【解決手段】予めインクジェット印刷に使用する基材に表面処理を施すインクジェット下地用処理剤であって、少なくともシランカップリング剤(A)、含フッ素化合物(B)、及び溶剤(D)を含有して、必要に応じて光酸発生剤(D)を含有し、該下地処理剤によって形成された樹脂層は、パターンマスクを介した光照射又はパターンマスクを介した光照射と加熱により、親撥液パターニングすることを可能にしたインクジェット下地用処理剤である。
該下地処理剤中にバインダー(E)を含有し、重量比A:Eが100:0〜50:50であり、かつ重量比率B/(A+E)が、0.5〜50重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット下地用処理剤。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、本発明の処理剤を構成する材料について説明する。
【0017】
<シランカップリング剤(A)>
下地処理剤に使用するシランカップリング剤(A)としては、一般式(1)を必須の成分として含むものである。
【化2】
[一般式(1)中のR1、R2、R3はそれぞれメチル基又はC2〜C4の炭化水素基である。PはSiに連結される炭化水素基又は、ビニル基、スチリル基、エポキシ基、(メタ)アクロイル基、アミノ基あるいはそのアルキル置換体、イソシアヌレート基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基のいずれかを含有する基である。]
【0018】
具体的事例としては、ビニル基を有するビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシランなど、エポキシ基を有する2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなど、 (メタ)アクロイル基を有する3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなど、アミノ基を有するN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、イソシアヌレート基を有するトリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなど、ウレイド基を有する3-ウレイドプロピルトリエトキシシランなど、メルカプト基やスルフィド基を有する3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなど、を例示できる。これらを単独で用いてもよいし、2種類以上を同時に用いてもよい。
【0019】
好ましいシランカップリング剤(A)としては、含フッ素化合物と相溶し、本下地処理剤が塗布される基板に対して濡れ性の良いものである。その事例として、Pがエポキシ基や(メタ)アクロイル基、あるいはウレイド基を含有するシランカップリング剤が好ましい。
【0020】
シランカップリング剤(A)はSiO部位にて加熱により自己縮合し、またはヒドロキシ基など酸性基もつバインダーや含フッ素化合物と反応すると共に、層内にシロキサン結合による架橋構造を形成する。また、同様にガラスなど酸性基を有する基材とも縮合する。これらの反応は酸触媒によって加速される。本下地処理剤を所望基材上に塗布、乾燥、露光後の熱処理によって、自己縮合、バインダーとの反応もしくは基材との結合が生じる。さらに、IJ印刷前の未露光部分で生じるシロキサン架橋構造の形成は、以下の観点から好ましい効果を与える。
(1)露光部に展開したインキが未露光部分へ浸透することを抑制し、「にじみ」などによる印刷精度の低下を防ぐ。
(2)光照射前の下地層表面に含フッ素化合物をブリージングさせることによる高い接触角を発現させる。
【0021】
上記のような理由において、更にPの好ましい事例としては、その自己縮合性やシロキサンサン基との架橋、含フッ素化合物中との反応性基(ヒドロキシ基、カルボキシル基など)との反応が予測されるエポキシ基などを有したものが好ましい。
【0022】
なお、インクジェット印刷時の未露光部分におけるインキの「にじみ」の程度を簡易的に評価する手段として、未露光部分にベンジルアルコールを滴下直後、接触角が経過時間に伴って低下する度合いを測定する。その時、接触角の低下の度合が10°以内であること、低下後も接触角30°以上を保っていると良好な状態であると言える。観測する時間間隔は実際の生産ラインによって変わるが、望ましくは60秒以上の間隔を置いて測定するのがよい。
【0023】
<含フッ素化合物(B)>
本発明の下地処理剤に使用する含フッ素化合物(B)は、シランカップリング剤(A)と溶剤(C)の共存下、溶解する化合物であり、また光照射により有機溶剤により接触角が低下する含フッ素化合物であれば公知のものを使用することができる。特に、一般式(2)の含フッ素モノマーを必須成分として重合される共重合体(オリゴマー)は、紫外線照射前後における濡れ性差を与えるにおいて好ましい結果を与える。
【化3】
【0024】
一般式(2)中のR4は水素原子又はメチル基である。
【0025】
一般式(2)中のXは直接結合、−C(=O)O−、−OC(=O)−、−CH
2OC(=O)−のいずれかである。
【0026】
一般式(2)中のYは直接結合もしくは2価の有機基(炭素数は1〜10個であり、酸素原子や窒素原子を含んでもよい)である。例えば、−CH
2−、−CH(OH)−、−CH(OCH
3)−、−CH(NH
2)−、−CH(NH(CH
3))−、−CH(N(CH
3)
2)−、−(CH
2)
2−、−CH(OH)CH
2−、−CH
2CH(OH)−、−CH(OCH
3)CH
2−、−CH
2CH(OCH
3)−、−CH(N(CH
3)
2)CH
2−、−CH
2CH(N(CH
3)
2)−、−CH
2OCH
2−、−(CH
2)
2O(CH
2)
2−、−CH(CH
3)OCH(CH
3)−、−CH
2N(CH
3)CH
2、−(CH
2)
3−、−(CH
2O)
2CH
2−などが挙げられる。
【0027】
一般式(2)中のAr-Xは一般式群(3)に記載の構造のいずれかである。
【化4】
含フッ素化合物中に一般式群(3)のような芳香族構造を持つことにより、含フッ素化合物の紫外線に対する感光性が向上し、光照射又は光照射と加熱により接触角を低下させることができる。
【0028】
一般式群(3)中のR5〜R60はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールチオカルボニル基、アシロキシ基、アリールチオ基、アルキルチオ基、アリール基、複素環式炭化水素基、アリールオキシ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヒドロキシ(ポリ)アルキレンオキシ基、置換されていてよいアミノ基、シアノ基、ニトロ基又はハロゲン原子である。また、Mは酸素原子、硫黄原子、>N-R61(ここでR61は、炭素数が1〜10個であり、酸素原子や窒素原子を含んでもよい1価の有機基)のいずれかである。
