【解決手段】タンニンを含む過冷却促進剤0.01g/L〜30g/Lを水又は用途に応じた添加物を含む水溶液に溶解させて調製される不凍性液体、及びタンニンを含む過冷却促進剤を0.01〜30g/L含み、凍害防止剤を単独または組み合わせて20〜90容積%、残余(10〜80容積%)が水または用途に応じた添加物を含む水溶液であるガラス化液。タンニンとしては、2,3,6−トリ−O−ガロイル−α,β−D−ハマメロース、1,2,6−トリ−O−ガロイル−β−D−グルコース、1,2,3,6−テトラ−O−ガロイル−β−D−グルコース、またはタンニン酸等の加水分解型タンニン、あるいは他のカテキン型タンニンである不凍性液体及びガラス化液。
凍害防止剤が、メタノール、エタノール、アセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアルデヒド、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、プロリン、グルコース、ソルビトール、シュークロース、トレハロース、ポリエチレングリコール、デキストラン10−150、ポリビニルピロリドン(PVP)、アルブミン、フイコール、及びヒドロキシエチルスターチ(HES)からなる群から選択される1種または2種以上である請求項2に記載の不凍性液体。
加水分解型タンニンが、2,3,6−トリ−O−ガロイル−α,β−D−ハマメロース、1,2,6−トリ−O−ガロイル−β−D−グルコース、1,2,3,6−テトラ−O−ガロイル−β−D−グルコース、またはタンニン酸である請求項1に記載の不凍性液体。
カテキン型タンニンが、ライチフルーツ由来低分子化ポリフェノール(オリゴノール,ライチフルーツ由来低分子化ポリフェノールの商品名,(株)アミノアップ化学製)、ライチフルーツ由来ポリフェノール(LFP)、及びブドウ種子由来ポリフェノール(GSP)からなる群より選択されるポリフェノールである請求項1に記載の不凍性液体。
ポリフェノールが、ライチフルーツ由来低分子化ポリフェノール(オリゴノール)またはライチフルーツ由来のポリフェノールであり、超純水に対し過冷却活性を有する請求項5に記載の不凍性液体。
カテキン型タンニンが、茶カテキン、カテキン(C)、エピカテキン(EC)、エピカテキンガレート(ECG)、エピガロカテキン(EGC)、ガロカテキンガレート(GCG)及びエピガロカテキンガレート(EGCG)からなるカテキン類より選択される請求項1に記載の不凍性液体。
加水分解型タンニンが、2,2’,5−トリ−O−ガロイル−α,β−D−ハマメロース、1,2,6−トリ−O−ガロイル−β−D−グルコース、1,2,3,6−テトラ−O−ガロイル−β−D−グルコース、またはタンニン酸である請求項9に記載のガラス化液。
カテキン型タンニンが、ライチフルーツ由来低分子化ポリフェノール(オリゴノール,ライチフルーツ由来低分子化ポリフェノールの商品名,(株)アミノアップ化学製)、ライチフルーツ由来ポリフェノール(LFP)、及びブドウ種子由来ポリフェノール(GSP)からなる群より選択されるポリフェノールである請求項9に記載のガラス化液。
ポリフェノールが、ライチフルーツ由来低分子化ポリフェノール(オリゴノール)またはライチフルーツ由来のポリフェノールであり、超純水に対し過冷却活性を有する請求項13に記載のガラス化液。
カテキン型タンニンが、茶カテキン、カテキン(C)、エピカテキン(EC)、エピカテキンガレート(ECG)、エピガロカテキン(EGC)、ガロカテキンガレート(GCG)及びエピガロカテキンガレート(EGCG)からなるカテキン類より選択されるクレーム14に記載のガラス化液。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、木部柔細胞から抽出した過冷却活性を示す画分の中から、前述のフラボノイド配糖体以外の、高い過冷却活性を示す成分(物質)を同定し、実用的な凍らない水を作製するための新たな過冷却促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、−40℃まで深過冷却する木部柔細胞を持つカツラの木部柔細胞から過冷却活性を指標として抽出した画分について、さらに有効活性成分の同定を試みた。その結果、加水分解型タンニンである2,3,6−トリ−O−ガロイル−α,β−D−ハマメロース(クリガリン)、1,2,6−トリ−O−ガロイル−β−D−グルコース及び1,2,3,6−テトラ−O−ガロイル−β−D−グルコースが水を3.5〜4.6℃過冷却させる活性を有することを確認した。この知見に基づき、他の加水分解型タンニン、及び縮合型タンニンの過冷却活性の有無についても検討し、その結果、加水分解型タンニンである五倍子由来のタンニン酸、縮合型のカテキン型タンニンであるライチフルーツ由来低分子化ポリフェノール(オリゴノール,ライチフルーツ由来低分子化ポリフェノールの商品名,(株)アミノアップ化学製)、ライチフルーツ由来ポリフェノール(LFP)、ブドウ種子由来ポリフェノール(GSP)、及び茶カテキン、カテキン(C)、エピカテキン(EC)、エピカテキンガレート(ECG)、エピガロカテキン(EGC)、ガロカテキンガレート(GCG)、エピガロカテキンガレート(EGCG)等のカテキン類に過冷却活性があることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記1〜8のタンニンからなる過冷却促進剤、9〜13の不凍性液体及び14〜16のガラス化液に関する。
