【解決手段】(A)導電性フィラー、(B)エポキシ樹脂、(C)反応性希釈剤および(D)硬化剤を含み、(A)は1〜10μmの平均粒子径を有する銀粉であり、組成物の全体量に対して85〜94質量%の範囲であり、(B)は例えばビスフェノールF型エポキシ樹脂であり、組成物の全体量に対して1〜8質量%の範囲であり、(C)は例えば1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルであり、組成物の全体量に対して0.2〜5質量%の範囲であり、(D)は例えば4,4’−ジアミノジフェニルスルホンであり、組成物の全体量に対して0.2〜3質量%の範囲である熱伝導性導電性接着剤組成物。
前記(D)硬化剤との反応性を示さない(E)ゴム系樹脂を、前記接着剤組成物の全体量に対して0.2〜2質量%の範囲でさらに含有する請求項1に記載の熱伝導性導電性接着剤組成物。
熱伝導性導電性接着剤組成物中の前記(A)導電性フィラーを除いた組成物の回転式粘度計による回転数0.5rpmおよび5rpmの測定値より算出されるTI値(チクソトロピーインデックス)が、1〜3であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性導電性接着剤組成物。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化・高機能化された電子部品、例えば、パワーデバイスや発光ダイオード(LED)に対する需要が急速に拡大している。パワーデバイスは電力損失を抑え、電力変換を高効率に変換できる半導体素子として、電気自動車、ハイブリッド自動車、急速充電器等の分野で普及が進んでおり、また、太陽光発電システム、メガソーラーシステム等の新エネルギー分野においても需要の高まりが期待されている。
【0003】
一方、白熱電球に比べて長寿命、小型、低消費電力であるという利点を有するLED素子は、照明、携帯電話、液晶パネル、自動車、信号機、街灯、画像表示装置等の様々な分野で普及が急速に進んでいる。
【0004】
上記のような電子部品の小型化・高機能化が進展する中、半導体素子の発熱量は増大傾向にある。ところが、電子部品は、高温環境に長時間さらされると、本来の機能を発揮することができなくなり、また、寿命が低下することになる。そのため、通常、ダイボンディング用の接合材料(ダイボンド材)には、半導体素子から発生する熱を効率的に拡散させるために、高放熱性の接合材料が使用されている。用途にもよるが、通常、接合材料は、半導体素子から発生した熱を基板、筐体へ効率よく逃がす機能を有することが必要であり、高い放熱性が求められる。
【0005】
このように、電子部品に用いられる接合材料には、高い放熱性が求められることから、従来、鉛を多く含んだ高温鉛はんだや、金を多く含んだ金錫はんだが広く用いられてきた。しかし、高温鉛はんだは、人体に有害とされる鉛を含むという問題がある。そのため、最近では、鉛フリー化の技術開発が活発化しており、鉛フリーはんだへの切替えに関する研究が盛んに進められている。一方、金錫はんだは高価な金を含むため、コストの面で問題がある。
【0006】
このような状況を受け、近年、高温鉛はんだや金錫はんだに替わる有力な代替材料として、等方性導電性接着剤(以下、単に「導電性接着剤」と表記する。)が注目されている。導電性接着剤は、導電性等の機能をもつ金属粒子(例えば、銀、ニッケル、銅、アルミニウム、金)と接着機能をもつ有機接着剤(例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂)の複合体であり、多様な金属粒子および有機接着剤が用いられている。導電性接着剤は、室温で液体であるため使い勝手がよく、鉛フリーで低価格であることから、高温鉛はんだや金錫はんだの有力な代替材料であり、市場の大幅な拡大が予測されている。
【0007】
上述したように、はんだの代替材料としての導電性接着剤には、導電性と並んで高い放熱性が求められる。導電性接着剤の原料である有機接着剤は、基本的に金属に比べて熱伝導率が低いため、熱伝導性のフィラーを配合することで放熱性の機能を付与している。導電性接着剤の熱抵抗をいかにして小さくして、発生する熱を有効に逃がすかが、導電性接着剤の技術開発の焦点となっている。
【0008】
従来、熱伝導性を向上させた導電性接着剤については、例えば、特許文献1において、組成物中の固形分成分として、少なくとも、平均繊維径0.1〜30μm、アスペクト比2〜100、平均繊維長0.2〜200μm、真密度2.0〜2.5g/ccのピッチ系黒鉛化炭素繊維フィラー5〜80重量%と、平均粒径0.001〜30μmの金属微粒子フィラー15〜90重量%と、バインダ樹脂5〜50重量%を含んでなる高熱伝導性導電性組成物が提案されている。
【0009】
また、特許文献2では、基材樹脂としてエポキシ樹脂を、硬化剤としてフェノール系硬化剤を、可撓性付与剤としてウレタン変性エポキシ樹脂、さらに、熱伝導性充填剤として、金、銀、銅、鉄、アルミニウム、窒化アルミ、アルミナ、結晶性シリカ等の粉末を含む導電性組成物が提案されている。
