【解決手段】ポリイミド又はポリイミド前駆体を含む液状組成物を硬質支持体に塗布して硬化させて、硬質支持体上にポリイミド樹脂層を形成する工程と、ポリイミド樹脂層上に機能層を形成する工程と、ポリイミド樹脂層の表面周縁部からなる枠体が区画されるように、ポリイミド樹脂層に切り込み線を形成する工程と、切り込み線で囲まれた内側領域のポリイミド樹脂層を機能層ごと硬質支持体から剥離し、ポリイミド樹脂層上に機能層を備えたフレキシブルデバイスを得る工程と、硬質支持体上のポリイミド樹脂層の枠体を機械的手段で剥離する工程とを含んで、ポリイミド樹脂層の枠体を除去した硬質支持体をフレキシブルデバイスの製造に再使用可能にする、フレキシブルデバイスの製造方法である。
切り込み線で囲まれた内側領域のポリイミド樹脂層を、機能層ごと硬質支持体から剥離して、ポリイミド樹脂層上に機能層を備えたフレキシブルデバイスを得る工程において、切り込み線で囲まれた内側領域のポリイミド樹脂層を、機能層ごと機械的手段で硬質支持体から剥離することを特徴とする、請求項1に記載のフレキシブルデバイスの製造方法。
上記ポリイミド樹脂層の枠体を除去した硬質支持体をフレキシブルデバイスの製造に再使用する際に、m回目のフレキシブルデバイスの製造時におけるフレキシブルデバイスと硬質支持体との間の剥離強度と、m+1回目のフレキシブルデバイスの製造時におけるフレキシブルデバイスと硬質支持体との間の剥離強度との差が80%以内である、請求項1〜3のいずれかに記載のフレキシブルデバイスの製造方法。
硬質支持体上に残ったポリイミド樹脂層の枠体を機械的手段で剥離する工程において、前記ポリイミド樹脂層の枠体を機械的手段で剥離した後に、更に、硬質支持体を、溶剤洗浄、アルカリ液洗浄、UV洗浄、オゾン洗浄、超音波洗浄、洗浄剤による洗浄、フッ酸洗浄、アッシャー処理、加熱処理又はパフィング処理する、請求項1〜5のいずれかに記載のフレキシブルデバイスの製造方法。
フレキシブルデバイスが、有機EL・TFT用基板、電子ペーパー用基板、カラーフィルター用基板、タッチパネル、又は光電変換装置である、請求項1〜7のいずれかに記載のフレキシブルデバイスの製造方法。
請求項1〜7のいずれかに記載のフレキシブルデバイスの製造方法によりフレキシブルデバイスを製造するためのフレキシブルデバイス製造装置であって、フレキシブルデバイス及びポリイミド樹脂層の枠体を硬質支持体から剥離する剥離装置と、剥離後の硬質支持体を洗浄及び乾燥する硬質支持体再生装置とを備えたことを特徴とするフレキシブルデバイス製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、予めガラス基板等のような硬質支持体上にフレキシブル基板を形成して、硬質支持体にフレキシブル基板が固定された状態で機能層を設けて、硬質支持体から分離してフレキシブルデバイスを製造する方法は、各種機能層を精度良く形成できたり、製造時の取り扱い性などの観点から有利であると考えられる。ところが、硬質支持体からフレキシブルデバイスを分離する際にうまく分離できずに、フレキシブル基板が破損してしまったり、機能層に影響を及ぼすなど、様々なトラブルが生じるおそれがある。また、仮に、硬質支持体からフレキシブルデバイスを分離することができたとしても、硬質支持体に剥離層や接着剤等が残ってしまい、これらの残留物を完全に除去することができなければ、比較的高価な硬質支持体を再度使用することはできない。実際に、従来では、残留物の除去のために余計な工程が必要となることから、やむを得ずに、一度使用した硬質支持体を破棄してしまうような場合もある。
【0010】
そこで、本発明者らは、これらの問題を解決する手段について鋭意検討した結果、板ガラス等の硬質支持体の再使用が可能なフレキシブルデバイスの製造方法を完成させた。したがって、本発明の目的は、硬質支持体からフレキシブルデバイスを安定して分離することができると共に、使用後の硬質支持体を他のフレキシブルデバイスの製造に繰り返し使用することができるフレキシブルデバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、
ポリイミド樹脂層上に所定の機能を有する機能層を備えたフレキシブルデバイスの製造方法であって、
ポリイミド又はポリイミド前駆体を含む液状組成物を硬質支持体に塗布し、最高温度が300℃以上であり、かつ該最高温度における保持時間が2分以上の熱処理により硬化させて、硬質支持体上にポリイミド樹脂層を形成する工程と、
ポリイミド樹脂層上に機能層を形成する工程と、
ポリイミド樹脂層の表面周縁部からなる枠体が区画されるように、ポリイミド樹脂層に切り込み線を形成する工程と、
切り込み線で囲まれた内側領域のポリイミド樹脂層を、機能層ごと硬質支持体から剥離して、ポリイミド樹脂層上に機能層を備えたフレキシブルデバイスを得る工程と、
硬質支持体上のポリイミド樹脂層の枠体を機械的手段で剥離する工程と、
を含んで、ポリイミド樹脂層の枠体を除去した硬質支持体をフレキシブルデバイスの製造に再使用可能にすることを特徴とする、フレキシブルデバイスの製造方法である。
【0012】
また、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法は、好ましくは、切り込み線で囲まれた内側領域のポリイミド樹脂層を、機能層ごと硬質支持体から剥離して、ポリイミド樹脂層上に機能層を備えたフレキシブルデバイスを得る工程において、切り込み線で囲まれた内側領域のポリイミド樹脂層を、機能層ごと機械的手段で硬質支持体から剥離するのがよい。
【0013】
また、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法は、好ましくは、フレキシブルデバイスと硬質支持体との間の剥離強度が0.1N/m以上、200N/m以下であるのがよい。
【0014】
また、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法は、好ましくは、上記ポリイミド樹脂層の枠体を除去した硬質支持体をフレキシブルデバイスの製造に再使用する際に、m回目のフレキシブルデバイスの製造時におけるフレキシブルデバイスと硬質支持体との間の剥離強度と、m+1回目のフレキシブルデバイスの製造時におけるフレキシブルデバイスと硬質支持体との間の剥離強度との差が80%以内であるのがよい。なお、mは1以上の整数である。
