特開2015-200505(P2015-200505A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧 ▶ レックインダストリーズ株式会社の特許一覧

特開2015-200505放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-200505(P2015-200505A)
(43)【公開日】2015年11月12日
(54)【発明の名称】放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/10 20060101AFI20151016BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20151016BHJP
【FI】
   G21F9/10 E
   G21F9/06 521B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-77541(P2014-77541)
(22)【出願日】2014年4月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】512249777
【氏名又は名称】レックインダストリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】小西 正芳
(72)【発明者】
【氏名】飯田 利和
(57)【要約】
【課題】 簡便な方法で、かつ廃液中に含まれる放射性ストロンチウムが低濃度であっても効率よく除去することができる、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法を提供する。
【解決手段】放射性ストロンチウム含有廃液に、ストロンチウム塩を添加し、次いで、炭酸塩、炭酸ガス及び硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を添加配合して、ストロンチウムを含む沈殿物を生成させ、該沈殿物を分離する、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性ストロンチウム含有廃液に、ストロンチウム塩を添加し、次いで、炭酸塩、炭酸ガス及び硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を添加配合して、ストロンチウムを含む沈殿物を生成させ、該沈殿物を分離する工程を含むことを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法において、ストロンチウムを含む沈殿物を生成させた後、高分子凝集剤を添加配合して該沈殿物を凝集させて、沈殿物と処理液とに分離することを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法において、ストロンチウム塩は、塩化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム又は酢酸ストロンチウムであることを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかの項記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法において、炭酸塩及び硫酸塩は、アルカリ金属の炭酸塩及び硫酸塩であることを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかの項記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法において、廃液中で金属水酸化物を生成するための金属塩を添加配合して金属水酸化物を生成させ、ストロンチウムを含む沈殿物を、更に金属水酸化物とともに凝集沈殿させることを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法。
【請求項6】
請求項5記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法において、金属水酸化物を形成するための金属塩は、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムカリウムからなる群より選ばれることを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかの項記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法において得られた処理液に、請求項1乃至6いずれかの項記載の方法を更に1回以上実施して多段階処理することを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかの項記載の放射性ストロンチウムを含む廃液を処理する方法において、得られたストロンチウムを含む沈殿物を酸処理してストロンチウムを溶解させ、溶解したストロンチウムを、上記処理対象の放射性ストロンチウムを含む廃液に添加配合するストロンチウム塩の代替物として使用して、請求項1乃至7いずれかの項記載の処理方法を繰り返し行なうことを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法に関し、詳細には、放射性ストリンチウムを含む廃液に非放射性のストロンチウムを添加配合して、ストロンチウム沈殿物を形成させることで、放射性ストロンチウムを低減除去する、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高レベル放射性廃液には、放射性ストロンチウム元素群等の核種が含まれている。
