【課題】 エポキシシランカップリング剤や官能基含有熱可塑性エラストマーなどの耐衝撃性改良剤との反応性に優れる、いわゆる反応活性に優れた、高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂を生産性良く製造する方法を提供する。
脂肪族系環状化合物の存在下で、含水アルカリ金属水酸化物及び含水アルカリ水硫化物を反応させて脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩を含む反応液を得る工程(1)、 工程(1)で得られた反応液に、含水アルカリ金属硫化物または含水アルカリ金属水酸化物及び含水アルカリ水硫化物を加えながら反応させる工程(2)、
工程(1)におけるアルカリ金属水硫化物の仕込み量(1)と、工程(2)におけるスルフィド化剤の仕込み量(2)との割合が、硫黄原子によるモル換算で、仕込み量(1)/(仕込み量(1)+仕込み量(2))=0.01〜0.50の範囲である請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
工程(1)における脂肪族系環状化合物の仕込み量が、工程(1)と工程(2)における全含水アルカリ金属水硫化物中の硫黄原子1モル当り1.0〜6.0モルとなる範囲である、請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PPSと言うことがある。)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PASと言うことがある。)は、耐熱性、耐薬品性に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯器部品、繊維、フィルム用途等に幅広く用いられている。
【0003】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法として、ポリハロ芳香族化合物、脂肪族系環状化合物、アルカリ金属水酸化物及び水の存在下、前記脂環式アミド化合物を加水分解させ、次いで、スルフィド化剤を系内に滴下して順次加えながら重合反応させる方法、が知られている(特許文献1参照)。
この方法は、脂肪族系環状化合物の加水分解物とポリハロ芳香族化合物(DCB)の存在下で、アルカリ金属硫化物またはアルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物を系内に順次加えるため、該脂肪族系環状化合物の加水分解物がアルカリ金属塩(SMAB)を生成し、さらに該SMABと該ポリハロ芳香族化合物とが副反応を起こして、下記構
造式(1)
【0004】
【化1】
(式中、nは0〜2であり、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3〜5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(以下、CP−MABAと表すことがある。)を生成するため、見かけ上のカルボキシ基量が多く測定されるものであった。
また、この方法は、反応系にスルフィド化剤を順次加えるため、原料中に占める硫黄源の存在割合が低く、該脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩の割合も低くなることから、ポリマーの成長末端が副反応を起こす確率も低くなる。その結果、該ポリマーの高分子量化を促進する利点があるものの、代わりに反応活性点となるポリマー末端のカルボキシ基量を充分増加させることができていなかった。このため、CP−MABAを精製工程で除去した後に得られるPAS樹脂は、シランカップリング剤や官能基含有熱可塑性エラストマー等で変性しても、靱性や耐衝撃性等の機械的強度の向上が充分なものとは言えなかった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法は、脂肪族系環状化合物の存在下で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させるポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、
脂肪族系環状化合物の存在下で、含水アルカリ金属水酸化物及び含水アルカリ水硫化物を反応させて脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩を含む反応液を得る工程(1)、
工程(1)で得られた反応液に、スルフィド化剤を加えながら反応させる工程(2)、を有し、かつ、少なくとも工程(1)及び工程(2)のいずれかで、ポリハロ芳香族化合物を加えることを特徴とする。
【0010】
・工程(1)
本発明の製造方法は、脂肪族系環状化合物の存在下で、アルカリ金属水酸化物及び含水アルカリ水硫化物を反応させて脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩を含む反応液を得る工程(1)を有する。
工程(1)において、脂肪族系環状化合物は脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩を生成するための原料としての役割だけでなく、反応溶媒としても機能するものである。その使用割合は、使用する化合物の種類及び系内の水分割合によっても異なり、特に制限されるものではないが、均一な重合反応が可能な反応系の粘度を保持すること、また、ある程度の生産性を維持するため、その仕込み量が、工程(1)と工程(2)における全含水アルカリ金属水硫化物中の硫黄原子1モル当り1.0〜6.0モルとなる範囲であることが好ましく、さらに、生産性を更に高める観点から、1.0〜4.0モルの範囲がより好ましく、更に1.2〜3.5モルなる範囲が最も好ましい。
【0011】
また、アルカリ金属水酸化物の使用量は、SMABの生成が促進される点から、工程(1)と工程(2)における全含水アルカリ金属水硫化物の硫黄原子1モル当たり、0.01〜0.50モルの範囲が好ましく、特に0.05〜0.30モルの範囲がより好ましい。
