【解決手段】平均粒径が200nm以下のシリカ粒子が分散してなり、平均孔径が0.50μmを超え200μm以下のマクロ孔と平均孔径が0.1〜500nmのメソ孔とを有することを特徴とするシリカ粒子を含有する高分子多孔体。
平均粒径が200nm以下のシリカ粒子が分散してなり、平均孔径が0.50μmを超え200μm以下のマクロ孔と平均孔径が0.1〜500nmのメソ孔とを有することを特徴とするシリカ粒子を含有する高分子多孔体。
高分子多孔体を構成する高分子化合物が、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のシリカ粒子を含有する高分子多孔体。
請求項1に記載のシリカ粒子を含有する高分子多孔体を製造するための方法であって、高分子化合物とシリコンアルコキシドまたはその誘導体を含む混合溶液に、二酸化炭素を溶解させた後、シリコンアルコキシドの加水分解によるゾルゲル反応をおこない、その後、混合溶液の溶媒および二酸化炭素を除去することにより、高分子成形体内に空孔を形成することを特徴とするシリカ粒子を含有する高分子多孔体の製造方法。
高分子成形体内に空孔を形成した後、高分子多孔体にアンモニア水蒸気を吸収させることにより、高分子多孔体内に含まれるシリコンアルコキシドおよびシリカ中に含まれるアルコキシド成分のさらなる加水分解、ゾルゲル反応を促進する工程を設けることを特徴とする請求項5に記載のシリカ粒子を含有する高分子多孔体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のシリカ粒子を含有する高分子多孔体は、高分子多孔体に、平均粒径200nm以下のシリカ粒子が分散してなるものである。
本発明において、高分子多孔体を構成する高分子化合物は、溶媒に溶解できれば特に限定されないが、例えば、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテル系スルホン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、セルロース系樹脂が挙げられる。中でも、機械強度や低誘電性能に優れ、シリカ成分との親和性が高いことから、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。それぞれ単独もしくは複合物でもよく、特に制限されることなく、公知のものを用いることができる。
【0012】
本発明において、ポリアミドイミド系樹脂は、トリカルボン酸成分とジアミン成分とが、イミド結合とアミド結合した重合体である。
トリカルボン酸成分としては、例えば、トリメリット酸、ジフェニルエーテル−3,3′,4′−トリカルボン酸、ジフェニルスルホン−3,3′,4′−トリカルボン酸、ベンゾフェノン−3,3′,4′−トリカルボン酸などが挙げられる。
ジアミン成分としては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノ−2,2−ジメチルビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニルが挙げられる。
これらトリカルボン酸成分やジアミン化合物は、それぞれ単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
ポリアミドイミド系樹脂は、通常、無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応、または無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応により重合した後、イミド化することにより製造することができる。
【0013】
ポリアミドイミド系樹脂は、分子中にアミド基を多数有しているため、これを架橋可能な官能基として用いてもよい。また、イミドの一部が未反応の前駆体(アミック酸)の状態で反応性を残したものも存在し、このアミック酸を構成するアミド基やカルボキシル基を架橋可能な官能基として利用してもよい。また、ポリアミドイミド系樹脂は、上記の反応により製造されるため、末端にカルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基等が残存している場合が多く、これらを架橋可能な官能基として利用してもよい。
【0014】
本発明において、ポリエーテルイミド系樹脂は、エーテル結合を有する芳香族テトラカルボン酸成分とジアミン成分とがイミド結合した重合体である。エーテル結合を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミック酸をイミド化することによって得られるものが好ましい。
