】
樹脂フィルムと膜との接着強度を評価する方法であって、請求項1から5いずれかに記載の固体物質の極表面の弾性率測定方法を用いて、前記樹脂フィルムの前記極表面弾性率を測定し、この測定値と前記接着強度との関係をあらかじめ測定することによって、前記極表面弾性率の値によって前記樹脂フィルムの対膜接着性を評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面がシランカップリング剤処理等により凝着力を持った樹脂フィルム等の固体物質試料の極表面の弾性率測定方法に関する。より具体的には、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope 以下AFMということがある)で新規な手法を用いた固体物質試料の極表面の弾性率測定方法に関する。また、本発明の固体物質試料の極表面の弾性率測定方法を利用した樹脂フィルム表面の対膜接着性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会を支える各種機器に用いられる材料には異物質同士の接着、接合及び結合が重要なものが多く、極表面の物性評価が材料開発において、重要な指標となっている。例えば、電子機器の小型化で多用されているCOF(Chip on film)に用いられるフレキシブル配線基板は、基材の樹脂フィルムの表面に銅の膜を形成した銅張積層基板(FCCL:Flexible Copper Clad Laminates)材料を用いる。このような、FCCLや光学フィルターは、基材と各種膜との接着、接合及び結合が重要であり、これには樹脂フィルムの表面状態が関与している。
【0003】
表面状態の一評価手法として弾性率がある。固体物質の極表面の弾性率測定としては、特許文献1に挙げられるナノインデンターによる評価が一般的に行われている。しかし、ナノインデンターが測定している弾性率は、評価試料の表面から数10nmよりも内側の弾性率を測定しており、極表面の弾性率ではない。なお、試料表面においては弾性変形的な振る舞いをする場合のみならず、塑性変形する場合もあるために、極表面でこれらの挙動を区別して弾性率のみを測定することは容易ではない。
【0004】
また、表面の評価装置としてAFMが知られている。特許文献2によれば、AFMは生体高分子やファインセラミックの破断面等の表面の凹凸情報だけでなく、電気的及び磁気的情報も得られる。しかし、特許文献2のようなAFMにおいても、塑性変形する固体物質の極表面の弾性率のみを測定する技術については開示されていない。
【0005】
特許文献3によれば、AFMにより弾性変形と塑性変形とが共存するような固体物質において、極表面の弾性率を得ることが可能となり、極表面弾性率の値によって樹脂フィルムの対膜接着性を評価することが可能である。しかし、特許文献3では、解析方法としてHertz理論を用いており、試料とAFM探針間に凝着現象が起こる場合、上記理論では凝着力を取り扱えないため、凝着のない系にのみしか適用することができない。高い密着性を確保するために表面をシランカップリング剤処理したポリイミドフィルムの場合、この凝着現象が起こるため、特許文献3の解析方法では極表面の弾性率を評価することは困難である。また、特許文献3では、凝着力がある試料を測定するための別の手法としては水中測定があげられている。しかし、水中での測定は試料を吸水させて測定するため、求めた極表面弾性率の値に真偽が問われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−300268号公報(第4244329号)
【特許文献2】特開平07−134023号公報(第2500373号)
【特許文献3】特開2012−52885号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.S.Villarrubia,J.Res.Natl.Inst.Stand.Technol.102,425(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情を鑑み、表面処理によって表面が凝着力を持つ樹脂フィルムであっても、極表面の弾性率を得ることを可能とし、極表面弾性率の値によって樹脂フィルムの対金属膜接着性を評価できる方法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、AFMで固体物質の表面を探針で押し込む際に、探針のばね定数と測定時の探針の反り量を調整して、塑性変形させずに弾性変形領域で変形させ、解析理論として凝着を考慮したDMT理論を用いることで表面処理によって凝着力のある樹脂フィルムであっても極表面の弾性率を評価できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0010】
