【課題】一対のアーク放電電極上に堆積物が成長することが抑制され、かつ、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)を向上することが可能なアーク放電法を用いる炭素クラスターの製造装置を提供する。
【解決手段】炭素クラスターの製造装置1は、炭素を含む一対のアーク放電電極21、22と、一対のアーク放電電極21、22に対して、電流値が正の一定電流と電流値が負の一定電流とを周期的に繰り返し、時間に対する電流の波形が略矩形波形である両極性パルス直流を供給する電流供給手段30とを備える。
炭素を含む一対のアーク放電電極に対して、電流値が正の一定電流と電流値が負の一定電流とを周期的に繰り返し、時間に対する電流の波形が略矩形波形である両極性パルス直流電流を供給する、
炭素クラスターの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
「炭素クラスターの製造装置と製造方法」
図面を参照して、本発明に係る一実施形態の炭素クラスターの製造装置とこれを用いた製造方法について、説明する。
図1は、本実施形態の炭素クラスターの製造装置の模式断面図である。
【0014】
本実施形態の炭素クラスターの製造装置1は、アーク放電法により炭素クラスターを製造する装置である。
炭素クラスターとしては特に制限なく、カーボンナノチューブおよびフラーレン等が挙げられる。
【0015】
炭素クラスターの製造装置1は、真空容器10を備える。
真空容器10には、真空容器10内のガスを排気するロータリーポンプ13と、真空容器10内にガスを供給するガス供給手段14とが接続されている。
ガス供給手段14は、ガスボンベおよびガス管を含む。
ガスとしては、
ヘリウムガス、ネオンガス、およびアルゴンガス等の希ガス;
水素、
窒素、
アンモニア、
およびこれらの組合せ等が挙げられる。
図中、符号V1、V2はバルブであり、符号P1は圧力計である。
真空容器10には好ましくは、真空容器10内の残存ガスを排出するアウトガス処理を行うために、ヒータ等の加熱手段(図示略)が設けられる。
【0016】
真空容器10の内部には、互いに離間して対向配置された一対の棒状のアーク放電電極21、22が備えられている。
一方(図示左方)のアーク放電電極21は、真空容器10の外部から内部に延びて設けられた金属ロッド(電極支持材)23の先端部に取り付けられている。
同様に、他方(図示右方)のアーク放電電極22は、真空容器10の外部から内部に延びて設けられた金属ロッド(電極支持材)24の先端部に取り付けられている。
図中、符号11、12は、真空容器10において、一対の金属ロッド23、24を保持する電極保持部である。
【0017】
図中、符号25は、一方の金属ロッド23を図示矢印方向(図示左右方向)に平行移動させることが可能なモータドライブである。
他方の金属ロッド24については、手動にて、図示矢印方向(図示左右方向)に平行移動させることが可能である。
上記構成により一対の金属ロッド23、24の位置が調整され、一対のアーク放電電極21、22の離間距離が調整される。
一対のアーク放電電極21、22の離間距離は特に制限なく、5mm程度が好ましい。
【0018】
なお、真空容器10の形状、および、真空容器10への一対のアーク放電電極21、22の取付け態様等は、適宜設計変更可能である。
【0019】
本実施形態において、一対のアーク放電電極21、22に電流が供給されると、これら一対のアーク放電電極21、22間でアーク放電が起こり、一対のアーク放電電極21、22間に放電電流が流れる。
一対のアーク放電電極21、22間の電極離間部およびその近傍が、アーク放電場となる。
本実施形態では、アーク放電により高温領域が形成され、反応が進行する。
カーボンナノチューブ等の場合、反応が効率良く進むことから、アーク放電場周辺の温度が2000〜4000℃程度となることが好ましい。
【0020】
一対のアーク放電電極21、22は、少なくとも炭素を含み、必要に応じて触媒原料を含む。
炭素クラスターとして単層カーボンナノチューブ等を製造する場合、一対のアーク放電電極21、22は、炭素および触媒原料を含むことが好ましい。
触媒原料としては、硫黄、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金、およびこれらの組合せ等の金属元素が好ましい。
触媒原料は、1種または2種以上の遷移金属元素を含むことが好ましい。