【0012】
工程(1)における反応条件としては、開放系又は密閉系の何れでもよいが、不活性ガス存在下に、密閉系で反応させことが生産性を向上させる観点から好ましい。温度条件としては、特に制限されないが、120〜280℃、好ましくは180〜250℃の範囲であることが好ましい。この際、反応系内の水分量は、脂肪族系環状化合物の仕込み量1モルに対して0.01〜0.5モルの範囲にコントロールすることが好ましい。
【0013】
ここで、本発明で用いる脂肪族系環状化合物としては、加水分解によって開環し得るものであれば公知のものを特に限定されることなく用いることができるが、このような脂肪族系環状化合物の具体例としてはN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記する。)、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸などの脂肪族環状アミド化合物、アミド尿素、及びラクタム類が挙げられる。これらの中でも反応性が良好である点から脂肪族環状アミド化合物、特にNMPが好ましい。
【0014】
本発明で用いる含水アルカリ金属水硫化物の具体例としては、アルカリ金属水硫化物の水和物等が挙げられ、該アルカリ金属水硫化物としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウムまたは水硫化セシウム等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらアルカリ金属水硫化物の中では水硫化ナトリウムと水硫化カリウムが好ましく、特に水硫化ナトリウムが好ましい。また、アルカリ金属水硫化物を、硫化水素とアルカリ金属水坂物とを反応させることによっても得られるが、反応系外で事前に調製されたものを用いてもかまわない。
【0015】
本発明で用いるアルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムが挙げられる。これらの中でも特に水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物は、水溶液として用いることが好ましく、その濃度は10〜50質量%となる範囲が好ましい。
【0016】
このように工程(1)は、重合反応工程である工程(2)に先駆けて、予め脂肪族系環状化合物をアルカリ金属水酸化物とアルカリ金属水硫化物の存在下にて加水分解し、そのアルカリ金属塩を生成しておくことにより、重合反応時にポリマー末端に、反応活性点となるカルボキシ基を高い割合で生成させることが可能となるため好ましい。その際、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ金属水硫化物を用いると、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ金属水硫化物の使用割合は各々独立して用いることができるため、末端カルボキシ基の割合を制御しやすくなるため好ましい。
【0017】
・工程(2)
工程(2)は、前記工程(1)で得られた反応液に、スルフィド化剤を加えながら反応させる工程である
【0018】
工程(2)で使用し得るスルフィド化剤としては、公知のものであれば特に制限されるものではないが、アルカリ金属硫化物又はアルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物が挙げられる。
【0019】
前記アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウムおよび硫化セシウムが挙げられ、これらアルカリ金属硫化物の中では硫化ナトリウムと水硫化カリウムが好ましく、特に硫化ナトリウムがより好ましい。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらアルカリ金属硫化物は無水物または水和物等として使用することができ、入手の容易さから、化合物内に結晶水を有する、液状又は固体状の水和物として用いることが特に好ましい。これらアルカリ金属硫化物は、反応系内に仕込む際の取扱い性に優れることから水溶液として用いることもできる。また、アルカリ金属硫化物は、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属塩基、硫化水素とアルカリ金属塩基とを反応させることによっても得られるが、反応系外で事前に調製されたものを用いてもかまわない。
【0020】
アルカリ金属水硫化物としては、工程(1)で例示したものと同様に、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウムまたは水硫化セシウム等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらアルカリ金属水硫化物の中では水硫化ナトリウムと水硫化カリウムが好ましく、特に水硫化ナトリウムが好ましい。工程(2)で用いる場合は、これらアルカリ金属水硫化物は無水物または水和物等として使用することができ、入手の容易さから、化合物内に結晶水を有する、液状又は固体状の水和物として用いることが特に好ましい。これらアルカリ金属水硫化物は、反応系内に仕込む際の取扱い性に優れることから水溶液として用いることもできる。また、アルカリ金属水硫化物は、硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させることによっても得られるが、反応系外で事前に調製されたものを用いてもかまわない。
【0021】
アルカリ金属水酸化物としては、工程(1)で例示したものと同様のものを用いることができる。アルカリ金属水酸化物の使用量は、アルカリ金属水硫化物1モル当たり、0.8〜1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9〜1.1モルの範囲がより好ましい。
