特開2015-227489(P2015-227489A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-227489(P2015-227489A)
(43)【公開日】2015年12月17日
(54)【発明の名称】塩化コバルト溶液の浄液方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20151120BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20151120BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C22B3/00 P
   C22B3/00 Q
   C22B3/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-113691(P2014-113691)
(22)【出願日】2014年6月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 啓明
(72)【発明者】
【氏名】服部 靖匡
(72)【発明者】
【氏名】早田 二郎
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敬介
(72)【発明者】
【氏名】天野 道
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001BA19
4K001DB22
4K001DB23
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】コバルトのロスを低減でき、かつ、硫化剤原単位を低くできる塩化コバルト溶液の浄液方法を提供する。
【解決手段】塩化コバルト溶液に、硫化剤とpH調整剤とを添加して、不純物を硫化澱物として除去するにあたり、塩化コバルト溶液のpHを1.15〜1.35に調整し、硫化剤の添加量を、塩化コバルト溶液に含まれる不純物量に対して9〜11倍モル当量とする。硫化澱物のCo/Cu比を低くでき、不純物を十分に除去しつつコバルトのロスを低減できる。また、硫化剤の添加量を不純物の除去に必要な量に抑えることができ、硫化剤原単位を低くできる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物として少なくとも銅を含む塩化コバルト溶液に、硫化剤とpH調整剤とを添加して、不純物を硫化澱物として除去するにあたり、
塩化コバルト溶液のpHを1.15〜1.35に調整し、
硫化剤の添加量を、塩化コバルト溶液に含まれる不純物量に対して9〜11倍モル当量とする
ことを特徴とする塩化コバルト溶液の浄液方法。
【請求項2】
塩化コバルト溶液のpHを1.15〜1.25に調整する
ことを特徴とする請求項1記載の塩化コバルト溶液の浄液方法。
【請求項3】
前記硫化剤が硫化水素である
ことを特徴とする請求項1または2記載の塩化コバルト溶液の浄液方法。
【請求項4】
前記pH調整剤が炭酸コバルトである
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の塩化コバルト溶液の浄液方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化コバルト溶液の浄液方法に関する。さらに詳しくは、不純物として少なくとも銅を含む塩化コバルト溶液から不純物を除去するための塩化コバルト溶液の浄液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化物からニッケルやコバルトを回収する湿式製錬プロセスでは、原料であるニッケルマットやニッケル・コバルト混合硫化物(MS:ミックスサルファイド)を塩素浸出し、得られた浸出液から不純物を除去する浄液工程などを経て、電解工程で電気ニッケルや電気コバルトを回収する。
【0003】