また、上述のFCCLでは、この方法によって測定されたポリイミド基材の極表面の弾性率が、金属膜との接着強度と関係することを見出した。
【0011】
具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0012】
(1)原子間力顕微鏡を用いた固体物質試料の極表面の弾性率の測定方法であって、前記固体物質試料が表面に凝着力を有する樹脂フィルムであり、前記原子間力顕微鏡の探針を、前記固体物質試料に塑性変形を与えることなく弾性変形を与える範囲内の前記固体物質試料の変位量である弾性変位量で接触させ、前記固体物質試料の極表面の弾性率の算出に当たり、DMT弾性接触理論を用いることを特徴とする固体物質試料の極表面弾性率の測定方法。
【0013】
(2)前記探針が前記固体物質試料へ押し込まれる際の探針に負荷される押込荷重と、その際の前記固体物質試料の変位量である押込変位量と、の関係を測定する押込工程と、前記固体物質試料へ押し込まれた探針が荷重を弱めて前記固体物質試料から離脱する際の離脱荷重と、その際の前記固体物質試料の変位量である離脱変位量と、の関係を測定する離脱工程と、前記押込工程と前記離脱工程とを対比して前記弾性変位量を決定することを特徴とする(1)に記載の固体物質試料の極表面弾性率の測定方法。
【0014】
(3)前記弾性変位量が10nm以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の固体物質試料の極表面弾性率の測定方法。
【0015】
(4)前記探針のカンチレバーの反り量が3nm以下であることを特徴とする(1)から3いずれかに記載の固体物質試料の極表面弾性率の測定方法。
【0016】
(5)前記探針がダイヤモンドプローブであることを特徴とする(4)に記載の固体物質試料の極表面弾性率の測定方法。
【0017】
(6)樹脂フィルムと膜との接着強度を評価する方法であって、(1)から(5)いずれかに記載の固体物質の極表面の弾性率測定方法を用いて、前記樹脂フィルムの前記極表面弾性率を測定し、この測定値と前記接着強度との関係をあらかじめ測定することによって、前記極表面弾性率の値によって前記樹脂フィルムの対膜接着性を評価する方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、これまで困難だった表面が、例えばシランカップリング剤処理されたポリイミドフィルムのような凝着力のある系の固体物質の極表面の弾性率を評価することが可能となる。これにより、例えばFCCLのポリイミドと金属膜の密着性の向上させるために、極表面が特定の弾性率のポリイミドを選択することが可能となり、ポリイミドを選択することで製品の特性向上や工程の歩留まり改善が可能となる。
【0019】
なお、本発明における「表面に凝着力を有する樹脂フィルム」の凝着力とは、定性的には上記固体物質試料と探針の間に働く吸着力、粘着力のようなものであるが、固体試料の固さ、探針やカンチレバーの固さ、材質、形状、試料と探針の接触面積、試料・探針の間の分子間力や、電気的引力、それぞれの表面の官能基、濡れ性等、原因は様々で一概には言えず、一般にジャンプインと言われる、試料と探針を近づけようとする作用力である。図1は凝着を持つ一般的な物質のフォースカーブを示す図であり、図2は探針が試料を押し込む過程から離脱する過程までを示した模式図である。図1及び図2に示された「過程1」から「過程7」はそれぞれの図で対応しており、「過程1」から「過程3」は、試料と探針を近づけていった時の過程を指し、「過程4」から「過程7」は、試料と探針を離した時の過程を指す。本発明で言う凝着力は「過程2」で発生するジャンプイン、即ち、探針が試料に押し込まれる方向をプラスとすると探針が試料に引き寄せられるマイナスの作用力のことである。凝着力の大きさは、図1の「過程2」での探針が試料に引き寄せられているdeflection(反り量)によって示される。一方、探針を試料から引き離す「過程6」で発生するマイナスの作用力の方が値も大きく、一般的な凝着力とも言えるが、本発明でこれは関係しない。凝着がある場合のフォースカーブの例を凝着のない図3、4に対比して図5、6に示すが、矢印の部分がその固体物質間の凝着力を表している。フィルム表面に凝着力を持った樹脂フィルムとしては、化学的及び物理的表面処理によって表面が活性化されたフィルムが例示できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】凝着を持つ一般的な物質のフォースカーブを示す図である。
