特開2015-195764(P2015-195764A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-195764(P2015-195764A)
(43)【公開日】2015年11月9日
(54)【発明の名称】調理済み麺類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/16 20060101AFI20151013BHJP
【FI】
   A23L1/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-75869(P2014-75869)
(22)【出願日】2014年4月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】利光 菜由
(72)【発明者】
【氏名】高橋 美和
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA01
4B046LB04
4B046LB05
4B046LB06
4B046LB09
4B046LB10
4B046LC11
4B046LC17
4B046LG16
4B046LP57
4B046LP80
(57)【要約】
【課題】老化耐性があり、保存しても良好な外観と食感を維持することができる調理済み麺類の提供。
【解決手段】加工澱粉5〜40質量%を含む原料粉から製造された生麺類を浸漬液に15分以上浸漬させることと、該浸漬させた生麺類を加熱調理することとを含む、調理済み麺類の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工澱粉5〜40質量%を含む原料粉から製造された生麺類を浸漬液に15分以上浸漬させることと、該浸漬させた生麺類を加熱調理することとを含む、調理済み麺類の製造方法。
【請求項2】
前記加工澱粉が、加工タピオカ澱粉である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記加工タピオカ澱粉が、エステル化タピオカ澱粉、エーテル化タピオカ澱粉およびエーテル化架橋タピオカ澱粉からなる群より選択される1種以上である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記加工タピオカ澱粉が、アセチル化タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉、およびヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉からなる群より選択される1種以上である、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記浸漬液のpHが2.0〜7.5である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記浸漬液への生麺の浸漬時間が30分〜12時間である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記浸漬液の温度が5〜60℃である、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法により製造された調理済み麺類を冷蔵または冷凍することを含む、冷蔵または冷凍調理済み麺類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理済み麺類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
短時間の調理で喫食可能な麺類として、従来、茹で麺を冷蔵または冷凍状態で流通させたものが提供されている。しかしこれらの冷蔵または冷凍麺は、流通や喫食前の調理の間に麺が老化したり伸びたりすることによって、風味や食感が損なわれることがあった。
【0003】
特許文献1には、未α化状態の生麺線を、温度5〜50℃、pH3〜6の酸性水溶液に0.5〜10分間浸漬した後、茹で処理を行うことにより、茹でどけが少なく食感に優れた茹で麺類を製造することができることが記載されている。特許文献2には、密度1.36g/cm3以上の乾麺を、水浸漬や水散布により水分30〜55%に調整した後に茹でることにより、食感がよく、また表面の肌荒れがなく優れた光沢と色調を有する茹で麺を製造することができることが記載されている。特許文献3には、糊化温度が低い澱粉を5%〜30%配合してなる生麺線を、15〜75℃の温水シャワーで10〜60秒間処理した後、蒸気処理し、ついで水洗および冷凍することにより、解凍後の食感が良好な冷凍中華麺を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−172217号公報
