【解決手段】陶磁器製の基材2と、基材2の一面2aに設けられた無機薄膜3と、を備え、無機薄膜3の形成材料は、酸化ジルコニウムを含み、一面2aは、無機薄膜3が設けられた第1領域AR1と、表面の形成材料がケイ酸塩を含む第2領域AR2と、を有し、第1領域AR1は、平面視において一面2aの20%以上90%以下の面積に設定されるとともに、平面視において一面2aの輪郭全体の90%以下と接している床用タイル1。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態に係る床用タイルおよび床用タイルの製造方法について説明する。
なお、以下の実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0021】
[床用タイル]
本実施形態の床用タイルは、陶磁器製の基材と、前記基材の一面に設けられた無機薄膜と、を備え、前記無機薄膜の形成材料は、酸化ジルコニウムを含み、前記一面は、前記無機薄膜が設けられた第1領域と、表面の形成材料がケイ酸塩を含む第2領域と、を有し、前記第1領域は、平面視において前記一面の20%以上90%以下の面積に設定されるとともに、平面視において前記一面の輪郭全体の90%以下と接している。
以下、順に説明する。
【0022】
図1は、本実施形態の床用タイル1を示す模式図である。床用タイル1は、基材2と、基材2の一面2aに設けられた無機薄膜3とを有する。一面2aにおいて、無機薄膜3が設けられた領域を第1領域AR1、無機薄膜3が設けられていない領域を第2領域AR2と称する。
【0023】
基材2は、陶磁器製の部材である。基材2は、例えば
図1に示すように、板状を呈している。また、基材2の平面視形状は制限がなく、
図1に示すように矩形あってもよく、多角形であってもよく、円形、不定形であってもよい。なお、「平面視」とは、一面2aの法線方向上方から一面2aを見た視野のことを指す。
【0024】
また、本明細書において「陶磁器」には「陶器」と「磁器」とを含む。「陶器」とは、粘土を含む原料を成形し焼成して得られるものであって、素地が多孔質であり、吸水率が22%以下のものである。「磁器」とは、粘土を含む原料を成形し焼成して得られるものであって、素地が緻密で硬く、吸水率が1%以下のものである。
【0025】
基材2の一面2aには、釉薬層が設けられていてもよく、釉薬層がなくてもよい。また、基材2の一面2aは、研磨されていてもよく、凹凸が設けられていてもよい。
【0026】
一面2aには、無機薄膜3が設けられた第1領域AR1と、無機薄膜3が設けられていない第2領域AR2が設定されている。無機薄膜3は、無機材料である酸化ジルコニウムを形成材料として含む。すなわち、第1領域AR1の表面の形成材料は、酸化ジルコニウムを含む。図では、無機薄膜3は、平面視矩形を呈し一面2aの4箇所に行列状に設けられている。
【0027】
また、無機薄膜3には、本発明の効果を損なわない範囲において、他の物質を含んでいていてもよい。
【0028】
第2領域AR2の表面は、表面の形成材料がケイ酸塩を含む。基材2の全体がケイ酸塩を含む材料で形成された結果、第2領域AR2の表面の形成材料がケイ酸塩を含むこととしてもよい。また、基材2の表面にのみ、形成材料がケイ酸塩を含む層を一層形成し、当該層の表面を外部に露出させることで、表面の形成材料がケイ酸塩を含む第2領域AR2としてもよい。図では、第2領域AR2は、一面2aに格子状に設けられている。
【0029】
発明者の検討により、このような第1領域AR1と第2領域AR2とでは、相対的に第2領域AR2の方が高い親水性を示すことが分かった。そのため、図に示すように、表面の形成材料が異なる第1領域AR1と第2領域AR2が隣り合っていると、一面2aを濡らした水は、第1領域AR1ではじかれ第2領域AR2に移動し、第2領域AR2に沿って排出されることが分かった。
これについては、以下のように想定している。
【0030】
すなわち、第1領域AR1と第2領域AR2とでは、表面の形成材料が異なるため、水や有機物の吸着しやすさが異なる。第2領域AR2の表面を形成するケイ酸塩は水を優先的に吸着し、第1領域AR1の表面を形成する酸化ジルコニウムは有機物を優先的に吸着するものと推定された。第1領域AR1が有機物質を吸着すると、自ずと水を吸着しにくくなるため、相対的に水を吸着しやすい第1領域AR1に排水すると考えられる。
【0031】