1. タンニンからなる過冷却促進剤。
2. タンニンが、炭素原子数6の糖の1つ以上の水酸基が下記式(1)〜(6):
【化1】
(式中、nは0または1である。)
で示される構造から選択される置換ベンゾイル基とエステル結合した部分構造を有する糖エステル型の加水分解型タンニンである前項1に記載の過冷却促進剤。
3. 加水分解型タンニンが、2,3,6−トリ−O−ガロイル−α,β−D−ハマメロース、1,2,6−トリ−O−ガロイル−β−D−グルコースまたは1,2,3,6−テトラ−O−ガロイル−β−D−グルコースである前項2に記載の過冷却促進剤。
4. 加水分解型タンニンが、五倍子由来のタンニン酸である前項2に記載の過冷却促進剤。
5. タンニンが、一般式(I)
【化2】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、各々独立して水素原子または水酸基を表し、R
4は水素原子またはガロイル(galloyl)基を表す。)
で示されるフラバン−3−オール骨格を部分構造として含むカテキン型タンニンである前項1に記載の過冷却促進剤。
6. カテキン型タンニンが、ライチフルーツ由来低分子化ポリフェノール(オリゴノール,ライチフルーツ由来低分子化ポリフェノールの商品名,(株)アミノアップ化学製)、ライチフルーツ由来ポリフェノール(LFP)、及びブドウ種子由来ポリフェノール(GSP)からなる群より選択されるポリフェノールである前項5に記載の過冷却促進剤。
7. ポリフェノールが、ライチフルーツ由来低分子化ポリフェノール(オリゴノール)またはライチフルーツ由来のポリフェノールであり、超純水に対し過冷却活性を有する前項6に記載の過冷却促進剤。
8. カテキン型タンニンが、茶カテキン、カテキン(C)、エピカテキン(EC)、エピカテキンガレート(ECG)、エピガロカテキン(EGC)、ガロカテキンガレート(GCG)及びエピガロカテキンガレート(EGCG)からなるカテキン類より選択される前項5に記載の過冷却促進剤。
9. 前項1〜8のいずれかに記載の過冷却促進剤を水または用途に応じた添加物を含む水溶液に溶解させてなる不凍性液体であって、前記不凍性液体中に前記過冷却促進剤を0.01〜30g/L含む不凍性液体。
10. 添加物が、動植物細胞の培養培地の成分、または生物材料の保存液の成分である前項9に記載の不凍性液体。
11. さらに、凍害防止剤を1〜40容積%含有する前項9に記載の不凍性液体。
12. 凍害防止剤が、メタノール、エタノール、アセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアルデヒド、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、プロリン、グルコース、ソルビトール、シュークロース、トレハロース、ポリエチレングリコール、デキストラン10−150、ポリビニルピロリドン(PVP)、アルブミン、フイコール、及びヒドロキシエチルスターチ(HES)からなる群から選択される1種または2種以上である前項11に記載の不凍性液体。
13. 生物材料を含み、0〜−15℃に冷却された前項9または11に記載の不凍性液体。
14. 凍害防止剤を単独または組み合わせて20〜90容積%含有し、残余が水または用途に応じた添加物を含む水溶液であるガラス化液に、前項1〜8のいずれかに記載の過冷却促進剤を0.01〜30g/L含んでなるガラス化液。
15. 前記水または用途に応じた添加物を含む水溶液を40〜80容積%含有する前項14に記載のガラス化液。
16. 生物材料を含み、液体窒素温度に冷却された前項14または15に記載のガラス化液。
【発明の効果】
【0011】
本発明の過冷却促進剤は、水や水を含む物質の凍結温度を、本来水が凍結する温度より15℃前後低下させることができる。この過冷却促進剤は、バルクの水を低温で長期にわたって安定的に過冷却させることができる。また、本発明の過冷却促進剤は、水と混合することにより、約−15℃程度で利用できる不凍性液体となり、この不凍性液体中で生物材料等を長期間低温保存することが可能である。本発明の過冷却促進剤は、水や用途に応じて添加物を含んだ水溶液、または水を含む物質に溶解させて凍結させて、氷晶の大きさをコントロールする凍結制御剤として使用することができる。過冷却促進剤の添加により、過冷却により凍結開始温度が低下するために形成される氷晶の大きさを小さくすることができる。このため過冷却促進剤を加えた水溶液を、冷却速度を変えたり、添加物の組成や濃度を変えたりして、凍結することにより、氷の大きさを様々に変える凍結制御剤として使用することができる。更に、凍害防止剤を高濃度で含むガラス化液に、本発明の過冷却促進剤を添加することにより、ガラス化液の濃度を下げることが可能であり、ガラス化液への浸せきによる毒性を軽減することができ、液体窒素温度などの超低温に於いて効率的にガラス体をもたらすことができ、超低温のガラス体中でこれまでガラス保存が困難であった生物材料等を保存することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るタンニンからなる過冷却促進剤は、樹木などのすべての生物体に含まれるので、この生物体や生物由来の物質から抽出してもよいし、また化学合成してもよい。