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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-208245(P2015-208245A)
(43)【公開日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】製剤の保存効力試験
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20151027BHJP
   A61K 8/00 20060101ALN20151027BHJP
【FI】
   C12Q1/02
   A61K8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-90103(P2014-90103)
(22)【出願日】2014年4月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】大河 正樹
(72)【発明者】
【氏名】鴛渕 孝太
(72)【発明者】
【氏名】五明 秀之
(72)【発明者】
【氏名】松永 是
(72)【発明者】
【氏名】田中 剛
(72)【発明者】
【氏名】細川 正人
【テーマコード(参考)】
4B063
4C083
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QQ89
4B063QR75
4B063QR76
4B063QX04
4B063QX10
4C083AA032
4C083AC172
4C083AC302
4C083AC482
4C083AD042
4C083CC04
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE01
4C083EE03
(57)【要約】
【課題】短期間で製剤の微生物に対する保存効力を決定する方法の提供。
【解決手段】製剤中の溶存酸素濃度が保存効力を決定する指標になることから、保存剤を除いた製剤に対して微生物を接種し、開放系で溶存酸素濃度を測定し、保存剤添加後の溶存酸素量の変化をモニターすることで、保存効力を決定することが可能になる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶存酸素濃度の変化に基づく、液体製剤における保存効力の決定方法。
【請求項2】
前記方法が、溶存酸素濃度安定状態下で、保存剤を含む液体製剤に、微生物を接種した際の溶存酸素濃度変化を指標とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、以下の:
保存剤を含む液体製剤に微生物を接種する工程、
微生物の接種後の液体製剤中の溶存酸素濃度を測定する工程、
溶存酸素濃度の変化をもとに液体製剤の保存効力を決定する工程
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記接種工程の前に、保存剤を含む液体製剤をバブリングする工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
微生物の接種が、微生物固定化膜を電極表面に備えた酸素電極を液体製剤に浸漬することにより行われる、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記溶存酸素濃度の測定が、製剤中に浸漬した酸素電極を用いて電流値を計測することによる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、溶存酸素濃度安定状態下で、微生物を接種された液体製剤に、保存剤を添加した際の溶存酸素濃度変化を指標とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、以下の:
保存剤を含まない液体製剤に微生物を接種する工程、
保存剤を添加する工程、
保存剤の添加前後の液体製剤中の溶存酸素濃度を測定する工程、及び
溶存酸素濃度の変化をもとに液体製剤の保存効力を決定する工程
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