図1に示すように、浸出工程から得られた浸出液は、セメンテーション工程において銅が除去され、脱鉄工程において鉄やヒ素などの不純物が除去された後、コバルト溶媒抽出工程に送られる。コバルト溶媒抽出工程では、溶媒抽出によりニッケルとコバルトとを分離し、粗塩化ニッケル溶液と粗塩化コバルト溶液とを得る。粗塩化ニッケル溶液は、さらに不純物が除去され高純度となってニッケル電解工程に送られる。ニッケル電解工程では電解採取により電気ニッケルが製造される。一方、塩化コバルト溶液は、さらに不純物が除去され高純度となってコバルト電解工程に送られる。コバルト電解工程では電解採取により電気コバルトが製造される。
【0004】
粗塩化コバルト溶液の浄液工程には複数の詳細工程が含まれるが、その中には脱銅工程がある。脱銅工程では、粗塩化コバルト溶液に硫化剤を添加することで不純物である銅および鉛を硫化澱物として除去する。硫化剤の添加により処理液のpHが低下するため、これを防ぐためにpH調整剤を添加して、処理液のpHを調整することが行われる。
【0005】
しかし、上記脱銅工程では、不純物である銅および鉛とともに、有価物であるコバルトの一部も共沈し、硫化澱物として除去されてしまう。そのため、有価物のロスとなるという問題がある。また、硫化澱物に含まれるコバルトの回収のために硫化澱物を浸出工程に繰り返すと、操業効率が低下するという問題がある。
【0006】
特許文献1には、脱銅工程において、酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を50mV以下、pHを0.3〜2.4に調整することが開示されている。また、特許文献2には、塩化コバルト溶液から鉛を除去する工程において、酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を-50〜0mV、pHを1.0〜2.0に調整することが開示されている。
【0007】
しかし、塩化コバルト溶液の主成分であるコバルトの影響により酸化還元電位が安定しないため、酸化還元電位を指標として硫化剤の添加量を調整するのは困難であるという問題がある。そのため、実操業では、確実に不純物を除去するために硫化剤を過剰に添加することが行われており、これにより硫化剤の原単位(コバルト生産量当たりの硫化剤使用量)が高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−285368号公報
【特許文献2】特開2008−274382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、コバルトのロスを低減でき、かつ、硫化剤原単位を低くできる塩化コバルト溶液の浄液方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の塩化コバルト溶液の浄液方法は、不純物として少なくとも銅を含む塩化コバルト溶液に、硫化剤とpH調整剤とを添加して、不純物を硫化澱物として除去するにあたり、塩化コバルト溶液のpHを1.15〜1.35に調整し、硫化剤の添加量を、塩化コバルト溶液に含まれる不純物量に対して9〜11倍モル当量とすることを特徴とする。
第2発明の塩化コバルト溶液の浄液方法は、第1発明において、塩化コバルト溶液のpHを1.15〜1.25に調整することを特徴とする。
第3発明の塩化コバルト溶液の浄液方法は、第1または第2発明において、前記硫化剤が硫化水素であることを特徴とする。
第4発明の塩化コバルト溶液の浄液方法は、第1、第2または第3発明において、前記pH調整剤が炭酸コバルトであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、塩化コバルト溶液のpHを1.15〜1.35に調整するので、硫化澱物のCo/Cu比を低くでき、不純物を十分に除去しつつコバルトのロスを低減できる。また、硫化剤の添加量を不純物量に対して9〜11倍モル当量とするので、硫化剤の添加量を不純物の除去に必要な量に抑えることができ、硫化剤原単位を低くできる。
第2発明によれば、塩化コバルト溶液のpHを1.15〜1.25に調整するので、硫化澱物のCo/Cu比をより低くでき、コバルトのロスをより低減できる。
第3発明によれば、硫化剤が硫化水素であるので、塩化コバルト溶液への他の金属の混入を防止できる。
第4発明によれば、pH調整剤が炭酸コバルトであるので、塩化コバルト溶液への他の金属の混入を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】湿式製錬プロセスの全体工程図である。