【0029】
ただし、R5〜R60のうち、必ず一つは一般式(2)におけるYに結合するXとなる。また、別の少なくとも一つはRf−O−であり、Rfは直鎖構造、分岐構造、環構造のいずれであってもよく、直鎖構造が好ましい。分岐構造である場合には、各分岐部分の炭素原子数は1〜4 が好ましい。また、Rf基は不飽和結合を有してもよい。Rf 基は、フッ素原子以外の他のハロゲン原子を有していてもよく、また、Rf基中の炭素−炭素結合間には、エーテル性の酸素原子またはチオエーテル性の硫黄原子が挿入されていてもよい。更に、下記一般式群(4)のいずれかの基を好ましい事例である。
【化5】
【0030】
ここで、一般式群(4)で表される基は、それぞれがC
9F
17−の組成式で表されるパーフルオロアルケニル基の構造異性体の関係にあり、実際に含フッ素化合物を製造した時にはこれらの混合物として得られるが、混合物のまま使用して差し支えない。
【0031】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアルキル基としては、炭素数1〜18の直鎖アルキル基(メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−オクチル、n−デシル、n−ドデシル、n−テトラデシル、n−ヘキサデシル及びn−オクタデシル等)、炭素数1〜18の分枝鎖アルキル基(イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、イソヘキシル及びイソオクタデシル)、及び炭素数3〜18のシクロアルキル基(シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及び4−デシルシクロヘキシル等)等が挙げられる。
【0032】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアルコキシ基としては、炭素数1〜18の直鎖又は分枝鎖アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ヘキシルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ及びオクタデシルオキシ等)等が挙げられる。
【0033】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアルキルカルボニル基としては、炭素数2〜18の直鎖又は分枝鎖アルキルカルボニル基(アセチル、プロピオニル、ブタノイル、2−メチルプロピオニル、ヘプタノイル、2−メチルブタノイル、3−メチルブタノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル及びオクタデカノイル等)等が挙げられる。
【0034】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアリールカルボニル基としては、炭素数7〜11のアリールカルボニル基(ベンゾイル及びナフトイル等)等が挙げられる。
【0035】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアルコキシカルボニル基としては、炭素数2〜18の炭素数2〜19の直鎖又は分枝鎖アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、sec−ブトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、オクチロキシカルボニル、テトラデシルオキシカルボニル及びオクタデシロキシカルボニル等)等が挙げられる。
【0036】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアリールオキシカルボニル基としては、炭素数7〜11のアリールオキシカルボニル基(フェノキシカルボニル及びナフトキシカルボニル等)等が挙げられる。
【0037】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアリールチオカルボニル基としては、炭素数7〜11のアリールチオカルボニル基(フェニルチオカルボニル及びナフトキシチオカルボニル等)等が挙げられる。
【0038】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアシロキシ基としては、炭素数2〜19の直鎖又は分枝鎖アシロキシ基(アセトキシ、エチルカルボニルオキシ、プロピルカルボニルオキシ、イソプロピルカルボニルオキシ、ブチルカルボニルオキシ、イソブチルカルボニルオキシ、sec−ブチルカルボニルオキシ、tert−ブチルカルボニルオキシ、オクチルカルボニルオキシ、テトラデシルカルボニルオキシ及びオクタデシルカルボニルオキシ等)等が挙げられる。
【0039】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアリールチオ基としては、炭素数6〜20のアリールチオ基(フェニルチオ、2−メチルフェニルチオ、3−メチルフェニルチオ、4−メチルフェニルチオ、2−クロロフェニルチオ、3−クロロフェニルチオ、4−クロロフェニルチオ、2−ブロモフェニルチオ、3−ブロモフェニルチオ、4−ブロモフェニルチオ、2−フルオロフェニルチオ、3−フルオロフェニルチオ、4−フルオロフェニルチオ、2−ヒドロキシフェニルチオ、4−ヒドロキシフェニルチオ、2−メトキシフェニルチオ、4−メトキシフェニルチオ、1−ナフチルチオ、2−ナフチルチオ、4−[4−(フェニルチオ)ベンゾイル]フェニルチオ、4−[4−(フェニルチオ)フェノキシ]フェニルチオ、4−[4−(フェニルチオ)フェニル]フェニルチオ、4−(フェニルチオ)フェニルチオ、4−ベンゾイルフェニルチオ、4−ベンゾイル−2−クロロフェニルチオ、4−ベンゾイル−3−クロロフェニルチオ、4−ベンゾイル−3−メチルチオフェニルチオ、4−ベンゾイル−2−メチルチオフェニルチオ、4−(4−メチルチオベンゾイル)フェニルチオ、4−(2−メチルチオベンゾイル)フェニルチオ、4−(p−メチルベンゾイル)フェニルチオ、4−(p−エチルベンゾイル)フェニルチオ4−(p−イソプロピルベンゾイル)フェニルチオ及び4−(p−tert−ブチルベンゾイル)フェニルチオ等)等が挙げられる。
【0040】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアルキルチオ基としては、炭素数1〜18の直鎖又は分枝鎖アルキルチオ基(メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、イソブチルチオ、sec−ブチルチオ、tert−ブチルチオ、ペンチルチオ、イソペンチルチオ、ネオペンチルチオ、tert−ペンチルチオ、オクチルチオ、デシルチオ、ドデシルチオ及びイソオクタデシルチオ等)等が挙げられる。