ここで、第1領域AR1が吸着する有機物は、使用によって付着する「汚れ」と捉えることもできる。しかし、第1領域AR1には、外観に影響するほどの汚れ(有機物)が付着するわけではないため、審美性を損なうことはない。
【0032】
このような親撥水性の違いは、第1領域AR1に設けられた無機薄膜3により形成されている。酸化ジルコニウムを含む無機薄膜3は、シリコーン樹脂やフッ素樹脂等の撥水性を発現する有機化合物と比べると、著しく高い耐摩耗性が得られる。そのため、使用による劣化(=撥水性の性能低下)を抑制することができる。
【0033】
また、このような撥水性を発現する有機化合物を用いた撥水層と比べると、無機薄膜3は滑りにくく、歩行者の滑りや転倒を抑制することができる。
【0034】
排出される水は、施工位置において複数敷き詰められた床用タイル1の間の目地に流れ込み、拡散する。また、床用タイル1の一面2aに水が残存するとしても、一面2aに設けられた親撥液パターンにより一面2aの水は分割され、水滴が小さくなる。そのため、早期に乾燥させることが可能となる。
【0035】
本実施形態において、無機薄膜3は、一面2a全体の面積に対し、20%以上90%以下の面積を覆うように設けられている。すなわち、第1領域AR1は、平面視において一面2aの20%以上90%以下の面積に設定されている。第1領域AR1の設定面積が20%以上となると、一面2aが濡れた場合に、相対的に親水性が高い第2領域AR2に滞留する水が少なくなり、十分に排水されやすくなる。また、第1領域AR1の設定面積が90%以下であると、第1領域AR1の表面ではじかれた水が第1領域AR1の表面で水滴として滞留しにくく、十分に排水されやすくなる。
【0036】
また、第1領域AR1は、基材2の外周(平面視における一面2aの輪郭2b)全体の90%以下に接している必要がある。床用タイル1表面を濡らす水は、床用タイル1の表面から床用タイル1の外周に向けてタイル外に排出される必要があるが、第1領域AR1と輪郭2bとの接触部分が輪郭2b全体の90%以下であると、一面2aから排水する第2領域AR2が輪郭2b全体の10%より多く接することとなる。すると、一面2aを濡らす水が、第2領域AR2を介して床用タイルの外部に排出されやすくなる。
【0037】
また、第2領域AR2は、平面視において一面2aの輪郭2bに接していると好ましい。第2領域AR2が複数に分割されている場合には、すべての第2領域AR2が平面視において一面2aの輪郭2bに接していると好ましい。第2領域AR2の周囲がすべて第1領域AR1で囲まれて孤立した状態になると、そのような第2領域AR2(親水部分)の表面に滞留した水は、周囲の第1領域AR1(撥水部分)で閉じ込められ、排水しにくくなるが、一面2aの輪郭2bに接していると好適に排水可能となる。
【0038】
また、第1領域AR1は、第1領域AR1に対し複数箇所で内接する円のうち最大の円の直径が10cm以下となる形状であることが好ましい。上記最大の円の直径が10cm以下であると、第1領域AR1の表面に存在可能な水滴は直径10cm以下となる。
【0039】
図2は、足の裏の模式図である。成人男子が第1領域AR1を靴で踏むことを想定した場合、成人男子の足の裏のうち、内側足根小球10に対応する靴底や、踵20に対応する靴底が、最も広い面積で第1領域AR1と接することとなる。第1領域AR1の表面に存在可能な水滴が直径10cm以下であると、多くの成人男子で内側足根小球10に対応する靴底や、踵20に対応する靴底の全てを使って水滴を踏むことがなく、靴底が水滴外に接地することとなる。そのため、第1領域AR1の形状を上記形状としておくと好ましい。
本実施形態の床用タイル1は、以上のような構成になっている。
【0040】
[床用タイルの製造方法]
次に、本実施形態の床用タイルの製造方法を説明する。
本実施形態の床用タイルの製造方法は、陶磁器製の基材の一面にジルコニウム原子を含む液状物を塗布する工程と、酸素原子の存在下で前記ジルコニウム原子を加熱し、酸化ジルコニウムを含む無機薄膜を形成する工程と、を有する。
以下、順に説明する。
【0041】
(塗布する工程)
陶磁器製の基材としては、上述の基材2を用いる。基材2は、基材2の形成材料を基材2の形状に成形した後に焼成することで得られる。本実施形態の床用タイルの製造方法は、塗布する工程に先立って、基材2を形成するための焼成工程を有していてもよい。
【0042】
ジルコニウム原子を含む液状物は、ジルコニウムイオンを含む溶液であってもよく、ジルコニウム原子を含む物質が分散した分散液であってもよい。
