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特開2015-227262酸化物焼結体及びその製造方法、並びに酸化物膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-227262(P2015-227262A)
(43)【公開日】2015年12月17日
(54)【発明の名称】酸化物焼結体及びその製造方法、並びに酸化物膜
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/00 20060101AFI20151120BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20151120BHJP
【FI】
   C04B35/00 J
   C23C14/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-113140(P2014-113140)
(22)【出願日】2014年5月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】安東 勲雄
(72)【発明者】
【氏名】小沢 誠
【テーマコード(参考)】
4G030
4K029
【Fターム(参考)】
4G030AA34
4G030AA37
4G030BA02
4G030BA15
4G030CA01
4G030GA27
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA50
4K029BC07
4K029BC09
4K029CA06
4K029DC05
4K029DC09
4K029DC35
4K029DC39
(57)【要約】
【課題】製造安定性、成膜安定性、放電安定性及び機械強度性に優れた酸化物焼結体及びその製造方法、並びにその酸化物焼結体を用いて得られる中間屈折率の酸化物膜を提供する。
【解決手段】Siの含有量がSi/In原子数比で0.65以上1.75以下であり、珪酸インジウムの結晶相を70質量%以上含有し、金属Si相は含まず、相対密度が90%以上である酸化物焼結体を用いて、屈折率が1.70以上1.90以下の酸化物膜を作製する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
InとSiとを含み、該Siの含有量がSi/In原子数比で0.65以上1.75以下であり、
トルトバイタイト型構造を有する珪酸インジウム化合物の結晶相を70質量%以上含有し、金属Si相は含まず、
当該酸化物焼結体を構成する各化合物相の存在比率及び真密度から算出した密度に対する当該酸化物焼結体の密度の実測値より算出される相対密度が90%以上であることを特徴とする酸化物焼結体。
【請求項2】
前記In及び前記Si以外の三価以上の金属元素から選ばれた少なくとも1種の金属元素を更に含有し、含有した該金属元素の全成分をMとした場合の該Mの含有量がM/In原子数比で0.001以上0.05以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項3】
当該酸化物焼結体の粉末のX線回折法及び/又は当該酸化物焼結体の薄片の電子線回折法により、前記金属Si相が検出されないことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の酸化物焼結体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の酸化物焼結体の製造方法であって、
Siの原料として非晶質の二酸化珪素粉末を用い、該非晶質の二酸化珪素粉末を含む成形体を常圧焼結法により焼結することを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記成形体を、1400℃を超え1600℃以下で焼結することを特徴とする請求項4に記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いてスパッタリング法により得られる酸化物膜であって、
屈折率が1.70以上1.90以下であることを特徴とする酸化物膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にインジウム及び珪素を含む酸化物からなる酸化物焼結体及びその製造方法、並びにその酸化物焼結体を用いて得られる酸化物膜に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物膜は、太陽電池や液晶表示素子、その他の各種受光素子の電極、或いは自動車や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケース等の各種の防曇用の透明発熱体等のように、多岐に亘って利用されている。また、反射防止膜、反射増加膜、干渉膜、偏光膜等に代表される光学膜としても応用されている。光学膜としては、様々な特徴を有する酸化物膜を組み合わせた積層体としての応用がなされている。
【0003】
酸化物多層膜の分光特性は、消衰係数kをほぼゼロとみなすことができる場合、各層の屈折率「n」と膜厚「d」によって決定される。従って、酸化物膜を用いた積層体の光学設計においては、酸化物多層膜を構成する各層の「n」と「d」のデータに基づいた計算によって行われるのが一般的である。この場合、高屈折率膜と低屈折率膜とを組み合わせることに加えて、更にそれらの中間の屈折率を有する膜(中間屈折率膜)を追加することによって、より優れた光学特性を有する多層膜が得られる。
【0004】
一般的な高屈折率膜(n>1.90)としては、TiO(n=2.4)、CeO(n=2.3)、ZrO(n=2.2)、Nb(n=2.1)、Ta(n=2.1)、WO(n=2.0)等が知られている。低屈折率膜(n<1.60)としては、SiO(n=1.4)、MgF(n=1.4)等が知られている。中間屈折率膜(n=1.60〜1.90)としては、Al(n=1.6)、MgO(n=1.7)、Y(n=1.8)等が知られている。
【0005】
これらの酸化物膜を形成する方法としては、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、溶液塗布法等が一般的である。その中でもスパッタリング法は、蒸気圧の低い材料の成膜や、精密な膜厚制御を必要とする際に有効な手法であり、操作が非常に簡便であるため、工業的に広範に利用されている。
【0006】
具体的なスパッタリング法では、各種酸化物膜の原料としてターゲットが用いられる。この方法は、一般的には約10Pa以下のガス圧のもとで、基板を陽極とし、ターゲットを陰極として、陽極と陰極との間にグロー放電を起こしてアルゴンプラズマを発生させる。そして、プラズマ中のアルゴン陽イオンを陰極のターゲットに衝突させ、これによって弾き飛ばされるターゲット成分の粒子を基板上に堆積させることで膜を形成するというものである。
【0007】