触媒原料としては、鉄、ニッケル、コバルト、イットリウム、モリブデン、およびこれらの組合せ等が好ましい。
上記金属元素は、金属元素単体でもよいし、金属酸化物等の金属化合物の形態で含まれていてもよい。
【0021】
炭素クラスターの製造装置1は、一対のアーク放電電極21、22に対して、両極性パルス直流電流を供給する電流供給手段30を備える。
【0022】
本実施形態において、電流供給手段30は、一定の電流値の直流電流を供給する定電流電源31と、定電流電源31から供給された直流電流を変換して両極性パルス直流電流とする変換手段32とを含む。
【0023】
定電流電源31から供給される直流電流の電流値は特に制限されない。定電流電源31としては好ましくは、0〜上限値の範囲内で任意に電流値を設定できるものが用いられる。
定電流電源31はたとえば、0〜70Aの電流を供給することができる。
【0024】
変換手段32は、パルスパターン信号生成器(パルスパターン信号生成手段)32Aとコンバータ32Bとを含む。
【0025】
パルスパターン信号生成器32Aは、両極性パルス直流電流のパルス特性を入力設定可能で、入力された設定情報を基に、パルスパターン信号を出力する。
ここで、「パルス特性」とは、パルス電流の周波数、および、1周期内において電流値が正である時間と負である時間との比等である。
パルス電流の周波数は特に制限なく、たとえば0〜10Hzの範囲内で設定される。
1周期内において電流値が正である時間と電流値が負である時間との比は特に制限なく、たとえば1:10000〜1:1〜10000:1の範囲内で設定される。
アーク放電電極上に堆積物が成長することを抑制するため、1周期内において電流値が正である時間と電流値が負である時間との比は、1:1が好ましい。
【0026】
コンバータ32Bは、パルスパターン信号生成器32Aから出力されたパルスパターン信号に基づいて、定電流電源31から供給された直流電流を両極性パルス直流電流に切り替える。
コンバータ32Bの制御型としては特に制限なく、リレー(Relay)制御型およびサイリスタ制御型等が挙げられる。
【0027】
リレー(Relay)制御型では、コンバータ32Bは、複数の直流パワーリレー(DC Power Relay)と、これら複数の直流パワーリレーを制御する制御部とを含む。制御部には、パルスパターン信号生成器32Aから出力されたパルスパターン信号が入力される。制御部は、入力されたパルスパターン信号に基づいて、複数の直流パワーリレーのオンオフを制御する。
【0028】
サイリスタ制御型では、コンバータ32Bは、複数のサイリスタと、これら複数のサイリスタを制御する制御部とを含む。制御部には、パルスパターン信号生成器32Aから出力されたパルスパターン信号が入力される。制御部は、入力されたパルスパターン信号に基づいて、複数のサイリスタを制御する。
【0029】
5Hz未満の比較的低周波数の条件においては、1周期が比較的長いため、コンバータ32Bの制御型によらず、1周期に対する電流の極性切替え時間(電流の極性切替え時間/周期)は比較的短く、電流の極性切替えを高速に実施できる。
5Hz以上の比較的高周波数の条件においては、1周期が比較的短いため、リレー制御型等では1周期に対する電流の極性切替え時間(電流の極性切替え時間/周期)が比較的長くなる場合がある。
電流の極性切替え時間の間、電力は0またはそれに近い値になる。
したがって、1周期に対する電流の極性切替え時間(電流の極性切替え時間/周期)は短い方が好ましい。
サイリスタ制御型等では、周波数によらず、電流の極性切替えを高速に実施できる。したがって、5Hz以上の比較的高周波数の条件においては、サイリスタ制御型等が好ましい。
【0030】
リレー制御型では、電流の極性切替え時間はたとえば10ms程度である。これに対して、サイリスタ制御型では、電流の極性切替え時間はたとえば、0.1ms以下である。
【0031】
あるタイミングにおいて、一対のアーク放電電極21、22は、一方が陽極であり、他方が陰極である。アーク放電により生成された電子は陽極に衝突し、陽極から炭素および必要に応じて触媒原料が蒸発し、アーク放電場でカーボンナノチューブ等の炭素クラスターを含む煤が生成される。
【0032】
「背景技術」の項で述べたように、一対のアーク放電電極に一定の電流値の直流電流を供給する従来の直流アーク放電法では、陽極から蒸発した炭素の多くが炭素クラスターを含む煤になることなく、陰極上に堆積物として成長してしまうという問題点がある。