エーテル結合を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物などが挙げられ、ジアミン成分としては、前記ポリアミドイミド系樹脂を構成するジアミン化合物として例示したものが挙げられる。
なお、上記アミック酸を構成するアミド基やカルボキシル基を架橋可能な官能基として利用してもよい。また、ポリエーテルイミド系樹脂は、末端に、カルボキシル基、アミノ基等が残存している場合が多く、これらも架橋可能な官能基として利用してもよい。
【0015】
本発明において、ポリアミド系樹脂はアミド結合を有するものであり、アミノ酸、ラクタムまたはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするものである。
ポリアミド系樹脂を構成するアミノ酸としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などが挙げられ、ラクタムとしては、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどが挙げられる。
また、ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの芳香族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパンなどの脂環族ジアミンなどが挙げられる。
また、ジカルボン酸としては、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸1,3−シクロペンタンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。これらのポリアミド系樹脂を構成する成分は、各々単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
本発明において、ポリアミド系樹脂は、構成成分に芳香族成分を含むことが好ましく、半芳香族ポリアミド樹脂や芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。
【0016】
本発明において上記高分子化合物の成形体は多孔質であることが必要であり、本発明のシリカ粒子を含有する高分子多孔体における空隙率は、15〜99%であることが好ましく、30〜99%であることがより好ましく、60〜99%であることがさらに好ましい。空隙率は、電気特性(低誘電性)や伝熱特性(断熱性)に関係し、優れた性能を発揮するためには、より高いことが好ましい。
【0017】
本発明のシリカ粒子を含有する高分子多孔体は、平均孔径が0.1〜500nmのメソ孔を有することが必要であり、高い空隙率を有し、かつ、機械的強度を低下させないために、メソ孔の平均孔径はより小さいほうが好ましく、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、空気分子同士の衝突効率を落とし、エネルギー伝達効率を抑制することにより高い断熱性能を得ることができる、大気圧、室温下における空気の平均自由行程である70nm以下であることが特に好ましい。一方で、メソ孔の平均孔径が、小さくなるに従いメソ孔の空孔(セル)密度が低下し、同時に、空隙率も低下してしまうため、高い空隙率を維持するためには、メソ孔の平均孔径は、0.1nm以上であることが必要であり、0.5nm以上であることが好ましい。
【0018】
また、シリカ粒子を含有する高分子多孔体は、さらに、平均孔径が0.50μmを超え200μm以下のマクロ孔を有することが必要であり、高い空隙率を維持しつつ、機械的強度を低下させないために、マクロ孔の平均孔径は、比較的小さく、かつ均一性が高いことが好ましく、200μm以下であることが必要であり、100μm以下であることが好ましい。一方で、マクロ孔の平均孔径が、小さくなるに従いマクロ孔の空孔(セル)密度が低下し、空隙率も低下してしまうため、0.50μmを超えることが必要であり、0.8μm以上であることが好ましい。
【0019】
本発明のシリカ粒子を含有する高分子多孔体は、上記メソ孔とマクロ孔とを含有することが必要である。メソ孔とマクロ孔とを含有することにより、本発明のシリカ粒子を含有する高分子多孔体は、上記のように、高い空隙率を有するにもかかわらず、機械的強度が低下することがなく、高い絶縁性能、断熱性能を得ることができ、さらに従来の材料にはない柔軟性を持ち合わせた絶縁材料、断熱材料とすることができる。
本発明のシリカ粒子を含有する高分子多孔体の上記マクロ孔とメソ孔の空隙容量の合計に対する上記マクロ孔の空隙容量の容量比率は20容量%以上であることが好ましく、40容量%以上であることがより好ましく、60容量%以上であることがさらに好ましい。前記マクロ孔の容量比率を20容量%以上とすることにより、高い空隙率を有し、かつ、機械的強度の低下を抑制することができる。
