(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-199065(P2015-199065A)
(43)【公開日】2015年11月12日
(54)【発明の名称】光触媒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20151016BHJP
B01J 23/68 20060101ALI20151016BHJP
B01J 23/52 20060101ALI20151016BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20151016BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20151016BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J23/68 M
B01J23/52 M
B01J37/02 101E
B01J37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-65572(P2015-65572)
(22)【出願日】2015年3月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-70714(P2014-70714)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100112771
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 勝
(72)【発明者】
【氏名】吉野 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】松村 康史
(72)【発明者】
【氏名】河野 充
(72)【発明者】
【氏名】榎本 靖
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC33A
4G169BC33B
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169CA05
4G169CA07
4G169CA10
4G169DA05
4G169EA02Y
4G169EB18X
4G169FA02
4G169FB05
4G169FB30
4G169HA02
4G169HB01
4G169HB06
4G169HC02
4G169HC07
4G169HD03
4G169HE06
(57)【要約】
【課題】表面プラズモン共鳴の発現による触媒効率のより大きな向上効果が得られる光触媒を提供する。
【解決手段】光触媒は、外表面に連通する孔の平均径が10nm以上の金属酸化物多孔質体1と、金属酸化物多孔質体に担持される、表面プラズモン共鳴による吸収を有する金属微粒子2を備え、金属微粒子2の一次粒子平均径が3nm〜100nmであり、一次粒子径が1nm〜100nmの金属微粒子の割合が60質量%以上である。金属酸化物多孔質体1は、好ましくは、酸化チタン、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ビスマス、タングステン酸ビスマス、バナジン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムおよび酸窒化タンタルからなる群から選ばれる1種または2種以上を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面に連通する孔の平均径が10nm以上である金属酸化物多孔質体と、該金属酸化物多孔質体に担持される、表面プラズモン共鳴による吸収を有する金属微粒子を備え、
該金属微粒子の一次粒子平均径が3nm〜100nmであり、一次粒子径が1nm〜100nmの金属微粒子の割合が60質量%以上であることを特徴とする光触媒。
【請求項2】
前記金属酸化物多孔質体が、酸化チタン、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ビスマス、タングステン酸ビスマス、バナジン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムおよび酸窒化タンタルからなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1記載の光触媒。
【請求項3】
前記金属微粒子が、金、銀、銅および白金からなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒。
【請求項4】
前記金属酸化物多孔質体が金属酸化物の粒子の焼結体であり、該粒子の平均粒子径が10〜1000nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光触媒。
