【解決手段】本発明の内燃機関の排ガス浄化装置は、セラミックス製の多孔質基材と、多孔質基材の表面及び気孔内表面に担持された触媒粒子とを有してなり、触媒粒子は、多孔質基材の表面及び気孔内表面に直接担持されるとともに、触媒粒子の75%以上が排ガスと直接接する状態で保持されており、触媒粒子は、炭化ケイ素粒子の表面に貴金属粒子が担持されてなり、貴金属粒子が酸化物層により覆われた状態であることを特徴とする。
前記炭化ケイ素粒子の平均一次粒子径は0.005μm以上かつ1μm以下であり、前記酸化物層の厚さが20nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排ガス浄化装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の内燃機関の排ガス浄化装置を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0021】
[排ガス浄化装置]
本実施形態の内燃機関の排ガス浄化装置は、セラミックス製の多孔質基材と、前記多孔質基材の表面及び気孔内表面に担持された触媒粒子とを有している。本実施形態の内燃機関の排ガス浄化装置は、排気経路中に触媒を配置するものであって、例えば、ガソリン車、ディーゼル車といった自動車用の排ガス浄化装置として用いられる。
【0022】
セラミックス製の多孔質基材の形態は特に限定されないが、例えば、自動車(ガソリン車、ディーゼル車)の排ガス浄化に用いられるハニカム基材、ディーゼル自動車用のPM捕集除去に用いられるDPF用フィルタ基材等が代表的なものとして選択できる。この内、ハニカム基材はいわゆるフロースルー型である。このフロースルー型排ガス浄化装置の断面図を
図1に示す。
【0023】
フロースルー型排ガス浄化装置10は、多孔質基材からなる隔壁11と、隔壁11に囲まれ排ガスの流入側と排出側が共に解放されたガス流路12とを有する。フロースルー型排ガス浄化装置10は、一方の端面α側から排ガスGを隔壁11と並行して流すことにより、隔壁11を構成する多孔質基材の表面や気孔内の表面に接した排ガスが多孔質基材に担持された触媒(図示略)により浄化される。また、排ガス中のPM30も多孔質基材の表面や気孔内の表面で捕集され、燃焼除去される。浄化された後の浄化ガスCは端面γから放出される。
【0024】
一方DPF用フィルタ基材はいわゆるウォールフロー型である。このウォールフロー型排ガス浄化装置の断面図を
図2に示す。
ウォールフロー型排ガス浄化装置20は、多孔質基材からなる隔壁21と、隔壁21に囲まれたガス流路22とを有する。ガス流路22は、ガスの排出側が封止された流入側ガス流路22Aと、ガスの流入側が封止された排出側ガス流路22Bとを有する。流入側ガス流路22Aと排出側ガス流路22Bとが交互に隣り合って配置されている。そして、端面αから流入側ガス流路22Aに入気した排ガスGが多孔質基材からなる隔壁21を通過(透過)して排出側ガス流路22Bへと放出される際に、多孔質基材の表面や気孔内の表面に接した排ガスGが多孔質基材に担持された触媒により浄化されるものである。また、排ガス中のPM30も、隔壁21を通過するときに多孔質基材の表面や気孔内の表面で捕集され、燃焼除去される。浄化された後の浄化ガスCは端面γから放出される。
そして、本実施形態の内燃機関の排気浄化装置は、フロースルー型、ウォールフロー型のいずれを用いることも可能である。
【0025】
多孔質基材に用いられるセラミックの材質は、耐熱性を有するものであれば特に限定されず、例えば、コーディエライト、アルミナ、スピネル、ムライト、チタン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ゼオライト、ペロブスカイト及びシリカ−アルミナ等を主成分として含むものを用いることができる。
特に自動車排気浄化装置の場合には、高温条件で使用されることから、耐熱性に優れる炭化ケイ素を主成分とするものを好適に用いることができる。また、後述するように、本実施形態の触媒粒子は炭化ケイ素粒子の表面に貴金属粒子が担持された貴金属担持炭化ケイ素粒子であることから、多孔質基材として炭化ケイ素を主成分とするものを用いれば触媒粒子との親和性も良く好ましい。
【0026】
フロースルー型の場合、多孔質基材からなる隔壁の厚さは200μm〜500μm程度が好ましい。その理由として、一般的なガソリンエンジン用排ガス浄化装置に用いられるフロースルー型ハニカム基材では、排ガスが隔壁内に入り込む深さは250μm程度であることが挙げられる。すなわち、排ガス中のPMの捕集・燃焼やその他成分の浄化処理とも隔壁の表面又は表面から250μm程度までの深さで行われることから、隔壁の厚さが500μmよりも厚い場合、排ガスが流れ込まず排ガス処理に寄与しない部分が生じるためである。一方、隔壁の厚さが200μmより薄くなると、ハニカム基材としての強度が不足し、熱履歴等で破損を生じる虞がある。
【0027】
また、本実施形態の内燃機関の排ガス浄化装置では、触媒粒子は、上記多孔質基材の表面及び気孔内表面に直接担持されるとともに、上記触媒粒子の75%以上が排ガスと直接接する状態で保持されていることが特徴としている。従って、フロースルー型の場合における触媒粒子は、隔壁の表面及び表面から250μm程度までの深さの気孔の表面に担時されていることが好ましい。隔壁の表面から250μm以上の深さの気孔内表面に触媒を担持させても、その部分には排ガスが流入しないため、担持させる意味が無いためである。
なお、触媒粒子は、その80%以上が排ガスと直接接する状態で保持されていることが好ましく、90%以上が排ガスと直接接する状態で保持されていればより好ましい。
【0028】
この触媒粒子担時の観点からも、フロースルー型の隔壁の厚さは500μm以下であることが好ましい。すなわち、隔壁の厚さが500μmより薄ければ、隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面全体に触媒粒子を担持できるから、触媒担時に特定の方法を用いたり、隔壁に特定の構造を形成させたりする必要が無い。一方、隔壁が500μmより厚い場合には、例えば触媒粒子の担時前に深部の気孔を塞いでおくことや、隔壁自体の構造を表面側の気孔率が高いものとしておく必要が生じる。
なお、隔壁への排ガスの流入量は厚さとともに減少するから、隔壁が500μmより薄い場合であっても、触媒粒子の担時量は隔壁表面が最も多いことが好ましくまた、内部においてはより表面に近い気孔の表面への担時量が多いことが好ましい。
【0029】
次にウォールフロー型の場合、多孔質基材からなる隔壁の厚さは、200μm〜300μm程度が好ましい。ウォールフロー型では、隔壁の厚さが排気抵抗と直接関係するため、隔壁の厚さが300μmを超えると圧損が増大する虞がある。一方、隔壁の厚さが200μmより薄いと、PMの捕集性が低下するほか、やはりフィルタ基材としての強度が不足し、熱履歴等で破損を生じる虞がある。
【0030】
ここでウォールフロー型の場合、排ガスは隔壁内部を通過するから、触媒粒子は流入側ガス流路の隔壁表面及び隔壁内部の気孔表面の全体にわたって担持されていて良い。また、排出側ガス流路の隔壁表面に担持されていてもよい。ただし、流入側ガス流路隔壁表面への担時が無いかごく少なく、一方排出側ガス流路隔壁表面へに担時量が多い場合には、排ガスの処理が十分行えなくなる虞があるため好ましくない。
【0031】
また多孔質基材からなる隔壁の平均気孔径は、フロースルー型、ウォールフロー型とも10μm以上かつ50μm以下であることが好ましい。平均気孔径が10μmより小さい場合には、隔壁内における排ガス流に対する抵抗が大きくなるため、フロースルー型では排ガス浄化作用が低下する虞があり、ウォールフロー型では圧損が増加する虞があり好ましくない。一方、平均気孔径が50μmを超える場合には、隔壁内流れ込んだ排ガスの内気孔表面と接触する排ガス量が減少するために、フロースルー型、ウォールフロー型とも排ガス浄化作用が低下する虞があり好ましくない。
【0032】
以上示したような、厚さが200μm〜300μm程度、平均気孔径が10μm〜50μmの隔壁を有する多孔質基材としては、自動車(ガソリン車、ディーゼル車)用排ガス浄化装置に用いられる通常のハニカム基材やディーゼル自動車用のPM捕集除去に用いられるDPF用フィルタ基材を用いることができる。