【0010】
また、特許文献3においては、樹脂成分、高熱伝導性繊維状フィラー、および、銀、金、白金、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、および、カーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1種からなる高熱伝導性球状フィラーを含有する接着剤であって、前記樹脂成分100体積部に対し、前記高熱伝導性繊維状フィラーを0.1〜20体積部、前記高熱伝導性球状フィラーを10〜200体積部含有する接着剤が報告されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の熱伝導性導電性接着剤組成物(以下、単に「接着剤組成物」と表記する。)は、前述した(A)導電性フィラー、(B)エポキシ樹脂、(C)反応性希釈剤および(D)硬化剤を必須成分として含むものである。本発明の接着剤組成物では、(A)導電性フィラーのネッキングが促進され、加熱硬化中に、分散した導電性フィラー同士が融着して、熱を輸送する導電性フィラーのネットワークが十分に形成され、これにより高い放熱性を発現する。
【0017】
なお、本発明で使用する(A)導電性フィラーは、1〜10μmの平均粒子径を有する銀粉であるが、このようなミクロンオーダーの銀粉は、サブミクロンオーダー以下の銀粉に比べ銀粉間または銀粉内の空隙が多く表面が酸化され易いばかりか表面活性も低いという理由から、従来ネッキングの形成が不可とされていた。もしミクロンオーダーの銀粉の使用が可能となれば、ネッキングによる高い導電性と熱伝導性が得られ、またサブミクロンオーダー以下の銀粉に比べ接着剤の硬化後の収縮が抑制されるため被接着材料との高い密着性が得られるという点でとくに有利となる。また、このようなミクロンオーダーの銀粉のタップ密度は、4〜8g/cm
3であることが好ましい。タップ密度は、例えばJIS規格Z2512:2012の金属粉―タップ密度測定方法により測定され算出される。
【0018】
そこで本発明者は鋭意検討を重ねた結果、ミクロンオーダーの銀粉のネッキングの形成は、理由は定かではないが、特定の(B)エポキシ樹脂、(C)反応性希釈剤および(D)硬化剤の特定量を併用することにより可能となることを見いだした。このような見地は、従来技術には知られていない。
【0019】
以下、(A)導電性フィラー、(B)エポキシ樹脂、(C)反応性希釈剤および(D)硬化剤の各成分について詳細に説明する。
【0020】
(A)導電性フィラーには、ミクロンオーダー、すなわち、1〜10μmの平均粒子径を有する銀粉が使用される。銀粉の平均粒子径が10μmを超えると、銀粉間または銀粉内の空隙が大きくネッキングしても高い導電性は得られ難くなり好ましくない。銀粉の平均粒子径が1μm未満だと、接着剤の硬化後の収縮が抑制されなくなるため被接着材料との密着性が低下してしまう。さらに好ましい銀粉の平均粒子径は、1.5μm〜8μmである。なお、銀粉の平均粒子径はレーザー回折法により測定された値を意味する。
【0021】
本発明において、(A)導電性フィラーである銀粉の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分析計を用い測定された粒子径分布の50%平均粒子径(D50)とする。例えば、日機装株式会社製のレーザー回折・散乱式粒度分析計MT−3000を用い測定することができる。
【0022】
前記銀粉の形状は特に限定されず、球状、フレーク状、箔状、樹枝状等が挙げられるが、一般的にはフレーク状または球状が選択される。また、銀粉には、純銀粉のほか、銀で表面被覆された金属粒子、またはこれらの混合物を用いることができる。銀粉は、市販品を入手することができ、あるいは、公知の方法を用いて作製することができる。銀粉を作製する方法は特に制限されず、機械的粉砕法、還元法、電解法、気相法等任意である。
【0023】
(A)導電性フィラーである銀粉は、その表面がコーティング剤で被覆されていてもよい。例えばカルボン酸を含むコーティング剤が挙げられる。カルボン酸を含むコーティング剤を用いることによって、接着剤組成物の放熱性をより一層向上させることができる。
【0024】
前記コーティング剤に含まれるカルボン酸は特に限定されず、モノカルボン酸、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸等が挙げられる。
【0025】
前記モノカルボン酸として、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の炭素数1〜24の脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。また、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、エライジン酸、アラキドン酸、エルカ酸、ネルボン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の炭素数4〜24の不飽和脂肪族カルボン酸を用いてもよい。さらには、安息香酸、ナフトエ酸等の炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸等を用いることもできる。