工程(2)で用いるスルフィド化剤の仕込み量(2)は、工程(1)で用いる含水アルカリ金属水硫化物の仕込み量(1)に対して、硫黄原子によるモル換算で、仕込み量(1)/(仕込み量(1)+仕込み量(2))=0.01〜0.50の範囲であることが好ましく、さらに0.05〜0.30の範囲であることがより好ましい。
【0022】
なお、ポリハロ芳香族化合物は、工程(2)における重合反応に際し、反応系内に存在していればよく、少なくとも工程(1)及び工程(2)のいずれかで加えることができる。本発明で用いるポリハロ芳香族化合物の具体例としては、例えば、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18のアルキル基を核置換基として有する化合物が挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0023】
前記ポリハロ芳香族化合物の中でも、本発明では線状高分子量PAS樹脂を効率的に製造できることを特徴とする点から、2官能性のジハロ芳香族化合物が好ましく、とりわけ最終的に得られるPAS樹脂の機械的強度や成形性が良好となる点からp−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン及び4,4’−ジクロロジフェニルスルホンが好ましく、特にp−ジクロロベンゼンが好ましい。また、線状PAS樹脂のポリマー構造の一部に分岐構造を持たせたい場合には、上記ジハロ芳香族化合物と共に、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、又は1,3,5−トリハロベンゼンを一部併用することが好ましい。
【0024】
その他、ポリハロ芳香族化合物の適当な選択組合せによって2種以上の異なる反応単位を含む共重合体を得ることもでき、例えば、p−ジクロルベンゼンと、4,4’−ジクロルベンゾフェノン又は4,4’−ジクロルジフェニルスルホンとを組み合わせて使用することが耐熱性に優れたポリアリーレンスルフィドが得られるので特に好ましい。
ポリハロ芳香族化合物の仕込み量は、特に限定されないが、仕込み量がそのまま重合反応に供されるため、生産性ないし経済性から、工程(1)で用いる含水アルカリ金属水硫化物の仕込み量と工程(2)で用いるスルフィド化剤の仕込み量の硫黄原子の合計1モルに対して等モルの割合で用いることが好ましい。
【0025】
この工程(2)では、リチウム塩化合物を反応系内に加え、リチウムイオンの存在下で反応を行ってもよい。ここで使用できるリチウム塩化合物の具体例としては、例えば、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、硫酸リチウム、硫酸水素リチウム、リン酸リチウム、リン酸水素リチウム、リン酸二水素リチウム、亜硝酸リチウム、亜硫酸リチウム、塩素酸リチウム、クロム酸リチウム、モリブデン酸リチウム、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、マロン酸リチウム、プロピオン酸リチウム、酪酸リチウム、イソ酪酸リチウム、マレイン酸リチウム、フマル酸リチウム、ブタン二酸リチウム、吉草酸リチウム、ヘキサン酸リチウム、オクタン酸リチウム、酒石酸リチウム、ステアリン酸リチウム、オレイン酸リチウム、安息香酸リチウム、フタル酸リチウム、ベンゼンスルホン酸リチウム、p−トルエンスルホン酸リチウム、硫化リチウム、水硫化リチウム、水酸化リチウム等の無機リチウム塩化合物;リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムポロポキシド、リチウムイソプロポキシド、リチウムブトキシド、リチウムフェノキシド等の有機リチウム塩化合物が挙げられる。これらの中でも塩化リチウムと酢酸リチウムが好ましく、特に塩化リチウムが好ましい。また、上記リチウム塩化合物は無水物又は含水物又は水溶液として用いることができる。工程(2)でリチウム塩化合物を反応系内に加え、リチウムイオンの存在下で反応を行う場合、その使用量は、工程(1)で用いた含水アルカリ金属硫化物、及び、工程(1)で用いたスルフィド化剤の硫黄原子の合計1モルに対し、好ましくは0.01モル以上0.9モル未満の範囲となる割合で用いることがポリアリーレンスルフィド樹脂をより高分子量化できるため好ましい。
【0026】
工程(2)の反応条件は特に制限されるものではないが、重合反応が容易に進行し得る温度、すなわち200〜300℃、好ましくは210〜280℃、更に好ましくは215〜260℃の範囲にて、脱水を行いながら反応させることが好ましい。
【0027】
本発明では、重合に使用する全スルフィド化剤、すなわち、工程(1)で用いた含水アルカリ金属水硫化物および工程(2)で用いたスルフィド化剤の合計の硫黄原子1モルに対して、反応系内の水分量が1モル未満となるように、スルフィド化剤の導入速度を、反応系内中の水分量が反応混合物から除去されるように調整し制御することが好ましい。
【0028】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法の重合反応に存在させる水分は、加水分解反応などの併発を回避させるために、なるべく少ない方が良い傾向にあるものの、他方、重合反応が全く無水の状態である場合は、反応速度が著しく遅くなるといった問題がある。従って、本発明の重合反応において反応系内に存在すべき水分量は、重合に使用した該スルフィド化剤1モルに対して、重合反応終了時1モル未満であることが好ましい。また、反応が円滑に進行する点からは、重合に使用した該スルフィド化剤1モルに対して、0.02モル以上存在させることが好ましい。これらの中でも重合に使用した該スルフィド化剤1モルに対して0.03〜0.60モルの範囲が好ましく、0.05〜0.40の範囲が特に好ましい。上記の範囲を満たす場合には、反応速度の制御性と高分子量化との両立がより容易に行える。
【0029】
なお、本発明の製造方法では、上記水分量を重合終了時に満たしていることが好ましいが、ポリハロ芳香族化合物の転化率が80モル%を越えた時点以降、より好ましくは60モル%を越えた時点以降、さらに好ましくは重合開始直後から上記範囲を満たしていることが好ましい。