【請求項5】
前記金属酸化物多孔質体が、基板上に積層されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光触媒。
【請求項6】
前記金属酸化物多孔質体の長波長側吸収端波長が、前記金属微粒子の表面プラズモン共鳴による吸収に由来する吸収ピーク波長よりも短波長側にあることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光触媒。
【請求項7】
金属微粒子の前駆体である金属錯体を溶解した溶液に、外表面に連通する孔の平均径が10nm以上である金属酸化物多孔質体を浸漬し、加熱することを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項8】
前記溶液にポリビニルアルコールを添加することを特徴とする請求項7記載の光触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンなどの化合物は光照射することにより触媒作用を示すことが知られており、光触媒と呼ばれている。触媒作用の一つは、光触媒表面にある有機物を酸化し、CO
2やH
2Oなどに分解する酸化分解作用である。この性質を利用し、環境中に存在する有害物質を酸化分解して無害な物質に変換することで、消臭、VOC 除去、汚れ除去、抗菌・殺菌などの環境浄化を目指す商品開発が進められている。例えば、添加された光触媒により抗菌作用を有するタイル、エアフィルタに担持された光触媒により空気中の有害物を分解する空気清浄機などが挙げられる。
【0003】
光触媒は、自身のバンドギャッブ以上のエネルギーを持つ波長の光が照射されると、その光を吸収することにより光励起を生じる。伝導帯には励起した電子が、価電子帯には電子が抜けた空孔(正孔)が生成する。生成した電子と正孔が相互作用することなく空間的に分離する。そして電荷分離した正孔や電子が引き金となって生じる酸化、還元の化学反応により有害物質を分解する。光触媒の効率(以下、触媒効率と略)に影響を及ぼす因子は、これら(1)光吸収および(2)化学反応等が重要である。
【0004】
触媒効率の向上を図ってより大量の物質をより速やかに処理するために、種々の検討が行われている。
【0005】
(1)光吸収を向上することで触媒効率の向上を実現することを目的として、以下の検討が行われている。
酸化チタンのバンドギャップは3.2eVであり、およそ400nm以下の紫外線しか吸収することができない。太陽光の場合、400nm以下の波長光のエネルギーが全体に占める割合は約3%である。これはつまり紫外線しか吸収することのできない酸化チタンを太陽光下で使用することを想定した場合、最大でも3%しか光エネルギーを変換することができないことを示している。すなわち光吸収向上には光触媒の吸収帯域をより広帯域化することが有効な手段の一つである。
【0006】
広帯域化の方法としては、1)酸化チタンに不純物準位を形成させ、バンドギャップを減少させる方法、および2)酸化チタンよりもバンドギャップの小さい酸化チタン以外の化合物を用いる方法がある。
【0007】
1)の方法として、例えば、半導体の表面に、半導体の構成成分とは異なる成分である陽イオンを含む媒体を接触させることにより、半導体に陽イオンを含有させる第1の工程と、陽イオンを含有する半導体を還元雰囲気において加熱する第2の工程を含む可視光応答型光触媒の製造方法が開示されている。この方法は、例えば、酸化チタン格子中に遷移金属イオンなどの陽イオンを注入して酸化チタンの吸収端を長波長側へシフトするものである(特許文献1)。
また、N
2/ A rガス雰囲気下で酸化チタンをスパッタリングして、窒素置換型酸化チタン薄膜である光触媒を製造する方法が開示されている(特許文献2)。
また、アンモニア含有雰囲気下での酸化チタンの熱処理による窒素ドープにより光触媒物質を得る方法が開示されている(特許文献3)。
しかしながら、これらの方法は、いずれも製造装置や製造工程が煩雑であり、高コストである。
【0008】
一方、2)の方法として、光触媒として、酸化タングステン、酸化バナジウムなどの金属酸化物や、硫化亜鉛、硫化カドミウムなどの金属硫化物、あるいはその他の金属化合物を用いる方法が知られている(例えば特許文献4)。
これらの材料は、可視光領域における触媒効率が高い光触媒として期待されている。しかしながら、これらの材料は、触媒効率が十分ではなく、更なる触媒効率の向上が課題であった。
【0009】
光触媒の吸収帯域をより広帯域化する方法の一つとして、表面プラズモン共鳴を利用する方法がある。
【0010】
表面プラズモン共鳴とは、光の電場振動と物質の自由電子の振動が共鳴する現象のことをいう。