【0026】
前記ポリカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の炭素数2〜10の脂肪族ポリカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ソルビン酸、テトラヒドロフタル酸等の炭素数4〜14の脂肪族不飽和ポリカルボン酸;フタル酸、トリメリット酸等の芳香族ポリカルボン酸等が挙げられる。
【0027】
前記オキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、乳酸、オキシ酪酸、グリセリン酸等の脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸;サリチル酸、オキシ安息香酸、没食子酸等の芳香族ヒドロキシモノカルボン酸;酒石酸、クエン酸、リンゴ酸等のヒドロキシポリカルボン酸等が挙げられる。
【0028】
前記銀粉の表面を処理するためのコーティング剤には、銀粉の凝集を低減させるため、炭素数が10以上の高級脂肪酸またはその誘導体を含めることができる。このような高級脂肪酸としては、ラウリル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リグノセリン酸が例示される。高級脂肪酸の誘導体として、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミドが例示される。
【0029】
前記コーティング剤に含まれるカルボン酸は前記カルボン酸の2種以上の混合物であってもよい。また、前述したカルボン酸のうち、炭素数12〜24の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸である高級脂肪酸が好ましい。
【0030】
前記銀粉の表面をコーティング剤で被覆するには、両者をミキサー中で撹拌、混練する方法、該銀粉にカルボン酸の溶液を含浸して溶剤を揮発させる方法等の公知の方法を利用して行えばよい。
【0031】
本発明の接着剤組成物においては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の導電性フィラーを併用することができる。そのような導電性フィラーとしては、導電性を有するものであれば特に限定はされないが、金属やカーボンナノチューブ等が好ましい。金属としては、一般的な導体として扱われる金属の粉末は全て利用することができる。例えば、ニッケル、銅、銀、金、アルミニウム、クロム、白金、パラジウム、タングステン、モリブデン等の単体、これら2種以上の金属からなる合金、これら金属のコーティング品、あるいはこれら金属の化合物で良好な導電性を有するもの等が挙げられる。
【0032】
(A)導電性フィラーは、接着剤組成物の全体量に対して85〜94質量%の範囲で含有される。(A)導電性フィラーの含有量が85質量%未満であると、ネッキング率の低下や接着剤の硬化後の収縮が抑制し難くなるため熱伝導性や導電性が低下し、被接着材料との密着性もが悪化し、逆に94質量%を超えると、ペースト状になり難く十分な被接着材料との密着性も悪化する。(A)導電性フィラーの好ましい含有量は88〜94質量%であり、さらに好ましい含有量は89〜93質量%である。
【0033】
(B)エポキシ樹脂は、1分子内に2個以上のエポキシ官能基および芳香環を有する化合物であり、液状エポキシ樹脂が用いられる。1種類だけ使用しても2種類以上を併用してもよい。このような液状エポキシ樹脂の具体例としては、エピクロルヒドリンとビスフェノール類等の多価フェノール類や多価アルコールとの縮合によって得られるもので、例えば、ビスフェノールA型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、ノボラック型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型、テトラフェニロールエタン型等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を例示することができる。その他、エピクロルヒドリンとフタル酸誘導体や脂肪酸等のカルボン酸との縮合によって得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、さらには様々な方法で変性したエポキシ樹脂を挙げられるが、これらに限定されるものではない。特には、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく用いられ、中でもビスフェノールA型、ビスフェノールF型のエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0034】