図2】探針が試料を押し込む過程から離脱する過程までを示した模式図である。
図3】フォースカーブによる弾性接触解析を示す図である。
図4】フォースカーブによる弾性接触解析を示す図である。
図5】凝着を持つフォースカーブによる弾性接触解析を示す図である。
図6】凝着を持つフォースカーブによる弾性接触解析を示す図である。
図7】大気中測定のカー試料変計量曲線と接触式とのHertz理論によるフィッティングを示す図である。
図8】大気中測定のカー試料変計量曲線と接触式とのDMT理論によるフィッティングを示す図である。
図9】大気中測定のカー試料変計量曲線と接触式とのJKR理論によるフィッティングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
AFMは試料表面と探針の間に作用する力により探針を保持するカンチレバーに誘起される変位を用いて、表面形状を評価する顕微鏡である。具体的には、AFMは、先端に鋭い探針を有するカンチレバーと試料との間に働く相互作用力を検出している。カンチレバーは、探針が試料に接触することで反る。カンチレバーの反り量は、フックの法則から、評価試料へ掛かる荷重となる。AFMはカンチレバーの反り量を検出する光学的手段と、探針が押し込まれる方向での評価試料とカンチレバーの相対的距離関係を検出するピエゾ素子を備えており、ピエゾ素子が検出する信号を評価試料の変位量に換算する。反り量を検出する光学手段は、カンチレバーにレーザー光を照射し、カンチレバーの反りにより変化するレーザーの反射角を反射したレーザー光の検出位置の変化で検出する。評価試料の変位量は、使用する装置毎に異なるが、固定された探針に対し評価試料をピエゾ素子で動かす方式でも試料の変位量を知ることができるし、評価試料を固定し、カンチレバーの動きをピエゾ素子で制御する方式でも知ることができる。
【0022】
探針を評価試料が塑性変形せずに弾性変形する試料の変位量(弾性変位量)の範囲で押し込み、試料の変形量から弾性率を求めることで、表面形状ではなく極表面の弾性率という物性を得ることができる。
【0023】
すなわち、固体物質試料の弾性率測定方法は、探針を評価試料へ弾性変形する範囲で押し込み、カンチレバーの反り量から算出される荷重(押込荷重)と、ピエゾ素子が検出する評価試料の変位量(押込変位量)と探針の先端の曲率半径から弾性率を測定する。
【0024】
[フォースディスタンスカーブの測定]
AFMは高さ方向の凹凸情報を検出して表面形状を測定するだけでなく、x軸にピエゾ素子変位量、y軸にカンチレバーの反り量をプロットしたフォースディスタンスカーブという情報も測定することができる。このフォースディスタンスカーブからカンチレバーにかかる力を求めることができる。
【0025】
フォースディスタンスカーブを求めるには以下の手順で行う。まず、カンチレバーよりも弾性変形しにくい標準試料をAFMにセットしてカンチレバーのキャリブレーションを行う。前記標準試料にカンチレバーを押し付けてカンチレバーを反らせ、カンチレバーの反り量と、ピエゾ素子の変位量の関係を測定する。
【0026】
次に、評価試料をAFMにセットし、標準試料のキャリブレーションと同様に押し付け、評価試料のフォースディスタンスカーブを測定する。このAFMによる弾性率測定は通常のContact−modeが測定できる装置であれば評価可能であるが、弾性率のような力学的物性は測定のばらつきが大きいため、1点ではなく多点で評価することが望ましい。特に、評価試料の表面の凹凸情報と多点でのフォースディスタンスカーブを同時に測定できることが望ましい。そのような装置としては、例えばVeeco Instruments社製の走査型プローブ顕微鏡NanoscopeやDimension等があり、同測定装置のForce Volumeモードを用いれば、評価試料の表面の凹凸情報と多点でのフォースディスタンスカーブを同時に測定できる。得られた多点での弾性率は、統計的解析を行うことで、試料の弾性率を知ることができる。なお、Veeco Instruments社製の走査型プローブ顕微鏡Nanoscope以外のAFMでも、フォースディスタンスカーブを測定可能なので、測定点の極表面の弾性率を知ることができる。