【0041】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアリール基としては、炭素数6〜10のアリール基(フェニル、トリル、ジメチルフェニル及びナフチル等)等が挙げられる。
【0042】
また、一般式群(3)中のR5〜R60における複素環式炭化水素基としては、炭素数4〜20の複素環式炭化水素基(チエニル、フラニル、ピラニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル、インドリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、キノリル、イソキノリル、キノキサリニル、キナゾリニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、キサンテニル、チアントレニル、フェノキサジニル、フェノキサチイニル、クロマニル、イソクロマニル、ジベンゾチエニル、キサントニル、チオキサントニル及びジベンゾフラニル等)等が挙げられる。
【0043】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアリールオキシ基としては、炭素数6〜10のアリールオキシ基(フェノキシ及びナフチルオキシ等)等が挙げられる。
【0044】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアルキルスルフィニル基としては、炭素数1〜18の直鎖又は分枝鎖スルフィニル基(メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、プロピルスルフィニル、イソプロピルスルフィニル、ブチルスルフィニル、イソブチルスルフィニル、sec−ブチルスルフィニル、tert−ブチルスルフィニル、ペンチルスルフィニル、イソペンチルスルフィニル、ネオペンチルスルフィニル、tert−ペンチルスルフィニル、オクチルスルフィニル及びイソオクタデシルスルフィニル等)等が挙げられる。
【0045】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアリールスルフィニル基としては、炭素数6〜10のアリールスルフィニル基(フェニルスルフィニル、トリルスルフィニル及びナフチルスルフィニル等)等が挙げられる。
【0046】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアルキルスルホニル基としては、炭素数1〜18の直鎖又は分枝鎖アルキルスルホニル基(メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、ブチルスルホニル、イソブチルスルホニル、sec−ブチルスルホニル、tert−ブチルスルホニル、ペンチルスルホニル、イソペンチルスルホニル、ネオペンチルスルホニル、tert−ペンチルスルホニル、オクチルスルホニル及びオクタデシルスルホニル等)等が挙げられる。
【0047】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるアリールスルホニル基としては、炭素数6〜10のアリールスルホニル基(フェニルスルホニル、トリルスルホニル(トシル基)及びナフチルスルホニル等)等が挙げられる。
【0048】
また、一般式群(3)中のR5〜R60におけるヒドロキシ(ポリ)アルキレンオキシ基としては、一般式(5)で表されるヒドロキシ(ポリ)アルキレンオキシ基等が挙げられる。
HO(−AO)q− (5)
[AOはエチレンオキシ基及び/又はプロピレンオキシ基、qは1〜5の整数を表す。]
【0049】
置換されていてよいアミノ基としては、アミノ基(−NH
2)及び炭素数1〜15の置換アミノ基(メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、メチルエチルアミノ、ジエチルアミノ、n−プロピルアミノ、メチル−n−プロピルアミノ、エチル−n−プロピルアミノ、n−プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、イソプロピルメチルアミノ、イソプロピルエチルアミノ、ジイソプロピルアミノ、フェニルアミノ、ジフェニルアミノ、メチルフェニルアミノ、エチルフェニルアミノ、n−プロピルフェニルアミノ及びイソプロピルフェニルアミノ等)等が挙げられる。
【0050】
R58としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピルなどのアルキル基や、−CH
2OCH
3、−(CH
2)
2OCH
3、−CH
2OCH
2CH
3、−(CH
2CH(CH
3))OCH
3などが挙げられる。
【0051】
以下、含フッ素モノマーの具体例として、一般式群(6a)及び一般式群(6b)を例示する。
【化6】
【化7】
【0052】
含フッ素化合物を構成するその他のモノマー成分としては、一般式(2)で表される含フッ素モノマーと共重合可能なものであれば特に制限はなく、一般公知の材料を使用することができる。
【0053】
その他のモノマーの市販品としては、例えば、日油のブレンマーシリーズ、新中村化学のNKエステルシリーズ、日立化成のファンクリルシリーズ、大阪有機化学のビスコートシリーズ、共栄社化学のライトエステル/ライトアクリレートシリーズ、東亜合成のアロニックスシリーズなどが挙げられる。
【0054】
含フッ素化合物を構成する全モノマーの質量の和に対する一般式(5)で表される含フッ素モノマーの質量比率は40〜80質量%であることが望ましい。より望ましくは50〜70質量%の範囲である。40質量%を下回ると、光照射又は光照射と加熱を行わない部分のベンジルアルコールに対する接触角が低くなり、80質量%を超えるとエポキシ樹脂や溶剤との相溶性が悪くなり、きれいな樹脂層を形成することができなくなる。
【0055】
含フッ素化合物の製造には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。たとえば、丸善(株)が出版している「第4版 実験化学講座28 高分子合成 (日本化学会編)、2.2.4 アクリル系ポリマー」に記載の方法を使用することができる。含フッ素化合物の重量平均分子量は一般的に2000〜20000である。
【0056】
更には、一般式(7)に示すような反応性基含有フッ素化合物も好ましい例として例示できる。
Rf-Q-P´ (7)
[一般式(7)中のP´は炭化水素基又はビニル基、スチリル基、エポキシ基、オキセタン基、アミノ基あるいはそのアルキル置換体、チオール基あるいはスルフィド基、尿素基、ウレタン基、(メタ)アクロイル基のいずれかを含有する基であり、Qは酸素原子を含む連結基、または炭素数1〜4のアルキレン基である。]