(B)エポキシ樹脂は、接着剤組成物の全体量に対して1〜8質量%の範囲で含有される。(B)エポキシ樹脂の含有量が1質量%未満であると、接着力が弱くなり、接続信頼性が低下する。逆に8質量%を超えると、導電性フィラーのネッキングによるネットワーク形成が困難となり安定した導電性、熱伝導性が得られなくなる。(B)エポキシ樹脂の好ましい含有量は1.4〜3.5質量%である。
【0035】
(C)反応性希釈剤は、脂肪族炭化水素鎖に2個以上のグリシジルエーテル官能基を有するとともに、分子量が150〜600である化合物である。なおエポキシ基以外にも、他の重合性官能基、例えばビニル、アリル等のアルケニル基、アクリロイル、メタクリロイル等の不飽和基を有していてもよい。分子量が150未満では、硬化反応が進行する前に反応性希釈剤が揮発してしまうため想定していた接着特性が得られず、逆に600を超えると反応性希釈剤の反応性が遅くなり期待する効果が得られにくい。さらに好ましい分子量は、200〜500である。
【0036】
このような反応性希釈剤としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグルシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルのようなジエポキシド化合物;フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテルのようなモノエポキシド化合物;トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテルのようなトリエポキシド化合物などが例示される。
中でも好ましくは、本発明の効果が向上するという観点から、ブタンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル等が好ましい。
【0037】
(C)反応性希釈剤は、接着剤組成物の全体量に対して0.2〜5質量%の範囲で含有される。(C)反応性希釈剤の含有量が0.2質量%未満であると、樹脂成分が分散し難く不均一になり被接着材料との密着性が低下する。逆に5質量%を超えると、硬化後の樹脂が脆くなり被接着材料との密着性が低下し、また破断などにより導電性が低下する恐れがある。(C)反応性希釈剤の好ましい含有量は0.3〜1.2質量%である。
【0038】
(D)硬化剤は、1分子内に2個以上のフェノール官能基を有する化合物、1分子内に2個以上のアニリン官能基を有する化合物またはこれらの混合物である。
【0039】
1分子内に2個以上のフェノール官能基を有する化合物としては、例えば次の化合物が挙げられる。
【0041】
式中、R1〜R5は、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基、アリル基または水素原子を表す。nは0以上の整数を表す。
【0042】
このような1分子内に2個以上のフェノール官能基を有する化合物としては、市販されているものを使用することができ、例えば、明和化成株式会社製のMEH8000シリーズ(8000H、8005、8010、8015)などが挙げられる。中でも本発明の効果が向上するという観点から、MEH8000H(上記式中、R1〜R5が水素またはアリル基であり、nが0〜3である化合物)が好ましい。
【0043】
また、1分子内に2以上のアニリン官能基を有する硬化剤としては、好ましいものとして、下記の一般式(I)、(II)または(III)で表される化合物が挙げられる。下記の一般式(I)、(II)または(III)で表される化合物は、必要に応じて2種以上を組み合わせることもできる。なお本発明で言う低級アルキル基とは、炭素数1〜6の直鎖、分枝または環状のアルキル基が挙げられ、炭素数1〜3の直鎖または分枝のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基が特に好ましい。
【0044】
特に下記一般式(I)、(II)または(III)で表される化合物群の中から式中Xが−SO
2−であるジアミノジフェニルスルホンおよびその誘導体は、適度な硬化遅延効果が得られ、また導電性フィラーとの相互作用による導電性フィラーの焼結成長およびネットワーク形成を促進するため好ましく用いられ、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンおよび3,3’−ジアミノジフェニルスルホンが、前記効果が最も強く最適に用いられる。なお、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の公知の硬化剤を併用してもよい。
【0046】
式中、Xは−SO
2−、−CH
2−、または−O−を表し、R1〜R4は各々独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。
【0048】
式中、Xは−SO
2−、−CH
2−、または−O−を表し、R5〜R8は各々独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。
