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特開2015-205856腸管バリア機能亢進剤、腸疾患治療及び予防用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-205856(P2015-205856A)
(43)【公開日】2015年11月19日
(54)【発明の名称】腸管バリア機能亢進剤、腸疾患治療及び予防用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/702 20060101AFI20151023BHJP
   A61K 31/7016 20060101ALI20151023BHJP
   A61K 31/716 20060101ALI20151023BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20151023BHJP
【FI】
   A61K31/702
   A61K31/7016
   A61K31/716
   A61P1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-88832(P2014-88832)
(22)【出願日】2014年4月23日
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】原 博
(72)【発明者】
【氏名】木村 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 貴久
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086EA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA66
(57)【要約】
【課題】TJを介した消化管上皮バリア機能の亢進作用を有し、かつこの作用を小腸管腔内での持続できる物質の提供、新たな腸疾患治療及び予防用医薬組成物の提供。
【解決手段】イソマルトメガロ糖を有効成分として含有する腸管バリア機能亢進剤。イソマルトメガロ糖を有効成分として含有する腸疾患治療用医薬組成物。イソマルトメガロ糖を有効成分として含有する腸疾患予防用医薬組成物。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソマルトメガロ糖を有効成分として含有する腸管バリア機能亢進剤。
【請求項2】
前記イソマルトメガロ糖が直鎖タイプのイソマルトメガロ糖である請求項1に記載の腸管バリア機能亢進剤。
【請求項3】
イソマルトメガロ糖を有効成分として含有する腸疾患治療用医薬組成物。
【請求項4】
前記イソマルトメガロ糖が直鎖タイプのイソマルトメガロ糖である請求項3に記載の腸疾患治療用医薬組成物。
【請求項5】
イソマルトメガロ糖を有効成分として含有する腸疾患予防用医薬組成物。
【請求項6】
前記イソマルトメガロ糖が直鎖タイプのイソマルトメガロ糖である請求項5に記載の腸疾患予防用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管バリア機能亢進剤、腸疾患治療及び予防用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腸管粘膜を覆う上皮細胞層は、タイトジャンクション(TJ)と呼ばれる細胞外ドメインを持つタンパク質複合体により、上皮細胞間がシールされている。TJは、細胞と細胞の間をシールするたんぱく質複合体であり、消化管の場合、粘膜の重要なバリアであると同時にミネラルなどの生理的吸収経路としての役割を担っている。また、TJは、腸管腔から体内に毒物など不要な物質の透過を制限する消化管粘膜バリアの一つである。消化管バリアが損傷すると、それによって侵入する外来異物や腸内細菌に対して、これらの免疫系細胞が反応し、炎症を起こす。様々の物質がTJの透過性に影響を与えることが知られているが、多くは透過性を上げる方向に制御する。
【0003】
炎症性腸疾患は、消化管上皮において、TJタンパク質の発現異常が認められること、消化管バリアがルーズになって透過性が亢進することと炎症性腸疾患の重症度と相関することが知られている。TJを介した消化管上皮バリア機能の亢進作用に関して、大腸発酵産物である短鎖脂肪酸が知られている(非特許文献1)。しかし、短鎖脂肪酸は、大腸で産生される物質であり、また経口で摂取しても直ちに吸収されてしまい、小腸管腔内での持続作用は期待できない。また、グルコース重合体で環状糖のシクロデキストリン(CD)にも同様の効果を見出しているが、CDの作用は弱い(非特許文献2)。
【0004】
TJを介した腸管バリア機能の脆弱化による、異物の体内への透過は炎症を引き起こし、とくに腸間膜脂肪組織の炎症はインスリン抵抗性を引き起こし、メタボリック症候群の原因となる。しかし、これまでTJを介した消化管上皮バリア機能の亢進作用を有し、かつこの作用を小腸管腔内での持続できる物質は知られていない。
【0005】
本発明者らは、これまでグルコースが10〜50の重合度でα-1,6結合したα-グルカンであるイソマルトメガロ糖の効率的な生成方法を見出し(非特許文献3)、イソマルトメガロ糖がフラボノイド配糖体(ケルセチン配糖体)の吸収促進作用を有することを明らかにしてきた(非特許文献4〜5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takuya Suzuki et al. Physiological concentrations of short-chain fatty acids immediately suppress colonic epithelial permeability. British Journal of Nutrition, 100 297-305, 2008.