【0027】
カンチレバーと探針の選定には、評価試料に弾性変形を与える範囲で探針を押し込んでも、押し込む際の評価試料との間に生じる力でカンチレバーや探針が壊れないものを用いることに留意する。カンチレバーと探針の選択には、探針が評価試料に接触する点での圧力と評価試料の予測される極表面の弾性率から検討すればよい。カンチレバーの探針が測定試料に押し込まれることで、カンチレバーが塑性変形してしまう場合には、試料が変形する代わりにカンチレバーが変形して壊れてしまい、評価試料ではなくカンチレバーの弾性率を評価することになってしまうためである。
【0028】
評価試料がポリアミドやポリイミドといったエンジニアリングプラスチックの場合、一般的に知られている高分子材料よりも非常に硬いため、高分子試料で用いられているシリコン製探針を用いると探針自体が壊れてしまう。また、硬いとされるDLC(Diamond like Carbon)探針を用いても探針の破壊は避けられない。探針やカンチレバーの選択には、靱性や脆性にも留意して選択すればよい。評価試料がエンジニアリングプラスチックであれば、ダイヤモンド探針を選択することが望ましく、カンチレバーは、ステンレス等の材料を用いることが望ましい。評価試料によりカンチレバーと探針を適宜選択すればよい。
【0029】
この組み合わせでは、塑性変形させずに弾性変形させるカンチレバーの反り量として0.1〜3nm、で調整することが望ましい。カンチレバーの反り量が3nmを越えると、固体物質試料が塑性変形する恐れがあり、本発明の固体物質試料の極表面の弾性率測定ができなくなる可能性がある。また、探針の押し込みによる試料の変位量を10nm以内に抑えることが望ましい。
【0030】
エンジニアリングプラスチックを固体物質試料としての極表面の弾性率の測定方法では、エンジニアリングプラスチックの弾性率が高いため、一般的なシリコン探針では正確な測定はできず、ダイヤモンド探針を用いて測定する必要がある。この組み合わせでは、塑性変形させずに弾性変形させるカンチレバーの反り量として0.1〜3nm、で調整することが望ましい。カンチレバーの反り量が3nmを越えると、固体物質試料が塑性変形する恐れがあり、本発明の固体物質試料の極表面の弾性率測定ができなくなる可能性がある。
【0031】
また、樹脂フィルムを固体物質試料とした場合、探針の押し込みによる試料の変位量を10nm以内に抑えることが望ましい。
【0032】
カンチレバーの反り量は、カンチレバーの材質はもちろん、探針の先端部の形状によっても影響を受ける。市販の探針の先端の半径は10〜100nmである。また、測定で探針は磨耗する。新品の探針と使用して磨耗した探針の形状は、一定の範囲に管理する必要がある。探針の先端部が鋭いと、試料表面は小さな力で変形するが、先端部が鈍いと試料表面はより大きな力を掛けなければ変形しない。カンチレバーに大きな力を掛ければ、それだけ評価試料に大きな力がかかり、塑性変形をしかねない。そこで、カンチレバーの反り量を0.1nm〜3nmの範囲にとり、かつカンチレバーが評価試料に与える変位量(押し込み深さ)を10nm以内に抑えるために、探針は、先端部を評価する必要がある。なお、探針の先端の形状は、カンチレバーの反りとカンチレバーが評価試料に与える変位量を実現できる範囲に管理できるように適宜選択すればよい。そしてさらに、探針の曲率を知ることは、弾性率を算出するのに必要となる。このように、AFMによる弾性率評価では探針先端の曲率半径が重要である。
【0033】
AFM探針の先端部の形状すなわち曲率(半径)の評価方法を検討した結果、凹凸像測定における走査速度及び分解能が曲率半径の算出値に与える影響を確認した。探針先端の半径は弾性率の算出において重要なファクターになっていて無視できないため、正確に評価する必要がある。探針先端の形状は、SEMで直接観察する方法やAurora Nano Device社製の探針形状評価用試料の凹凸像から逆算する方法等がある。
【0034】