微生物の接種が、微生物固定化膜を電極表面に備えた酸素電極を液体製剤に浸漬することにより行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記溶存酸素濃度の測定が、製剤中に浸漬した酸素電極を用いて電流値を計測することによる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記液体製剤が、医薬品、医薬部外品、及び化粧品からなる群から選ばれる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製剤における保存効力試験の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品や医薬品は、開封後は菌汚染の恐れがあることから、保存剤が使用される。しかしながら、保存剤を必要量以上配合することは、安全性の面で問題があり、適正量が使用されるべきである。このため、日本薬局方(第16改正)の参考情報(非特許文献1)には、保存効力試験法が収載されており、保存剤の最適使用量の決定方法が決められている。
【0003】
保存効力試験法は、製剤自体又は製剤に添加された保存剤の効力を微生物学的に評価する方法であり、試験対象となる微生物を接種し、混合し、経時的に微生物数をモニターすることにより、製剤の保存効力を評価する。このような保存効力試験法は、製剤、例えば化粧品、医薬品、医薬部外品に対して行われており、通常ヒトに対する安全性の観点から、保存剤の量を可能な限り少なくする一方で、製品の有効期間にわたって保存効力が発揮されることが望まれている。
【0004】
保存効力試験は、微生物の接種後、28日後まで微生物数を測定することが必要であり、試験期間が長期に及ぶ。一方で、保存効力試験の結果に応じて、好ましい保存効力を得られるよう、保存剤の種類や濃度を適宜選択することが必要とされることから、最終製品の決定までに長期間にわたって試験を行うことが必要であった。
【0005】
一方で、微生物が液体培地中で発育する場合に、液体培地中の溶存酸素が減少することが知られており、抗生物質などの抗菌剤を加えた際に酸素消費を指標として、感受性菌と耐性菌とを判定する方法や、この原理を用いて抗生物質の最小発育阻止濃度(MIC)を測定する方法が知られていた(非特許文献2)。
【0006】
保存効力試験が長期の試験期間(通常4週)を必要とすることから、保存効力試験を実施できる試験品の数に経済的制限がある。そこで、保存効力試験を行わずに、抗菌剤の強さを表す最小発育阻止濃度(MIC)を用いて計算値によって保存効力の目安を立てる方法が開発されている(非特許文献3及び特許文献1)が、このような方法で分かるのはあくまで目安に過ぎず、製剤の種類、微生物の種類、抗菌剤の強さや安定性といった複数のパラメーターにより製剤の保存効力が決定されることから、保存効力試験の代替としては十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−203165号公報
【特許文献2】特開2006−262821号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本薬局方(第16改正)の参考情報2044〜2046頁
【非特許文献2】慈恵医大誌2004;119:455−62
【非特許文献3】防菌防黴,Vol.36, No.11, pp.741−748(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、短期間で製剤の保存効力を決定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、製剤中の溶存酸素が、保存効力を決定する指標になりうることを見いだし、溶存酸素の変化と、保存効力との関係を明らかにすることにより、本発明に至った。すなわち、本発明は以下のものに関する:
[1] 溶存酸素濃度の変化に基づく、液体製剤における保存効力の決定方法。
[2] 前記方法が、溶存酸素濃度安定状態下で、保存剤を含む液体製剤に、微生物を接種した際の溶存酸素濃度変化を指標とする、項目1に記載の方法。
[3] 前記方法が、以下の:
保存剤を含む液体製剤に微生物を接種する工程、
微生物の接種後の液体製剤中の溶存酸素濃度を測定する工程、
溶存酸素濃度の変化をもとに液体製剤の保存効力を決定する工程
を含む、項目2に記載の方法。
[4] 前記接種工程の前に、保存剤を含む液体製剤をバブリングする工程を含む、項目3に記載の方法。