対象樹木としては、過冷却促進物質が多量に含有されている寒冷地に成育する樹木が適している。このような樹木は、針葉樹として、例えば、カラマツ、ニオイヒバ、イチイ、スギ、ウラジロモミ、トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツ、キタゴヨウ、ストローブマツ、アカマツ、クロマツなど、広葉樹としてシラカンバ、ヤマナラシ、クリ、ナナカマド、バクウンボク、ミズナラ、ハルニレ、カツラなどが挙げられる。量の多少を問わなければ、寒冷地以外の地域に育成する樹木も利用可能である。これら樹木の過冷却促進物質は、生細胞(柔細胞)内にあるものと考えられるが、細胞外に存在している可能性もある。これら物質は安定であり、生木のみならず、枯死木や長期貯蔵された木材からも抽出することができる。タンニンは、これら樹種の辺材、心材を含む木部のみならず、樹皮、冬芽、葉などや他の植物体からも抽出される。
【0014】
他の植物体からタンニンまたはこれを含む植物抽出物を得るための原料としては、これらを含む植物の成熟または未成熟果実、果皮、種子、葉、茎、葉柄、枝、根、花の全体または部分が用いられる。これらの原料から得られる抽出物には、植物体自体の乾燥物、粉砕物、植物体自体を圧搾抽出して得られる搾汁、粗抽出物、精製物などが含まれる。タンニンを含む植物及び植物加工品の具体例としては、茶、柿、ミモザ、ケブラチョ、ガンビア、ケイヒ、緑茶、紅茶、ウーロン茶、柿渋、中国産五倍子、トルコ産没食子、タラ、アレポ、ミロボラン、スマック、ゲンノショウコ、ブドウ種子、松樹皮、ソバ、ライチ、ワイン、キマメ茶、ドングリ、クリ、リンゴ未熟果実、カカオ、ブルーベリー等が挙げられるが、タンニンを含むものである限り上記以外の植物も使用できる。
【0015】
抽出物の調製方法は特に限定されない。樹木や他の植物体からのタンニンの分離、精製に用いる通常の手段を採用することができる。通常の手段としては、例えば、樹木の木部組織の小片化、凍結、粉砕、抽出、分離、濃縮、乾燥や、植物体の抽出、濃縮、ろ過、分液、分別沈殿、結晶化、乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、あるいは必要に応じて採用される、任意の粗抽出物の水可溶部や有機溶剤可溶部の分配または吸着クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、親水クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどがある。これらの慣用手段から選ばれる方法で目的の抽出物を分画した画分を得ることができる。例えば、タンニンを含む樹木や他の植物体の粉砕物を水あるいは有機溶剤またはそれらの混合溶剤で抽出後、抽出物をさらに有機溶剤を用いて前記各種クロマトグラフィーにより分画を行ってもよい。得られた画分はタンニンを含有し、これに濃縮、精製、滅菌、乾燥等の必要な処理を施して使用に供する。用いる有機溶剤としては、酢酸エチル、メタノール、エタノール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。抽出は、通常室温または100℃以下の加熱下で行う。抽出液はそのまま濃縮、乾燥してもよいが、さらに上清を分離回収してからこれを濃縮、乾燥してもよい。このようにして、樹木や他の植物体の抽出物としてタンニンを得ることができる。樹木や他の植物及び植物加工品に含まれるタンニンを過冷却促進剤として用いる場合、タンニンは必ずしも精製されたものを用いる必要はなく、タンニンを含む抽出画分を用いてもよい。
【0016】
タンニンは植物界に広く分布するポリフェノールの一種であり、生薬からの天然抽出物であるタンニンは、古くから漢方薬として下痢止め等、また、皮のなめしや金属イオン沈澱剤として用いられてきた。そして、一般にタンニンは、加水分解型タンニンと縮合型タンニンに大分類され、さらに前者はガロタンニン、エラジタンニン、後者は単純縮合型タンニン、複合縮合型タンニンに小分類される。ガロタンニンは、酸などにより多価フェノール酸と糖などの多価アルコールに加水分解されて主に没食子酸などの多価フェノール酸を与え、エラジタンニンは没食子酸2量体などの多価フェノールを与える。
【0017】
本発明に係る加水分解型タンニンの典型例としては、炭素原子数6の糖の1つ以上の水酸基が、下記(1)〜(6):
【化3】
(式中、nは0または1である。)
で示される構造から選択される置換ベンゾイル基とエステル結合した部分構造を有する糖エステル型の加水分解型タンニンがある。
【0018】
炭素原子数6の糖の例としては、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のケトヘキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース等のアルドヘキソース、フコース、フクロース、ラムノース等のデオキシ糖等のヘキソースが挙げられる。これらの加水分解型タンニンの代表的な例として、一般式(Ia)
