請求項1に記載のポリイミド系樹脂多孔体を製造するための方法であって、単独ではポリイミド系樹脂前駆体の貧溶媒である溶媒の2種以上からなり、ポリイミド系樹脂前駆体の良溶媒である混合溶媒と、ポリイミド系樹脂前駆体とからなるポリイミド系樹脂前駆体溶液に、二酸化炭素を溶解させた後、溶媒成分および二酸化炭素を除去することにより、ポリイミド系樹脂前駆体に空孔を形成し、次いでポリイミド系樹脂前駆体をイミド化することを特徴とするポリイミド系樹脂多孔体の製造方法。
請求項1に記載のポリイミド系樹脂多孔体を製造するための方法であって、単独ではポリイミド系樹脂の貧溶媒である溶媒の2種以上からなり、ポリイミド系樹脂の良溶媒である混合溶媒と、ポリイミド系樹脂とからなるポリイミド系樹脂溶液に、二酸化炭素を溶解させた後、溶媒成分および二酸化炭素を除去することにより、ポリイミド系樹脂に空孔を形成することを特徴とするポリイミド系樹脂多孔体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
熱的、化学的安定性に優れるポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂などのポリイミド系樹脂に空孔が形成されたポリイミド系樹脂多孔体は、ポリマー系の多孔質材料として期待されている。空孔が形成されたポリイミド系樹脂多孔体は、例えば、熱伝導率が低くなるため、高耐熱な断熱材料として使用することが可能となり、また、誘電率が低くなるため、電子部品の高周波電流の減衰を抑える効果が期待でき、フレキシブルプリント基板に代表される電子部品用材料として使用することが可能となる。
ただし、一般的に、多孔質材料では、材料の空隙率が高くなるに従い、機械的強度が著しく低下する。その傾向は、ポリイミド系樹脂多孔体でも同様であり、機械的強度を保持したまま断熱性能や低誘電性能を発揮するポリイミド系樹脂多孔体が求められている。
【0003】
多孔質材料は、機械的強度を維持するためには、孔径が小さく、セル密度の高いものであることが一般的に好ましく、ポリイミド系樹脂多孔体についても、このようなものを製造する様々な方法が提案されている。
例えば、ポリイミドの溶液、またはその前駆体の溶液であるポリアミック酸溶液に、添加剤を添加して特定のミクロ相分離構造を形成させ、溶媒成分と添加剤成分の揮発性(沸点)や熱分解性の差、または溶媒成分と添加剤成分に対するポリアミック酸の溶解性の差を利用して、加熱または溶媒抽出、もしくはその両方により、溶媒成分や添加剤成分を除去することにより、微細なセルを有する多孔体を得る方法が提案されている。
特許文献1には、ポリアミック酸と分散性化合物とを含有し、これらがミクロ相分離構造を有するポリアミック酸前駆体膜を用い、この膜から超臨界二酸化炭素により分散性化合物を抽出除去した後、ポリアミック酸をポリイミドに変換して、ポリイミド樹脂多孔体膜を得る方法が開示されている。
しかしながら、このような手法により製造されるポリイミド樹脂多孔体は、平均孔径が数十μm未満であるが、セル密度や空隙率が低いため、断熱性能や低誘電性能は十分ではなかった。
【0004】
また、特許文献2には、ポリアミック酸、相分離化剤、イミド化触媒および脱水剤を含有する溶液を基板上に塗布し、乾燥させてミクロ相分離構造を有する相分離構造体を作製し、相分離構造体から相分離化剤を超臨界二酸化炭素等により除去した後、ポリアミック酸をポリイミドに変換して、ポリイミド樹脂多孔体を得る方法が開示されている。
この方法により得られたポリイミド樹脂多孔体は、微細セル構造を有することで、機械的強度の低下を抑制し、低誘電性能に優れるが、イミド化触媒や脱水剤に由来する不純物が残存するおそれがあるため、電子・電気機器および電子部品などの低汚染性が強く要求される用途には不向きなものであった。
【0005】
