【課題】高速で移動する対象を撮影する場合であっても、また、高速で移動する本装置から対象を撮影する場合であっても、モーションブラーを低減して高精度かつ高感度で撮影することができる間歇的トラッキング撮影装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る間歇的トラッキング撮影装置は、所定のフレームレートで撮影対象を撮影するイメージセンサと、前記撮影対象と前記イメージセンサとの相対的位置関係を変更する変更手段と、フレーム内のシャッタ開放時には、前記撮影対象をトラッキングすることにより、前記撮影対象の移動又は本装置の移動に伴って生じる前記相対位置関係の変化を抑制し、前記フレーム内のシャッタ閉鎖時には、前記相対位置関係を所定のホームポジションに戻すように、前記変更手段をフレーム毎に制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
前記変更手段は、前記イメージセンサの位置又は角度を変更するアクチュエータ、或いは、前記イメージセンサへ入射する光の光路位置又は光路角度を変更する光路変更手段、である、
ことを特徴とする請求項1に記載の間歇的トラッキング撮影装置。
前記制御部は、前記シャッタ開放時に前記撮影対象をトラッキングする第1のフレーム処理と、前記シャッタ開放時においても前記相対位置関係を前記ホームポジションに維持する第2のフレーム処理とを、時分割で行う、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の間歇的トラッキング撮影装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る間歇的トラッキング撮影装置1の応用例を説明する図である。
【0013】
図1(a)は、例えば、時速300kmで移動する高速移動体(新幹線等)から、トンネル内壁のクラック等の接近した撮影対象を撮影する場面に間歇的トラッキング撮影装置1を応用する例を示す。時速300kmは、83m/s、或いは83mm/msの速度に該当する。シャッタの開放時間を0.1msと仮定したとしても、この間の移動量は画素ピッチに比べてはるかに大きく、その結果大きなモーションブラーが発生する。したがって、トンネル内壁のクラック等を、従来の撮影装置で撮影した画像を用いて検査するのは事実上困難である。このため、例えば、夜間等に交通を一時的に遮断し、車両をゆっくり走らせながら、或いは移動と停止を繰り返しながら、道路、或いは鉄道のトンネル等を検査せざるを得ず、膨大な時間とコストを要することになる。
【0014】
このような場面において、実施形態の間歇的トラッキング撮影装置1を応用すれば、高速で移動する車両に搭載した状態でもモーションブラーの無い画像が得られる。このため、交通を閉鎖することなく、道路や鉄道のトンネル、或いは周辺設備のインフラ検査が可能となる。
【0015】
図1(b)は、例えば流路径が50〜80μmのマイクロ流路内を流れる細胞を、顕微鏡型の撮影装置で撮影する場面に間歇的トラッキング撮影装置1を応用する例を示す。近年、再生医療等の分野において、細胞を検査し分類する技術の重要性が高まっている。このような検査において、マイクロ流路内を流れる細胞を撮影した画像から個々の細胞の形状を認識したいというニーズがある。マイクロ流路を流れる細胞の流速が、例えば1m/sであったとしても、細胞の形状が認識できる程度に顕微鏡で拡大すると画素ピッチに対する移動速度は大きく、従来の撮影装置ではモーションブラーが発生し、細胞形状を明瞭に認識することは困難である。このような場面に実施形態の間歇的トラッキング撮影装置1を応用すれば、細胞がマイクロ流路内を流れている状態で細胞の形状等をモーションブラーなく撮影することができる。この結果、例えば、大量の細胞の中から細胞の良否を短時間で判定することができ、細胞の検査を高スループットで実施することが可能となる。
【0016】