すなわち、探針の曲率の測定の方法は、曲率半径を知りたい探針を用いて下記のような形状をもつサンプルの凹凸像を2nm/pixel以下の高分解能で測定し、その凹凸像から曲率半径を算出するものである。
【0035】
具体的には、凸と凸の間の凹が1〜100nmまで等間隔もしくはランダムに5個以上存在し、ひとつの凸は10〜1000nmの高さの形状をもつ試料であり、なおかつ、その凹凸がシリコンの弾性率以上の硬さをもつ試料を用いて、AFMによる凹凸像を測定する。
【0036】
このとき、測定の分解能は2nm/pixel以下の高分解能測定が必要であり、この値を小さくするほど得られる曲率半径の精度は高くなる。また、測定におけるノイズは11nm以下であることが必要である。さらに、得られる凹凸像は縦横それぞれ5個以上の凹凸を含める必要がある。さらに、凹凸先端の曲率半径が数10nm以下の鋭い凹凸をもつ試料の場合、走査速度が速くなると、正しい凹凸像を測定することができないため、1Hz以下の走査速度で測定する必要がある。
【0037】
このようにして得られた凹凸像から非特許文献1のVillarrubiaの算出方法によって探針先端の曲率半径を算出する。この方法で曲率半径を算出するのは手計算では困難なため、コンピュータプログラミングによる解析が有効である。そのようなプログラムが組み込まれた解析ソフトの例としてImage Metrology社製のSPIPがある。
【0038】
[フォースディスタンスカーブの解析]
AFMによる極表面の弾性率を算出するには、フォースディスタンスカーブ測定で得られたピエゾ素子変位量−カンチレバーの反り量曲線を用い、カンチレバーの反り量にばね定数を乗じて、評価試料の変形量−荷重曲線を得る。AFMで評価試料を測定すると、カンチレバー(探針)の荷重で評価試料の表面は変形する。試料に加わる荷重はカンチレバーのばね定数と反り量で決まるが、ピエゾ素子が検出する変位量は、カンチレバーの反り量と評価試料の変形量が合計された変位量となる。評価資料を測定した際のピエゾ素子変位量から、キャリブレーションの際のピエゾ素子変位量を引くと、評価試料の変位量が算出できる。
【0039】
図3に示した、横軸に試料表面に対する法線方向のピエゾ素子変位zを取り、縦軸にカンチレバーの反りΔを取ったものがフォースカーブである。カンチレバーのバネ定数をkとすると力Fは
【0040】
【数1】
【0041】
で計算できる。試料表面が十分硬い場合には図3の点線のように接触点(z, 0)からの変位量(z−z)は常にΔと一致するが、試料が弾性変形する実線のような時には、
【0042】
【数2】
【0043】
から試料変形量δが見積もられる。Δ−zプロットから導かれた図4のF−δプロットに対して以下のHertz接触式でフィッティングすると弾性率Fが求まる。
【0044】
【数3】
【0045】
この式ではプローブ形状を曲率半径Rの球とみなしており、aはプローブと試料の接触径、Kは複合弾性率Eを用いて以下のように定義される。
【0046】
【数4】
【0047】
Eとνはそれぞれ(縦)弾性率(ヤング率)とポアソン比で、数字は試料とプローブを表す。通常、プローブ材料はSiやSiでありソフトマテリアルの弾性率とはオーダーで異なる。従ってKの式の右辺第二項はほとんどの場合無視しうる。試料を変形させすぎると理論式からの逸脱が生じてくるし、変形量が少ないと実験誤差が大きくなり測定値の信頼性が落ちることになる。カンチレバーの反り量と予想される試料変形量は同程度にする必要がある。なお式中で、ポアソン比は数値を仮定せねばならないが、(1)式中のkはさまざまな方法で実際の値を測定することができる。例えば熱振動スペクトルから求める方法は複数の市販装置でも採用されており簡便である。(3)式中のRも実測可能な数値である。従って、モデルと現実の系の整合性さえよければ、原理的にはかなり精度よく弾性率が算出できる。普通はAFMを試料の凹凸を測定するためのツールとして利用するため、試料が変形しては困る。従って、試料の弾性率に比較して軟らかい探針を使う必要があるが、発想を転換して試料を積極的に変形し、その変形量から試料の力学的物性値を検出することができる。これがAFMによるナノ触診技術である。
【0048】
凝着力を扱えないHertz接触で実験結果を記述できるのは特別な場合である。試料によってはどうしても凝着を避け難い場合があり、試料変形量が小さく、接触面積の変化が微小であると仮定できる場合にはDMT接触理論を用いる。DMT接触理論はHertz接触において、一定の凝着力がかかっている場合に適用でき、(3)式を元に