【0050】
式中、Xは−SO
2−、−CH
2−、または−O−を表し、R9〜R12は各々独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。
【0051】
(D)硬化剤は、接着剤組成物の全体量に対して0.2〜3質量%の範囲で含有される。(D)硬化剤の含有量が0.2質量%未満であると、硬化が不十分で耐熱性が劣ることがあり、硬化が十分な場合でも樹脂の硬化速度と導電性フィラーの焼結のネッキングによるネットワーク形成速度のバランスが不適切となり導電性や熱伝導性が低下する恐れがある。逆に3質量%を超えると、未反応の硬化剤が残り被接着材料との密着性が低下するため電気特性が低下するばかりか、樹脂の硬化速度と導電性フィラーの焼結のネッキングによるネットワーク形成速度のバランスが不適切となり導電性や熱伝導性が低下する恐れがある。(D)硬化剤の好ましい含有量は0.2〜2.5質量%であり、さらに好ましい含有量は0.3〜2質量%である。
【0052】
本発明では、硬化剤との反応性を示さない(E)ゴム系樹脂を、前記接着剤組成物の全体量に対して0.2〜2質量%の範囲でさらに含有することが好ましい。この(E)ゴム系樹脂の配合により、(A)導電性フィラーのネッキングがさらに促進され、高い放熱性を発現することができる。
【0053】
(E)ゴム系樹脂としては、例えば酸変性ゴムが挙げられる。中でも室温で液状である液状ゴム系樹脂が好ましく、カルボキシル基を有する液状のアクリロニトリルブタジエンゴムがより好ましい。カルボキシル基を有するアクリロニトリルブタジエンゴムとしては、下記式で表される化合物が挙げられる。
【0055】
式中、mは5〜50の整数を示し、aおよびbはそれぞれ独立に1以上の整数を示す。aとbの比(a/b)は、95/5〜50/50であることが好ましい。このような化合物としては、例えば、Hycar CTBN−2009×162、CTBN−1300×31、CTBN−1300×8、CTBN−1300×13、CTBN−1009SP−S、CTBNX−1300×9、ATBN−1300×16、 ATBN−1300×21、 ATBN−1300×35、 ATBN−1300×42、 ATBN−1300×45(いずれも宇部興産株式会社製)が市販品として入手可能である。好ましくはCTBNシリーズが用いられる。
【0056】
(E)液状ゴム系樹脂の好ましい含有量は、接着剤組成物の全体量に対して0.2〜2質量%であり、さらに好ましい含有量は0.2〜1.5質量%、最適には0.4〜1.1質量%である。
【0057】
本発明の接着剤組成物は、熱硬化時の(A)導電性フィラーの焼結開始前に、該組成物が未硬化または半硬化の状態であることを要する。熱硬化時の(A)導電性フィラーの焼結開始前に、接着剤組成物が完全硬化の状態であると良好な熱伝導性が得られなくなる。
【0058】
ここで、熱硬化時の(A)導電性フィラーの焼結開始前とは、接着剤組成物を熱硬化させる際に加熱を始めた後、(A)導電性フィラーが焼結し、平均粒子径が成長する前の状態を意味する。また、接着剤組成物が未硬化の状態とは、該接着剤組成物が溶解可能な溶剤(テトラヒドロフラン)に、実質的に全部が溶解する状態にあることをいう。また、接着剤組成物が半硬化の状態とは、該接着剤組成物の硬化が中間段階にあり、さらに硬化を進めることが可能な状態にあることをいう。半硬化の状態では、接着剤組成物が溶解可能な溶剤(テトラヒドロフラン)に一部が溶解する状態にある。
【0059】
本発明においては、熱硬化時の(A)導電性フィラーの焼結開始後に、該導電性フィラーの平均粒子径成長率が30%に達した時の本発明の接着剤組成物の硬化率が50%以下であることが特に好ましい。硬化率が50%よりも高いと、高い熱伝導性が得られなくなるおそれがある。
【0060】
本発明においてネッキングとは、接着剤組成物の硬化体中の導電性フィラーどうしが単に接触しているのではなく一部でも焼結で接続し繋がっている状態をいい、ネッキング率とは、200℃で1時間の熱処理後の接着剤組成物の硬化体の垂直断面のSEM画像観察により、そのネッキングした粒子の割合を評価したものである。具体的には、断面画像の略中心部の30×30μm四方の画像を観察し、各導電性フィラー粒子に接続する粒子の数(1+接続粒子数)の和を導電性フィラー粒子数で序した数値である(下記式)。例えば、観察画像中に電性フィラー粒子が100個あり、それぞれの粒子が接続する粒子数がすべて2つである場合、各導電性フィラー粒子に接続する粒子の総和は300となる。この場合、ネッキング率は300%である。
[式]ネッキング率(%)=100×「1+各導電性フィラー粒子に接続する粒子の総和」÷「導電性フィラー粒子数」
【0061】