一対のアーク放電電極に単極性パルス変調電流を供給する場合も、陰極が固定されるため、陰極上に堆積物が成長してしまう。
【0033】
本実施形態では、一対のアーク放電電極21、22に両極性パルス直流電流を供給するので、一対のアーク放電電極21、22の極性が周期的に反転する。これにより、一対のアーク放電電極21、22の双方から交互に炭素および必要に応じて触媒原料を蒸発させることができ、一方のアーク放電電極に堆積物が成長することを抑制することができる。
本実施形態では、一方のアーク放電電極に堆積物が成長することが抑制されるため、安定した放電を継続することができる。
【0034】
「背景技術」の項で述べたように、特許文献2に記載の交流アーク放電法においても、一方のアーク放電電極に堆積物が成長することを抑制することができる。
しかしながら、特許文献2では、交流電源を用いているため、電流と電圧の積の絶対値で求められる電力は、時間に対する電流の波形の影響を受けて、時間に対して大きく変動する。例えば実施例1、9において、時間に対して電流値は一定せず、時間に対して電流値の絶対値は単調減少する。電流、電圧、および電力の時間変化については、後記[実施例]の項の比較例2−4、
図4および
図5を参照されたい。
【0035】
電力が時間に対して大きく変動する場合、電力の小さい期間において、電極昇華速度(電極からの炭素および必要に応じて触媒原料の蒸発速度)が著しく低下する。そのため、1周期内において電流値が正である時間と負である時間との比によらず、交流アーク放電法では、時間に対する電流値がほぼ一定である直流アーク放電法に比して、電極昇華速度が低下し、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)が低下し、製造効率が低下する。
【0036】
本実施形態においては、両極性パルス直流電流を用いる。この条件では、時間に対する電流の波形を略矩形波形とすることができる。時間に対する電圧の波形は、時間に対する電流の波形と同様、略矩形波形となる。
本実施形態では、時間に対する電流および電圧の波形が略矩形波形であるので、電流と電圧の積の絶対値で求められる電力は、時間によらず、ほぼ一定となる。電流、電圧、および電力の時間変化については、後記[実施例]の項の実施例5および
図2を参照されたい。
本実施形態では、電力がほぼ一定であるので、電極昇華速度(電極からの炭素および必要に応じて触媒原料の蒸発速度)がほぼ一定であり、特許文献2に記載の交流アーク放電法のように、電極昇華速度の大きな低下が見られない。そのため、本実施形態では、特許文献2に記載の交流アーク放電法に比して、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)を向上することができる。
【0037】
なお、電流/電圧の極性が切り替わる際には、実際に所望の極性の電流値/電圧値となるのに若干のタイムラグが見られる場合がある。また、このタイムラグの間に、電流/電圧の変化に乱れが生じる場合がある。実際に所望の極性の電流値/電圧値となった後は、次の極性の切り替えがあるまで、電流値/電圧値はほぼ一定となる。なお、電流値/電圧値がほぼ一定の期間においては、ノイズ等によって電流値/電圧値の微小変動は見られるが、無視できる範囲である。電力値は、電流/電圧の極性が切り替わる際の上記タイムラグの影響を受けるが、その時間はわずかである。
【0038】
両極性パルス直流電流の周波数が過低では、一対のアーク放電電極の極性が切り替わる周期が長くなって直流アーク放電に近くなり、アーク放電電極に堆積物が成長するため、極性が切り替わる際に、アーク放電電極から炭素クラスターを含まない破片が落下する現象が見られることがある。
炭素クラスターを含まない破片が落下することが抑制されることから、両極性パルス直流電流の周波数は、好ましくは0.05Hz以上である。
【0039】
両極性パルス直流電流の周波数が過高では、電流の極性が切り替わる際に、実際に所望の極性の電流値となるまでのタイムラグが長くなり、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)が低下する恐れがある。
