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特開2015-211936媒体に含有されるハロゲン化芳香族化合物の選択固着方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-211936(P2015-211936A)
(43)【公開日】2015年11月26日
(54)【発明の名称】媒体に含有されるハロゲン化芳香族化合物の選択固着方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 15/00 20060101AFI20151030BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20151030BHJP
   C08G 63/123 20060101ALI20151030BHJP
【FI】
   B01D15/00 K
   B01J20/26 G
   C08G63/123
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-94951(P2014-94951)
(22)【出願日】2014年5月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 和博
(72)【発明者】
【氏名】加藤 栄一
(72)【発明者】
【氏名】上宇宿 俊朗
(72)【発明者】
【氏名】友田 英幸
(72)【発明者】
【氏名】明石 満
(72)【発明者】
【氏名】木田 敏之
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
4J029
【Fターム(参考)】
4D017AA03
4D017AA05
4D017BA04
4D017CA13
4D017CA14
4D017CB01
4D017CB10
4D017DA01
4D017DA07
4D017EA01
4D017EB01
4G066AB05A
4G066AB06A
4G066AB07A
4G066AB21A
4G066AB26A
4G066AC01B
4G066BA22
4G066CA33
4G066DA07
4G066DA09
4J029AA01
4J029AB02
4J029AE18
4J029CA03
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
4J029CB04A
4J029CB05
4J029CB06A
4J029EA02
4J029FA02
4J029FA06
4J029FA07
4J029FC43
4J029GA13
4J029GA14
(57)【要約】
【課題】有機媒体に含有されるハロゲン化芳香族化合物をシクロデキストリンポリマーを用いて選択的に固着し、有機媒体からハロゲン化芳香族化合物を除去するあるいは濃縮する際に、より効果的な条件を探索すること。
【解決手段】シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とを縮合したポリマーの末端にアルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を反応させた、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質のシクロデキストリンポリマーを含有する、ハロゲン化芳香族化合物の選択固着剤を充填したカラムに、ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体と非極性溶剤との混合物を接触させ、次いで該カラムに移動相としての非極性溶剤を流し、もって該有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物を該ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質のシクロデキストリンポリマーに固着させて、ハロゲン化芳香族化合物を含有しない有機媒体を得る方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とを縮合したポリマーの末端にアルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を反応させた、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質のシクロデキストリンポリマーを含有する、ハロゲン化芳香族化合物の選択固着剤を充填したカラムに、ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体と非極性溶剤との混合物を接触させ、次いで該カラムに移動相としての非極性溶剤を流し、もって該有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物を該ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質のシクロデキストリンポリマーに固着させて、ハロゲン化芳香族化合物を含有しない有機媒体を得る方法。
【請求項2】
有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物が、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸またはこれらのハロゲン化物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルコール類が炭素数1〜10のアルキル基を有するアルコールから選択され、アリールアルコール類がベンジルアルコール、またはアルキル、アリール、またはアシル基で置換されたベンジルアルコール類から選択され、フェノール類がフェノール、またはアルキル、アリール、またはアシル基で置換されたフェノールから選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
有機媒体が、絶縁油、機械油、熱媒体、潤滑油、可塑剤、塗料及びインキ及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ハロゲン化芳香族化合物が、ダイオキシン類、ポリクロロビフェニル類、またはポリクロロベンゼン類である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
非極性溶剤が、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン又はこれらの混合溶剤から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁油、機械油、熱媒体、潤滑油、可塑剤、塗料及びインキ及びこれらの混合物等に代表される有機媒体中に含有されたハロゲン化芳香族化合物を捕集することのできる選択固着剤を用いてハロゲン化芳香族化合物をほとんど含有しない有機媒体を得る方法に関する。より詳細には、シクロデキストリンと有機二塩基酸とを縮合させ、得られた縮合ポリマーの末端にアルコール類、アリールアルコール類、またはフェノール類をエステル化させることにより得ることができる、多孔質のシクロデキストリンポリマーを用いて、有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物を選択的にかつ効率的に固着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化芳香族化合物は、人体、動植物に対して強い毒性を示す化合物であり、特に催奇形性などのおそれから、有害物質として廃棄物の処理及び清掃に関する法律により指定されているものが多数ある。これら化合物が土壌、地下水、焼却灰、洗浄水、機械油等に存在する場合は、何らかの処理を施してこれらの濃度を基準値以下に減少させなければならないことが厳密に定められている。