【非特許文献2】井邊 宗一郎、原 博:サイクロデキストリンはラット小腸上皮タイトジャンクションのバリア機能を強化する. 第65回日本栄養・食糧学会大会講演要旨集 p.102 (2011).
【非特許文献3】熊谷祐也,Weeranuch Lang,貞廣樹里,奥山正幸,森春英,木村淳夫:Gluconobacter oxydans由来dextran dextrinaseによる直鎖イソマルトメガロ糖の酵素合成. 日本応用糖質科学会平成25年度大会(第62回)p.46 (2013).
【非特許文献4】篠木亜季、LANG Weeranuch、熊谷祐、森春英、木村淳夫、石塚敏、原博、「直鎖イソマルトメガロ糖がラット小腸のケルセチン配糖体吸収と血中濃度に及ぼす影響」日本農芸化学会大会講演要旨集、2013、2A37P05(発行年:2013年03月05日)
【非特許文献5】Shinoki A et al. A novel mechanism for the promotion of quercetin glycoside absorption by megalo α-1,6-glucosaccharide in the rat intestine. Food Chemistry, 136 (2) 293-296, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、TJを介した消化管上皮バリア機能の亢進作用を有し、かつこの作用を小腸管腔内での持続できる物質を探査し、さらに見出された物質を用いて、新たな腸疾患治療及び予防用医薬組成物を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、グルコースがα-1,6結合した糖質である、イソマルトオリゴ糖(重合度(DP)2〜9)およびイソマルトメガロ糖(重合度(DP)10〜50)に注目し、ラット消化管透過性への影響を比較検討した。
【0009】
その結果、麻酔下のラットにおける空腸結紮ループ試験において、イソマルトメガロ糖がTJの透過性を強く抑制することを、TJ透過マーカー物質(ルシファーイエロー;LY、FITCデキストラン; FITC)を用いて見出し、環状タイプと直鎖タイプのイソマルトメガロ糖が、空腸上皮のTJを介したバリア機能を高めることを見出して、本発明を完成させた。一方、イソマルトオリゴ糖には、このような作用は非常に弱い、ないしほとんどなく、イソマルトメガロ糖に特有の作用であることも確認した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、イソマルトメガロ糖を有効成分として含有する腸管バリア機能亢進剤に関する。
さらに本発明は、イソマルトメガロ糖を有効成分として含有する腸疾患治療用医薬組成物に関する。
加えて本発明は、イソマルトメガロ糖を有効成分として含有する腸疾患予防用医薬組成物に関する。
本発明の腸管バリア機能亢進剤、腸疾患治療用医薬組成物及び腸疾患予防用医薬組成物においては、前記イソマルトメガロ糖は直鎖タイプのイソマルトメガロ糖であることが効果の観点で好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、イソマルトメガロ糖を用いることで、TJを介した消化管上皮バリア機能の亢進作用を有し、かつこの作用を小腸管腔内での持続でき、その結果、腸管バリア機能亢進剤、並びに腸疾患治療及び予防用医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1において直鎖タイプの糖を用いた場合のLYの蛍光強度測定結果を示す。
図2】実施例1において直鎖タイプの糖を用いた場合のFITCの蛍光強度測定結果を示す。
図3】実施例1において環状タイプの糖を用いた場合のLYの蛍光強度測定結果を示す。
図4】実施例1において環状タイプの糖を用いた場合のFITCの蛍光強度測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、イソマルトメガロ糖を有効成分として含有する腸管バリア機能亢進剤に関する。さらに本発明は、イソマルトメガロ糖を有効成分として含有する腸疾患治療用医薬組成物、及びイソマルトメガロ糖を有効成分として含有する腸疾患予防用医薬組成物に関する。
【0014】
イソマルトメガロ糖は、グルコースがα-1,6結合したα-グルカンであり、その重合度は10〜50である。イソマルトメガロ糖には環状構造のものと非環状即ち直鎖状構造のものとがあり、本発明においては、いずれのタイプのイソマルトメガロ糖でも良いが、腸管バリア機能亢進が高いという観点からは,直鎖タイプのものが好ましい。環状構造のイソマルトメガロ糖と直鎖状構造のイソマルトメガロ糖を併用することもできる。本発明において用いるイソマルトメガロ糖は、平均重合度が10〜50の範囲であることができ、これらのイソマルトメガロ糖には、一部に重合度が9以下のイソマルトオリゴ糖及び/又は重合度が51以上のものはデキストランを含有することもできる。また、イソマルトメガロ糖の平均重合度は、上記範囲であれば特に制限はないが、10〜40の範囲であること、さらには10〜30の範囲であること、さらには10〜20の範囲であることが好ましい場合がある。但し、これらの範囲に制限される意図ではなく、イソマルトメガロ糖を有効成分として含有していれば良い。