ただし、上記タイムラグは、コンバータ32Bの性能による。したがって、電流の極性切替え時間の短い高性能なコンバータ32Bを用いる場合には、比較的高周波数の条件でも上記タイムラグが短く、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)が低下しない場合もある。たとえば、上記したように、サイリスタ制御型等では、電流極性の高速切り替えが可能であり、好ましい。
リレー制御型等の安価なコンバータを用いても、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)を大きくできることから、両極性パルス直流電流の周波数は、好ましくは10Hz以下であり、より好ましくは5Hz以下であり、特に好ましくは2Hz以下である。
【0040】
一対のアーク放電電極に堆積物が生じることが抑制され、アーク放電電極から炭素クラスターを含まない破片が落下することが抑制され、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)を向上することができることから、両極性パルス直流電流の周波数は、好ましくは0.05〜10Hzの範囲内であり、より好ましくは0.05〜5Hzの範囲内であり、特に好ましくは0.05〜2Hzの範囲内である。
本明細書において、特に明記しない限り、「周波数」は設定周波数であり、実際の周波数は設定周波数から多少ずれる場合があり得る。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、一対のアーク放電電極21、22上に堆積物が成長することが抑制され、かつ、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)を向上することが可能なアーク放電法を用いる炭素クラスターの製造装置1と製造方法を提供することができる。
【0042】
本発明は上記実施形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0043】
本発明に係る実施例について説明する。
【0044】
(実施例1〜9)
図1に示したような炭素クラスターの製造装置を用いて、単層カーボンナノチューブの製造を実施した。
【0045】
一対のアーク放電電極としては、4.2質量%のNi元素と0.9質量%のY元素とを含む触媒原料入り炭素電極(6mm×6mm×50mm)を用いた。
一対のアーク放電電極の離間距離は5mmとした。
【0046】
図1に示したように、電流供給手段30は、一定の電流値の直流電流を供給する定電流電源31と、定電流電源31から供給された直流電流を変換して両極性パルス直流電流とする変換手段32とを含む。また、変換手段32は、パルスパターン信号生成器32Aとコンバータ32Bとを含む。
実施例1〜9において、定電流電源31としては、0〜70Aの直流電流を供給可能な定電流電源(ダイヘン社製「ARGO-300P」)を用いた。
パルスパターン信号生成器32Aとしては、パルス電流の周波数を0〜10Hzの範囲内で設定可能であり、1周期内において電流値が正である時間と電流値が負である時間との比を0:∞〜1:1〜∞:0の範囲内で設定可能なパルスパターン信号生成器(Agilent Technologies,Inc.社製「HP-3312A」)を用いた。
コンバータ32Bとしては、4台のDCパワーリレー(DC Power Relay)を搭載したリレー制御型のコンバータを用いた。
【0047】
ガス供給手段14としては、Heガスボンベおよびガス管を用いた。
【0048】
真空容器10を密閉した後、真空容器10とロータリーポンプ13との間のバルブを開け、ロータリーポンプ13を用いて真空容器10内を5Pa以下の真空にした。さらに、ヒータを用いて真空容器10を70℃に加熱し、アウトガス処理を行った。
次いで、真空容器10とロータリーポンプ13との間のバルブを閉じ、真空容器10とHeガスボンベとの間のバルブを開け、真空容器10内にHeガスを50kPa導入した。その後、真空容器10とHeガスボンベとの間のバルブを閉じた。
カーボンナノチューブの製造中には、基本的には、真空容器10は密閉空間としたが、真空度が低下した場合には、ロータリーポンプ13を用いて真空度を5Pa以下に保持した。
【0049】
上記のように真空容器10の内部空間をカーボンナノチューブの製造に適した環境に整えた後、一対のアーク放電電極21、22に対して、上記の電流供給手段30により両極性パルス電流を供給して、単層カーボンナノチューブの製造を行った。
実施例1〜9においてはいずれも、1周期内において電流値が正である時間と電流値が負である時間との比は1:1とした。