表面プラズモン共鳴はその形態により、伝播型と局在型に分けられる。伝播型表面プラズモン共鳴は回折現象を生じる表面波であり、金属表面や金属エッジおよび溝に沿って伝播する。局在型表面プラズモン共鳴はナノスケールの金属球やナノロッドに光を照射すると発生する。その共鳴波長は物質の種類や大きさ、形、周囲の環境により変化する。共鳴波長は物質の種類、大きさ、形、周囲の環境により変化する。例えば、金・銀・銅などの金属ナノ粒子は、可視光で共鳴することによって、これを吸収することが知られている。
【0011】
表面プラズモン共鳴が光触媒に及ぼす効果は以下の様であると推測される。
表面プラズモン共鳴が生じると、金属の表面に局在し、入射光の電場よりも数十から数百倍に増強された電場が生じる。この増強電場によって、半導体のモル吸光係数が向上し、その結果半導体がより大量に光励起することができ、触媒効率を高めることができると推測される。
あるいは、表面プラズモン共鳴金属微粒子から半導体、あるいは反応基質への電子注入である。半導体が光励起して生じた電子と正孔とは別に、表面プラズモン共鳴する金属から半導体、あるいは反応基質へ電子が移動することでより触媒効率が高められると推測される。
【0012】
いずれにしても、表面プラズモン共鳴による効果を得ようとした場合、半導体表面に、半導体が吸収しない波長光を吸収する金属を配置することが望ましいといえる。
また、金属ナノ粒子による表面プラズモン共鳴を発現するためには、個々の金属ナノ粒子が接することなく、独立して存在する必要がある。
【0013】
表面プラズモン共鳴金属を有する光触媒として、例えば、シリカ基板に、スパッタにより酸化チタン層を形成し、さらに酸化チタン層上に蒸着により表面プラズモン共鳴金属層を形成した光触媒に関する技術が開示されている(非特許文献1)。
また、光触媒粉末分散液と、金属ナノ粒子の前駆体である金属錯体溶液とを混合し、混合液に光照射することで光触媒表面に金属ナノ粒子を形成する方法が開示されている(非特許文献2)。
これらの技術によれば、表面プラズモン共鳴によって光の利用効率を高めることができるため触媒効率向上が期待できると解釈できる。
【0014】
一方、Ta
3N
5やInTaO
4等の光触媒に、PtやNiO等の助触媒と、表面プラズモン共鳴による吸収を示す金属ナノ粒子を担持させた光触媒による高効率水素発生装置、水素発生方法及び水素発生システムが提案されている(特許文献5参照)。これによれば、従来技術より効率よく水の酸化還元反応を行うことが出来る、とある。
しかしながら、例えばTa
3N
5は長波長側吸収端波長がおよそ600nmであり、例えば金ナノ粒子によるプラズモン共鳴による吸収ピークは450〜700nmである。そのためこれらの吸収波長は一部重複し、表面プラズモン共鳴による吸収が阻害され、効果を十分に発揮することができない。
【0015】
更に(2)について、活性を向上させる方法として、反応基質の吸着サイトなどのいわゆる活性サイトを増やす目的で高比表面積化が取り組まれている。例えば光触媒粒子の粒径を小さくすることにより表面積を向上させることや、多孔質な光触媒で表面積を向上させること(特許文献6参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2000−237598
【特許文献2】特開2007−253148
【特許文献3】特開2001−207082
【特許文献4】特開平1−189322
【特許文献5】特開2006−256901
【特許文献6】特開2009−297662
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Journal of Catalysis 307 (2013) 214−221
【非特許文献2】Langmuir 2012, 28, 13105−13111
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
解決しようとする問題点は、表面プラズモン共鳴の発現による高表面積な多孔質光触媒の効率の向上効果が十分ではない点である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る光触媒は、外表面に連通する孔の平均径が10nm以上である金属酸化物多孔質体と、該金属酸化物多孔質体に担持される、表面プラズモン共鳴による吸収を有する金属微粒子を備え、