そして、これらの問題を解決するためのポリイミド樹脂多孔体の作製方法として、ポリアミック酸溶液を基材に塗布することにより液状の薄膜を形成し、その薄膜を水などの凝固溶媒に浸漬または接触させて、ポリアミック酸の多孔質膜を作製し、その膜を熱処理することによってポリイミド樹脂多孔体を得る方法が知られている。なかでも、特許文献3、4には、ポリアミック酸溶液に極性基を有する高分子化合物を含有させたポリアミック酸溶液組成物により薄膜を作製し、水を含有する凝固溶媒に浸漬または接触させる方法により、複数のマイクロボイドを有するとともに、マイクロボイド間や表面層に複数の細孔を有し、その細孔同士が連通しさらにマイクロボイドにも連通している構造を有するポリイミド樹脂多孔体が開示されている。この方法により、イミド化触媒等を用いることなくポリイミド樹脂多孔体が得られるだけでなく、マクロボイドと複数の細孔を合わせ持つことで、空孔率が高いにもかかわらず機械的強度に優れるポリイミド樹脂多孔体が得られる。しかし、特許文献3、4に記載のポリイミド樹脂多孔体は、三層構造である薄膜状のものに限定されており、厚みを必要とする断熱材等の用途には不向きなものである。
【0006】
また、特許文献5には、緻密層を有し、かつ独立気孔からなる均一なマクロ孔、メソ孔、またはその両者を合わせ持つポリマー系多孔体ならびにその製造方法が開示されている。しかし、高い空隙率を得るためには、必ずしも独立気孔のみからなる多孔体である必要はなく、連通した均一なメソ細孔構造が存在することでも空隙率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリイミド系樹脂多孔体は、平均孔径が0.50μmを超え200μm以下のマクロ孔と平均孔径が0.1〜500nmのメソ孔とを有する。
本発明において、ポリイミド系樹脂多孔体を構成するポリイミド系樹脂は、イミド結合を有する樹脂であり、イミド結合以外の結合を有するものも含むものである。ポリイミド系樹脂の具体例としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。本発明においては、ポリイミド系樹脂多孔体を構成するポリイミド系樹脂は、上記樹脂の単独または複合物でもよく、特に制限されることなく、また公知のものを用いることができる。
【0014】
本発明において、ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とがイミド結合した重合体である。テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させて得られるポリイミド樹脂前駆体(ポリアミック酸)をイミド化することによって得られるポリイミド樹脂であることが好ましい。
【0015】
テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物が挙げられる。これらテトラカルボン酸二無水物は、単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0016】
上記ジアミン化合物としては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノ−2,2−ジメチルビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニルが挙げられる。これらジアミン化合物は、単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0017】
耐熱性や機械的強度、電気特性、耐薬品性に優れることから、ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物がピロメリット酸二無水物であり、ジアミン化合物が4,4′−ジアミノジフェニルエーテルである構成や、テトラカルボン酸二無水物が3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物であり、ジアミン化合物がp−フェニレンジアミンである構成が好ましい。また、ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物が2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物であり、ジアミン化合物がm−フェニレンジアミンまたはp−フェニレンジアミンである構成も好ましい。なお、芳香族テトラカルボン酸二無水物がエーテル結合を有する構成は、ポリエーテルイミド樹脂に分類されるが、本発明ではポリイミド樹脂に含める。
【0018】
本発明において、ポリアミドイミド樹脂は、トリカルボン酸成分とジアミン成分とが、イミド結合とアミド結合した重合体である。トリカルボン酸成分としては、トリメリット酸、ジフェニルエーテル−3,3′,4′−トリカルボン酸、ジフェニルスルホン−3,3′,4′−トリカルボン酸、ベンゾフェノン−3,3′,4′−トリカルボン酸などが挙げられ、ジアミン成分としては、前記ポリイミド樹脂を構成するジアミン化合物として例示したものが挙げられる。
