【課題】流電陽極方式で電気防食を行う場合に防食電流量を所望の量になるように調整でき、且つ、比較的均一な防食電流を生じさせることができるコンクリート構造物の電気防食方法を提供することを課題とする。
【解決手段】内部に鋼材が配置されたコンクリートの表面上に金属層を形成し、前記金属層を陽極とし前記鋼材を陰極として両極間に防食電流を流すコンクリート構造物の電気防食方法において、前記鋼材の自然電位を測定して、前記測定の結果に基づいて、前記鋼材の自然電位が所定の値以下である箇所のコンクリートの表面上において、前記金属層と前記コンクリートの表面との間に防食電流を抑制する電流調整層を配置する。
内部に鋼材が配置されたコンクリートの表面上に金属層を形成し、前記金属層を陽極とし前記鋼材を陰極として両極間に防食電流を流すコンクリート構造物の電気防食方法において、
前記鋼材の自然電位を測定して、
前記測定の結果に基づいて、前記鋼材の自然電位が所定の値以下である箇所のコンクリートの表面上において、前記金属層と前記コンクリートの表面との間に防食電流を抑制する電流調整層を配置するコンクリート構造物の電気防食方法。
前記鋼材と電気的に連結される通電端子が設置される前記コンクリートの表面上の領域に、前記電流調整層を配置する請求項1乃至5のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の電気防食方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態のコンクリート構造物の電気防食方法(以下、単に電気防食方法とも言う。)は、内部に鋼材が配置されたコンクリートの表面上に金属層を形成し、前記金属層を陽極とし前記鋼材を陰極として両極間に防食電流を流すコンクリート構造物の電気防食方法において、前記鋼材の自然電位を測定して、前記測定の結果に基づいて、前記鋼材の自然電位が所定の値以下である箇所のコンクリートの表面上において、前記金属層と前記コンクリートの表面との間に防食電流を抑制する電流調整層を配置する。
【0024】
本実施形態の電気防食方法は、いわゆる流電陽極方式の電気防食方法である。
本実施形態においてコンクリートの表面上に形成される金属層は、内部に配置された鋼材を陰極とした場合に陽極として働く金属からなる層であれば特に限定されるものではなく、例えば、通常鋼材に用いられる鉄よりも自然電位が低い金属である亜鉛、アルミニウム、インジウム、マグネシウム等の金属、これらの金属の合金あるいは擬合金等からなる層が挙げられる。
【0025】
金属層は、金属の板状体や金属箔等をコンクリート表面に固定手段によって固定することで形成された金属層や、前記金属をコンクリート表面に溶射した溶射皮膜によって形成された金属層等が挙げられる。
【0026】
本実施形態の電気防食方法においては、前記金属層を形成する前に、まず、前記鋼材の自然電位を測定する。
鋼材の自然電位の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば、金属層を形成する前のコンクリートの表面において、照合電極を用いて測定する方法が挙げられる。
より具体的には、土木学会 JSCE-E−2000『コンクリート構造物における自然電位測定方法』に定める測定方法が挙げられる。
【0027】
かかる方法では、例えば、電圧計を介して鋼材と接続された銅硫酸銅電極等の照合電極をコンクリートの表面に設置し、当該箇所のコンクリート内部の鋼材の自然電位を測定する。通常、測定した自然電位が−350mV以下である場合には腐食している可能性が高いことが知られている。鋼材が腐食している場合、その鋼材の腐食箇所と陽極である金属層との間で防食電流がその他の部分より多く流れる。すなわち、コンクリート構造物全体としては、防食電流の電流量が不均一になる。
【0028】
防食電流の電流量がコンクリート構造物において不均一である場合には、陽極である金属層の劣化が進む虞がある。また、防食電流は比較的微弱な防食電流を長期間流しつづけることで鋼材の腐食を防止する方法であるため、あまりに防食電流量が多くなると、金属層の劣化が進む原因となる。従って、鋼材の防食が可能な程度の比較的微弱な電流を均一に流すことが長期間適切に電気防食する観点から望ましい。
尚、流電陽極式電気防食方法において好ましい防食電流の電流量としては、防食電流密度で1mA/m
2以上10mA/m
2以下、好ましくは2mA/m