該金属微粒子の一次粒子平均径が3nm〜100nmであり、一次粒子径が1nm〜100nmの金属微粒子の割合が60質量%以上であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る光触媒は、好ましくは、前記金属酸化物多孔質体が、酸化チタン、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ビスマス、タングステン酸ビスマス、バナジン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムおよび酸窒化タンタルからなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る光触媒は、好ましくは、前記金属微粒子が、金、銀、銅および白金からなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る光触媒は、好ましくは、前記金属酸化物多孔質体が金属酸化物の粒子の焼結体であり、該粒子の平均粒子径が10〜1000nmであることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る光触媒は、好ましくは、前記金属酸化物多孔質体が、基板上に積層されてなることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る光触媒は、好ましくは、前記金属酸化物多孔質体の長波長側吸収端波長が、前記金属微粒子の表面プラズモン共鳴による吸収に由来する吸収ピーク波長よりも短波長側にあることを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係る光触媒の製造方法は、金属微粒子の前駆体である金属錯体を溶解した溶液に、外表面に連通する孔の平均径が10nm以上である金属酸化物多孔質体を浸漬し、加熱することを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係る光触媒の製造方法は、好ましくは、前記溶液にポリビニルアルコールを添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る光触媒は、外表面に連通する孔の平均径が10nm以上である金属酸化物多孔質体と、金属酸化物多孔質体に担持される、表面プラズモン共鳴による吸収を有する金属微粒子を備え、金属微粒子の平均粒子径が3nm〜100nmであり、粒子径が1nm〜100nmの金属微粒子の割合が60質量%以上であるため、表面プラズモン共鳴の発現による触媒効率のより大きな向上効果が得られる。
また、本発明に係る光触媒の製造方法は、金属微粒子の前駆体である金属錯体を溶解した溶液に、外表面に連通する孔の平均径が10nm以上である金属酸化物多孔質体を浸漬し、加熱するため、表面プラズモン共鳴の発現による触媒効率のより大きな向上効果が得られる光触媒を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本実施の形態の光触媒を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態(以下、本実施の形態例という。)について、以下に説明する。
【0030】
まず、本実施の形態例に係る光触媒について説明する。
本実施の形態例に係る光触媒は外表面に連通する(言い換えれば、表面に開口する)孔の平均径が10nm以上である金属酸化物多孔質体と、金属酸化物多孔質体に担持される、表面プラズモン共鳴による吸収を有する金属微粒子を備え、金属微粒子の平均粒子径が3nm〜100nmであり、粒子径が1nm〜100nmの金属微粒子の割合が60質量%以上である。光触媒の概念図を
図1に示す。
図1中、参照符号1は金属酸化物多孔質体を、参照符号1aは金属酸化物多孔質体を構成する金属酸化物粒子を、参照符号1bは金属酸化物多孔質体の内部に連通する孔を、参照符号2は金属微粒子を、参照符号3は基板を、それぞれ示す。
金属酸化物多孔質体は、金属酸化物粒子が三次元的な網目構造を形成し、粒子間に三次元的に空隙を有することが望ましい。金属微粒子は金属酸化物多孔質体中に三次元的に分散した状態で存在することが望ましい。但し、これに限らず、金属酸化物多孔質体は、後述する陽極酸化膜のように、膜の少なくとも一面に長孔が露出する、いわば一次元的な孔構造を有してもよい。金属微粒子は、個々の粒子が互いに接することなく分散された状態で担持されることが望ましい。
光触媒は、金属酸化物、金属微粒子に加えて助触媒となる成分を含み、あるいは担持したものであってもよい。助触媒としては、光触媒活性の向上効果が高い、酸化銅、酸化パラジウムまたはパラジウムが好ましい。
【0031】
金属酸化物多孔質体の材料は、光触媒作用を奏するものである限り特に限定しない。