一方、多孔質基材は触媒粒子を直接担持することから、その表面や気孔内の表面に触媒粒子を直接担持可能な細孔を有していればより好ましい。本実施形態においては、触媒粒子を形成する炭化ケイ素粒子の平均一次粒子径を0.005μm以上かつ1μm以下としていることから、触媒粒子を直接担持可能な細孔の直径は3nmから2μm程度が好ましい。また、細孔の深さは2nmから800nm程度で良いが、触媒粒子が細孔内に完全に入り込まない程度の深さが好ましい。また、細孔の数は1×10
11個/L以上が好ましく、1×10
16個/L以上であればより好ましい。
【0033】
本実施形態の内燃機関の排ガス浄化装置では、以上のような多孔質基材からなる隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面に、触媒粒子を直接担持させる。担持させる触媒粒子は、炭化ケイ素粒子の表面に貴金属粒子が担持されてなり、該貴金属粒子が、炭化ケイ素粒子の表面に形成された酸化物層により覆われた状態である粒子が選択される。
【0034】
炭化ケイ素粒子としては、平均一次粒子径が0.005μm以上かつ1μm以下であることが好ましい。
ここで、炭化ケイ素粒子の平均一次粒子径が0.005μm未満では、この炭化ケイ素粒子の表面活性が高くなり過ぎてしまい、この触媒粒子を用いた排ガス浄化装置を高温下で使用した際に、触媒粒子が多孔質基材と反応してしまい、触媒活性が低下する結果、排ガス浄化機能が低下する虞があるため好ましくない。一方、平均一次粒子径が1μmを越えると、特に触媒粒子を多孔質基材に担持する際に触媒粒子の平均分散粒子径が大きくなりすぎてしまうために、多孔質基材の気孔内に触媒粒子が入り込めなくなり、やはり排ガス浄化装置において十分な浄化機能が得られなくなる虞があり好ましくない。
なお炭化ケイ素粒子の平均一次粒子径は0.02μm以上かつ0.85μm以下がより好ましく、0.035μm以上かつ0.6μm以下であればさらに好ましい。
【0035】
貴金属粒子としては、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)の群から選択される1種又は2種以上を含有していることが好ましく、浄化対象とする物質(炭化水素系有機物:HC、一酸化炭素:CO、窒素酸化物:NO
x、粒子状物質:PM)を考慮した上で選択することが好ましい。例えば、PM燃焼等の酸化触媒作用を有する貴金属としては、白金、パラジウム、ロジウム等から選択される1種ないし2種以上を用いることができる。また、NO
x還元触媒としてはパラジウム、イリジウム等やこれら貴金属粒子と各種の化合物粒子を組み合わせて用いることができる。この貴金属粒子の一次粒子径は1nm以上かつ30nm以下が好ましく、1nm以上かつ20nm以下がより好ましく、1nm以上かつ10nm以下であればさらに好ましい。そして、この貴金属粒子は、炭化ケイ素粒子表面に形成された酸化物層により覆われている。
【0036】
ここで、貴金属粒子の平均一次粒子径が1nm未満では、粒子径が小さすぎて表面活性が強くなりすぎてしまい、凝集し易くなるので好ましくない。一方、平均一次粒径が30nmを超えると、貴金属粒子が炭化ケイ素粒子表面の酸化物層により覆いきれなくなり、酸化物層から突出して露出するようになるために、特に高温化で貴金属粒子がシンタリング(粒子成長)を起こすために触媒特性が低下する虞があり好ましくない。
【0037】
ここで、この炭化ケイ素粒子の表面には酸化物層が形成されている。酸化物層の厚さは20nm以下が好ましい。酸化物層の厚さは、後述の貴金属粒子を完全に覆うという観点からは厚い方が良いが、一方、酸化物層が厚すぎると貴金属粒子による触媒効果を減じてしまうことから、20nm以下の厚さが選択される。
【0038】
また、この酸化物層は、非晶質のSiO
xC
y(ただし、0<x≦3、0≦y≦3)を含有してなることが好ましい。なお、この酸化物層の組成や構造は単一である必要はなく、酸化物層の各部分におけるx及びyの値は上記の範囲内で任意の値を取ることができる。さらに、この酸化物層は、SiO
2、SiO、SiOC
3、SiO
2C
2及びSiO
3Cの群から選択される1種又は2種以上の結晶質を含有していてもよい。
【0039】
また、この酸化物層は、酸素を吸着し、酸化物層に接触した物質に吸着した酸素を付与する作用、すなわち酸化触媒作用を有している。従って、貴金属粒子として酸化触媒作用を有する粒子を選択した場合には、酸化物層により、該貴金属粒子の有する酸化触媒能を増強する効果が得られる。これにより、排ガス中に含まれるPMの燃焼温度を低下させることができるので、排ガス浄化装置の熱負荷を低減できるとともに、連続再生も容易に行うことが可能となる。すなわち、酸化物層は、前記のように貴金属粒子を覆うことで、貴金属粒子のシンタリング防止をはかるだけでなく、排ガス浄化装置の特性向上も図ることができる。
【0040】
また、本実施形態の触媒粒子は、主要な触媒成分となる貴金属粒子が炭化ケイ素粒子に担持されており、さらに炭化ケイ素粒子の表面には酸化物層が形成されている。この炭化ケイ素粒子と酸化物層が存在することにより、本実施形態の触媒粒子は多孔質基材の表面や気孔内表面に直接かつ容易に担持できる。すなわち、多孔質基材が酸化物系セラミックス製の場合には、触媒粒子表面の酸化物層が多孔質基材に対して結合性を有しており、また多孔質基材が非酸化物系セラミックス製の場合には、炭化ケイ素粒子自体が多孔質基材に親和性を有する他、触媒粒子表面の酸化物層が焼結所剤としての効果を発揮することで、多孔質基材と触媒粒子との結合性を向上させる。
【0041】
ここで、従来の排ガス浄化装置においては、多孔質基材に貴金属触媒粒子を担持させるためにγ−アルミナ等の高比表面積のコート層を用いている。すなわち、多孔質基材の表面及び気孔内の表面に予めコート層を形成した後に、貴金属触媒粒子を担持している。
これに対して、本実施形態の排ガス浄化装置ではコート層を形成する必要が無いことから、工程の簡易化を行うことができる。また、触媒粒子の担持がコート層の形成状態に左右されないので、目的とする触媒粒子の担持状態を、容易にかつ再現性良く得ることができる。
【0042】
また、コート層の形成を省略するために、貴金属触媒粒子とコート層形成粒子とを予め混合して多孔質基材に担持させる方法もある。しかしながら、この方法では一部の貴金属触媒粒子はコート層中に埋め込まれてしまうために触媒機能が発現せず、結果として、本来必要とされる以上の貴金属触媒粒子が必要となり、コストアップを招いてしまう。また、触媒金属粒子同士がコート層中で近接しているために、特に高温化で貴金属粒子がシンタリングを起こし、触媒活性が低下する虞がある。
これに対して、本実施形態の排ガス浄化装置ではコート層自体が無いことから、触媒粒子がコート層中に埋没することはなく、ほとんどの触媒粒子が排ガスに接することができる。
【0043】
これらの効果により、本実施形態の排ガス浄化装置では、触媒粒子の75%以上が排ガスと直接接する状態で保持することができる。これにより、多孔質基材に担持された触媒粒子のほとんどが触媒作用を発現することができることから、触媒量を低減しても高い触媒性能を発揮することができる。
さらに、コート層が無いことから、基材セラミックの特性変化を生じることが無く、またコート層による気孔径の減少も生じないことから、圧損を上昇させる要因が無くなり圧損を抑制することができる。
さらにまた、触媒粒子上の貴金属粒子は酸化物層により覆われて固定されていることから、貴金属粒子のシンタリングも生じないので、触媒活性が低下することもない。
なお、触媒粒子は、その80%以上が排ガスと直接接する状態で保持されていることが好ましく、90%以上が排ガスと直接接する状態で保持されていればより好ましい。
【0044】
本実施形態における内燃機関の排ガス浄化装置に流入した排ガスは、多孔質基材からなる隔壁に接触又は通過する。そして、排ガスが多孔質基材からなる隔壁の表面及び気孔を通過する段階で、排ガス中に含まれるPMが隔壁の表面又は隔壁内部の気孔の表面に捕集される。捕集されたPMは、隔壁の表面や隔壁内部の気孔の表面に触媒粒子が担持されていること、また、特にガソリンエンジンの場合には排気温度が高いことから、捕集後速やかに酸化されてCO
2となり除去される。
【0045】
また、この排ガス中にはCO、HC、NO
x等も含まれるが、多孔質基材からなる隔壁中を排ガスが流れる過程で、これらの物質も触媒粒子と接触する。そこで、PMの捕集と酸化除去と併せて、3元触媒と同様の作用を行わせることにより、COをCO
2に、HCをH
2OとCO
2にそれぞれ酸化・分解させるとともに、NO
xをN
2に還元させることができる。
以上により、本実施形態における内燃機関の排ガス浄化装置から大気中に排出される排ガスは、基本的にCO
2、H
2O、N
2のみとなり、排ガス中に含まれる有害成分(CO、HC、NO