ポリアミドイミド樹脂は、通常、無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応、または無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応により重合した後、イミド化することにより製造することができる。
【0019】
ポリアミドイミド樹脂は、分子中にアミド基を多数有しているため、これを架橋可能な官能基として用いてもよい。また、イミドの一部が未反応の前駆体(アミック酸)の状態で反応性を残したものも存在し、このアミック酸を構成するアミド基やカルボキシル基を架橋可能な官能基として利用してもよい。また、ポリアミドイミド樹脂は、上記の反応により製造されるため、末端にカルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基等が残存している場合が多く、これらを架橋可能な官能基として利用してもよい。
【0020】
本発明において上記ポリイミド系樹脂は多孔質であることが必要であり、本発明のポリイミド系樹脂多孔体における空隙率は、15〜99%であることが好ましく、30〜99%であることがより好ましく、60〜99%であることがさらに好ましい。空隙率は、電気特性(低誘電性)や伝熱特性(断熱性)に関係し、優れた性能を発揮するためには、より高いことが好ましい。
【0021】
ポリイミド系樹脂多孔体は、高い空隙率を有し、かつ、機械的強度を低下させないために、平均孔径が0.1〜500nmのメソ孔を有することが必要である。メソ孔の平均孔径が、小さくなるに従いメソ孔の空孔(セル)密度が低下し、同時に、空隙率も低下してしまうため、高い空隙率を維持するためには、メソ孔の平均孔径は、0.1nm以上であることが必要であり、0.5nm以上であることが好ましい。
【0022】
また、ポリイミド系樹脂多孔体は、さらに、平均孔径が0.50μmを超え200μm以下のマクロ孔を有することが必要である。高い空隙率を維持しつつ、機械的強度を低下させないために、マクロ孔の平均孔径は、比較的小さく、かつ均一性が高いことが好ましく、200μm以下であることが必要であり、20μm以下であることが好ましい。一方で、マクロ孔の平均孔径が、小さくなるに従いマクロ孔の空孔(セル)密度が低下し、空隙率も低下してしまうため、0.50μmを超えることが必要であり、1.0μm以上であることが好ましい。
【0023】
本発明のポリイミド系樹脂多孔体は、上記マクロ孔とメソ孔を合わせ持つことが必要である。マクロ孔とメソ孔を合わせ持つことにより、本発明のポリイミド系樹脂多孔体は、上記のように、高い空隙率を有するにもかかわらず、機械的強度が低下することがなく、高い絶縁性能、断熱性能を得ることができ、さらに従来の材料にはない柔軟性を持ち合わせた絶縁材料、断熱材料とすることができる。
本発明のポリイミド系樹脂多孔体の上記マクロ孔とメソ孔の空隙容量の合計に対する上記マクロ孔の空隙容量の容量比率は20容量%以上であることが好ましく、40容量%以上であることがより好ましく、60容量%以上であることがさらに好ましい。前記マクロ孔の容量比率を20容量%以上とすることにより、高い空隙率を有し、かつ、機械的強度の低下を抑制することができる。
なお、本発明においては、孔径が0.50μmを超える細孔をマクロ孔と定義し、孔径が0.1〜500nmの細孔をメソ孔と定義する。よって、IUPACによる提唱に従って定義されるもの、すなわち、直径が50nm以上の細孔をマクロ細孔、直径が2〜50nmの範囲にある細孔をメソ細孔と指称するものとは異なる。
【0024】
本発明のポリイミド系樹脂多孔体は、以下の製造方法によって製造することができる。
すなわち、ポリイミド系樹脂またはポリイミド系樹脂前駆体と、特定の混合溶媒とからなるポリイミド系樹脂溶液またはポリイミド系樹脂前駆体溶液に、二酸化炭素を溶解させた後、溶媒成分および二酸化炭素を除去することにより、ポリイミド系樹脂多孔体または多孔質のポリイミド系樹脂前駆体を形成し、多孔質のポリイミド系樹脂前駆体はポリイミドに変換することによってポリイミド系樹脂多孔体を製造することができる。
【0025】
