【実施例】
【0013】
<比較例1>
Cs
4[PW
11O
39Ru(III)(H
2O)]の合成
Cs
4[PW
11O
39Ru(III)(H
2O)]をDalton Trans., 2012, Vol.41, p.9901に記載の方法に従って合成した。具体的には、以下の手順を用いた。
[Ru(ベンゼン)Cl
2]
2(0.085g, 0.17mmol)、K
7[PW
11O
39]・15H
2O(1.063g, 0.33mmol)及び水(20mL)を100mLテフロン(登録商標)内張りオートクレーブに装入し、オートクレーブを、170℃に加熱された通常のオーブンに入れて5時間加熱した。オートクレーブを室温に冷却した後、反応混合物を濾過した。次に、濾液にCsCl(1.5g)を加え、溶液を室温で1時間撹拌した。生成した褐色固形物を濾別し、50mLのエタノール及び50mLのアセトンで洗浄し、最後に70℃で乾燥させた(収量0.97g、タングステンWを基準として86%)。
生成物を、サイクリックボルタンメトリ(CV)及び赤外分光分析法(IR)により分析した。
サイクリックボルタモグラム(0.5M KH
2PO
4水溶液(pH 4.3)中Ag/AgCl(3M NaCl)):E
1/2(Ru(V/IV))=945mV,E
1/2(Ru(IV/III))=421mV及びE
1/2(Ru(III/II))=14mV.
IRスペクトル(ν
max/cm
-1):1084(w), 1046(w), 968(m), 875(m), 786(s), 668(w,sh).
【0014】
<実施例1>
K4[α−PW11O39Ru(H2O)]の合成
(1)第1工程:
K
5[α−PW
11O
39Ru(DMSO)]・9H
2OをM. Sadakane他、Z. Anorg. Allg. Chem.、2011年、第637巻、第1467-1474頁に記載されている方法に従って合成した。具体的には、以下の手順を用いた。
Ru(DMSO)
4Cl
2(0.16g, 0.34mmol)とK
7[α−PWO
11O
39]・15H
2O(0.995g、0.32mmol)と水(20mL)を50mLテフロン(登録商標)内張りオートクレーブに装入し、アルゴンを30分間バブリングした。次に、オートクレーブを125℃で5時間加熱した。オートクレーブを室温に冷却した後、反応混合物を濾過し、得られた濾液にCsCl(2.0g)を加え、室温で1時間撹拌すると、黒色析出物が生成した。黒色析出物を濾過により分離し、エタノールで洗浄した後にアセトンで洗浄し、70℃のオーブン内で乾燥させることにより黒色粉末状の生成物としてK
4[α−PW
11O
39Ru(DMSO)]・9H
2Oを得た(収量1.02g、収率92%(タングステンWを基準))。
生成物を、IR、紫外可視分光分析(UV−Vis)、CV、
1H−NMR、
31P−NMR、
183W−NMR、元素分析により分析した。
分析結果:
IRスペクトル(ν
max/cm
-1):1064(s), 1045(s), 1017(m), 959(s), 880(s), 791(vs), 693(m).
UV-Visスペクトルλ
max(0.5M KH
2PO
4):λ
max=488nm(ε=2.5×10
3dm
3・mol
-1・cm
-1).
サイクリックボルタモグラム:(0.5M KH
2PO
4水溶液(pH 4.5)中でE
1/2(Ru(III/II))=0.376V,0.5M硫酸ナトリウム水溶液(pH 3.0)中でE
1/2(Ru(III/II))=0.366V.
1H-NMR(D
2O):(δ/ppm) 3.186 (s) (cf. 2.568 for free dmso).
31P-NMR(D
2O):(δ/ppm) -10.746.
183W-NMR(D
2O):(δ/ppm) 117.29 (2W), -2.381 (2W), -94.46 (2W), -105.45 (1W), -132.87 (2W), -145.02 (2W).
元素分析:実測値:Cs, 16.8; P, 0.8; W, 55.3; Ru, 2.8; O, 21.4; K, 0; Na, 0; H, 0.6; C, 0.7; S, 0.8; Cl, 0.1%; 合計99.3%;計算値:Cs, 17.1; P, 0.9; W, 55.5; Ru, 2.8; O, 21.5; K, 0; Na, 0; H, 0.7; C, 0.7; S, 0.9; Cl, 0.
(2)第2工程:
第1工程で得られたK
5[α−PW
11O
39Ru(DMSO)]・9H
2O(0.10g、0.017mmol)を50mLテフロン(登録商標)内張りオートクレーブ内に入れた水10mLに溶解させ、得られた水溶液を空気雰囲気下、170℃で7.5時間加熱した。オートクレーブを室温に冷却した後、反応混合物を濾過し、得られた濾液にCsCl(0.5g)を加え、室温で30分間撹拌すると、黒色析出物が生成した。黒色析出物を濾過により分離し、アセトンで洗浄した後、70℃のオーブン内で乾燥させることにより黒色粉末状の生成物としてK
4[α−PW
11O
39Ru(H
2O)]を得た(収量0.8g、収率80%(タングステンWを基準))。
分析結果:
IR(KBr):ν=1079 (m), 1050 (w), 968 (s), 882 (s), 794 (vs) cm
-1.
サイクリックボルタモグラム(0.5M KH
2PO
4水溶液(pH 4.3)中):E
1/2(Ru(V/IV))=937mV, E
1/2(Ru(IV/III))=429mV及びE
1/2(Ru(III/II))=9mV.
【0015】
なお、下記の装置及び条件を用いて上記生成物の分析を行った。
赤外分光分析分析(IR):使用した測定装置はNICOLET 6700 FT-IR(Thermo Fisher Scientific製)であった。KBr錠剤法で測定を行った。
サイクリックボルタンメトリー(CV):使用した測定装置はCHI620Dシステム(BAS Inc.製)であった。測定温度は20℃であり、作用電極はグラッシーカーボンであり、対電極は白金ワイヤーであり、参照電極はAg/AgCl(3M NaCl、202mV vs.NHE)であった。開始電圧は500または0mV vs.Ag/AgClであり、折り返し電圧は1000mV vs.Ag/AgClであり、スキャン速度は25mV/秒であった。測定対象の濃度は、0.5M KH
2PO
4水溶液(pH 4.3)中で約1mMであった。
紫外可視分光分析(UV-Vis):使用した測定装置は、8453 UV-Visスペクトロメーター(Agilent製)であった。測定温度は常温(約20℃)であった。
1H-NMR及び
31P-NMRの測定には、Varian System 500(500MHz)スペクトロメーター(Agilent)を使用し、
183W-NMRの測定には、ECA500(500MHz)スペクトロメーター(JEOL製)を使用した。
1H-NMRスペクトルの測定では、D
2O中のHOD(4.659ppm)を内部標準として使用し、
31P-NMRスペクトルの測定では、85%H
3PO
4(0ppm)を外部標準として使用し、
183W-NMRスペクトルの測定では、飽和Na
2WO
4(0ppm)を外部標準として使用した。
元素分析は、ドイツの元素分析会社Microanalytisches Labor Pascherに依頼した。
【0016】
図1に比較例1の生成物と実施例1の生成物についてCV測定により得られた電流−電圧曲線(サイクリックボルタモグラム)を示す。実施例1とは対照的に、比較例1の生成物の電流−電圧曲線には、矢印で示した付近にルテニウムの酸化還元波が存在し、他のルテニウム化合物が不純物として含まれていることが判る。