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特開2015-221416光硬化性樹脂組成物の硬化方法及び硬化装置
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  • 特開2015221416-光硬化性樹脂組成物の硬化方法及び硬化装置 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-221416(P2015-221416A)
(43)【公開日】2015年12月10日
(54)【発明の名称】光硬化性樹脂組成物の硬化方法及び硬化装置
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/06 20060101AFI20151113BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20151113BHJP
   B05C 9/12 20060101ALI20151113BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20151113BHJP
【FI】
   B05D3/06 Z
   H01L21/30 502R
   B05C9/12
   B05C11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-106928(P2014-106928)
(22)【出願日】2014年5月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松下 俊雄
【テーマコード(参考)】
4D075
4F042
【Fターム(参考)】
4D075BB24Z
4D075BB42Z
4D075BB50Z
4D075BB79Y
4D075BB79Z
4D075DA06
4D075DB01
4D075DB13
4D075DB21
4D075DC22
4D075EA21
4D075EB22
4D075EB33
4D075EB35
4D075EB38
4D075EC11
4D075EC22
4D075EC37
4F042AA02
4F042AB00
4F042BA16
4F042BA19
4F042BA22
4F042CB26
4F042CC03
4F042CC09
4F042CC22
4F042CC30
4F042DB41
(57)【要約】
【課題】従来とは異なる方法によって酸素阻害を抑制することができる光硬化性樹脂組成物の硬化方法及び/又は硬化装置を提供する。
【解決手段】本発明の光硬化性樹脂組成物の硬化方法は、光硬化性樹脂組成物(15)を該樹脂組成物(15)が不溶性である液体(20)で覆う第1工程と、前記第1工程の後、前記液体(20)を介して前記樹脂組成物(15)に光を照射し該樹脂組成物(15)を硬化させる第2工程と、を備え、前記第1工程の前に、前記液体(20)を脱酸素処理することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性樹脂組成物を該樹脂組成物が不溶性である液体で覆う第1工程と、
前記第1工程の後、前記液体を介して前記樹脂組成物に光を照射し該樹脂組成物を硬化させる第2工程と、を備え、
前記第1工程の前に、前記液体を脱酸素処理する、光硬化性樹脂組成物の硬化方法。
【請求項2】
前記脱酸素処理は、前記液体の溶存酸素量を6ppm以下とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脱酸素処理は、加熱である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記脱酸素処理は、一旦前記液体の沸点に達するまで前記液体を加熱する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記液体は、水である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
光硬化性樹脂組成物を該樹脂組成物が不溶性である液体で覆う第1工程と、
前記第1工程の後、前記液体を介して前記樹脂組成物に光を照射し該樹脂組成物を硬化させる第2工程と、を備え、
前記液体が、フッ素系不活性液体である、光硬化性樹脂組成物の硬化方法。
【請求項7】
前記第2工程において、前記液体の温度を40℃以上とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1工程の前に、前記樹脂組成物を液体で覆っていない状態で該樹脂組成物に光を照射し該樹脂組成物を予備硬化させる、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2工程の後、前記樹脂組成物を覆っていた前記液体を回収して再利用する、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