【0003】
従来、ハロゲン化芳香族化合物が含有された絶縁油等の有機媒体は、原姿のまま化学処理されていたが、近年、日本国内において、ポリクロロビフェニル類(以下、「PCB」と称する)の不含見解書又はPCB不含証明書のない再生油はもとより、PCB不含見解書又はPCB不含証明書のある絶縁油(新油、再生油)からも、極微量(0.5〜100ppm程度、特に0.5〜10ppm程度)のハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体が次々と確認されている。このような大量の有機媒体を従来方法にて化学的に処理するには多大な時間と有用なエネルギーを要することから効率的そして経済的にも問題が残る。
【0004】
ハロゲン化芳香族化合物を含有する大量の有機媒体を処理するために、本発明者らは、シクロデキストリン(以下、「CD」と称する。)と二塩化テレフタロイルとを縮合させたポリマーの末端をメチル基で処理したポリマー等の種々のシクロデキストリンポリマーを合成し、これらを用いてハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体からハロゲン化芳香族化合物を選択的に固着させ、ハロゲン化芳香族化合物を含まない有機媒体を得ることを提案した(特許文献1)。特許文献1では、種々のシクロデキストリンポリマーにハロゲン化芳香族化合物吸着能があることが示され、これらのシクロデキストリンポリマーを用いてハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体を処理することができることがわかった。
【0005】
ここで、より効率的に大量の有機媒体を処理するために、かかるシクロデキストリンポリマーをカラムに充填し、ここにハロゲン化芳香族を含有する有機媒体(例えば絶縁油)を流してPCBを吸着させる試みを行った。そしてより効率的にハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体を処理するために口径の大きいカラムを用いたところ、有機媒体の回収率が低いうちにPCBが漏出してくることがわかった。これはカラムを大型化したことによりカラム固体相に空隙が生じやすくなり、ハロゲン化芳香族化合物がシクロデキストリンポリマーと上手く接触しないままカラム内部をすり抜けてしまう場合があることに一因があると考えられる。また、口径の大きいカラムを使用した処理は、一般に時間がかかり、効率的であるとは云えない場合もあった。いずれにしても、シクロデキストリンポリマーを用いて有機溶媒からPCBを固着分離できる方法を探索する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2011/102346号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、有機媒体に含有されるハロゲン化芳香族化合物をシクロデキストリンポリマーを用いて選択的に固着し、有機媒体からハロゲン化芳香族化合物を除去するあるいは濃縮する際に、より効果的な条件を探索することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、水溶性であるシクロデキストリンから生成した、水不溶性の多孔質のシクロデキストリンポリマーを選択固着剤として使用して、有機媒体中に含有されるハロゲン化芳香族化合物を選択的に捕集し、ハロゲン化芳香族化合物を含有しない有機媒体を高い回収率で得ることができる条件を見いだした。
【0009】
本発明の態様は、以下の通りである:
1.シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とを縮合したポリマーの末端にアルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を反応させた、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質のシクロデキストリンポリマーを含有する、ハロゲン化芳香族化合物の選択固着剤を充填したカラムに、ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体と非極性溶剤との混合物を接触させ、次いで該カラムに移動相としての非極性溶剤を流し、もって該有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物を該ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質のシクロデキストリンポリマーに固着させて、ハロゲン化芳香族化合物を含有しない有機媒体を得る方法。
2.有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物が、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸またはこれらのハロゲン化物から選択される、上記1に記載の方法。
3.アルコール類が炭素数1〜10のアルキル基を有するアルコールから選択され、アリールアルコール類がベンジルアルコール、またはアルキル、アリール、またはアシル基で置換されたベンジルアルコール類から選択され、フェノール類がフェノール、またはアルキル、アリール、またはアシル基で置換されたフェノールから選択される、上記1または2に記載の方法。
4.有機媒体が、絶縁油、機械油、熱媒体、潤滑油、可塑剤、塗料及びインキ及びこれらの混合物からなる群から選択される、上記1〜3のいずれかに記載の方法。
5.ハロゲン化芳香族化合物が、ダイオキシン類、ポリクロロビフェニル類、またはポリクロロベンゼン類である、上記1〜4のいずれかに記載の方法。
6.非極性溶剤が、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン又はこれらの混合溶剤から選択される、上記1〜5のいずれかに記載の方法。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の方法は、シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とを縮合したポリマーの末端にアルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を反応させた、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質のシクロデキストリンポリマーを含有する、ハロゲン化芳香族化合物の選択固着剤を充填したカラムに、ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体と非極性溶剤との混合物を接触させ、次いで該カラムに移動相としての非極性溶剤を流し、もって該有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物を該ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質のシクロデキストリンポリマーに固着させて、ハロゲン化芳香族化合物を含有しない有機媒体を得る方法に係る。