上記は単なる一例であり、高速で移動する対象を撮影する場合や、高速移動体に本装置を搭載する場合であれば、本発明の実施形態に係る間歇的トラッキング撮影装置1を適用して、モーションブラーなく明瞭な画像を得ることができる。また、民生用のビデオカメラ等に本装置を適用して、手ぶれを防止する共に、ゴルフのスウィングや、高速で移動する車両を所望の輝度で、かつ、モーションブラーなく撮影することができる。
【0017】
(1)第1の実施形態
図2は、第1の実施形態に係る間歇的トラッキング撮影装置1の構成例を示すブロック図である。
図2では、図の左上に黒丸で示した高速移動目標(撮影対象)を、間歇的トラッキング撮影装置1で撮影する様子を示している。これとは逆に、固定の目標(撮影対象)を、高速移動体に搭載された間歇的トラッキング撮影装置1で撮影する場合にも、間歇的トラッキング撮影装置1の構成は
図2のブロック図に示すものと同じである。また、撮影対象と間歇的トラッキング撮影装置1の双方が移動する場合にも、
図2のブロック図と同じ構成となる。
【0018】
間歇的トラッキング撮影装置1は、イメージセンサ10、アクチュエータ20(変更手段20)、画像生成部30、速度算出部40、及び制御部50を有する。また、制御部50は、位置制御部(1)51、位置制御部(2)52、切り換えスイッチ53、及びシャッタ制御部54を有する。
【0019】
イメージセンサ10は、例えばCMOSイメージセンサ或いはCCDイメージセンサであり、複数の画素が面アレイ状に配列されている。イメージセンサ10のフレームレートは特に限定するものではないが、高速移動体を高い時間分解能で撮影する観点からは、より高速のイメージセンサ10が好ましい。なお、
図2では、イメージセンサ10の前側(目標側)に設置されるレンズ等の光学系の図示を省略している。
【0020】
シャッタ制御部54からイメージセンサ10に対してシャッタ制御信号が入力される。シャッタ制御信号は、フレームレートを制御するタイミング信号や、フレーム内のシャッタ開放時間とシャッタ閉鎖時間とを定めるタイミング信号である。例えば、フレーム制御信号がオンときイメージセンサ10のシャッタ(電子シャッタ)を開放し、フレーム制御信号がオフのときイメージセンサ10のシャッタ(電子シャッタ)を閉鎖する。
【0021】
変更手段20は、撮影対象とイメージセンサ10との相対的位置関係を変更する。
図2に示す第1の実施形態では、変更手段20はイメージセンサ10の位置を変化させるアクチュエータ10であり、例えばピエゾアクチュエータとして構成される。アクチュエータ10に対する制御信号(制御電圧)は、制御部50から供給される。また、アクチュエータ20からは、イメージセンサ10の現在の位置を示す信号(イメージセンサ位置)が制御部50に対して出力される。
【0022】
画像生成部30は、イメージセンサ10から出力される画素信号に基づいて、撮影対象を撮影した画像をフレーム毎に生成する。
【0023】
速度算出部40は、フレーム毎の画像を用いて、イメージセンサ10で撮影した撮影対象の位置の変化から、撮影対象とイメージセンサ10との相対的な運動速度を算出する。速度算出部40の具体的な動作については後述する。
【0024】
制御部50は、フレーム内のシャッタ開放時には、撮影対象にトラッキングさせることにより、撮影対象の移動又は本装置の移動に伴って生じる相対位置関係の変化を抑制し、フレーム内のシャッタ閉鎖時には、相対位置関係を所定のホームポジションに戻すように、アクチュエータ20(変更手段20)をフレーム毎に制御する。
【0025】
例えば、制御部50は、シャッタ開放時にアクチュエータ20の位置を制御する第1のフィードバック制御ループと、シャッタの閉鎖時にアクチュエータ20の位置を制御する第2のフィードバック制御ループを有している。第1のフィードバック制御ループには位置制御部(1)51が含まれており、第2のフィードバック制御ループには位置制御部(2)52が含まれている。
【0026】