【0015】
また、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法は、好ましくは、ポリイミド前駆体が、下記式(1)で表わされる構造を有するのがよい。
【化1】
〔但し、R
1は、下記式(2)で表わされる群より選択される2価の有機基のいずれか1種以上を合計40モル%以上含み
【化2】
(R’は各々独立にアルキル基、ハロゲン化アルキル基、芳香族基、またはハロゲン基であり、前記芳香族基の水素原子はハロゲン原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基で置換されてもよい)、R
2は、下記式(3)で表わされる群より選択される4価の置換基のいずれか1種以上を合計40モル%以上含み、
【化3】
R
3は、各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、nは繰り返し数を表す正の整数である。〕
【0016】
また、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法は、好ましくは、硬質支持体上に残ったポリイミド樹脂層の枠体を機械的手段で剥離する工程において、前記ポリイミド樹脂層の枠体を機械的手段で剥離した後に、更に、硬質支持体を、溶剤洗浄、アルカリ液洗浄、UV洗浄、オゾン洗浄、超音波洗浄、洗浄剤による洗浄、フッ酸洗浄、アッシャー処理、加熱処理又はパフィング処理するのがよい。
【0017】
また、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法は、好ましくは、フレキシブルデバイスが、有機EL・TFT用基板、電子ペーパー用基板、カラーフィルター用基板、タッチパネル、又は光電変換装置であるのがよい。
【0018】
また、本発明は、上記フレキシブルデバイスの製造方法によりフレキシブルデバイスを製造するためのフレキシブルデバイス製造装置であって、フレキシブルデバイス及びポリイミド樹脂層の枠体を硬質支持体から剥離する剥離装置と、剥離後の硬質支持体を洗浄及び乾燥する硬質支持体再生装置とを備えたことを特徴とするフレキシブルデバイス製造装置である。
【0019】
また、本発明は、ポリイミド樹脂層上に所定の機能を有する機能層を備えたフレキシブルデバイスであって、
ポリイミド又はポリイミド前駆体を含む液状組成物を硬質支持体に塗布して硬化させて、硬質支持体上にポリイミド樹脂層を形成する工程と、
ポリイミド樹脂層上に機能層を形成する工程と、
ポリイミド樹脂層の表面周縁部からなる枠体が区画されるように、ポリイミド樹脂層に切り込み線を形成する工程と、
切り込み線で囲まれた内側領域のポリイミド樹脂層を、機能層ごと硬質支持体から剥離する工程と、
を全て行うことによって得られ、
かつ、硬質支持体上のポリイミド樹脂層の枠体を機械的手段で剥離することが可能であり、
かつ、ポリイミド樹脂層の枠体を除去した硬質支持体をフレキシブルデバイスの製造に再使用可能であることを特徴とする、フレキシブルデバイスである。
【0020】
また、本発明のフレキシブルデバイスは、好ましくは、前記ポリイミド樹脂層の全光線透過率が80%以上であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、前記フレキシブルデバイス用のポリイミド又はポリイミド前駆体を含む液状組成物である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、フレキシブルデバイスの製造工程において、硬質支持体の再使用を実現することができる。硬質支持体からフレキシブル基板を剥離する際に、予め剥離層を設ける等の工程を必要としないため、製造コストが抑えられるというメリットがある。具体的には、硬質支持体の材料コストを抑えることができると共に、剥離層を設ける等の工程を追加するために新たな設備を導入するコストが不要になる。また、本発明は、硬質支持体の表面処理を不要にすることもできるため、硬質支持体を再使用する際に、硬質支持体の面(表面処理面か否か)を区別する必要がない。そのため、再使用を容易に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法の実施の形態について、詳しく説明する。
【0024】
本発明のフレキシブルデバイスの製造方法は、ポリイミド樹脂層上に所定の機能を有する機能層を備えたフレキシブルデバイスの製造方法であって、以下の6つの工程を含む。
工程1:ポリイミド又はポリイミド前駆体を含む液状組成物を硬質支持体に塗布し、最高温度が300℃以上であり、かつ該最高温度における保持時間が2分以上の熱処理により硬化させて、硬質支持体上にポリイミド樹脂層を形成する工程、
工程2:ポリイミド樹脂層上に機能層を形成する工程、
工程3:ポリイミド樹脂層の表面周縁部からなる枠体が区画されるように、ポリイミド樹脂層に切り込み線を形成する工程、
工程4:切り込み線で囲まれた内側領域のポリイミド樹脂層を、機能層ごと硬質支持体から剥離して、ポリイミド樹脂層上に機能層を備えたフレキシブルデバイスを得る工程、
工程5:硬質支持体上のポリイミド樹脂層の枠体を機械的手段で剥離する工程、
工程6:ポリイミド樹脂層の枠体を除去した硬質支持体をフレキシブルデバイスの製造に再利用する工程、
である。
【0025】
先ず、工程1について説明する。
硬質支持体は、無機物であり、かつ、積層体としての性能を担保できれば、その種類に制限はないが、例えば、ガラスやセラミックや金属を挙げることができる。ここで、金属としては銅、アルミニウム、ステンレス、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、ジルコニウム、金、コバルト、チタン、タンタル、亜鉛、鉛、錫、シリコン、ビスマス、インジウムもしくはこれらの合金からなる群から選択された1種又は2種以上の金属材料を例示することができ、また、ガラスと複合して形成されるようにしてもよく、これらであれば耐熱性やフレキシブル基板層を支持する観点から、好ましい。より好ましくは、既存のフレキシブルデバイスの製造工程への適合性に優れるガラスである。また、市販の板ガラスのように、表面及び裏面の性状が同じであれば、硬質支持体の再使用において、表裏の区別を考慮する必要がないため、製造上の負荷が軽減されるので好ましい。
