【実施例】
【0026】
黄色ブドウ球菌含有溶液に対する電流計測
酸素電極(MI-730, Microelectrodes)、O
2アダプター (O2-ADPT Oxygen Adapter. Microelectrodes)、レコーダー (e-corder 410, e-DAQ) を用いて検出系を構築した。
【0027】
黄色ブドウ球菌をNutrient broth培地に植菌して得た菌体液 (2.0×10
8cells/ml)に、電極を浸漬した状態で、攪拌条件で電流を計測した。電流値が、低下し、一定となることを確認後、エタノール(終濃度5mg/ml)を添加し、電流値変化を記録した(
図2)。菌体により酸素が消費され、外部からの酸素の供給と、菌体による酸素の消費が平衡となった時点で、エタノールを添加したところ、電流値が増加することが示された。エタノール滴下により菌体の呼吸活性が低下し、外部からの酸素の供給の結果、酸素濃度が増加し、電流値の増加として計測できた。
【0028】
黄色ブドウ球菌固定化酸素電極による電流計測
0.45%w/v塩化ナトリウム水溶液と4%w/vアルギン酸ナトリウム40mgを含むS. aureus 菌体液1ml(6.0×10
9cells/ml)に、酸素電極の先端を浸漬し、取り出した後に1M塩化カルシウム水溶液に浸漬しゲル化させることで黄色ブドウ球菌固定化酸素電極(固定化菌体数:6.0×10
7cells) を構築した。黄色ブドウ球菌固定化酸素電極を超純水に浸漬した状態で、攪拌条件下で電流値計測を開始した。外部からの酸素の供給と、菌体による酸素の消費が平衡となり、低値で安定したところで、バシトラシン溶液(終濃度5mg/ml)を滴下し、電流値変化を計測した(
図3)。バシトラシン溶液の添加により、電極表面に固化されたゲル中の菌体の呼吸活性が低下し、外部からの酸素の供給の結果、酸素濃度が増加し、電流値の増加として計測できることができた。
【0029】
黄色ブドウ球菌含有溶液における電流計測及び黄色ブドウ球菌固定化酸素電極による電流計測の結果により、いずれの手法においても、抗菌剤であるエタノール又はバシトラシンの添加により、呼吸活性の低下を観察することが可能であった。これにより、菌含有溶液に対して、抗菌剤を添加した場合の溶存酸素濃度の変化を元に抗菌剤を含む溶液の保存効力の測定ができることが示された。
【0030】
微生物固定化膜の製造
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ATCC 6538株(以下、黄色ブドウ球菌という)とカンジダ アルビカンス(Candida albicans)ATCC 10231株(以下カンジダ菌という)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)ATCC 9027株(以下、緑膿菌という)を使用した。黄色ブドウ球菌、緑膿菌はNutrient broth培地 5mL中、37℃の好気条件下で12時間の前培養を行い、次に対数増殖後期まで(4時間)本培養を行った。カンジダ菌は、グルコース-ペプトン培地(Glucose Peptone Broth)5mL中、25℃の好気条件下で48時間の前培養を行い、次に対数増殖後期まで(12〜14時間)本培養を行った。1000g、4℃、5分間遠心を行うことにより菌体を回収した後、グルコース(500mg/L)含有0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に再懸濁し、位相差顕微鏡BH−2(オリンパス光学工業(株)下でヘマサイトメーター(サンリード硝子(有))、バクテリア用)を用いて菌体数をカウントした。酸素電極 (電極面積: 3.1mm
2)にポリ(メチルメタクリレート) 製のホルダー(直径:15mm、高さ:15mm)を接着した。メンブレンフィルター上に、濾過瓶(IWAKI)、ファンネル(内径:18mm、IWAKI)、エバポレーター (東京理化器械) を用いて、カンジダ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)をそれぞれ3.2×10