x等)や粒子状物質(PM)の無害化処理を連続処理として行うことができる。
【0046】
[排ガス浄化装置の製造方法]
本実施形態の内燃機関の排ガス浄化装置の製造方法について説明する。
本発明の内燃機関の排ガス浄化装置の製造方法では、貴金属粒子を炭化ケイ素粒子に担持させ貴金属粒子担持炭化ケイ素粒子を作製する「貴金属粒子担持工程」、前記貴金属粒子担持炭化ケイ素粒子の表面に酸化物層を形成し、前記貴金属粒子が前記酸化物層により覆われた状態で保持された触媒粒子を形成する「触媒粒子形成工程」を含み、さらに、前記貴金属粒子を担持した炭化ケイ素粒子又は触媒粒子を前記多孔質基材の表面及び気孔内表面に保持させる際に造孔材を使用する。
【0047】
また、本発明の内燃機関の排ガス浄化装置の製造方法では、前記の「貴金属粒子担持工程」及び「触媒粒子形成工程」以外にも、各種の工程を必要とする。そこで、以下に典型的な工程順を仮定した上で、その各工程を説明する。
【0048】
典型的な工程は、次の通りである。
1)炭化ケイ素粒子に貴金属粒子を担持させ貴金属粒子担持炭化ケイ素粒子を作製する「貴金属粒子担持工程」。
2)貴金属粒子担持炭化ケイ素粒子の表面に酸化膜を形成して触媒粒子とする「触媒粒子形成工程」。
3)触媒粒子と造孔材とを含有する塗料を作製する「塗料作製工程」。
4)多孔質基材を塗料で処理することにより、多孔質基材の表面及び気孔内表面に触媒粒子と造孔材とを付着させる「多孔質基材への粒子保持工程」。
5)触媒粒子と造孔材とが付着した多孔質基材から造孔材を除去して、貴金属粒子担持炭化ケイ素粒子のみが保持された多孔質基材とする「造孔材除去工程」。
6)触媒粒子のみが保持された多孔質基材の前記触媒粒子を、前記多孔質基材の表面及び気孔内表面に固定して担持させる「担持工程」。
【0049】
これらの工程については、可能な範囲でその順番を入れ替えてもよく、また複数の工程を並行又は連続的に行ったり、1つの工程をさらに分割して他の工程と組み合わせてもよい。
【0050】
例えば、「造孔材除去工程」及び「担持工程」は通常加熱処理によることから、加熱温度や雰囲気を調整しつつ、これらの工程を連続的に行うことができる。また、炭化ケイ素粒子、貴金属粒子及び造孔材を含む塗料を作成し、この塗料を用いて多孔質基材を処理することにより、「貴金属粒子担持工程」と「多孔質基材への粒子保持工程」を同時に行うこともできる。さらには、「塗料作製工程」において、触媒粒子の代わりに触媒粒子前駆体を用い、当該塗料を用いて多孔質基材への粒子保持及び造孔材除去を行って後、多孔質基材上で触媒粒子を形成することもできる。
「触媒粒子前駆体」については、後述する。
【0051】
一方、後述のように、「貴金属粒子担持工程」と「触媒粒子形成工程」は連続して行うことが好ましい。また、「塗料作製工程」から「担持工程」までの4工程については、その内容上、各工程の順番が入れ替ることはない。
【0052】
「貴金属粒子担持工程」
触媒粒子の母材となる炭化ケイ素粒子を準備し、この炭化ケイ素粒子の表面に貴金属粒子を担持して、貴金属担持炭化ケイ素粒子を形成する工程である。
炭化ケイ素粒子の平均一次粒子径は、要求される排ガス浄化触媒及び排ガス浄化装置の特性に合わせて0.005μm以上かつ1μm以下の範囲で選定する。また、後述の塗料の項で示すような比表面積を有することが好ましい。この炭化ケイ素粒子は、既述の方法、すなわちナノメートルサイズの粒子であれば、熱プラズマ法やシリカ前駆体焼成法等、サブミクロンからミクロン(マイクロメートル)サイズの炭化ケイ素粒子であれば、アチソン法、シリカ還元法、シリコン炭化法等を用いて得ることができる。
【0053】
この炭化ケイ素粒子の表面に、以下の方法を用いて貴金属粒子を担持し、貴金属担持炭化ケイ素粒子を形成する。
初めに、貴金属源を溶媒中に溶解した溶液、あるいは貴金属粒子を分散媒中に分散させた分散液を作製する。溶媒や分散媒は水が好適であるが、貴金属源が水で分解・沈殿するような場合には、有機溶媒を用いてもよい。この有機溶媒としては、極性溶媒が好ましく、アルコール類、ケトン類等が好適に用いられる。
この工程で用いられる貴金属源としては、白金、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムの群から選択される1種又は2種以上の貴金属元素を含む塩類や化合物、例えば塩化物、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩、錯体(錯塩)、水酸化物等が挙げられる。
また、貴金属粒子としては、上記の貴金属元素を主成分とする微粒子が挙げられる。
【0054】
次いで、この溶液又は分散液中に炭化ケイ素粒子を浸漬や分散をさせた後、60℃ないし250℃程度の温度で乾燥し、溶媒や分散媒を除去する。
別の方法として、炭化ケイ素粒子を浸漬や分散させた溶液又は分散液の特性、例えばpH等を変化させて、貴金属源や貴金属微粒子を炭化ケイ素粒子の表面に選択的に析出又は凝集させた後、溶媒や分散媒を除去するようにしてもよい。
また別の方法として、炭化ケイ素粒子を浸漬や分散させた溶液に還元剤等を添加し、炭化ケイ素粒子の表面に選択的に貴金属粒子を析出させた後、溶媒や分散媒を除去するようにしてもよい。
これらの方法を単独又は組み合わせて行うことにより、炭化ケイ素粒子の表面に貴金属源や貴金属微粒子を付着させることができる。
【0055】
次いで、貴金属源や貴金属微粒子が付着した炭化ケイ素粒子を、水素や一酸化炭素等を含む還元雰囲気中、あるいは窒素、アルゴン、ネオン、キセノン等の不活性雰囲気中にて熱処理する。
これにより、貴金属源は、還元・分解されて貴金属となり、生成した貴金属微粒子が炭化ケイ素粒子の表面に固着する。一方、貴金属微粒子は、還元雰囲気中や不活性雰囲気中にて熱処理しても、組成が変化することはなく、当初の微粒子の状態を維持した状態で、炭化ケイ素粒子の表面に固着する。
【0056】
熱処理時の温度は、貴金属源や貴金属粒子の種類や雰囲気条件等により適宜選択すればよいが、500℃以上かつ1500℃以下が好ましく、800℃以上かつ1200℃以下がより好ましい。また、熱処理時の時間は、10分以上かつ24時間以下が好ましく、1時間以上4時間以下がより好ましい。また、熱処理は1段階でもよく、温度や雰囲気を変えた複数段階で行ってもよい。
なお、必要以上の温度や時間は、炭化ケイ素粒子の焼結や生成した貴金属粒子のシンタリングを誘発する虞があるので好ましくない。
以上の工程により、貴金属粒子担持炭化ケイ素粒子(貴金属微粒子が表面に担持された炭化ケイ素粒子)を得ることができる。
【0057】
「酸化物層形成工程」
貴金属粒子担持炭化ケイ素粒子を酸化処理して、貴金属粒子が担持された炭化ケイ素粒子の表面に酸化物層を形成し、触媒粒子を形成する工程である。
酸化処理としては、上記の貴金属粒子が担持された炭化ケイ素粒子を、大気、酸素等の酸化性雰囲気下、600℃以上かつ1000℃以下、好ましくは650℃以上かつ900℃以下の温度にて、0.5時間以上かつ36時間以下、好ましくは4時間以上かつ12時間以下、酸化処理し、炭化ケイ素粒子の表面に酸化物層を生成させる。
これにより、炭化ケイ素粒子の表面に貴金属粒子が担持され、かつこの貴金属粒子が酸化物層により覆われた状態となっている触媒粒子を形成することができる。
ここで、酸化物層を上記の条件で形成するとともに、貴金属粒子の平均一次粒径を1nm以上かつ30nm以下としておけば、貴金属粒子が酸化物層から突き出すことなく完全に覆われた、高い触媒活性を有する触媒粒子を形成することができる。
【0058】
なお、貴金属粒子が酸化物層に覆われた構造にするためには、本工程を、前記「貴金属粒子担持工程」における貴金属粒子の固着処理と組み合わせて行うことが好ましい。すなわち、貴金属粒子が表面に付着した炭化ケイ素粒子を、初めに、還元雰囲気又は不活性雰囲気中、500℃以上かつ1500℃以下、10分以上かつ24時間以下で熱処理した後、引き続いて(冷却せずに)、酸化囲気中、600℃以上かつ1000℃以下、0.5時間以上かつ36時間以下で熱処理を行うことが好ましい。
この、「還元雰囲気又は不活性雰囲気中で熱処理後、引き続いて酸化雰囲気中で熱処理する」という処理を行うことにより、貴金属粒子が酸化物層に覆われた本実施形態の触媒粒子を好適に形成することができる。
【0059】
一方、「貴金属粒子担持工程」と「酸化物層形成工程」とを分け、間に他の工程を入れた場合、すなわち「還元雰囲気又は不活性雰囲気中で熱処理後、引き続いて酸化雰囲気中で熱処理する」という処理手順を踏まない場合には、十分な表面酸化物層が形成されなかったり、酸化物層が形成されてた場合でも、貴金属粒子が酸化物層で十分に覆われずに露出する虞がある。