【0026】
また、これらの硬質支持体については、表面性状の調整及びフレキシブル基板層との接着力などの向上を目的として、その表面にサイジング、クロムメッキ、ニッケルメッキ、クロム−ニッケルメッキ、銅−亜鉛合金メッキ、酸化銅析出又はアルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルコキシチタンなどのチタン化合物、アルコキシシランなどのシラン化合物、トリアジンチオール類、ベンゾトリアゾール類、アセチレンアルコール類、アセチルアセトン類、カテコール類、o−ベンゾキノン類、タンニン類、キノリノール類などの化学的表面処理、あるいは表層粗化処理などの機械的な表面処理を施してもよい。
【0027】
この硬質支持体にポリイミド又はポリイミド前駆体を含む液状組成物を塗布して硬化させ、硬質支持体上にポリイミド樹脂層を形成する。ここで、硬質支持体にポリイミド又はポリイミド前駆体を含む液状組成物を塗布し、硬化させる前の層を「プレポリイミド樹脂層」という。
【0028】
このプレポリイミド樹脂層の形成は、任意の塗布方法が使用できる。また、硬質支持体上に複数層のプレポリイミド樹脂層を形成してもよい。複数層を形成する場合、好ましくは、膜厚等の精度が高いため、以下の3つの方法が好ましい。
【0029】
方法1)多層ダイにより2種以上のプレポリイミド樹脂層を同時に形成する。
方法2)任意の方法でプレポリイミド樹脂層を形成後、その未乾燥の塗布面上にナイフコート方式やダイ方式等によりさらに別のプレポリイミド樹脂層を形成する。
方法3)任意の方法でプレポリイミド樹脂層を形成、乾燥後、その塗工面上に任意の方法で別のプレポリイミド樹脂層を形成する。
ここで述べるナイフコート方式とは、バー、スキージ、ナイフなどにより樹脂溶液をならして塗布する方法である。
【0030】
プレポリイミド樹脂層の硬化方法としては、任意の方法が使用できる。プレポリイミド樹脂層を形成したのちに、予備乾燥したプレポリイミド樹脂層を含む積層体を、バッチ式の加熱乾燥炉の中で、高温状態で一定時間静置するか、連続熱処理装置の炉内における前記積層体の移動速度を制御し、乾燥及び硬化のための時間及び温度を確保することで、単層または複数層のポリイミド樹脂層を形成することができる。
【0031】
プレポリイミド樹脂層が硬化する際、プレポリイミド樹脂層は熱処理加熱によって溶媒が除去される。特に、ポリイミド前駆体樹脂溶液を用いた場合には、さらに閉環反応によりイミド結合が形成される(以下、「イミド化」という。)。硬化条件は、後述するポリイミド及びポリイミド前駆体の化学構造、熱処理装置の構造等により適宜調整されるが、急激に高温で熱処理すると樹脂層表面にスキン層が生成して溶媒が蒸発しづらくなったり、発泡したりするので、低温から徐々に高温まで上昇させながら熱処理していくのが望ましい。
【0032】
プレポリイミド樹脂層がポリイミド前駆体である場合、硬化させる際の熱処理条件は、製造工程におけるフレキシブル基板の熱劣化及び製造コストを抑えるため、熱処理温度は低い方が好ましく、熱処理時間は短い方が好ましい。但し、熱処理温度が低すぎる、または熱処理時間が短すぎると、十分硬化しないおそれがある、さらに、工程4及び5において、十分な剥離性が発現しない恐れがある。そのため、硬化させる際の熱処理条件は、最高温度が300℃以上であり、かつ該最高温度における保持時間が2分以上であるのがよい。この温度範囲であれば、イミド化が効率良く進行する。また、硬質支持体の表面に分布する、大気成分、水分等に由来する吸着物を十分除去できる。より好ましくは、最高温度が320℃以上であり、かつ該最高温度における保持時間が2分以上である。一方、プレポリイミド樹脂層がポリイミドである場合、乾燥により硬化を行う。従って、ポリイミド前駆体の場合よりも熱処理温度は低くてもよいが、ポリイミド前駆体と同様に、最高温度が300℃以上であり、かつ該最高温度における保持時間が2分以上の熱処理を行うようにすればよい。ただし、例えば、前記フレキシブルデバイスが、有機ELディスプレイ(特にボトムエミッション構造のもの)やタッチパネルである場合、前記ポリイミドは、後述のとおり透明性が高いことが必要である。該最高温度における保持時間が長すぎると、着色等によってポリイミドフィルムの透明性が低下する可能性がある。従って、これらの用途では、該最高温度における保持時間は、2分以上60分以下であることが好ましい。その他の用途についても、望ましくは該最高温度における保持時間は2分以上60分以下であるのがよい。また、この硬化の際の熱処理の最高温度については、ポリイミドフィルムの熱分解などを考慮すると実質的には550℃が上限であると言える。
【0033】
また、硬化は、窒素、アルゴン等の不活性ガス中及び空気中のいずれの条件でも行うことができる。また、常圧下、減圧下、加圧下及び真空下のいずれの条件でも行うことができる。
【0034】
また、プレポリイミド樹脂層の形成とポリイミド樹脂層の形成を連続熱処理装置で連続的に行ってもよい。
【0035】
ポリイミド又はポリイミド前駆体を含む液状組成物は、硬質支持体が再使用できる限り、公知の構造を使用できるが、フレキシブルデバイス、つまり、後述する切り込み線で囲まれた内側領域のポリイミド樹脂層としたときに、硬質支持体との間の剥離強度が0.1N/m以上、200N/m以下となるような液状組成物であることが好ましい。上記範囲の剥離強度であれば、上記工程2及び3において、ポリイミド樹脂層が剥離せず、かつ、上記工程4において、フレキシブルデバイス及び硬質支持体にダメージや除去困難な残渣を与えずに剥離できる。その結果、上記工程6において、硬質支持体の再使用回数が多くなる。より好ましい剥離強度の範囲は、0.2N/m以上、100N/m以下である。