スパッタリング法は、アルゴンプラズマの発生方法で分類され、高周波プラズマを用いるものは高周波スパッタリング法、直流プラズマを用いるものは直流スパッタリング法という。一般的に直流スパッタリング法は、高周波スパッタリングと比べて成膜速度が速く、電源設備が安価で、容易に成膜操作ができる等の理由で工業的に広範に利用されている。例えば、透明導電性薄膜の製造においても、直流マグネトロンスパッタ法が広範に採用されている。
【0008】
しかしながら、一般的にスパッタリング法においては、原料のターゲットが絶縁性ターゲットである場合、高周波スパッタリングを用いる必要があり、この方法では高い成膜速度を得ることが不可能となってしまう。
【0009】
これに対し、上述したAl、MgO、Y等の一般的な中間屈折率材料は、何れも導電性に乏しく、そのままスパッタリングターゲットとして用いても安定した放電を実現することができない。従って、スパッタリング法によって中間屈折率膜を得るためには、導電性を有する金属ターゲットを用いて、酸素を多く含む雰囲気で金属粒子と酸素とを反応させながらスパッタリング(反応性スパッタリング法)を行うことが必要である。
【0010】
しかしながら、酸素を多く含む反応性スパッタリング法では、その成膜速度が極めて遅いため、生産性が著しく損なわれる。その結果、得られる中間屈折率膜の単価が高くなる等の工業的な問題がある。
【0011】
ここで、中間屈折率膜を得るための材料として、In−Si−O系酸化物焼結体が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。通常、高濃度のSiを含有するIn−Si−O系焼結体は、焼結性に乏しい。このことから、特許文献1に記載の技術では、これらの課題を解決するために、酸化インジウム粉末とSi粉末を原料とし、且つホットプレス法を用いて焼結体を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4915065号公報
【特許文献2】特許第4424889号公報
【特許文献3】特開2007−176706号公報
【特許文献4】特許第4028269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の手法では、条件次第で90%以上の相対密度を有する高密度焼結体が得られているものの、非酸化物であるSi粉末を原料として用いているため、結果として焼結体にもSi相が残存してしまう。そのため、この焼結体をターゲットとしてスパッタリング法による成膜を行うと、チャンバー内に含まれる酸素によってターゲット表面でSiの酸化反応が起こり、非常に高い酸化燃焼熱が発生するため、ターゲットの表面状態が著しく荒れてしまい、成膜が継続できなくなることがある。
【0014】
その他の導電性の高いIn−Si−O系酸化物焼結体を得る手法として、Si及びSnを添加した酸化インジウム系低抵抗ターゲットが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、このターゲットの組成は、Siの含有量がSi/In原子比で0.26以下と少ないことから、中間屈折率膜の組成とは言い難い。
【0015】
また、特許文献3においては、Si及びSnを添加した酸化インジウム系低抵抗ターゲットが提案されている。しかしながら、このターゲットも、特許文献2に記載のターゲットと同様にSiの含有量が少ない。従って、高濃度のSiを含むターゲットにおいて必要とされる酸化物焼結体の高密度化や高強度化といった課題が残ったままであるので、製造時に割れ及び欠けが発生し、スパッタリングにおける安定放電を実現することが困難である。
【0016】
更に、高濃度のSiを含む焼結体に関して、特許文献4には、SnO及びTiOを添加した組成の焼結体が提案されている。この手法は、In系焼結体の低抵抗化に特化しており、SiOが7wt%以上40wt%以下と高濃度の場合には、SnOをSnO/(In+SnO)=0.10となるまで添加する必要があるとしている。しかしながら、SnO量に加えて、屈折率が2.0以上であるTiO量が多い場合には屈折率が高くなり、目的の中間屈折率膜を得ることができない。
【0017】
以上で説明したように、高濃度のSiを含有した酸化インジウム系材料において、製造時の割れや欠けを抑制でき、且つスパッタリング法を用いて安定成膜を実現できる、高密度及び高強度なスパッタリングターゲットは存在しない。
【0018】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、In−Si−O系酸化物焼結体において、割れたり欠けたりせずに得られ、従来の技術では不可能であったSiを多く含みながらも成膜安定性及び放電安定性に優れた酸化物焼結体及びその製造方法、並びにその酸化物焼結体を用いて得られる中間屈折率の酸化物膜を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するための本発明に係る酸化物焼結体は、InとSiとを含み、Siの含有量がSi/In原子数比で0.65以上1.75以下であり、トルトバイタイト型構造を有する珪酸インジウム化合物の結晶相を70質量%以上含有し、金属Si相は含まず、酸化物焼結体を構成する各化合物相の存在比率及び真密度から算出した密度に対する酸化物焼結体の密度の実測値より算出される相対密度が90%以上であることを特徴とする。
【0020】
ここで、本発明に係る酸化物焼結体においては、In及びSi以外の三価以上の金属元素から選ばれた少なくとも1種の金属元素を更に含有し、含有した金属元素の全成分をMとした場合のMの含有量がM/In原子数比で0.001以上0.05以下にしてもよい。
【0021】
また、本発明に係る酸化物焼結体においては、酸化物焼結体の粉末のX線回折法及び/又は酸化物焼結体の薄片の電子線回折法により、金属Si相が検出されないことが好ましい。
【0022】
本発明に係る酸化物焼結体の製造方法は、上記酸化物焼結体の製造方法であって、Siの原料として非晶質の二酸化珪素粉末を用い、非晶質の二酸化珪素粉末を含む成形体を常圧焼結法により焼結することを特徴とする。
【0023】
ここで、本発明に係る酸化物焼結体の製造方法においては、成形体を、1400℃を超え1600℃以下で焼結することが好ましい。
【0024】
本発明に係る酸化物膜は、上記酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いてスパッタリング法により得られる酸化物膜であって、屈折率が1.70以上1.90以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、スパッタリング法における成膜安定性及び放電安定性に優れた酸化物焼結体を破損なく製造することができ、得られた酸化物焼結体を酸化物膜作製用スパッタリングターゲットに用いることができる。
【0026】
また、本発明によれば、上記酸化物焼結体を酸化物膜作製用スパッタリングターゲットに用いてスパッタリングすることにより、光学的に有用な中間屈折率膜を安定的に形成して提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を適用した具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、以下の順序で詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