【0030】
ここで、ポリハロ芳香族化合物の転化率とは、次の式で表されるものである。
転化率(%)=(仕込み量−残存量)/仕込み量×100
ただし、「仕込み量」は反応系内に仕込んだポリハロ芳香族化合物の質量を表し、また「残存量」は反応系内に残存するポリハロ芳香族化合物の質量を表すものとする。
【0031】
また、工程(2)において、系内の前記水分量を維持するための脱水方法としては、特に制限されるものでなく、スルフィド化剤の導入速度の他、反応系の温度、圧力のコントロールによって行うこともできるが、具体的には、水、溶媒、ポリハロ芳香族化合物の各蒸気圧曲線によりコントロールすべき温度、圧力を類推し、その圧力、温度条件に設定することによって所望の系内水分量に調節すればよい。
【0032】
・後処理工程
重合反応により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応混合物は後処理工程を施すことができる。後処理工程としては、公知の方法であればよく、特に制限されるものではないが、例えば、重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、且つ少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィド樹脂や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法等が挙げられる。
なお、上記に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0033】
この様にして得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、そのまま各種成形材料等に利用可能であるが、空気あるいは酸素富化空気中あるいは減圧条件下で熱処理を行い、酸化架橋させてもよい。この熱処理の温度は、目標とする架橋処理時間や処理する雰囲気によっても異なるものの、180℃〜270℃の範囲であることが好ましい。また、前記熱処理は押出機等を用いてポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上で、ポリアリーレンスルフィド樹脂を溶融した状態で行ってもよいが、ポリアリーレンスルフィド樹脂の熱劣化の可能性が高まるため、融点プラス100℃以下で行うことが好ましい。
【0034】
・成形加工等
以上詳述した本発明の製造方法によって得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形の如き各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形物に加工することが出来る。
【0035】
また、本発明により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、更に強度、耐熱性、寸法安定性等の性能を更に改善するために、各種充填材と組み合わせたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として使用することが出来る。充填材としては、特に制限されるものではないが、例えば、繊維状充填材、無機充填材等が挙げられる。繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム等の繊維、ウォラストナイト等の天然繊維等が使用出来る。また無機充填材としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、クレー、バイロフェライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、タルク、アタルパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ等が使用出来る。また、成形加工の際に添加剤として離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤等の各種添加剤を含有せしめることが出来る。
【0036】
更に、本発明により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、用途に応じて、適宜、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂、或いは、ポリオレフィン系ゴム、弗素ゴム、シリコーンゴム等のエラストマーを配合したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として使用してもよい。
【0037】
本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の本来有する耐熱性、寸法安定性等の諸性能も具備しているので、例えば、コネクタ、プリント基板及び封止成形品等の電気・電子部品、ランプリフレクター及び各種電装品部品などの自動車部品、各種建築物、航空機及び自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品、カメラ部品及び時計部品などの精密部品等の射出成形若しくは圧縮成形、若しくはコンポジット、シート、パイプなどの押出成形、又は引抜成形などの各種成形加工用の材料として、或いは繊維若しくはフィルム用の材料として幅広く有用である。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
【0039】
(PPS樹脂の溶融粘度(V6)の測定)
製造したPPS樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT−500Cを用い、300℃、荷重:1.96×10
6Pa、L/D=10/1にて、6分間保持した後に測定した。
【0040】
(PPS樹脂のカルボキシ基の定量)