【化4】
で示されるフラノース、及び一般式(Ib)
【化5】
で示されるグルコース由来の1つ以上の水酸基が前記式(1)〜(6)で示される構造から選択される任意の置換ベンゾイル基とエステル結合した部分構造を有する糖エステル型の加水分解性タンニンが挙げられる。
加水分解型タンニンの好ましい具体例としては、カスタラギン、ゲラニイン、ゲラニイン酸類、クリガリン、サングイインH−10、β-グルコガリン、アセリタンニン、オイゲニイン、コリラギン、トリガロイルリボフラノース、トリガロイルグルコース、トリガロイルハマメロース、トリガロイルグルコース、テトラガロイルグルコース、ペンタガロイルグルコース、オクタガロイルグルコースなどのガロイル化
単糖が挙げられる。
【0019】
ガロタンニンには、ガロイルグルコースのガロイル基がデプシド結合によってさらにガロイル基に結合したジガロイルグルコースが含まれ、その例としてタンニン酸がある。タンニン酸は、五倍子、没食子、芍薬、タラなどから得られ、局方品(五倍子タンニン)等が市販されている。エラジタンニンの例としては、フウロソウ科ゲンノショウコに含まれるゲラニイン、シクンシ科カシに含まれるケブリン酸、ミズキ科サンシュユに含まれるコルヌシインA、バラ科リュウガソウ(竜牙草)に含まれるアグリモニイン等が挙げられる。
【0020】
縮合型タンニンとしてカテキン型タンニンがある。カテキン型タンニンには、一般式(II)
【化6】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、各々独立して水素原子または水酸基を表し、R
4は水素原子またはガロイル(galloyl)基を表す。)で示されるフラバン−3−オール骨格を部分構造として含む化合物が含まれる。
【0021】
一般式(II)で示されるフラバン−3−オール骨格を部分構造として含むカテキン型タンニンは、それがカテキン分子を示すときは4位と8位の置換基が各々水素原子で置換されており、それがポリカテキンを示すときは4位と8位で縮合している。その具体例としては、茶カテキン、カテキンガレート、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレート等のカテキン分子、及びオリゴノール、フラバンジェノール、ラタンイン、3−O−ガロイルプロシアニジン B−1、プロシアニジン−B−2,C−1、シンナムタンニン B1,D1、プロアントシアニジン類、テアフラビン類、テアシネンシン類、テアルビジン類等のポリカテキンが挙げられる。
【0022】
ガロタンニンやエラジタンニンの酸加水分解によって得られる没食子酸(Gallic acid:GA)及びそのメチルエステル(Methyl gallate:MG)やエラジ酸(Ellagic acid:EA)、コーヒー豆から単離されるクロロゲン酸(Chlorogenic acid:ChA)やコーヒー酸(Caffeic acid:CaA)などのポリフェノール分子にも過冷却活性が認められる。例えば、氷核物質AgIに対し、GAは−1.2℃、MGは−3.3℃、EAは−0.3℃、ChAは−0.6℃、CaAは−1.9℃の過冷却活性を示す。
【0023】
加水分解型タンニンは、由来する原料によってガロイルグルコース1モル当りのペンタガロイル基の数を示すガロイル化度が異なり、さらに分子量にも差がある。原料の具体例としては、五倍子(例えば中国産五倍子)、没食子(例えばトルコ産没食子)、タラ、アレポ、ミロボラン、スマック等を好ましく利用することができる。
【0024】
縮合型タンニンは、複数分子のカテキンが通常その4位と8位で炭素−炭素結合することにより縮合している。縮合型タンニンの原料としては、茶、柿、ミモザ、ケブラチョ、ガンビア、ケイヒ、ブドウ種子、松樹皮、ライチ等を好ましく利用することができる。さらに、高分子タンニンの場合、それらを原料として低分子量に調整したオリゴマーも利用できる。
【0025】
本発明に係るタンニンからなる過冷却促進物質は、従来用いられているエチレングリコールなどの不凍液が濃度依存のモル凝固点降下によるのに対し、凝固点降下によらず低濃度で氷核形成を阻害する。すなわち、本発明に係る過冷却促進剤は、一般に1容積%以下または1質量%以下の低濃度で水に添加することにより、添加濃度に依存した凝固点降下を遥かに越える過冷却活性を示す。塩、糖、糖アルコールなどの一般的な物質では、凝固点降下温度の2倍程度の過冷却活性の増進を示すが、本発明に係る過冷却促進物質は10倍以上、時には100倍以上の過冷却活性を示す。また、従来の不凍蛋白質などは氷核が形成されて作られた氷晶の成長を阻害するものであり、氷核形成そのものを阻害するものではない。これに対し本発明に係る過冷却促進物質は氷核形成そのものを阻害する。
【0026】
一般的に水の凍結には、氷核形成物質として氷核形成細菌及びその残渣が関与していると考えられている。本発明では氷核形成物質として有機生物由来の2種類のバクテリア(氷核活性細菌(
Erwinia ananas及び
