(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-202983(P2015-202983A)
(43)【公開日】2015年11月16日
(54)【発明の名称】ルテニウム置換ポリオキソメタレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/45 20060101AFI20151020BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20151020BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20151020BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20151020BHJP
B01J 27/188 20060101ALN20151020BHJP
H01M 8/10 20060101ALN20151020BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
H01M4/90 X
H01M4/88 K
H01M4/92
B01J27/188 M
H01M8/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-82697(P2014-82697)
(22)【出願日】2014年4月14日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 錯体化学会第63回討論会要旨集USB版(発行所:錯体化学会)(発行日:平成25年10月15日) [刊行物等] 錯体化学会第63回討論会(平成25年)(開催日:平成25年11月2日〜4日)(公開日:平成25年11月3日)
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】中西 治通
(72)【発明者】
【氏名】佐野 庸治
(72)【発明者】
【氏名】定金 正洋
(72)【発明者】
【氏名】西木 健介
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H026
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA21A
4G169BA36A
4G169BB01A
4G169BB01B
4G169BB07A
4G169BB07B
4G169BC01A
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BD01A
4G169BD02A
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169BE01A
4G169BE01C
4G169BE17A
4G169BE21C
4G169BE28A
4G169CC32
4G169DA05
4G169FA01
4G169FB10
4G169FC02
5H018AA06
5H018AS02
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB13
5H018BB16
5H018EE03
5H018EE11
5H018EE16
5H026AA06
(57)【要約】
【課題】ルテニウム置換ポリオキソメタレートを高純度かつ高収率で簡便に製造する方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1):
Q
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)] (1)
(式中、Qは、プロトン、アルカリ金属カチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン及びテトラアルキルホスホニウムカチオンから独立に選ばれる一価のカチオンである)
により表されるルテニウム置換ポリオキソメタレートの製造方法であって、
(A)[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]塩を用意する工程;及び
(B)前記[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]塩を水に溶解させ、[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]
8-アニオンを水熱反応により[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]
7-アニオンに転化させる工程;
を含む、ルテニウム置換ポリオキソメタレートの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
Q7[α2−P2W17O61Ru(III)(H2O)] (1)
(式中、Qは、プロトン、アルカリ金属カチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン及びテトラアルキルホスホニウムカチオンから独立に選ばれる一価のカチオンである)
により表されるルテニウム置換ポリオキソメタレートの製造方法であって、
(A)[α2−P2W17O61Ru(II)(dmso)]塩を用意する工程;及び
(B)前記[α2−P2W17O61Ru(II)(dmso)]塩を水に溶解させ、[α2−P2W17O61Ru(II)(dmso)]8-アニオンを水熱反応により[α2−P2W17O61Ru(III)(H2O)]7-アニオンに転化させる工程;
を含む、ルテニウム置換ポリオキソメタレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム置換ポリオキソメタレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、正八面体構造を有するMO
6(M=W
6+、Mo
6+など)を基本骨格とするアニオン性金属酸化物クラスターであるポリオキソメタレートが、有機化合物の酸化反応や酸塩基反応のための触媒として注目されている。ポリオキソメタレートの構造としては、ケギン型(Keggin)型、ドーソン(Dawson)型、アンダーソン(Anderson)型などの様々な構造が知られている。ポリオキソメタレートの構成金属の一部を異種金属で置換することによりポリオキソメタレートに活性点を導入することが提案されている。なかでも、ポリオキソメタレートの構成金属の一部をルテニウムで置換したルテニウム含有ポリオキソメタレートは、特有の酸化還元特性及びルテニウム原子の反応性のために注目されている。ルテニウム含有ポリオキソメタレートは、水素分子(H
2)を水素イオン(H
+)に酸化する能力を有するために、固体高分子型燃料電池などの燃料電池用の水素酸化触媒として有用であることが期待される。
【0003】
非特許文献1には、単核Ru(III)置換ドーソン(Dawson)型ポリオキソメタレートアニオン[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]
7-をセシウム塩として単離することが記載されている。非特許文献1には、[Ru(H
2O)
6](C
7H
7SO
3)
2とK
10[P
2W
17O
61]とを100℃で反応させて得られた反応生成物をO
2により酸化させることにより[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]
7-と[P
2W
18O
62]
6-を生成させ、[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]
7-をセシウム塩Cs
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]として析出させることにより単離することが記載されているが、単離されたCs
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]は少量の[P
2W
18O
62]
6-を含むために、純度が低いという問題がある。また、非特許文献1に記載されている合成法では、副生成物として[P
2W
18O