廃液中に含まれる放射性ストロンチウムはヨウ素に比べて半減期が長く、また、水への拡散性も高いため、放射性ストロンチウムを含む廃液をそのまま流出させることができず、放射性ストロンチウムを回収する必要がある。
【0003】
ストロンチウムを含有する廃水からストロンチウムを分離除去する手段として、例えば、以下の方法が実施されている。
東海再処理施設では、低レベル放射性廃液処理のためのプロセスを開発して、90Srの除去にチタン酸系吸着剤(READ−Sr)を用い、放射性ストロンチウムの除去を実施していることが、東海処理施設のホームページに記載されている(非特許文献1)。
【0004】
また、放射性セシウムと同様にして、ゼオライト系鉱物や層状ケイ酸塩系鉱物等を用いて、放射性ストロンチウムを吸着除去する研究が、(独)物質・材料研究機構を中心に研究されていることが実施されていることが、(独)物質・材料研究機構のホームページに記載されている(非特許文献2)。
【0005】
しかし、放射性ストロンチウムを含む廃液中には、通常他の陽イオンも含む場合が多く、吸着材で放射性ストロンチウムを吸着しようとしても、他の陽イオンが吸着してしまい、放射性ストロンチウムを効率よく吸着除去することは困難である。
【0006】
そこで、特開2013−104723号公報(特許文献1)には、ストロンチウム含有水にpH9〜13のアルカリ条件下でアルカリ金属の炭酸塩を添加して、放射性ストロンチウムを凝集、固液分離する方法が提案されている。
【0007】
しかし、これらの従来の処理方法では、吸着処理した後の廃棄物を大量に処理することができない。
また、廃水中に含まれる放射性ストロンチウムの濃度が低い場合であると、炭酸ストロンチウムの沈殿を生成することが困難であり、放射性ストロンチウムを有効に除去することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−104723号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】東海処理施設のホームページ http://jolisfukyu.tokai-sc.jaea.go.jp/fukyu/mirai/2012/1 22.html
【非特許文献2】(独)物質・材料研究機構のホームページ http://reads.nims.go.jp/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、簡便な方法で、かつ廃液中に含まれる放射性ストロンチウムを効率よく除去することができる、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法を提供することである。
詳細には、廃液中に含まれる放射性ストロンチウムが低濃度であっても、放射性ストロンチウムを効率よく除去することができる、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、放射性ストロンチウムを含む廃液中に、積極的にストロンチウム塩を添加、特に非放射性のストロンチウム塩を添加して処理することで、廃液中に含まれる放射性ストロンチウムを効率よく除去することができることを見出したものである。
【0012】
即ち、請求項1記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法は、放射性ストロンチウム含有廃液に、ストロンチウム塩を添加し、次いで、炭酸塩、炭酸ガス及び硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を添加配合して、ストロンチウムを含む沈殿物を生成させ、該沈殿物を分離する工程を含むことを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法である。
【0013】
請求項2記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法は、請求項1記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法において、ストロンチウムを含む沈殿物を生成させた後、高分子凝集剤を添加配合して該沈殿物を凝集させて、沈殿物と処理液とに分離することを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法である。
【0014】
請求項3記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法は、請求項1または2記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法において、ストロンチウム塩は、塩化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム又は酢酸ストロンチウムであることを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法である。
【0015】