1.酸化物焼結体
2.酸化物焼結体の製造方法
3.酸化物膜
4.実施例
【0028】
[1.酸化物焼結体]
まず、本実施の形態に係る酸化物焼結体について説明する。
【0029】
酸化物焼結体は、所定の屈折率を有する酸化物膜を得るためのものであって、インジウム(In)及び珪素(Si)を含んでなるものである。
【0030】
ここでいう「所定の屈折率を有する酸化物膜」とは、中間屈折率膜を意味する。中間屈折率膜とは、高屈折率を有する膜(以下、「高屈折率膜」という。)と、低屈折率を有する膜(以下、「低屈折率膜」という。)との中間の屈折率を有する膜のことである。
【0031】
一般的に高屈折率膜とは、屈折率「n」が1.90を超える(n>1.90)ものであり、低屈折率膜とは、屈折率「n」が1.60未満(n<1.60)ものであり、中間屈折率膜とは、屈折率「n」が1.60以上1.90以下(n=1.60〜1.90)のものである。
【0032】
酸化物焼結体は、中間屈折率膜を得るためのものであるが、ここでいう中間屈折率膜とは、特に屈折率が1.70以上1.90以下の酸化物膜のことである。
【0033】
このような酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いて、屈折率が1.70以上1.90以下の酸化物膜を形成させるにあたり、酸化物膜の屈折率は、焼結体の組成に依存することがわかっている。
【0034】
そこで、酸化物焼結体では、酸化インジウムを主成分として、二酸化珪素(SiO)を添加するが、そのSiの含有量を、Si/In原子数比で0.65以上1.75以下とする。このように、酸化物焼結体中にSiが含まれることにより、酸化物焼結体の破損を防止することができる。
【0035】
Si/In原子数比が0.65より少ないと、酸化物焼結体を用いて得られる酸化物膜が高屈折率化し、一方で、Si/In原子数比が1.75を超えると、その酸化物膜の低屈折率化を招くため、1.70以上1.90以下である中間屈折率の酸化物膜を得ることができない。従って、酸化物焼結体では、屈折率が1.70以上1.90以下の酸化物膜を得るために、Siの含有量をSi/In原子数比で0.65以上1.75以下とする。
【0036】
酸化物焼結体では、Inの含有量1モルに対してSiの含有量が0.6モル付近を上回ると、酸化物焼結体の焼結性が著しく低下する。そのため、特に酸化物焼結体の出発物質として結晶二酸化珪素を使用した場合には、焼結性の低さから、通常の大気圧における焼結が極めて困難となる。
【0037】
そこで、酸化物焼結体では、Siの原料として非晶質二酸化珪素粉を使用することにより、非晶質二酸化珪素の粘性流動による緻密化がなされてから珪酸インジウム化合物相が生成されるため、90%以上の相対密度を得ることができる。
【0038】
酸化物焼結体の相対密度を算出する上では、酸化物焼結体に存在する化合物によって真密度が大きく異なるため、真密度の定義が重要となる。即ち、酸化物焼結体では、当該焼結体を構成する各化合物相の存在比率及び真密度から算出した密度に対する相対密度を算出しなければならない。
【0039】
例えば、二酸化珪素を30質量%の割合で含む酸化インジウム系焼結体において、酸化インジウム(密度7.18g/cm)及び二酸化珪素(密度2.32g/cm)が、それぞれ単独で存在する場合には、その真密度が4.41g/cmで計算される。ところが、酸化インジウム系焼結体中に珪酸インジウム化合物相が生成される場合は、この真密度が5.05g/cmと計算されるため、珪酸インジウム化合物相の存在比率も加味した真密度を採用しなければ、本来の相対密度と大きな差が生じてしまう。このことから、酸化物焼結体においては、各化合物相の存在比率及び真密度から算出した密度に対する相対密度を採用する。
【0040】
即ち、ここでいう相対密度は、酸化物焼結体中に含まれる各化合物相である酸化インジウム相、二酸化珪素相及び珪酸インジウム相の真密度に各化合物相の存在比率を加味して算出した密度(A)に対する酸化物焼結体の密度の実測値(B)の割合(百分率)である(B/A)×100[%]で表すことができる。なお、酸化物焼結体の密度は、例えばアルキメデス法等を用いて測定することができる。
【0041】
酸化物焼結体の相対密度は、製造時の高収率確保のみならず、スパッタリングにおける酸化物焼結体の放電安定性にも大きく影響する。ここでは、相対密度を90%以上とすることにより、スパッタ放電時に発生するパーティクル(微粒子)やノジュール(突起物)を低減することができ、連続放電を阻害するアーキング(異常放電)の発生も効果的に抑制することができる。このように、酸化物焼結体は、スパッタ放電を安定化させることができるため、得られる酸化物膜の品質及び均一性を向上させることが可能となる。
【0042】
ところで、酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いて酸化物膜を形成させるにあたり、そのスパッタリングにおける放電の安定化については、酸化物焼結体の密度だけでなく、酸化物焼結体を構成する化合物相にも依存することがわかっている。
【0043】
酸化物焼結体は、トルトバイタイト(Thortveitite)型構造を有する珪酸インジウム化合物の結晶相を70質量%の割合で含み、これが主相となることで、酸化物焼結体中における各化合物相の分布が、スパッタ放電中の異常放電等に及ぼす影響を抑制することができる。
【0044】
トルトバイタイト型構造の珪酸インジウム化合物とは、JCPDSカード(31−600)及び文献(Journal of Solid State Chemistry 2, 199-202(1970))に記載されている化合物である。酸化物焼結体では、化学量論組成から組成ずれが多少生じていたり、珪酸インジウム化合物中の一部が他のイオンで置換されていたりするものであっても、この結晶構造を維持しているものであればよい。
【0045】
酸化物焼結体においては、Siの析出相(以下、単に「Si相」という。)が存在しない。即ち、酸化物焼結体では、例えば、粉砕して得られた酸化物焼結体の粉末に対するCuKα線を使用したX線回折による生成相測定や、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)等によって加工して得られた酸化物焼結体の薄片に対する電子線回折による生成相測定等によって、Si相(金属Si相)が検出されない。
【0046】
このようなSi相が存在しない酸化物焼結体とすることで、酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、従来法では為し得なかったターゲット表面の著しい荒れを引き起こすことなく、スパッタリングを行うことが可能となる。この理由としては、次のように説明できる。
【0047】
一般的なスパッタリングにおける成膜のメカニズムは、プラズマ中のアルゴンイオンがターゲット表面に衝突し、ターゲット成分の粒子をはじき飛ばして基板上に堆積させることによる。
【0048】