第1のフィードバック制御ループでは、速度算出部40で算出された撮影対象とイメージセンサ10との相対的な運動速度が、速度ゼロ(目標値)となるように、アクチュエータ20の位置を制御する。具体的には、シャッタ開放時に切り換えスイッチ53を位置制御部(1)51側に切り換え、位置制御部(1)51から出力されるアクチュエータ駆動信号をアクチュエータ20に供給する。第1のフィードバック制御により、イメージセンサ10が撮影対象をトラッキングする。
【0027】
一方、第2のフィードバック制御ループでは、シャッタ閉鎖時にイメージセンサ10の位置が所定のホームポジション(初期位置)に戻るように、アクチュエータ20を制御する。このために、シャッタ閉鎖時に、切り換えスイッチ53を位置制御部(2)52側に切り換え、位置制御部(2)52から出力されるアクチュエータ駆動信号をアクチュエータ20に供給する。
【0028】
このように、実施形態の間歇的トラッキング撮影装置1では、シャッタ開放時には撮影目標をトラッキングし、シャッタ遮蔽時はトラッキングを行うことなくイメージセンサをホームポジションに戻している。つまり、トラッキングを間歇的に行っている。この点において、イメージセンサの向き(或いは撮影カメラの向き)を移動目標に常時指向させて連続的にトラッキングする従来の手法とは大きく異なっている。
【0029】
撮影対象とイメージセンサ10との相対的な運動が2次元的な動き(視線方向に直交する面内(例えばXY面内)おける2次元的な動き)として想定される場合は、アクチュエータ20は、イメージセンサ10をXY面内に2次元的に移動できるように構成される。一方、撮影対象とイメージセンサ10との相対的な運動が1次元な動きとして想定さる場合には(例えば、
図1(b)のようにマイクロ流路内を1方向に流れる細胞を撮影するような場面には)、アクチュエータ20を、該当する1方向に対してのみイメージセンサ10を移動できるように構成してもよい。
【0030】
また、イメージセンサ10を、視線方向に直交する面内で並行移動させることに換えて、撮影対象に対するイメージセンサ10の視線方向を撮影対象にトラッキングさせるようにイメージセンサ10を回転移動させてもよい。
【0031】
図3は、本発明の実施形態に係る間歇的トラッキング撮影装置1との比較のため、従来の撮影装置におけるモーションブラーの発生状況を模式的に示す図である。
【0032】
図3の上段には、フレーム#N、フレーム#(N+1)、フレーム#(N+2)の3つのフレームに対して、シャッタ開放期間の開始時刻と終了時刻のそれぞれに対応するイメージセンサの位置を示している。各イメージセンサは、2次元のイメージセンサの上側面を上方から見た図として表しており、各イメージセンサの図の下側が目標に向かって左側(L)に対応し、図の上側が目標に向かって右側(R)に対応する。なお、
図3の上段左側の縦に並んだ複数の黒丸は、1つの高速移動目標が、左から右に向かって移動する様子を示している。
【0033】
図3の中段に示す図は、横軸が時間、縦軸がイメージセンサの位置を表わすグラフを、フレーム#N、フレーム#(N+1)、フレーム#(N+2)の3つのフレームに対して示すものである。従来の撮影装置は、イメージセンサの位置は固定であるため、イメージセンサの位置はどの時刻においてもホームポジションにある。なお、フレームタイムはどのフレームにおいても一定である。また、フレーム内のシャッタ開放時間とシャッタ閉鎖時間との比率もどのフレームにおいても一定としている。
【0034】
図3の下段には、フレーム#N、フレーム#(N+1)、フレーム#(N+2)の夫々のフレームで得られる画像を模式的に示す図である。
【0035】
図3の上段の図からわかるように、高速移動目標は、フレーム内のシャッタ開放時間の間にも当然移動する。例えば、フレーム#Nのシャッタ開放期間の開始時刻から終了時刻の間に、位置P1からP2に移動する。そして、この移動距離が、イメージセンサの画素に換算したときに複数の画素に亘るとき、モーションブラーが発生する。
【0036】
図3の下段に示すように、モーションブラーは、フレーム#N、フレーム#(N+1)、フレーム#(N+2)のどのフレームでも発生する。その結果、各フレームで得られる画像は、元々円形(黒丸)であった目標の形状が、移動方向に伸びた(今の例では左から右に伸びた)、ぼけた画像となる。