光硬化性樹脂組成物をゲルで覆った後、前記ゲルを介して前記樹脂組成物に光を照射し該樹脂組成物を硬化させる、光硬化性樹脂組成物の硬化方法。
【請求項11】
前記ゲルは水溶性であり、
前記樹脂組成物を硬化させた後、水洗により前記ゲルを前記樹脂組成物上から除去する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記樹脂組成物を硬化させる光を放射する光源が半導体素子である、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記半導体素子が放射する光のピーク波長が360nm以上である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
光硬化性樹脂組成物を表面に有する被照射体を支持する支持部と、
前記樹脂組成物が不溶性である液体を供給する液体供給部と、
前記樹脂組成物を硬化させる光を放射する光源を含む光源部と、
前記支持部、前記液体供給部、及び前記光源部を電気信号により制御して、前記樹脂組成物を前記液体で覆わせた後、前記液体を介して前記樹脂組成物に前記光源の光を照射させる制御部と、を備え、
前記液体供給部は、前記液体を加熱可能な温度調節器を有する、光硬化性樹脂組成物硬化装置。
【請求項15】
前記樹脂組成物を硬化させた後、前記樹脂組成物を覆っていた前記液体を回収する液体回収部を備える、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記制御部は、前記樹脂組成物を液体で覆っていない状態で該樹脂組成物に第1光源の光を照射し該樹脂組成物を予備硬化させた後、前記樹脂組成物を前記液体で覆わせ、前記液体を介して前記樹脂組成物に第2光源の光を照射させる、請求項14又は15に記載の装置。
【請求項17】
前記光源が半導体素子である、請求項14乃至16のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性樹脂組成物の硬化方法及び硬化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば光照射で硬化するインキや塗料などのラジカル重合系の光硬化性樹脂組成物は、大気中の酸素により重合反応を阻害され(「酸素阻害」と呼ばれる)、表面の硬化不良を生じることがある。このため、従来、窒素などの不活性ガスにより硬化炉内をパージしたり、光透過性フィルムを被せたりして、酸素阻害を抑制するのが一般的であった(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
また最近では、感光層上にラジカル重合性化合物を含有する表面層用塗布液を用いて塗膜を形成後、塗膜の外面を水に接触させて覆い酸素を含む外気から遮蔽し、水を介して塗膜に光を照射し硬化させる、電子写真感光体の製造方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−039499号公報
【特許文献2】特開2008−265349号公報
【特許文献3】特開2014−013292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、不活性ガスによるパージは密閉空間を必要とし、光透過性フィルムによる被覆は交換作業が煩雑である、水による被覆は水中の溶存酸素により酸素阻害を十分に抑制できないことがある、などの欠点がある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、従来とは異なる方法によって酸素阻害を抑制することができる光硬化性樹脂組成物の硬化方法及び/又は硬化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の光硬化性樹脂組成物の硬化方法は、光硬化性樹脂組成物を該樹脂組成物が不溶性である液体で覆う第1工程と、前記第1工程の後、前記液体を介して前記樹脂組成物に光を照射し該樹脂組成物を硬化させる第2工程と、を備え、前記第1工程の前に、前記液体を脱酸素処理することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の別の光硬化性樹脂組成物の硬化方法は、光硬化性樹脂組成物を該樹脂組成物が不溶性である液体で覆う第1工程と、前記第1工程の後、前記液体を介して前記樹脂組成物に光を照射し該樹脂組成物を硬化させる第2工程と、を備え、前記液体が、フッ素系不活性液体であることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の別の光硬化性樹脂組成物の硬化方法は、光硬化性樹脂組成物をゲルで覆った後、前記ゲルを介して前記樹脂組成物に光を照射し該樹脂組成物を硬化させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の光硬化性樹脂組成物硬化装置は、光硬化性樹脂組成物を表面に有する被照射体を支持する支持部と、前記樹脂組成物が不溶性である液体を供給する液体供給部と、前記樹脂組成物を硬化させる光を放射する光源を含む光源部と、前記支持部、前記液体供給部、及び前記光源部を電気信号により制御して、前記樹脂組成物を前記液体で覆わせた後、前記液体を介して前記樹脂組成物に前記光源の光を照射させる制御部と、を備え、前記液体供給部は、前記液体を加熱可能な温度調節器を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸素阻害を抑制可能な、従来とは異なる光硬化性樹脂組成物の硬化方法を提供することができる。