【0036】
また、好ましくは、上記工程6において、m回目のフレキシブルデバイスの製造時におけるフレキシブルデバイスと硬質支持体との間の剥離強度と、m+1回目のフレキシブルデバイスの製造時におけるフレキシブルデバイスと硬質支持体との間の剥離強度との差(以下、「剥離強度差」という。)が80%以内であるような液状組成物である。この剥離強度差であれば、安定的に硬質支持体の再使用ができる。前記剥離強度差は、小さい方が、再使用可能な回数が多くなるので好ましい。従って、より好ましくは50%以内であり、さらに好ましくは20%以内である。ここで、mは1以上の整数を表す。mは1以上であれば、製造コストの大幅な削減になり、mが大きいほど好ましい。従って、好ましくは、mは2以上であり、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、さらに好ましくは20以上である。なお、例えば、1回目(m=1)の剥離強度が、30N/mの場合、2回目(m=2)の剥離強度は、6N/m以上54N/m以下であることが好ましい。m回目の剥離強度がm+1回目の剥離強度よりも大きくても小さくてもよい。
【0037】
上記ポリイミド又はポリイミド前駆体を含む液状組成物の好ましい例は、ポリイミド前駆体が、上記式(1)で表わされる構造を有する。このような構造であれば、上記工程2及び3において、ポリイミド樹脂層が剥離せず、かつ、上記工程4において、フレキシブルデバイス及び硬質支持体にダメージや除去困難な残渣を与えずに剥離できる。その結果、上記工程6において、硬質支持体の再使用回数が多くなる。ここでは、ポリイミド前駆体の場合について説明するが、ポリイミドの場合は、以下に述べるポリイミド前駆体がイミド化した構造に対応する。
【0038】
R
1は、上記式(2)で表わされる群より選択される2価の有機基のいずれか一種以上を合計で40モル%以上含み、R’は各々独立にアルキル基、ハロゲン化アルキル基、芳香族基またはハロゲン基であり、前記芳香族基の水素原子はハロゲン原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基で置換されてもよい。好ましくは、メチル基、トリフルオロメチル基またはフェニル基である。R
2は、上記式(3)で表わされる群より選択される4価の置換基のいずれか一種以上を合計で40モル%以上含む。これらの構造の中で、好ましくは、上記式(3−1)または(3−2)で表される構造である。R
3は、各々独立に水素原子又は一価の有機基を示す。好ましくは水素原子である。nは繰り返し数を表す正の整数である。好ましくは、100〜10000である。
【0039】
特に、前記フレキシブルデバイスが、有機ELディスプレイやタッチパネルである場合、前記ポリイミドは、透明性が高いことが必要である。具体的には、全光線透過率(本発明では、380nmから780nmの波長領域での透過率を意味する。)が、80%以上であることが好ましい。全光線透過率が80%未満である場合は、表示素子として有機EL素子を用いた場合、有機ELの発光層から出る光(波長が主に380nmから780nmである。)がポリイミドフィルムを十分透過しない。そのため、例えば、ボトムエミッション構造の場合、前記発光層からの発光を十分取出すことができない。より好ましくは、全光線透過率は85%以上である。また、表示素子としてタッチパネル用の透明導電膜を用いた場合、十分な視認性を担保するという理由から、全光線透過率は85%以上である。
【0040】
上記全光線透過率を満たすポリイミドの構造としては、硬質支持体からの剥離性が良い点から、モノマーとして9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(DCHM)を用いたポリイミド、主鎖骨格に脂環構造を有するポリイミド(以下「脂環含有ポリイミド」という。)又はフッ素原子を有するポリイミド(以下「フッ素含有ポリイミド」という。)が好ましい。脂環含有ポリイミドの例としては、モノマーとして、シクロヘキシルアミン(CHA)等の脂環構造含有ジアミノ化合物、又は、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物(CHDA)、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸無水物(CBDA)等の脂環構造含有酸無水物の少なくとも1種類以上を有し、これをポリイミドとしたものである。フッ素含有ポリイミドの例としては、モノマーとして、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)等のフッ素含有ジアミノ化合物、又は、2,2−ビス(3,4−アンヒドロジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FDA)、9,9-ビス-(トリフルオロメチル)キサンテンテトラカルボン酸二無水物(6FCDA)、9-フェニル-9-(トリフルオロメチル)キサンテンテトラカルボン酸二無水物(3FCDA)等のフッ素含有酸無水物の少なくとも1種類以上を有し、これをポリイミドとしたものである。より好ましくは、フッ素含有ポリイミドであり、更に好ましくは、フッ素含有ジアミノ化合物としてTFMB、及び、フッ素含有酸無水物として6FDAを有するフッ素含有ポリイミドである。
【0041】
また、前記フレキシブルデバイスが、トップエミッション構造の有機ELディスプレイの場合、透明性が高いことは要求されない。一方、機能層としてTFTを形成する際に、高温処理(300℃台〜400℃台)が必要となる。また、熱膨張係数(CTE)がTFTと近い値であることが必要である。このような特性を満たし、かつ硬質支持体からの剥離性が良いポリイミドの構造としては、モノマーとして、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(mTB)、1,4−フェニレンジアミン(PPD)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPER)、無水ピロメリット酸(PMDA)、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)の少なくとも一種類以上を有することが好ましい。PPD、PMDA、BPDAの少なくとも一種類以上を有することがより好ましい。