[5] 微生物の接種が、微生物固定化膜を電極表面に備えた酸素電極を液体製剤に浸漬することにより行われる、項目3又は4に記載の方法。
[6] 前記溶存酸素濃度の測定が、製剤中に浸漬した酸素電極を用いて電流値を計測することによる、項目5に記載の方法。
[7] 前記方法が、溶存酸素濃度安定状態下で、微生物を接種された液体製剤に、保存剤を添加した際の溶存酸素濃度変化を指標とする、項目1に記載の方法。
[8] 前記方法が、以下の:
保存剤を含まない液体製剤に微生物を接種する工程、
保存剤を添加する工程、
保存剤の添加前後の液体製剤中の溶存酸素濃度を測定する工程、及び
溶存酸素濃度の変化をもとに液体製剤の保存効力を決定する工程
を含む、項目7に記載の方法。
[9] 微生物の接種が、微生物固定化膜を電極表面に備えた酸素電極を液体製剤に浸漬することにより行われる、項目8に記載の方法。
[10] 前記溶存酸素濃度の測定が、製剤中に浸漬した酸素電極を用いて電流値を計測することによる、項目9に記載の方法。
[11] 前記液体製剤が、医薬品、医薬部外品、及び化粧品からなる群から選ばれる、項目1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
通常の保存効力試験に比較して極めて短い期間で、製剤の保存効力を決定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の保存効力試験方法を実施するための構成を示す。
図2図2は、黄色ブドウ球菌を植菌した溶液における酸素濃度の変化を電流値として示す図である。矢印の時点でエタノールが添加され、それにより電流値が増加する。
図3図2は、黄色ブドウ球菌固定化酸素電極により、溶液における酸素濃度の変化を電流値として示す図である。矢印の時点でバシトラシンが添加され、それにより電流値が増加する。
図4図4Aは、緑膿菌固定化膜を使用し、保存剤添加後の酸素電極に流れる電流をモニターした結果を示す。化粧水モデルとして、MP0.05とMP0.15の処方を用いた。図4Bは、同じ化粧水モデルに対して緑膿菌を用いた従来の保存効力試験の結果を示す。
図5図5Aは、黄色ブドウ球菌固定化膜を使用し、保存剤添加後の酸素電極に流れる電流をモニターした結果を示す。化粧水モデルとして、MP0.15EXとMP0.15EX+PE0.2の処方を用いた。図5Bは、同じ化粧水モデルに対して黄色ブドウ球菌を用いた従来の保存効力試験の結果を示す。
図6図6Aは、カンジダ菌固定化膜を使用し、保存剤添加後の酸素電極に流れる電流をモニターした結果を示す。化粧水モデルとして、MP0.05とMP0.15+PE0.2の処方を用いた。図6Bは、同じ化粧水モデルに対してカンジダ菌を用いた従来の保存効力試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、溶存酸素の変化に基づく液体製剤における保存効力試験に関している。具体的に、保存効力を決定するために、溶存酸素濃度安定状態下で、微生物を接種された液体製剤に、保存剤を添加した際の溶存濃度変化を指標とすることができるし、また溶存酸素濃度安定状態下で、保存剤を含む液体製剤に、微生物を接種した際の溶存酸素濃度変化を指標とすることもできる。
【0014】
本発明において、保存効力試験とは、製剤における、微生物に対する保存効力を決定する試験のことをいう。保存効力とは、所望の期間、例えば、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年、2年の間、一定の微生物数以下に微生物の増殖を抑制する能力をいう。一定の微生物数とは、製品の品質や機能において問題を生じさせなければ任意の数であってよい。製剤の保存効力を達成するため、製剤には保存剤が添加され、それにより製剤中の微生物の増殖が抑制される。
【0015】
本発明において保存効力が決定される製剤は、例えば医薬品、医薬部外品、又は化粧品である。製剤の剤形は、任意のものであってもよいが、製剤中の溶存酸素を指標とする観点から、液体製剤であることが好ましい。化粧品製剤の例として、化粧水、乳液、美容液、日焼け止め、シャンプー、リンス、ボディソープ、入浴液、クレンジングオイル、香水、ヘアリキッド、クリーム、軟膏などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。医薬部外品の例として、うがい薬、口中清涼剤、口腔洗浄液、コンタクトレンズの保存液及び洗浄液、育毛剤、虫刺されなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。医薬品としては、液体製剤の全てが挙げられ、例えばワクチン製剤、インスリン製剤、点滴、皮膚外用製剤、例えば軟膏、クリームなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