【0043】
上記液状物が溶液である場合、溶媒は水であってもよく、アルコールなど極性を有する有機溶媒(極性溶媒)であってもよい。また、水と極性溶媒とを併用してもよい。溶媒に水を用いると環境負荷が低く、製造コストを抑えることができる。溶媒に有機溶媒を用いると、溶媒の除去を低温で行うことができ、後述の無機薄膜を形成する工程を短時間で実施可能となる。
【0044】
ジルコニウムイオンを含む溶液について、溶質は、ジルコニウム塩やジルコン酸塩を用いることができ、選択する溶媒に対して可溶であればよい。ジルコニウム塩としては、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、クエン酸ジルコニウム等、ジルコニウムの鉱酸、有機酸の塩を挙げることができる。
【0045】
ジルコン酸塩としては、炭酸ジルコニウムアンモニウムが例示される。なお、ジルコン酸塩としては、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムリチウム、炭酸ジルコニウムナトリウムのようにアルカリ金属イオンを含むものよりも、炭酸ジルコニウムアンモニウムのようにアルカリ金属イオンを含まないもののほうが好ましい。原料のジルコニウム源がアルカリ金属を含んでいると、形成される無機薄膜がアルカリ金属を含むこととなるが、無機薄膜にアルカリ金属を含むと、膜中のアルカリ金属が水分を吸着しやすく、撥水性が低下するおそれがある。しかし、炭酸ジルコニウムアンモニウムを原料として用いる場合、アルカリ金属が混入するおそれがなく、上記撥水性の低下を抑制することができる。
【0046】
その他、溶質として、ジルコニウムを含む有機金属化合物を用いることもできる。
【0047】
上記液状物が分散液である場合、分散媒は、上記溶媒と同様のものを選択することができる。
【0048】
ジルコニウム原子を含む物質が分散した分散液について、分散質は、酸化ジルコニウムコロイドを挙げることができる。また、分散質として、ジルコニウムを含む有機金属化合物を用いることもできる。
【0049】
また、液状物には、本発明の効果を損なわない範囲で、界面活性剤、骨材、樹脂等を適宜添加してもよい。
【0050】
液状物の塗布は、スプレー、ローラー、刷毛塗り等を採用することができる。さらに、基材2の一面において液状物を塗布する領域と塗布しない領域とを塗り分けるため、公知の印刷技術を適用するとよい。
【0051】
(無機薄膜を形成する工程)
次に、基材上に液状物を塗布した後、溶媒または分散媒を除去し、加熱して酸化ジルコニウムを含む無機薄膜を形成する。溶媒または分散媒の除去は、自然乾燥により加熱前に行ってもよく、加熱と同時に行ってもよい。
【0052】
加熱の温度範囲は、40℃以上であり、基材の表面の軟化温度以下であると好ましく、100℃以上であり、基材の表面の軟化温度より100℃低い温度以下であるとより好ましい。
【0053】
基材を加熱すると、基材表面に塗布されたジルコニウム原子が酸化して酸化ジルコニウムを含む無機薄膜が形成される。このとき加熱温度が40℃以上であると、基材の表面の温度が40℃以上となり、十分に強固な無機薄膜が形成される。加熱温度が100°以上であると、より強固な無機薄膜が形成される。
【0054】
加熱温度は、基材の表面の軟化温度より低い温度である。基材の表面が釉薬処理されている場合、表面の軟化温度は当該釉薬の軟化温度である。釉薬の軟化温度は、例えば600℃である。基材の表面が釉薬処理されていない場合、基材表面の軟化温度は例えば1000℃以上の高温となる。この場合、表面の軟化温度は、用いる基材の材料に依存して変化する。
【0055】
加熱温度の上限を、基材の表面の軟化温度以下とすると、無機薄膜を形成すべき酸化ジルコニウムなどの生成物が基材表面の軟化した部分に沈み込んでしまうおそれがなく、無機薄膜が好適に基材表面に局在化するため好ましい。加熱温度の上限が、基材表面の軟化温度より100℃低い温度であると、無機薄膜の沈み込みをより確実に抑制可能となるため好ましい。
【0056】
このような無機薄膜の形成は、予め基材を40℃以上、且つ基材の表面の軟化温度以下に加熱した後に(加熱する工程)、加熱された基材上に上記液状物を塗布することによっても可能である。この場合、所定の温度範囲に加熱された基材に対して液状物を塗布することで、上述の塗布する工程と無機薄膜を形成する工程とを同時に行うことができる。液状物の塗布は、上述した塗布方法を採用することができる。