本発明の製造方法においては、まず、ポリイミド系樹脂溶液またはポリイミド系樹脂前駆体溶液を作製する(工程(i))。
工程(i)において用いられるポリイミド系樹脂前駆体は、イミド化によってポリイミド系樹脂となり得るポリイミド系樹脂の前駆体およびその複合物を含むものであり、特に制限されることなく、公知のものを用いることができ、例えば、ポリアミック酸溶液が用いられる。ポリアミック酸溶液は、上記テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、後述する溶媒中反応させることによって製造することができる。
【0026】
本発明においては、ポリイミド系樹脂前駆体溶液を製造するための溶媒として、単独ではポリイミド系樹脂前駆体の貧溶媒である溶媒の2種以上からなり、ポリイミド系樹脂前駆体の良溶媒である混合溶媒を使用する。すなわち、単独ではポリイミド系樹脂前駆体の貧溶媒である溶媒の2種以上からなる混合溶媒であって、貧溶媒を混合することによりポリイミド系樹脂前駆体の良溶媒となるものを使用する。
なお、本発明においては、25℃におけるポリイミド系樹脂前駆体に対する溶解性が1g/100mL以下である溶媒を貧溶媒と定義し、溶解性が1g/100mLを超える溶媒を良溶媒と定義する。
本発明において、貧溶媒として、水溶性エーテル系化合物、水溶性アルコール系化合物等が挙げられ、混合溶媒として、これらを混合することによって良溶媒となるものを使用する。
水溶性エーテル系化合物としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサン、1,2−ジメトキエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられ、その中でもTHFが好ましい。
また、水溶性アルコール系化合物としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等が挙げられ、その中でもメタノールが好ましい。
【0027】
混合溶媒における水溶性エーテル系化合物と水溶性アルコール系化合物の質量比は、それぞれ選択される貧溶媒の種類とそれらの組み合わせによって適宜変更され、例えば、THFとメタノールの組み合わせであれば、THF/メタノールは7/3〜9/1であることが好ましく、4/1程度であることがより好ましい。
【0028】
また、工程(i)において用いられるポリイミド系樹脂は、ポリイミド樹脂(ポリエーテルイミド樹脂を含む)、ポリアミドイミド樹脂およびその複合物を含むものであり、特に制限されることなく、公知のものを用いることができる。
本発明において、ポリイミド系樹脂溶液を構成する溶媒も、上記ポリイミド系樹脂前駆体溶液を構成する溶媒と同様に、単独ではポリイミド系樹脂の貧溶媒である溶媒の2種以上からなり、ポリイミド系樹脂の良溶媒である混合溶媒を使用する。すなわち、単独ではポリイミド系樹脂の貧溶媒である溶媒の2種以上からなる混合溶媒であって、貧溶媒を混合することによりポリイミド系樹脂の良溶媒となるものを使用する。ポリイミド系樹脂溶液を構成する溶媒として、上記ポリイミド系樹脂前駆体溶液を構成する溶媒として例示したものを使用することができる。
なお、前記同様、25℃におけるポリイミド系樹脂に対する溶解性が1g/100mL以下である溶媒を貧溶媒と定義し、溶解性が1g/100mLを超える溶媒を良溶媒と定義する。
ポリイミド系樹脂溶液は、ポリイミド系樹脂を上記混合溶媒に溶解して調製することができ、また混合溶媒中でポリイミド系樹脂を重合することによって調製してもよい。
【0029】
本発明において、ポリイミド系樹脂前駆体溶液やポリイミド系樹脂溶液に、重合性不飽和結合を有するアミン、ジアミン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸の誘導体を添加して、熱硬化時に橋かけ構造を形成させることができる。ポリイミド系樹脂前駆体については、合成条件、乾燥条件、その他の理由等により、ポリイミド系樹脂前駆体中に部分的にイミド化されたものが存在していても特に支障はない。
【0030】
さらに、これらのポリイミド系樹脂前駆体の溶液やポリイミド系樹脂の溶液を製造する際、使用する混合溶媒に可溶な他の耐熱性樹脂を混合することができる。また、シランカップリング剤や各種界面活性剤などを添加することもできる。