Si相が存在する酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いて成膜した場合には、当該焼結体中から供給される酸素、或いは酸素含有アルゴンガスを導入した際に供給される酸素と、酸化物焼結体中のSiとがプラズマ加熱によって酸化反応を起こすようになる。この酸化反応では、930kJ/molと非常に高い酸化燃焼熱を発生し、局所的な発熱からターゲット表面の著しい荒れを引き起こしてしまうことがわかっている。
【0049】
これに対し、Si相が存在せず、相対密度が90%以上で高密度化した酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いて成膜した場合には、ターゲット表面の著しい荒れやアーキングといった異常事態を回避でき、安定した放電が可能となる。
【0050】
酸化物焼結体では、In及びSi以外の金属元素(第三成分)として、三価以上の金属元素から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含有させてもよい。金属元素の添加により、酸化物焼結体の密度を改善することが可能となるが、一価や二価の金属元素では、酸化物焼結体の高抵抗化が懸念されることから、酸化物焼結体では、In及びSi以外の三価以上の金属元素を用いる。そのような金属元素としては、例えば、チタン(Ti)、スズ(Sn)、イットリウム(Y)、ガリウム(Ga)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。
【0051】
In及びSi以外の三価以上の金属元素の含有量としては、含有するIn及びSi以外の三価以上の金属元素の全成分をMとした場合に、M/In原子数比で0.001以上0.05以下とする。酸化物焼結体では、M/In原子数比が0.001より少ないと、低抵抗化の効果が十分に得られず、一方で、M/In原子数比が0.05を超えると、屈折率の上昇を招いてしまう可能性があることから好ましくない。従って、In及びSi以外の三価以上の金属元素の含有量は、M/In原子数比で0.001以上0.05以下とすることが好ましい。
【0052】
以上のように、酸化物焼結体は、InとSiとを含み、Siの含有量がSi/In原子数比で0.65以上1.75以下であり、トルトバイタイト型構造を有する珪酸インジウム化合物の結晶相を70質量%以上の割合で含み、Si相は含まず、相対密度が90%以上という特徴的なものである。
【0053】
このような機械強度性に優れた酸化物焼結体を用いた酸化物膜作製用スパッタリングターゲットは、酸化物焼結体中に珪酸インジウム相を70質量%以上含み、Si相は含まず、相対密度が90%以上であるので、パーティクルやノジュールを低減すると共に、ターゲット表面の著しい荒れやアーキングといった異常事態を回避でき、安定した放電が継続して可能となる。
【0054】
また、酸化物膜作製用スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行うと、酸化物焼結体中のSiの含有量がSi/In原子数比で0.65以上1.75以下であるので、屈折率が1.70以上1.90以下の中間屈折率を有する酸化物膜を安定的に得ることができる。
【0055】
[2.酸化物焼結体の製造方法]
次に、本実施の形態に係る酸化物焼結体の製造方法について説明する。
【0056】
酸化物焼結体の製造方法は、酸化物焼結体を構成する成分の原料粉末を所定の割合で調合して造粒粉を得る第1工程と、得られた造粒粉を成形して成形体を得る第2工程と、得られた成形体を焼成して酸化物焼結体を得る第3工程とを有する。
【0057】
<2−1.第1工程(造粒工程)>
第1工程は、酸化物焼結体を構成する成分の原料粉末を所定の割合で調合し、水や各種添加物と混合してスラリーを得て、得られたスラリーを乾燥して造粒することによって造粒粉を得る造粒工程である。
【0058】
第1工程では、Inの原料として酸化インジウム粉末を、Siの原料として二酸化珪素粉末をそれぞれ用い、特に非晶質の二酸化珪素粉末をSiの原料として用いる。ここで、石英等の結晶二酸化珪素粉末をSiの原料として用いてしまうと、その焼結性の低さから、相対密度が90%以上の高密度な酸化物焼結体を得ることができない。
【0059】
第1工程では、Siの原料として、非酸化物のSi粉末(金属Si粉末)を使用せず、非晶質の二酸化珪素粉末を用いる。これにより、安定的に高い導電性及び密度を有する酸化物焼結体を製造することができ、Si相の存在しない酸化物焼結体を作製することができる。
【0060】
一方、Siの原料としてSi粉末を使用すると、大気或いは酸素雰囲気での常圧焼結において、Siの酸化による局所的な発熱による焼結異常が発生する危険性が生じ、安定した酸化物焼結体の製造が極めて困難となる。また、仮に酸化物焼結体が得られたとしても、Si相が残存するようになり、スパッタリング成膜中にターゲット表面の著しい荒れが生じる可能性がある。従って、第1工程では、Siの原料として非晶質の二酸化珪素粉末を用いる。
【0061】
また、第1工程では、必要に応じて、更にIn及びSi以外の三価以上の金属元素を含む酸化物粉末を加えてもよい。そのような酸化物粉末としては、二酸化チタン(TiO)、二酸化スズ(SnO)、酸化イットリウム(III)(Y)、酸化ガリウム(III)(Ga)、酸化タンタル(V)(Ta)、酸化アルミニウム(Al)等が挙げられる。
【0062】
各原料粉末のメディアン径としては、特に限定されるものではないが、粒径が大きすぎると、酸化物焼結体の相対密度が低下すると共に、その焼結体の強度及び導電性も低下する。
【0063】
第1工程では、各原料粉末を、上述したように、SiがSi/In原子数比で0.65以上1.75以下となるような割合で秤量し調合する。これにIn及びSi以外の三価以上の金属元素の酸化物粉末を更に加える場合には、添加する酸化物粉末の全成分をMとし、M/In原子数比で0.001以上0.05以下となるような割合で秤量し調合する。
【0064】
次に、第1工程では、所定量を秤量した各原料粉末を、純水、ポリビニルアルコール、アクリル系バインダー等の有機バインダー及びアクリル酸メタクリル酸共重合体アンモニア中和物、アクリル酸系共重合物アミン塩等の分散剤と混合して、原料粉末濃度が50質量%〜80質量%、好ましくは65質量%となるように混合し、スラリーとする。そして、スラリー中の混合粉末が所定のメディアン径となるように湿式粉砕する。
【0065】
湿式粉砕により得られる粉末のメディアン径は特に限定されないが、1μm以下となるまで粉砕することが好ましい。メディアン径が1μmを上回ると、分散性が低下することから、結果として酸化物焼結体の緻密化が阻害され、安定放電に十分な密度、機械強度及び導電性を有する酸化物焼結体が得られなくなる可能性がある。
【0066】
湿式粉砕においては、例えば粒径2.0mm以下の硬質ボール(二酸化ジルコニウム(ZrO)ボール等)が投入されたビーズミル等の粉砕装置を用いることが好ましい。これにより、各原料粉末の凝集を確実に取り除くことができる。
【0067】