【0057】
さらに、本実施形態の床用タイルの製造方法が、塗布する工程に先立って、基材を形成するための焼成工程(焼成する工程)を有している場合、焼成後に焼成温度から冷却される基材の温度が、40℃以上、且つ基材の表面の軟化温度以下の温度範囲に含まれる間に液状物を塗布することによっても、無機薄膜を形成することができる。この場合、基材の焼成時の加熱温度を利用して無機薄膜を形成することができるため、一度冷却した基材を再度加熱して無機薄膜を形成する場合と比べて、使用エネルギーを削減することができ、製造時間を短縮することが可能となる。
本実施形態の床用タイルの製造方法は、以上のような構成となっている。
【0058】
以上のような構成によれば、水はけが良く滑りにくい表面を有する床用タイルを提供することができる。また、このような床用タイルを容易に製造することが可能な床用タイルの製造方法を提供することができる。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0060】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
以下の実施例、比較例については、得られた床用タイルについて、次の試験を行い評価した。
【0062】
(排水試験)
床用タイルを傾斜角1度で傾斜させた後、表面全体に水をかけ3分間静置した。
図3〜5において、矢印方向が傾斜方向を示し、矢印が示す方向が下方であることを示す。静置後、床用タイルの表面全体に対する表面を覆っている水の割合(面積比:%)を観察した。評価は、5%刻みで行った。
【0063】
(滑りやすさの評価)
得られた床用タイル上を革製靴底の靴で歩行し、滑りやすさを評価した。評価は三段階とし、10cm以上滑る場合を「滑りやすい(得点1)」、0cmより多く10cm未満滑る場合を「やや滑りにくい(得点2)」、滑らない場合を「滑らない(得点3)」と評価した。
【0064】
各床用タイルについて、表面が乾燥している場合と濡れている場合との2つの場合で評価を行った。
【0065】
[水準1]
(実施例1)
市販の表面が平滑な外装用のタイル(基材)(300×300mm、磁器製、表面釉薬処理)の一面に、塩化ジルコニウム水溶液(ZrO
2換算濃度で3質量%)を塗布した。次いで、120℃のオーブンに1時間放置することで、表面に酸化ジルコニウム皮膜(無機薄膜)を形成した床用タイルを得た。
得られた床用タイルを空気中で一日放置した後に、上述の方法で評価した。
【0066】
水溶液の塗布は、
図3に示すような縞模様となるように筆塗りして行った。図中、符号Aで示す着色部が水溶液の塗布部分であり、符号Bで示す部分が非塗布部分である。無機薄膜による被覆割合は、一面の20%とした。
【0067】
被覆割合は、1本の非塗装部分Bの幅を10mmに固定し、塗装部分Aの幅と非塗装部分Bの数とを制御して、塗装部分の割合を制御することにより調整した。300×300mmの基材において、一面の面積の10%は、3本の非塗装部分Bの面積に対応している。被覆面積20%の場合、非塗装部分Bの割合は一面の面積の80%となることから、24本の非塗装部分Bを設けることで、被覆面積20%の床用タイルとした。
【0068】
塗布のパターンは、縞模様の延在方向と交差する方向におけるタイルの辺に、塗装部分Aが必ず接し、且つ必要数の非塗装部分Bが等間隔となるように設定した。具体的には、25本の塗装部分Aと24本の非塗装部分Bとを交互に配置し、24本の非塗装部分Bが互いに等間隔となるように、塗装部分Aの幅を設定した。
【0069】
(実施例2〜8)
無機薄膜による被覆割合を、一面の30%(実施例2)〜90%(実施例8)まで、10%ずつ変化させたこと以外は、実施例1と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。無機薄膜による被覆割合10%毎に、非塗装部分Bの本数を3本単位で増減させ、複数の非塗装部分Bの間隔が等間隔となるように塗装部分Aの幅を変化させて被覆割合を制御した。
【0070】
(比較例1〜3)
無機薄膜による被覆割合を、一面の0%(比較例1)、10%(比較例2)、100%(比較例3)としたこと以外は、実施例1と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0071】
(比較例4〜13)