【0012】
本発明において「ハロゲン化芳香族化合物」とは、芳香族化合物にフッ素、塩素、臭素及びヨウ素が1以上置換した化合物全般を指す。本発明では、例えばポリクロロビフェニル類(PCB)、ダイオキシン類、フロン類、ポリクロロナフタレン類およびポリクロロベンゼン類等を指す。PCBとは、ビフェニル骨格に塩素原子が数個置換した化合物の総称であり、塩素原子の置換位置、置換数により多数の異性体が存在する。またダイオキシン類とは、狭義の意味ではダイオキシン類対策特別措置法で指定される特定の化合物を指すが、本発明では、いわゆる内分泌撹乱物質(環境ホルモン)として疑われるハロゲン化化合物を全て含む。
【0013】
本発明においてハロゲン化芳香族化合物を含有する「有機媒体」とは、広く一般的に有機溶剤のことであり、特にハロゲン化芳香族化合物を含有する可能性の高い絶縁油、機械油、熱媒体、潤滑油、可塑剤、塗料及びインキ及びこれらの混合物等を意味する。本発明において「有機媒体」とは、その大部分(例えば6割以上)が前記の有機媒体であればよく、場合によっては水を含むこともあるが、当該ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体全体としての性質は、水溶液でなく、あくまで有機溶液のそれである。
【0014】
また、固体物質(例えば紙、木材、焼却灰、岩石、土壌、あるいは廃重電機器およびその部材)に付着または含有されたハロゲン化芳香族化合物を洗浄操作を通じて有機媒体に移行させたものも、本発明の選択固着剤の処理対象となる「ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体」となる。
【0015】
本明細書において「非極性溶剤」とは、極性のない溶剤のみならず極性がきわめて低い溶剤を含むものとする。かかる溶剤として、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカンあるいはこれらの混合溶剤等を挙げることができる。
【0016】
本明細書において「ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する」とは、上述のハロゲン化芳香族化合物と引き合うように(すなわち、斥力ではないことを意味する。)相互作用することを意味し、このような特性を有する化合物を「ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物」と総称する。このような化合物は、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する環状部分、置換基、シーケンスなどを有する。本明細書において「ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物」のことを、場合により、単に「吸引的相互作用化合物」「相互作用化合物」あるいは「相互作用する化合物」などと省略して記載することがある。
【0017】
本発明において、ハロゲン化芳香族化合物を「選択的に固着」するとは、有機媒体に溶解、分散等により含有されたハロゲン化芳香族化合物のみ、あるいは当該ハロゲン化芳香族化合物を内部に含む有機媒体分子の会合体と相互作用して、これを取り込むあるいは定着させることをいう。本明細書において「固着」とは、化学的結合や接着、ならびに物理的吸着や吸引、あるいは単に引っかかった状態であるものなどを全て含み、必ずしも定常的に接着されていることを意味するものでない。たとえば、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用し、所定の時間ごく近距離に位置した状態となる場合や、吸引的な相互作用により所定の時間接触した状態であれば、広い意味で本明細書にいう「固着」した状態に該当するものとする。すなわち本発明の「選択固着剤」とは、選択固着剤に含有される活性成分が、有機媒体中に含有されるハロゲン化芳香族化合物と吸引的に強く相互作用し、ハロゲン化芳香族化合物を活性成分分子構造内にしっかりと取り込むあるいは定着させるような薬剤のほか、かかる活性成分が、ハロゲン化芳香族化合物と少なくとも一時的に接触した状態にあるか、至近距離に位置した状態を維持することができる薬剤全般を意味する。
【0018】
したがって本発明の方法に使用する選択固着剤は、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用することによりこれらを固着することができる組成物を含む。「組成物」の意味するところは後ほど説明する。かかる組成物の活性成分として、シクロデキストリンと有機二塩基酸とを縮合させたポリマーの末端にアルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を反応させた多孔質のシクロデキストリンポリマーが挙げられる。ここに例示するハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物は、分子構造内にハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用することが可能なシクロデキストリンの環状部分を分子内に有する化合物であり、この吸引的相互作用化合物は、有機媒体に少なくとも分散させることができる。吸引的相互作用化合物分子内に存在する、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する部分、すなわちシクロデキストリンの環状部分とハロゲン化芳香族化合物とが相互作用することにより、ハロゲン化芳香族化合物を当該吸引的相互作用部分またはその近傍に固着させる。
【0019】
本発明の方法に使用する選択固着剤は、前記のハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物を活性成分として含むほか、必要に応じて担体、基材、希釈剤等の助剤を含むことができ、このような状態のときには「組成物」と称することができる。また、活性成分であるハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物は、場合により担体または基材に固定化されていても良く、本明細書ではこのような場合も広い意味で「組成物」と称することとする。たとえばシリカゲル、ポリマービーズ、イオン交換樹脂、ガラス、フィルタ、メンブレン、各種網状構造物又は格子状構造物、発泡体、多孔質物質などの固体担体にハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物を固定化させることができる。ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物の担体又は基材への固定化は、たとえば共有結合あるいはイオン結合などに代表される比較的強い化学結合の他、疎水性相互作用、ファンデルワールス力などの比較的弱い力での物理的相互作用によっても行うことができる。