【特許文献2】特開2004−154002号公報
【特許文献3】特開平3−133350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、冷蔵または冷凍保存しても、保存中に麺が老化することなく良好な外観と食感を維持することができる調理済み麺類の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、加工タピオカ澱粉を含む原料粉から製造された麺類を、生麺のまま所定の時間、中性付近〜酸性の浸漬液に浸漬させることにより、老化耐性があり、冷蔵または冷凍保存しても良好な外観と食感とが維持された調理済み麺類を製造することができることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、加工澱粉5〜40質量%を含む原料粉から製造された生麺類を浸漬液に15分以上浸漬させることと、該浸漬させた生麺類を加熱調理することとを含む、調理済み麺類の製造方法を提供する。
また本発明は、上記調理済み麺類を冷蔵または冷凍することを含む、冷蔵または冷凍調理済み麺類の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法で得られた調理済み麺類は、老化耐性があり、冷蔵または冷凍保存しても保存中に麺が老化することなく、良好な外観と食感とを維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、麺類とは、穀粉や澱粉を含む原料粉を混練して調製された生地を成型して得られる食品をいい、その種類や形状は特に限定されない。本発明の方法により製造される麺類としては、例えば、うどん、そば、中華麺、パスタ類、麺皮類などが挙げられる。
【0010】
本発明の調理済み麺類は、加工澱粉を含む原料粉から製造された生麺類を、浸漬液に15分以上浸漬させること(浸漬工程)と、該浸漬液に浸漬させた生麺類を加熱調理すること(加熱工程)によって製造される。
【0011】
本発明で使用される生麺類の原料粉に含まれる加工澱粉としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、甘藷澱粉、それらの混合物などの澱粉を、化学的加工法または化学的変性法により処理することにより得られるものが挙げられる。当該化学的加工法または化学的変性法としては、エステル化、エーテル化、架橋化、エーテル化架橋などの公知の方法が挙げられる。エステル化の例としては、アセチル化、リン酸化、オクテニルコハク酸化等が挙げられる。エーテル化の例としては、ヒドロキシプロピル化、カルボキシメチル化等が挙げられる。架橋化の例としては、リン酸架橋、グリセロール架橋等が挙げられる。エーテル化架橋の例としては、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋が挙げられる。
【0012】
例えば、アセチル化澱粉は、澱粉を無水酢酸と反応させることによって製造することができる。また例えば、リン酸架橋澱粉は、澱粉をオキシ塩化リンで架橋することによって製造することができる。また例えば、ヒドロキシプロピル化澱粉は、澱粉をプロピレンオキシドでエーテル化することによって製造することができる。
【0013】
好ましくは、本発明で使用される生麺類の原料粉に含まれる加工澱粉は、加工タピオカ澱粉である。より好ましくは、エステル化タピオカ澱粉、エーテル化タピオカ澱粉およびエーテル化架橋タピオカ澱粉からなる群より選択される1種以上である。さらに好ましくは、アセチル化タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉、およびヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉からなる群より選択される1種以上である。なお好ましくは、ヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉である。
【0014】
上記原料粉中における加工澱粉の含有量は、該原料粉の全量中5〜40質量%であればよいが、好ましくは5〜30質量%である。該原料粉中における加工澱粉の含有量が5質量%未満または40質量%を超えると、得られた調理済み麺類の老化耐性が充分でなくなるか、または麺の外観や食感が充分に向上しない。
【0015】