請求項4記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法は、請求項1乃至3いずれかの項記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法において、炭酸塩及び硫酸塩は、アルカリ金属の炭酸塩及び硫酸塩であることを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法である。
【0016】
請求項5記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法は、請求項1乃至4いずれかの項記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法において、廃液中で金属水酸化物を生成するための金属塩を添加配合して金属水酸化物を生成させ、ストロンチウムを含む沈殿物を、更に金属水酸化物とともに凝集沈殿させることを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法である。
【0017】
請求項6記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法は、請求項5記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法において、金属水酸化物を形成するための金属塩は、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムカリウムからなる群より選ばれることを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法である。
【0018】
請求項7記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法は、請求項1乃至6いずれかの項記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法において得られた処理液に、更に請求項1乃至6いずれかの項記載の方法を更に1回以上実施して多段階処理することを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法である。
【0019】
請求項8記載の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法は、請求項1乃至7いずれかの項記載の放射性ストロンチウムを含む廃液を処理する方法において、得られたストロンチウムを含む沈殿物を酸処理してストロンチウムを溶解させ、ストロンチウムが溶解した溶液を、上記処理対象の放射性ストロンチウムを含む廃液に添加配合するストロンチウム塩の代替物として使用することを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法である。
【0020】
なお、本発明において、単に「ストロンチウム」と表記した場合には、放射性ストロンチウムと非放射性ストロンチウムの両者を表すものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法は、廃液中に含まれる放射性ストロンチウムが低濃度であっても、ストロンチウムを積極的に該廃液に添加配合することで、極めて良好に放射性ストロンチウムを廃液中から効率よく除去分離することが可能となるとともに、簡便な処理方法とすることができる。
放射性ストロンチウムを含む廃液に添加するストロンチウム塩の添加濃度が高いほど、放射性ストロンチウムの除去率を高くすることが可能となる。
更に本発明の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法は、放射性ストロンチウムを含む排水の大量処理を可能とする。
【0022】
また、本発明の処理後に得られる処理液中の放射性ストロンチウム濃度は、文部科学省の平成12年科学技術庁告示第5号(放射線を放出する同位元素の数量等)による排水基準を満足することができることが推認されることとなる。
更に、ストロンチウムの沈殿物を金属水酸化物で凝集沈殿させることで、ストロンチウムの沈殿物の沈降分離を速やかに実現することが可能となる。
【0023】
特に、本発明の放射性ストロンチウムを含む処理方法を繰り替えし行って多段階処理することで、低濃度であっても、該廃液に含まれる放射性ストロンチウムの除去率を大幅に向上させることができる。
また、廃液中から分離したストロンチウムを含む沈殿物からストロンチウムを溶解させて得られた溶液を、放射性ストロンチウムを含む廃液に添加配合するストロンチウム塩の代替物として利用することで、新たなストロンチウム塩を使用する必要がなくなり、極めて経済的な処理方法となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を以下の好適例を例示しつつ説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法は、放射性ストロンチウム含有廃液に、ストロンチウム塩を添加し、次いで、炭酸塩、炭酸ガス及び硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を添加配合して、ストロンチウムを含む沈殿物を生成させ、該沈殿物を分離する工程を含むことを特徴とする、放射性ストロンチウムを含む廃液の処理方法である。
【0025】