一方、粒径2.0mmを超えるボールが投入されたボールミル等の粉砕装置を用いた場合には、1.0μm以下の粒径まで各原料粉末の粒子を解砕することが困難となり、結果として酸化物焼結体の緻密化が阻害され、酸化物焼結体の密度、機械強度及び導電性が不十分となる。
【0068】
第1工程では、以上のようにして、原料粉末を混合して得られたスラリーに対して湿式粉砕した後、例えば30分以上撹拌して得られたスラリーを乾燥し、造粒することによって造粒粉を得る。
【0069】
<2−2.第2工程(成形工程)>
第2工程は、第1工程で得られた造粒粉を加圧成形して、成形体を得る成形工程である。
【0070】
第2工程では、造粒粉の粒子間の空孔を除去するために、例えば196MPa(2.0ton/cm)以上の圧力で加圧成形を行う。加圧成形の方法については特に限定されないが、高圧力を加えることが可能な冷間静水圧プレス(CIP:Cold Isostatic Press)を用いることが好ましい。
【0071】
成形圧力が98MPaよりも小さいと、粒子間の接触が不十分となるために、成形体を常圧焼結した際に、トルトバイタイト型構造の珪酸インジウム化合物相の割合が70質量%よりも少なくなってしまう。
【0072】
一方で、成形圧力を300MPaより大きくしても、粒子間の接触を増大させる効果は小さく、トルトバイタイト型構造の珪酸インジウム化合物相の割合を増加させることはできない。また、300MPaを超える成形圧力とするための装置は非常に高額であるため、成形圧力が300MPaを超えると、生産コストが高くなり経済的に極めて非効率となる。
【0073】
従って、第2工程では、好ましくは98MPa以上300MPa以下の成形圧力で、より好ましくは196MPa以上300MPa以下の成形圧力で加圧成形を行うことで、成形体を常圧焼結した際に、トルトバイタイト型構造の珪酸インジウム化合物相の割合を70質量%以上に維持することができる。
【0074】
<2−3.第3工程(焼成工程)>
第3工程は、第2工程で得られた成形体を、常圧で焼成することにより酸化物焼結体を得る焼成工程である。
【0075】
第3工程における焼成処理では、好ましくは1400℃を超え1600℃以下の焼成温度で、より好ましくは1450℃以上1550℃以下の焼成温度で焼結を行う。
【0076】
焼成温度が1400℃以下の場合は、トルトバイタイト型構造の珪酸インジウム相の割合が70質量%未満となり、スパッタリングターゲットとしては不安定な化合物相となってしまう。
【0077】
一方で、焼成温度が1600℃を超えると、それ以上の高密度化に対する効果が極めて小さいだけでなく、使用電力量や生産効率を落とす等の問題が生じることで生産コストが高くなり、経済的に極めて非効率となる。
【0078】
従って、第3工程では、成形体を、好ましくは1400℃を超え1600℃以下の焼成温度で、より好ましくは1450℃以上1550℃以下の焼成温度で焼成することで、トルトバイタイト型構造の珪酸インジウム化合物相の割合が70質量%以上の酸化物焼結体を作製することができる。
【0079】
第3工程では、成形体に含まれるSiの原料として非晶質二酸化珪素粉を使用し、この成形体を利用することにより焼結性が向上する。そして、通常の大気圧における焼結(常圧焼結)が可能となり、高密度な酸化物焼結体を作製することができる。
【0080】
以上のように、酸化物焼結体の製造方法は、Siの原料として非晶質二酸化珪素粉末、更に、必要に応じてIn及びSi以外の三価以上の金属元素の酸化物粉末を用い、常圧焼結法により1400℃を超え1600℃以下の焼成温度で焼結することによって、上述した通りの特徴的な酸化物焼結体を破損なく得ることができる。
【0081】
得られた酸化物焼結体に対して、円周加工及び表面研削加工を施して所望のターゲット形状とし、加工後の酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディングすることで、スパッタリングターゲットとすることができる。第3工程では、ターゲット形状は特に限定されないが、例えば平板形状や円筒形状等に加工して、スパッタリングターゲットとすることができる。
【0082】
このようにして形成されたスパッタリングターゲットは、スパッタリング時において、低密度に起因するアーキングの発生を防止し、安定的に放電させることができ、光学的に極めて有用な屈折率が1.70以上1.90以下の酸化物膜を安定的に形成させることができる。
【0083】
[3.酸化物膜]
次に、本実施の形態に係る酸化物膜について説明する。
【0084】
酸化物膜は、上述した特徴を有する酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用い、スパッタリング法により基板上に成膜することによって形成されるものである。
【0085】
酸化物膜は、上述したように、InとSiとを含み、Siの含有量がSi/In原子数比で0.65以上1.75以下であり、トルトバイタイト型構造を有する珪酸インジウム化合物の結晶相を70質量%以上の割合で含み、Si相は含まず、相対密度が90%以上である酸化物焼結体を原料として成膜されたものであり、その酸化物焼結体の組成が反映されたものとなる。
【0086】
また、酸化物焼結体に、更にIn及びSi以外の三価以上の金属元素が添加された場合には、添加する全ての金属元素をMとした場合のMの含有量がM/In原子数比で0.001以上0.05以下である酸化物焼結体を原料として成膜されたものとなり、その酸化物焼結体の組成が反映された酸化物膜となる。なお、In及びSi以外の三価以上の金属元素の詳細については、上述した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0087】
従って、酸化物膜は、InとSiと、必要に応じてIn及びSi以外の三価以上の金属元素を含む酸化物からなり、且つ屈折率が1.70以上1.90以下の中間屈折率膜となる。
【0088】
酸化物膜の膜厚は特に限定されず、成膜時間やスパッタリング法の種類等によって適宜設定することができ、例えば5nm以上300nm以下程度とする。
【0089】
スパッタリングに際して、そのスパッタリング方法としては、特に限定されるものではなく、DC(直流)スパッタリング法、パルスDCスパッタリング法、AC(交流)スパッタリング法、RF(高周波)マグネトロンスパッタリング法、エレクトロンビーム蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
【0090】
基板としては、例えば、ガラス、PET(Polyethylene terephthalate)やPES(Polyether sulfone)等の樹脂等を用いることができる。
【0091】
スパッタリングによる酸化物膜の成膜温度は特に限定されないが、例えば50℃以上300℃以下とすることが好ましい。成膜温度が50℃未満であると、得られる酸化物膜が結露によって水分を含んでしまうおそれがある。一方で、成膜温度が300℃を超えると、基板が変形したり、酸化物膜に応力が残って割れてしまったりするおそれがある。
【0092】