更には、同一分子中にシロキサン基やシラン基を有する含フッ素化合物も例示できる。これらは、シランカップリング剤(A成分)との相溶性が良く、溶剤(C)成分に溶解するものであり、さらには紫外線照射によりインクジェットインキの接触角が低下するものであれば公知の化合物を使用することが可能である。
【0057】
<溶剤(C)>
本発明の処理剤に使用する溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール等のアルコール類、α−若しくはβ−テルピネオール等のテルペン類等、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン類、トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類等が挙げられる。これらの溶剤は単独で使用してもかまわないし、二種類以上を組み合わせて使用してもかまわない。
【0058】
<光酸発生剤(D)>
光酸発生剤は光をあてることによって反応し酸を発生する材料である。ここで発生した酸が含フッ素化合物を構成する含フッ素モノマーに作用することで、含フッ素化合物の母骨格からRfを含む構造単位の脱離を促進し、光照射した部分(又は光照射と加熱を施した部分)のベンジルアルコールに対する接触角の低下を促進させる。
【0059】
このような材料としては、ジアゾニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、CF
3SO
3の塩、p-CH
3PhSO
3の塩、p−NO
2PhSO
3の塩(ただし、Phはフェニル基)等、有機ハロゲン化合物、オルトキノン−ジアジドスルホニルクロリド、及びスルホン酸エステル等を挙げることができる。
【0060】
光酸発生剤の市販品としては、和光純薬工業製のWPAG−145、WPAG−170、WPAG−199、WPAG−281、WPAG−336、WPAG−367、WPI−113、サンアプロ製のCPI−100P、CPI−101A、CPI−200K、CPI−210S、三和ケミカル製のTS−01、TS−91、TFE−トリアジン、TME−トリアジン、MP−トリアジン、ジメトキシトリアジン、BASF製のIrgacurePAG103、IrgacurePAG121、IrgacurePAG203、CGI725、CGI1907、Irgacure250、IrgacurePAG290、GSID26−1、ADEKA製のアデカオプトマーSP−150、アデカオプトマーSP−152、アデカオプトマーSP−170、アデカオプトマーSP−172、アデカオプトマーSP−300などが挙げられる。これらの光酸発生剤は単独で使用してもかまわないし、二種類以上を組み合わせて使用してもかまわない。この中でも特に、スルホニウム塩系光酸発生剤であるWPAG−281、WPAG−336、WPAG−367、CPI−100P、CPI−101A、CPI−200K、CPI−210S、TS−01、TS−91、IrgacurePAG290、GSID26−1、アデカオプトマーSP−150、アデカオプトマーSP−152、アデカオプトマーSP−170、アデカオプトマーSP−172、アデカオプトマーSP−300の使用が望ましい。
【0061】
<バインダー樹脂(E)>
本発明の下地処理剤に使用するバインダー樹脂としては特に制限はなく、基材上への塗布・乾燥後に製膜可能であり、シランカップリング剤と相分離するものでなければ一般公知の材料を使用することができる。例えば、シロキサン樹脂、ポリエチレンやポリエステル、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド、メラミン樹脂、ポリカーボネート、可溶性ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0062】
<(A)〜(E)以外の成分>
本発明の処理剤には、必要に応じて上記(A)〜(E)以外の成分(その他の成分)を添加してもかまわない。その他の成分として、染料や顔料などの色材、多官能エポキシ化合物や多官能オキセタン化合物などの架橋剤、アルミナやマイカ、シリカのような充填剤、レベリング剤や消泡剤、可塑剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、蛍光増白剤などの添加剤を適宜含有してもよい。
【0063】
<処理剤中の各成分の質量比率>
本発明の処理剤中にバインダー(E)を含有させる場合、その配合割合は重量比A:Eが100:0〜50:50の範囲であり、より好ましくは100:0〜65:35の範囲である。シランカップリング剤(A)に対するバインダー(E)の比が50:50を超えると下記(1)、(2)のシランカップリング剤の効果を阻害するので好ましくない。
(1)露光部に展開したインキによる未露光部分への浸透や未露光部のフッ素化合物の溶出を抑制し、「にじみ」などによる印刷精度の低下を防ぐ。
(2)下地層表面に含フッ素化合物をブリージングさせることによる高接触角を発現させる。
【0064】
また同時に重量比B/(A+E)が、0.5〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは2〜30重量%である。含フッ素化合物は、上記比率で50重量%を超える量を添加すると、照射(又は光照射と加熱)を施した後のベンジルアルコールに対する接触角が高くなるため不適であり、0.5を下回ると光照射を施す前の樹脂層でのベンジルアルコールに対する接触角が低くなり適切でない。
【0065】
本発明において含フッ素化合物(B)に依存して光発生剤(D)は必須ではないが、下地処理剤中の光酸発生剤(D)の重量比率が、(D)/(A+E)が、1〜20重量%の範囲である。上記比率で以上に添加しても露光量に対する接触角の低下能力には変化はないので20重量%を超えて添加する必要はない。また、20重量部を超える添加は未露光部分の接触角を低下させ、本来の目的である撥液・親液のコントラストを低下させてしまう。その他の成分を添加する場合の質量比率は溶剤(C)成分を除く合計を100質量部とすると、その他の成分(溶剤成分Dを除く)は20質量部を超えない範囲であることが好ましい。その他の成分が20質量部を超えてしまうと膜本来の性能が発揮されなくなる。さらに、露光後に70℃〜170℃の再加熱を行うと、露光部分の接触角低下が加速され、露光量の低減に寄与する。
また、溶剤(C)の質量比率は、公知の塗工機でもって所望の膜厚に均一に塗布できることから選定されるが、本下地処理剤においては基材上塗布・乾燥後で2μm以下の膜厚にて十分に性能を発揮し、またIJ印刷インキのにじみも少なくなることから、全固形分が20%以下である。
【0066】