2以上5mA/m
2以下程度である。
【0029】
すなわち、前記鋼材の自然電位を測定した結果、前記鋼材の自然電位が所定の値以下である箇所、前記金属層と前記コンクリートの表面との間に防食電流を抑制する電流調整層を配置することで、金属層の劣化を抑制しつつ、防食電流量をコンクリート構造物の中で均一にすることができる。
【0030】
鋼材の自然電位を前記方法で測定した結果を、例えば、コンクリート表面の画像において、自然電位の分布を電位図として表示してもよい。この場合には、コンクリートの表面上のどの箇所が、鋼材の自然電位が低い箇所に相当するのかを目視にて確認することができる。さらに、かかる電位図を画面上で表示させながら、コンクリート表面上にマーキングしてもよい。かかる場合には、より容易に電流調整層を配置すべき箇所を特定することができる。
【0031】
本実施形態において、所定の値とは、必要な防食電流に応じて予め設定した自然電位の値であれば特に限定される意味ではないが、例えば、所定の値として自然電位が−350mV以下であることが挙げられる。
所定の値が前記値以下である箇所において前記金属層と前記コンクリートの表面との間に前記電流調整層を配置することで、より確実に防食電流が大きくなりやすい箇所を特定して防食電流量を抑制できる。
【0032】
前記測定の結果に基づいて特定されたコンクリート表面の特定箇所、すなわち、前記鋼材の自然電位が所定の値以下である箇所において、前記金属層と前記コンクリートの表面との間に防食電流を抑制する電流調整層を配置する。
【0033】
前記電流調整層は、金属層と鋼材との間に流れる防食電流を抑制するような材からなる層であれば特に限定されるものではない。例えば、モルタル、樹脂等の金属層よりも電気抵抗値が大きい材料からなる層が挙げられる。
本実施形態の電流調整層は、モルタルを含む層であることが、金属層と鋼材との間の抵抗を高めやすいため好ましい。また、コンクリートとの密着性が良好であるため好ましい。
【0034】
前記電流調整層の厚みは、必要に応じて適宜設定できるが、例えば、1.0mm以上10.0mm以下、好ましくは3.0mm以上6.0mm以下の厚みが挙げられる。かかる厚みの範囲であることで、鉄筋が腐食しやすい箇所の防食電流量をより適切な範囲に調整することができる。
【0035】
前記電流調整層の電気抵抗値が1kΩ・cm以上200kΩ・cm以下、好ましくは20kΩ・cm以上50kΩ・cm以下である層になるように形成されていてもよい。
前記電流調整層の電気抵抗値がかかる範囲であることで、金属層と鋼材との間の抵抗を適切な範囲に調整することができる。よって、防食電流量をより均一に調整することができる。
【0036】
電流調整層に用いるモルタルは、特に限定されるものではないが、セメント、水、細骨材、セメント混和剤用のポリマー、収縮低減材、膨張材等のセメント混和材、繊維等を含むものが用いられる。モルタルを含む電流調整層が前記電気抵抗値になるように調整するためには、例えば、セメント用ポリマーをモルタルに配合することが挙げられる。
【0037】
電流調整層としてモルタルを用いる場合のモルタルの配合は特に限定されるものではないが、例えば、セメント20質量部〜60質量部、細骨材40質量部〜80質量部、水/セメント比20%〜40%等が挙げられる。
【0038】
前記モルタルは、例えば、コンクリート表面上に、スプレーで吹き付ける、あるいは、塗布することで層として形成することができる。
【0039】
本実施形態において、合成樹脂とフィラーとを含む層をさらに形成してもよい。
【0040】
合成樹脂とフィラーとを含む層とは、例えば、金属層と、該金属層と接触するコンクリート等との密着性を、フィラーによる凹凸のアンカー効果で高めるような粗面形成材層が挙げられる。
かかる粗面形成材層を電流調整層と共に形成することで、金属層の剥離を防止することができ、金属層の陽極としての寿命を長くすることができる。
【0041】
前記合成樹脂としては特に限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
フィラーとしては、前記合成樹脂と混合された場合に樹脂中で固体として存在して前記金属層の表面に凹凸を形成可能な材であれば特に限定されるものではないが、例えば、砂、人工骨材、アルミニウム粉、亜鉛粉等の金属粉あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0042】