また、その硬化方法を用いて光硬化性樹脂組成物を硬化させるのに好適な硬化装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態に係る光硬化性樹脂組成物の硬化方法及び硬化装置を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明の実施の形態について適宜図面を参照して説明する。但し、以下に説明する光硬化性樹脂組成物の硬化方法及び硬化装置は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。また、本明細書における「ピーク波長」とは、光源の放射スペクトル中で最も強度が高い波長を指すものとする。
【0014】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1に係る光硬化性樹脂組成物の硬化方法及び硬化装置を説明する概略図である。図1に示すように、実施の形態1に係る光硬化性樹脂組成物硬化装置100(以下、「硬化装置100」と略記することがある)は、支持部110と、液体供給部120と、光源部130と、制御部140と、を備えている。支持部110は、被照射体10を支持する。被照射体10は、光硬化性樹脂組成物15(以下、「樹脂組成物15」と略記することがある)を表面に有する。液体供給部120は、樹脂組成物15が不溶性である液体20を供給する。光源部130は、樹脂組成物15を硬化させる光を放射する光源135を含む。制御部140は、支持部110、液体供給部120、及び光源部130を電気信号により制御し、樹脂組成物15を液体20で覆わせた後、液体20を介して樹脂組成物15に光源135の光を照射させる。
【0015】
図1に示すように、実施の形態1に係る樹脂組成物15は、次のような工程を経て硬化される。まず、第1工程では、樹脂組成物15を、この樹脂組成物15が不溶性である液体20で覆う。次に、第2工程では、液体20を介して樹脂組成物15に光を照射し、樹脂組成物15を硬化させる。なお図示はしていないが、樹脂組成物15を光照射により硬化させた後は、液体20を樹脂組成物15上から除去して、被照射体10を乾燥させればよい。
【0016】
以上のように、樹脂組成物15を、液体20で覆った状態にて光照射により硬化させることで、樹脂組成物15の酸素阻害による硬化不良を抑制することができる。よって、樹脂組成物15の表面の十分な硬化が得られ、また表面のタック性を抑えることができる。また、液体20は、不活性ガスや光透過フィルムに比べて再利用しやすい。さらに、樹脂組成物15の硬化時の温度を液体20によって制御することができる。
【0017】
以下、樹脂組成物15の硬化方法及び硬化装置100の好ましい形態について説明する。
【0018】
液体20の溶存酸素量を減らすため、第1工程の前に液体20を脱酸素処理することが好ましい。脱酸素処理としては、加熱(加熱脱酸素法)が簡便で好ましいが、窒素式脱酸素法又は脱酸素剤の添加などでもよい。加熱の場合、液体20を煮沸することが好ましく、一旦液体20の沸点に達するまで液体20を加熱することがより好ましい。このような脱酸素処理は、液体20が水である場合に、特に効果的である。
【0019】
液体20は、溶存酸素量が、6ppm以下であることが好ましく、3ppm以下であることがより好ましい。第1工程前の液体20の脱酸素処理により、液体20の溶存酸素量をこの範囲とすることが好ましい。液体20の溶存酸素量がこの範囲であれば、樹脂組成物15の酸素阻害による硬化不良を効果的に抑制することができる。
【0020】
液体20は、水であることが、安価で入手が極めて容易であり、好ましい。なお、ここでいう「水」は、「湯」を含む意味で用いる。
【0021】
液体20は、フッ素系不活性液体であることが、基材11及び樹脂組成物15に対する影響を小さく抑えられ、好ましい。フッ素系不活性液体としては、例えば、フロリナート(登録商標:スリーエム社)などが挙げられる。
【0022】