【0031】
上記工程(i)で得られるポリイミド系樹脂前駆体溶液またはポリイミド系樹脂溶液は、
図1(a)に示すように、均一相を形成している。以下、ポリイミド系樹脂前駆体溶液またはポリイミド系樹脂溶液を、ポリイミド系(前駆体)樹脂溶液と略することがある。
【0032】
続いて、二酸化炭素処理容器において、前記ポリイミド系樹脂(前駆体)溶液に二酸化炭素を溶解させる(工程(ii))。
二酸化炭素と溶媒成分が、均一相を形成することで、溶媒成分の極性が遮蔽されるため、溶媒成分からポリイミド系樹脂前駆体またはポリイミド系樹脂が相分離する。その結果、ポリイミド系樹脂(前駆体)溶液内の溶媒および溶質は、
図1(b)に示すように、二酸化炭素を含む溶媒成分の液滴3、ポリイミド系樹脂前駆体またはポリイミド系樹脂2に分離した状態となる。ただし、溶媒成分はすべて液滴となるわけではなく、液滴とならない溶媒成分はポリイミド系樹脂前駆体またはポリイミド系樹脂近傍に存在している(溶媒成分4)。
ポリイミド系樹脂(前駆体)溶液に二酸化炭素を溶解させる方法としては、ポリイミド系樹脂(前駆体)溶液を加圧二酸化炭素雰囲気下に保持する方法が挙げられる。二酸化炭素の圧力は、3MPa以上であることが好ましい。
【0033】
そして、二酸化炭素の加圧を維持したままの状態で保持する(工程(iii))。
液相または超臨界相の二酸化炭素に溶媒成分が溶解し、液滴3の溶媒成分およびポリイミド系樹脂前駆体またはポリイミド系樹脂近傍に存在する溶媒成分4が減少する一方で、溶媒成分が徐々に二酸化炭素へと置換され、液滴3の溶媒成分およびポリイミド系樹脂前駆体またはポリイミド系樹脂近傍の溶媒成分4と二酸化炭素の組成比は、二酸化炭素の割合が多い状態へと変化する。二酸化炭素の加圧を維持したまま保持する時間としては、0.5〜48時間であることが好ましく、1〜24時間であることがより好ましい。
【0034】
その後、二酸化炭素処理容器に二酸化炭素を流通させることにより、液相または超臨界相に溶解した溶媒成分を容器外へ排出し、さらに二酸化炭素を除去することにより、ポリイミド系樹脂前駆体またはポリイミド系樹脂内にマクロ孔5およびメソ孔6を形成する(工程(iv))。
二酸化炭素の加圧を止めることにより、液滴およびポリイミド系樹脂前駆体またはポリイミド系樹脂内の二酸化炭素をポリイミド系樹脂前駆体またはポリイミド系樹脂の隙間から放出させることにより、
図1(c)に示すように、液滴が存在していた所にマクロ孔5が形成される。
一方で、ポリイミド系樹脂前駆体またはポリイミド系樹脂近傍で溶媒成分4が存在していた箇所には、
図1(c)に示すように、メソ孔6が形成する。
【0035】
次いで、ポリイミド系樹脂を乾燥し、またポリイミド系樹脂前駆体をイミド化する(工程(v))。
ポリイミド系樹脂を乾燥することで、ポリイミド系樹脂中に含まれる揮発性成分を気化させる。また、ポリイミド系樹脂前駆体については、加熱することで、ポリイミド系樹脂前駆体中に含まれる揮発性成分を気化させるとともに、イミド化を促し構造を安定化させる。
このようにして、本発明のポリイミド系樹脂多孔体を得ることができる。
すなわち、上記製造方法において、ポリイミド系樹脂前駆体溶液またはポリイミド系樹脂溶液を二酸化炭素により加圧後、液滴およびポリイミド系樹脂前駆体またはポリイミド系樹脂内に存在する溶媒成分を二酸化炭素に置換した後、溶媒および二酸化炭素を除去することによって、平均孔径が0.50μmを超え200μm以下であるマクロ孔および平均孔径が0.1〜500nmであるメソ孔を形成することができ、同時に、これら二種類の孔を有することでポリイミド系樹脂多孔体の空隙率を、15〜99%とすることができる。
【0036】
本発明においては、上記のような混合溶媒に溶解したポリイミド系樹脂(前駆体)溶液を用いる。単独では貧溶媒である溶媒成分はポリイミド系樹脂前駆体やポリイミド系樹脂と溶媒和構造を形成しにくく、当然のことながら、それらの混合溶媒であってもその傾向は同じであるとみられ、ポリイミド系樹脂(前駆体)溶液に二酸化炭素を溶解させた際に、液滴が形成しやすくなる。
また、同様の理由から、一度液滴が形成されると、ポリイミド系樹脂前駆体やポリイミド系樹脂は混合溶媒に再溶解しにくくなるため、多孔構造を形成した際に、孔の凝集を抑制できる効果が得られる。とりわけその作用は、メソ孔の形成に関して効果的であり、それにより、空隙率の高いポリイミド系樹脂多孔体を得ることができる。