まず、溶解槽に放射性ストロンチウムを含有する廃液を導入し、該放射性ストロンチウム含有廃液に、ストロンチウム塩を添加配合する。これにより廃液中のストロンチウムの含量を増大させることができる。ストロンチウム塩は、特に限定されないが、好ましくは非放射性ストロンチウムの塩であり、例えば塩化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム又は酢酸ストロンチウムを好適に用いることができる。
このようにして、廃液中に含まれるストロンチウムの含量を増大させることで、後の沈殿工程により得られる沈殿物の量も増大し、結果として放射性ストロンチウムを有効に除去回収することができることとなる。
【0026】
次いで、反応槽にて、このようにして得られた、溶解しているストロンチウム量が増大した廃液に、炭酸塩、炭酸ガス及び硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を添加配合して、ストロンチウムを含む沈殿物を形成させる。
上記炭酸塩及び硫酸塩は、望ましくは、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸カリウム、硫酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩及び硫酸塩を好適に用いることができ、これらを単独で又は2種以上混合して用いることができる。特に望ましくは、これらの炭酸塩や硫酸塩は予め水に溶解させて添加配合することが、ハンドリングや計量性の点から好ましい。
炭酸塩等の添加量は、廃液中に含まれるストロンチウムの理論反応量から適宜決定されるが、例えば、理論反応量の1.5倍以上の量を添加することが反応完結の点から望ましい。
【0027】
具体的には、溶解しているストロンチウム量が増大した廃液を撹拌しながら、二酸化炭素のような炭酸ガスを導入したり、炭酸塩や硫酸塩を添加配合する。
更に、pH調整剤を添加してアルカリ条件下となるように調整して、溶解しているストロンチウムと炭酸ガス、炭酸塩や硫酸塩と、溶解しているストロンチウムとを反応させて沈殿物を形成させる。
特に炭酸ガスを用いる場合には、pHが9を下回ると、生成した沈殿物が再溶解するため、アルカリ状態を保持するように調整する。
得られた当該沈殿物には放射性ストロンチウムと非放射性ストロンチウムとが含まれている。
【0028】
pHを例えば9〜14のアルカリ状態とすることで、ストロンチウムは沈殿物として析出するため、前記反応物の溶解度が小さくなるpH、好ましくは最も小さくなるpHに調整する。
かかるpH調整のためのpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。
反応槽の温度は、生成された炭酸ストロンチウムや硫酸ストロンチウムの溶解度が高くならないように、可能な限り低いほうが望ましく、室温程度であれば、実用上問題はない。
【0029】
当該液中で生成した沈殿物は、沈降したり、液中に懸濁した状態で浮遊しているものもあるので、好ましくは、これらを効率よく分離するために、当該ストロンチウムを含む沈殿物を、金属水酸化物とともに凝集沈殿させることが望ましい。
【0030】
具体的には、炭酸塩や硫酸塩等を添加配合するとともに、廃液中で金属水酸化物を生成するための金属塩を添加配合して金属水酸化物を生成させ、ストロンチウムを含む沈殿物を、更に金属水酸化物とともに凝集沈殿させる。
廃液中で金属水酸化物を形成するための金属塩としては、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムカリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0031】
上記したように、廃液にpH調整剤を添加するので、廃液のpHは9〜12程度に調整されているため、上記金属塩を添加することにより、金属の水酸化物の沈殿が生成する。かかる金属水酸化物とともにストロンチウムを含む沈殿物を凝集沈殿させることで、沈降分離が速やかに実施されることができる。
【0032】
更に、ストロンチウムを含む沈殿物や金属水酸化物のフロックを形成して、より有効に凝集沈殿させるために、高分子凝集剤を併用することが望ましい。例えば上記反応槽に更に高分子凝集剤を添加するか、または上記反応槽とは別の反応槽に液を送入して高分子凝集剤を添加して沈殿物を凝集させて、次いで沈殿槽にてストロンチウムを含む沈殿物と処理液とに分離する。
高分子凝集剤としては、ストロンチウム反応物を凝集沈殿させることができるものであれば、特に限定されず公知の任意の高分子凝集剤を使用することができ、例えばアニオン、カチオン、ノニオン凝集剤等を適宜選択して用いることができる。
【0033】
沈殿槽にてストロンチウムを含有する沈殿物と処理液とを分離する手段は、特に限定されず、例えば加圧ろ過、吸引ろ過、遠心分離等のろ過手段を適用することができる。次いで、処理液はバッファ槽に送入されて、放流のために酸やアルカリを添加されてpHを調整し、放流される。
【0034】
このようにして得られた処理液に、更にストロンチウム塩を添加配合して、上記処理工程を1回以上繰り返して、多段階処理することも可能である。このようにして多段階処理することで、それぞれ得られる沈殿物に、廃液中に含まれるストロンチウムが含まれることとなり、より有効に回収除去することができる。
【0035】