図1に示すように、硬化装置100において、液体供給部120は、液体20の温度を調節する、特に液体20を加熱可能な温度調節器125を有している。これにより、液体20による樹脂組成物15の硬化時の温度を精度良く制御することができる。このとき、液体20を冷却してもよいが、液体20を加熱することが好ましい。液体20を加熱することで、熱によって樹脂組成物15の硬化を促進させることができる。また、この温度調節器125によって、上記液体20の脱酸素処理である加熱を行うこともできる。第2工程における即ち樹脂組成物15の硬化時の液体20の温度は、特に限定されないが、硬化促進の観点からは、下限値として、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、70℃以上がよりいっそう好ましい。上限値としては、95℃以下とすることが好ましい。温度調節器125は、例えばヒータ、クーラ、チラー、ファンなどを有する。
【0023】
図1に示すように、硬化装置100において、光源部130は、第1光源137と第2光源135を有している。そして、制御部140は、樹脂組成物15を液体で覆っていない状態、好ましくは樹脂組成物15を大気に晒した状態で、樹脂組成物15に第1光源137の光を照射し該樹脂組成物15を予備硬化させた後、樹脂組成物15を液体20で覆わせ、液体20を介して樹脂組成物15に第2光源135の光を照射させることが好ましい。すなわち、第1工程の前に、樹脂組成物15を液体で覆っていない状態、好ましくは樹脂組成物15を大気に晒した状態で、該樹脂組成物15に光を照射し該樹脂組成物15を予備硬化させることが好ましい。酸素阻害による硬化不良は、主として樹脂組成物15の表面側において生じるため、光照射を2回に分けることで、硬化不良を抑えて樹脂組成物15の全体を効率良く硬化させることができる。また、予め樹脂組成物15を予備硬化させておくことで、樹脂組成物15が液体20によって基材11から剥がれるのを抑制することができる。なお、この樹脂組成物15の予備硬化工程は、必須ではなく、省略してもよい。第1光源137も同様に、必須ではなく、省略してもよい。また、第1光源137と第2光源135は、別個の光源として図示しているが、同じ1つの光源を2度使用することに代えてもよい。
【0024】
図1に示すように、硬化装置100は、樹脂組成物15を硬化させた後、樹脂組成物15を覆っていた液体20を回収する液体回収部150を備えている。そして、この液体回収部150によって、第2工程の後、樹脂組成物15を覆っていた液体20を回収して再利用することが好ましい。これにより、液体20を繰り返し使用することができ、ランニングコストを低く抑えられ、経済的である。液体回収部150は、回収した液体20を浄化するために、フィルタ又は濾過器等を有することが好ましい。
【0025】
光源135,137は、半導体素子であることが好ましい。半導体素子が放射する光のスペクトル線幅(半値幅で定義する:以下も同様である)は、通常30nm以下であり、好ましくは20nm以下、より好ましくは15nm以下である。このように、半導体素子が放射する光のスペクトル線幅は、メタルハライドランプや高圧水銀灯等に比べて狭い。このため、光源135,137として、半導体素子を用いることで、樹脂組成物15の硬化に寄与する波長成分を選択しやすく、また樹脂組成物15の硬化の進行を精度良く制御することができる。また、波長の長い光のほうが樹脂組成物15の深部まで到達しやすく、半導体素子は、UV−A領域(波長315nm以上400nm以下)などの比較的長波長の紫外域において、上記のようなスペクトル線幅の狭い光を放射可能であるため、樹脂組成物15を深部側から硬化させることができる。また、照射される光が樹脂組成物15の硬化に効率良く寄与し、発熱すなわち温度上昇が抑えられるため、樹脂組成物15の硬化物中の気泡の発生を抑制することができる。
【0026】
光源135,137となる半導体素子は、主として、活性層が窒化物半導体(一般式InAlGa1−x−yN(0≦x、0≦y、x+y≦1)で表される)で構成されるものである。窒化物半導体の半導体素子は、活性層にインジウムを含ませることで、高い放射強度を得ることができる。すなわち、窒化物半導体の半導体素子は、放射する光のピーク波長が窒化ガリウムのバンドギャップエネルギーに相当する波長付近又はそれより長い波長である範囲において、高い放射強度が得られやすい。したがって、半導体素子が放射する光のピーク波長は、360nm以上であることが好ましく、365nm以上であることがより好ましい。具体的には、半導体素子が放射する光のピーク波長としては、例えば365nmや385nmなどが挙げられる。特に、波長385nmの光は、樹脂組成物15の硬化性に優れている。このような比較的長波長でスペクトル線幅の狭い光を用いることで、樹脂組成物15の深部を良好に硬化させることができる。
【0027】
<実施の形態2>