さらに、この混合溶媒は、ポリイミド系樹脂前駆体やポリイミド系樹脂と溶媒和しにくいため、二酸化炭素を溶解させた際に、気相または超臨界相に拡散しやすい。そのため、セル同士の合一を抑制する効果が期待でき、それによりセル径の小さい多孔構造を得ることができる。
【0037】
なお、上記製造方法によって、マクロ孔は、ポリイミド系樹脂多孔体に偏在することなく形成され、またメソ孔は、隣接するマクロ孔の間のポリイミド系樹脂内に形成される。したがって上記製造方法によっては、マクロ孔とメソ孔とがそれぞれ偏在する構造、例えばマクロ孔のみを有する層とメソ孔のみを有する層とからなるような構造のポリイミド系樹脂多孔体は形成されない。また形成されるメソ孔は、独立気孔ではなく、メソ孔同士が連通した構造を有するものである。
【0038】
本発明のポリイミド系樹脂多孔体は、ポリイミド系樹脂が有する優れた耐熱性を維持しつつ、マクロ孔とメソ孔を合わせ持つ多孔構造により機械的特性が低下しないので、特に、低誘電率絶縁材料として利用することができ、低誘電率、絶縁性、ハンダ耐性に優れるフレキシブルプリント基板等の回路基板、回路積層板に好適に用いることができる。
本発明のポリイミド系樹脂多孔体は、同様の理由から、耐熱性断熱材料として利用することもでき、航空機や車両部材等の耐熱性が要求される部位の断熱材をはじめ、防振材、吸音材、保温材、緩衝材、摺動材などの好適に用いることができる。
また、本発明のポリイミド系樹脂多孔体は、メソ孔を利用することにより、エアフィルター、触媒担体、燃料電池用膜材、カラム充填材としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、物性測定は、以下の方法によりおこなった。
【0040】
(1)電子顕微鏡写真
ポリイミド系樹脂多孔体について、イオンミリングにより断面出しを行い、蒸着操作を行わずに、日立テクノロジーズ社製電解放射型走査電子顕微鏡SEM−8020を用い、加速電圧0.8〜3.0kVにて観察を行ない、
図3と
図4のメソ孔の電子顕微鏡写真を撮影した。
また、ポリイミド系樹脂多孔体について、ミクロトームを用いて切り出した断面に対して、白金蒸着を行い、日立ハイテク社製電解放射型走査電子顕微鏡S−800を用い、加速電圧10kVにて観察を行ない、
図2のマクロ孔の電子顕微鏡写真を撮影した。
【0041】
(2)密度および空隙率
ポリイミド系樹脂多孔体から試料を切り出し、試料の面積、厚み、質量を測定し、得られた値から多孔体の密度(ρs)を算出した。
得られた密度(ρs)と、公知のデータから求めたポリイミド系樹脂シートの密度(ρc)とを用いて、下記の計算式を用いて空隙率を算出した。
空隙率(P)=[1−ρs/ρc]×100
【0042】
(3)メソ孔とマクロ孔の平均孔径
メソ孔の平均孔径については、40000〜150000倍の電子顕微鏡写真中に観測される空孔をランダムに10個選択し、それぞれの空孔について、各空孔内に引くことができる最長の直線の長さをその空孔の孔径とし、10個の平均値を平均孔径とした。
マクロ孔の平均孔径については、100〜2000倍の電子顕微鏡写真中に観測される空孔をランダムに10個選択し、それぞれの空孔について、各空孔内に引くことができる最長の直線の長さをその空孔の孔径とし、10個の平均値を平均孔径とした。
なお、メソ孔がないものについては、マクロ孔の平均孔径は測定しなかった。
【0043】
(4)ガラス転移温度
試料5mgをアルミナパンに採り、島津製作所社製示差走査熱量計(DSC−60)を用いて、窒素雰囲気下で30℃から550℃まで20℃/分で昇温し、ガラス転移温度を測定した。ガラス転移温度が観測されない場合、「不検出」と表記した。
【0044】
(5)誘電率
得られたポリイミド系樹脂多孔体について、Agilent社製LCRメーター(4284A)を用いて、1MHzにおける誘電率を、非接触法により測定した。
【0045】
(6)熱伝導率
得られたポリイミド系樹脂多孔体について、英弘精機社製熱伝導率測定装置(HC-74/200VACUUM)を用いて、大気圧下、25℃付近の条件で、熱伝導率を測定した。
【0046】
(7)引張弾性率、引張強度、破断強度、および伸び
得られたポリイミド系樹脂多孔体について、33.0mm×5.0mmの長方形に切り出したものを試料とし、各試料について厚みの測定を行なった。