【0037】
これに対して、
図4は、本発明の実施形態に係る間歇的トラッキング撮影装置1によって、同様の高速移動目標に対してもモーションブラーが抑制できることを模式的に示す図である。
【0038】
図4の上段は、
図3の上段と同様に、フレーム#N、フレーム#(N+1)、フレーム#(N+2)の3つのフレームに対して、シャッタ開放期間の開始時刻と終了時刻のそれぞれに対応するイメージセンサ10の位置を示している。
【0039】
図4の中段に示す図は、
図3の中段と同様に、横軸が時間、縦軸がイメージセンサの位置を表わすグラフを、フレーム#N、フレーム#(N+1)、フレーム#(N+2)の3つのフレームに対して示すものである。前述したように、本発明の実施形態に係る間歇的トラッキング撮影装置1は、シャッタ開放時において、第1のフィードバック制御ループによって撮影対象とイメージセンサ10との相対的な運動速度が、速度ゼロ(目標値)となるように、アクチュエータ20の位置を制御している。したがって、目標が一定速度で移動している場合には、イメージセンサ10を一定速度で移動させるようにアクチュエータ20を制御する。この結果、シャッタ開放時には、イメージセンサ10の位置は、直線状に変化し、移動目標をトラッキングする。
【0040】
一方、シャッタ閉鎖時には、イメージセンサ10の位置がホームポジションに戻るように第2のフィードバック制御ループが働く。この結果、シャッタが閉鎖されると、イメージセンサ10の位置はホームポジションに向かって移動し、ホームポジションに達するとその位置を保持する。そして、次のシャッタ開放時には、第1のフィードバック制御ループにより、目標の動きに応じてイメージセンサ10の位置が変化し、移動目標をトラッキングする。この結果、目標が一定の速度で移動する場合、イメージセンサ10の位置は、
図4の中段に示すように鋸歯状の動きを示す。
【0041】
上記の動作により、高速移動目標が、例えば、フレーム#Nのシャッタ開放期間の開始時刻から終了時刻の間に、位置P1からP2に移動したとしても、この動きに追随してイメージセンサ10の位置も移動する。この結果、イメージセンサ10上では、シャッタ開放期間の開始から終了までの間、常に同じ画素が目標を捉え続けることになり、モーションブラーが発生しない。そして、上記のトラッキング動作は、それぞれのフレームのシャッタ開放期間に行われるため、どのフレームにおいても、モーションブラーの無い鮮明な画像が得られる。例えば、
図3と同じ高速移動目標(黒丸で示す円形目標)を撮影する場合にも、
図4下段に示すように、各フレームにおいて、モーションブラーの無い画像が得られる。その結果、各フレーム画像において目標の形状を正確に認識することができる。また、各フレーム画像を連続再生することにより、目標の形状が正確に維持された動画を提供することができる。
【0042】
なお、
図4の下段に示す画像の例では、説明の便宜上、隣接するフレーム間での目標(黒丸)の位置の差を大きくしているが、これは時間分解能の問題であり、フレームレートを上げることにより、時間分解能を高めることができる。つまり、実施形態の間歇的トラッキング撮影装置1を高いフレームレートで動作させることにより、滑らかな動きで、かつ1つ1つのフレームにモーションブラーの無い動画を得ることができる。
【0043】
ここで、速度算出部40が行う速度算出方法の一例を説明する。
【0044】
今、画像生成部30から速度算出部40に入力される入力画像を、I(X, Y, t)と表記する。ここで、X, Yは画素位置であり、tは時間である。この入力画像を、閾値値θで二値化する。二値化画像をB(X, Y, t)とすると、二値化画像は、
【数1】
で表される。
【0045】
次に、この二値化画像B(X, Y, t)の、0次、1次モーメント特徴を計算する。0次、1次モーメント特徴M
mn(t)は、次の(式2)で表される。
【数2】