PPS樹脂のカルボキシ基の定量を350℃でプレスしたのち、急冷することによって非晶性を示すフィルムを作成し、フーリエ変換赤外分光装置(以下「FT−IR装置」と略記する。)で測定した。赤外吸収スペクトルのうち630.6cm
−1の吸収に対する1705cm
−1の吸収の相対強度を求め、別途後述する方法により作成した検量線を用いて測定サンプル中のカルボキシ基の含有量(以下「カルボキシ基の全含有量」と略記する。)を求めた。カルボキシ基の含有量は樹脂組成物1g中のモル数で示され、その単位はμmol/gで表される。検量線の作成方法は酸処理を行わずにカルボン酸塩を分子末端に含有するPPS樹脂3gに所定量の4−クロロフェニル酢酸を加え良く混合したのち、前記と同じようにしてフィルムを作成し、FT−IR装置で測定を行い、カルボキシ基含有量に対する、前記吸収の相対強度比をプロットした検量線を作成した。PPS樹脂中のカルボキシ基の含有量が多いほど、エポキシシランカップリング剤や官能基含有熱可塑性エラストマーなどの耐衝撃性改質剤との反応性が向上することから、耐衝撃性に優れる組成物が得られることを示す。
【0041】
(CP−MABAの定量方法)
PPS樹脂を含んだ重合混合物のスラリー50gに70℃のイオン交換水100gと1wt%の水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10.0以上に調整して10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水100gを加えケーキ洗浄を行った。この操作を3回繰り返し、ろ液を全量集めてHPLCを用いて抽出されたCP−MABA量を測定した。標準サンプルと同じ保持時間のピーク面積と検量線とから抽出液中の濃度を求め、PPS樹脂1g当たりのCP−MABA含有量を算出した。
【0042】
(反応性評価方法)
PPS樹脂を小型粉砕機で粉砕した後、日本工業規格Z8801の目開き0.5mmの試験用篩いを用いて篩った。篩いを通過したPPS樹脂100質量部に対し、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を配合し、均一に混合した後に溶融粘度V6を測定した。添加後の溶融粘度V6/添加前の溶融粘度V6の比から粘度上昇度を倍率として算出した。粘度上昇度が大きいほど反応性が高く、優れていることを示す。
【0043】
[実施例1]
(工程1)
温度計、圧力計、滴下槽、滴下ポンプ、コンデンサー、デカンターを連結した撹拌翼付チタンライニングの1リットルオートクレーブに、NMP487g、47.23質量%NaSH 水溶液26.71g(0.225モル)、49.21質量%NaOH 水溶液18.29g(0.225モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で内温100℃まで20分掛けて昇温し、系を閉じ、更に内温220℃ まで40分かけて昇温し、220℃で2時間保持した。最終ゲージ圧力は0.27MPaであった。
【0044】
(工程2)
コンデンサーを連結したバルブを開放し、ゲージ圧力を0.20MPaに調整した。次いで、内温を220℃に、ゲージ圧力を0.20MPaに保持しながら、47.23質量%NaSH 水溶液151.34g(1.275モル)、49.21質量%NaOH 水溶液98.76g(1.215モル)、及びp−DCB220.5g(1.5モル)を3時間かけて滴下した。滴下中は同時に脱水操作を行い、留出したp−DCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、p−DCBはオートクレーブへ戻した。滴下終了後、バルブを閉止し、オートクレーブを密閉した。留出水量は174g、系外に飛散した硫化水素量は1gであった。次いで、内温230℃まで10分掛けて昇温し、230℃で3時間保持した。最終ゲージ圧力は0.28MPaであった。反応終了後、室温まで冷却した。反応終了時の反応系内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.20モルであった。
【0045】
(後処理工程)
得られた重合スラリー100gに70℃のイオン交換水400gを加えて10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水600gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキに70℃のイオン交換水400gを加えて10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水600gを加えケーキ洗浄を行った。この操作を2回繰り返した。得られた含水ケーキに70℃のイオン交換水400gと酢酸を加えてpHを4.0に調整して10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水600gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキに70℃のイオン交換水400gを加えて10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水600gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキを熱風乾燥機を用いて120℃で4時間乾燥して白色粉末状のポリマーを得た。得られたポリマーの溶融粘度は45Pa・s、末端カルボキシ基含有量は36μmol/g、CP−MABA生成量は67μmol/g、および反応性は2.1倍であった。
【0046】
[比較例1]
工程1において47.23質量%NaSH 水溶液26.71g(0.225モル)を仕込まずに、工程2において47.23質量%NaSH 水溶液178.04g(1.500モル)を滴下した以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたポリマーの溶融粘度は43Pa・s、末端カルボキシ基含有量は8μmol/g、CP−MABA生成量は62μmol/g、および反応性は1.1倍であった。