金属酸化物は、酸化チタン、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ビスマス、タングステン酸ビスマス、バナジン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウム、酸窒化タンタル、酸化鉄等から適宜選択して用いることができる。金属酸化物は、好ましくは、酸化チタン、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ビスマス、タングステン酸ビスマス、バナジン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムおよび酸窒化タンタルからなる群から選ばれる1種または2種以上を含む。可視光領域での光触媒作用をより好適に奏する観点からは、より好ましくは、酸化チタン、酸化タングステン、酸化バナジウムであり、さらに好ましくは、酸化チタン、酸化タングステンであり、またさらに好ましくは、酸化タングステンである。
【0032】
金属酸化物多孔質体は、孔が表面および内部に形成されるとともに、外表面に連通する孔の平均径(平均直径)が、金属微粒子の平均径よりも大きい。金属酸化物多孔質体の外表面に連通する孔の平均径は、好ましくは、20nm以上である。金属酸化物多孔質体の外表面に連通する孔の平均径は、特に上限はないが、200nm程度あれば十分である。
【0033】
金属酸化物多孔質体は、好ましくは、基板上に積層されてなるものである。基板上に積層することで、光触媒の機械的強度を向上させることができる。基板は、アルミナ、シリカ等のセラミック基板、鉄、SUS、チタン、タングステン等の金属基板が挙げられる。より好ましくは、機械的強度の高い金属であり、さらに好ましくは、チタンである。
また、金属酸化物多孔質体は、好ましくは金属酸化物の粒子の焼結体であり、粒子の平均径が10〜1000nmの範囲であるものである。また、金属酸化物多孔質体は、好ましくは、金属酸化物が、金属酸化物を構成する金属と同種の金属元素から構成される金属基板の陽極酸化により形成された陽極酸化膜である。
【0034】
金属微粒子は、表面プラズモン共鳴による吸収を有するものであれば、特に限定しないが、好ましくは局在型表面プラズモン共鳴による吸収を有するものである。
金属微粒子は、表面プラズモン共鳴を効果的に利用する観点から、金属酸化物の吸収波長と吸収帯域の重複がより少ない金属であることが好ましい。すなわち、金属微粒子の表面プラズモン共鳴による吸収に由来する吸収ピーク波長よりも金属酸化物の長波長側吸収端波長が小さいこと、言い換えれば、金属酸化物粒子の長波長側吸収端波長が、金属微粒子の表面プラズモン共鳴による吸収に由来する吸収ピーク波長よりも短波長側にあることが好ましい。
金属微粒子は、金、銀、銅および白金からなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことが好ましい。金属微粒子は、より好ましくは、空気中で安定に存在する金属であって、具体的には金、銀、銅または白金、あるいは金、銀、銅または白金以外の金属を核とし、その表面が金、銀、銅または白金で被覆された形態の金属複合体、のいずれかであることがさらに好ましく、さらにまた好ましくは金である。
【0035】
金属微粒子は、一次粒子平均径(平均直径)が3nm〜100nmであり、一次粒子径(直径)が1nm〜100nmの金属微粒子の割合が60質量%以上である。割合の上限は特にないが、80質量%程度あれば十分である。
一般に局在型表面プラズモン共鳴の場合は、共鳴による吸収波長は金属微粒子の一次粒子径が小さくなるほど短波長にシフトするため、選択する金属微粒子と金属酸化物粒子の組み合わせによっては金属微粒子の吸収帯域と金属酸化物粒子の吸収帯域との重複がより大きくなるおそれがある。重複する帯域の光は金属微粒子と金属酸化物粒子の双方が吸収することになり、光の利用効率の観点から好ましくない。また、一般に粒子は一次粒子径が小さい程、比表面積が大きく、表面自由エネルギーが大きいため、特にナノサイズでは凝集が生じ易く、分散することがより困難になると言われている。そのため、金属微粒子の一次粒子径が小さく、例えば1nmよりも大きく下回ると容易に凝集が生じ、その結果表面プラズモン共鳴による吸収強度が低強度であるか、あるいは吸収を示さない可能性が想定される。金属微粒子の一次粒子径が、100nmより大きいと表面プラズモン共鳴による吸収強度が低強度であるか、あるいは吸収を示さなくなり、光を有効利用できず触媒効率が低いため好ましくない。金属微粒子は、一次粒子径が1〜100nmの金属微粒子の割合が60質量%以上である。
【0036】
本実施の形態例に係る光触媒は、その触媒作用のメカニズムが定かではないが、高い触媒効率を得ることができる。
【0037】
つぎに、本実施の形態例に係る光触媒の製造方法について説明する。
本実施の形態例に係る光触媒の製造方法は、金属微粒子の前駆体である金属錯体を溶解した溶液に、外表面に連通する孔の平均径が10nm以上、好ましくは、20nm以上である金属酸化物多孔質体を浸漬し、加熱する。
【0038】