図2】脱銅工程の詳細工程図である。
図3】塩化コバルト溶液のpHに対する硫化澱物のCo/Cu比を示すグラフである。
図4】塩化コバルト溶液のpHと硫化剤原単位の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の一実施形態に係る塩化コバルト溶液の浄液方法は、以下に説明するニッケルおよびコバルトの湿式製錬プロセスに適用される。なお、本発明に係る塩化コバルト溶液の浄液方法は、塩化コバルト溶液の由来を問わず、不純物として少なくとも銅を含む塩化コバルト溶液を浄液するプロセスであれば、いかなるプロセスにも適用される。
【0014】
図1に示すように、ニッケルおよびコバルトの湿式製錬プロセスでは、まず、原料であるニッケル・コバルト混合硫化物(MS:ミックスサルファイド)およびニッケルマットを塩素浸出して浸出液を得る。浸出液は、主成分が塩化ニッケル溶液であり、コバルトのほか、鉄、銅、鉛等の不純物が含まれる。
【0015】
浸出工程から得られた浸出液は、セメンテーション工程および脱鉄工程を経て、コバルト溶媒抽出工程に送られる。コバルト溶媒抽出工程では、浸出液に含まれるコバルトを溶媒抽出により分離し、塩化ニッケル溶液と塩化コバルト溶液とを得る。なお、説明の便宜のため、コバルト溶媒抽出工程から得られた塩化ニッケル溶液および塩化コバルト溶液を、それぞれ粗塩化ニッケル溶液および粗塩化コバルト溶液と称する。粗塩化コバルト溶液には、不純物として銅や鉛等が含まれる。
【0016】
粗塩化コバルト溶液は、浄液工程で不純物が除去されて高純度塩化コバルト溶液となってコバルト電解工程に送られる。コバルト電解工程では電解採取により電気コバルトが製造される。
【0017】
粗塩化コバルト溶液の浄液工程には複数の詳細工程が含まれるが、その中には脱銅工程がある。図2に示すように、脱銅工程では、反応槽に供給した粗塩化コバルト溶液に、硫化剤を添加して、不純物である銅や鉛を硫化澱物として析出させる。また、硫化剤の添加により処理液のpHが低下するため、これを防ぐためにpH調整剤を添加して、処理液のpHを調整する。
【0018】
硫化剤としては、特に限定されないが、例えば、硫化水素、硫化ナトリウム、水硫化ナトリウム等の水溶性の硫化物が用いられる。これらの中で、塩化コバルト溶液への他の金属の混入を防止できる硫化水素が好ましい。
【0019】
pH調整剤は、処理液のpHおよび/または硫化剤により、アルカリ性または酸性のpH調整剤が選ばれる。pH調整剤としては、特に限定されないが、アルカリ性pH調整剤として水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸コバルト等のアルカリ塩を用いることができ、酸性pH調整剤として塩酸、硫酸等の鉱酸を用いることができる。これらの中で、塩化コバルト溶液への他の金属の混入を防止できる炭酸コバルトが好ましい。
【0020】
反応槽から排出された中間スラリーは、フィルタープレス装置等の固液分離装置に送られ、高純度塩化コバルト溶液と硫化澱物とに分離される。このようにして、不純物を硫化澱物として除去することができる。
【0021】
得られた高純度塩化コバルト溶液は、必要に応じて他の工程を経て、コバルト電解工程に供給される。また、硫化澱物は浸出工程に繰り返され、硫化澱物に含まれるコバルト等が回収される。
【0022】
本実施形態は、以上の湿式製錬プロセスの脱銅工程において、塩化コバルト溶液のpHを1.15〜1.35、好ましくは1.15〜1.25に調整し、かつ、硫化剤の添加量を、塩化コバルト溶液に含まれる不純物量に対して9〜11倍モル当量とするところに特徴を有する。ここで、pHの調整はpH調整剤の添加量を調整することにより行うことができる。また、不純物量とは、銅や鉛等の不純物の量、例えば銅量と鉛量の和を意味する。
【0023】
本願発明者は、脱銅工程において、反応槽中の塩化コバルト溶液のpHに対する硫化澱物のコバルト/銅重量比(以下、Co/Cu比と称する。)を測定したところ、図3に示す結果を得た。
【0024】