撥水剤として市販のシリコーン撥水剤(ドライシールS、東レ・ダウコーニング社製)を用い、表面にシリコーン被膜を形成した床用タイルを得た。シリコーン撥水剤を用い、シリコーン被膜による被覆割合を、一面の10%(比較例4)〜100%(比較例13)まで、10%ずつ変化させたこと以外は、実施例1と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0072】
実施例1〜8、比較例1〜13の床用タイルについて、排水試験と滑りやすさの評価を行った結果を表1に示す。
(1)排水試験において、水の残存割合が65%未満であること、(2)滑りやすさの評価において、乾燥時および湿潤時の両方で未処理品(比較例1)と同等以上の得点があること、という2つの条件を満たすものを良品「○」と評価し、いずれか一方または両方を満たさないものを不良品「×」と評価した。
【0073】
【表1】
【0074】
評価の結果より、撥水部の材料が酸化ジルコニウム被膜であると、乾燥時に滑りにくいことが分かった。
また、撥水部に酸化ジルコニウム被膜を用いた床用タイルにおいて、排水試験の結果が小さいと、湿潤時の滑りやすさが良好になることが分かった。
【0075】
[水準2]
(実施例9)
水溶液の塗布を、
図4の着色部に示すようにタイル一面の周縁部に行ったこと以外は、実施例1と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0076】
形成した無機薄膜は、幅3mmの平面視開環状である。開環部分はタイルの外周に接している。無機薄膜がタイルの外周に接している割合を90%とした。排水試験においては、無機薄膜の開環部分が設けられた側を、傾斜方向下方とした。
【0077】
(実施例10、11)
開環部分の幅(
図4に符号Lで示す)を制御し、無機薄膜がタイルの外周に接している割合を85%(実施例10)、80%(実施例11)としたこと以外は、実施例1と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0078】
(比較例14、15)
開環部分の幅(
図4に符号Lで示す)を制御し、無機薄膜がタイルの外周に接している割合を100%(比較例14、閉環)、95%(比較例15)としたこと以外は、実施例1と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0079】
実施例9〜11、比較例14,15の床用タイルについて、排水試験を行った結果を表2に示す。上記[水準1]の結果より、撥水部の材料として酸化ジルコニウム皮膜を用いると、乾燥時の滑りやすさは良好な結果となることが予想できる。そのため、湿潤時の滑りやすさについて、湿潤時の滑りやすさと密接な関係のある排水試験の結果から、湿潤時の滑りやすさを評価した。
【0080】
本水準においては、排水試験の結果について、比較例14(無機薄膜が閉環したもの)の水の残存割合を100%とし、実施例9〜11および比較例15は、比較例14の結果に対する比(単位:%)を示している。排水試験において、水の残存割合が65%未満であるものを良品「○」と評価し、水の残存割合が65%以上であるものを不良品「×」と評価した。
【0081】
【表2】
【0082】
[水準3]
(実施例12)
炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液(ZrO
2換算濃度で3質量%)を塗布したこと、無機薄膜による被覆割合を一面の60%としたこと以外は、実施例1と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0083】
(比較例16)
炭酸ジルコニウムリチウム水溶液(ZrO
2換算濃度で3質量%)を塗布したこと以外は、実施例12と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0084】
(比較例17)
炭酸ジルコニウムナトリウム水溶液(ZrO
2換算濃度で3質量%)を塗布したこと以外は、実施例12と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0085】
(比較例18)
炭酸ジルコニウムカリウム水溶液(ZrO
2換算濃度で3質量%)を塗布したこと以外は、実施例12と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0086】