スパッタリング時のチャンバー内の圧力は特に限定されないが、例えば5×10−5Pa程度に真空排気して行うことが好ましい。また、スパッタリング時に投入される電力出力としては、直径152.4mm(6インチ)のスパッタリングターゲットを用いる場合は、通常10W以上1000W以下とし、好ましくは100W以上300W以下とする。
【0093】
スパッタリング時のキャリアガスとしては、例えば酸素(O)、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)、クリプトン(Kr)等のガスが挙げられ、アルゴンと酸素との混合ガスを用いることが好ましい。アルゴンと酸素との混合ガスを使用する場合、アルゴンと酸素との流量比としては、通常、Ar:O=100:0〜80:20とし、好ましくはAr:O=100:0〜90:10とする。
【0094】
以上のように、酸化物膜は、上述した通りの特徴的な酸化物焼結体が酸化物膜作製用スパッタリングターゲットとして用いられ、その酸化物焼結体の組成が反映されたものとなるため、InとSiと、必要に応じてIn及びSi以外の三価以上の金属元素を含む酸化物からなり、且つ屈折率が1.70以上1.90以下の光学的に有用な中間屈折率膜となる。
【0095】
また、酸化物焼結体が酸化物膜作製用スパッタリングターゲットとして用いられることで、スパッタリング時において、アーキングの発生を防止し、放電安定性に優れた酸化物膜を得ることができる。
【実施例】
【0096】
[4.実施例]
以下に示す実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
【0097】
(実施例1)
<酸化物焼結体の作製>
実施例1では、メディアン径が1.0μm以下のIn粉末及び非晶質SiO粉末を原料粉末として、Si/In原子数比が1.0となる割合で調合し、原料粉末濃度が60質量%となるように、純水を40質量%、有機バインダーとしてポリビニルアルコールを2質量%、及び分散剤としてアクリル酸メタクリル酸共重合体アンモニア中和物を1.5質量%となるように混合すると共に、混合タンクにてスラリーを作製した。
【0098】
次に、実施例1では、粒径が0.5mmである硬質ZrOボールが投入されたビーズミル装置(アシザワ・ファインテック株式会社製、LMZ型)を用いて、原料粉末のメディアン径が0.7μmとなるまで湿式粉砕を行った。なお、原料粉末のメディアン径の測定には、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD−2200)を用いた。
【0099】
その後、実施例1では、各原料を30分以上混合撹拌して得られたスラリーを、スプレードライヤー装置(大川原化工機株式会社製、ODL−20型)にて噴霧及び乾燥して、造粒粉を得た。
【0100】
次に、実施例1では、造粒粉を冷間静水圧プレスで294MPa(3.0ton/cm)の圧力を掛けて成形し、得られた約200mmφの成形体を、ジルコニア製敷板を敷いた大気圧焼成炉にて焼成温度を1500℃として20時間焼成して、酸化物焼結体を得た。
【0101】
その後、実施例1では、酸化物焼結体の端材を粉砕し、CuKα線を使用した粉末X線回折測定を行ったところ、トルトバイタイト型構造であるInSi相が主相で検出された。また、リートベルト解析によって各化合物相の重量割合を解析したところ、InSi相の割合が96.3質量%であり、残りが2.5質量%のIn相及び1.2質量%のSiO相であった。
【0102】
また、実施例1では、酸化物焼結体の端材を収束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)加工により薄片化し、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX:Energy Dispersive X-ray spectrometry)搭載の透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で観察した。その結果、酸化物焼結体は、電子線回折からも、Si相が単体で存在していないことが確認された。
【0103】
次に、実施例1では、酸化物焼結体の密度をアルキメデス法により測定したところ、5.00g/cmであった。トルトバイタイト型構造であるInSi結晶の密度である5.05g/cm、ビックスバイト型構造であるIn結晶の密度である7.18g/cm及びSiO結晶の密度である2.32g/cmと、各化合物相の存在比率とから算出した密度5.02g/cmに対する相対密度を算出したところ、99.6%(=(5.00/5.02)×100[%])であり、90%を超える高い密度であった。
【0104】
<酸化物膜の作製>
実施例1では、酸化物焼結体を、直径が152.4mm(6インチ)で、厚みが5mmとなるように加工し、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングし、スパッタリングターゲットを得た。
【0105】
続いて、実施例1では、スパッタリングターゲットを用いて、RFスパッタリングによる成膜を行った。マグネトロンスパッタリング装置(トッキ(株)製、SPK−503)の非磁性体ターゲット用カソードに、得られたスパッタリングターゲットを取り付け、一方で、成膜用の基板には、無アルカリのガラス基板(コーニング♯7059、厚み(t):1.1mm)を用いて、ターゲットと基板との間の距離を60mmに固定した。
【0106】
そして、実施例1では、5×10−5Pa以下となるまで真空排気を行った後、純Arガス及び純Ar+OガスをO濃度が1.0%となるよう導入し、ガス圧を0.6Paとして、高周波電力200Wを印加してプリスパッタリングを実施した。
【0107】
実施例1では、十分なプリスパッタリングを行った後、スパッタリングターゲットの中心(非エロージョン部)の直上に静止させて基板を配置し、非加熱でスパッタリングを実施して膜厚200nmの酸化物膜を形成した。
【0108】
その結果、実施例1では、スパッタリングターゲットにはクラックが発生しておらず、成膜初期からの10分間で、ターゲット表面の著しい荒れや異常放電等も発生しなかった。また、得られた酸化物膜の屈折率をエリプソメーターで測定したところ、1.79であった。
【0109】
実施例1では、実施例1で得られた酸化物焼結体の製造条件及び特性、並びに酸化物膜の成膜安定性及び物性をまとめて表1に示した。また、後述する実施例2乃至実施例6及び比較例1乃至比較例5における各結果についても、実施例1と同様にして表1に示した。
【0110】
(実施例2)
<酸化物焼結体の作製>
実施例2では、Si/In原子数比が0.65となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物焼結体を作製し、酸化物焼結体の密度及び酸化物焼結体中の各化合物相の存在比率を測定し、これらより相対密度を算出した。
【0111】
その結果、実施例2では、表1に示すように、InSi相の割合が70質量%以上であり、所望の相対密度90%以上を満たしていた。また、酸化物焼結体の薄片をEDX搭載のTEMで観察したところ、電子線回折からもSi相が単体で存在していないことが確認された。