【0060】
「塗料作製工程」
触媒粒子又は触媒粒子前駆体と造孔材とを分散媒中に分散させ、塗料を作製する工程である。
すなわち、既述の触媒粒子又は触媒粒子前駆体と、造孔材とを、分散媒中に分散させ、さらに必要に応じて、分散剤、粘度調整剤、pH調整剤、結着剤等を加えて触媒粒子又は触媒粒子前駆体と造孔材とを含む塗料を作製する工程である。
【0061】
なお、ここで「触媒粒子前駆体」とは、塗料作製後の工程で触媒粒子を形成可能な粒子及び他の成分を指す。触媒粒子前駆体としては、例えば、炭化ケイ素粒子と貴金属粒子とが個別に存在するものや、炭化ケイ素粒子と貴金属源(貴金属元素を含む塩類や化合物)とを組み合わせたものが挙げられる。
以下、触媒粒子と触媒粒子前駆体を合わせて「触媒粒子等」と記す場合がある。
【0062】
造孔材は、後述の「担持工程」以前に除去されるものであれば特に限定は無いが、例えば樹脂製のマイクロビーズを好適に用いることができる。また、この造孔材の塗料中の平均分散粒子径は1μm以上かつ20μm以下が好ましい。
【0063】
分散工程は、湿式法によることが好ましい。また、この湿式法で用いられる分散機としては、開放型、密閉型のいずれも使用可能であり、例えば、ボールミル、攪拌ミル、ジェットミル、振動ミル、アトライター、高速ミル、ハンマーミル、等が好適に用いられる。
ボールミルとしては、転動ミル、振動ミル、遊星ミル等が挙げられ、また、攪拌ミルとしては、塔式ミル、攪拌槽型ミル、流通管式ミル、管状ミル等が挙げられる。
なお、本塗料の詳細については後述する。
【0064】
「多孔質基材への粒子保持工程」
触媒粒子等と造孔材とを含む塗料を用いて多孔質基材からなる隔壁を処理した後、乾燥させて、触媒粒子等と造孔材とを隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面に保持させる工程である。
本工程では、多孔質基材からなる隔壁に対して予め熱処理等を行い、不純物や付着物を取り除く処理をしておくことが好ましい。
【0065】
処理方法としては、ウォッシュコート法、ディップコート法等、塗料を被処理物の表面及び気孔内の表面に行き渡らせることができるウェットコート法の中から、適宜選択することができる。
ここで、1回の処理で規定量の触媒粒子等が保持されれば、処理と乾燥は1回でよく、一方1回の処理では保持量が不足する場合には、処理と乾燥を繰り返してもよい。また触媒粒子等が異なる複数の塗料を用意して順次処理−乾燥させることで、複数種の触媒粒子等を保持させてもよい。
【0066】
処理時においては、塗料、特に分散媒の表面張力が低い場合には、多孔質基材からなる隔壁に対して単純にウェットコート法による処理を行うだけで、多孔質基材内部の気孔まで塗料が行き渡ることから、触媒粒子等と造孔材とを、隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面まで全体に保持させることができる。
一方、塗料の表面張力が高い等で塗料が十分に行き渡らない場合には、例えば超音波の印加を行うことにより塗料を隔壁内の気孔内部まで行き渡らせることができる。また、多孔質基材がウォールフロー型の場合には、流入側ガス流路を塗料に浸漬させ、排出側ガス流路から吸引することにより、塗料を隔壁内の気孔内部や排出側ガス流路まで行き渡らせてもよい。
【0067】
なお、多孔質基材内部の気孔まで塗料を行き渡らせるためには、該当部分の気孔に存在する空気が抜ける必要がある。このため、特に排出側ガス流路からの吸引等を行わない場合には、多孔質基材を塗料に浸漬させる際の浸漬速度を抑えるとともに、浸漬後に一定時間以上保持して、塗料を多孔質基材内部の気孔まで十分に行き渡らせることが好ましい。好ましい浸漬速度は、多孔質基材の材質や気孔径、塗料の溶媒種や粘度等により変化するため一概にはいえないが、5mm/秒以下が好ましく、2mm/秒以下であればより好ましい。
【0068】
なお、乾燥温度や時間は、分散媒が除去され、かつ造孔材が変形や消失しない温度や時間であることが好ましく、分散媒の種類や造孔材の材質により変わるが、通常、80℃以上かつ250℃以下、1時間以上かつ24時間以下である。
【0069】
ここで、本実施形態の排ガス浄化装置がフロースルー型の場合には、多孔質基材からなる隔壁の厚さが500μm程度かそれ以下であれば、処理時に特別な操作を行なったり、塗料や隔壁に特定のものを用いたりすることなく、通常のウェットコート法による処理操作で触媒粒子等を保持できる。一方、隔壁が500μmよりも厚い場合には、特定の方法、例えば多孔質基材を予め塗料に用いた物とは異なる分散媒に浸漬させた後半乾燥の状態とすることで隔壁の深部に分散媒を残存させておき、この状態で塗料に浸漬する方法や、塗料の粘度や表面張力を高く設定することで、隔壁の深部に塗料が入り込まないようにする方法を用いることが好ましい。また、特定の形状、例えば隔壁における気孔率を隔壁表面と深部とで変える等を行ってもよい。前述の通り、フロースルー型では排ガスが隔壁内に入り込む深さは250μm程度であるため、それより深部に触媒粒子等を保持させても、排ガス処理効果が得られないためである。
【0070】
一方、本実施形態の排ガス浄化装置がウォールフロー型の場合には、多孔質基材からなる隔壁内部の気孔表面全体にわたって触媒粒子等が保持されてよいので、この点からは隔壁の厚さに制限は無い。しかしながら、隔壁の厚さが厚いと、浸漬時に隔壁の内部まで塗料が完全に行き渡らなくなる虞があることから、前述のように圧損が高くなることと併せて、隔壁の厚さは200μm〜300μm程度であることが好ましい。
【0071】
「造孔材除去工程」
多孔質基材からなる隔壁の表面及び隔壁内の気孔の表面に保持された触媒粒子等と造孔材の内、造孔材を除去して、触媒粒子等のみを隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面に残す工程である。
除去方法は造孔材の材質に合わせて選択すればよいが、例えば樹脂製のマイクロビーズを用いた場合には、加熱処理により樹脂成分を分解・揮発させたり燃焼させて除去する方法が好適に用いられる。この場合の加熱条件はマイクロビーズを形成する樹脂により選択すればよいが、通常、温度は300℃以上かつ750℃以下、時間は1時間以上かつ12時間以下である。雰囲気は、触媒粒子等を構成する炭化ケイ素粒子の酸化が起こらない範囲であれば、水素や一酸化炭素等を含む還元雰囲気、窒素、アルゴン、ネオン、キセノン等の不活性雰囲気、空気等の酸化雰囲気のいずれを選択してもよい。
また、造孔材のみが溶解し、触媒粒子等が再分散も溶出もしないような溶媒に浸漬することにより、造孔材のみを溶解除去する方法も用いることができる。
【0072】
なお、造孔材除去工程を加熱処理で行う場合には、次の担持工程と連続又は同時に行うことができる。ここで「連続」とは、初めに造孔材除去工程の条件で加熱処理後、続いて担持工程の条件で加熱処理を行うことを意味し、「同時」とは、当初から担持工程の条件で加熱処理することで、加熱処理の初期段階で造孔材除去工程を兼ねさせることを意味する.これらの場合、触媒粒子等を構成する炭化ケイ素粒子の酸化を防ぐために、雰囲気は還元雰囲気又は不活性雰囲気を選択することが好ましい。
【0073】
「担持工程」
多孔質基材からなる隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面に保持された触媒粒子等を、同表面に固定して担持させる工程である。固定方法としては、水素や一酸化炭素等を含む還元雰囲気中、あるいは窒素、アルゴン、ネオン、キセノン等の不活性雰囲気中にて加熱処理し、触媒粒子等を構成する炭化ケイ素粒子と多孔質基材とを焼結させる方法が好適である。
加熱処理温度と時間は多孔質基材の材質や触媒粒子等における特性や酸化物層の形成状態、雰囲気条件等に基づいて適宜選択すればよいが、通常、温度は500℃以上かつ1500℃以下、好ましくは600℃以上かつ1100℃以下であり、時間は通常10分以上かつ24時間以下、好ましくは0.5時間以上かつ12時間以下である。
なお、必要以上の温度や時間は、触媒粒子等に担持された貴金属粒子のシンタリングを誘発する虞があるので好ましくない。
【0074】
以上の工程を経ることにより、本実施形態の内燃機関の排ガス浄化装置を得ることができる。
[排ガス浄化装置作製用塗料]
次に、本実施形態の内燃機関の排ガス浄化装置を作製するための塗料を説明する。