また、ストロンチウムを含む沈殿物を、酸処理してストロンチウムを溶解させ、ストロンチウムが溶解した溶液を、上記処理対象の放射性ストロンチウムを含む廃液に添加配合するストロンチウム塩の代替物として使用することが可能である。
具体的には、ストロンチウムを含む沈殿物を、例えば、塩酸、硝酸、酢酸等の酸に溶解する酸処理を実施することで、pHを3以下とし、沈殿物に含まれるストロンチウムを溶解させることができる。
放射性ストロンチウムを含む廃液に添加配合するストロンチウム塩の代替物として利用できることで、新たなストロンチウム塩を使用する必要がなくなり、極めて経済的な処理方法とすることができる。特に2段階目の処理により得られた沈殿物を、酸処理して用いることが添加する非放射性ストロンチウムの利用効率の点から好適である。
【0036】
なお、廃液中に含まれる放射性ストロンチウム濃度をaとし、添加するストロンチウム塩の非放射性ストロンチウム濃度をbとし、反応して得られた炭酸ストロンチウムや硫酸ストロンチウム平衡時のストロンチウム濃度をcとすると、放射性ストロンチウムの除去率は、以下の式で表される。
【0037】
【数1】
【0038】
上記式より、非放射性ストロンチウムの添加濃度が高いほど、また平衡時のストロンチウム濃度が低いほど、放射性ストロンチウムの除去率は高くなることがわかる。
【0039】
本発明の処理方法は、放射性ストロンチウムを含有する廃液中のストロンチウムの濃度を積極的に上昇させて、ストロンチウムを含む沈殿物を形成させることで、結果としてストロンチウムの一部として含まれる放射性ストロンチウムを効率よく除去されているものと十分に推認することが可能であり、放射性ストロンチウムを含む廃液から放射性ストロンチウム除去することができる極めて有効な処理方法である。
【実施例】
【0040】
本発明を次の実施例及び試験例により説明するが、これらに限定されるものではない。
[使用原料]
(1)食塩:商品名 赤穂の塩 (株)天塩(販売) 赤穂化成(株)(製造)
(2)ストロンチウム:試薬 塩化ストロンチウム六水和物(SrCl・6HO) 関東化学(株)
(3)炭酸ナトリウム:試薬 炭酸ナトリウム(NaCO) 関東化学(株) 鹿1級
(4)硫酸ナトリウム:試薬 硫酸ナトリウム(NaSO) 関東化学(株) 特級
(5)ポリ鉄:日鉄鉱業(株)
(6)高分子凝集剤:商品名 アコフロックA150 MTアクアポリマー(株)
(7)塩酸:試薬 関東化学(株) 鹿1級
(8)純水
(9)海水
【0041】
[擬似海水の調製]
上記食塩(赤穂の塩)を純水1Lに対して35gの割合で溶解させたものを擬似海水とした。
【0042】
(実施例1〜10、比較例1)
疑似海水にストロンチウム塩(試薬 塩化ストロンチウム六水和物(SrCl・6HO))を200mg/lの割合で添加配合した。
次いで、硫酸ナトリウムを、下記表1に示すように、1000mg/l、2000mg/l、3000mg/l、4000mg/l添加し、20%炭酸ナトリウム又は20%水酸化ナトリウムを用いてpH11に溶液を調整して、ストロンチウムを含む沈殿物を形成させた。
該各溶液に高分子凝集剤を5mg/l添加して該沈殿物を凝集させ、静置した。
その後、No.5Aろ紙を用いて濾過し、ストロンチウムを含む沈殿物と濾液(処理水)とに分離した。
【0043】
得られた各濾液(処理水)中に含まれるストロンチウムの量を、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)により測定した(SPECTRO社製 CIROS−120)。
その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
(実施例11〜14)
疑似海水にストロンチウム塩(試薬 塩化ストロンチウム六水和物(SrCl・6HO))を200mg/lの割合で添加配合した。
次いで、硫酸ナトリウムを、下記表2に示すように、4000mg/l添加し、20%炭酸ナトリウム又は20%水酸化ナトリウムを用いてpH11に溶液を調整した。
実施例11及び13については、次いで、ポリ鉄を1ml/lの割合で添加配合し、再度20%炭酸ナトリウム又は20%水酸化ナトリウムを用いてpH11に溶液を調整して、ストロンチウムを含む沈殿物を形成させた。なお、20%炭酸ナトリウムを用いてpHを調整する場合には、再度のpH調整にも20%炭酸ナトリウムを用い、20%水酸化ナトリウムを用いてpHを調整する場合には、再度のpH調整にも20%水酸化ナトリウムを用いた。
実施例12及び14は、ポリ鉄の添加及びpH11の再調整は行わなかった。
その後、該各溶液に高分子凝集剤を5mg/l添加して該沈殿物を凝集させ、静置した。
次いで、No.5Aろ紙を用いて濾過し、ストロンチウムを含む沈殿物と濾液(処理水)とに分離した。
【0046】
得られた各濾液(処理水)中に含まれるストロンチウムの量を、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)により測定した(SPECTRO社製 CIROS−120)。
その結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
(実施例15〜19)
放射性ストロンチウムが206ベクレル/l含まれる海水に、ストロンチウム塩(試薬 塩化ストロンチウム六水和物(SrCl・6HO))を、下記表3に示すように、50〜200mg/lの割合で添加配合した。