Xanthomonas campestris))の死菌体及び無生物由来の2種類の物質(ヨウ化銀(AgI)及びフロログルシノール(Phloroglucinol))を用いてタンニンの過冷却活性を測定し評価した。
【0027】
本発明のタンニンからなる過冷却促進剤は、氷核形成物質との相互作用において氷核形成物質に対し−0.1〜−6.8℃の過冷却活性を示し、超純水(MilliQ Water)に対し−0.3〜−4.5℃の過冷却活性を示す。特に、タンニン酸、オリゴノール(Oligonol)、LFP(ライチ果実由来ポリフェノール)、EGCG(エピガロカテキンガレート)及びECG(エピカテキンガレート)は、氷核物質及び純水の全てに対して良好な過冷却活性を示し、過冷却促進剤として実用的に優れている。水の凍結は水中の様々な異物が氷核となって起こる。これらの異物は非常に多種多様である。さらに、実用的には、同定できない様々な氷核形成物質が含まれる普通の水(純水含む)に対する過冷却活性を持つことも必要である。タンニン酸、オリゴノール(Oligonol;ライチフルーツ由来低分子化ポリフェノールの商品名,(株)アミノアップ化学製)、LFP、EGCG、GCG及びECGから選ばれるいずれのタンニンも水を過冷却させることができ、過冷却させる水の種類により過冷却活性が異なるフラボノイド配糖体より優れている。さらにタンニンを添加した水は気泡が多量に発生するような水をも−10℃で数日間過冷却させる。
【0028】
また、本発明に係るタンニンの超純水に対する過冷却促進効果は、フラボノイド配糖体よりも優れている。すなわち、タンニン酸は超純水(MilliQ Water)に対して−3.7℃の過冷却活性を示し、オリゴノール(Oligonol)、EGCG及びECGは超純水(MilliQ Water)に対して−3.2〜−4.5℃の優れた過冷却活性を示すのに対し、フラボノイド配糖体ではほとんど過冷却活性が認められない。従って、タンニンは純水の過冷却においてフラボノイド配糖体よりも有効であり、大容量の水(石油備蓄設備での消
火用水など)を凍らせないでおくことが過冷却促進剤として使用できる。タンニンは、フラボノイド配糖体に比べて遙かに安価で大量調製が可能であり、フラボノイド配糖体に比べ水に溶けやすいため、−10℃で飲める多くの飲料水、薬品などが作成できる。
【0029】
また、本発明に係る過冷却促進剤は、AgIに対して−2.6〜−6.8℃の優れた過冷却促進効果を有するばかりでなく、比較的高温(例えば−6〜0℃)で氷核機能を有する氷核活性細菌として知られているエルウィニア・アナナス(
Erwinia ananas)(例えば、特開2000−106868号公報参照)に対しても−0.8〜−3.5℃の良好な過冷却促進効果を有する。特に、タンニン酸(Tannic acid)、オリゴノール(01igonol)、LFP、及び茶カテキンはエルウィニア・アナナス(
Erwinia ananas)に対しても−2.2〜−2.7℃の良好な過冷却活性を示し、カテキン類のうちEGCG及びECGはエルウィニア・アナナス(
Erwinia ananas)に対しても−3.4〜−3.5℃の優れた過冷却活性を示す。
【0030】
また、本発明に係るタンニンの過冷却活性は、以下のような他の過冷却促進物質といわれるものの過冷却活性に比べて優れている。
1)種々植物(桃など)の種子から抽出した未同定の粗抽出物は−2.6〜−8.1℃の水の過冷却活性を示す(Cap1e et al.,(1983)Cryoletters, 4, 59-64.)。しかし、この値は、氷核形成物質としては能力の低いヨウ化銀のみを用い、用いた冷却速度も1℃/minと本発明の過冷却促進剤の冷却速度0.2℃/minより遥かに速く、一時的な過冷却をし易い条件である。
2)丁子から抽出したオイゲノールとその類似物質が−0.2〜−2.5℃の水の過冷却活性を示す(Kawahara and Obata(1996)J. Antibact. Antifung. Agents, 24, 95-100.)。添加濃度は1mg/mLであり、冷却速度も1℃/minと本発明の過冷却促進剤の冷却速度より遥かに速く、一時的な過冷却をし易い条件である。
3)ヒノキチオールとその類似物質は−0.4〜−2.1℃の水の過冷却活性を示す(Kawahara et al.,(2000)Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 2651-2656.)。添加濃度は10mMであり、冷却速度も1℃/minと本発明の過冷却促進剤の冷却速度より遥かに速く、一時的な過冷却をし易い条件である。
4)細菌から抽出した130kDaのキチン多糖は0〜−4.2℃の水の過冷却活性を示す(Yamashita et al.,(2002)Biosci. Biotechnol. Biochem., 66, 948-954)。添加濃度は50μg/mLであるが、用いた冷却速度は1℃/minと本発明の過冷却促進剤の冷却速度より遥かに速く、一時的な過冷却をし易い条件である。
5)様々な不凍蛋白質が最大−7.8℃の水の過冷却活性を示す(Duman(2002) J. Comp. Physio1., 172, 163-168.)。しかしこの最大の値が得られる添加不凍蛋白質濃度が不明であるとともに、0.5Mという高濃度のクエン酸を添加した時に得られた値である。不凍蛋白質のみでは−1.2℃、過冷却を促進するのみである。