【0042】
特に、前記フレキシブルデバイスが、有機ELディスプレイやタッチパネルである場合、前記ポリイミドフィルムは、その膜厚は制限されないが、好ましくは5〜30μmであるのがよく、より好ましくは5〜20μmであるのがよい。一般に、ポリイミドフィルムが薄くなると強度が下がるので、硬質支持体から剥離する際に破損しやすくなるが、本発明の製造方法では、上記の薄いポリイミドフィルムにおいても、破損することなく硬質支持体から繰り返し剥離することができる。
【0043】
上記ポリイミド前駆体の合成方法は、例えば、上記式(1)におけるR
1の有機基を有する芳香族ジアミノ化合物と、ほぼ等モルの上記式(1)におけるR
2の有機基を有する芳香族テトラカルボン酸化合物又はその酸無水物とを溶媒中で反応させ、ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)を合成する。また、上記芳香族系ジアミノ化合物の代わりに芳香族系ジイソシアネート化合物を用いてもよい。更に、ポリアミド酸(ポリアミック酸)の合成前後にフィラーや繊維成分(炭素繊維、ガラス繊維、有機繊維、セルロースなど天然繊維)や樹脂粉末(ポリイミド樹脂も含む)等の充填材を配合してもよい。また、ポリイミドを含む液状組成物においても、上記充填材を配合してもよい。
【0044】
上記液状組成物の溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルフォキサイド(DMSO)、硫酸ジメチル、スルフォラン、ブチロラクトン、クレゾール、フェノール、ハロゲン化フェノール、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム系、トリグライム系、カーボネート系[ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートほか]などが挙げられる。
【0045】
次に、工程2について説明する。前記工程1で得られたポリイミド樹脂層上に機能層を形成する。機能層としては、公知のフレキシブルデバイスの機能を担保する素子を適用できるが、例えば、有機EL・TFT、光電変換素子、電子ペーパー駆動素子、カラーフィルター、タッチパネル、光電変換装置等が挙げられる。フレキシブルデバイスとして、有機ELディスプレイを製造する場合、機能層としては、画像駆動のためのTFTが挙げられる。TFTの材質としては、シリコン半導体又は酸化物半導体が挙げられる。従来技術であるフレキシブル基板を用いない場合は、板ガラス等の硬質支持体上に無機系成分によるバリア層を設け、その上にTFTを形成する。この形成時に、高温処理(300℃台〜400℃台)が必要となる。上記のポリイミド樹脂層においても、この高温処理に耐え得ることが重要である。また、例えば、フレキシブルデバイスとしてタッチパネルを製造する場合、機能層としては、透明導電膜、メタルメッシュ等の電極層が挙げられる。透明導電膜の一例としては、ITO (tin-doped indium oxide) 、SnO、ZnO、IZOが挙げられる。これらの電極層の形成時に、200℃以上で熱処理を行うことで抵抗値の小さな導電層を成形出来る。従って、前記フレキシブル基板においても、この高温処理に耐え得ることが重要である。
【0046】
次に、工程3について説明する。
ポリイミド樹脂層の表面周縁部からなる枠体が区画されるように、ポリイミド樹脂層に切り込み線を形成する。切り込み線を形成することで、機能層が形成されたフレキシブル基板の大きさ及び形状を制御することができる。例えば、製造効率を上げるために、一つのポリイミド樹脂層に複数の機能層を形成したときに、切り込み線を形成することで、複数のフレキシブル基板の大きさ及び形状を揃えることができる。枠体の面積が小さい程、フレキシブル基板の面積が大きくなり、一つのポリイミド樹脂層に形成できる機能層を増やすことができる。従って、枠体の面積は、フレキシブル基板の大きさ及び形状を制御できる範囲で、小さい方が好ましい。このような切り込み線の形成方法は、フレキシブルデバイスの品質・性能を低下させず、かつ硬質支持体の再使用を妨げるようなダメージを与えないことが必要である。この限りは公知の方法を使用できる。例えば、金属製またはセラミック製のカッターまたはナイフ(以上、合わせて「鋭刃器具」という。)、グラインダー、ディスクサンダー、レーザーカッティング等が挙げられる。上記の方法を組み合わせて使用してもよい。例えば、硬度の異なる鋭刃器具を準備し、ポリイミド樹脂層の大半を高硬度の鋭刃器具で切り込み線を形成し、次いで低硬度の鋭刃器具で切り込み線を完成させる。別の例としては、鋭刃器具又はディスクサンダー等の研削器具(研削器具の場合は、研削後に研削屑の除去を行う。)でポリイミド樹脂層の大半を高硬度の鋭刃器具で切り込み線を形成し、次いでレーザーカッティングで切り込み線を完成させる。
【0047】
次に、工程4について説明する。
切り込み線で囲まれた内側領域のポリイミド樹脂層を、機能層ごと硬質支持体から剥離して、ポリイミド樹脂層上に機能層を備えたフレキシブルデバイスを得る。上記剥離の方法は、得られるフレキシブルデバイスの品質を低下させない限りは、公知の方法を使用することができる。好ましくは、剥離端緒部を形成するためのピンセット等の端緒摘まみ道具、吸引プレート、剥離端緒部形成後の剥離部にあてがうエア吹付け等の機械的手段で剥離する。例えば、上記内側領域のポリイミド樹脂層の端部をピンセットで摘まんで硬質支持体から剥離し、この剥離部分を起点にして、他の道具(ピンセット、スティック、ブレード、シート等)を用いて完全に剥離する。別の例としては、上記ピンセットの代わりに、針状、カギヅメ状、昆虫足状の道具を用いて、硬質支持体−ポリイミド樹脂層界面に上記道具を差し込んで上記内側領域のポリイミド樹脂層の端部を硬質支持体から剥離する。また、別の例としては、上記内側領域のポリイミド樹脂層を吸引プレートで吸引することで剥離する。この方法は、剥離と同時に得られたフレキシブルデバイスを安定的に把持・搬送できる点で、好ましい方法である。この吸引プレートは、平面状でも半円等外周面状でもよい。また、上記のいずれかの方法で上記内側領域のポリイミド樹脂層の端部を剥離した後に、吸引プレート又は圧縮エアを吹き付けることで剥離しても良い。