粗面形成材層は、例えば、前記合成樹脂及び前記フィラーを混合した混合物を、コンクリート表面上に塗布することやスプレー等で塗布することで形成することができる。
【0043】
本実施形態の電気防食方法において、前記電流調整層は、モルタルの層と粗面形成材層とを含む多層構造であってもよい。この場合には、自然電位が所定の値以下である箇所のコンクリートの表面上において、前記金属層と該コンクリートの表面との間にモルタルの層及び粗面形成材層からなる電流調整層を配置し、その上に金属層を配置する。
尚、この場合、粗面形成材層は金属層と接する位置に配置されることが、金属層の剥離を防止する観点から好ましい。
【0044】
尚、前記粗面形成材層は、電流調整層の配置されていない箇所に配置されていてもよい。この場合、粗面形成材層は、金属層の剥離を防止する観点から金属層とコンクリート又は電流調整層との間に配置され、且つ、金属層の全面に接するように配置することが好ましい。
【0045】
前記のような電流調整層、及び必要に応じて合成樹脂とフィラーとを含む層を配置した後に、前述のような金属層を陽極として配置する。
金属層として溶射皮膜を形成する場合には、公知の溶射方法で金属成分をコンクリートの表面及びモルタルの層の表面に溶射する。溶射方法としては、例えば、ガス溶線式溶射法、ガス溶粉式溶射法、アーク式溶射法、及びプラズマ式溶射法等が挙げられるが、常温アーク式溶射法を用いることが好ましい。
金属層の厚みは特に限定されるものではないが、例えば、200μm〜300μm程度である。また、複数回溶射することにより所望の厚みにしてもよい。
【0046】
本実施形態の電気防食方法においては、前記鋼材と電気的に連結される通電端子が設置される前記コンクリートの表面上の領域に、前記電流調整層を配置してもよい。
【0047】
本実施形態の通電端子は、鋼材と金属層とを電気的に接続するための端子であって、陽極側の端子である。かかる通電端子は、一方の端部がコンクリートの表面に接触するように固定され、他方の端部が金属層の表面から突出するように配置される。
かかる通電端子が接触している付近の金属層は流電陽極としても機能することになる。従って、該位置において鋼材と金属層との間の防食電流量は大きくなる。よって、かかる位置に前記電流調整層を配置することで、コンクリート構造物における防食電流量をより均一に調整することができる。
【0048】
本実施形態の通電端子の材質は、通電端子として機能する材質であれば特に限定されるものではないが、例えば、チタン等が挙げられる。
通電端子の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、矩形状の板体を一方向に沿って約90℃の角度をつけて折り曲げられた側面視L字形状のもの等が挙げられる。
【0049】
かかる通電端子を配置するコンクリート表面上の領域には前記電流調整層が形成される。この場合、電流調整層が形成されるコンクリート表面上の領域は、通電端子が接触する面及びその周辺を含むように設定される。
通電端子が接触する面及びその周辺を含む領域とは、例えば、通電端子が電流調整層と接している面の周端縁部から電流調整層の周端縁部までの距離が、0.2m以上、好ましくは2.5m以上であるような領域が挙げられる。かかる領域に電流調整層を配置することで、通電端子の周囲において金属層と鋼材との間の防食電流を適切な範囲に抑制することができる。
【0050】
前記通電端子の一部を、コンクリート表面上に形成された電流調整層上に配置し、ボルト等の固定手段で固定する。このとき通電端子の他の一部が電流調整層の表面上及び金属層の表面から突出するように配置する。かかる突出する通電端子の一部に導線等を接続し、該導線を介して鋼材と金属層とを電気的に連結する。
【0051】
上述のとおり、本実施形態の電気防食方法によれば、内部に鋼材が配置されたコンクリートの表面上に金属層を形成し、前記金属層を陽極とし前記鋼材を陰極として両極間に防食電流を流すコンクリート構造物の電気防食方法において、前記鋼材の自然電位を測定して、前記測定の結果に基づいて、前記鋼材の自然電位が所定の値以下である箇所のコンクリートの表面上において、前記金属層と前記コンクリートの表面との間に防食電流を抑制する電流調整層を配置するために、鋼材の自然電位が所定の値以下である箇所、すなわち、鉄筋の腐食が進んでいて防食電流が流れやすい箇所の防食電流量を電流調整層によって抑制することができる。よって、コンクリート構造物における防食電流の量を均一に調整することができる。