実施例1〜9においては、電流値I
E(A)は55A/−55A(正電流値:55A、負電流値:−55A)に固定しつつ、周波数f(Hz)を0.04〜10Hzの範囲内で変化させた。
各例の条件を表1に示す。
なお、表中の周波数は設定周波数であり、実際の周波数は多少ずれる場合があった。たとえば、設定周波数が0.5Hzの場合の実際の周波数は0.53Hzであり、設定周波数が5Hzの場合の実際の周波数は5.35Hzであった。
【0050】
実施例1〜9においてはいずれも、時間に対する電流の波形は略矩形波形であり、時間に対する電圧の波形は略矩形波形であった。
【0051】
電流の極性が切り替わる際には、実際に所望の極性の電流値となるのに若干のタイムラグが見られた。また、このタイムラグの間に、電流の変化に乱れが生じる場合があった。実際に所望の極性の電流値となった後は、次の極性の切り替えがあるまで、電流値はほぼ一定であった。なお、電流値がほぼ一定の期間においては、ノイズ等によって電流値の微小変動は見られたが、無視できる範囲であった。
実施例1〜9においてはいずれも、電流と電圧の積の絶対値で求められる電力は、時間によらず、ほぼ一定であった。なお、電流の極性を切り替える際には、上記タイムラグの影響を受けるが、その時間はわずかであった。
【0052】
電流の極性切替え時間は10ms程度であった。そのため、周波数が5Hz以上の比較的高周波の条件では、1周期に対する電流の極性切替え時間(タイムラグの時間/周期)が、5Hz未満の比較的低周波数の条件よりも相対的に長くなった。
【0053】
代表例として、実施例5(電流値I
E(A):55A/−55A、周波数f:0.5Hz)、実施例8(電流値I
E(A):55A/−55A、周波数f(Hz):5Hz)における、電流I
E(A)の時間変化、電圧V
E(V)の時間変化、および電力P(W)の時間変化を、
図2および
図3に示す。
【0054】
各例において、単位時間当たりのカーボンナノチューブを含む煤の回収量(煤回収速度)、電極昇華速度、および、陰極上の堆積速度を測定した。
アーク放電電極からカーボンナノチューブを含まない破片が真空容器の底面に落下した場合には、その発生率を測定した。
評価結果を表1に示す。
【0055】
実施例1〜9では、一対のアーク放電電極に堆積物が生じることが抑制され、安定した放電を継続できた。
実施例1〜9では、電流値が同じ後記比較例2−4の交流アーク放電法に比して、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)を向上することができた。
【0056】
なお、周波数fを0.04Hzとした実施例1では、微量ではあったが、アーク放電電極からカーボンナノチューブを含まない破片が落下する現象が見られた。
アーク放電電極から炭素クラスターを含まない破片が落下することが抑制されることから、周波数fは0.05Hz以上が好ましいことが分かった。
【0057】
また、周波数fを10Hzとした実施例9では、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)が実施例1〜8に比して少なかった。また、周波数fを5Hzとした実施例8では、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)が実施例1〜7に比して少なかった。かかる比較的高周波数条件では、サイリスタ制御型等の切替え速度の速いコンバータを用いることで、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)を改善できる。
コンバータの性能によらず、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)を増大できることから、周波数fは0.05〜10Hzが好ましく、0.05〜5Hzがより好ましく、0.05〜2Hzが特に好ましいことが分かった。
周波数fを0.05〜2Hzの範囲内とした実施例2〜7では、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)は、一対のアーク放電電極に一定の電流値の直流電流を供給する直流アーク放電法を用いた後記比較例1−1と同等レベルであった。
【0058】
(比較例1−1)
電流供給手段として一定の電流値の直流電流を供給する定電流電源のみを用いた以外は実施例1〜9と同様にして、単層カーボンナノチューブを製造し、評価した。電流値I