【0031】
本発明のタンニンからなる過冷却促進剤は、通常、水に0.01g/L以上、好ましくは0.01〜30g/L、より好ましくは0.01〜10g/L、更に好ましくは0.1〜1.0g/L溶解させて不凍性液体として用いることができる。この不凍性液体は、通常はこのタンニンを水に溶解させて得られるが、水の代わりに、用途に応じた添加物を含む水溶液を用いてもよい。このような添加物として、例えば、動植物細胞の培養培地の成分、生物材料の保存液の成分などが挙げられる。水溶液中の添加物の濃度は用途に応じて適宜定めればよい。
【0032】
また、この不凍性液体は、この他の過冷却促進剤や凍害防止剤を含んでもよい。凍害防止剤を含む場合、凍害防止剤を単独または組み合わせて1〜40容積%、好ましくは1〜20容積%含有してもよい。凍害防止剤とは、生物材料やこれらを浸漬させた水溶液に添加することにより、凍結による傷害を軽減する物質をいう。凍害防止剤といわれる物質はいずれも、濃度依存の凝固点降下をもたらす、氷晶の形成量を軽減する、凍結材料の塩濃度の上昇を軽減する、ガラス化を容易にする、などのうち、一つあるいは複合的な効果を有する。このような凍害防止剤としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアルデヒド、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、プロリン、グルコース、ソルビトール、シュークロース、トレハロース、ポリエチレングリコール、デキストラン10−150、ポリビニルピロリドン(PVP)、アルブミン、フイコール、ヒドロキシエチルスターチ(HES)などが挙げられる。
【0033】
このような不凍性液体は、凍害防止剤を全く加えない場合、あるいは凝固点降下には殆ど影響を与えない濃度(1質量%程度以下)で凍害防止剤などの添加物を加えた場合には、長期間(1〜2週間)−15℃付近まで液体状態を保たせることができる。この不凍性液体中に生物材料(植物や動物の細胞や組織、食用や観賞用等の魚介類、野菜などの植物そのものなど、またはその一部をいう。)を入れて冷却することにより、通常約5℃以下の低温で用いられるが、0℃以下、特に約0〜−15℃の温度範囲で凍結を起こさずに、長期低温保存が可能になる。この不凍性液体は、過冷却により凍結開始温度が下がることにより氷晶の大きさを小さくすることができ、また単独または凍害防止剤などとの併用により、凍結乾燥により調製をする医薬品や食品などの凍結制御剤として使用できる。上記物質を含む樹木などの生物材料からの抽出物(粗抽出液等)においても同様の応用が可能である。
【0034】
一方、上記の凍害防止剤を高濃度で含む水溶液は「ガラス化液」と呼ばれ、超低温(例えば、液体窒素温度)においても水は結晶を形成せず、ガラス体(非晶質の氷)になる(新野孝男ら編「植物超低温保存マニュアル」農業生物資源研究所発行2006年)。ガラス化液とは上記凍害防止剤を単独または幾つか組み合わせて20〜90容積%、好ましくは40〜90容積%含有し、残余が水である溶液をいう。この水として動植物培養液などの溶媒を用いてもよい。動植物の培養や保存に用いる場合には、水や動植物培養液を30容積%以上、特に40容積%以上混合することが好ましい。現在、最も多く用いられているガラス化液PVS2は、30容積%グリセリン、15容積%エチレングリコール、15容積%DMSO、0.4Mシュークロースを、培地溶液に加えたものである。培地溶液の種類や濃度は培養や保存する材料によって適宜変更する。本発明においては、このガラス化液に本発明の過冷却促進剤(上記タンニン)を通常0.01g/L以上、好ましくは0.01〜30g/L、より好ましくは0.01〜10g/L、更に好ましくは0.1〜1.0g/L添加する。このようなガラス体は、ガラス化液の凍結温度以下、例えば−15℃以下、特に−60〜−273℃の温度範囲、例えば液体窒素温度(77K)で非晶質状態を保たせることができる。
【0035】
ガラス化による凍結保存では、通常予め保存したい材料を室温あるいは0℃以上の温度で、短時間浸潰処理する。この凍結前処理により、材料中の水は高濃度のガラス化液で脱水されると共に、ガラス化液が材料内水分と置換される。このため、これら材料を液体窒素に投入すると材料内外の水は氷晶を形成せずにガラス化する。植物などの生物材料をガラス化液に入れて液体窒素に投入すると、生物材料内外の水はガラス体(非晶質の氷)になり、ガラス状態では凍結による傷害が起こらないため、生物材料を超低温のガラス化液中で凍結保存することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの例は本発明を限定することを意図するものではない。
本発明において、過冷却活性(氷核形成阻害活性ともいう。)は、以下の方法で測定した。すなわち、氷核物質を含む緩衝液に被測定物0.5mg/mLを混合した溶液を用意し、温度コントロールができる銅板上に、この溶液の2μLの液滴を多数載せ、銅板を0.2℃/minで冷却して凍結する液滴数を肉眼的に観察し、50%の液滴が凍結した温度を凍結温度とし、被測定物と氷核物質を含む溶液の凍結温度と、氷核物質と緩衝液のみからなる溶液(Control)の凍結温度の差(INT50(℃))を過冷却活性とした。緩衝液は、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を用いた。