実施の形態2に係る光硬化性樹脂組成物の硬化方法は、実施の形態1における液体20をゲルに変更したものであり、図示を省略する。より詳細には、実施の形態2に係る光硬化性樹脂組成物は、次のような工程を経て硬化される。まず、第1工程では、光硬化性樹脂組成物をゲルで覆う。次に、第2工程では、そのゲルを介して光硬化性樹脂組成物に光を照射し、該光硬化性樹脂組成物を硬化させる。なお、ゲルは、ジェル、スライムなども含む。ゲルは、具体的には、例えばポリビニルアルコール又はその水溶液等を用いることができる。
【0028】
このような実施の形態2に係る光硬化性樹脂組成物の硬化方法によっても、実施の形態1と同様に、光硬化性樹脂組成物の酸素阻害による硬化不良を抑制することができ、樹脂組成物の表面の十分な硬化が得られ、また表面のタック性を抑えることができる。また、ゲルは、吸水性の高い基材の場合にも使用しやすい。
【0029】
ゲルは、常温ではゲル状であり、加熱すると液状化するものがある。よって、ゲルを加熱して液状化した状態で光硬化性樹脂組成物を覆ってもよい。ゲルを光硬化性樹脂組成物上から除去するときは、ゲル状のほうが除去しやすいが、液状化させて除去することもできる。例えば上記ポリビニルアルコールは、加熱すると液状化するゲルの一例である。
【0030】
ゲルは、水溶性であることが好ましい。そして、光硬化性樹脂組成物を硬化させた後、水洗によりゲルを該光硬化性樹脂組成物上から除去することが好ましい。例えば上記ポリビニルアルコールは、水溶性のゲルの一例である。
【0031】
以下、本発明に係る被照射体10及び硬化装置100の構成要素について説明する。
【0032】
(被照射体10)
被照射体10は、光照射の対象となる物体である。被照射体10は、硬化させるべき樹脂組成物15を少なくとも含むものであればよい。すなわち、上記実施の形態の被照射体10において、樹脂組成物15は、基材11上に設けられているが、基材11は省略することもできる。また、被照射体10は、樹脂組成物15のみで構成されてもよい。
【0033】
(基材11)
基材11は、樹脂組成物15が設けられる基台又は下地である。例えば、基材11は、基板、被塗装物などである。基材11の材質は、特に限定されないが、例えばアルミニウム又は鉄鋼などの金属、プラスチック、ガラス、木材などが挙げられる。また、基材11は、ヒト又はその他動物の爪であってもよい。
【0034】
(光硬化性樹脂組成物15)
光硬化性樹脂組成物15は、光照射により硬化する樹脂組成物である。具体的には、樹脂組成物15は、炭素−炭素二重結合を持つアクリレート又はメタクリレートで、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレートなどが挙げられる。樹脂組成物15は、着色顔料を含んでいてもよい。着色顔料は、ジケトピロロピロール、キナクリドン、ジスアゾイエロー、フタロシアニンブルー、カーボンブラック、酸化チタンなどが挙げられる。樹脂組成物15は、強化繊維を含んでいてもよい。強化繊維は、ガラス繊維、ビニロンなどが挙げられる。樹脂組成物15は、光開始剤を含んでいてもよい。光開始剤は、ラジカル重合型のα−アミノアセトフェノン系、α−ヒドロキシアセトフェノン型、アシルフォスフィンオキサイド系、o−アシルオキシム、アルキルフェノン系などが挙げられる。より具体例な光開始剤としては、BASF社のIRGACURE651、IRGACURE819、LUCIRIN TPOなどが挙げられる。また、樹脂組成物15は、増感剤を含んでいてもよい。増感剤は、例えばイソプロピルチオキサント(ITX)をα−アミノアセトフェノン開始剤と組み合わせるのが好ましい。ITXは350〜400nmの光を吸収し、そのエネルギーをα−アミノアセトフェノンに渡し開裂反応が起こる。樹脂組成物15の厚さは、特に限定されないが、例えば10μm以上500μm以下が挙げられ、50μm以上300μm以下であることが好ましく、100μm以上200μm以下であることがより好ましい。なお、上記実施の形態の樹脂組成物15の硬化方法は、樹脂組成物15の硬化後の応力歪みが小さいため、比較的厚い硬化物の形成にも有効である。
【0035】
(液体20)
液体20は、樹脂組成物15が該液体に対して不溶性であり、光源135,137から放射される光と同じ波長の光に対して透光性(好ましくは透過率50%以上、より好ましくは70%以上)を有するものであれば、特に限定されない。液体20は、水、フッ素系不活性液体のほか、液体パラフィン、シリコーンオイルなどを用いることができる。
【0036】
(支持部110)
支持部110は、被照射体10を支持可能なものであれば、特に限定されない。支持部110は、被照射体10を載置する台座の形態のほか、被照射体10を挟持又は係止するなど固定具の形態でもよい。また、支持部110は、回転、スライド、昇降、振動などの動作が可能であってもよい。
【0037】
(液体供給部120)
液体供給部120は、液体20を収容しておく容器、及び/又は液体20を樹脂組成物15上に供給する吐出器又は噴霧器、任意に上記温度調節器125などを備える。液体供給部120による、液体20の樹脂組成物15上への供給方法は、例えば樹脂組成物15上に液体20をカーテンフローコータなどにより吐出(塗布)する方式、水槽などに液体20を溜めてその液体20中に被照射体10(樹脂組成物15)を浸漬する方式などが挙げられる。