金属酸化物多孔質体の製造方法は、特に限定されないが、金属酸化物の粒子を例えば真空雰囲気などで焼結して焼結体を得る方法が挙げられる。また、金属酸化物多孔質体の製造方法は、金属酸化物を構成する金属と同種の金属元素から構成される金属基板の陽極酸化により形成する方法が挙げられる。さらに、上記方法で得られる焼結体あるいは陽極酸化膜を、金属基板上に積層する製造方法が挙げられる。これらのいずれかの方法により外表面に連通する孔が所定の条件を満たす金属酸化物多孔質体を得る。
金属微粒子は、ナノメートルサイズになると凝集分散特性が変化し、例えば、静電反発作用による分散安定化が困難になって凝集が生じやすくなる。従って、表面プラズモン共鳴を利用するために、金属微粒子をいかに均一な状態で分散させ得るかが重要になる。また、多孔質体の細孔内に均一に分散させることはさらに困難である。
金属微粒子を確実に担持するために、金属微粒子の前駆体である金属錯体を溶解した溶液に、金属酸化物あるいは金属基板上に積層された金属酸化物を浸漬し、加熱することによって、金属酸化物の多孔質体の外表面および空孔内部の表面に金属微粒子を担持する。
金属酸化物多孔質体に担持する金属微粒子の所定の粒径条件、すなわち、一次粒子平均径が3nm〜100nmであり、一次粒子径が1nm〜100nmの金属微粒子の割合が60質量%以上という条件については、予め試行錯誤的な検討を行って、必要な粒径条件が得られる製造条件を確立する。
【0039】
表面プラズモン共鳴の効果をより効果的に得るには、金属微粒子の大きさ、形状が所定の範囲内に制御されていること、金属微粒子が隣り合う金属微粒子とある一定以上の粒子間隔を保った状態でお互いが離れていること、金属酸化物に対する金属微粒子の体積充填割合がある一定の範囲で制御されていること、金属酸化物に対し金属微粒子が偏りなく分布していること、などの構造的特性を、光触媒が備えていることが望ましい。
【0040】
このような構造的特性を満足する光触媒を得るには、担持工程において金属微粒子の前駆体である金属錯体を溶解した溶液にポリビニルアルコールを添加することがさらに好ましい。
【0041】
ポリビニルアルコールを使用した場合、ポリビニルアルコールを使用しない場合に比べ、金属微粒子の粒子径を小さく抑制できるとともに、金属微粒子の前駆体である金属錯体を溶解した溶液中の金属イオン量を多くした場合でも、凝集粒子の生成を防ぐことができる。これは、金属イオンの加熱還元の際に、多数の−OH基を有するポリビニルアルコールが電子供与体となり、還元助剤として機能して金属イオンの還元を促進する結果、ポリビニルアルコールが存在しない場合に比べ、より多くの金属核が形成され、それぞれが独自に成長して金属微粒子を形成するためであると考えられる。
【0042】
金属酸化物多孔質体に金属微粒子を担持する方法は、特に限定しないが、上記以外の方法としては、含浸法、塩析法、光析出法、電析法、スパッタ法などの方法を用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0044】
まず、実施例で用いた測定方法、評価方法について説明する。
【0045】
<金属酸化物多孔質体の孔径の測定>
窒素吸着によるBET法により、多孔質体の外表面に連通する孔の平均直径を測定した。
<一次粒子直径(平均粒子径)の測定>
平均粒子径の測定は、試料を砕いてエタノールに分散させたのち、得られた分散液をカーボン支持膜付き金属性メッシュへ滴下して作成した基板を、透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子社製、JEM−2000EX)により観測した。また、平均粒子径は面積平均径とした。平均粒子径及び粒子径の分布は任意の100個の粒子を抽出し、この面積平均および粒径の分布とした。
【0046】
<金属種の同定>
金属種の同定は、透過型電子顕微鏡に付帯するエネルギー分散型X線分析計を用いた分析により行った。
【0047】
(実施例1)
<金属金微粒子分散二酸化チタン多孔質体/チタン箔の作製1>
水に分散した二酸化チタン(日本アエロジルP25、平均粒子径25nm)をチタン箔(縦5cm×横5cm×厚み50μm)に塗布し、乾燥後450℃で焼成して、チタン箔上に積層された厚み20μmの二酸化チタン多孔質体(二酸化チタン多孔質体−チタン箔の積層体を、「二酸化チタン多孔質体基板」という。)を得た。多孔質体の平均空孔直径は30nmであった。また得られた二酸化チタン多孔質体の重量は約260mgであった。
5.6gの蒸留水と0.27gの酢酸(関東化学社製)を加えた溶液に得られた二酸化チタン多孔質体基板を浸漬した。次に、0.82gのポリビニルアルコール(平均分子量22000、重合度500、ケン化度88%、関東化学社製ポリビニルアルコール500)の20wt%水溶液、及び0.1gの蒸留水で溶解した3.0mgのテトラクロロ金(III)酸四水和物(関東化学社製)水溶液を加え、二酸化チタン多孔質体を浸漬した金錯体含有溶液1を調製した。なお、金錯体含有溶液1の調製に際しては、各試薬をそれぞれ加えるたびに、マグネチックスターラーによる撹拌を各2時間行った。