本実施形態の塗料は、少なくとも、触媒粒子又は触媒粒子前駆体、造孔材並びに分散媒とを含有してなり、塗料が触媒粒子を含む場合、該触媒粒子の平均分散粒子径は0.1μm以上かつ4μm以下であり、塗料が触媒粒子前駆体を含む場合、該触媒粒子前駆体に含まれる炭化ケイ素粒子の平均分散粒子径は0.1μm以上かつ4μm以下である。
本実施形態の塗料は、多孔質基材からなる隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面に、触媒粒子を直接担持させるために用いられる。
【0075】
ここで、「触媒粒子」とは、炭化ケイ素粒子の表面に貴金属粒子が担持され、該貴金属粒子が、炭化ケイ素粒子表面に形成された酸化物層により覆われた状態である粒子であり、本実施形態の内燃機関の排ガス浄化装置で用いられる触媒粒子と同一である。
また、「触媒粒子前駆体」とは、塗料作製後の工程で触媒粒子を形成可能な粒子及び他の成分を指す。触媒粒子前駆体としては、例えば、炭化ケイ素粒子と貴金属粒子とが個別に存在するものや、炭化ケイ素粒子と貴金属源(貴金属元素を含む塩類や化合物)とを組み合わせたものが挙げられる。
本実施形態の排ガス浄化装置作成用塗料における触媒粒子前駆体は、本実施形態の排ガス浄化装置の製造方法における触媒粒子前駆体と同じものを用いることができる。
なお、本実施形態の塗料の説明においても、触媒粒子と触媒粒子前駆体とを合わせて「触媒粒子等」と記す場合がある。
【0076】
この触媒粒子や触媒粒子前駆体に用いられる炭化ケイ素粒子としては、平均一次粒子径が0.005μm以上かつ1μm以下であることが好ましく、0.02μm以上かつ0.85μm以下がより好ましく、0.035μm以上かつ0.6μm以下であればさらに好ましい。
【0077】
また、この炭化ケイ素粒子に担持される貴金属粒子としては、白金、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムの群から選択される1種又は2種以上を含有していることが好ましく、浄化対象とする物質(炭化水素系有機物:HC、一酸化炭素:CO、窒素酸化物:NO
x、粒子状物質:PM)を考慮した上で選択することが好ましい。例えば、PM燃焼等の酸化触媒作用を有する貴金属としては、白金、パラジウム、ロジウム等から選択される1種ないし2種以上を用いることができる。また、NO
x還元触媒としてはパラジウム、イリジウム等やこれら貴金属粒子と各種の化合物粒子を組み合わせて用いることができる。この貴金属粒子の一次粒子径は1nm以上かつ30nm以下が好ましく、1nm以上かつ20nm以下がより好ましく、1nm以上かつ10nm以下であればさらに好ましい。そして、この貴金属粒子は、炭化ケイ素粒子表面に形成された酸化物層により覆われている。
【0078】
次に、触媒粒子では、この炭化ケイ素粒子の表面には酸化物層が形成されている。酸化物層の厚さは20nm以下が好ましい。酸化物層の厚さは、前述の貴金属粒子を完全に覆うという観点からは厚い方が良いが、一方、酸化物層が厚すぎると貴金属粒子による触媒効果を減じてしまうことから、20nm以下の厚さが選択される。
【0079】
また、この酸化物層は、非晶質のSiO
xC
y(ただし、0<x≦3、0≦y≦3)を含有してなることが好ましく、さらには、SiO
2、SiO、SiOC
3、SiO
2C
2及びSiO
3Cの群から選択される1種又は2種以上の結晶質を含有していてもよい。
なお、この酸化物層の組成や構造は単一である必要はなく、酸化物層の各部分におけるx及びyの値は上記の範囲内で任意の値を取ることができる。
【0080】
ここで、本実施形態の塗料における触媒粒子等の含有率(触媒粒子等の質量/塗料の質量)は0.1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましい。触媒粒子等の含有率が0.1質量%未満では、多孔質基材からなる隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面に担持できる触媒粒子の量が少なすぎるために、十分な排ガス処理能力を持たせるためには複数回の浸漬・乾燥等の処理が必要となり、コストの増大を招く虞がある。一方、触媒粒子等の含有率が10質量%を超えた場合には、造孔材の含有量にもよるが一般的に塗料の粘度が高くなりすぎるために、塗料自体が多孔質基材からなる隔壁の内部に入り込みにくくなり、その結果、多孔質基材の気孔内表面に触媒粒子が十分に担持されない虞があり好ましくないためである。
触媒粒子等の含有率(触媒粒子等の質量/塗料の質量)は1質量%以上かつ3質量%以下であればより好ましい。
【0081】
次に造孔材だが、この造孔材は、触媒粒子等と共に多孔質基材からなる隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面に付着した後、揮発、分解、燃焼等により除去することにより、触媒粒子が多孔質基材からなる隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面のそれぞれ一部のみに担持されることを目的として使用される。従って、造孔材としては、塗料中で沈降することなく分散状態を維持できること、本塗料を用いて多孔質基材への粒子保持を行う際においては触媒粒子等と同様の挙動を示し、多孔質基材からなる隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面に保持されること、該造孔材を除去する際には触媒粒子等を残して選択的に除去されること、といった特性を有することが必要である。
【0082】
造孔材の材質としては、上記の特性を発現できるものであれば特に限定はされないが、グラファイト等の炭素材;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類:でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの食物材料;氷;及びドライアイス等を挙げることができる。これらの中でも、除去するための条件である分解温度等の制御が容易な樹脂材料が好ましい。また、塗料作製時の混練等、ある程度の力がかかっても変形しないほうが良いことから、特に硬質樹脂を好適に用いることができる。
【0083】
また、この造孔材は触媒粒子等とともに多孔質基材の気孔内に入り込む必要があることから、塗料中の平均分散粒子径は多孔質基材の平均気孔径の1/2以下であることが好ましく、1/4以下であればさらに好ましい。一方、造孔材の平均分散粒子径が触媒粒子等の平均分散粒子径よりも大幅に小さくなると、触媒粒子等と共に多孔質基材に保持させた際に造孔材が押し出され、造孔材を用いる効果が低下する虞があることから、造孔材の平均分散粒子径は、触媒粒子等の平均分散粒子径の1/4よりも大きいことが好ましく、1/2よりも大きければさらに好ましい。
【0084】
ここで、通常の多孔質基材では、平均気孔径が10μm以上かつ50μm以下であること、また、後述のように触媒粒子等の平均分散粒子径が0.1μm以上かつ4μmであることを考慮すると、造孔材の平均分散粒子径は1μm以上かつ20μm以下であることが好ましく、3μm以上かつ10μm以下であればさらに好ましい。
以上のように、除去するための条件制御が容易であること、また粒子径を容易に制御できることを考慮すると、造孔材としては、樹脂製のマイクロビーズが好適に用いられる。
【0085】
また、本実施形態の塗料における触媒粒子等と造孔材との質量比(触媒粒子等の質量:造孔材の質量)は、多孔質基材からなる隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面に対する触媒粒子の担持量、塗料中の触媒粒子等及び造孔材の含有率、塗料中の触媒粒子等及び造孔材の平均分散粒子径、等の条件により変わるため一概には言えないが、1:10から10:1の範囲が好ましい。
【0086】
ここで、触媒粒子等の量が造孔材量の10倍を超えた場合には、多孔質基材からなる隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面において触媒粒子同士が集合体を形成してしまい、結果として触媒粒子の一部が多孔質基材の表面及び気孔内表面に直接担持されなくなるだけでなく、集合体内部の触媒粒子が排ガスと十分に接しないために、触媒能を発現できなくなる虞がある。一方、造孔材量が触媒粒子等の量の10倍を超えた場合には、多孔質基材からなる隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面に担持されたおける触媒粒子量が少なすぎるために、十分な排ガス処理能力が発現できなくなる虞がある。