62]
6-が生成するため、原料のポリオキソメタレートを構成するタングステン(W)のモル数を基準とした収率が低いという問題がある。非特許文献2には、単核Ru(III)置換ドーソン型ポリオキソメタレートK
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]・19H
2Oを、cis−[Ru(II)(dmso)
4Cl
2]とK
10[α
2−P
2W
17O
61]とを反応させることによりK
18[Ru(II)(dmso)
2(P
2W
17O
61)
2]・35H
2Oを得た後、得られたK
18[Ru(II)(dmso)
2(P
2W
17O
61)
2]・35H
2OをBr
2により酸化させることにより合成したことが記載されている。しかし、非特許文献2には、単離されたK
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]・19H
2Oが不可避な不純物を約5%含むことが記載されており、また、原料のポリオキソメタレートを構成するタングステン(W)のモル数を基準とした収率が低いという問題がある。ポリオキソメタレートを触媒として使用するには触媒効率の観点からポリオキソメタレートが高純度かつ高収率で得られる製造方法が求められるが、単核Ru(III)置換ドーソン型ポリオキソメタレートQ
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)](式中、Qは一価のカチオン)を高純度かつ高収率で簡便に製造する方法はこれまで提案されていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー(J. Am. Chem. Soc.)、1992年、第114巻、第8号、第2932〜2938頁
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・ザ・ケミカル・ソサエティー・ダルトン・トランザクション(J. Chem. Soc., Dalton. Trans.)、2001年,第1506〜1512頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記課題に鑑みて、本発明は、下記一般式(1):
Q
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]
(式中、Qは以下で定義するとおりの一価のカチオン)
により表される単核Ru(III)置換ドーソン型ポリオキソメタレート(以下、特に断らない限り、「ルテニウム置換ポリオキソメタレート」という)を高純度かつ高収率で簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、水熱反応により[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]
7-アニオンのジメチルスルホキシド(dmso)配位子をアクア(H
2O)配位子で置換することにより[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]
8-アニオンを[α
2−P
2W
11O
39Ru(III)(H
2O)]
7-アニオンに転化することによって、ルテニウム置換ポリオキソメタレートQ
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)](式中、Qは以下で定義するとおりの一価のカチオン)を高純度かつ高収率で製造できることを見出した。
すなわち、本発明は、下記一般式(1):
Q
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)] (1)
(式中、Qは、プロトン、アルカリ金属カチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン及びテトラアルキルホスホニウムカチオンから独立に選ばれる一価のカチオンである)
により表されるルテニウム置換ポリオキソメタレートの製造方法であって、
(A)[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]塩を用意する工程;及び
(B)前記[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]塩を水に溶解させ、[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]
8-アニオンを水熱反応により[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]
7-アニオンに転化させる工程;
を含む、ルテニウム置換ポリオキソメタレートの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1(a)はドーソン型ポリオキソメタレートアニオン[α−P
2W
18O
62]
6-の基本構造を示し、
図1(b)は単核Ru置換ドーソン型α
1異性体[α
1−P
2W
17O
61Ru]
7-の構造を示し、
図1(c)は単核Ru置換ドーソン型α
2異性体[α
2−P
2W
17O
61Ru]
7-の構造を示す。
【
図2】
図2は、実施例1で得られたK
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]のIRスペクトルをその原料であるK
10[α
2−P
2W
17O
61]及び中間生成物K
8[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]のIRスペクトルとともに示す。
【
図3】
図3は、実施例1で得られたK
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]及び参考例1で得られたK
7[α
1−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]のサイクリックボルタモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
まず、ドーソン型ポリオキソメタレートの構造について、以下に簡単に説明する。ドーソン型ポリオキソメタレートは、金属Mに酸化物イオン(O
2-)が6配位した八面体の基本単位を複数有し、隣接する八面体が稜を共有するかどうか、あるいは頂点を共有するかどうかで、α体、β体、γ体、δ体、ε体などの異性体が存在する。α体及びβ体は八面体の頂点を共有する異性体であり、γ体、δ体及びε体は稜を共有する異性体である。ドーソン型ポリオキソメタレート化合物は、18個の八面体が頂点を共有して縮合してなる構造を有し、当該構造内に、Mと2個のホウ素、ケイ素、硫黄、リンなどの原子が取り込まれている。一般的に、この化合物の分子の長軸方向の両末端部分はキャプ(cap)部と呼ばれ、2つのキャップ部の間に存在する部位はベルト(belt)部と呼ばれる。
【0009】
次に、
図1(a)に、ドーソン型ポリオキソメタレートの基本構造を、[α−P
2W
18O
62]
6-を例にとり説明する。
図1(a)に示すように、[α−P
2W
18O
62]
6-は、キャプ(cap)と呼ばれる2つの部位とそれらの間に存在するベルト(belt)と呼ばれる部位を有する。
図1(b)に示すようにベルト部にある1個のタングステンが別の原子(
図1(b)ではルテニウム(Ru(III)))で置換された異性体はα
1異性体(すなわち[α
1−P
2W
17O
61Ru(III)]
7-)であり、
図1(c)に示すようにキャップ部にあるタングステンが別の原子(
図1(c)ではルテニウム(Ru(III)))で置換された異性体はα
2異性体である(すなわち[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)]
7-)。α
1体はラセミ体である。なお、
図1(b)及び(c)において、八面体はタングステン(W
6+)に酸化物イオン(O
2-)が6配位した基本単位を表し、四面体(黒色の部分)は、リン(P)が八面体を構成するタングステンと酸素を共有してなる別の基本単位を表す。また、
図1(b)及び(c)において、ルテニウムの位置が分りやすいように、ルテニウムは球体で表されている。