【0020】
ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物として、シクロデキストリンと有機二塩基酸類とを縮合させたポリマーの末端にアルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を反応させたポリマーが挙げられる。シクロデキストリンとは、6個、7個または8個のグルコースが環状に結合した環状オリゴ糖のことであり、それぞれα−、β−またはγ−シクロデキストリンと称される。有機二塩基酸類とは、例えば、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪酸を含み、本発明においては、シクロデキストリン分子中の−CHOH基と反応して逐次縮合し、ポリマーを形成しうる化合物のことである。このような有機二塩基酸類として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸が挙げられる。有機二塩基酸ハロゲン化物とは、上記の有機二塩基酸類の酸ハロゲン化物を指す。本発明では特に有機二塩基酸であるテレフタル酸、又は有機二塩基酸ハロゲン化物であるテレフタル酸ジクロライド(二塩化テレフタロイル)を用いることが好適である。
【0021】
アルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類をポリマー末端に反応させる、とは、縮合ポリマーの末端に残る有機二塩基酸由来のカルボキシル基を、特定の置換基でエンドキャップすることを意味する。カルボキシル基をエンドキャップするために、アルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を反応させ、エステル化することができる。本発明において末端にアルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類を反応させる、とは、例えば炭素数1〜10のアルコールから選択されるアルコール類、ベンジルアルコールまたは置換ベンジルアルコール類から選択されるアリールアルコール類、またはフェノールまたは置換フェノール類から選択されるフェノール類をカルボキシル末端基に反応させて、アルキルエステル、アリールエステルまたはフェニルエステルにすることを意味する。例えば縮合ポリマーをメタノールと反応させれば末端基はメチルエステル(−COOMe)となり、エタノールと反応させればエチルエステル(−COOEt)となり、ベンジルアルコールと反応させればベンジルエステル(−COOBz)となる。
【0022】
ここで、複数のシクロデキストリンと有機二塩基酸類とが逐次縮合し、この末端をアルコール類、アリールアルコール類またはフェノール類で処理したものであれば、例えばシクロデキストリンと有機二塩基酸類とが合計で数個〜10個程度縮合した、いわゆる一般的には「オリゴマー」と呼ばれるような化合物であっても、本明細書では全て「ポリマー」と総称するものとする。本発明の多孔質のシクロデキストリンポリマーは、分子量の異なる重合体が混合した組成物であってもよい。
【0023】
本発明の方法で使用する選択固着剤の活性成分であるシクロデキストリンポリマーの化学構造式は、例えば以下の式で表すことができる:
【0024】
【化1】
【0025】
この式において、シクロデキストリンの部分は、円錐台形で表されており、有機二塩基酸としてテレフタル酸が用いられている。シクロデキストリン中の水酸基と有機二塩基酸とがエステル結合により交互に結合し、網目状の構造を形成している。そしてポリマーの末端は、メタノールと反応させた結果として、メチル基でキャップされている。
【0026】
例えば、β−シクロデキストリンと、有機二塩基酸ハロゲン化物として二塩化テレフタロイルとを縮合させ、次いで末端にメタノールを反応させた場合、以下のようなスキームで反応が進行し、ポリマーを得ることができる:
【0027】
【化2】
【0028】
二塩化テレフタロイルの一方の酸クロライド基(−COCl)は、γ−シクロデキストリンの−CHOH基と反応し、エステル結合する。そしてもう一方の酸クロライド基は、別のβ−シクロデキストリンの−CHOH基と反応する。これを繰り返し、縮合ポリマーが得られる。シクロデキストリンには多数の水酸基が存在するが、縮合に関与する置換基は−CHOHの部分であり、このような基はα−シクロデキストリンの場合6個、β−シクロデキストリンの場合7個、そしてγ−シクロデキストリンの場合8個分子内に存在する。得られる縮合体は、シクロデキストリンと有機二塩基酸とが交互に縮合したもののほか、架橋構造や3次元網目構造となる場合もある。縮合反応の終了時にメタノールを反応させると、末端の酸クロライド基は−COOCHとなる。
【0029】
本発明の方法は、上述のシクロデキストリンポリマーを含有する、ハロゲン化芳香族化合物の選択固着剤を充填したカラムに、まずハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体と非極性溶剤との混合物を接触させる。ここでハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体と非極性溶剤との混合物とを接触させるとは、該カラムに該混合物を充填し、先に充填した選択固着剤と相互作用させることである。次いで該カラムに移動相としての非極性溶剤を流す。カラム処理の移動相として好適な非極性溶剤としては、先にも説明したとおり極性の低い炭化水素溶剤が挙げられる。かかる炭化水素溶剤として、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカンあるいはこれらの混合溶剤等を挙げることができる。ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体と非極性溶剤との混合物を作る際に用いた非極性溶剤と同じものを移動相として用いることが望ましい。すなわち、PCBを含有する絶縁油とヘキサンとの混合物をカラムに接触させた場合は、移動相の非極性溶剤としてヘキサンを用いることが好ましい。移動相としての非極性溶剤を該カラムに流すと、先に充填した該混合物がカラムより流出する。このとき、該混合物に含有されていたハロゲン化芳香族化合物は、選択固着剤と相互作用して固着されるため、カラムからはハロゲン化芳香族化合物が除かれた混合物のみが流出することになる。その後、混合液を蒸留等の既知の方法を適宜用いて各成分ごとに分留し、ハロゲン化芳香族化合物を含有しない有機媒体を得ることができる。例えば、絶縁油にPCBが含有されている場合には、本発明の方法に使用する選択固着剤によりPCBを分離除去した絶縁油を得ることが可能である。このように本発明の方法により有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物をハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する多孔質のシクロデキストリンポリマーに固着させて、ハロゲン化芳香族化合物を含有しない有機媒体を高い回収率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の方法を実施するための装置の例を模式的に図示したものである。