次に、本発明の下地処理剤の使用方法について説明する。先ず、本処理剤を、インクジェット印刷を行う基材の表面に塗工し、プレベークを行うことで、基材表面に下地処理剤からなる樹脂層を形成する。次に、この樹脂層にパターンマスクを介した光照射又は光照射と加熱を行うことで、インクジェットインキに対する親液部分と撥液部分とを有するような親撥液パターニングを施す。ここで、得られた親液部分にインクジェット装置で機能性インクを印刷することで、微細デバイスの作成が可能となる。
【0067】
該下地処理剤を基材上に塗布・乾燥によって形成された層は、膜厚2μm以下であることを特徴とする下地処理剤を表面に有することを特徴とするインクジェット印刷向け基板を提供する。塗工厚は、乾燥膜厚に換算して2μm未満で所望の性能を十分に発揮し、好ましくは1μm以下が望ましい。塗工厚が乾燥膜厚に換算して2μmを超えると、作成した下地層の平滑性、弾きなどが発生しやすく、またIJ印刷時のにじみが発生しやすくなる。
【0068】
<塗工>
本発明の下地処理剤の塗工方法には特に制限はなく、公知の方法、例えば、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スリットコート法、ブレードコート法、エアナイフコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法などの何れの方法も採用することができ、塗工する基材や、塗工厚に応じて適宜選択される。
【0069】
なお、本発明の下地処理剤を塗工する基材には特に制限はなく、ステンレスや銅箔、ガラス、シリコンウエハのような無機基材や、ポリエチレンテレフタレートやポリカーボネートなどの板やフィルムのような有機基材など、いずれの基材でも採用することができ、作製するデバイスの特性に応じて適宜選択される。
【0070】
<プレベーク>
プレベークは、オーブン、ホットプレート等による加熱、真空乾燥又はこれらの組み合わせることによって行われ、下地処理剤中の溶剤(D)の種類や基材の種類によって適宜選択される。ただし、乾燥温度としては50〜170℃が望ましい。50℃未満の場合、樹脂層中に溶剤が残留してしまう可能性があり、170℃超の場合、組成物中の活性基が失活してしまう可能性がある。乾燥時間としては、例えば1〜10分間程度行えばよい。
【0071】
<光照射又は光照射と加熱>
本発明における光照射とは、主に250nmから400nmの波長を含む紫外線を照射することである。使用する紫外線光源としては、高圧水銀灯やメタルハライドランプなどが挙げられるが、特に制限はない。樹脂層への光照射は、例えばパターニングされた石英製クロム蒸着マスクのようなフォトマスクを介して行う。露光量は500〜10000mJ/cm
2が望ましい。より望ましくは、1000〜7000mJ/cm
2がよい。500mJ/cm
2を下回る場合は光照射部分のベンジルアルコールに対する接触角が15°以下に低下せず、露光量が500mJ/cm
2を超えても性能に影響はないため、これ程の露光量は必要ない。更に、露光に続いて加熱を行うことがより望ましい。加熱を行うことで光照射された部分が硬化し、より接触角が低下する。この加熱は、オーブン、ホットプレート等によって行われる。加熱温度としては50〜170℃が望ましい。50℃未満の場合、加熱の効果が不十分であり、硬化に170℃を超す温度は必要ない。
【0072】
このようにして得られた親撥液性パターンの親液部分にインクジェット印刷機で機能性インクを印刷することで、微細デバイスの作成が可能になる。パターン作成された基板において、未露光部即ちIJ印刷されていない部分は、該下地処理層を再加熱、または再度露光して熱硬化することも可能である。この場合、該下地層は200℃を超える温度においても変色はほとんど見られない。
このようにして得られた親撥液性パターンの親液部分にインクジェット印刷機で印刷される機能性インクとしては、カラーフィルター用着色インキ、塗布型有機ELインキ、導電性金属ナノ粒子インキ、耐熱絶縁膜インキ、有機半導体含有インキ、など公知のインキを例示できる。近年、これら機能性インキにおいては、機能性化合物を溶解もしくは安定的に分散させる目的で、グリコール系やアミン系、アミド系、イミダゾール系などの極性溶媒や表面張力が30mN/mを超える溶媒を用いることがあり、下地層の親液部分に印刷された場合、隣接する撥液層部分を容易に侵食したり、にじみを発生させる場合がある。また、機能性化合物を溶解させる目的で表面張力が30mN/mを超える溶媒を用いた場合においては、親液部分にインキが十分に濡れ拡がらないという課題が生じる。このような場合に、本下地用処理剤は特に有効である。
【0073】
作製した親撥液性パターンの評価には、未露光部分(撥液性部分に相当する)と露光部分(親液性部分に相当する)のベンジルアルコール(表面張力39mN/m)との接触角を測定することで行う。インクジェットインクは、一般的に大気圧(760mmHg)で沸点が200℃以上の高沸点溶剤を使用することが多いため、本発明では、高沸点溶剤(大気圧(760mmHg)で217℃)であるベンジルアルコールを様々なインクジェットインクの代わりに使用して接触角を測定し、親撥液性の評価としている。インクジェット印刷前の塗膜未露光部分はベンジルアルコールに対して接触角は30度以上であるとにじみがない精度良い印刷が可能となる。詳しくは、ベンジルアルコールを塗膜表面に滴下した初期の接触角が40度以上、60秒経過後の接触角が30度以上を維持していることが好ましい。特に本発明は、ベンジルアルコール滴下後、60秒経過しても接触角30度以上を保つ組成物である。この場合、所望のインキをパターン露光された本下地処理剤上に印刷さらに乾燥過程においても、にじみの少ない印刷精度の高い印刷物を与える。
【0074】
本発明のパターン基板に用いる基材は、シリコン、合成樹脂、ガラス、金属、セラミックなどである。合成樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよく、例えば、ポリエチレン、ポロプロピレン、エチレン−プレピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルベンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオ共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプチレンテレフタレート(PBT)、プリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エボキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば2層以上の積層体として)用いることができる。ガラスとしては、例えば、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラス等が挙げられる。金属としては、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、白金等が挙げられる。セラミックとしては、酸化物(例えば、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ケイ素、ジルコニア、チタン酸バリウム)、窒化物(例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素)、硫化物(例えば、硫化カドミウム)、炭化物(例えば、炭化ケイ素)等が挙げられ、これらの混合物を使用して良い。いずれの基材を用いる場合でも、プラズマ処理やUV処理を行っても良い。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施例にのみに限定されるものではない。