微生物とは、肉眼で判別することができない微小な生物のことをいい、単細胞生物の他、多細胞生物も含まれ、真性細菌、古細菌、真核生物(藻類、原生生物、真菌類、粘菌)などが挙げられる。一般に製剤において問題となる微生物は、好気性又は通性嫌気性生物であり、例えば好気性又は通性嫌気性の細菌や酵母が挙げられる。特に製剤を使用した際に環境から、化粧品、医薬品、医薬部外品などの製剤に混入する恐れのある微生物の例として、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、カンジダ菌(Candida albicans)が知られており、これらの微生物に対して保存効力試験が行われうるが、他の微生物に対して保存効力試験が行われてもよい。
【0017】
微生物の接種は、所定数の微生物を液体製剤に接種又は添加することにより行われてもよいし、固定化された微生物を液体製剤に浸漬すことにより行われてもよい。固定化された微生物としては、例えばニトロセルロースやアセチルセルロースなどの担体上に微生物を吸着又は共有結合させたものや、網目構造をもつゲルや、半透膜の中に徴生物を包埋固定されたものであってもよい。これらの固定化された微生物は、周知の方法により製造されてよく、例えば特開2006−262821号を参照すれば製造することができる。好ましい態様では、微生物固定化膜を電極表面に備えた酸素電極を有する微生物センサを作成し、これを液体製剤に浸漬すことにより、微生物の接種が行われ、それと同時に溶存酸素濃度を測定することができる。微生物固定化膜における微生物の密度は、適宜選択することができ、微生物の種類や大きさに応じて、例えば1.0×106〜1.0×1010細胞/cm2の密度を選択することができる。微生物密度の下限値として適切な酸素消費を達成する観点から、好ましくは1.0×107細胞/cm2、より好ましくは5.0×107細胞/cm2、さらに好ましくは1.0×108細胞/cm2が用いられてもよい。微生物密度の上限値としては、微生物と製剤中の保存剤の反応効率の観点から好ましくは5.0×109細胞/cm2、より好ましくは1.0×109細胞/cm2が用いられてもよい。
【0018】
溶存酸素は、液体製剤中に存在する酸素のことをいい、任意の方法により測定することができるが、連続的に測定する観点から、酸素ガスを透過する選択性の隔膜を用いた電気化学的方式を用いた測定法が好ましい。好ましくは、クラーク型やジョリオ型の酸素電極が用いられてもよい。電気化学的方式を用いた測定法では、溶存酸素濃度と電流が比例する。本発明では溶存酸素濃度の変化に基づき、保存効力が決定されることから、溶存酸素濃度を算出せずに、単に電流値をそのまま指標として用いてもよい。
【0019】
本発明において、溶存酸素濃度安定状態下とは、溶存酸素濃度の濃度変化が生じないか、生じても影響が少ない状態をいい、例えば、微生物による溶存酸素の消費と、外部からの酸素の流入とが平衡に達するか、又は単に溶存酸素が飽和することにより達成されてもよい。溶存酸素の消費と、外部からの酸素の流入を平衡に達しさせるためには、液体製剤に対し微生物を接種し、所定の間、状態を維持すること(例えば、静置であってもよいし、一定速度で攪拌や通気をしてもよい)により行われる。一方で、液体製剤中の溶存酸素を飽和させるために、液体製剤をバブリングすることができる。一定時間液体製剤をバブリングすることにより、溶存酸素濃度を飽和濃度で安定化させることができる。
【0020】
溶存酸素の変化は、使用した微生物の種類、製剤や保存剤の種類、攪拌の程度などに応じて変化しうるものであるが、同一の系を用いた場合に、所望の保存効力を有するか否かを示す基準となる溶存酸素濃度を決定することができる。電気化学的方式を用いた測定法では、溶存酸素濃度と電流が比例することから、基準となる溶存酸素濃度は、酸素電極を用いた場合の電流値そのものであってもよい。微生物に対する保存剤の影響は、微生物の活動を低下させることにより現れる。したがって、溶存酸素濃度安定状態下で、保存剤を含む液体製剤中に、微生物を添加した場合、保存剤の保存効力が高いほど、溶存酸素の低下が生じないことが期待される。その一方で、溶存酸素濃度安定状態下で、微生物を含む液体製剤中に保存剤を添加した場合、保存剤の保存効力が高いほど溶存酸素が増加することが期待される。