本発明では、エポキシ硬化剤を使用することにより、接着剤組成物の硬化率を任意に調節することが可能となる。エポキシ硬化剤としては、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、酸無水物類、第3級アミン類、トリフェニルフォスフィン類等の硬化触媒、ジシアンジアミド類、ヒドラジン類、芳香族ジアミン類等のアニオン重合型硬化剤、有機過酸化物等を挙げることができるが、特には、レゾール型フェノール樹脂が好ましく使用される。レゾール型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類との反応で生成される樹脂であり、その水酸基がエポキシ基と反応してエポキシ樹脂の分子鎖を架橋化させて硬化させる機能を有する。エポキシ硬化剤は1種類だけ使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0062】
レゾール型フェノール樹脂の配合量は限定されるものではなく、エポキシ樹脂の種類や量等に応じて適宜決定すればよいが、使用する場合は一般には、本発明の接着剤組成物の全体量に対して0.1〜4.0質量%である。
【0063】
本発明の接着剤組成物には硬化促進剤を配合することもできる。硬化促進剤としては、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4―メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2―メチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノ−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、第3級アミン類、トリフェニルフォスフィン類、尿素系化合物、フェノール類、アルコール類、カルボン酸類等が例示される。硬化促進剤は1種類だけ使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0064】
硬化促進剤の配合量は限定されるものではなく適宜決定すればよいが、使用する場合は一般には、本発明の接着剤組成物の全体量に対して0.1〜2.0質量%である。
【0065】
本発明の接着剤組成物には溶剤を配合することもできる。溶剤としては、例えば、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブ、エチルセロソルブアセテート、γ−ブチロラクトン、イソホロン、グリシジルフェニルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の有機溶剤が例示される。溶剤は1種類だけ使用しても2種類以上併用してもよい。
【0066】
溶剤の配合量は限定されるものではなく適宜決定すればよいが、使用する場合は一般には、本発明の接着剤組成物の全体量に対して0.1〜5.0質量%である。
【0067】
本発明の接着剤組成物には、その他の添加剤として、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘着付与剤、分散剤、カップリング剤、強靭性付与剤、エラストマー等、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0068】
本発明の接着剤組成物は、上記の(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および必要に応じて(E)成分並びにその他の成分を任意の順序で混合、撹拌することにより得ることができる。分散方法としては、二本ロール、三本ロール、サンドミル、ロールミル、ボールミル、コロイドミル、ジェットミル、ビーズミル、ニーダー、ホモジナイザー、プロペラレスミキサー等の方式を採用することができる。
【0069】
なお、本発明の接着剤組成物は、(E)成分を使用する場合、(A)成分および(E)成分を事前に混合し、その後に他の各種成分を混合、撹拌することにより、理由は定かではないが、(A)導電性フィラーのネッキングがさらに促進され、高い熱伝導性が得られ放熱性を発現することができる。
【0070】
上記のようにして調製された接着剤組成物中の(A)導電性フィラーを除いた場合の粘度は、回転式粘度計により理測定される。なお本発明において上記粘度は、回転式粘度計としてコーンプレート型粘度計を用い、温度25℃で3°×R14コーンプレートを用い特定の回転数(rpm)で測定された値である。
【0071】
また上記のようにして調製された接着剤組成物は、その中の(A)導電性フィラーを除いた場合、回転式粘度計による回転数0.5rpmおよび5rpmの測定値より算出されるTI値(チクソトロピーインデックス)が、1〜3であることが好ましい。このTI値を有することにより、ペースト作成時の作業性が向上するばかりか、電性フィラーと樹脂が適切に分散し熱硬化時の導電性フィラーのネッキング化が促進されより高い熱伝導性と導電性が得られるという効果を奏する。なお本発明において上記TI値は、上記の回転式粘度計の回転数0.5ppmの測定値を5ppmの測定値で除して算出された値である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0073】
[実施例1〜9、比較例1〜3]