【0046】
次に、(式2)のモーメント特徴に基づいて、重心位置c(t)を次の(式3)で計算する。
【数3】
【0047】
次に、時刻tでの重心位置c(t)と、1フレーム前の時刻(t−τ)での重心位置c(t−τ)に基づいて、撮影対象とイメージセンサ10との相対的な運動速度v(t)を、次の(式4)によって算出する。
【数4】
【0048】
上記のように速度算出部40で算出された運動速度v(t)は、フレーム毎に制御部50の第1のフィードバック制御ループに提供される。上記の運動速度の算出方法はあくまで一例であり、これ以外の公知の算出方法を用いても良い。
【0049】
(2)第1の実施形態の変形例
図5は、第1の実施形態の第1の変形例に係る間歇的トラッキング撮影装置1bの構成例を示すブロック図である。第1の実施形態(
図2)との相違点は、速度算出部40に換えて、エッジ強度算出部60を有している点である。エッジ強度算出部60は、画像生成部30で生成された撮影対象の画像から、撮影対象のエッジ強度を算出する。モーションブラーが大きいと撮影対象の形状はぼけるため、そのエッジ強度は小さくなる。逆に、モーションブラーが小さいと撮影対象の形状は鮮明になり、そのエッジ強度は大きくなる。そこで、第1の実施形態の第1の変形例では、エッジ強度が最大となるように、つまり、モーションブラーが小さくなるように、イメージセンサ10の位置をアクチュエータ20で制御する。そのために、算出されたエッジ強度は制御部150の第1のフィードバック制御ループに提供され、所定のエッジ強度最大値と比較される。そして、算出されたエッジ強度がエッジ強度最大値となるように、シャッタ開放時のイメージセンサ10の位置を制御すべくアクチュエータ20を駆動する。なお、第2のフィードバック制御ループの制御に関しては、第1の実施形態と同じである。
【0050】
運動速度を用いる第1の実施形態と、エッジ強度を用いる第1の変形例とを組み合わせても良い。この場合、速度算出部40で算出された運動速度と、エッジ強度算出部60で算出されたエッジ強度の両方のパラメータを用いて第1のフィードバック制御ループを制御する。
【0051】
図6は、第1の実施形態の第2の変形例に係る間歇的トラッキング撮影装置1cの構成例を示すブロック図である。第1の実施形態(
図2)との相違点は、速度算出部40に換えて、入力部70を有している点である。第2の変形例では、第1のフィードバック制御ループで用いる運動速度を、撮影対象の画像からではなく、入力部70を介して外部から入力する。間歇的トラッキング撮影装置1cが車両等の高速移動体に搭載され、この間歇的トラッキング撮影装置1cによって車両周辺の固定の撮影対象を撮影するような場合、撮影対象とイメージセンサ10との相対的な運動速度は、搭載車両の移動速度から求めることができる。第2の変形例では、画像から運動速度を求める処理が不要となるため、全体としての処理が簡素化される。
【0052】
ここまでは、撮影対象とイメージセンサ10との相対的位置関係を変更する変更手段として、イメージセンサ10自体を、並行移動、或いは回転移動させるアクチュエータ20を例として説明した(
図7(a))。しかしながら、相対的位置関係を変更する変更手段は、イメージセンサ10自体を移動させるアクチュエータ20に限定されない。例えば、イメージセンサ10へ入射する光の光路位置又は光路角度を変更する光路変更手段であってもよい。例えば、
図7(b)に示すように、撮影対象とイメージセンサ10との間に変更手段としてのガルバノミラー20bを設置し、ガルバノミラー20bの回転角度を制御することにより、イメージセンサ10へ入射する光の光路位置又は光路角度を変更して、撮影対象とイメージセンサ10との相対的位置関係を変更してもよい。
【0053】
また、例えば、間歇的トラッキング撮影装置1を顕微鏡型撮影装置として構成するような場合には、
図7(c)に示すように、対物レンズの位置をアクチュエータ20cで移動させることにより、イメージセンサ10へ入射する光の光路位置又は光路角度を変更してもよい。
【0054】