【0076】
<合成例1> 含フッ素化合物B1の合成
冷却管を備えた三つ口フラスコ内に、下記一般式(b1、λmax(ε)=234(65000)、268.5(12500)、332(2390)(アセトニトリル中))で表される含フッ素モノマー16.67g、アクリル酸4−ヒドロキシブチル6.67g、メタクリル酸2−(2−メトキシエトキシ)エチル10g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート51.56g、2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル0.26g、及びラウリルメルカプタン0.78gを入れて反応溶液とした。
【化8】
[Rfは一般式群(4)に示す構造の混合物である]
【0077】
反応溶液中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。その後、反応溶液を撹拌しながら90℃まで加熱し、反応を開始した。その後、90℃で撹拌を14時間続行した。反応の終了は
1H−NMRを用いて確認した。降温後、固形分濃度が20質量%となるように、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いて希釈し、含フッ素化合物溶液B1を得た。テトラヒドロフランを展開溶媒としたGPCにより重量平均分子量(ポリスチレン換算)を求めると、8500だった。
【0078】
<合成例2> 含フッ素化合物B2の合成
冷却管を備えた三つ口フラスコ内に、下記一般式(b2、λmax(ε)=232.5(10390)、257(5940)(アセトニトリル中))で表される含フッ素モノマー16.67g、アクリル酸4−ヒドロキシブチル6.67g、メタクリル酸2−(2−メトキシエトキシ)エチル10g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート51.56g、2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル0.26g、及びラウリルメルカプタン0.78gを入れて反応溶液とした。
【化9】
[Rfは一般式群(4)に示す構造の混合物である]
【0079】
反応溶液中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。その後、反応溶液を撹拌しながら90℃まで加熱し、反応を開始した。その後、90℃で撹拌を14時間続行した。反応の終了は
1H−NMRを用いて確認した。降温後、固形分濃度が20質量%となるように、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いて希釈し、含フッ素化合物溶液B2を得た。テトラヒドロフランを展開溶媒としたGPCにより重量平均分子量(ポリスチレン換算)を求めると、8000だった。
【0080】
<合成例3> 含フッ素化合物B3の合成
冷却管を備えた三つ口フラスコ内に、下記一般式(b3)で表される含フッ素モノマー16.67g、アクリル酸4−ヒドロキシブチル6.67g、メタクリル酸2−(2−メトキシエトキシ)エチル10g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート51.56g、2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル0.26g、及びラウリルメルカプタン0.78gを入れて反応溶液とした。
【化10】
[Rfは一般式群(4)に示す構造の混合物である]
【0081】
反応溶液中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。その後、反応溶液を撹拌しながら90℃まで加熱し、反応を開始した。その後、90℃で撹拌を14時間続行した。反応の終了は
1H−NMRを用いて確認した。降温後、固形分濃度が20質量%となるように、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いて希釈し、含フッ素化合物溶液B3を得た。テトラヒドロフランを展開溶媒としたGPCにより重量平均分子量(ポリスチレン換算)を求めると、7500だった。
【0082】
<合成例4> 含フッ素化合物B4の合成
冷却管を備えた三つ口フラスコ内に、下記一般式(b4、λmax(ε)=279(29420)(アセトニトリル中))で表される含フッ素モノマー16.67g、アクリル酸4−ヒドロキシブチル6.67g、メタクリル酸2−(2−メトキシエトキシ)エチル10g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート51.56g、2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル0.26g、及びラウリルメルカプタン0.78gを入れて反応溶液とした。
【化11】
[Rfは一般式群(4)に示す構造の混合物である]
【0083】
反応溶液中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。その後、反応溶液を撹拌しながら90℃まで加熱し、反応を開始した。その後、90℃で撹拌を14時間続行した。反応の終了は
1H−NMRを用いて確認した。降温後、固形分濃度が20質量%となるように、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いて希釈し、含フッ素化合物溶液B4を得た。テトラヒドロフランを展開溶媒としたGPCにより重量平均分子量(ポリスチレン換算)を求めると、8600だった。
【0084】
<合成例5> 含フッ素化合物B5の合成