【0048】
次に、工程5及び工程6について説明する。
工程5において、硬質支持体上のポリイミド樹脂層の枠体を機械的手段で剥離する。さらに、工程6において、剥離後の硬質支持体をフレキシブルデバイスの製造に再利用する。工程6における再利用のためには、好ましくは、工程5において枠体を剥離した後に、剥離後の硬質支持体を洗浄するのがよい。従って、その際には剥離の条件に応じた洗浄の方法を選択する必要がある。剥離及び洗浄の方法は、以下の二つが例示される。
方法(i):空気中又は不活性ガス中で枠体を剥離した後、硬質支持体を洗浄してゴミ、異物、汚染付着物等を除去し、乾燥する。
方法(ii):水、有機溶媒等の液体中で枠体を剥離し、さらに液中で硬質支持体を洗浄してゴミ、異物、汚染付着物等を除去し、乾燥する。
【0049】
方法(i)における機械的手段での剥離は、硬質支持体の表面及び端面を傷つけない材質のブレード、ヘラ、スクレイパー、ブラシにより行う。ここで、上記表面及び端面を傷つけない材質は、硬ゴム、樹脂、硬質紙、皮革材、繊維、撚糸、織布が挙げられる。また、ゴム又は樹脂製手袋を装着して、直接に枠体を摘まむ、削る等を行って剥離してもよい。また、ピンセット、スティック、シート、針状、カギヅメ状、昆虫足状の道具、吸引プレート、圧縮エアを使用して剥離してもよい。好ましくは、低コストや簡易・簡便という理由から、ブレード、スクレイパー、ブラシ、圧縮エア、吸引プレートである。剥離の後に、ゴミ、異物、汚染付着物等を除去し、硬質支持体を再使用するために、洗浄および乾燥を行う。公知の洗浄器具、洗浄方法、洗浄補助剤を使用してよい。洗浄器具としては、スクレイパー、ブラシ、モップ、クロス、布巾等が挙げられる。洗浄方法としては、ジェット水流、超音波洗浄等が挙げられる。洗浄補助剤としては、界面活性剤、溶剤、キレート剤等が挙げられる。これらを組み合わせて行ってもよい。好ましくは、乾燥後の残渣成分が残らない様にするために、上記の方法で洗浄した後に純水で再度洗浄及び乾燥する。なお、洗浄及び乾燥は、連続的に行っても良く、ロール・トゥ・ロール方式を適用してもよい。
【0050】
方法(ii)における機械的手段での剥離は、その後の洗浄と別々に行っても良いが、剥離と洗浄を同時に(兼ねて)行ってもよい。剥離に使用する器具及び方法は、方法(i)と同じものを使用してよい。また、剥離と洗浄を同時に行う場合、例えば、ローラー状のブラシ、スポンジ又は不織布を回転させながら枠体にこすり付けながら剥離すると同時に洗浄を行う。剥離及び洗浄を行う際に枠体が残る硬質支持体を投入する液は、水、有機溶剤、水−有機溶剤混合溶液のいずれでもよく、水の場合は、洗剤やキレート剤等の洗浄補助液を混合させてもよい。なお、洗浄及び乾燥は、連続的に行ってもよく、ロール・トゥ・ロール方式を適用してもよい。
【0051】
また、方法(i)及び方法(ii)のいずれの場合でも、溶剤洗浄、アルカリ液洗浄、UV洗浄、オゾン洗浄、超音波洗浄、洗浄剤による洗浄、フッ酸洗浄、酸素プラズマ等を活用するアッシャー処理、加熱処理またはパフィング処理を行うことが好ましい。より好ましくは、簡易・簡便やより少ない工程数という理由から、洗剤を含むあるいは含まない水中にてローラー状のブラシやスポンジや不織布を回転させながら枠体にこすり付けながら剥離すると同時に洗浄を行う。
【0052】
次に、本発明のフレキシブルデバイス製造装置について説明する。このフレキシブル製造装置は、以下の二つの装置を含む。
装置1:フレキシブルデバイス及び枠体を硬質支持体から剥離する、剥離装置
装置2:上記剥離後の硬質支持体を洗浄及び乾燥する、硬質支持体再生装置
【0053】
装置1は、フレキシブルデバイス又は枠体を、移動式アームを備えた吸引プレート、ロボットハンド式吸引プレート、硬質支持体を傷つけない材質(ゴム、織布等)のブレード、回転ロール等を用いて、自動的かつ連続的に剥離する。装置2は、硬質支持体を自動的かつ連続的に洗浄および乾燥する。洗浄は、液体中でブラシ洗浄を行い、その後、前洗い、後洗い、すすぎ洗い、すすぎ仕上げ洗いを行う。これらの各工程及びそれに続く乾燥工程間は、硬質支持体を機械式ハンドで安定的に把持しながらステップ移送する。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0055】
1.各種物性測定および性能試験方法
【0056】
[剥離強度の測定]
硬質支持体とポリイミド樹脂層との間の剥離強度は、積層体について、幅が1mm〜10mm、長さが10mm〜25mmの短冊状に加工し、東洋精機株式会社製引張試験機(ストログラフ−M1)を用いて、樹脂層を180°方向に引き剥がし、ピール強度を測定した。なお、加工細線と樹脂界面間の接着が強固であり、剥離が困難であるものは「剥離不可」とした。
[剥離性]
切り込み線で囲まれた内側領域のポリイミド樹脂層を硬質支持体から剥離した際、ポリイミド樹脂層が切り込み線で区画されたとおりに剥離できた場合を○とし、区画されたとおりに剥離できなかった場合を×とした。
[全光線透過率]
ポリイミド樹脂層を5cm角に切り出し、これを日本電色工業製のHAZE METER NDH−5000を用いて、全光線透過率の測定を行った。
【0057】
2.ポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液の合成
以下の合成例や実施例および比較例において取扱われるポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液の合成に用いた原料、芳香族ジアミノ化合物、芳香族テトラカルボン酸の酸無水物及び溶剤を以下に示す。
〔芳香族ジアミノ化合物〕