なお、本発明においては、孔径が0.50μmを超える細孔をマクロ孔と定義し、孔径が0.1〜500nmの細孔をメソ孔と定義する。よって、IUPACによる提唱に従って定義されるもの、すなわち、直径が50nm以上の細孔をマクロ細孔、直径が2〜50nmの範囲にある細孔をメソ細孔と指称するものとは異なる。
【0020】
本発明のシリカ粒子を含有する高分子多孔体は、高分子多孔体にシリカ粒子が分散したものである。シリカ粒子は、比表面積が増大することにより、シリカ粒子同士または、高分子化合物とシリカ粒子の相互作用が強固になり、シリカ粒子を含有する高分子多孔体の機械的強度が向上するため、その平均粒径は、より小さい方が好ましく、200nm以下であることが必要であり、100nm以下であることが好ましく、100nm以下であればより平均粒径が小さい方が機械的強度の向上の効果が得られるため、下限値は規定されない。なお、シリカ粒子の形状は特に規定されず、例えば、中空状、エアロゲル状のシリカ粒子も含む。
【0021】
シリカ粒子を含有する高分子多孔体におけるシリカ粒子やシリカゲルなどのシリカ成分の含有量は、1〜50質量%であることが好ましい。シリカ成分の含有量が50質量%を超えると、シリカ粒子を含有する高分子多孔体の機械強度が極度に低下することがある。一方、1%未満であると、シリカ粒子による機械的強度の向上の向上に対する充分な効果は得られない。
【0022】
本発明のシリカ粒子を含有する高分子多孔体は、以下の製造方法によって製造することができる。
すなわち、高分子化合物とシリコンアルコキシドまたはその誘導体を含む混合溶液に、二酸化炭素を溶解させた後、シリコンアルコキシドの加水分解によるゾルゲル反応をおこない、その後、混合溶液の溶媒および二酸化炭素を除去することにより、高分子化合物の成形体内に空孔を形成することによってシリカ粒子を含有する高分子多孔体を製造することができる。
【0023】
本発明の製造方法においては、まず、高分子化合物とシリコンアルコキシドまたはその誘導体を含む混合溶液を作製する(工程(i))。
工程(i)において用いられる高分子化合物として、前述のようなポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂などが挙げられ、たとえば、ポリアミドイミド系樹脂として、市販されているソルベイアドバンストポリマーズ社製トーロン4000Tやトーロン4000TFなどを使用してもよく、また下記溶媒中で原料を反応させて製造したものでもよい。
なお、本発明においては、高分子化合物に、重合性不飽和結合を有するアミン、ジアミン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸の誘導体を添加してもよく、これにより熱硬化時に橋かけ構造を形成させることができる。
【0024】
混合溶液を製造するための溶媒としては、例えば、非プロトン性極性溶媒、エーテル系化合物、水溶性アルコール系化合物が挙げられる。
非プロトン性極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスフォラアミド等が挙げられる。
また、エーテル系化合物としては、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトヒドロフラン(THF)、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
また、水溶性アルコール系化合物としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。また、これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
なお、上記溶媒には、高分子化合物の種類によっては、単独では貧溶媒であるが、2種以上の貧溶媒を組み合わせることによって高分子化合物の良溶媒となるものがあり、本発明においては、このような貧溶媒を組み合わせてなる混合溶媒を使用してもよい。
本発明においては、25℃における高分子化合物に対する溶解性が1g/100ml以下の溶媒を貧溶媒と定義し、溶解性が1g/100mLを超える溶媒を良溶媒と定義する。
貧溶媒の組み合せとしては、水溶性エーテル系化合物と水溶性アルコール系の組合せが好適に用いられる。水溶性エーテル系化合物としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサン、1,2−ジメトキエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられ、その中でもTHFが好ましい。
また、水溶性アルコール系化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等が挙げられ、その中でもメタノールが好ましい。