A.接着剤組成物の作製
表1に記載された各材料を三本ロールにて混練し、表1に示す組成の接着剤組成物を作製した(各材料の数値は接着剤組成物の総質量に対する質量%を表す。)。使用した材料は下記の通りである。なお、混練の順番は、(A)成分および(E)成分の混練をまず最初に行い、続いて、その他の各種成分を混合し各成分が均一分散されるように混練を行った。200℃で1時間加熱後に室温まで放冷し接着剤組成物の硬化体を得た。
【0074】
(A)導電性フィラー
・銀粉[平均粒子径:5.0μm、田中貴金属工業(株)製]タップ密度6.5g/cm
3
・銀粉[平均粒子径:1.5μm、田中貴金属工業(株)製]タップ密度4.7g/cm
3
・銀粉[平均粒子径:8.0μm、田中貴金属工業(株)製]タップ密度4.2g/cm
3
【0075】
(B)エポキシ樹脂
・ビスフェノールF型エポキシ樹脂[EPICRON EXA−830CRP、DIC(株)製、室温で液状]
・フェノールノボラック型エポキシ樹脂(jER−152、三菱化学(株)社製、室温で液状)
・ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC(株)社製HP4032D、室温で液状)
【0076】
(C)反応性希釈剤
・1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(分子量202.25)
・1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(分子量256.34)
【0077】
(D)硬化剤
・1分子内に2個以上のフェノール官能基を有する化合物[明和化成(株)製MEH8000H]
・1分子内に2個以上のアニリン官能基を有する化合物[東京化成工業(株)製4,4’−ジアミノジフェニルスルホン]
【0078】
(E)液状ゴム系樹脂
・カルボキシ基を有するアクリロニトリルブタジエンゴム[宇部興産(株)製CTBN−1300×13NA]
【0079】
(硬化促進剤)
・トルエンビスジメチルウレア[Carbon Scientific社製]
・イミダゾール系硬化促進剤[四国化成工業(株)社製2P4MHZ]
【0080】
(溶剤)
・γ−ブチロラクトン
・N−メチルピロリドン
【0081】
(その他)
・コアシェル粒[アイカ工業(株)製 AC−3355]
・シランカップリング剤(東レ・ダウコーニング(株)社製Z−6040)
【0082】
B.接着剤組成物の物性評価
【0083】
1.粘度
(A)導電性フィラーを除いて接着剤組成物を調製し、その粘度を測定した。粘度は、回転式粘度計としてコーンプレート型粘度計を用い、温度25℃で3°×R14コーンプレートを用い回転数0.5ppmまたは5ppm、温度25℃で測定した。結果を表1に示す。
【0084】
2.TI値
(A)導電性フィラーを除いて接着剤組成物を調製し、そのTI値を測定した。TI値は、上記回転式粘度計の回転数0.5ppmの測定値を5ppmの測定値で除して算出した。結果を表1に示す。
【0085】
3.熱伝導率の測定
前記接着剤組成物の熱伝導特性を評価するため、該接着剤組成物の熱伝導率を測定した。熱伝導率λ(W/m・K)は、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置 (TC−7000、ULVAC−RIKO社製)を用いてASTM−E1461に準拠して熱拡散aを測定し、ピクノメーター法により室温での比重dを算出し、示差走査熱量測定装置 (DSC7020、セイコー電子工業社製)を用いてJIS−K7123に準拠して室温での比熱Cpを測定して以下の式により算出した。結果を表1に示す。
λ=a×d×Cp
【0086】
4.体積抵抗率の測定
前記接着剤組成物の電気特性を評価するため、該接着剤組成物の体積抵抗率を測定した。体積抵抗率K(×10
−4Ω・cm)は、直流電圧・発生源モニタ(R6243、ADVANTEST社製)を用いて、直流4端子法により出現抵抗Rを測定し、測定サンプルの幅W、厚みTおよび長さLから、以下の式により算出した。結果を表1に示す。
K=L/(R×W×T)
【0087】
5.ネッキング率の測定
接着剤組成物を2×2mm四方の銀メッキされた銅製の基板上にディスペンサーで塗布した後、シリコン製の2×2mm四方の基板で接着剤組成物を銅板と挟む形で戴置し、200℃で1時間の熱処理した後、接着剤組成物の硬化体の垂直断面のSEM画像観察により、ネッキング率を評価した。具体的には、接着剤組成物の硬化体の断面画像の略中心部の任意の5箇所について、夫々30×30μm四方の画像を観察し、各導電性フィラー粒子に接続する粒子の数(1+接続粒子数)の和を導電性フィラー粒子数で序した数値(下記式)の平均値より算出した。算出結果を表1に示す。
[式]ネッキング率(%)=100×「1+各導電性フィラー粒子に接続する粒子の総和」÷「導電性フィラー粒子数」
【0088】
【表1】
【0089】
上記結果から、本発明の接着剤組成物は、高い熱伝導率と安定した導電性を有することが確認された。