(3)第2の実施形態
前述した第1の実施形態に係る間歇的トラッキング撮影装置1では、
図4の中段に示すように、総てのフレームのシャッタ開放時において、撮影対象をトラッキングする処理を行っている。撮影対象が、背景の中を移動する孤立した高速移動目標の場合、第1の実施形態に係る間歇的トラッキング撮影装置1によって、この高速移動目標のモーションブラーを抑制することができる。しかしながら、この場合、背景の画像には逆にモーションブラーが発生し、ぼけた背景画像の中にモーションブラーの無い高速移動目標が撮影される画像となる。撮影の目的によっては、このような画像の方が好ましい場合があるが、その一方で、背景と高速移動目標の両方ともモーションブラーのない画像が要望される場合もある。第2の実施形態に係る間歇的トラッキング撮影装置1dは、このような要望に応えるものである。
【0055】
図8は、第2の実施形態に係る間歇的トラッキング撮影装置1dの動作概念を示すものである。具体的には、間歇的トラッキング撮影装置1dでは、シャッタ開放時に撮影対象をトラッキングする第1のフレーム処理と、シャッタ開放時においても相対位置関係をホームポジションに維持してトラッキングを行わない第2のフレーム処理とを、時分割で行う。例えば、
図8に示すように、偶数フレーム(フレーム#N、フレーム#(N+2)、フレーム#(N+4)等)には撮影対象をトラッキングし、奇数フレーム(フレーム#(N+1)、フレーム#(N+3)、フレーム#(N+5)等)には撮影対象をトラッキングしないものとする。そして、偶数フレームの画像のみを抽出すれば、移動目標に対してモーションブラーの無いフレーム画像群が得られる。また、奇数フレームの画像のみを抽出すれば、背景に対してモーションブラーの無いフレーム画像群が得られる。
【0056】
さらに、偶数フレームの画像群から移動目標の領域のみを抽出し、抽出した移動目標を奇数フレームの画像群にそれぞれ合成することにより、移動目標と背景の両方に対してモーションブラーのない画像を生成することも可能である。
【0057】
なお、第2の実施形態に係る間歇的トラッキング撮影装置1dは、制御部50の処理タイミングが第1の実施形態と異なるが、その構成自体は第1の実施形態(
図2)と同じであるため、ブロック図の図示は省略する。
【0058】
(4)第3の実施形態
図9は、第3の実施形態に係る間歇的トラッキング撮影装置1eの構成例を示すブロック図である。第3の実施形態の間歇的トラッキング撮影装置1eは、第1の実施形態の構成に加えて、輝度算出部80と露光制御部90をさらに備える。輝度算出部80は、イメージセンサ10で撮影した撮影対象の画像の輝度を算出する。また、露光制御部90は、フレーム時間内におけるシャッタ開放時間とシャッタ閉鎖時間との比率を、算出した輝度に応じてフレーム毎に変化させることによって露光制御する。
【0059】
輝度算出の方法自体は特に限定するものでない。例えば、撮影対象のフレーム画像からフレーム毎の輝度ヒストグラムを輝度算出部80で算出する。露光制御部90では、規準輝度ヒストグラムと、算出されたフレーム毎の輝度ヒストグラムを比較し、両者の差異の大きさを表わす指標を算出する。そして、算出されたフレーム毎の輝度ヒストグラムが規準輝度ヒストグラムに近づくように、算出した指標に基づいて、フレーム時間内におけるシャッタ開放時間とシャッタ閉鎖時間との比率を決定する。そして、この比率とフレーム時間とから、シャッタ開放時間とシャッタ閉鎖時間とをフレーム毎に決定して、シャッタ制御部54に出力する。
【0060】
図10は、第3の実施形態に係る間歇的トラッキング撮影装置1eの動作概念を示すものである。第3の実施形態で行う露光制御は、フレーム時間自体は一定としつつ、フレーム時間内におけるシャッタ開放時間とシャッタ閉鎖時間との比率を変更することによって露光制御する。例えば、撮影対象が急に明るくなった場合には、
図10のフレーム#(N+1)やフレーム#(N+2)のように、シャッタ開放時間を短くしシャッタ閉鎖時間を長くする。逆に、撮影対象が急に暗くなった場合には、