【0026】
上記のように、工程(i)においては、高分子化合物と、シリコンアルコキシドまたはその誘導体を含む混合溶液を作製する。
本発明において、シリコンアルコキシドは任意のものを使用することができ、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエチルシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等、およびこれら化合物のアルキル置換体等の化合物が挙げられる。このような化合物の一種又は二種以上が適宜に選択されて、用いられることとなる。また、シリコンアルコキシドの誘導体としては、例えば、テトラメトキシシランオリゴマーを挙げることができる。
【0027】
高分子化合物とシリコンアルコキシドまたはその誘導体を含む混合溶液は、例えば、高分子化合物溶液にシリコンアルコキシドを直接、または、シリコンアルコキシドを任意の溶媒に溶解させ希釈したものを加え、攪拌することにより得られるが、この調製方法に限定されるものではない。なお、この工程で得られる高分子化合物とシリコンアルコキシドを含む混合溶液1は、
図1(a)に示すように、均一相を形成している。
【0028】
さらに、混合溶液を製造する際、使用する溶媒に可溶な他の樹脂を混合してもよい。また、シランカップリング剤や各種界面活性剤などを添加してもよい。
【0029】
続いて、前記混合溶液1に二酸化炭素を溶解させる(工程(ii))。
二酸化炭素と溶媒成分が、均一相を形成することで、溶媒成分の極性が遮蔽されるため、溶媒成分から高分子化合物が相分離する。その結果、混合溶液内の溶媒および溶質は、
図1(b)に示すように、二酸化炭素を含む溶媒成分の液滴2、高分子化合物3に分離した状態となる。ただし、溶媒成分はすべて液滴となるわけではなく、液滴とならない溶媒成分は高分子化合物3の近傍に存在している(溶媒成分4)。
混合溶液1に二酸化炭素を溶解させる方法としては、混合溶液1を加圧二酸化炭素雰囲気下に保持する方法が挙げられる。二酸化炭素の圧力は、3MPa以上であることが好ましい。
【0030】
そして、シリコンアルコキシドの加水分解によるゾルゲル反応を行う(工程(iii))。
工程(ii)において、二酸化炭素を含む液滴が生成したままの状態で、長時間保持することにより、工程(iii)では、高分子化合物3の近傍でシリコンアルコキシドの加水分解およびゾルゲル反応が進行し、高分子化合物3の近傍で、
図1(c)に示すように、シリカ粒子5が析出する。二酸化炭素を含む液滴が生成したままの状態を保持する時間、すなわち、混合溶液1を加圧二酸化炭素雰囲気下に保持する時間としては、4〜48時間であることが好ましく、6〜32時間であることがより好ましい。
【0031】
また、二酸化炭素の加圧を維持したままの状態で保持することにより、液相または超臨界相の二酸化炭素に溶媒成分が溶解し、液滴2および液滴とならない溶媒成分4に存在する溶媒成分が減少する一方で、溶媒成分が徐々に二酸化炭素へと置換され、液滴2および液滴とならない溶媒成分4の溶媒成分と二酸化炭素の組成比は、二酸化炭素の割合が多い状態へと変化する。
【0032】
その後、混合溶液の溶媒および二酸化炭素を除去することにより、高分子化合物3の成形体内にマクロ孔およびメソ孔を形成する(工程(iv))。
二酸化炭素の加圧を止めることにより、液滴2および液滴とならない溶媒成分4の二酸化炭素をシリカ粒子5および高分子化合物3の隙間から放出させることにより、
図1(d)に示すように、液滴2が存在していた所にマクロ孔6が形成される。
一方で、液滴とならない溶媒成分4で溶媒成分および二酸化炭素が存在していた箇所には、
図1(d)に示すように、メソ孔7が形成する。
【0033】
このようにして、本発明のシリカ粒子を含有する高分子多孔体を得ることができる。
すなわち、上記製造方法において、高分子化合物とシリコンアルコキシドまたはその誘導体を含む混合溶液を二酸化炭素により加圧後、液滴2および液滴とならない溶媒成分4に存在する溶媒成分を二酸化炭素に置換した後、溶媒および二酸化炭素を除去することによって、平均孔径が0.50μmを超え200μm以下であるマクロ孔および平均孔径が0.1〜500nmであるメソ孔を形成することができ、同時に、これら二種類の孔を有することでシリカ粒子を含有する高分子多孔体の空隙率を、15〜99%とすることができる。また、高分子化合物とシリコンアルコキシドまたはその誘導体を含む混合溶液を二酸化炭素により加圧した状態において、高分子化合物3の近傍で、シリカ粒子5を生成することによって、その平均粒径を200nm以下とすることができる。