【0021】
本発明の1の態様では、本発明の保存効力の決定方法は、溶存酸素濃度安定状態下で、保存剤を含む液体製剤に、微生物を接種し、その際の溶存酸素濃度変化を指標とすることにより行われる。より具体的に、液体製剤における保存効力の決定方法は、保存剤を含む液体製剤に微生物を接種し、接種後の液体製剤中の溶存酸素濃度を測定する工程を含む。より好ましい態様では、微生物の接種は、微生物固定化膜を表面に備えた酸素電極を液体製剤に浸漬することにより行われる。これにより微生物固定化膜に固定された微生物が、微生物固定化膜周囲の溶存酸素の消費を開始し、酸素電極周囲の溶存酸素が局所的に低下し、その変化が記録される。この方法は、浸漬工程の前に、液体製剤に保存剤を添加する工程、及び保存剤を含む液体製剤をバブリングする工程をさらに含んでもよい。バブリング工程により保存剤を含んだ液体製剤中の溶存酸素を飽和させた状態を達成することができるが、バブリング工程が行われなくとも、溶存酸素濃度安定状態が達成されていればよい。この方法は、さらに溶存酸素の変化をもとに液体製剤の保存効力を決定する工程を含んでもよい。例えば、溶存酸素が、所定の期間経過後に、所定の値よりも低下した場合には、保存剤の保存効力が低いと判定し、所定の値よりも高かった場合には、保存剤の保存効力が高いと判定することができる。期間や所定の値は、所望の保存効力及び微生物の種類に応じて任意に選択することができる。
【0022】
本発明の別の態様では、本発明の保存効力の決定方法は、微生物を接種された液体製剤に対して溶存酸素濃度安定状態下で、保存剤を添加し、その際の溶存濃度変化を指標とすることにより行われる。より具体的に、液体製剤における保存効力の決定方法は、まず液体製剤に予め微生物を接種し、溶存酸素濃度安定化状態に達するまで、その状態を維持する。接種された微生物は、液体製剤中の酸素を消費する一方で、液体製剤は外から酸素が供給されることから、十分に時間をおくと、酸素の消費量と、液体製剤へと溶け込む酸素量とが平衡に達する。この場合、液体製剤は、静置されていてもよいし、一定速度で攪拌や通気が行われていてもよく、状態の維持を単にインキュベート工程と呼んでもよい。この方法は、溶存酸素濃度の安定化状態の達成後に、保存剤を添加し、保存剤の添加前後の製剤中の溶存酸素を測定する工程を含む。保存剤の添加により、微生物の酸素消費量が低下するため、安定化状態にあった溶存酸素濃度が増加する。この方法は、溶存酸素の変化をもとに前記液体製剤の保存効力を決定する工程を含む。微生物の酸素消費量の低下は、保存剤の保存効力に相当すると考えられることから、溶存酸素濃度の増加が多いほど、保存効力が高いと判断することができる。例えば、溶存酸素が、所定の期間経過後に、所定の値よりも増加した場合には、保存剤の保存効力が高いと判定し、所定の値よりも低い場合には、保存剤の保存効力が低いと判定することができる。期間や所定の値は、所望の保存効力及び微生物の種類に応じて任意に選択することができる。
【0023】
本発明の保存効力の決定方法では、保存効力の判定に用いる値を、予備実験を行うことで適宜設定することができる。例えば、保存効力がすでに調べられており、保存効力を有すると判定されている製剤と、保存効力を有していないと判定されている製剤との間で、本発明の保存効力決定方法に従い溶存酸素の変化を記録することにより、溶存酸素濃度の値を設定することが可能になる。決定された値は、同一微生物を用いる同一の系であれば、任意の製剤に適用することができる。
【0024】
本発明の保存効力試験方法に必要な時間は、使用した微生物及び実験系に応じて数分から数時間であり、従来の保存効力試験では、4週間程度かかっていた期間を大幅に低減することができる。
【0025】