次に、シャーレに、前記金錯体含有溶液1を入れた後、70℃で3分間及び130℃で10分間乾燥し、シャーレから取り出した後さらに280℃、10分間および500℃、1時間加熱処理することによって、青紫色に呈色した金属金微粒子担持二酸化チタン多孔質体を作製した。
作成した金属金微粒子担持二酸化チタン多孔質体をチタン箔から削り取り、TEMにて観察したところ、平均20nmであり15nm〜25nmの直径範囲の粒子が80%以上の球状粒子が確認できた。また、エネルギー分散型X線分析計により球状粒子は金であることが確認できた。
<ギ酸分解反応>
作成した光触媒基板をセプタムキャップ付20mLのガラス容器に入れ、ガラス容器の蓋を閉めた。ガラス容器の密閉状態を保ったまま、シリンジを使用してセプタムキャップから0.5mol/Lのギ酸水溶液40μL(20μmol)を加えた。0.5SUNのソラーシミュレーターで光照射しながら、光触媒反応により生成する二酸化炭素量の経時変化をガスクロマトグラフィーにより追跡した。
二酸化炭素の生成速度は80μmol/hであった。
【0048】
(実施例2)
<金属金微粒子分散WO
3多孔質体/チタン箔の作製>
タングステン酸(H
2WO
4)35gと過酸化水素(30%水溶液)490gを入れた1Lビーカーをホットスターラー上、35℃、300rpmで1時間程度加温撹拌しながら溶解させた。
得られた無色透明溶液の撹拌を続けながら、ホットスターラーの温度を100℃に昇温し、水分と過酸化水素を蒸発させ、水約200mLを追加後、更に撹拌を続けながら加熱を続けて溶液を濃縮した。その後、濃縮した溶液が黄色透明溶液になるまで90℃、300rpmで約9時間加熱撹拌した。
100℃にしたホットプレート上に載置したチタン箔(縦5cm×横5cm×厚み50μm)に、作製した黄色透明溶液を合計約2mL滴下し、チタン箔上に橙色固体からなる膜を形成した。電気炉で空気中450℃、0.5時間焼成し、チタン箔上に積層された厚み2.0μmのWO
3多孔質体(WO
3多孔質体−チタン箔の積層体を、「WO
3多孔質体多孔質体基板」という。)を得た。多孔質体の平均空孔直径は65nmであった。
次に、二酸化チタン多孔質体基板の代わりにWO
3多孔質体多孔質体基板を使用したほかは、実施例1と同様の方法で、金属金微粒子担持WO
3多孔質体を作製した。作製した金属金微粒子担持WO
3多孔質体をチタン箔から削り取り、TEMにて観察したところ、平均20nmであり15nm〜25nmの直径範囲の粒子が80%以上の球状粒子が確認できた。また、エネルギー分散型X線分析計により球状粒子は金であることが確認できた。ギ酸分解反応の二酸化炭素の生成速度は120μmol/hであった。
【0049】
(実施例3)
<金属金微粒子分散二酸化チタン多孔質体/チタン箔の作製2>
平均粒子径180nmの二酸化チタン(テイカJA−1)を用いたほかは実施例1と同様の方法で、チタン箔上に積層された厚み18μmの二酸化チタン多孔質体(多孔質体基板)及び金属金微粒子担持二酸化チタン多孔質体を得た。二酸化チタン多孔質体の平均空孔直径は190nmであった。
作製した金属金微粒子担持二酸化チタン多孔質体をチタン箔から削り取り、TEMにて観察したところ、平均20nmであり15nm〜25nmの直径範囲の粒子が80%以上の球状粒子が確認できた。また、エネルギー分散型X線分析計により球状粒子は金であることが確認できた。ギ酸分解反応の二酸化炭素の生成速度は68μmol/hであった。
【0050】
(比較例1)
実施例と同様に二酸化チタン多孔質体を得た。
金を分散しない二酸化チタン多孔質体のギ酸分解能を実施例と同様の方法で試験した。
二酸化炭素の生成速度は20μmol/hであった。
【0051】
(比較例2)
ターゲット材としてTiO
2を用い、スパッタ法によりチタン箔(縦5cm×横5cm×厚み50μm)上に酸化チタン膜を形成した。
形成した酸化チタン膜は青みかかった色を呈していた。これを、空気中で450℃、30分焼成すると透明の膜が得られ、チタン箔上に積層された厚み0.4μmの二酸化チタン多孔質体及び二酸化チタン多孔質体基板を得た。SEM観察から、得られた膜は非常にち密であり、空孔直径は10nm未満であった。
次に、実施例1と同様の方法で、金属金微粒子担持二酸化チタンを作製した。作製した金属金微粒子担持二酸化チタンをチタン箔から削り取り、TEMにて観察したところ、球状粒子はほとんど観察されなかった。ギ酸分解反応の二酸化炭素の生成速度は1μmol/hであった。
【符号の説明】
【0052】
1 金属酸化物多孔質体
1a 金属酸化物粒子
1b 孔
2 金属微粒子
3 基板