触媒粒子等と造孔材との比率(触媒粒子等の質量:塗料の質量)は、5:1から1:5の範囲であればより好ましく、2:1から1:2の範囲であればさらに好ましい。
【0087】
また分散媒としては、水又は有機溶媒が好適に用いられる。その他、必要に応じて、高分子モノマーやオリゴマーの単体もしくはこれらの混合物も用いることができる。
【0088】
上記の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルコール類、酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステル等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド等の酸アミド類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1種のみ、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0089】
また、上記の高分子モノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のアクリル系又はメタクリル系のモノマー、エポキシ系モノマー等が好適に用いられる。また、上記のオリゴマーとしては、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、アクリレート系オリゴマー等が好適に用いられる。
これらの分散媒のうち、塗料用として好ましいものは、水、アルコール類、ケトン類であり、これらの中でも、水、アルコール類がより好ましく、水が最も好ましい。
【0090】
この塗料は、触媒粒子等を多孔質基材に保持させる際に、多孔質基材との間にバインダー機能を持たせる等のため、親水性あるいは疎水性の高分子等を適宜含有してもよい。この高分子等は、上記の分散媒に溶解し、かつ塗料中の触媒粒子等の平均分散粒子径、塗料の粘度及びpHが所望の値を逸脱しない範囲であれば適宜選択することができる。
【0091】
ここで、水を分散媒とした場合、親水性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸ポリビニルビロリドン、ポリアリルアミン等の合成高分子;セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプン、キトサン、ペクチン、アガロース、カラギーナン、キチン、マンナン等の多糖類及び多糖類由来の物質等の天然高分子;ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチン等のタンパク質及びタンパク質由来の物質等を用いることができる。
また、これら合成高分子、多糖類、タンパク質等を由来とするゲル、ゾル等の物質を用いることもできる。
【0092】
なお、この塗料における触媒粒子等の質量に対する親水性あるいは疎水性の高分子の質量の比(高分子の質量/微粒子の質量)は、塗料中の触媒粒子等の平均分散粒子径、塗料の粘度及びpHが所望の値になる範囲で適宜選択することができるが、1以下であることが好ましく、0.8以下がより好ましく、0.5以下さあればさらに好ましい。
用いる親水性高分子は、「造孔材除去工程」や「担持工程」において最終的に消失し、多孔質膜には残存しない成分、すなわち造孔材と同様の効果も有する成分である。そのため、上記の比が1を超えると、高分子の含有率が高すぎ、本実施形態の塗料を用いて作製された排ガス浄化装置において、触媒粒子と多孔質基材との結合力や触媒粒子同士の結合力が低下し、触媒粒子が多孔質基材から脱落しやすくなる虞がある。また、コストの上昇も招くことになり好ましくない。なお、親水性あるいは疎水性の高分子は必ずしも用いる必要はないため、範囲の下限値は0となる。
【0093】
また、この塗料の分散安定性を確保したり、あるいは塗布性を向上させたりするために、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等を適宜添加してもよい。これら添加剤の種類及び添加量は、塗料中の触媒粒子等の平均分散粒子径、塗料の粘度及び塗料のpHが所望の範囲になるように適宜選択して使用することができる。これら界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等の添加量に特に制限はなく、塗料の粘度及び塗料中の微粒子の平均二次粒子径が本発明の範囲内となるように、添加する目的に応じて加えればよい。ただし、添加量が過多になると、上記の親水性あるいは疎水性の高分子と同様の好ましくない効果を示すようになるから、添加量を必要以上に多くすることは好ましくない。
【0094】
次に、本実施形態の塗料の特性について説明する。以下の説明では、「触媒粒子」及び「触媒粒子前駆体に含まれる炭化ケイ素粒子」という2種の粒子を併記する場合、「触媒粒子又は触媒粒子前駆体に含まれる炭化ケイ素粒子」を、単に「触媒粒子又は炭化ケイ素粒子」と略記することがある。
【0095】
本実施形態の塗料では、触媒粒子又は炭化ケイ素粒子の平均分散粒子径は0.1μm以上かつ4μm以下である。その理由として、この塗料を用いて平均気孔径が10μm以上かつ50μm以下の多孔質基材に触媒粒子等を担持する場合において、塗料中の触媒粒子又は炭化ケイ素粒子の平均分散粒子径が0.1μmを下回ると、多孔質基材を塗料に浸漬した後に過剰の塗料を除去する際に触媒粒子又は炭化ケイ素粒子が溶媒と共に流出してしまい、その結果、多孔質基材の表面及び気孔内表面に触媒粒子が十分に担持されない虞があり好ましくないためである。一方、触媒粒子又は炭化ケイ素粒子の平均分散粒子径が4μmを超えると、触媒粒子又は炭化ケイ素粒子が多孔質基材の内部に入り込みにくくなることから、多孔質基材の表面に触媒粒子等からなる多孔質膜が形成されてしまい、多孔質基材の表面及び気孔内表面に触媒粒子を直接担持することが難しくなり好ましくないからである。
なお、塗料中の触媒粒子又は炭化ケイ素粒子の平均分散粒子径は、0.1μm以上かつ2μm以下が好ましく、0.1μm以上かつ1μm以下であればより好ましい。
【0096】
また、多孔質基材からなる隔壁の表面及び隔壁内部の気孔の表面に触媒粒子を直接担持するためには、塗料に含まれる触媒粒子又は炭化ケイ素粒子の比表面積、塗料の粘度及び塗料のpHが調整されていることが好ましい。
ここで、触媒粒子又は炭化ケイ素粒子の比表面積は1m
2/g以上かつ125m
2/g以下が好ましい。その理由として、塗料に含まれる触媒粒子又は炭化ケイ素粒子の比表面積が125m
2/gを超えると、触媒粒子又は炭化ケイ素粒子の表面活性が高いために粒子が凝集してしまうために平均分散粒子径が4μm以上となり易く、その結果、触媒粒子等が多孔質基材の内部に入り込みにくくなる。さらに、塗料の粘度も上昇してしまうために、塗料が多孔質基材の気孔内に十分に浸漬できなくなる。これらの結果、多孔質基材の表面及び気孔内表面に触媒粒子を直接担持することが難しくなり好ましくない。一方、触媒粒子又は炭化ケイ素粒子の比表面積が1m
2/g未満であると、触媒粒子又は炭化ケイ素粒子の一次粒子径が過大となるために塗料中の平均分散粒子径が4μm以上となり易く、さらに一次粒子径が過大なために粒子沈降を招くことから塗料の安定性が低下して良好な塗料を得るのが難しくなり好ましくない。
なお、触媒粒子又は炭化ケイ素粒子の比表面積は3m
2/g以上かつ100m
2/g以下がより好ましく、20m
2/g以上かつ80m
2/g以下であればさらに好ましい。
【0097】
次に、塗料の粘度は、2mPa・s以上かつ100mPa・s以下が好ましい。その理由として、この塗料を用いて平均気孔径が10μm以上かつ50μm以下の多孔質基材に触媒粒子等を担持する場合において、塗料の粘度が2mPa・s未満であると、多孔質基材を塗料に浸漬した後過剰の塗料を除去する際に触媒粒子等が溶媒と共に流出してしまい、多孔質基材の表面及び気孔内表面に触媒粒子が十分に担持されない虞があり好ましくないためである。一方、粘度が100mPa・sを超えると、塗料自体が多孔質基材からなる隔壁の内部に入り込みにくくなり、その結果、多孔質基材の気孔内表面に触媒粒子が十分に担持されない虞があり好ましくないためである。
なお、塗料の粘度は2mPa・s以上かつ50mPa・s以下がより好ましく、2mPa・s以上かつ10mPa・s以下でればさらに好ましい。
【0098】