図10のフレーム#(N+3)乃至フレーム#(N+5)のように、シャッタ開放時間を長くしシャッタ閉鎖時間を短くする。
【0061】
第3の実施形態の間歇的トラッキング撮影装置1eでは、上記の露光制御と、既に説明した撮影対象に対するトラッキングとを同時に実施する。この結果、例えば、明るく、かつ移動速度の遅い撮影対象に対しては、
図10のフレーム#N乃至フレーム#(N+2)のように、露光時間(シャッタ開放時間)は短くなり、トラッキング速度(或いはイメージセンサの移動量)は小さくなる。逆に、例えば、暗く、かつ移動速度の速い撮影対象に対しては、
図10のフレーム#(N+3)乃至フレーム#(N+5)のように、露光時間(シャッタ開放時間)は長くなり、トラッキング速度(或いはイメージセンサの移動量)は大きくなる。
【0062】
(5)検証実験
前述した実施形態の間歇的トラッキング撮影装置1の効果を確認するために、プロトタイプを制作して検証実験を行った。
図11(a)は、プロトタイプ100の構成を示す図である。
【0063】
プロトタイプ100は、顕微鏡型の間歇的トラッキング撮影装置1を模擬したものである。プロトタイプ100は、顕微鏡101、高速度カメラ102、制御用PC103、DAボード104、ピエゾドライバ105、ピエゾステージ106、及びリニアスライダ107で構成した。
【0064】
撮影対象として、
図11(b)に示す直径50マイクロメートルの微小な黒丸をその上に描いたスライドグラスAと、
図11(c)に示す縦100マイクロメートル、横200マイクロメートルの微小な猫のイラストをその上に描いたスライドグラスBの2種類を用いた。
【0065】
図7(c)に示す顕微鏡型撮影装置の構成では、対物レンズの位置をアクチュエータで変更するようにしているが、検証実験では、顕微鏡101の対物レンズは固定とし、撮影対象であるスライドグラスA、Bの位置をピエゾステージ106でフィードバック制御する構成とした。そして、ピエゾステージ106をリニアスライダ107の上に固定し、リニアスライダ107を、図示しない駆動装置で、1方向に定速で移動させるケースと、リニアスライダ107を手動で移動させるケースの2ケースで検証実験を行った。
【0066】
高速度カメラ102には、512×512画素、画素ピッチ10×10μmのイメージセンサが搭載されている。検証実験で用いた顕微鏡101の対物レンズは倍率10倍のものを使用した。この場合、撮影対象であるスライドグラスA、B上のパターンの1μmが、イメージセンサの1画素の大きさに該当することになる。
【0067】
高速度カメラ102のフレームレートは、最大2000fpsまで設定可能であるが、検証実験では、フレームレートを125fps、即ち、フレーム時間を8msに設定した。また、フレーム時間8msのうち、シャッタ開放時間を4msに設定し、シャッタ閉鎖時間を4msに設定した。
【0068】
高速度カメラ102から出力されるフレーム毎の画像に対して、制御用PCによって、(式1)乃至(式4)に示す演算を行って、撮影対象の運動速度v(t)を算出した。さらに、運動速度v(t)から、
図2の位置制御部(1)51の出力に該当する、ピエゾステージ106に対する移動量(制御量)を算出した。算出した移動量は、DAボード104でアナログ量に変換し、ピエゾドライバ105を介してピエゾステージ106に印加した。
【0069】
図12は、微小黒丸(スライドグラスA)を撮影対象とした検証実験の結果の一例を示す図である。
図12(a)は撮影対象を再掲したものであり
図11(b)と同じものである。
【0070】
図12(b)及び
図12(c)は、スライドグラスA(撮影対象)の位置を制御するピエゾステージ106をリニアスライダ107に固定し、このリニアスライダ107を一定速度で移動させ、移動中にスライドグラスA(撮影対象)を撮影した画像である。移動方向は、
図12(b)、(c)において左から右である。また、移動速度は、0mm/s、1mm/s、・・・、14mm/sと、1mm/sずつ異なる速度に設定して実験を行った。