実施例12、比較例16〜18の床用タイルについて、排水試験を行った結果を表3に示す。排水試験において、水の残存割合が65%未満であるものを良品「○」と評価し、水の残存割合が65%以上であるものを不良品「×」と評価した。
【0087】
【表3】
【0088】
評価の結果、ジルコニウムと同量のアルカリ金属を含有する無機薄膜については、撥水性が発現しなかった。
【0089】
[水準4]
(実施例13)
硝酸ジルコニル5質量%水溶液を塗布したこと、無機薄膜による被覆割合を一面の60%としたこと、オーブン加熱温度を40℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0090】
(実施例14〜17)
オーブン加熱温度を100℃(実施例14)、200℃(実施例15)、500℃(実施例16)、600℃(実施例17)にしたこと以外は、実施例13と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0091】
(比較例19〜20)
オーブン加熱温度を20℃(比較例19)、700℃(比較例20)にしたこと以外は、実施例13と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0092】
(実施例18)
市販の表面が平滑な外装用のタイル(基材)(300×300mm、磁器製、無釉薬処理)を用いたこと、オーブン加熱温度を40℃にしたこと以外は、実施例13と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0093】
(実施例19〜21)
オーブン加熱温度を100℃(実施例19)、1200℃(実施例20)、1300℃(実施例21)にしたこと以外は、実施例18と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0094】
(比較例21、22)
オーブン加熱温度を20℃(比較例21)、1400℃(比較例22)にしたこと以外は、実施例18と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0095】
実施例13〜21、比較例19〜22の床用タイルについて、排水試験を行った結果を表4に示す。排水試験において、水の残存割合が65%未満であるものを良品「○」と評価し、水の残存割合が65%以上であるものを不良品「×」と評価した。
【0096】
【表4】
【0097】
評価の結果、加熱温度は、40℃以上表面の軟化開始温度以下が好ましく、100℃以上(表面の軟化温度−100℃)以下がより好ましいことが分かった。
【0098】
[水準5]
(実施例22)
市販の表面が平滑な外装用のタイル(300×300mm、磁器製、表面釉薬処理)を予め40℃に加熱(予熱)し、予熱されたタイルの一面に炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液(ZrO
2換算濃度で1質量%)を塗布した。
【0099】
水溶液の塗布は、
図5に示すような格子模様となるように、格子状のマスクを介してスプレー塗布して、塗布部に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0100】
無機薄膜は、タイルの一面の25%を被覆し、タイルの一面の外周の25%に接している。
【0101】
(実施例23〜26)
タイルの予熱温度を100℃(実施例23)、200℃(実施例24)、500℃(実施例25)、600℃(実施例26)にしたこと以外は、実施例22と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0102】
(比較例23、24)
タイルの予熱温度を20℃(比較例23)、700℃(比較例24)にしたこと以外は、実施例22と同様にして、表面に酸化ジルコニウム皮膜を形成した床用タイルを得た。
【0103】
実施例22〜26、比較例23、24の床用タイルについて、排水試験を行った結果を表5に示す。排水試験において、水の残存割合が65%未満であるものを良品「○」と評価し、水の残存割合が65%以上であるものを不良品「×」と評価した。
【0104】
【表5】
【0105】
評価の結果、加熱温度は、40℃以上表面の軟化開始温度以下が好ましく、100℃以上(表面の軟化温度−100)℃以下がより好ましいことが分かった。
【0106】
以上の結果から、本発明が有用であることが示された。