また上記原料粉は、上記加工澱粉に加えて、強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉、デュラムセモリナ等の小麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、そば粉、米粉などの、麺の製造に通常用いられる穀粉を含有することができる。好ましくは、上記原料粉における穀粉の含有量は、該原料粉の全量中40〜95質量%である。
【0016】
上記原料粉は、上記加工澱粉および上記穀粉に加えて、さらに麺の製造に通常用いられる他の成分、例えば、未加工澱粉;食塩;かんすい;卵白粉、卵黄粉、全卵粉等の卵粉;キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸およびその塩、寒天、ゼラチン、ペクチン等の増粘剤;動植物油脂、乳化油脂、ショートニング等の油脂類;レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤;炭酸塩、リン酸塩等の無機塩類;グルテン、大豆蛋白質、カゼイン等の蛋白類;糖類;ソルビット等の糖アルコール;エチルアルコール;酵素剤;調味料などを含んでいてもよい。好ましくは、上記原料粉における上記他の成分の含有量は、該原料粉の全量中30質量%以下である。
【0017】
本発明で使用される生麺類は、上記加工澱粉を含有する原料粉から、通常の方法に従って製造することができる。例えば、上記原料粉に、必要に応じて他の原料、および適量の水を加え、混練して生地を調製し、次いで得られた生地を圧延し切断するか、または押出成型することによって生麺類を製造することができる。本発明の調理済み麺類の製造方法において、加工澱粉を含む原料粉から製造された生麺類は、乾燥工程や加熱工程を経ることなく、そのまま次の浸漬工程に供される。
【0018】
浸漬工程においては、上記生麺類を浸漬液に浸漬させる。浸漬液としては、水または酸性水溶液が挙げられ、酸性水溶液としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、リン酸、それらの混合物などの食品に使用可能な有機酸または無機酸の水溶液が挙げられる。好ましくは、本発明の方法で使用される浸漬液は、pH2.0〜7.5、より好ましくはpH2.2〜6.0の液である。このpH範囲の浸漬液を用いることによって、老化耐性がより向上し、保存後の外観や食感に優れた麺類を製造することができる。
【0019】
上記浸漬液への生麺線の浸漬時間は、15分間以上、好ましくは30分〜12時間、より好ましくは3〜12時間である。この浸漬時間は、浸漬液のpH、麺類の種類や太さ、求める食感などに応じて上記範囲内で適宜調節することができる。浸漬時間が15分間より短いと、麺類の外観や食感の改善効果が得られなくなる。一方、浸漬時間が長すぎると、麺類の食感が低下したり、または浸漬中に麺線が脆くなって切れやすくなり、麺類の品質が低下する場合がある。
【0020】
上記浸漬液の温度は、生麺類がα化(糊化)しない温度であるとよく、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜40℃である。該浸漬液の温度は、浸漬液のpH、浸漬時間、麺類の種類や太さ、求める食感などに応じて上記範囲内で適宜調節することができる。該浸漬液の温度が5℃より低いと、浸漬時間が長くなって製造効率が低下し、また麺類の外観や食感の改善効果が得られにくくなる。一方、温度が60℃より高いと、浸漬中に麺線が脆くなって切れやすくなり、麺類の品質が低下する場合がある。
【0021】
続いて、加熱工程において、上記浸漬処理した生麺線を加熱調理する。加熱調理の方法は、麺類をα化することができる方法であれば特に限定されず、茹で、蒸し等の公知の調理方法のいずれを採用してもよい。加熱調理された麺類は、必要に応じて水洗して麺表面のぬめりを除去した後、冷却される。冷却は、水冷や風冷などの公知の方法で行うことができる。
【0022】
以上の手順で、本発明の調理済み麺類を製造することができる。さらに、上記手順で製造された調理済み麺類を冷蔵または冷凍することにより、冷蔵または冷凍調理済み麺類を製造することができる。なお本明細書において、冷蔵とはチルド保存を含む。本発明の調理済み麺類は、冷蔵または冷凍麺の形態で保存、流通または販売することが好ましいが、さらに殺菌処理などの所定の処理を施し、常温品として保存、流通または販売してもよい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0024】
(製造例1〜3)