次に、塗料のpHは7以上であることが好ましい。その理由として、触媒粒子又は炭化ケイ素粒子は主成分が炭化ケイ素であるため、等電点の関係から、塗料のpHが7以上(中性〜アルカリ性)の範囲であれば触媒粒子又は炭化ケイ素粒子の凝集が抑えられ、平均分散粒子径が4μm以下の良好な分散状態が維持されるためである。これに対し、pHが7未満(酸性)では触媒粒子又は炭化ケイ素粒子が擬似的な凝集を起こし、結果として平均分散粒子径が4μmを超える状態となるために、触媒粒子又は炭化ケイ素粒子が多孔質基材の内部に入り込みにくくなるため好ましくない。
なお、pHが必要以上に高くなると、塗料中に過剰に存在する水酸化物イオン(OH
−)が有機成分に影響をあたえる虞が生じること等から、pHは7以上かつ12以下が好ましく、7以上かつ10以下であればさらに好ましい。
【0099】
ここで、pH制御剤としては、酸成分であれば酢酸、プロピオン酸等の有機酸が、アルカリ成分であればアンモニア(水溶液)や有機アミンを好適に用いることができ、特に酢酸及びアンモニアが好ましい。pH制御剤が有機酸、アンモニア及び有機アミンであれば、本塗料を用いて多孔質基材からなる隔壁を処理した後の熱処理工程で、これらpH制御剤を完全に除去できるので、その後の処理工程や触媒粒子の特性に影響を及ぼす虞が無い。
【0100】
一方、pH制御剤として無機酸を用いた場合には、その後の熱処理工程等で陰イオンに起因する腐食性ガス(例えば、塩酸を用いた場合には塩素ガス)が発生する虞があり、またアンモニア以外の無機アルカリを用いた場合には、その後の処理を行った後でも陽イオン成分(例えば、水酸化ナトリウムであればナトリウム)が残留する虞がある。そして、これらの腐食性ガスや残留成分は、触媒粒子の特性に影響を及ぼす虞がある。よって、pH制御剤として無機酸やアンモニア以外の無機アルカリを使用することは好ましくない。
【0101】
以上のような各成分、すなわち、触媒粒子又は触媒粒子前駆体、造孔材並びにpH制御剤を分散媒中に分散及び溶解させて、塗料とする。この分散工程は、湿式法によることが好ましい。また、この湿式法で用いられる分散機としては、開放型、密閉型のいずれも使用可能であり、例えば、ボールミル、攪拌ミル、ジェットミル、振動ミル、アトライター、高速ミル、ハンマーミル、等が好適に用いられる。ボールミルとしては、転動ミル、振動ミル、遊星ミル等が挙げられ、また、攪拌ミルとしては、塔式ミル、攪拌槽型ミル、流通管式ミル、管状ミル等が挙げられる。
また、必要に応じて、親水性あるいは疎水性の高分子、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等を加えてもよい。
【0102】
以上のような構成の塗料によれば、本発明の目的とする排ガス浄化フィルタに好適に用いられる、貴金属とSiC微粒子を成分とし、均質性に優れた多孔質膜を容易に形成することができる。隔壁を構成する粒子の表面に触媒が直接担持されるこの触媒塗料は、塗布するだけで隔壁を構成する粒子の表面に触媒が直接担持することができるので、対象物の形状等の制約を受けることなく、その隔壁を構成する粒子の表面に触媒を直接担持が容易にできる。
【0103】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0104】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0105】
[各測定・評価方法]
始めに、本実施例及び比較例の内燃機関の排ガス浄化装置の評価方法を示す。
(1)塗料中の触媒粒子の平均分散粒子径
塗料中の「触媒粒子」又は「触媒粒子前駆体に含まれる炭化ケイ素粒子」の平均分散粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所社製)を用い、レーザー回折/散乱法により測定した。
【0106】
(2)塗料の粘度
塗料の粘度は、B型粘度計BLII及びBHII(東機産業社製)を用いて測定した。
【0107】
(3)触媒粒子の酸化物層厚み及び貴金属粒子の平均一次粒子径
触媒粒子を備えた排ガス浄化装置より多孔質基材を切り出し、電界放出型透過電子顕微鏡(FE−TEM)JEM−2100F(日本電子社製)により観察することにより、貴金属粒子の担持状態を評価した。
また、触媒粒子の酸化膜厚み及び貴金属粒子の平均一次粒子径は、同様にして得られた観察画像中から無作為に選択した50個を測定し、平均値を算出した。
【0108】
(4)触媒粒子の有効割り合い
触媒粒子が排ガスと直接接する割り合いは、比表面積により評価した。
測定は自動比表面積測定装置BELSORP MINI(日本ベル社製)を用いて、触媒粒子単体、多孔質基材単体及び触媒粒子を担持した多孔質基材の比表面積を測定した。得られた結果より、基材に担持した触媒粒子の有効比表面積を算出した。
【0109】
(5)排ガス浄化装置の初期圧力損失
触媒粒子を担持した多孔質基材(34.5×34.5×L50mm)について、初期圧損評価装置(東京窯業社製)を用いて初期圧力損失を評価した。差圧測定時のガス流量は、14.7L/秒とした。
【0110】
(6)排ガス浄化装置のPM捕集後の圧力損失
初期圧力損失を測定した触媒粒子を担持した多孔質基材に、2リッタークラスのガソリン直噴エンジンからの排ガスを15分間通過させた後、初期圧力損失と同様の方法を用いて、PM捕集後の圧力損失測定を測定した。
【0111】
(7)排ガス浄化装置の浄化性能
2リッタークラスのガソリン直噴エンジンを用いたベンチ試験より、排ガス浄化装置を通過して排出されるCOの平均濃度及びCO
2の平均濃度を測定した。COの平均濃度を[CO]、CO
2の平均濃度を[CO
2]としたとき、下記式(1)より排ガス浄化性能を求め、性能を評価した。
排ガス浄化性能(%)={[CO
2]/([CO]+[CO
2])}×100 …(1)
【0112】
(8)排ガス浄化装置のPM流出量
2リッタークラスのガソリン直噴エンジンの排ガスを排ガス浄化装置に通過させ、排ガス浄化装置後方(排気側)から採取した排ガス中の粒子個数濃度及び粒子径分布を、粒子カウンター及び光学スモークメータを用いて、15分間連続的に測定した。PM粒子径分布に対して、最も高い粒子個数濃度(個/cm
3)をPM排出量とした。
【0113】
[実施例1]
平均一次粒子径が0.035μmの炭化ケイ素粒子を320g、ポリカルボン酸系分散剤23g及び水5500gをボールミルで24時間混合し、固形分が5.5質量%の炭化ケイ素粒子分散液を得た。作成した炭化ケイ素粒子分散液5843gに、ジアンミンジニトロ白金60gを添加し、ボールミルで24時間混合した。次いで、メチルセルロースA(2%水溶液の粘度が100mPa・s)を10質量%含む水溶液1500g、水5000g、PVA25g及び平均一次粒子径10μmのPMMAを320gを加えてボールミルでさらに2時間混合した。
さらに、得られた分散液をアンモニア水でpHを9.0に調整し、実施例1の塗料を得た。
【0114】
多孔質基材として、ウォールフロー型のイビデン製SiCフィルター(φ1インチ×L2インチ・300Cell/10mil,11μm、42%)を選択した。この多孔質基材を、塗料中に1mm/秒で浸漬させ、5分間保持した後、0.5mm/秒で引き上げ、多孔質基材の隔壁の表面及び気孔内表面に実施例1の塗料を保持させた。
次いで、大気中100℃で10時間熱処理して溶媒を除去するとともに、炭化ケイ素粒子、ジアンミンジニトロ白金及び塗料中のその他の各成分を多孔質基材の隔壁の表面及び気孔内表面に保持させた。
【0115】
次いで、アルゴン雰囲気中650℃で24時間熱処理し、バインダー等として添加したメチルセルロースA及びPVA、並びに造孔材であるPMMAを熱分解して除去した。
【0116】
次いで、アルゴン雰囲気中1000℃で1時間熱処理し、ジアンミンジニトロ白金を熱分解して白金微粒子を形成し、この白金微粒子を炭化ケイ素粒子表面に担持するとともに、炭化ケイ素粒子を多孔質基材に担持させた。
次いで、大気中700℃で30時間熱処理し、炭化ケイ素粒子表面に酸化膜物層を形成することで、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置を作製した。
【0117】
得られた、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置における触媒粒子は、炭化ケイ素粒子表面に平均一次粒子径が4.3nmの白金微粒子が担持され,厚さ5nmの酸化物層が形成されており、この酸化物層により白金微粒子が覆われていた。また、白金の担持量は0.5g/Lであった。
これらの排ガス浄化装置の評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0118】
[実施例2]