【0112】
<酸化物膜の作製>
続いて、実施例2では、実施例1と同様にして、酸化物焼結体を無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングしスパッタリングターゲットを作製した。そして、そのスパッタリングターゲットを用いて透明導電膜を形成した。
【0113】
その結果、実施例2では、表1に示すように、成膜開始から10分間でターゲット表面の著しい荒れや異常放電等も発生せず、酸化物膜の屈折率は、所望の屈折率である1.70以上1.90以下であった。
【0114】
(実施例3)
<酸化物焼結体の作製>
実施例3では、Si/In原子数比が1.75となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物焼結体を作製し、酸化物焼結体の密度及び酸化物焼結体中の各化合物相の存在比率を測定し、これらより相対密度を算出した。
【0115】
その結果、実施例3では、表1に示すように、InSi相の割合が70質量%以上であり、所望の相対密度90%以上を満たしていた。また、酸化物焼結体の薄片をEDX搭載のTEMで観察したところ、電子線回折からもSi相が単体で存在していないことが確認された。
【0116】
<酸化物膜の作製>
続いて、実施例3では、実施例1と同様にして、酸化物焼結体を、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングしスパッタリングターゲットを作製した。そして、そのスパッタリングターゲットを用いて透明導電膜を形成した。
【0117】
その結果、実施例3では、表1に示すように、成膜開始から10分間でターゲット表面の著しい荒れや異常放電等も発生せず、酸化物膜の屈折率は、所望の屈折率である1.70以上1.90以下であった。
【0118】
(実施例4)
<酸化物焼結体の作製>
実施例4では、焼成温度を1600℃としたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物焼結体を作製し、酸化物焼結体の密度及び酸化物焼結体中の各化合物相の存在比率を測定し、これらより相対密度を算出した。
【0119】
その結果、実施例4では、表1に示すように、InSi相の割合が70質量%以上であり、所望の相対密度90%以上を満たしていた。また、酸化物焼結体の薄片をEDX搭載のTEMで観察したところ、電子線回折からもSi相が単体で存在していないことが確認された。
【0120】
<酸化物膜の作製>
続いて、実施例4では、実施例1と同様にして、酸化物焼結体を無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングしスパッタリングターゲットを作製した。そして、そのスパッタリングターゲットを用いて透明導電膜を形成した。
【0121】
その結果、実施例4では、表1に示すように、成膜開始から10分間でターゲット表面の著しい荒れや異常放電等も発生せず、酸化物膜の屈折率は、所望の屈折率である1.70以上1.90以下であった。
【0122】
(実施例5)
<酸化物焼結体の作製>
実施例5では、In粉末及び非結晶SiO粉末に加えて、Tiを含むメディアン径が1.0μm以下のTiO粉末を用い、Ti/In原子数比が0.03となるように、TiO粉末を添加したこと以外は、実施例1と同様にして酸化物焼結体を作製し、酸化物焼結体の密度及び酸化物焼結体中の各化合物相の存在比率を測定し、これらより相対密度を算出した。
【0123】
その結果、実施例5では、表1に示すように、InSi相の割合が70%以上であり、焼結体の相対密度が90%以上であった。また、酸化物焼結体の薄片をEDX搭載のTEMで観察したところ、電子線回折からもSi相が単体で存在していないことが確認された。
【0124】
<酸化物膜の作製>
続いて、実施例5では、実施例1と同様にして、酸化物焼結体を、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングしスパッタリングターゲットを作製した。そして、そのスパッタリングターゲットを用いて透明導電膜を形成した。
【0125】
その結果、実施例5では、表1に示すように、成膜初期からの10分間でターゲット表面の著しい荒れや異常放電等も発生しなかった。また、酸化物膜の屈折率は、調査の結果1.87であった。
【0126】
(実施例6)
<酸化物焼結体の作製>
実施例6では、In粉末及び非結晶SiO粉末に加えて、Snを含むメディアン径が1.0μm以下のSnO粉末を用い、Sn/In原子数比が0.02となるように、SnO粉末を添加したこと以外は、実施例1と同様にして酸化物焼結体を作製し、酸化物焼結体の密度及び酸化物焼結体中の各化合物相の存在比率を測定し、これらより相対密度を算出した。
【0127】
その結果、実施例6では、表1に示すように、InSi相の割合が70%以上であり、焼結体の相対密度が90%以上であった。また、酸化物焼結体の薄片をEDX搭載のTEMで観察したところ、電子線回折からもSi相が単体で存在していないことが確認された。
【0128】
<酸化物膜の作製>
続いて、実施例6では、実施例1と同様にして、酸化物焼結体を、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングしスパッタリングターゲットを作製した。そして、そのスパッタリングターゲットを用いて透明導電膜を形成した。
【0129】
その結果、実施例6では、表1に示すように、成膜初期からの10分間でターゲット表面の著しい荒れや異常放電等も発生しなかった。また、酸化物膜の屈折率は、調査の結果1.81であった。
【0130】
(比較例1)
<酸化物焼結体の作製>
比較例1では、Si/In原子数比が0.5となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物焼結体を作製し、酸化物焼結体の密度及び酸化物焼結体中の各化合物相の存在比率を測定し、これらより相対密度を算出した。
【0131】
その結果、比較例1では、表1に示すように、InSi相の割合が70質量%以下であったが、所望の相対密度90%以上を満たしていた。また、酸化物焼結体の薄片をEDX搭載のTEMで観察したところ、電子線回折からもSi相が単体で存在していないことが確認された。
【0132】
<酸化物膜の作製>
続いて、比較例1では、実施例1と同様にして、酸化物焼結体を、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングしスパッタリングターゲットを作製した。そして、そのスパッタリングターゲットを用いて透明導電膜を形成した。
【0133】
その結果、比較例1では、表1に示すように、成膜開始から10分間でターゲット表面の著しい荒れや異常放電等は発生しなかったものの、酸化物膜の屈折率は1.90を超え、所望の屈折率である1.70以上1.90以下の酸化物膜を得ることができなかった。
【0134】
(比較例2)
<酸化物焼結体の作製>