表1記載の量で加工澱粉を含有する原料粉100質量部に対して、食塩4質量部と水38質量部を加えて混捏し、生地を調製した。この生地を圧延して3.0mmの麺帯を作り、10番の切刃で切り出して生うどんを製造した。次いで、得られた生麺を浸漬液(1質量%酢酸水溶液:pH2.79)に浸漬させた。浸漬液の温度および浸漬時間は表1のとおりとした。浸漬後の生麺を茹で調理し、調理済み麺を得た。
【0025】
(製造例4)
加工澱粉不含有の原料粉を用いた以外は、製造例1と同じ手順で調理済み麺を得た。
【0026】
(製造例5)
生麺線を浸漬処理しなかったこと以外は、製造例1と同じ手順で調理済み麺を得た。
【0027】
(試験例1)
得られた調理済み麺について、調理直後の麺の外観と食感を対照例との比較に基づき評価した。さらに、10℃で1日保存後の同じ調理済み麺について、外観と食感を対照例と比較することにより老化耐性を評価した。対照例としては、加工澱粉不含有かつ浸漬処理を施さない生うどんを茹でた調理済み麺を準備した。麺類の外観、食感、老化耐性の評価では、10名のパネルによる評価結果の平均点を求めた。さらに、外観、食感、老化耐性の3項目の評価結果を平均し、その値をもとに総合評価を行った。結果を表1に示す。
【0028】
(外観)
5点:対照例よりも大変著しく透明感があり、極めて良好。
4点:対照例よりも著しく透明感があり、非常に良好。
3点:対照例よりも透明感があり、良好。
2点:対照例よりもやや透明感があり、やや良好。
1点:対照例と同等。
0点:対照例よりも透明感がなく、不良。
(食感)
5点:対照例よりも大変著しい粘弾性があり、極めて良好。
4点:対照例よりも著しく粘弾性があり、非常に良好。
3点:対照例よりも粘弾性があり、良好。
2点:対照例よりもやや粘弾性があり、やや良好。
1点:対照例と同等。
0点:対照例よりも粘弾性がなく、不良。
(老化耐性)
5点:対照例よりも大変著しく外観と食感の評価が良く、極めて良好。
4点:対照例よりも著しく外観と食感の評価が良く、とても良好。
3点:対照例よりも外観と食感の評価が良く、良好。
2点:対照例よりもやや外観と食感の評価が良く、やや良好。
1点:対照例と同等。
0点:対照例よりも外観と食感の評価が悪く、不良。
(風味)
5点:対象例と同等。
4点:対象例よりも小麦粉の風味が若干劣る
3点:対象例よりも小麦粉の風味がやや劣る
2点:対象例よりも小麦粉の風味がかなり劣る。
1点:小麦粉の風味がほとんど無く、やや不良。
0点:小麦粉の風味が無く、不良。
(総合評価:全項目の評価点の平均値)
◎:4.4〜5.0
〇:3.3〜4.3
△:2.1〜3.2
×:2.0以下
【0029】

【表1】
【0030】
(製造例6〜8)
原料粉への加工澱粉の添加量を表2のとおりに変更した以外は、製造例1と同じ手順で調理済み麺を得た。
【0031】
(製造例9〜13)
原料粉への加工澱粉の添加量を表3のとおりに変更し、さらに浸漬液として水(pH6.97)を用いたこと以外は、製造例1と同じ手順で調理済み麺を得た。
【0032】
(試験例2)
製造例6〜13の調理済み麺を試験例1と同様の手順で外観、食感、老化耐性の3項目と、さらに風味を評価した。結果を表2〜表3に示す。なお、表2には製造例1及び4の結果を再掲する。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
(製造例14〜17)
浸漬液への浸漬時間を表4のとおりに変更したこと以外は、製造例1と同じ手順で調理済み麺を得た。
【0036】
(試験例2)
製造例14〜17の調理済み麺を試験例1と同様の手順で評価した。結果を表4に示す。なお、表4には製造例1の結果を再掲する。
【0037】
【表4】
【0038】
(製造例18〜21)
浸漬液の温度を表5のとおりに変更したこと以外は、製造例1と同じ手順で調理済み麺を得た。
【0039】
(試験例3)
製造例16〜19の調理済み麺を試験例1と同様の手順で評価した。結果を表5に示す。なお、表5には製造例1の結果を再掲する。
【0040】
【表5】
【0041】
(製造例22〜24)
浸漬液に添加する酸の種類を表6のとおりに変更したこと以外は、製造例1と同じ手順で調理済み麺を得た。
【0042】
(試験例4)
製造例22〜24の調理済み麺を試験例1と同様の手順で評価した。結果を表6に示す。なお、表6には製造例1の結果を再掲する。
【0043】

【表6】
【0044】
(試験例5)
製造例1、6および対照例の調理済み麺を−30℃で急速凍結し、冷凍麺を製造した。得られた冷凍麺を1週間、−10℃で保管した後、1分間茹でて解凍し、試験例1と同様の手順で外観と食感の評価を行った。結果を表7に示す。
【0045】
【表7】