図2】従来方法を模式的に図示したものである。
図3】比較実施例及び本発明の実施例における、絶縁油回収率と回収混合油中のPCB濃度の関係をグラフにしたものである。
図4】本発明の実施例と参考例(従来方法)による絶縁油の回収例における、絶縁油回収時間と絶縁油の回収率の関係をグラフにしたものである。
図5】本発明の実施例と参考例(従来方法)による絶縁油の回収例における、絶縁油回収率と回収混合油中のPCB濃度の関係をグラフにしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の有機媒体中からハロゲン化芳香族化合物を選択的に除去する方法を具体的に説明する。
【0032】
本発明に使用するハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体は、上述のハロゲン化芳香族化合物を少なくとも1種含有している。ハロゲン化芳香族化合物は、有機媒体中にいかなる濃度で溶解していても良いが、特にハロゲン化芳香族化合物の含有量が0.5〜1%程度の場合に「極微量」「微量」あるいは「低濃度で」含有していると称される。特にハロゲン化芳香族化合物を低濃度で含有する有機媒体は、処理すべきハロゲン化芳香族化合物は極少量であるのに、有機媒体自体の体積が非常に大きくなり、したがって貯蔵に困難をきたすとともに化学的に処理するには多大な時間を要する。よって、極微量に溶解しているハロゲン化芳香族化合物を有機媒体から濃縮分離して、処理すべきハロゲン化芳香族化合物と、再利用可能な有機媒体とに分けることができれば、ハロゲン化芳香族化合物の処理効率が上がる一方、かかる有機媒体の貯蔵の問題を解決することができる。
【0033】
ハロゲン化芳香族化合物を特に含有しやすい有機媒体は、絶縁油、機械油、熱媒体、潤滑油、可塑剤、塗料、インク及びこれらの混合物である。
【0034】
本発明の方法を実施するための一形態を説明する。図1は、本発明の方法を実施するための装置の例を模式的に表した図である。装置は、主として、カラム移動相を流すための気体を供給する窒素ボンベ、油貯蔵容器、カラム及び恒温槽、ならびに油受け容器から構成されている。まず、恒温槽中に設置されたカラムに、本発明の方法で使用する選択固着剤を充填する。カラムに充填する選択固着剤の量は、処理すべき有機媒体の量や、除去すべきハロゲン化芳香族化合物の濃度などにより適宜定めることができる。たとえば、有機媒体に含有されているハロゲン化芳香族化合物に対して10倍〜50倍、より好ましくは50〜200倍(モル基準)の量の、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物を含む上述の選択固着剤をカラムに投入することができる。次にハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体(図1では絶縁油)と非極性溶剤(例えばヘキサン)との混合物を油貯蔵容器に入れる。このとき、有機媒体と非極性溶剤とは任意の割合で混合することができるが、好ましくは有機媒体/非極性溶剤の比率が1/1〜3/1程度となるように混合することが望ましい。次に油貯蔵容器中に気体を導入し、容器内に入れられた混合物を流出させ、先に用意したカラムに移動させる。恒温槽の温度は室温〜100℃、30℃〜90℃、あるいは50℃〜80℃等、自由に設定することができる。20℃〜40℃の室温近辺で接触させることが好ましい。ここでカラムに充填された選択固着剤と該混合物とが接触して選択固着在中の吸引的相互作用部分と相互作用し、ハロゲン化芳香族化合物が当該吸引的相互作用部分またはその近傍に固着される。処理する有機媒体の量やハロゲン化芳香族化合物の濃度、及び本発明の選択固着剤の量にもよるが、一般的には数分〜数日間、場合によっては数日間にわたり混合物と選択固着剤とを接触させることができる。次いで油貯蔵容器に、混合物を作る際に用いたのと同じ非極性溶剤(ここではヘキサン)を入れる。油貯蔵容器中に気体を導入して容器内に入れられた非極性溶剤をカラムに流し込む。先に説明したとおり、カラムに充填した混合物はカラム内の選択固着剤と接触して相互作用し、含有されていたハロゲン化芳香族化合物は選択固着剤に固着されているので、非極性溶剤をカラムに流し込むと、ハロゲン化芳香族化合物が除かれた混合物のみが油受け容器に流出されることになる。油受け容器に流出した混合物は、必要に応じて蒸留等の既知の分離操作を施すことにより絶縁油とヘキサンとに分け、絶縁油、ヘキサン共にその後再利用することが可能となる。そして分離により得たハロゲン化芳香族化合物を固着した吸引的相互作用化合物は、必要に応じて固着したハロゲン化芳香族化合物のみを脱離し、吸引的相互作用化合物に固着されたハロゲン化芳香族化合物又は前記脱離操作により得たハロゲン化芳香族化合物を、必要に応じて希釈した後、例えば化学抽出分解法などの化学的処理方法により分解処理を行うことができる。
【0035】
ハロゲン化芳香族化合物を固着した吸引的相互作用化合物を分離した後に得られた有機媒体は、ハロゲン化芳香族化合物が実質的に完全に除去されている。したがって、ハロゲン化芳香族化合物が含まれているが故に従来は保管せざるをえなかった有機媒体を、再利用可能なものは再利用し、あるいは通常の方法、例えば焼却処分等により廃棄することができる。
【0036】
本発明の方法を補足的に説明するために、移動相非極性溶剤を使用しない従来の方法を図2を用いて説明する。図2は、従来方法を行う方法を模式的に図示したものである。本発明の方法を実施するための装置と同様に、装置はカラム移動相を流すための気体を供給する窒素ボンベ、油貯蔵容器、カラム及び恒温槽、ならびに油受け容器から構成されている。まず、恒温槽中に設置されたカラムに、選択固着剤を充填する。次にハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体(図1では絶縁油)を油貯蔵容器に入れる。次いで油貯蔵容器中に気体を導入し、容器内に入れられた有機媒体を流出させ、先に用意したカラムに移動させる。恒温槽の温度は室温〜100℃、30℃〜90℃、あるいは50℃〜80℃等、自由に設定することができる。ここでカラムに充填された選択固着剤と該有機媒体とが接触して選択固着在中の吸引的相互作用部分と相互作用し、ハロゲン化芳香族化合物が当該吸引的相互作用部分またはその近傍に固着される。処理する有機媒体の量やハロゲン化芳香族化合物の濃度、及び本発明の選択固着剤の量にもよるが、一般的には数分〜数日間、場合によっては数日間にわたり混合物と選択固着剤とを接触させることができる。次いでカラムに気体を導入して有機媒体を流出させる。先に説明したとおり、カラムに充填した有機媒体はカラム内の選択固着剤と接触して相互作用し、含有されていたハロゲン化芳香族化合物は選択固着剤に固着されているので、ハロゲン化芳香族化合物が除かれた有機媒体のみが油受け容器に流出されることになる。この方法を実施することによってもハロゲン化芳香族化合物を含有しない有機媒体を得ることは可能である。しかしながら絶縁油に代表される有機媒体の粘度が大きい場合は、処理に時間がかかることに難点がある。また、処理速度を高めるために口径の大きいカラムに選択固着剤を充填することも可能ではあるが、カラム口径が大きいほど、充填された選択固着剤中に空隙が生じやすくなり、その空隙の間を気体がすり抜けてしまうことがあった。その場合ハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体と選択固着剤とが上手く接触しないことがあった。この問題を解決するために本発明の方法ではハロゲン化芳香族化合物を含有する有機媒体と非極性溶剤との混合物をカラムに流し、次いで有機媒体もハロゲン化芳香族化合物も含まない該非極性溶剤を移動相として流す。このようにすると、有機媒体の回収速度が格段に向上するほか、カラムに充填された選択固着在中に生じ得る空隙を移動相である非極性溶剤が埋めるため、気体のみが空隙をすり抜けてしまうことがなくなる。このようにして有機媒体の回収速度と回収率とを同時に向上させることができる。
