【実施例】
【0032】
〔実施例1〕記憶学習試験
本実施例では、特定のmiRNAは、マウスの記憶学習能力が改善した場合に発現が減少することを示す。
1.実験方法について
(マウス)
老化促進マウスSAMP8及びSAMP8と同系統の老化抵抗マウスSAMR1を実験に用いた。
(ステップスルーテスト)
仕切ドアで仕切られた明室および暗室が通路で接続され、前記仕切ドアを開けるとマウスが明室と暗室との間で移動でき、マウスの四つの足が暗室に入った際にマウスに電気刺激が与えられる装置をステップスルーテストに使用した。
【0033】
ステップスルーテストでは、まず、仕切ドアを閉じた状態の装置の明室にマウスを入れ、装置の仕切ドアを開けた。ここで、仕切ドアを開けてからマウスが暗室で電気刺激を受けるまでの時間(以下、明室滞在時間とよぶ)を測定した。この結果を各図中「獲得試行」として示す。その後24時間が経過した後に、仕切ドアを閉じた装置の明室にマウスを戻し、仕切ドアを開けた。ここで、再度、明室滞在時間を測定した。この結果を各図中「再生試行」として示す。
((−)−エピガロカテキン−3−O−カフェオエイト:EGCCAの合成方法)
EGCCA(1)は次のように合成した。(−)−エピガロカテキン(EGC(2)、0.41mmol)をアセトニトリルに溶解し、トリエチルアミン(4.94mmol)と2−ニトロベンゼンスルホニルクロリド(NsCl、2.47mmol)を加え、塩化メチレンにより抽出し、濃縮後、シリカゲルに吸着させ、塩化メチレン/メタノール混合溶媒を用いて、5、7、3‘、4’、5‘−Ns−EGC(3)を収率90.6%(0.37mmol)で得た。引き続き、この化合物(0.30mmol)をアセトニトリルに溶解し、N、N−ジメチル−4−アミノピリジン(0.20mmol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(0.20mmol)および別途合成した3、4−Ns−カフェ酸(4)(0.36mmol)を加え、反応後、N、N−ジメチル−4−アミノピリジン(0.087mmol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(0.13mmol)および3、4−Ns−カフェ酸(0.095mmol)を加えてさらに反応させ、反応物を塩化メチレンにより抽出し、濃縮後、ODS−HPLCにより5,7,3’、4‘、5’、3“、4” −Ns−EGCCA(5)を収率62.2%(0.19mmol)で得た。
【0034】
<HPLCの条件>
カラム:Mightysil RP−18GP 20×250mm(粒子径:5μm)関東科学株式会社製
検出波長:210nm
流速:5.0mL/min
展開溶媒:24% H
2O+5%AcOH/MeCN+5%AcOH
引き続き、この化合物(0.14mmol)をアセトニトリルに溶解し、炭酸セシウム(0.013mol)と2−アミノチオフェノール(0.18mol)を加え、酢酸エチルにより抽出し、濃縮後、ODS−HPLCによりEGCCA(1)を収率38.7%(0.054 mmol)で得た。
【0035】
<HPLCの条件>
カラム:Mightysil RP−18GP 20×250mm(粒子径:5μm)関東科学株式会社製
検出波長:210nm
流速:5.0mL/min
展開溶媒: H
2O+5%AcOH/MeCN+5%AcOH
グラディエント:
得られたEGCCAは、
1H−NMRおよび
13C−NMRの測定、並びに、質量分析によって、目的物であると同定した。
【0036】
1H-NMR (500 MHz, CD
3OD): 2.81 (1H, dd, J = 17.4, 2.2 Hz), 2.95 (1H, dd, J = 17.4, 4.8 Hz), 4.93 (1H, bs), 5.44 (1H, m), 5.94 (1H, d, J = 2.4 Hz), 5.96 (1H, d, J = 2.4 Hz), 6.17 (1H, d, J = 15.8 Hz), 6.49 (2H, s), 6.72 (1H, d, J = 8.2 Hz), 6.89 (1H, dd, J = 8.2, 1.9 Hz), 6.98 (1H, d, J = 1.9 Hz), 7.41 (1H, d, J = 15.8 Hz);
13C-NMR (125 MHz, CD
3OD): 26.7, 69.8, 78.4, 95.8, 96.5, 99.4, 106.8 (2C), 115.1, 115.2, 116.4, 123.1, 127.8, 130.7, 133.8, 146.6, 146.7 (2C), 147.2, 149.4, 157.1, 157.8, 157.9, 168.6.