図1(a)、(b)及び(c)に図示されていないが、本発明のポリオキソメタレートにおいて、アクア配位子(H
2O)はルテニウム原子に配位する。
【0010】
本発明は、下記一般式(1):
Q
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)] (1)
(式中、Qは、プロトン、アルカリ金属カチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン及びテトラアルキルホスホニウムカチオンから独立に選ばれる一価のカチオンである)
により表されるルテニウム置換ポリオキソメタレートの製造方法である。
【0011】
上記一般式(1)において、Qは、プロトン、アルカリ金属カチオン、好ましくはリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン及びセシウムイオン;テトラアルキルアンモニウムカチオン、例えばテトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオンなど;テトラアルキルホスホニウムカチオン、例えばテトラメチルホスホニウムカチオン、テトラエチルホスホニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオンなどから独立に選ばれる一価のカチオンである。
【0012】
本発明の方法の第1工程である工程(A)は、[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]塩を用意する工程である。[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]塩は、S. Ogo, et al., Inorg. Chem., 2014, 53 (7), pp 3526-3539に記載されている公知の方法に従って製造することができる。[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]塩は、例えば、公知の方法により調製した[α
2−P
2W
17O
61]塩及びRu(dmso)
4Cl
2を水に溶解させ、[α
2−P
2W
17O
61]
10-とRu(dmso)
4Cl
2とを水溶液中で反応させてα
1異性体とα
2異性体の混合物として[P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]塩を生成させた後、反応混合物に塩析剤及び/又は貧溶媒を加えてα
2異性体[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]
8-アニオンを反応混合物から析出させることにより得ることができる。[α
2−P
2W
17O
61]
10-とRu(dmso)
4Cl
2との水溶液中での反応は、典型的には20〜200℃の温度で80〜160時間で行うことができる。[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]
8-アニオンを析出させるために使用される塩析剤及び/又は貧溶媒は、[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]
8-アニオンを析出させることができるものであれば特に限定されない。塩析剤の例としては、アルカリ金属ハロゲン化物、例えば塩化カリウム、塩化セシウム、塩化アンモニウム;テトラアルキルアンモニウムハライド、例えばテトラメチルアンモニウムクロリドなど;テトラアルキルホスホニウムハライド、例えばテトラメチルホスホニウムクロリドなどが挙げられる。貧溶媒の例としては、アセトン、メタノール、エタノールなどが挙げられる。
【0013】
本発明の方法の第2工程である工程(B)は、第1工程により得られた[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]塩を水に溶解させ、[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]
8-アニオンを水熱反応により[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]
7-アニオンに転化させる工程である。この水熱反応は、典型的には20〜220℃、好ましくは100〜200℃の温度で、典型的には0.5〜50時間(h)行われる。
【0014】
工程(B)において生成した[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]
7-アニオンを、適切な塩析剤及び/又は貧溶媒により反応混合物から析出させた後、濾過し、乾燥させることによって高純度の固形物として目的とするルテニウム置換ポリオキソメタレートを得ることができる。α
2異性体K
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]
7-アニオンを析出させるために使用される塩析剤及び/貧溶媒は、[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]
7-アニオンを析出させることができるものであれば特に限定されない。塩析剤の例及び貧溶媒の例としては、工程(A)について例示したものが挙げられる。
【実施例】
【0015】
以下に示す実施例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
<実施例1>
K
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]を以下の手順により合成した。
第1工程:K
8[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]・16H
2Oの合成
公知の方法(R. Contant, W. G. Klemperer, O. Yaghi, Inorg. Synth. 1990, 27, 104-118.)で調製したK
10[α
2−P
2W
17O
61]・15H
2O(0.39g、0.083mmol)とRu(dmso)
4Cl
2(0.04g、0.083mmol)と水(5mL)を50mLのテフロン(登録商標)内筒型オートクレーブに仕込み、140℃で5時間反応させた。オートクレーブを冷却後、溶液を濾過し、得られた濾液にKCl(0.5g)を加え室温で1時間撹拌した後に冷蔵庫で一晩静置した。その後、生成した沈殿物をろ過により取り除いた後、ろ液にKCl(0.5g)を加え室温で1時間撹拌した後に冷蔵庫で一晩静置した。精製した黒色固体をろ過により分別し、20mLのアセトンで洗浄し、70℃で乾燥させることにより黒色固形物としてK
8[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]・16H
2Oを得た(収量:0.16g、収率:39%(タングステンを基準))。
第2工程:K
8[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]からK
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]への転化
第1工程で得られたK
8[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]・16H
2O(0.158g、0.017mmol)を5mLの水に溶解させて得られた水溶液を50mLテフロン(登録商標)内筒型オートクレーブに入れ、オートクレーブを、170℃に加熱された熱対流式オーブンに入れて7.5時間加熱した。オートクレーブを室温に冷却した後、反応混合物を濾過した。得られた濾液にアセトン(20mL)を加え、室温で30分間撹拌すると、黒色析出物が生成した。この析出物を濾過により分離し、70℃のオーブン内で乾燥させることにより黒色固形物としてK
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]を得た(収量0.08g、収率60%(タングステンを基準))。
分析結果:
IR(KBr):ν=1090(s),950(m),913(w),774(s) cm
-1.