なお、上記製造方法によって、マクロ孔は、シリカ粒子を含有する高分子多孔体に偏在することなく形成され、またメソ孔は、隣接するマクロ孔の間の高分子内に形成される。したがって上記製造方法によっては、マクロ孔とメソ孔とがそれぞれ偏在する構造、例えばマクロ孔のみを有する層とメソ孔のみを有する層とからなるような構造のシリカ粒子を含有する高分子多孔体は形成されない。また形成されるメソ孔は、独立気孔ではなく、メソ孔同士が連通した構造を有するものである。
【0034】
本発明の製造方法においては、高分子成形体内に空孔を形成した後、すなわち工程(iv)の後に、必要に応じて、高分子多孔体にアンモニア水蒸気を吸収させることにより、高分子多孔体に含まれるシリコンアルコキシドおよびシリカ中に含まれるアルコキシド成分のさらなる加水分解、ゾルゲル反応を促進する工程を設けてもよい。これにより、シリカ成分を高分子多孔体により強固に固定することができる。
【0035】
本発明のシリカ粒子を含有する高分子多孔体は、平均粒径200nm以下のシリカ粒子が分散することによって、機械的特性が低下しないので、特に、低誘電率絶縁材料として利用することができ、低誘電率、絶縁性、ハンダ耐性に優れるフレキシブルプリント基板等の回路基板、回路積層板に好適に用いることができる。
本発明のシリカ粒子を含有する高分子多孔体は、同様の理由から、断熱材料として利用することもでき、航空機や車両部材等の断熱性が要求される部位の断熱材をはじめ、防振材、吸音材、保温材、緩衝材、摺動材などの好適に用いることができる。
また、本発明のシリカ粒子を含有する高分子多孔体は、メソ孔を利用することにより、エアフィルター、触媒担体、燃料電池用膜材、カラム充填材としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、物性測定は、以下の方法によりおこなった。
【0037】
(1)電子顕微鏡写真
シリカ粒子を含有する高分子多孔体について、割断または凍結割断処理により断面出しを行い、蒸着操作を行わずに、日立テクノロジーズ社製電解放射型走査電子顕微鏡SEM−8020を用い、加速電圧0.8〜3.0kVにて観察を行ない、電子顕微鏡写真を撮影した。
また、シリカ粒子を含有する高分子多孔体について、ミクロトームを用いて切り出した断面に対して、白金蒸着を行い、日立ハイテク社製電解放射型走査電子顕微鏡S−800を用い、加速電圧10kVにて観察を行ない、マクロ孔の電子顕微鏡写真を撮影した。
【0038】
(2)シリカ粒子の平均粒径
電子顕微鏡SEM−8020を用いて得られた40000〜150000倍の電子顕微鏡写真において、観測されるシリカ粒子をランダムに10個選択し、それぞれのシリカ粒子について、各粒子内に引くことができる最長の直線の長さを測定し、10個の平均値を、シリカ粒子の平均粒径とした。
【0039】
(3)シリカ成分の含有量
シリカ粒子を含有する高分子多孔体5mgを白金パンに採り、Rigaku社製 Thermo plus EVOIIシリーズ TG−DTAスマートローダを用いて、空気雰囲気下で30℃から800℃まで10℃/分で昇温し、800℃での残存質量の割合を、シリカ粒子を含有する高分子多孔体中に含まれるシリカ含有量とした。
【0040】
(4)密度
シリカ粒子を含有する高分子多孔体から試料を切り出し、試料の面積、厚み、質量を測定し、得られた値から多孔体の密度(ρs)を算出した。
【0041】
(5)空隙率
上記(4)で求めたシリカ粒子を含有する高分子多孔体の密度(ρs)と、公知のデータから求めた前記シリカ粒子を含有する高分子多孔体と同じ含有量のシリカ成分を含有する高分子シートの密度(ρc)とを用いて、下記の計算式を用いて空隙率を算出した。
空隙率(P)=[1−ρs/ρc]×100
【0042】
(6)メソ孔とマクロ孔の平均孔径
メソ孔の平均孔径については、40000〜150000倍の電子顕微鏡写真中に観測される空孔をランダムに10個選択し、それぞれの空孔について、各空孔内に引くことができる最長の直線の長さをその空孔の孔径とし、10個の平均値を平均孔径とした。
マクロ孔の平均孔径については、100〜2000倍の電子顕微鏡写真中に観測される空孔をランダムに10個選択し、それぞれの空孔について、各空孔内に引くことができる最長の直線の長さをその空孔の孔径とし、10個の平均値を平均孔径とした。
【0043】
(7)誘電率
得られたシリカ粒子を含有する高分子多孔体について、Agilent社製LCRメーター(4284A)を用いて、1MHzにおける誘電率を、非接触法により測定した。
【0044】
(8)熱伝導率
得られたシリカ粒子を含有する高分子多孔体について、英弘精機社製熱伝導率測定装置(HC-74/200VACUUM)を用いて、大気圧下、25℃付近の条件で、熱伝導率を測定した。
【0045】
(9)引張弾性率、引張強度、破断強度、および伸び