・4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)
・2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(mTB)
・1,4−フェニレンジアミン(PPD)
・1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPER)
・2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)
〔芳香族テトラカルボン酸の酸無水物〕
・無水ピロメリット酸(PMDA)
・2,2−ビス(3,4−アンヒドロジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FDA)
・2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)
〔溶剤〕
・N,N―ジメチルアセトアミド(DMAc)
【0058】
合成例1
窒素気流下で、TFMB(17.4054g、0.05435mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、6FDA(1.1029g、0.00248mol)とPMDA(11.4918g、0.05269mol)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡白色の粘稠なポリアミド酸Aワニスを得た。なお、このポリアミド酸Aワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Aが得られる。
【0059】
合成例2
窒素気流下で、TFMB(16.3515g、0.05106mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、6FDA(4.6048g、0.01037mol)とPMDA(9.0437g、0.04146mol)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡白色の粘稠なポリアミド酸Bワニスを得た。なお、このポリアミド酸Bワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Bが得られる。
【0060】
合成例3
窒素気流下で、m−TB(12.7695g、0.05955mol)とTPER(1.9342g、0.00662mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え溶解させた。次いで、PMDA(11.4301g、0.05230mol)とBPDA(3.8661g、0.01307mol)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡黄色の粘稠なポリアミド酸Cワニスを得た。なお、このポリアミド酸Cワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Cが得られる。
【0061】
合成例4
窒素気流下で、PPD(8.0015g、0.07399mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え溶解させた。次いで、BPDA(21.9985g、0.07477mol)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡黄色の粘稠なポリアミド酸Dワニスを得た。なお、このポリアミド酸Dワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Dが得られる。
【0062】
合成例5
窒素気流下で、BAPP(15.0375g、0.03626mol)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え溶解させた。次いで、PMDA(7.6050g、0.03480mol)とBPDA(0.5415g、0.00183mol)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、193gの淡黄色の粘稠なポリアミド酸Eワニスを得た。なお、このポリアミド酸Eワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂Eが得られる。
【0063】
3.硬質支持体上へのポリイミド樹脂層の形成
以下の実施例および比較例において取扱われる硬質支持体を以下に示す。
・ガラスシート…無アルカリガラス、厚み0.7mm
また、硬質支持体上に塗布したポリアミド酸ワニスは、以下のいずれかの加熱条件で硬化させた。
・加熱条件[1]・・・90℃3分および120℃2分にて乾燥し、130℃10分、160℃5分、180℃2分、220℃2分、270℃2分、320℃2分、360℃2分の順番でステップ昇温加熱
・加熱条件[2]・・・70℃10分にて乾燥し、150℃10分、150℃から400℃まで昇温速度5℃/分にてプログラム昇温した後、400℃60分にて加熱
・加熱条件[3]・・・70℃10分にて乾燥し、150℃10分、150℃から250℃まで昇温速度5℃/分にてプログラム昇温した後、250℃30分にて加熱
【0064】
実施例1
清浄な長方形のガラスシート(12.5cm×12.5cm)面上に、ポリアミド酸Aワニスを塗布した。これを加熱条件[1]の条件で加熱し、厚みが25μmのポリイミド樹脂層を形成した。次に、このポリイミド樹脂層を市販のカッターを用いて切り込み線を形成して、具体的には、ポリイミド樹脂層の外周から1cm〜2cm内側に、外周に沿って切り込み線を形成して、ポリイミド樹脂層内の表面周縁部に1cm〜2cm幅での枠体を区画した。そして、切り込み線で囲まれた内側領域(9.5cm×9.5cm)のポリイミド樹脂層をピンセット及び器手指(樹脂またはゴム製の保護手袋着用)で剥離した。ポリイミド樹脂層の全光線透過率、剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