【0037】
実施例1:
北海道札幌地区に自生するカツラから枝を採集した。このカツラの枝の木部組織を鉛筆削りで小片化した後、液体窒素で凍結し、乳鉢と乳棒で可能な限り小片に粉砕した。得られた木部組織の粉砕物3.7Kgをメタノール20Lに2週間浸漬した。得られた抽出液を14,000Gで遠心分離し(Hitachi:HIMC CF15R)、上清を回収した。これを乾燥して、乾燥物93.8gを300mLの水に溶かした。
この粗抽出物の水懸濁液を20℃で14,000Gで遠心分離し、上清を回収した。この上清300mLと酢酸エチル600mLを混合し、分液ロートにて、水可溶部と酢酸エチル可溶部に分け乾燥した。これらの過冷却活性を前記方法で測定した。氷核物質として氷核活性細菌(
Erwinia ananas)の死滅菌体(和光純薬工業(株)製)を用いた。水可溶部では−2℃程度の、酢酸エチル可溶部では−4℃程度の過冷却活性が得られた。
【0038】
より高い過冷却活性を示した乾燥した酢酸エチル可溶画分を「ヘキサン・2−プロパノール・水」、「クロロホルム・メタノール・水」を用いて自作のシリカゲルカラムクロマトグラフィーでA〜Tの20のフラクションに分けた。次に、A〜Tの各画分について、過冷却活性(INT50(℃))を上記の方法で測定した。その結果を
図1に示す。
【0039】
上記で得られた画分K〜Sを、高速液体クロマトグラフィー(カラム:PC HILIC column(Hydrophilic Interaction Chromatography)、溶媒:アセトニトリル:水=9:1、流速1mL/min、ディテクター:UV280nm)で分析した。結果を
図2に示す。
図2に示される2,3,6−トリ−O−ガロイル−α,β−D−ハマメロース(2,3,6-tri-O-galloyl-α,β-D-hamamelose)、1,2,6−トリ−O−ガロイル−β−D−グルコース(1,2,6-tri-O-galloyl-β-D-glucose)及び1,2,3,6−テトラ−O−ガロイル−β−D−グルコース(1,2,3,6-tetra-O-galloyl-β-D-glucose)を各々単離し、これらが過冷却活性を示すことを確認した。これらの3物質は既知の物質であるが、
1H−NMRで構造を確認した。これらの
1H−NMRチャートを
図3〜5に示す。
図6には、氷核形成物質として
Erwinia ananasを2mg/mL用い、前記3物質を含む水の過冷却活性を、3物質を含まない対照のデータと共に示す。
図6(A)及び(C)には2,3,6−トリ−O−ガロイル−α,β−D−ハマメロース及び1,2,3,6−テトラ−O−ガロイル−β−D−グルコースを0.5mg/mL、1mg/mL、2mg/mL及び3mg/mLを含むデータを示し、
図6(B)には1,2,6−トリ−O−ガロイル−β−D−グルコースを0.01mg/mL、0.05mg/mL、0.1mg/mL、0.5mg/mL及び1mg/mLを含むデータを示す。この結果、加水分解型タンニンの1種であるクリガリン(2,3,6−トリ−O−ガロイル−α,β−D−ハマメロース)、1,2,6−トリ−O−ガロイル−β−D−グルコース及びガロイルグルコース(1,2,3,6−テトラ−O−ガロイル−β−D−グルコース)が、−40℃まで深過冷却する木部柔細胞を持つカツラの木部からのメタノール抽出物中に同定され、各々水を約5℃過冷却させる活性を有することが確認された。なお、クリガリン(2,3,6−トリ−O−ガロイル−α,β−D−ハマメロース)は主に画分K〜Nに含まれ、1,2,6−トリ−O−ガロイル−β−D−グルコースは主に画分N〜Oに含まれ、ガロイルグルコース(1,2,3,6−テトラ−O−ガロイル−β−D−グルコース)は主に画分P〜Qに含まれる。
【0040】
実施例2:
Tetrahedron, 53, 10725-10732 (1997)に従って1,2,3,4,6−ペンタガロイル−α,β−D−グルコピラ
ノース混合物(α:β=1:3.8)を調製し、過冷却活性を前記方法で測定した。その結果を
図7に示す。
【0041】
実施例3:
氷核形成物質を加えない蒸留水、または水道水1mLを試験管に入れ、−10℃で、常に空気と混在して水中に絶えず気泡ができる振動下に置いた。これらの水は瞬時に凍結したが、これらの水に0.001%(W/W)濃度以上で、0.1%タンニン酸(五倍子由来)、0.1%各種ポリフェノール(オリゴノール(商品名,(株)アミノアップ化学製)、GSP(ブドウ種子由来ポリフェノール,(株)アミノアップ化学製)、LFP(ライチ果実由来ポリフェノール,(株)アミノアップ化学製)、0.1%茶カテキン、0.1%各種カテキン類(EGC(エピガロカテキン)、C(カテキン)、EGCG(エピガロカテキンガレート)、ECG(エピカテキンガレート))を加えたところ3日間以上過冷却を続けた。
【0042】
実施例4〜8
下記の実施例4〜8では、氷核物質として、10mMのヨウ化銀(AgI)(ナカライ製)、2mg/mLの氷核活性細菌エルウィニア・アナナス(