得られたシリカ粒子を含有する高分子多孔体について、33.0mm×5.0mmの長方形に切り出したものを試料とし、各試料について厚みの測定を行なった。
引張試験は、Instron社製2710−102装置を使用し、解析には、Bluehill Lite Softwareを使用し、2.0mm/分の条件で行なった。試験は六連で行い、計測値を試料の厚みで補正することにより、それぞれの引張弾性率(GPa)、引張強度(MPa)、破断強度(MPa)、および伸び(%)を算出したのち、それらの平均値を求めた。
【0046】
(10)曲げ
厚みが0.5mm以下の、シリカ粒子を含有する高分子多孔体膜を作製し、60.0mm(長辺)×5.0mm(短辺)の長方形に切り出したものを試料とし、その短辺同士が接するようにつまみ合わせて10秒間保持した際に、裂け目やひび割れが目視により確認されなかった試料に関して、曲げを「可」と評価した。
【0047】
実施例1
トリカルボン酸成分としてトリメリット酸無水物(TMA)を、イソシアネート成分として4,4′−ジアミノジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を(TMAとMDIの合計が2.0質量部)、重合溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)8.0質量部を用い、120℃で2時間攪拌した後、180℃に昇温してさらに約2時間攪拌を行い、ポリアミドイミド樹脂溶液を作製した。
ポリアミドイミド樹脂溶液10.0質量部にテトラメトキシシラン(TMOS)2.0質量部を溶解し、常温で30分間攪拌したのち、得られた均一混合溶液のうち、4.5gをガラスシャーレに移し、内容積470mLの高圧容器に導入した。
高圧容器をヒーターにて40℃に加熱、保温し、容器内の圧力が15MPaになるまで二酸化炭素を導入し、加圧二酸化炭素雰囲気下で24時間保持した。その後、二酸化炭素を高圧容器外に放出することで、15MPaから8MPaまで急減圧し、ついで、8MPaから0.2MPaまで、0.4MPa/分の速度で減圧を行なった。
試料を100倍希釈したアンモニア水溶液を含む密閉容器に移し、40℃で1時間、オーブン内に保持した。130℃で10分乾燥後、シリカ粒子を含有する高分子多孔体を得た。
【0048】
実施例2
芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸クロライド(TPC)を、芳香族ジアミン成分としてm−フェニレンジアミン(m−PDA)を(TPCとm−PDAの合計が2.0質量部)、重合溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)8.0質量部を用い、芳香族ポリアミド樹脂溶液を作製した。すなわち、m−PDAをNMPに溶解し、撹拌しながら液温が40℃を超えないようにTPCを徐々に添加した。添加終了後、0.5時間撹拌を続けた後、水酸化ナトリウムにより中和した。
芳香族ポリアミド樹脂溶液10.0質量部にテトラメトキシシラン(TMOS)2.0質量部を溶解し、常温で30分間攪拌したのち、得られた均一混合溶液のうち、4.5gをガラスシャーレに移し、内容積470mLの高圧容器に導入した。
高圧容器をヒーターにて40℃に加熱、保温し、容器内の圧力が15MPaになるまで二酸化炭素を導入し、加圧二酸化炭素雰囲気下で24時間保持した。その後、二酸化炭素を高圧容器外に放出することで、15MPaから8MPaまで急減圧し、ついで、8MPaから0.2MPaまで、0.4MPa/分の速度で減圧を行なった。
試料を100倍希釈したアンモニア水溶液を含む密閉容器に移し、40℃で1時間、オーブン内に保持した。130℃で10分乾燥後、シリカ粒子を含有する高分子多孔体を得た。
【0049】
比較例1
ポリアミドイミド樹脂溶液にテトラメトキシシランを溶解しなかった以外は実施例1と同様の操作をおこなって、シリカ粒子を含有しない高分子多孔体を得た。
【0050】
比較例2
芳香族ポリアミド樹脂溶液にテトラメトキシシランを溶解しなかった以外は実施例2と同様の操作をおこなって、シリカ粒子を含有しない高分子多孔体を得た。
【0051】
実施例1〜2で得られたシリカ粒子を含有する高分子多孔体、比較例で得られたシリカ粒子を含有しない高分子多孔体の特性値を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、実施例1〜2では、平均粒径が200nm以下のシリカ粒子が分散し、平均孔径が0.50μmを超え200μm以下のマクロ孔と平均孔径が0.1〜500nmのメソ孔とを有するシリカ粒子を含有する高分子多孔体が得られた。
一方、比較例1〜2では、シリカ粒子の原料を使用しなかったため、得られた高分子多孔体は、シリカ粒子を含有するものではなかった。