冷却管を備えた三つ口フラスコ内に、下記一般式(b5)で表される含フッ素モノマー16.67g、アクリル酸4−ヒドロキシブチル6.67g、メタクリル酸2−(2−メトキシエトキシ)エチル10g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート51.56g、2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル0.26g、及びラウリルメルカプタン0.78gを入れて反応溶液とした。
【化12】
[RfはC
8F
17CH
2CH
2CH
2−である]
【0085】
反応溶液中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。その後、反応溶液を撹拌しながら90℃まで加熱し、反応を開始した。その後、90℃で撹拌を14時間続行した。反応の終了は
1H−NMRを用いて確認した。降温後、固形分濃度が20質量%となるように、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いて希釈し、含フッ素化合物溶液B5を得た。テトラヒドロフランを展開溶媒としたGPCにより重量平均分子量(ポリスチレン換算)を求めると、8500だった。
【0086】
<合成例6> 含フッ素化合物B6の合成
冷却管を備えた三つ口フラスコ内に、下記一般式(b6)で表される含フッ素モノマー16.67g、アクリル酸4−ヒドロキシブチル6.67g、メタクリル酸2−(2−メトキシエトキシ)エチル10g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート51.56g、2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル0.26g、及びラウリルメルカプタン0.78gを入れて反応溶液とした。
【化13】
[RfはH[CF
3(CF
2)
3-CH
2CH
2-OCOCH
2CH
2]n -SO
2CH
2CH
2−、n=2〜10の混合物]
【0087】
反応溶液中に窒素ガスを導入し、反応容器内を窒素置換した。その後、反応溶液を撹拌しながら90℃まで加熱し、反応を開始した。その後、90℃で撹拌を14時間続行した。反応の終了は
1H−NMRを用いて確認した。降温後、固形分濃度が20質量%となるように、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いて希釈し、含フッ素化合物溶液B6を得た。テトラヒドロフランを展開溶媒としたGPCにより重量平均分子量(ポリスチレン換算)を求めると、8300だった。
【0088】
<配合例1> 評価用インクジェットインクの作製
500mLのナス型フラスコにベンジルアルコール(純正化学製)86.76g、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン(東京化成製)32.84gを投入し、均一になるまで撹拌した。これを50℃のオイルバスで加温した。そこに、ぎ酸銅(II)四水和物(和光純薬製)25.00gを加え、ぎ酸銅(II)四水和物が溶解するまで窒素気流下で約30分間撹拌した。フラスコをオイルバスから上げ、混合溶液を室温に戻した後、ベンジルアルコール144.60g、サーフィノール104A(エアープロダクツジャパン製)7.81gを加え、約30分間撹拌した。
【0089】
上記で得られた混合溶液を1μmデプスフィルターによって加圧ろ過を行い、評価用インクジェットインクを作製した。作製したインクジェットインクの粘度は13mPa・sec(23℃、RE型粘度計(東機産業)により測定)、表面張力は37.9mN/m(23℃、CBVP−Z(協和界面科学)により測定)だった。
<実施例1>
【0090】
シランカップリング剤((A1)成分)としてJNC株式会社製サイラエースS−510を0.5g、含フッ素化合物溶液((B1)成分、40質量%溶液)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートにて1質量%に希釈した溶液3.75g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート((C1)成分、ダイセル化学製)15.71gを混合した。次いで、1μmデプスフィルターを用いてろ過することで、インクジェット用下地処理剤1を調整した。
【0091】
得られた下地処理剤1を、スピンコーターを用いて1000回転/10秒の条件で125mm×125mmのガラスの上にプレベーク後の膜厚が0.1μmとなるように塗工し、ホットプレートを用いて70℃で3分間プレベークを行い、ガラス上に樹脂層を形成した。この時点で、ガラス上にはムラや白濁は観察されず、またタック性は無かった。次いで、樹脂層を備えたこの基材に対して、超高圧水銀ランプで露光(5000mJ/cm
2、i線基準)を行った後、150℃で60分間加熱した。加熱後の樹脂層について、光が照射されていない部分はベンジルアルコールに対する初期接触角(滴下1秒後)が47°であり、また60秒後の接触角も40°と維持された。一方、光照射部分は初期接触角が8°、60秒後の接触角は5°であった。
【0092】
<実施例2>
表1に示す重量でもってA〜C成分を混合し、実施例1と同様に下地処理剤2を調整した。更に、得られた下地処理剤2を実施例1と同様にガラス上に樹脂層を形成し、同様にベンジルアルコールの接触角を測定した。光が照射されていない部分はベンジルアルコールに対する初期接触角(滴下1秒後)は47°、60秒後の接触角も43°であり、その低下度数はいずれも10°未満であった。一方、5000mJ光照射部分の初期接触角は14°、60秒後では12°となった。
【0093】
<実施例3>
シランカップリング剤((A1)成分)としてJNC株式会社製サイラエースS−510を0.5g、含フッ素化合物溶液((B1)成分、40質量%溶液)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートにて1質量%に希釈した溶液3.75g、CPI−100P((D1)成分、サンアプロ製光酸発生剤、50質量%溶液)0.04g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート((C1)成分、ダイセル化学製)15.71gを混合した。次いで、1μmデプスフィルターを用いてろ過することで、インクジェット用下地処理剤3を調整した。
【0094】
更に、得られた下地処理剤3を実施例1と同様にガラス上に樹脂層0.1μm膜厚で形成し、同様にベンジルアルコールの接触角を測定した。光が照射されていない部分はベンジルアルコールに対する初期接触角(滴下1秒後)は50°、60秒後の接触角は43°であり、その低下度数はいずれも10°未満であった。一方、5000mJ光照射部分の初期接触角はいずれも15°以下となった。
【0095】
<実施例4〜7>