【0052】
尚、本実施形態にかかるコンクリート構造物の電気防食方法は以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例について説明する。
《試験1》
図1に示すような陽極構成体A1〜D1を形成した。
金属層は厚さ300μmの亜鉛、アルミニウム、インジウムからなる金属溶射皮膜から形成し、電流調整層としてのモルタルは厚さ1mmの層として形成した。尚、モルタルの配合は以下のとおりである。
セメント(住友大阪セメント社製)50重量部
骨材(細骨材、栃木産)50重量部
水セメント比 30%、
【0054】
粗面形成材層は、日本ペイント社製 導電性プライマー(商品名 ハイポン)を厚さ0.1mmの層となるように塗布して形成した。尚、粗面形成材層は金属層の全面に配置されるように形成した。
【0055】
コンクリートは、塩化物イオン量が3.0kg/m
3以上となるようにセメント300kg/m
3、細骨材844kg/m
3、粗骨材934kg/m
3、塩化物イオン源としてのNaClを外割りで4.9kg/m
3を混合して作製した。
【0056】
鋼材は異形鉄筋D10を用いた。尚、鋼材はコンクリートの表面からかぶり深さ50mmの位置に埋設した。
【0057】
コンクリート表面はバキュームブラストをかけ陽極構成体A1〜D1を形成した。
鋼材及び金属層は導線を介して電気的に接続し、各陽極構成体A1〜D1には無抵抗電流計(商品名 HM-104A、北斗電工社製)を配置して防食電流を測定した。
測定時のコンクリートは湿度90%の湿潤環境に設置した。
防食電流の通電開始時(スイッチを入れた時)から0.5時間、24時間、3日、7日、28日、56日、91日経過時の電流密度を表1に示す。
尚、各陽極構成体の構成の概略は以下のとおりである。
陽極構成体A1:コンクリート表面ブラスト+溶射被膜
陽極構成体B1:コンクリート表面ブラスト+粗面形成材層+溶射被膜
陽極構成体C1:コンクリート表面ブラスト+モルタル+溶射被膜
陽極構成体D1:コンクリート表面ブラスト+モルタル+粗面形成材層+溶射被膜
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、モルタルの層を配置した陽極構成体C1及びD1は、コンクリート表面に溶射皮膜のみを配置した陽極構成体A1及び粗面形成材を配置したB1に比べて、いずれも防食電流密度が低く抑制されていた。
【0060】
《試験2》
陽極構成体A2〜E2を形成した。陽極構成体A2はA1と同様のものであり、陽極構成体B2〜D2は試験1の陽極構成体D1と同様のものであってモルタルの厚みを表2に記載の厚みに変化させたものである。
試験1と同様に防食電流を測定し、通電開始時から28日、56日、91日経過時の電流密度を表2に示す。
尚、各陽極構成体の構成の概略は以下のとおりである。
陽極構成体A2:コンクリート表面ブラスト+溶射被膜
陽極構成体B2:コンクリート表面ブラスト+調整モルタル(0.5mm)
+粗面形成材層+溶射被膜
陽極構成体C2:コンクリート表面ブラスト+調整モルタル(1.0mm)
+粗面形成材層+溶射被膜
陽極構成体D2:コンクリート表面ブラスト+調整モルタル(10.0mm)
+粗面形成材層+溶射被膜
陽極構成体E2:コンクリート表面ブラスト+調整モルタル(13.0mm)
+粗面形成材層+溶射被膜
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すように、モルタルの厚みが厚くなるにつれて防食電流密度が小さく、すなわち電流量が少なくなることがわかる。厚みが1.0mm〜10.0mmである陽極構成体B2、C2及びD2では防食電流としてこのまし範囲の電流密度であった。
【0063】
《試験3》
図2に示すような陽極構成体A3〜C3を形成した。陽極構成体A3はA1と同様のものであり、陽極構成体B3、C3は試験1の陽極構成体D1と同様のものであってモルタルの厚みを表3に記載の厚みに変化させたものである。
また、陽極構成体A’3〜C’3は、モルタルがない以外は前記陽極構成体A3と同様のものを形成した。
前記各陽極構成体A3〜C3及びA’3〜C’3は、試験1で用いたコンクリートの塩化物イオン量がそれぞれ表3に示すように塩化物イオン量を調整したものの上に形成した。