E(A)は55Aとした。
製造条件と評価結果を表1に示す。
【0059】
一対のアーク放電電極に一定の電流値の直流電流を供給する直流アーク放電法を用いた比較例1−1では、単位時間の煤回収量(煤回収速度)は良好であった。
比較例1−1では、電極昇華速度が大きかったが、陰極上に堆積物が多く成長した。また、アーク放電電極からカーボンナノチューブを含まない破片が微量落下する現象が見られた。
【0060】
(比較例2−1〜2−8)
電流供給手段として交流電源を用いた以外は実施例1〜9と同様にして、単層カーボンナノチューブを製造し、評価した。
1周期内において電流値が正である時間と電流値が負である時間との比は1:1とした。
比較例2−1〜2−8においては、周波数f(Hz)を60Hzに固定しつつ、実効電流値I
E(A)の上限値/下限値を40A/−40A〜75A/−75Aの範囲内で変化させた。
製造条件と評価結果を表1に示す。
【0061】
比較例2−1〜2−8においてはいずれも、時間に対する電流の波形は正弦波形であり、時間に対する電圧の波形は略矩形波形であった。
比較例2−1〜2−8においてはいずれも、電流と電圧の積の絶対値で求められる電力は、時間に対する電流の波形(正弦波形)の影響を受けて、時間に対して大きく変動した。
代表例として、比較例2−4(実効電流値I
E(A):55A/−55A、周波数f:60Hz)における、電流I
E(A)の時間変化、電圧V
E(V)の時間変化、および電力P(W)の時間変化を、
図4に示す。
【0062】
比較例2−1〜2−8では、一対のアーク放電電極に堆積物が成長することが抑制され、カーボンナノチューブを含まない破片の発生も抑制された。しかしながら、電極昇華速度が小さく、一対のアーク放電電極に一定の電流値の直流電流を供給する直流アーク放電法を用いた比較例1−1に比して、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)が大きく低下した。
【0063】
(比較例3−1〜3−7)
実施例1〜9と同様の電流供給手段を用いたが、電流値I
E(A)の上限値/下限値を50A/30Aに固定し、一対のアーク放電電極に単極性パルス変調電流を供給した。1周期内において電流値が上限値である時間と電流値が下限値である時間との比は1:1とした。周波数f(Hz)は0.5〜20Hzの範囲内で変化させた。その他は、実施例1〜9と同様にして、単層カーボンナノチューブを製造し、評価した。
製造条件と評価結果を表1に示す。
【0064】
一対のアーク放電電極に単極性パルス変調電流を供給した比較例3−1〜3−7では、陰極上に堆積物が多く成長し、アーク放電電極からカーボンナノチューブを含まない破片が微量落下する現象が見られた。
また、一対のアーク放電電極に一定の電流値の直流電流を供給する直流アーク放電法を用いた比較例1−1に比して、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)も大きくなかった。
【0065】
(比較例4)
特許文献2の実施例9では、交流アーク放電法において、1周期内において電流値が正である時間と電流値が負である時間との比を6:4としている。このときの電流波形および電圧波形が
図6(a)、(b)に示されている(段落0071)。
特許文献2の
図6(a)、(b)のデータを読み取って、電流I
E(A)の時間変化、電圧V
E(V)の時間変化をプロットした。なお、この際、特許文献2の
図6(a)、(b)では原点および周期が一致していないため、原点および周期を一致させるように微修正した。さらに、電流I
E(A)と電圧V
E(V)の読み取ったデータから電力P(W)を求めて、電力P(W)の時間変化をプロットした。
電流I
E(A)の時間変化、電圧V
E(V)の時間変化、および電力P(W)の時間変化を、
図5に示す。
【0066】
比較例4においては、時間に対する電流の変化が矩形波形に近くなる。しかしながら、一度、電流の極性を切り替えてから次に電流の極性を切り替えるまでの間において、時間に対して電流値は一定せず、時間に対して電流値の絶対値は単調減少する(
図5上図において、破線で囲む領域)。そのため、電力は、時間に対して大きく変動している。
このように電力が時間に対して大きく変動する場合、電力の小さい期間において、電極昇華速度が著しく低下するため、単位時間当たりの煤回収量(煤回収速度)が低下する。
【0067】
【表1】