表1に示す重量でもってA〜D成分を混合し、実施例3と同様に下地処理剤4〜7を調整した。更に、得られた下地処理剤を実施例3と同様にガラス上に樹脂層を形成し、同様にベンジルアルコールの接触角を測定した。光が照射されていない部分はベンジルアルコールに対する初期接触角(滴下1秒後)も60秒後の接触角も30°以上であり、その低下度数はいずれも10°未満であった。一方、光照射部分の初期接触角はいずれも20°以下、60秒後の接触角は15°以下となった。
【0096】
<比較例1>
EHPE−3150((A)成分、ダイセル化学製固形エポキシ樹脂:2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物)7.42g、含フッ素化合物溶液B1((B1)成分、20質量%溶液)0.06g、CPI−100P((D1)成分、サンアプロ製光酸発生剤、50質量%溶液)0.3g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート((D)成分、ダイセル化学製)22.22gを混合した。次いで、2μmのポリプロピレン製メンブレンフィルターを用いてろ過することで、インクジェット用下地処理剤(比較剤1)を調整した。得られた下地処理剤を、スピンコーターを用いて125mm×125mmのガラスの上にプレベーク後の膜厚が1.2μmとなるように塗工し、ホットプレートを用いて70℃で3分間プレベークを行い、ガラス上に樹脂層を形成した。次いで、樹脂層を備えたこの基材に対して、超高圧水銀ランプで露光(5000mJ/cm
2、i線基準)を行った後、150℃で60分間加熱した。加熱後の樹脂層について、光が照射されていない部分はベンジルアルコールに対する初期接触角(滴下1秒後)が44°であり、また60秒後の接触角は18°と低下した。一方、光照射部分は初期接触角が17°、60秒後の接触角は9°であった。
【0097】
<比較例2>
EHPE−3150((A)成分、ダイセル化学製固形エポキシ樹脂:2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物)0.5g、含フッ素化合物溶液B1((B1)成分、20質量%溶液)3.75g、CPI−100P((D1)成分、サンアプロ製光酸発生剤、50質量%溶液)0.04g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート((D)成分、ダイセル化学製)15.71gを混合した。次いで、1μmのポリプロピレン製メンブレンフィルターを用いてろ過することで、インクジェット用下地処理剤(比較剤1)を調整した。得られた下地処理剤を、スピンコーターを用いて125mm×125mmのガラスの上にプレベーク後の膜厚が0.1μmとなるように塗工し、ホットプレートを用いて70℃で3分間プレベークを行い、ガラス上に樹脂層を形成した。次いで、樹脂層を備えたこの基材に対して、超高圧水銀ランプで露光(5000mJ/cm
2、i線基準)を行った後、150℃で60分間加熱した。加熱後の樹脂層について、光が照射されていない部分はベンジルアルコールに対する初期接触角(滴下1秒後)が35°であり、また60秒後の接触角は4°と低下した。一方、光照射部分は初期接触角が25°、60秒後の接触角は18°であった。
【0098】
<実施例8〜12>
シランカップリング剤((A)成分)を表2に示すように変えて、実施例1と同様に下地処理剤を調整し、ガラス上に樹脂層を膜厚0.1μmとなうように作成した。加熱後の樹脂層について、光が照射されていない部分はベンジルアルコールに対する初期接触角(滴下1秒後)が30°以上であり、また60秒後の接触角も30°以上を維持し、その低下度数は10°未満であった。一方、光照射部分は初期接触角はいずれも20°以下であった。
【0099】
<実施例13〜17>
含フッ素化合物((B)成分)をB2〜B6に変えて、実施例1と同様に下地処理剤を調整し、ガラス上に樹脂層を膜厚0.1μmとなうように作成した。加熱後の樹脂層について、光が照射されていない部分はベンジルアルコールに対する初期接触角(滴下1秒後)が30°以上であり、また60秒後の接触角も30°以上を維持し、その低下度数は10°未満であった。一方、光照射部分は初期接触角はいずれも15°以下であった。
【0100】
<実施例18〜20>
含フッ素化合物((B)成分)を下記一般式(b7)、(b8)、(b9)に代えて、その1%PEGMEA溶液3.75gとその他は実施例3と同様に下地処理剤を調整し、ガラス上に樹脂層を膜厚0.1μmとなうように作成した。加熱後の樹脂層について、光が照射されていない部分はベンジルアルコールに対する初期接触角(滴下1秒後)が30°以上であり、また60秒後の接触角も30°以上を維持し、その低下度数は10°未満であった。一方、光照射部分は初期接触角はいずれも15°以下であった。
【化14】
[Rfは一般式群(4)に示す構造の混合物である]
【化15】
【化16】
【0101】
<実施例21>
実施例3において調整した下地処理剤3を用いて、露光の際には、石英製のフォトマスク(露光部ライン幅20μm、ピッチ101.25μm)を樹脂層に被せて露光(5000mJ/cm
2、i線基準)し、さらにガラスごと150℃で60分間加熱することで、親撥液パターニングを行った。そして、樹脂層を備えたこの基材に対して、コニカミノルタIJ製インクジェットヘッド(ピエゾ素子駆動型、KM512L)を用いて、評価用インクジェットインクP1を42pL吐出した。この時の顕微鏡写真を
図1に示す。この写真から分かるように、評価用インクジェットインクに対する親液部分と撥液部分とを有する親撥液パターニング(ピッチ/ライン=101.25μm/20μm)の親液部分ではインクがぬれ広がり、さらに撥液部分ではインクのにじみが生じることなく、20.3μmのラインを形成した。
【0102】
<実施例22,23>
実施例21において使用したガラスに代えて、40μm厚みの銅箔(実施例22)もしくは40μm厚みのカプトンフィルムを用いた他は同様にして20μm幅の親液ラインパターンを形成し、インクジェット印刷を行った。いずれの場合においても20.3μmラインを形成した。
【0103】
<比較例3>
比較例1において、露光の際には、石英製のフォトマスク(露光部ライン幅20μm、ピッチ101.25μm)を樹脂層に被せて露光(5000mJ/cm
2、i線基準)し、さらに基材ごと150℃で60分間加熱することで、親撥液パターニングを行った。そして、樹脂層を備えたこの基材に対して、コニカミノルタIJ製インクジェットヘッド(ピエゾ素子駆動型、KM512L)を用いて、評価用インクジェットインクP1を42pL吐出した。この時の顕微鏡写真を
図2に示す。この写真から分かるように、評価用インクジェットインクに対する親液部分と撥液部分とを有する親撥液パターニング(ピッチ/ライン=101.25μm/20μm)の親液部分ではインクがぬれ広がる傾向みられるが、乾燥後はライン幅の太い部分で58μmとなり、更に撥液部分へのにじみが見られた。