次いで、硫酸ナトリウムを4000mg/l添加し、20%炭酸ナトリウムを用いてpH11に溶液を調整し、次いで、ポリ鉄を1ml/lの割合で添加配合し、再度20%炭酸ナトリウムを用いてpH11に溶液を調整して、ストロンチウムを含む沈殿物を形成させた。
その後、該各溶液に高分子凝集剤を5mg/l添加して該沈殿物を凝集させ、静置した。
次いで、No.5Aろ紙を用いて濾過し、ストロンチウムを含む沈殿物と濾液(処理水)とに分離した。
【0049】
得られた各濾液(処理水)中に含まれるストロンチウムの量(Sr mg/l)を、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)により測定した(SPECTRO社製 CIROS−120)。
また、得られた各濾液(処理水)中に含まれる放射性ストロンチウムの量(90Sr Bq/l)を、「放射性測定シリーズNo.2「放射性ストロンチウム分析法」」(文科省)に従って、測定した(アロカ社製 LBC−4312(低バックグラウンドα/β自動測定装置))。
その結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
(実施例20)
放射性ストロンチウムが206ベクレル/l含まれる海水に、ストロンチウム塩(試薬 塩化ストロンチウム六水和物(SrCl・6HO))を、200mg/lの割合で添加配合した。
次いで、20%炭酸ナトリウムを用いてpH11に溶液を調整し、次いで、ポリ鉄を1ml/lの割合で添加配合し、再度20%炭酸ナトリウムを用いてpH11に溶液を調整して、ストロンチウムを含む沈殿物を形成させた。
その後、該各溶液に高分子凝集剤を5mg/l添加して該沈殿物を凝集させ、静置した。
次いで、No.5Aろ紙を用いて濾過し、ストロンチウムを含む沈殿物(沈殿物―1)と濾液(処理水―1)とに分離した。
【0052】
得られた処理水―1中に含まれるストロンチウムの量(Sr mg/l)を、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)により測定した(SPECTRO社製 CIROS−120)。
また、得られた濾液(処理水−1)中に含まれる放射性ストロンチウムの量(90Sr Bq/l)を、「放射性測定シリーズNo.2「放射性ストロンチウム分析法」」(文科省)に従って、測定した(アロカ社製 LBC−4312(低バックグラウンドα/β自動測定装置))。
その結果を表4に示す。
【0053】
上記処理水―1に、上記処理工程を再度実施して、2段階処理した。
具体的には、処理水−1に、再度、放射性ストロンチウム塩(試薬 塩化ストロンチウム六水和物(SrCl・6HO))を、200mg/lの割合で添加配合した。
次いで、20%炭酸ナトリウムを用いてpH11に溶液を調整し、次いで、ポリ鉄を1ml/lの割合で添加配合し、再度20%炭酸ナトリウムを用いてpH11に溶液を調整して、ストロンチウムを含む沈殿物を形成させた。
その後、該各溶液に高分子凝集剤を5mg/l添加して該沈殿物を凝集させ、静置した。
次いで、上澄液をNo.5Aろ紙を用いて濾過し、ストロンチウムを含む沈殿物(沈殿物―2)と濾液(処理水―2)とに分離した。
【0054】
得られた処理水―2中に含まれるストロンチウムの量(Sr mg/l)を、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)により測定した(SPECTRO社製 CIROS−120)。
また、得られた各濾液(処理水)中に含まれる放射性ストロンチウムの量(90Sr Bq/l)を、「放射性測定シリーズ No.2「放射性ストロンチウム分析法」」(文科省)に従って、測定した(アロカ社製 LBC−4312(低バックグラウンドα/β自動測定装置))。
その結果を表4に示す。
【0055】
(実施例21)
放射性ストロンチウムが206ベクレル/l含まれる海水に、上記実施例20で得られた沈殿物―2を添加し、更にストロンチウム塩(試薬 塩化ストロンチウム六水和物(SrCl・6HO))を、100mg/lの割合で添加配合した。これに、塩酸を添加配合して、pHを3に調整した。
次いで、20%炭酸ナトリウムを用いてpH11に溶液を調整し、次いで、ポリ鉄を1ml/lの割合で添加配合し、再度20%炭酸ナトリウムを用いてpH11に溶液を調整して、ストロンチウムを含む沈殿物を形成させた。
その後、該各溶液に高分子凝集剤を5mg/l添加して該沈殿物を凝集させ、静置した。
次いで、No.5Aろ紙を用いて濾過し、ストロンチウムを含む沈殿物と濾液(処理水―3)とに分離した。
【0056】
得られた処理水―3中に含まれるストロンチウムの量(Sr mg/l)を、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)により測定した(SPECTRO社製 CIROS−120)。
また、得られた濾液(処理水−3)中に含まれる放射性ストロンチウムの量(90Sr Bq/l)を、「放射性測定シリーズNo.2「放射性ストロンチウム分析法」」(文科省)に従って、測定した(アロカ社製 LBC−4312(低バックグラウンドα/β自動測定装置))。
その結果を表4に示す。
【0057】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、放射性ストロンチウムが低濃度で含まれる廃液であっても、該廃液にストロンチウムを積極的に配合することで、簡便に効率よくストロンチウムを除去することができるため、放射性ストロンチウムを含む汚染廃液に広く適用することができるものである。