【0049】
【数5】
【0050】
という表式になる。
【0051】
さらに試料変形量が大きくなる場合にはJKR接触理論が妥当になる。図3の凝着が存在する場合が図5である。図3の「カンチレバーの反り−ピエゾ変位量」の関係を(2)式によって「荷重−試料変形量」の関係に変換したのと同様に、図5を変換したのが図6である。
【0052】
本発明の固体物質試料の極表面弾性率測定は、探針にダイヤモンド探針を用い、カンチレバーの反り量を0.1nm〜3nmで、かつ評価試料の探針の押し込みよる変位量を10nmに抑えると樹脂フィルムの測定に適した条件となる。もちろん、このような探針やカンチレバーの反り量や測定試料の変位量で、カンチレバーや探針に塑性変形等の問題が生じないならば、金属やセラミックの極表面の弾性率測定に用いることができるのはもちろんである。なお、固体物質試料は、塑性変形する試料でかつ固体あれば、金属、セラミックス、樹脂等に限定されない。
【0053】
測定試料をAFM試料台に固定する方法は、測定試料をAFMの試料台に固定する方法は、各種接着剤等を用いることができる。例えば、カーボンペーストを用いて固定してもよい。ただし、試料を汚染しないように留意する必要がある。
【0054】
[樹脂フィルムの対膜接着性を評価する方法]
樹脂フィルムの表面に金属膜、金属酸化物膜、金属窒化物膜、金属ホウ化物等の膜を成膜し、導電性、光学特性、耐薬品性、ガスバリア性等を付与した樹脂フィルムがある。樹脂フィルムの表面に金属膜、金属酸化物膜、金属窒化物膜などの膜を成膜するには、スパッタリング法や蒸着法等の乾式成膜法を用いることができる。また、乾式成膜法の膜の表面に電解めっきをも何処しても良い。
【0055】
樹脂フィルムの表面に金属膜を成膜すると銅張積層基板(FCCL)等を得ることができる。ITO(Indium Tin Oxide)膜を成膜し透明導電膜付樹脂フィルムとすることもできる。樹脂フィルムの表面に屈折率が異なる金属酸化物膜を積層したり、金属酸化物膜と金属膜を積層することでNDフィルター(Neutral Density Filter)とすることができる。更には、紫外線や近赤外線を選択的に吸収する金属酸化物、金属窒化物、金属ホウ化物の膜を成膜することで、可視光を透過させるが紫外線や近赤外線を遮蔽する紫外線遮蔽や近赤外線遮蔽の機能を有する樹脂フィルムを得ることができる。
【0056】
銅張積層基板(FCCL)は、樹脂フィルムの表面に銅の膜を形成している。例えば樹脂フィルムにポリイミドフィルムを用い、ポリイミドフィルムの表面に銅の膜を形成している製品が広く知られている。そのうち、配線ピッチが50μm以下の挟ピッチには、ポリイミドフィルムの表面に接着剤を介することなくNi合金薄膜とNi合金薄膜の表面にCu薄膜とをスパッタリング法で成膜し、Cu薄膜の表面に電解めっき法で銅膜を成膜した2層FCCLが知られている。接着剤を使用しないので、ポリイミドフィルムと金属層との密着力を高めるために、ポリイミドフィルムの表面に表面がシランカップリング剤による処理が施されており、銅張積層基板における金属層との高い密着性が確保されている。2層FCCLは、サブトラクティブ法やセミアディティブ法で配線パターンを形成する。
【0057】
サブトラクティブ法でフレキシブル配線板を得る場合には、まず、基材の金属層表面にレジスト層を設け、そのレジスト層の上に所定の配線パターンを有するマスクを設け、その上から紫外線を照射して露光し、現像して金属層をエッチングするためのエッチングマスクを得、次いで露出している金属部をエッチングして除去し、次いで残存するレジスト層を除去し、水洗し、要すれば配線のリード端子部等に所定のめっきを施して得る。
【0058】
セミアディティブ法で得る場合には、基材の金属表面にレジスト層を設け、そのレジスト層の上に所定の配線パターを有するマスクを設け、その上から紫外線を照射して露光し、現像して金属層表面に銅を電着させるためのめっき用マスクを得、開口部に露出している金属層を陰極として電気めっきして配線部を形成し、次にレジスト層を除去し、ソフトエッチングして配線部以外の前記基材表面の金属層を除去して配線部を完成させ、水洗し、要すれば、配線のリード端子部等に所定のめっきを施して得る。
【0059】