陽極構成体A3:コンクリート表面ブラスト+粗面形成材層+溶射被膜
陽極構成体B3:コンクリート表面ブラスト+調整モルタル(3.0mm)
+粗面形成材層+溶射被膜
陽極構成体C3:コンクリート表面ブラスト+調整モルタル(8.0mm)
+粗面形成材層+溶射被膜
陽極構成体A’3〜C’3:コンクリート表面ブラスト+粗面形成材層+溶射被膜
試験1と同様に防食電流を測定し、通電開始時から28日、56日、91日経過時の電流密度を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3に示すように、コンクリート中の塩化物イオン量が多くなると、モルタルが形成されているB3及びC3は、モルタルが形成されていないB’3及びC’3に比べて防食電流密度が抑制されていることがわかる。
【0066】
《試験4》
下記に示すような陽極構成体を、表4及び5に示す塩化物イオン濃度になるように調整した以外は試験1で用いたコンクリートと同様のコンクリートの上に形成した。
以下のとおりである。
陽極構成体A4〜E4:コンクリート表面ブラスト+粗面形成材層+溶射被膜
陽極構成体A5及びB5:コンクリート表面ブラスト+粗面形成材層+溶射被膜
陽極構成体C5〜E5:コンクリート表面ブラスト+粗面形成材層+調整モルタル1mm +溶射被膜
【0067】
各陽極構成体の防食電流を通電前に自然電位を測定した。
自然電位は、各コンクリートの表面において、照合電極(装置名 飽和銅硫酸銅電極、日本防蝕工業社製)を用いて、土木学会 JSCE-E−2000『コンクリート構造物における自然電位測定方法』に定める測定方法で測定した。
その後、試験1と同様に防食電流を測定し、通電開始時から28日、56日、91日経過時の電流密度を表4、5に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
表4に示すように、自然電位が−350mV以下であるD4、E4においては、モルタルが形成されていない場合には、防食電流密度が高いことがあきらかであった。
モルタルが形成されたC5乃至E5については、自然電位が−350mV以下である場合でも、例えば、D4、E4とD5、E5をそれぞれ比較すると防食電流密度は低く抑制されていた。また、C5は、通電直前の自然電位がB5と同程度であり、かつ-350mVより+側であるが、モルタル層によって防食電流密度が極めて低くなっていた。
以上の結果から、自然電位を測定して所定の値よりも低い箇所のコンクリート表面にモルタルの電流調整層を設ければ、防食電流量を均一にすることができるが、所定の値よりも高い箇所にも電流調整層を設けてしまうと防食電流量の不均一が生じることがわかる。
【0071】
《試験5》
図3に示すように、コンクリートの表面にモルタルの層を形成し、さらに通電端子を配置して、金属層を形成した。
通電端子としては30cm×30cmの長方形のチタン製の板状を、中央部で直角に折り曲げて側面視L字状に形成された端子を用いた。
【0072】
本試験で用いたコンクリートは試験1と同様のコンクリートであり、該コンクリート表面に試験1と同様の電流調整層としてのモルタルの層を所定の領域に形成した。該モルタルの層の上に 通電端子をボルトで固定した。さらに、試験1で用いた金属材料と同様の材料を溶射した溶射皮膜で金属層を形成した。
【0073】
モルタルを形成する領域は上面視矩形状の領域であり、以下のようなサイズに設定した。すなわち、
図3に示すように、通電端子の周端縁からモルタルの層の周端縁までの距離A(モルタルの領域の矩形状の一辺との最短距離)が0.1m、0.2m、0.5m、1m、2m、2.5mになるように、モルタルの層を形成した。
比較として、モルタルの層を形成しなかった以外は、同様の構造体を作成した。防食電流に加え、外部電源装置(装置名HA-151B、北斗電工社製)を用いて金属層の面積あたり50mA/m
2の電流を供給し、3ヶ月間通電した。その後、目視にて金属層の劣化状況を観察した。劣化状況の判断は、金属層がコンクリートから浮いている箇所、はがれている箇所が生じている場合には劣化していると判断した。
結果は、距離Aが0.1mmの構造体は、モルタルの層を形成しなかったものと同等程度に劣化していた。一方、距離Aが0.2mm〜2.5mmの構造体は、モルタルの層を形成しなかったものと比較して、浮きやはがれが少なく、すなわち劣化が抑制されていた。