本発明を実施するための機器の一例として、酸素アダプター8に接続された酸素電極1を用いる。一の態様では、酸素電極1の先端部に微生物固定化膜2を接触させて、膜支持体3により微生物固定化膜2と酸素電極1が接続されている。微生物固定化膜2を使用しない場合、液体製剤6中に直接微生物を接種し、溶存酸素を酸素電極1で測定することもできる。酸素アダプター8は、さらにレコーダー9に接続されており、溶存酸素を電流値として記録することができる。1の態様では、本発明の方法は、開放系で行われており、ビーカー5に入れられた液体製剤6は、空気と接触しており、さらにマグネティックスターラー7と、攪拌子4により液体製剤6の攪拌が行われる。
【実施例】
【0026】
黄色ブドウ球菌含有溶液に対する電流計測
酸素電極(MI-730, Microelectrodes)、O2アダプター (O2-ADPT Oxygen Adapter. Microelectrodes)、レコーダー (e-corder 410, e-DAQ) を用いて検出系を構築した。
【0027】
黄色ブドウ球菌をNutrient broth培地に植菌して得た菌体液 (2.0×108cells/ml)に、電極を浸漬した状態で、攪拌条件で電流を計測した。電流値が、低下し、一定となることを確認後、エタノール(終濃度5mg/ml)を添加し、電流値変化を記録した(図2)。菌体により酸素が消費され、外部からの酸素の供給と、菌体による酸素の消費が平衡となった時点で、エタノールを添加したところ、電流値が増加することが示された。エタノール滴下により菌体の呼吸活性が低下し、外部からの酸素の供給の結果、酸素濃度が増加し、電流値の増加として計測できた。
【0028】
黄色ブドウ球菌固定化酸素電極による電流計測
0.45%w/v塩化ナトリウム水溶液と4%w/vアルギン酸ナトリウム40mgを含むS. aureus 菌体液1ml(6.0×109cells/ml)に、酸素電極の先端を浸漬し、取り出した後に1M塩化カルシウム水溶液に浸漬しゲル化させることで黄色ブドウ球菌固定化酸素電極(固定化菌体数:6.0×107cells) を構築した。黄色ブドウ球菌固定化酸素電極を超純水に浸漬した状態で、攪拌条件下で電流値計測を開始した。外部からの酸素の供給と、菌体による酸素の消費が平衡となり、低値で安定したところで、バシトラシン溶液(終濃度5mg/ml)を滴下し、電流値変化を計測した(図3)。バシトラシン溶液の添加により、電極表面に固化されたゲル中の菌体の呼吸活性が低下し、外部からの酸素の供給の結果、酸素濃度が増加し、電流値の増加として計測できることができた。
【0029】
黄色ブドウ球菌含有溶液における電流計測及び黄色ブドウ球菌固定化酸素電極による電流計測の結果により、いずれの手法においても、抗菌剤であるエタノール又はバシトラシンの添加により、呼吸活性の低下を観察することが可能であった。これにより、菌含有溶液に対して、抗菌剤を添加した場合の溶存酸素濃度の変化を元に抗菌剤を含む溶液の保存効力の測定ができることが示された。
【0030】
微生物固定化膜の製造
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ATCC 6538株(以下、黄色ブドウ球菌という)とカンジダ アルビカンス(Candida albicans)ATCC 10231株(以下カンジダ菌という)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)ATCC 9027株(以下、緑膿菌という)を使用した。黄色ブドウ球菌、緑膿菌はNutrient broth培地 5mL中、37℃の好気条件下で12時間の前培養を行い、次に対数増殖後期まで(4時間)本培養を行った。カンジダ菌は、グルコース-ペプトン培地(Glucose Peptone Broth)5mL中、25℃の好気条件下で48時間の前培養を行い、次に対数増殖後期まで(12〜14時間)本培養を行った。1000g、4℃、5分間遠心を行うことにより菌体を回収した後、グルコース(500mg/L)含有0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に再懸濁し、位相差顕微鏡BH−2(オリンパス光学工業(株)下でヘマサイトメーター(サンリード硝子(有))、バクテリア用)を用いて菌体数をカウントした。酸素電極 (電極面積: 3.1mm)にポリ(メチルメタクリレート) 製のホルダー(直径:15mm、高さ:15mm)を接着した。メンブレンフィルター上に、濾過瓶(IWAKI)、ファンネル(内径:18mm、IWAKI)、エバポレーター (東京理化器械) を用いて、カンジダ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)をそれぞれ3.2×107細胞/cm2、1.2×109細胞/cm2、6.0×108細胞/cm2の密度になるように播種し、アスピレーターを用いて菌体懸濁液を吸引固定することにより作製した。作製した微生物固定化メンブレンを直径15mmの円形にカットし、微生物膜固定具 (プロピレン樹脂製網付) の底面に設置した。ポリメチルメタクリレート(PMMA)製のホルダーを接着した酸素電極の先端を菌体固定化メンブレンに接触させた状態で固定することで、表面に微生物固定化膜を備えた酸素電極(微生物センサ)を構築した。