樹脂フィルムの表面に金属膜、金属酸化物膜、金属窒化物膜、金属ホウ化物膜等膜を製膜し、樹脂フィルムと膜の接着性が問題となることがある。本発明においては、上述の極表面弾性率測定方法をこの銅張積層基板等の接着性評価に利用することができる。すなわち、樹脂フィルムと金属等の膜との接着強度を評価するにあたって、上記の固体物質の極表面の弾性率測定方法を用いて、樹脂フィルムの極表面弾性率を測定する。そして、この測定値と対膜接着強度との間に所定の関係があることを見出した点に本発明の別の特徴がある。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0061】
AFMにプローブ走査顕微鏡のVeeco Instruments社製NanoScopeVを使用し、Force Volumeモードで測定した。評価試料は宇部興産製のポリイミドフィルムUpilex−SGAのシランカップリング剤処理面を用いた。探針はVeeco社製のダイヤモンド探針(ばね定数236N/m)を用いた。また、測定画面は5×5μm、測定点数は1辺当たり64点で、全画面の合計点数を4096点とした。また、算出時のポアソン比は0.3と仮定した。
【0062】
試料フィルムの極表面の弾性率をカンチレバーの反り量を1nmで測定し、押し込み深さは深くても5nmとした。
【0063】
測定したフォースカーブを式(1)
により力−試料変形量の関係にした曲線を図7から図9に示す。
【0064】
(比較例1)
Hertz理論により解析を行った。押し込み時の曲線にHertz理論によるフィッティング結果を実線で重ねた(図7)。この図からHertz理論では原点からフィッティングが合わず、正しく解析が行えていないことがわかる。
【0065】
(実施例1)
DMT理論により解析を行った。比較例1と同様に押し込み時の曲線にDMT理論によるフィッティング結果を実線で重ねた(図8)。押し込み時の曲線と良く重なり合っていることから、DMT理論により実験結果を正しく解析できていることがわかる。
【0066】
(比較例2)
JKR理論により解析を行った。比較例1と同様に引き離し時の曲線にJKR理論による解析結果を重ねた(図9)。JKR理論では試料変形量が大きくなるにつれて曲線から逸脱していくのがわかることから、正しく解析が行えていないことがわかる。
【0067】
(実施例2から6)
本発明の固体物質試料の極表面弾性率の測定方法をFCCL(Flexible Copper Clad Laminates)の製造で応用した実施例を示す。
【0068】
宇部興産製のポリイミドフィルムUpilex−SGA(登録商標)のシランカップリング剤処理面につき、各ロットについて5μm×5μm四方の範囲で4096箇所の弾性率を本発明の極表面弾性率の測定方法で測定した。AFMにはVeeco Instruments社製NanoScopeVを用いForce Volumeモードで測定とした。探針はVeeco社製のダイヤモンド探針としカンチレバーのばね定数236N/mを用いた。カンチレバーの反り量を1.5nmとして、ポリイミドフィルム各ロットで4096箇所の弾性率を測定し、1〜5ロットの弾性率を表1に示す。
【0069】
ポリイミドフィルムの各ロットの表面に膜厚10nmの20重量%クロム含有のニッケル−クロム合金20nmとニッケル−クロム合金薄膜の表面に膜厚100nmの銅薄膜をスパッタリング法で成膜した。スパッタリング成膜後、銅薄膜の表面にpH1以下の硫酸銅溶液中で銅電解めっきを行い膜厚8μmの銅膜を成膜してFCCLを得た。
【0070】
得られたFCCLに、IPC−TM−650、NUMBER2.4.9に準拠した測定方法で試験片を作製し、熱履歴後のピール強度を測定した。熱履歴は150℃168時間とした。なお、ピール強度の測定条件は、ピールの角度を90°とし、試験片のリード幅は1mmとなるように公知のサブトラクティブ法で加工した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1より、ポリイミド表面の弾性率とピール強度には関連が見られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の極表面の弾性率測定方法は、例えば異種個体物質同士の密着性管理に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9