【0037】
本発明の方法を用いて、有機媒体中に含有されたハロゲン化芳香族化合物を選択的に固着し、これを有機媒体中から除去することができる。本発明の方法の実施により、微量のハロゲン化芳香族化合物が溶解しているが故に保管せざるを得なかった有機媒体から、厳密な分解処理が必要なハロゲン化芳香族化合物のみを除去、濃縮することができるので、ハロゲン化芳香族化合物の分解処理効率が飛躍的に高まる一方、効率よく回収された安全な有機媒体は通常の方法で処理するか、蒸留等の精製処理を施した後に再利用することが可能となる。本発明の選択固着剤を使用して、有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物を除去する方法は、有機媒体中に選択固着剤を投入・分散させ、攪拌などによりハロゲン化芳香族化合物を固着させ、これを分離するという比較的容易な方法であるため、ハロゲン化芳香族化合物が大気中に拡散するおそれのない、安全な方法である。また、ハロゲン化芳香族化合物と吸引的に相互作用する化合物自体あるいは該化合物を各種固体担体に固定化させた物質を用いて作成したカラムを使用して、有機媒体に含有されたハロゲン化芳香族化合物を連続的に除去することが可能となる。
【実施例】
【0038】
[合成例1]β−シクロデキストリン(以下、「β−CD」と称する。)と二塩化テレフタロイルとを縮合させたポリマーの末端をメチル基で処理したポリマー(以下、「テレフタル酸−β−CD−メチル高分子」あるいは「TPBCDM高分子」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓及び攪拌棒(攪拌機によって攪拌)の付いた1lの4つ口セパラブルフラスコに、乾燥β−CD(17g、0.015mol、含水量1%以下、純正化学工業)と特級ピリジン(658ml、和光純薬工業)を入れて室温で1時間攪拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(260mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(30g、0.15mol、東京化成工業)を2時間かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(70℃)により内温70℃で2.5時間攪拌した。反応終了後、フラスコを氷浴につけて、1級メタノール(30mL 、純正化学工業)を0.5時間かけて滴下した。滴下後、フラスコを氷浴につけたまま、0.5時間攪拌した。得られた懸濁液結晶を吸引濾過した後、メタノール(100mL)を桐山ロート上の濾物の上に溜め、吸引濾過した(5回)。その後、アセトン(100mL)を桐山ロート上の濾物の上に溜め、吸引濾過した(5回)。得られた濾物を室温で8時間、40℃で1時間、80℃で1時間乾燥させた後に、120℃で13時間乾燥した。35gのシクロデキストリンポリマーが得られた。
赤外スペクトルIR (KBr)による同定:3448, 1718, 1277, 1105, 1018, 731 cm-1
【0039】
[比較実施例1〜6]カラム移動相として高極性溶剤を用いたカラム実験
【0040】
カラム実験には、窒素ボンベ、油貯蔵容器、ステンレスカラム及び油受け容器を直列に接続した装置を用いた。TPBCDM高分子(5g)を充填したステンレスカラム(内径20mm×長さ250mm)を作製した。このカラムを恒温槽内に取り付けた。次に2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサクロロビフェニル(以下、2,2’,3,3’,5,5’-HECBPと称する。)を含有する絶縁油(2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度:50ppm)10gと特級アセトン(純正化学工業)10gとを混合して混合溶液を作り、これを油貯蔵容器に入れた。油貯蔵容器に窒素ガスを導入して、該混合溶液を該カラム内に流し込んだ。全ての混合溶液をカラムに移動させた後、油貯蔵容器に特級アセトン45gを入れた。油貯蔵容器に窒素ガスを導入して、該アセトンを該カラム内に流し込んだ。このとき恒温槽の温度を20℃とし、油受け容器に流出してきた混合溶液を分画した。回収した混合溶液中の2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度をガスクロマトグラフィーで測定したところ、回収量6.1gの時点で2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出された(2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度:28ppm)。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、3.1gであることがわかった(絶縁油回収率31%に相当)。なお、2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度の測定は、QCMS-QP5050(SHIMADZU)を使用し、M/Z 360を用いてSIM(selective ion monitoring)法により行った。
【0041】
比較実施例2は、特級アセトンの代わりに特級酢酸エチル(純正化学工業)を用いたこと以外は比較実施例1と同様に行った。混合溶液の回収量5.0gの時点で2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出された(2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度:35ppm)。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、1.8gであることがわかった(絶縁油回収率18%に相当)。
【0042】
比較実施例3は、特級アセトンの代わりに特級トルエン(純正化学工業)を用いたこと以外は比較実施例1と同様に行った。混合溶液の回収量5.5gの時点で2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出された(2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度:16ppm)。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、3.2gであることがわかった(絶縁油回収率32%に相当)。
【0043】