比較例2では、Si/In原子数比が2.0となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物焼結体を作製し、酸化物焼結体の密度及び酸化物焼結体中の各化合物相の存在比率を測定し、これらより相対密度を算出した。
【0135】
その結果、比較例2では、表1に示すように、InSi相の割合が70質量%以上であり、所望の相対密度90%以上を満たしていた。また、酸化物焼結体の薄片をEDX搭載のTEMで観察したところ、電子線回折からもSi相が単体で存在していないことが確認された。
【0136】
<酸化物膜の作製>
続いて、比較例2では、実施例1と同様にして、酸化物焼結体を、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングしスパッタリングターゲットを作製した。そして、そのスパッタリングターゲットを用いて透明導電膜を形成した。
【0137】
その結果、比較例2では、表1に示すように、成膜開始から10分間でターゲット表面の著しい荒れや異常放電等は発生しなかったものの、酸化物膜の屈折率は1.70未満となり、所望の屈折率である1.70以上1.90以下の酸化物膜を得ることができなかった。
【0138】
(比較例3)
<酸化物焼結体の作製>
比較例3では、焼成温度を1350℃としたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物焼結体を作製し、酸化物焼結体の密度及び酸化物焼結体中の各化合物相の存在比率を測定し、これらより相対密度を算出した。
【0139】
その結果、比較例3では、表1に示すように、InSi相の割合は70質量%以上を満たしていなかったが、所望の相対密度90%以上を満たしていた。また、酸化物焼結体の薄片をEDX搭載のTEMで観察したところ、電子線回折からもSi相が単体で存在していないことが確認された。
【0140】
<酸化物膜の作製>
続いて、比較例3では、実施例1と同様にして、酸化物焼結体を、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングしスパッタリングターゲットを作製した。そして、そのスパッタリングターゲットを用いて透明導電膜を形成した。
【0141】
その結果、比較例3では、表1に示すように、成膜開始から10分間でターゲット表面の著しい荒れは発生しなかったが、成膜中に異常放電が発生した。また、酸化物膜の屈折率は、所望の屈折率である1.70以上1.90以下であった。
【0142】
(比較例4)
<酸化物焼結体の作製>
比較例4では、SiO原料として結晶SiO粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物焼結体を作製し、酸化物焼結体の密度及び酸化物焼結体中の各化合物相の存在比率を測定し、これらより相対密度を算出した。
【0143】
その結果、比較例4では、表1に示すように、InSi相の割合は70質量%以上であったが、相対密度は85.1%と所望の値を満たしていなかった。また、酸化物焼結体の薄片をEDX搭載のTEMで観察したところ、電子線回折からもSi相が単体で存在していないことが確認された。
【0144】
<酸化物膜の作製>
続いて、比較例4では、実施例1と同様にして、酸化物焼結体を加工し、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングしスパッタリングターゲットを作製した。そして、そのスパッタリングターゲットを用いて透明導電膜を形成した。
【0145】
その結果、比較例4では、表1に示すように、成膜開始から10分間でターゲット表面の著しい荒れは発生しなかったが、成膜中に異常放電が発生した。また、酸化物膜の屈折率は、所望の屈折率である1.70以上1.90以下であった。
【0146】
(比較例5)
<酸化物焼結体の作製>
比較例5では、原料粉末として、メディアン径が1.0μm以下のIn粉末とメディアン径が5μmの金属Si粉末とを、三次元混合器で混合した後、得られた混合粉末をカーボン製容器中に給粉し、焼結温度900℃、圧力4.9MPaの条件にてホットプレスしたこと以外は実施例1と同様にして酸化物焼結体を作製し、酸化物焼結体の密度及び酸化物焼結体中の各化合物相の存在比率を測定し、これらより相対密度を算出した。
【0147】
その結果、比較例5では、表1に示すように、InSi相の割合が70質量%以上、相対密度が90%以上と何れも所望の値を満たしていたが、酸化物焼結体の薄片をEDX搭載のTEMで観察したところ、電子線回折からSi相が存在することが確認された。
【0148】
<酸化物膜の作製>
続いて、比較例5では、実施例1と同様にして、酸化物焼結体を、無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングしスパッタリングターゲットを作製した。そして、そのスパッタリングターゲットを用いて透明導電膜を形成した。
【0149】
その結果、比較例5では、表1に示すように、成膜開始直後からターゲット表面の著しい荒れや異常放電が頻発したため、成膜を中止したところ、成膜後のターゲットにクラックが発生していた。

























【0150】
【表1】
【0151】
このように、実施例1乃至実施例4では、表1に示すように、Siの原料として非晶質のSiO粉末を用い、Siの含有量がSi/In原子数比で0.65以上1.75以下となるような割合で各原料粉末を秤量して調合し造粒粉を得て、この造粒粉を加圧成形して得られた成形体を常圧焼結法により1400℃を超え1600℃以下の焼成温度で焼結することにより、破損せずに各酸化物焼結体を得た。
【0152】
その結果、実施例1乃至実施例4で得られた各酸化物焼結体は、屈折率が1.70以上1.90以下である中間屈折率膜を安定的に得るスパッタリングターゲットとして有用であることが確認できた。
【0153】
また、実施例5及び実施例6では、表1に示すように、非晶質のSiO粉末に加えて、更にIn及びSi以外の三価以上の金属元素を含む酸化物粉末としてTiO及びSnOを用い、Ti及びSnの含有量がTi/In及びSn/In原子数比で0.001以上0.05以下となるような割合で各原料粉末を秤量して調合し造粒粉を得て、この造粒粉を加圧成形して得られた成形体を常圧焼結法により1400℃を超え1600℃以下の焼成温度で焼結することにより、破損せずに各酸化物焼結体を得た。
【0154】
その結果、実施例5及び実施例6で得られた各酸化物焼結体は、屈折率が1.70以上1.90以下である中間屈折率膜を安定的に得るスパッタリングターゲットとして有用であることが確認できた。
【0155】
一方、比較例1乃至比較例5では、表1に示すように、実施例1で得られた酸化物焼結体の製造方法と比較して、Si/In原子数比、焼成温度、Siの原料及び粉砕装置の何れかの条件が実施例1と異なる製法により作製し、各酸化物焼結体を得た。
【0156】
その結果、比較例1乃至比較例5で得られた各酸化物焼結体は、屈折率が1.70以上1.90以下である中間屈折率膜を安定的に得られず、また、各酸化物焼結体の中には機械強度性に劣るものもあり、スパッタリングターゲットとして用いることができないことがわかった。