Erwinia ananas)の死菌体(和光純薬工業(株)製)、2mg/mLの氷核活性細菌キサントモナス・カムペストリス(
Xanthomonas campestris)の死菌体(和光純薬工業(株)製)、及び120mMのフロログルシノール(Phloroglucinol)(東京化成工業(株)製)を、超純水(ミリQ水(MilliQ Water))はミリポア社製超純水装置を通したものを用いた。これら氷核物質のいずれかを含む緩衝液、及び超純水(MilliQ Water)に被測定物質(1mg/mL)を混合し、前記方法で過冷却活性を測定した。被測定物質と氷核物質を含む溶液の凍結温度と氷核物質のみからなる溶液の凍結温度の差、ならびに被測定物質を溶解した純水の凍結温度と純水のみの凍結温度の差を過冷却活性(氷核形成阻害活性)とした(
図8〜11、表1〜4参照)。
【0043】
実施例4:
上記4種の氷核物質を上記表示濃度で用い、加水分解型タンニンとして和光純薬工業(株)から入手したヌルデの虫瘤(五倍子)由来のタンニン酸を0.1質量%の濃度で用いたときの過冷却促進効果を測定した。その結果を
図8(A)〜(E)に示し、表1に凍結温度(INT50(℃))及び過冷却活性(℃))を示す。前記五倍子由来のタンニン酸は、氷核物質(
E. ananas、
X. campestris、AgI、Phloroglucinol)及び超純水(MilliQ Water)に対して−0.6〜−4.7℃の過冷却活性を示し、超純水に対し−1.0℃の過冷却活性を示した。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例5:
上記と同様4種の氷核物質(
E. ananas、
X. campestris、AgI、Phloroglucinol)を上記表示濃度で添加した水、及び超純水(MilliQ Water)に、縮合型タンニンとして各種ポリフェノール類:GSP(Grape Seed Polyphenol:ブドウ種子由来ポリフェノール,中国ライン(Layn)社製)、LFP(Lychee Fruit Polyphenol:ライチ果実由来ポリフェノール,中国ライン(Layn)社製)、及び01igonol(オリゴノール:ライチ果実由来低分子化ポリフェノールの商品名,(株)アミノアップ化学製)を0.1質量
%の濃度で添加し過冷却促進効果を測定した。その結果を
図9(A)〜(E)に示す。
図9から、01igonol及びLFPは、氷核物質及び超純水の全てに対し過冷却活性を示し、特に超純水に対して優れた過冷却促進効果を有することが判る。
表2に凍結温度(INT50(℃))及び過冷却活性(℃))を示す。
【0046】
【表2】
本発明に係るタンニン(ポリフェノール類)は4種の氷核物質に対し−0.8〜−6.2℃の過冷却活性を示し、特に、Oligonol及びLFPは、各種氷核物質及び超純水に対し−0.8〜−6.2℃の過冷却活性を示し、超純水に対し−1.6〜−3.2℃の優れた過冷却活性を示した。
【0047】
実施例6:
4種の氷核物質(
E. ananas、
X. campestris、AgI、Phloroglucinol)を添加した水、及び超純水(MilliQ Water)に、カテキンとして茶カテキン((株)原料屋ドットコムCCで健康補助食品として販売されているものを入手)を0.1質量%濃度で添加し過冷却促進効果を測定した結果を
図10(A)〜(E)示す。
図10から、茶カテキンは、氷核物質(
E. ananas、
X. campestris、AgI、Phloroglucinol)の全てに対して過冷却促進効果を有することが判る。また、表3に凍結温度(INT50(℃))及び過冷却活性(℃))を示す。
【0048】
【表3】
表3に示される通り、本発明に係るカテキン(茶カテキン)は4種の氷核物質に対し−0.7〜−6.8℃の過冷却活性を示した。
【0049】
実施例7:
4種の氷核物質(
E. ananas、
X. campestris、AgI、Phloroglucinol)を添加した水、及び超純水(MilliQ Water)に、カテキン類として、EGC(エピガロカテキン)、C(カテキン)、EC(エピカテキン)、EGCG(エピガロカテキンガレート)、GCG(ガロカテキンガレート)及びECG(エピカテキンガレート)を0.1質量%濃度に添加し、過冷却促進効果を測定した結果を
図11(A)〜(E)に示す。なお、前記カテキン類はいずれも和光純薬工業(株)から入手した。
図11から、EGCG及びECGは、氷核物質(
E. ananas、
X. campestris、AgI、Phloroglucinol)及び超純水(MilliQ Water)の全てに対して過冷却促進効果を有し、特に超純水(MilliQ Water)に対して優れた過冷却促進効果を有していることが分かる。
また、表4に凍結温度(INT50(℃))及び過冷却活性(℃)を示す。
【0050】
【表4】
表4に示される通り、本発明に係るカテキン類は、4種の氷核物質に対し−0.1〜−5.7℃の過冷却活性を示し、特に、ECG及びEGCGは、4種の氷核物質及び超純水に対し−0.4〜−5.7℃の過冷却活性を示し、超純水(MilliQ Water)に対し−3.2〜−4.5℃の優れた過冷却活性を示した。