炭化ケイ素粒子として、平均一次粒子径が0.8μmの炭化ケイ素粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2の内燃機関の排ガス浄化装置を得た。
【0119】
得られた、実施例2の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0120】
[実施例3]
炭化ケイ素粒子として、平均一次粒子径が0.01μmの炭化ケイ素粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により、実施例3の内燃機関の排ガス浄化装置を得た。
【0121】
得られた、実施例3の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0122】
[実施例4]
塗料のpHを12.0に調整したこと以外は、実施例1と同様の方法により、実施例4の内燃機関の排ガス浄化装置を得た。
【0123】
得られた、実施例4の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0124】
[実施例5]
塗料のpHを7.0に調整したこと以外は、実施例1と同様の方法により、実施例5の内燃機関の排ガス浄化装置を得た。
【0125】
得られた、実施例5の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0126】
[実施例6]
アルゴン雰囲気中1000℃で1時間の熱処理に替えて、アルゴン雰囲気中800℃で1時間の熱処理としたこと以外は、実施例1と同様の方法により、実施例6の内燃機関の排ガス浄化装置を得た。
【0127】
得られた、実施例6の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0128】
[実施例7]
アルゴン雰囲気中1000℃で1時間の熱処理に替えて、アルゴン雰囲気中800℃で1時間の熱処理としたこと、及び大気中700℃で30時間の熱処理に替えて、大気中1000℃で30時間熱処理したこと以外は、実施例2と同様の方法により、実施例7の内燃機関の排ガス浄化装置を得た。
【0129】
得られた、実施例7の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0130】
[実施例8]
アルゴン雰囲気中1000℃で1時間の熱処理に替えて、アルゴン雰囲気中800℃で1時間の熱処理としたこと、及び大気中700℃で30時間の熱処理に替えて、大気中1000℃で30時間熱処理したこと以外は、実施例2と同様の方法により、実施例8の内燃機関の排ガス浄化装置を得た。
【0131】
得られた、実施例8の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0132】
[比較例1]
各実施例で多孔質基材として用いた、ウォールフロー型のイビデン製SiCフィルター(φ1インチ×L2インチ・300Cell/10mil,11μm、42%)を、そのまま(触媒粒子を担持させることなく)比較例1の内燃機関の排ガス浄化装置とした。
【0133】
得られた、比較例1の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0134】
[比較例2]
炭化ケイ素粒子として、平均一次粒子径が1.2μmの炭化ケイ素粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により、比較例2の内燃機関の排ガス浄化装置を得た。
【0135】
得られた、比較例2の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0136】
[比較例3]
炭化ケイ素粒子として、平均一次粒子径が0.003μmの炭化ケイ素粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により、比較例3の内燃機関の排ガス浄化装置を得た。
【0137】
得られた、比較例3の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0138】
[比較例4]
塗料のpHを6.0に調整したこと以外は、実施例1と同様の方法により、比較例4の内燃機関の排ガス浄化装置を得た。
【0139】
得られた、比較例4の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0140】
[比較例5]
塗料のpHを13.0に調整したこと以外は、実施例1と同様の方法により、比較例5の内燃機関の排ガス浄化装置を得た。
【0141】
得られた、比較例5の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0142】
[比較例6]
アルゴン雰囲気中1000℃で1時間の熱処理に替えて、アルゴン雰囲気中1600℃で1時間の熱処理としたこと以外は、実施例1と同様の方法により、比較例6の内燃機関の排ガス浄化装置を得た。
【0143】
得られた、比較例6の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0144】
[比較例7]
炭化ケイ素粒子分散液作製時におけるボールミルでの24時間混合及び炭化ケイ素粒子分散液にジアンミンジニトロ白金を添加後のボールミルでの24時間混合に替えて、それぞれ、サンドミルを用いた3時間混合としたこと、アルゴン雰囲気中1000℃で1時間の熱処理に替えて、アルゴン雰囲気中700℃で1時間の熱処理としたこと並びに大気中700℃で30時間の熱処理に替えて、大気中800℃で30時間熱処理したこと以外は、実施例2と同様の方法により、比較例7の内燃機関の排ガス浄化装置を得た。
【0145】
得られた、比較例7の内燃機関の排ガス浄化装置を、実施例1の内燃機関の排ガス浄化装置と同様に評価した。評価結果をまとめて、表1,2に示す。
【0146】
【表1】
【0147】
【表2】
【0148】
各実施例の内燃機関の排ガス浄化装置では、炭化ケイ素粒子の表面にナノメートルサイズの貴金属微粒子が担持され、炭化ケイ素粒子の表面には酸化物層が形成されるとともに、この酸化物層が貴金属微粒子を覆っていた。
さらに、各実施例の内燃機関の排ガス浄化装置では、COの排出が非常に少なく、またPMの排出量も非常に少なかった。この結果から、本実施例の内燃機関の排ガス浄化装置は、PM浄化性能が高く、ほとんどのPMをCO
2として排出していると判断できる。これは排ガス浄化装置に担持した触媒粒子と排ガスの接触面積が非常に高いことを意味している。
また、各実施例の内燃機関の排ガス浄化装置では、PM捕集後の圧力損失及びPM流出量が少なかった。これは、PM浄化性能が高いこと、またガソリンエンジンの排気温度が高いことから、エンジンから排出されたPMは、触媒粒子と接触するとほぼ同時に酸化してCO
2となり消失するためと考えられる。
【0149】
一方、比較例2においては、炭化ケイ素粒子の平均一次粒子径が大きいため、多孔質基材内に触媒粒子を均一に配置することができず、このため触媒粒子の有効割合が低かった。
比較例3においては、炭化ケイ素粒子の平均一次粒子径が小さいために、炭化ケイ素粒子同士が塗料内で凝集を起こしていたこと、また塗料の粘度が大きく触媒粒子担持量が過大になっていたことから、触媒粒子の有効割合が低かった。また、塗料の粘度が大きく触媒粒子担持量が過大なため、圧力損失が増大し、排ガスの流れが不均一となり、十分な排ガス浄化性能を発現しなかった。
比較例4においては、塗料のpHが低いために、炭化ケイ素粒子が塗料内で凝集を起こしていたこと、また塗料の粘度が大きく触媒粒子担持量が過大になっていたことから、触媒粒子の有効割合が低かった。また、塗料の粘度が大きく触媒粒子担持量が過大なため、圧力損失が増大し、排ガスの流れが不均一となり、十分な排ガス浄化性能を発現しなかった。
【0150】
比較例5においては、塗料のpHが高いために安定した塗料が得られず、排ガス浄化装置としての評価ができなかった。
比較例6においては、アルゴン雰囲気中での加熱温度が高いために、白金粒子の粒子径が過大となっていた。このため、白金粒子が酸化物層に十分覆われていなかった。このため、十分な排ガス浄化性能が得られなかった。
比較例7においては、ボールミルに比べて解砕力の強いサンドミルを用いたことから,炭化ケイ素粒子の平均分散粒子径が小さく、このため触媒粒子の平均粒子径が小さくなりすぎ、触媒粒子の有効割合が低かった。また、触媒粒子上の貴金属微粒子の平均一次粒子径も小さいために、十分な排ガス浄化性能が得られなかった。
【0151】
以上の結果から、本発明が有用であることが確かめられた。