サイクリックボルタモグラム:E
1/2(Ru
V/IV)=782mV,E
1/2(Ru
IV/III)=457mV、及びE
1/2(Ru
III/II)=−91mV.
元素分析:K
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(H
2O)]・18H
2O・0.1KClとしての計算値:H 0.91;P 1.27;W 63.9;Ru 2.07;K 5.68;Na 0;Cl 0.07%;実測値:H 0.68;P 1.25;W 63.7;Ru 2.12;K 6.01; Na 0.02;Cl 0.06%.
【0016】
<参考例1>
K
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]を以下の手順により合成した。
第1工程:K
8[α
1−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)の合成
原料であるK
8[α
1−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]・22H
2OをS. Ogo, et al. Inorg. Chem., 2014, 53 (7), pp 3526-3539に記載されている方法に従って合成した。
第2工程:K
7[α
1−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]の合成
K
8[α
1−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)](0.158g)を水5mlと混ぜて、100mLのテフロン(登録商標)内筒型オートクレーブ中で170℃で20時間反応させた。反応液を冷却後、アセトン20mLを加えて沈殿を析出させた。その沈殿をアセトン20mLで洗浄し、70℃で乾燥させた。
分析結果:
IR(KBr):ν=1090(s),951(m),914(w),776(s)cm
-1.
サイクリックボルタモグラム:E
1/2(Ru
V/IV)=857mV、E
1/2(Ru
IV/III)=514mV及びE
1/2(Ru
III/II)=−26mV.
元素分析:K
7[α
1−P
2W
17O
61Ru(H
2O)]・18H
2O・0.4KClとしての計算値:H 0.90;P 1.26;W 63.7;Ru 2.06;K 5.89;Na 0;Cl 0.29%;実測値:H 0.72;P 1.24;W 63.4;Ru 2.13;K 6.23;Na,0.02;Cl 0.05%.
【0017】
なお、下記の装置及び条件を用いて上記生成物の分析を行った。
赤外分光分析分析(IR):使用した測定装置はNICOLET 6700 FT−IR(Thermo Fisher Scientific製)であった。KBr錠剤法で測定を行った。
サイクリックボルタンメトリー(CV):使用した測定装置はCHI620Dシステム(BAS Inc.製)であった。測定温度は20℃であり、作用電極はグラッシーカーボンであり、対電極は白金ワイヤーであり、参照電極はAg/AgCl(3M NaCl、202mV vs.NHE)であった。開始電圧は200mVであり、折り返し電圧は1200mVであり、スキャン速度は25mV/秒であった。測定対象の濃度は、0.5M KH
2PO
4水溶液(pH 4.3)中で1mMであった。
元素分析は、ドイツの元素分析会社Microanalytisches Labor Pascherに依頼した。
【0018】
図2に、実施例1で得られたK
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]のIRスペクトルをその原料であるK
10[α
2−P
2W
17O
61]及びK
8[α
2−P
2W
17O
61Ru(II)(dmso)]のIRスペクトルとともに示す。
図3に、実施例1で得られたα
2異性体K
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]のサイクリックボルタモグラムを参考例1で得られたα
1異性体K
7[α
1−P
2W
17O
61Ru(III)(H
2O)]のサイクリックボルタモグラムとともに示す。
上記分析結果から、K
7[α
2−P
2W
17O
61Ru(H
2O)]が高純度で得られたことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の製造方法は、例えば酸化反応や酸塩基反応のための触媒として有用なポリオキソメタレートを高純度かつ高収率でもたらすことができる。本発明の製造方法により得られるポリオキソメタレートは、高純度であるため、酸化反応や酸塩基反応を利用する様々な用地のための触媒、特に、水素分子が水素イオンに酸化される水素酸化反応を利用する様々な用途、例えば、燃料電池において水素酸化触媒として有用である。