さらに、上記切り込み線で囲まれた内側領域のポリイミド樹脂層を剥離した後のガラスシート(硬質支持体)上には、ポリイミド樹脂層の枠体が残った。大気中で、この枠体を、ピンセットで剥離した。ガラスシートから機械的に剥離し、剥離後の洗浄は行わなかった。
【0065】
実施例1−2
実施例1で使用した乾燥後のガラスシートの、ポリイミド樹脂層を剥離した側の面に、再び実施例1と同様の作業を行った。剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0066】
実施例1−3
実施例1−2で使用した乾燥後のガラスシートの、ポリイミド樹脂層を剥離した側の面に、再び実施例1と同様の作業を行った。剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0067】
実施例2
ポリアミド酸Aワニスの代わりにポリアミド酸Bワニスを用いた以外は実施例1と同様の作業を行った。ポリイミド樹脂層の全光線透過率、剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0068】
実施例2−2
実施例2で使用した乾燥後のガラスシートの、ポリイミド樹脂層を剥離した側の面に、再び実施例2と同様の作業を行った。剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0069】
実施例2−3
実施例2−2で使用した乾燥後のガラスシートの、ポリイミド樹脂層を剥離した側の面に、再び実施例2−2と同様の作業を行った。剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0070】
実施例3
ポリアミド酸Aワニスの代わりにポリアミド酸Cワニスを用いた以外は実施例1と同様の作業を行った。ポリイミド樹脂層の全光線透過率、剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0071】
実施例3−2
実施例3で使用した乾燥後のガラスシートの、ポリイミド樹脂層を剥離した側の面に、再び実施例3と同様の作業を行った。剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0072】
実施例3−3
実施例3−2で使用した乾燥後のガラスシートの、ポリイミド樹脂層を剥離した側の面に、再び実施例3−2と同様の作業を行った。剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0073】
実施例4
ポリアミド酸Aワニスの代わりにポリアミド酸Dワニスを用いた以外は実施例1と同様の作業を行った。ポリイミド樹脂層の全光線透過率、剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0074】
実施例4−2
実施例4で使用した乾燥後のガラスシートの、ポリイミド樹脂層を剥離した側の面に、再び実施例4と同様の作業を行った。剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0075】
実施例4−3
実施例4−2で使用した乾燥後のガラスシートの、ポリイミド樹脂層を剥離した側の面に、再び実施例4−2と同様の作業を行った。剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0076】
実施例5
ポリアミド酸Aワニスの代わりにポリアミド酸Eワニスを用いた事、及び加熱条件[2]で行った事以外は実施例1と同様の作業を行った。ポリイミド樹脂層の全光線透過率、剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0077】
実施例6
厚みが5μmのポリイミド樹脂層を形成した以外は実施例1と同様の作業を行った。剥離強度及び剥離性を、表3に示した。
【0078】
実施例6−2
実施例6で使用した乾燥後のガラスシートの、ポリイミド樹脂層を剥離した側の面に、再び実施例6と同様の作業を行った。剥離強度及び剥離性を、表3に示した。
【0079】
実施例6−3
実施例6−2で使用した乾燥後のガラスシートの、ポリイミド樹脂層を剥離した側の面に、再び実施例6−2と同様の作業を行った。剥離強度及び剥離性を、表3に示した。
【0080】
比較例1
ポリイミド樹脂層に切り込み線を入れないで枠体を区画しない事以外は実施例1と同様の作業を行った。剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0081】
比較例2
加熱条件[1]の代わりに加熱条件[3]の条件で硬化した以外は、実施例1と同様の作業を行ったところ、ポリイミド樹脂層が剥離できなかった。ポリイミド樹脂層の全光線透過率、剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。
【0082】
比較例3
枠体をガラスシートから機械的に剥離する代わりに、ポリイミドエッチングにより枠体を溶解除去した事以外は、実施例1と同様の作業を行った。剥離強度及び剥離性を、表1及び表2に示した。なお、ポリイミドエッチング液は、エチレングリコール22g、エチレンジアミン11g、水酸化カリウム33.5g、水33.5gの組成とし、80〜90℃で実施した。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
実施例及び比較例の結果から示されたとおり、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法によれば、フレキシブルデバイスの製造工程において、硬質支持体の再使用を実現することができる。また、フレキシブル基板を区画した通りに剥離することができ、さらに枠体の剥離時間が短い。そのため、このようにして硬質支持体上にポリイミド樹脂層を形成すれば、その後に所定の機能層を精度良く設けることができ、また、ポリイミド樹脂層を機能層ごと硬質支持体から容易に除去することが可能であることから、製造工程の時間やコストを抑えてフレキシブルデバイスを低コストで簡便に製造することができるようになる。