MS(ESI) :m/z : 467.6 (M
-)
2.認知症症状とmiRNAの発現レベルについて
28週齢のSAMR1及びSAMP8の記憶学習能力を示す。SAMR1及びSAMP8に対するステップスルーテストの結果を
図1に示す。
【0037】
図1に示すように、SAMR1の再生試行の明室滞在時間は、SAMP8の再生試行の明室滞在時間と比較して有意に長く、SAMP8は認知症症状を示す。
【0038】
次に、SAMR1及びSAMP8から海馬組織を採取した。そして、海馬組織をRNAlaterで1晩インキュベートして−80度で保存した。そして、miRNeasy Mini Kit(Qiagen社)を用いてトータルRNAを抽出した。
【0039】
次に、各試料中のmiRNAの発現レベルをExiqon社、miRCURY LNA
TM microRNA Array Kitを用いて測定し、各試料間の同一のmiRNAの発現レベルについて、比較解析を行った。その結果、mmu-miR-29b-3p、mmu-miR-1983、mmu-let-7f-5p、mmu-miR-207、mmu-miR-122-5p、mmu-miR-1186b、mmu-miR-5097、及びmmu-miR-98-5pは、SAMR1の海馬組織における発現レベルと比較して、SAMP8の海馬組織における発現レベルが有意に高かった(Fold change>1.25、p<0.05、ANOVA)。このように、mmu-miR-29b-3p、mmu-miR-1983、mmu-let-7f-5p、mmu-miR-207、mmu-miR-122-5p、mmu-miR-1186b、mmu-miR-5097、及びmmu-miR-98-5pの発現レベルは、認知症症状の有無と相関している。
3.認知症症状の改善とmiRNAの発現レベルについて
4匹のSAMP8に対して10週齢から4ヶ月間0.12g/LのEGCCAを飲水投与した。その後、ステップスルーテストを行った。その結果を
図2に示す。
図2中、「SAMP8」はEGCCAを投与していないSAMP8の結果を示し、「SAMP8_EGCCA」はEGCCAを投与したSAMP8についての結果を示す。
図2に示されるように、EGCCAを投与していないSAMP8と比較して、EGCCAを投与したSAMP8の明室滞在時間は長くなり認知症症状が改善した。
【0040】
そこで、EGCCAを投与し、認知症状が改善したSAMP8と、EGCCAを投与せず、認知症状を有するSAMP8について、各miRNAの発現レベルを調べた。
【0041】
各マウスから海馬組織を摘出し、海馬組織をRNAlaterで1晩インキュベートして−80度で保存した。そして、miRNeasy Mini Kit(Qiagen社)を用いてトータルRNAを抽出した。
【0042】
各試料中のmiRNAの発現レベルをExiqon社、miRCURY LNA
TM microRNA Array Kitを用いて測定し、各試料間の同一のmiRNAの発現レベルについて比較解析を行った。表2に、EGCCAを投与し認知症状が改善したSAMP8から採取した試料中のmiRNAの発現レベルの、EGCCAを投与せず認知症状を有するSAMP8から採取した試料中のmiRNAの発現レベルに対する比(fold change)を示す。
【0043】
【表2】
表2に示されるように、認知症状が改善したSAMP8の海馬組織におけるmmu-miR-1983、mmu-let-7f-5p、mmu-miR-207、mmu-miR-122-5p、mmu-miR-1186b、mmu-miR-5097、mmu-miR-29b-3p、及びmmu-miR-98-5pの発現レベルは、認知症状を有するSAMP8の海馬組織におけるこれらのmiRNAの発現レベルと比較して、有意に低い(p<0.05、ANOVA)。
【0044】
このように、mmu-miR-1983、mmu-let-7f-5p、mmu-miR-207、mmu-miR-122-5p、mmu-miR-1186b、mmu-miR-5097、mmu-miR-29b-3p、及びmmu-miR-98-5p の発現レベルは、認知症症状の改善に伴い減少する。