【0038】
(光源部130)
光源部130は、樹脂組成物15を硬化させる光を放射する光源135,137を備える。光源部130は、支持部110と同様に回転、スライド、昇降、振動などの動作が可能であってもよいし、レンズ、ミラー、フィルタ、マスク、拡散板などの光学系を備えていてもよい。光源135,137は、ピーク波長が紫外域にあるものが好ましいが、紫色光(例えば波長405nm)など、樹脂組成物15の硬化に寄与すれば、ピーク波長が可視域にあるものを用いてもよい。光源135,137となる半導体素子は、発光ダイオード(LED)素子のほか、半導体レーザ(LD)素子でもよい。発光ダイオード素子は、比較的広い照射面積を得るのに好適である。逆に、半導体レーザ素子は、微小な樹脂組成物の硬化物の形成に好適であり、またスペクトル線幅が極めて狭いため樹脂組成物15の硬化の進行を高精度に制御しやすい。
【0039】
(制御部140)
制御部140は、支持部110、液体供給部120、光源部130、及び液体回収部150に電気的に接続されている。制御部140は、例えば支持部110の移動、液体供給部120の液体20の樹脂組成物15上への供給、光源部130の樹脂組成物15への光照射、液体回収部150の液体20の回収、の各操作及び駆動を制御することができる。また、制御部140は、プログラミングにより、これら各部の操作及び駆動を自動的に行うことができる。制御部140は、各部への指示情報及び各部からの取得情報の送受信など総合的に制御を担う電子計算機、各部を駆動させるドライバ、そのドライバに電力を供給する電源など、を備える。制御部140は、例えば各部の平面方向の位置制御においては、ベルトコンベア又はローラなどを有する支持部110を液体供給部120、光源部130、及び液体回収部150に対して相対的に移動させたり、スライド機構(リニアガイドとモータ)などを用いて液体供給部120、光源部130、及び液体回収部150を支持部110に対して相対的に移動させたり、することができる。
【0040】
(液体回収部150)
液体回収部150は、使用済みの液体20を吸引する吸引器、及び不純物を取り除く浄化槽などを備える。液体回収部150は、浄化後の液体20を液体供給部120に送るために、液体供給部120と配管で接続されていることが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明に係る実施例について詳述する。なお、本発明は以下に示す実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0042】
本発明の光硬化性樹脂組成物の硬化方法を以下のように評価する。
<実施例1>
試料は、ガラス板の基材上に、厚さ100μm程度の上塗り用紫外線硬化型塗料(市販品;塗料1:木材用、塗料2:浴室用)を塗布したものを用いる。一次照射(予備硬化)は、NKワークス社製UV−LEDランプ(ピーク波長385nm、照度1400mW/cm)を光源として、大気中、積算光量3300mJ/cm×2回にて行う。二次照射(本硬化)は、日亜化学社製UV−LEDランプ(ピーク波長385nm、照度500mW/cm)を光源として、温度60〜80℃に加熱した湯(水道水)中に試料を浸漬して、積算光量1000mJ/cmにて行う。
【0043】
<比較例1>
比較例1は、二次照射を、水(未処理の水道水、温度20℃程度)中に試料を浸漬して行うこと以外は、実施例1と同様である。
【0044】
<比較例2>
比較例2は、二次照射を大気中にて行うこと以外は、実施例1と同様である。
【0045】
<評価>
実施例1、比較例1及び2の硬化処理後の塗膜について、乾燥性、爪での引っ掻き試験、硬度を其々評価する。評価結果を表1に示す。乾燥性は、×…指触未満、○…指触以上で表す。爪での引っ掻き試験は、×…キズあり、○…キズなしで表す。硬度(鉛筆硬度)は、塗膜表面硬度/破壊強度で表す。表1に示すように、実施例1の硬化方法は、比較例1及び2の硬化方法に比べて、塗膜の優れた硬化性が得られることを確認できる。
【0046】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の光硬化性樹脂組成物の硬化方法及び硬化装置は、配線基板の各種レジスト、繊維強化プラスチック、フローリングなど木材の塗装、PETフィルムなどプラスチック素材の塗装、ハードコート塗装などに利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10…被照射体(11…基材、15…光硬化性樹脂組成物)
20…液体
100…光硬化性樹脂組成物硬化装置
110…支持部
120…液体供給部(125…温度調節器)
130…光源部(135…光源(第2光源)、137…第1光源)
140…制御部
150…液体回収部
図1