7細胞/cm
2、1.2×10
9細胞/cm
2、6.0×10
8細胞/cm
2の密度になるように播種し、アスピレーターを用いて菌体懸濁液を吸引固定することにより作製した。作製した微生物固定化メンブレンを直径15mmの円形にカットし、微生物膜固定具 (プロピレン樹脂製網付) の底面に設置した。ポリメチルメタクリレート(PMMA)製のホルダーを接着した酸素電極の先端を菌体固定化メンブレンに接触させた状態で固定することで、表面に微生物固定化膜を備えた酸素電極(微生物センサ)を構築した。
【0031】
化粧水モデルの調製
モデルとなる化粧水の最終的な組成を以下の通りとした:
【表1】
緑膿菌に対する実験では、MP0.05とMP0.15の処方の化粧水モデルを用いた。黄色ブドウ球菌に対する実験では、MP0.15EXとMP0.15EX+PE0.2の処方の化粧水モデルを用いた。カンジダ菌に対する実験では、MP0.05とMP0.15+PE0.2の処方の化粧水モデルを用いた。
【0032】
酸素電極を用いた酸素濃度の測定
酸素電極としてMI-730(Microelectrodes,Inc.)、O
2アダプターとして(O2-ADPT Oxygen Adapter (Microelectrodes, Inc.)、レコーダーとしてe-corder 410(e-DAQ)を用いて検出系を構築した(
図1)。上で作成した微生物固定化膜を、微生物膜固定具を介して酸素電極に接触させた(接触部分面積3.1mm
2)。
【0033】
上記の化粧水モデルから、保存剤であるメチルパラベン及びフェノキシエタノールを除いた処方の溶液27ml、10×PBS3ml、500mg/lのグルコースを、攪拌子を備えたビーカーに入れ、微生物固定化膜を取り付けた酸素電極を溶液に浸漬した。攪拌を行いながら、酸素電極を用いて電流値を計測し、電流の値が一定になるのを待った。電流の値が一定になった後に微生物膜固定化酸素電極をサンプル液から引き上げ、上記処方の保存剤(メチルパラペンとフェノキシエタノール)を含む化粧水モデル溶液に酸素電極を再度浸漬させ、攪拌条件下で電流の変化を記録した(
図4A、
図5A、及び
図6A)。
【0034】
保存効力試験
上記の化粧水モデルについて、従来の保存効力試験を行った。具体的に、30mlの化粧水モデルに対し、緑膿菌及び黄色ブドウ球菌については、1.0×10
6個/ml、そしてカンジダ菌については、1.0×10
5個/mlの生菌数となるように、それぞれ緑膿菌、黄色ブドウ球菌、及びカンジダ菌を0.1mL接種し、25℃遮光下で化粧水モデルを保存した。接種した際、及び接種後3日目、4日目、6日目、7日目、10日目、13日目、20日目に、綿棒を用いて、緑膿菌、黄色ブドウ球菌は、ソイビーンカゼインダイジェスト寒天培地、カンジダ菌はサブローデキストロース寒天培地に塗抹した。塗抹後、緑膿菌、黄色ブドウ球菌は30℃で2日、カンジダ菌は25℃で3日間培養して、コロニー数を計測した(
図4B、
図5B、及び
図6B)。
【0035】
従来の保存効力試験において、それぞれの菌について保存効力があると認定された抗菌剤の種類(緑膿菌についてはMP0.15、黄色ブドウ球菌についてはMP0.15EX+PE0.2、カンジダ菌についてはMP0.15+PE0.2)と、保存効力がないと認定された抗菌剤の種類(緑膿菌についてはMP0.05、黄色ブドウ球菌についてはMP0.15EX、カンジダ菌についてはMP0.05)とについて、酸素電極による溶存酸素濃度(電流値)を測定すると、測定した値は、それぞれで明確に区別をすることができた。したがって、これらの酸素濃度(電流値)の間に閾値を設定することで、同じ系において抗菌剤の保存効力を決定することが可能になる。例えば緑膿菌の場合、30分後における溶存酸素濃度(電流値)をMP0.05を用いた際の値である約100pAからMP0.15を用いた際の値である約500pAの間に適宜閾値を設定することができる(
図4A)。他の抗菌剤を用いた場合において30分後の溶存酸素濃度(電流値)を測定し、当該閾値と比較することで、保存効力の有無を決定することができる。