【0015】
直鎖タイプのイソマルトメガロ糖においては、還元末端にα-1,4結合したグルコース残基が1〜2個存在する場合もある。本発明のイソマルトメガロ糖には、還元末端にα-1,4結合したグルコース残基が1〜2個存在する直鎖タイプのイソマルトメガロ糖も包含する。なお、イソマルトメガロ糖と同様にグルコースがα-1,6結合したα-グルカンのうち重合度が2〜9のものはイソマルトオリゴ糖、重合度が51以上のものはデキストランと呼ばれる。
【0016】
本発明におけるイソマルトメガロ糖の腸管バリア機能亢進における作用メカニズムについては不明である。しかし、イソマルトメガロ糖が腸管上皮細胞の粘膜側表面に存在する、なんらかの受容体に結合して作用している可能性がある。
【0017】
従って、本発明はイソマルトメガロ糖を有効成分として含有する腸管バリア機能亢進剤を提供でき、さらにイソマルトメガロ糖の腸管バリア機能亢進機能を利用した腸疾患治療用医薬組成物及び腸疾患予防用医薬組成物を提供する。腸管バリア機能亢進機能を利用した腸疾患治療用医薬組成物及び腸疾患予防用医薬組成物としては、例えば、炎症性腸疾患、炎症性消化管疾患、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などの腸疾患治療及び/又は予防用の医薬組成物を挙げることができる。
【0018】
本発明の腸管バリア機能亢進剤及び医薬組成物は、必要に応じて、有効成分であるイソマルトメガロ糖に対し薬学的に許容される基材や担体を添加して、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、粉末、顆粒、カプセル剤等の形態にして、これを腸管バリア機能亢進剤及び医薬組成物に利用することができる。このような形態が本発明の腸管バリア機能亢進剤及び医薬組成物である。このような製剤化は、通常、医薬の製造に用いられる方法に従って、製造することができる。
【0019】
本発明の腸管バリア機能亢進剤及び医薬組成物におけるイソマルトメガロ糖の含有量は、特に制限はないが、例えば、0.01〜99質量%とすることができ、好ましくは、0.1〜90質量%である。但し、この範囲に制限される意図ではない。
【0020】
本発明に用いるイソマルトメガロ糖の製造法については特に制限は無く、公知の方法を用いる事ができる。例えば、デキストランを適度に酸分解して重合度10〜50の画分を得る方法や、非特許文献3記載の方法を用いてデキストリンデキストラナーゼ(DDase)を利用して澱粉原料より得る方法を用いる事ができる。
【実施例】
【0021】
以下本発明を実施例により詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0022】
実施例1
[方法]
7週齢のSprague Dawley系雄性ラットを5日間馴化飼育後、麻酔下で管腔内を洗浄し、15cmの空腸結紮ループを作成した。ループ内にはTJ透過マーカーとしてLucifer yellow(LY)とFITC-dextranを添加した試験液(対照)、これに3-4%(W/V)の環状または直鎖状のイソマルトオリゴ糖ないし、環状または直鎖状のイソマルトメガロ糖を添加した試験液を注入し、20分後放血屠殺した。その後直ちに腸ループ内容液、およびループに残存したマーカーを粘膜とともに回収、LYとFITCの蛍光強度を測定し、それぞれの透過率を求めてTJのバリア機能を評価した。用いた糖の平均重合度は、環状タイプのイソマルトオリゴ糖(Oligo):7.9、イソマルトメガロ糖(Megalo):10.3、直鎖タイプのイソマルトオリゴ糖(Oligo):3.3、イソマルトメガロ糖(Megalo):12.6である。
【0023】
[結果]
直鎖と環状のどちらのイソマルトメガロ糖でも、対照群(Control)と比較してLY(図1図3)、FITC(図2図4)ともに透過率が低下した。またその作用は、直鎖タイプでより強い傾向が見られた。一方、イソマルトオリゴ糖では、環状タイプLYを除いて対照群との有意差は見られなかった。これらの結果より、イソマルトメガロ糖は空腸上皮のTJを介したバリア機能を高めること、その作用は糖の鎖長に依存することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、腸疾患治療及び予防用医薬組成物に関連する分野に有用である。
図1
図2
図3
図4