引張試験は、Instron社製2710−102装置を使用し、解析には、Bluehill Lite Softwareを使用し、2.0mm/分の条件で行なった。試験は六連で行い、計測値を試料の厚みで補正することにより、それぞれの引張弾性率(GPa)、引張強度(MPa)、破断強度(MPa)、および伸び(%)を算出したのち、それらの平均値を求めた。
【0047】
(8)曲げ
厚みが0.5mm以下のポリイミド系樹脂多孔体膜を作製し、60.0mm(長辺)×5.0mm(短辺)の長方形に切り出したものを試料とし、その短辺同士が接するようにつまみ合わせて10秒間保持した際に、裂け目やひび割れが目視により確認されなかった試料に関して、曲げを「可」と評価した。
【0048】
実施例1
テトラカルボン酸成分としてピロメリット酸二無水物(PMDA)を、ジアミン成分として4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を(PMDAとODAの合計が1.5質量部)、重合溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)とメタノールの混合溶媒(THF/メタノール=4/1(質量比))8.5質量部を用い、ポリイミド樹脂の前駆体溶液を作製した。得られたポリイミド樹脂前駆体溶液の粘度は4.4(Pa・s/22℃)であった。
ポリイミド樹脂前駆体溶液4.5gをガラスシャーレに移し、内容積470mLの高圧容器に導入した。
高圧容器をヒーターにて40℃に加熱、保温し、容器内の圧力が15MPaになるまで二酸化炭素を導入し、加圧二酸化炭素雰囲気下で16時間保持した。その後、二酸化炭素を高圧容器外に放出することで、15MPaから8MPaまで急減圧し、ついで、8MPaから0.2MPaまで、0.4MPa/分の速度で減圧を行なった。
試料を密閉容器から取り出し、マッフル炉中、窒素雰囲気下にて、室温から130分かけて350℃まで昇温させ、さらに350℃で80分加熱してイミド化処理を行い、ポリイミド樹脂多孔体を得た。
【0049】
実施例2
トリカルボン酸成分としてトリメリット酸無水物(TMA)を、イソシアネート成分として4,4′−ジアミノジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を(TMAとMDIの合計が1.5質量部)、重合溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)とメタノールの混合溶媒(THF/メタノール=4/1(質量比))8.5質量部を用い、ポリアミドイミド樹脂の溶液を作製した。
ポリアミドイミド樹脂溶液4.5gをガラスシャーレに移し、内容積470mLの高圧容器に導入した。
高圧容器をヒーターにて40℃に加熱、保温し、容器内の圧力が15MPaになるまで二酸化炭素を導入し、加圧二酸化炭素雰囲気下で16時間保持した。その後、二酸化炭素を高圧容器外に放出することで、15MPaから8MPaまで急減圧し、ついで、8MPaから0.2MPaまで、0.4MPa/分の速度で減圧を行なった。試料を130℃で10分乾燥後、ポリアミドイミド樹脂多孔体を得た。
【0050】
比較例1
ピロメリット酸二無水物と4,4′−ジアミノジフェニルエーテルの合計を2.0質量部、重合溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)8.0質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂前駆体の溶液を作製し、次いでポリイミド樹脂多孔体を得た。なおポリイミド樹脂前駆体溶液の粘度は5.9(Pa・s/30℃)であった。
【0051】
実施例1〜2と比較例1で得られたポリイミド系樹脂多孔体の特性値を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、実施例1〜2では、平均孔径が0.50μmを超え200μm以下の範囲にあるマクロ孔と平均孔径が0.1〜200nmの範囲にあるメソ孔とを有するポリイミド系樹脂多孔体が得られた。
一方、ポリイミド前駆体溶液を構成する溶媒として、2種以上の貧溶媒からなる混合溶媒を使用しなかった比較例では、得られたポリイミド樹脂多孔体は、平均孔径が0.1〜200nmの範囲にあるメソ孔を有しないものであった。