比較実施例4は、特級アセトンの代わりに特級ジクロロメタン(純正化学工業)を用いたこと以外は比較実施例1と同様に行った。混合溶液の回収量3.9gの時点で2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出された(2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度:27ppm)。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、3.6gであることがわかった(絶縁油回収率36%に相当)。
【0044】
比較実施例5は、特級アセトンの代わりに特級テトラヒドロフラン(純正化学工業)を用いたこと以外は比較実施例1と同様に行った。混合溶液の回収量4.7gの時点で2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出された(2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度:49ppm)。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、3.2gであることがわかった(絶縁油回収率32%に相当)。
【0045】
比較実施例6は、特級アセトンの代わりに特級ブタノール(純正化学工業)を用いたこと以外は比較実施例1と同様に行った。混合溶液の回収量5.4gの時点で2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出された(2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度:12ppm)。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、3.4gであることがわかった(絶縁油回収率34%に相当)。
【0046】
[実施例1]カラム移動相として非極性溶剤を用いたカラム実験
カラム実験には、窒素ボンベ、油貯蔵容器、ステンレスカラム及び油受け容器を直列に接続した装置を用いた。TPBCDM高分子(5g)を充填したステンレスカラム(内径20mm×長さ250mm)を作製した。このカラムを恒温槽内に取り付けた。次に2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサクロロビフェニル(以下、2,2’,3,3’,5,5’-HECBPと称する。)を含有する絶縁油(2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度:50ppm)10gと特級ヘキサン(純正化学工業)10gとを混合して混合溶液を作り、これを油貯蔵容器に入れた。油貯蔵容器に窒素ガスを導入して、該混合溶液を該カラム内に流し込んだ。全ての混合溶液をカラムに移動させた後、油貯蔵容器に特級ヘキサン45gを入れた。油貯蔵容器に窒素ガスを導入して、該アセトンを該カラム内に流し込んだ。このとき恒温槽の温度を20℃とし、油受け容器に流出してきた混合溶液を分画した。回収した混合溶液中の2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度をガスクロマトグラフィーで測定したところ、混合溶液の回収量33gまで2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出されなかった。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、9.9gであることがわかった(絶縁油回収率99%に相当)。なお、2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度の測定は、QCMS-QP5050(SHIMADZU)を使用し、M/Z 360を用いてSIM(selective ion monitoring)法により行った。
【0047】
[実施例2〜5]カラム移動相として非極性溶剤を用いたカラム実験
【0048】
実施例2は、特級ヘキサンの代わりに特級シクロヘキサン(東京化成工業)を用いたこと以外は実施例1と同様に行った。混合溶液の回収量30gまで2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出されなかった。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、9.9gであることがわかった(絶縁油回収率99%に相当)。
【0049】
実施例3は、特級ヘキサンの代わりに特級ウンデカン(東京化成工業)を用いたこと以外は実施例1と同様に行った。混合溶液の回収量34gまで2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出されなかった。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、9.9gであることがわかった(絶縁油回収率99%に相当)。
【0050】
実施例4は、特級ヘキサンの代わりに特級ドデカン(東京化成工業)を用いたこと以外は実施例1と同様に行った。混合溶液の回収量32gまで2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出されなかった。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、9.9gであることがわかった(絶縁油回収率99%に相当)。
【0051】
実施例5は、特級ヘキサンの代わりに特級ドデカン(東京化成工業)を用い、有機媒体としてKC−500(主成分として約50%の5塩素化PCBを含有し、その他3塩素化PCB、4塩素化PCB、6塩素化PCB、7塩素化PCB等の複数種のPCBを含有する混合物、和光純薬工業株式会社)を含有する絶縁油(KC−500濃度:50ppm)を用いたこと以外は実施例1と同様に行った。混合溶液の回収量34gまでKC−500が検出されなかった。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、9.9gであることがわかった(絶縁油回収率99%に相当)。なお、回収された混合溶液中に含まれるKC−500の測定は、平成4年厚生省告示第192号別表第3の第1に規定される方法によりガスクロマトグラフフィーで測定した。
【0052】
[実施例6]口径の大きいカラムを用いたカラム実験