図12(b)、(c)は、このうち、12mm/sの速度に設定した実験で得られた画像を示している。
【0071】
図12(b)が、本発明の間歇的トラッキングを行って撮影した画像である。
図12(c)は、本発明との比較のために、間歇的トラッキングなしで撮影した画像である。
図12(b)、(c)からわかるように、間歇的トラッキングなしで撮影した画像(
図12(c))には大きなモーションブラーが発生したのに対して、本発明の間歇的トラッキングを行って撮影した画像(
図12(b))では、モーションブラーが大幅に低減した。
【0072】
モーションブラーを定量的に示す指標として、モーションブラー係数(motion blur (pixel)を算出した。モーションブラー係数は、微小黒丸を含む二値化画像領域の0、1、2次モーメント特徴に基づいて、撮影画像の微小黒丸を楕円近似した場合の長軸と短軸の長さを算出し、長軸と短軸との差をピクセルの単位で表したものを、モーションブラー係数として定義した。モーションブラーが全くない場合には、モーションブラー係数はゼロとなる。
【0073】
図12(b)、(c)の隣に算出したモーションブラー係数を示す。間歇的トラッキングを行わないときのモーションブラー係数が22ピクセルと大きな値を示したのに対して、間歇的トラッキングを行った場合は、モーションブラー係数は5ピクセルまで減少した。
【0074】
図12(d)乃至及び
図12(f)は、リニアスライダ107を不規則な速度で移動させるべく、リニアスライダ107を手動で移動させて行った検証実験の結果を示すグラフである。
図12(d)は推定された速度、
図12(e)はピエゾステージ106に対する位置制御信号、
図12(f)は、評価用に算出したモーションブラー係数を表わす。横軸はいずれも時間である。
【0075】
図12(f)に示されるように、間歇的トラッキングを行った場合は、間歇的トラッキングを行わなかった場合に比べてモーションブラー係数は大幅に低減された。この結果から、間歇的トラッキングを行った場合は、撮影対象の速度が変化した場合でもモーションブラー係数は小さな値となり、また撮影対象の移動速度が未知で不規則な運動をする場合でも、モーションブラー係数を抑制できることがわかった。
【0076】
図13は、猫のイラスト(スライドグラスB)を撮影対象とした検証実験の結果の一例を示す図である。
図13(a)は撮影対象を再掲したものでありと
図11(c)同じものである。この検証実験では、
図12(d)乃至
図12(f)の結果を得たときと同様に、ピエゾステージ106が固定されたリニアスライダ107を手動で移動させた。また、間歇的トラッキングを行うフレームと、間歇的トラッキングを行わないフレームとを交互に行った。いずれも、フレーム時間自体は8msである。
【0077】
図13(b)が、間歇的トラッキングを行ったフレーム画像を時系列に配列したものであり、
図13(c)は、このうち、t=0032sの画像を拡大したものである。一方、13(d)が、間歇的トラッキングを行わなかったフレーム画像を時系列に配列したものであり、
図13(e)は、このうち、t=0040sの画像を拡大したものである。
【0078】
図13(b)乃至
図13(e)から明らかなように、間歇的トラッキングを行わなかった場合には大きなモーションブラーが発生しているのに対して、間歇的トラッキングを行った場合にはモーションブラーが抑制された。
【0079】
このように、上記の検証実験によっても、本発明による間歇的トラッキングによってモーションブラーが大幅に抑制されることが検証された。
【0080】
以上説明してきたように、本発明に係る間歇的トラッキング撮影装置によれば、高速で移動する対象を撮影する場合であっても、また、高速で移動する本装置から対象を撮影する場合であっても、モーションブラーを低減して高精度かつ高感度で撮影することができる。
【0081】
なお、本発明は上記の実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い。