【0031】
化粧水モデルの調製
モデルとなる化粧水の最終的な組成を以下の通りとした:
【表1】
緑膿菌に対する実験では、MP0.05とMP0.15の処方の化粧水モデルを用いた。黄色ブドウ球菌に対する実験では、MP0.15EXとMP0.15EX+PE0.2の処方の化粧水モデルを用いた。カンジダ菌に対する実験では、MP0.05とMP0.15+PE0.2の処方の化粧水モデルを用いた。
【0032】
酸素電極を用いた酸素濃度の測定
酸素電極としてMI-730(Microelectrodes,Inc.)、O2アダプターとして(O2-ADPT Oxygen Adapter (Microelectrodes, Inc.)、レコーダーとしてe-corder 410(e-DAQ)を用いて検出系を構築した(図1)。上で作成した微生物固定化膜を、微生物膜固定具を介して酸素電極に接触させた(接触部分面積3.1mm2)。
【0033】
上記の化粧水モデルから、保存剤であるメチルパラベン及びフェノキシエタノールを除いた処方の溶液27ml、10×PBS3ml、500mg/lのグルコースを、攪拌子を備えたビーカーに入れ、微生物固定化膜を取り付けた酸素電極を溶液に浸漬した。攪拌を行いながら、酸素電極を用いて電流値を計測し、電流の値が一定になるのを待った。電流の値が一定になった後に微生物膜固定化酸素電極をサンプル液から引き上げ、上記処方の保存剤(メチルパラペンとフェノキシエタノール)を含む化粧水モデル溶液に酸素電極を再度浸漬させ、攪拌条件下で電流の変化を記録した(図4A図5A、及び図6A)。
【0034】
保存効力試験
上記の化粧水モデルについて、従来の保存効力試験を行った。具体的に、30mlの化粧水モデルに対し、緑膿菌及び黄色ブドウ球菌については、1.0×106個/ml、そしてカンジダ菌については、1.0×105個/mlの生菌数となるように、それぞれ緑膿菌、黄色ブドウ球菌、及びカンジダ菌を0.1mL接種し、25℃遮光下で化粧水モデルを保存した。接種した際、及び接種後3日目、4日目、6日目、7日目、10日目、13日目、20日目に、綿棒を用いて、緑膿菌、黄色ブドウ球菌は、ソイビーンカゼインダイジェスト寒天培地、カンジダ菌はサブローデキストロース寒天培地に塗抹した。塗抹後、緑膿菌、黄色ブドウ球菌は30℃で2日、カンジダ菌は25℃で3日間培養して、コロニー数を計測した(図4B図5B、及び図6B)。
【0035】
従来の保存効力試験において、それぞれの菌について保存効力があると認定された抗菌剤の種類(緑膿菌についてはMP0.15、黄色ブドウ球菌についてはMP0.15EX+PE0.2、カンジダ菌についてはMP0.15+PE0.2)と、保存効力がないと認定された抗菌剤の種類(緑膿菌についてはMP0.05、黄色ブドウ球菌についてはMP0.15EX、カンジダ菌についてはMP0.05)とについて、酸素電極による溶存酸素濃度(電流値)を測定すると、測定した値は、それぞれで明確に区別をすることができた。したがって、これらの酸素濃度(電流値)の間に閾値を設定することで、同じ系において抗菌剤の保存効力を決定することが可能になる。例えば緑膿菌の場合、30分後における溶存酸素濃度(電流値)をMP0.05を用いた際の値である約100pAからMP0.15を用いた際の値である約500pAの間に適宜閾値を設定することができる(図4A)。他の抗菌剤を用いた場合において30分後の溶存酸素濃度(電流値)を測定し、当該閾値と比較することで、保存効力の有無を決定することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 酸素電極
2 微生物固定化膜
3 膜支持体
4 攪拌子
5 ビーカー
6 製剤
7 マグネティックスターラー
8 酸素アダプター
9 レコーダー
図1
図2
図3
図4
図5
図6