カラム実験には、窒素ボンベ、油貯蔵容器、ステンレスカラム及び油受け容器を直列に接続した装置を用いた。TPBCDM高分子(24g)を充填したステンレスカラム(内径40mm×長さ250mm)を作製した。このカラムを恒温槽内に取り付けた。次に2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサクロロビフェニル(以下、2,2’,3,3’,5,5’-HECBPと称する。)を含有する絶縁油(2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度:50ppm)48gと特級ヘキサン(純正化学工業)48gとを混合して混合溶液を作り、これを油貯蔵容器に入れた。油貯蔵容器に窒素ガスを導入して、該混合溶液を該カラム内に流し込んだ。全ての混合溶液をカラムに移動させた後、油貯蔵容器に特級ヘキサン180gを入れた。油貯蔵容器に窒素ガスを導入して、該アセトンを該カラム内に流し込んだ。このとき恒温槽の温度を20℃とし、油受け容器に流出してきた混合溶液を分画した。回収した混合溶液中の2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度をガスクロマトグラフィーで測定したところ、混合溶液の回収量136gまで2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出されなかった。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、47gであることがわかった(絶縁油回収率98%に相当)。なお、2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度の測定は、QCMS-QP5050(SHIMADZU)を使用し、M/Z 360を用いてSIM(selective ion monitoring)法により行った。
【0053】
[実施例7〜10]口径の大きいカラムを用いたカラム実験
【0054】
実施例7は、特級ヘキサンの代わりに特級シクロヘキサン(東京化成工業)を用いたこと以外は実施例6と同様に行った。混合溶液の回収量143gまで2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出されなかった。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、47gであることがわかった(絶縁油回収率98%に相当)。
【0055】
実施例8は、特級ヘキサンの代わりに特級ウンデカン(東京化成工業)を用いたこと以外は実施例6と同様に行った。混合溶液の回収量145gまで2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出されなかった。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、47gであることがわかった(絶縁油回収率98%に相当)。
【0056】
実施例9は、特級ヘキサンの代わりに特級ドデカン(東京化成工業)を用いたこと以外は実施例6と同様に行った。混合溶液の回収量145gまで2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出されなかった。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、47gであることがわかった(絶縁油回収率98%に相当)。
【0057】
実施例10は、特級ヘキサンの代わりに特級ドデカン(東京化成工業)を用い、有機媒体としてKC−500(主成分として約50%の5塩素化PCBを含有し、その他3塩素化PCB、4塩素化PCB、6塩素化PCB、7塩素化PCB等の複数種のPCBを含有する混合物、和光純薬工業株式会社)を含有する絶縁油(KC−500濃度:50ppm)を用いたこと以外は実施例6と同様に行った。混合溶液の回収量145gまでKC−500が検出されなかった。この際回収された混合溶液中に含まれる絶縁油の量をガスクロマトグラフィーにより見積もったところ、47gであることがわかった(絶縁油回収率98%に相当)。なお、回収された混合溶液中に含まれるKC−500の測定は、平成4年厚生省告示第192号別表第3の第1に規定される方法によりガスクロマトグラフィーで測定した。
【0058】
[参考例1]
参考例1として、移動相としての溶剤を使用しない実験を行った。カラム実験には、窒素ボンベ、油貯蔵容器、ステンレスカラム及び油受け容器を直列に接続した装置を用いた。TPBCDM高分子(110mg)を充填したステンレスカラム(内径4.6mm×長さ100mm)を作製した。このカラムを恒温槽内に取り付けた。次に2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサクロロビフェニル(以下、2,2’,3,3’,5,5’-HECBPと称する。)を含有する絶縁油(2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度:100ppm)660mgを油貯蔵容器に入れた。油貯蔵容器に窒素ガスを導入して、該絶縁油を該カラム内に流し込んだ。引き続き窒素ガスを導入して絶縁油を流出させた。このとき恒温槽の温度を85℃とし、約18時間かけて絶縁油を油受け容器に流出させた(356mg、絶縁油の回収率54%)。回収した絶縁油中の2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度をガスクロマトグラフィーで測定したところ、2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出されなかった。
【0059】
[参考例2]
参考例2として、移動相としての溶剤を使用しない実験を行った。カラム実験には、窒素ボンベ、油貯蔵容器、ステンレスカラム及び油受け容器を直列に接続した装置を用いた。TPBCDM高分子(32g)を充填したステンレスカラム(内径40mm×長さ250mm)を作製した。このカラムを恒温槽内に取り付けた。次に2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサクロロビフェニル(以下、2,2’,3,3’,5,5’-HECBPと称する。)を含有する絶縁油(2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度:100ppm)192gを油貯蔵容器に入れた。油貯蔵容器に窒素ガスを導入して、該絶縁油を該カラム内に流し込んだ。引き続き窒素ガスを導入して絶縁油を流出させた。このとき恒温槽の温度を85℃とし、約22時間かけて絶縁油を油受け容器に流出させた(27g、絶縁油の回収率14%)。回収した絶縁油中の2,2’,3,3’,5,5’-HECBP濃度をガスクロマトグラフィーで測定したところ、2,2’,3,3’,5,5’-HECBPが検出されなかった。
【0060】
図3は、比較実施例1〜6と、実施例1〜5の、絶縁油回収率と回収混合溶液中の2,2’,3,3’,5,5’-HECBP(PCB)濃度との関係をグラフにしたものである。そして図4は、実施例6〜10と、参考例1および2の絶縁油回収時間と絶縁油回収率との関係をグラフにしたものである。図5は、実施例6〜10と、参考例1および2の絶縁油回収率と回収混合液中のPCB濃度との関係をグラフにしたものである。
【0061】
カラム移動相として高極性溶剤を使用した比較実施例1〜6は、混合溶液流出の早い段階からPCBが漏出してくるのに対し、カラム移動相として非極性溶剤を使用した実施例1〜5は、混合溶液中にPCBが漏出してこないことがわかった。
【0062】
また図2に示すような、カラム移動相としての溶剤を使用しない従来方法により絶縁油を直接流出させた参考例1および2は、PCBを漏出させることなく絶縁油を回収することはできるが(図5)、絶縁油を回収するには多大な時間を費やし、流出のために温度を高くする必要もあることがわかった(図4)。これに対し実施例6〜10は、カラムの口径を大きくしてもPCBを漏出させることなく高い回収率で絶縁油を回収することができることがわかる(図4及び5)。
図1
図2
図3
図4
図5