図3より、塩化コバルト溶液のpHが低いほど、Co/Cu比を低くできることが分かる。すなわち、塩化コバルト溶液のpHを低くするほど、不純物である銅を除去しつつ、有価物であるコバルトの共沈量を低減できるのである。具体的には、塩化コバルト溶液のpHを1.35以下に調整することでCo/Cu比が急激に低下し、塩化コバルト溶液のpHを1.25以下に調整すれば、Co/Cu比を約1.3以下に抑えられることが分かった。
【0025】
以上より、塩化コバルト溶液のpHを1.35以下、好ましくは1.25以下に調整することで、硫化澱物のCo/Cu比を低くでき、不純物を十分に除去しつつコバルトのロスを低減できる。また、コバルトのロスを低減できることから、従来コバルトを硫化するために消費されていた硫化剤を削減でき、硫化剤の添加量を低減できる。
【0026】
ただし、塩化コバルト溶液のpHが1.15未満であると、硫化澱物の粒径が小さくなり、固液分離装置で濾過不良が生じることから、塩化コバルト溶液のpHを1.15以上に調整することが好ましい。
【0027】
また、本願発明者は、脱銅工程で処理する不純物量に対する硫化剤の添加量を調査したところ、不純物量の9〜11倍モル当量が適切であるという知見を得た。
この調査は以下の手順で行った。脱銅工程において、粗塩化コバルト溶液中の不純物量(以下、不純物量(粗)と称する。)に対して硫化剤の添加量を6倍モル当量から12倍モル当量の間で変化させた。各硫化剤添加量において、硫化反応で得られる硫化澱物に含まれる不純物量(以下、不純物量(澱物)と称する。)および、硫化澱物に含まれるコバルト量(以下、コバルト量(澱物)と称する。)を分析した。その結果、硫化剤の添加量が不純物量(粗)の9倍モル当量未満であると、不純物量(澱物)は不純物量(粗)に対して急激に低下して、不純物除去量として90重量%未満となり不充分であることが分かった。また、硫化剤の添加量が不純物量(粗)の11倍モル量を超えると、共沈が急激に加速されてコバルト量(澱物)が粗塩化コバルト溶液中のコバルト量の5重量%を超えてしまうことが分かった。
【0028】
すなわち、硫化剤の添加量が不純物量の9倍モル当量未満であると、不純物を十分に硫化澱物とすることができない。また、硫化剤の添加量が不純物量の11倍モル当量を超えると、コバルトの共沈量が多くなり、硫化剤原単位が悪化する。
【0029】
以上より、硫化剤の添加量を、塩化コバルト溶液に含まれる不純物量に対して9〜11倍モル当量とすることで、硫化剤の添加量を不純物の除去に必要な量に抑えることができ、硫化剤原単位を低くできる。
【0030】
また、不純物量を基準として硫化剤の添加量を調整するので、従来のように酸化還元電位を基準とする場合に比べて、添加量の調整が容易となる。そのため、硫化剤を過剰に添加する必要がない。
【0031】
以上のように、有価物であるコバルトのロスを低減でき、かつ、硫化剤原単位を低くできる。なお、硫化澱物に含有されるコバルト量が低下することから、浸出工程に繰り返されるコバルト量も低下するので、浸出工程における塩素使用量を削減でき、コバルト溶媒抽出工程における塩酸使用量を削減できる。
【実施例】
【0032】
つぎに、実施例を説明する。
(共通の条件)
上記湿式精錬プロセスの脱銅工程において、塩化コバルト溶液を浄液した。塩化コバルト溶液の詳細は以下の通りである。なお、硫化剤として硫化水素、pH調整剤として炭酸コバルトを用いた。
塩化コバルト溶液流量 : 90〜120L/min
塩化コバルト溶液有価物濃度:Co 60〜70g/L
塩化コバルト溶液不純物濃度:Cu 60〜110mg/L、Pb 1〜10mg/L
【0033】
(実施例1)
反応槽内の塩化コバルト溶液のpHが1.35となるようにpH調整剤の添加量を調整した。また、硫化剤の添加量を脱銅工程で処理する銅量に対して10倍モル当量とした。図4に示すように、2012年10月〜2013年6月の8ヶ月間の操業の結果、硫化剤原単位は7.0〜8.0kg/tの範囲となり、平均値は約7.3kg/tであった。また、硫化澱物のCo/Cu比は平均で2.9であった。
【0034】
(比較例1)
反応槽内の塩化コバルト溶液のpHが2.0〜2.5となるようにpH調整剤の添加量を調整した。また、硫化剤は流量を一定として添加した。図4に示すように、2012年4月〜9月の6ヶ月間の操業の結果、硫化剤原単位は8.0〜12.0kg/tの範囲となり、平均値は約9.3kg/tであった。また、硫化澱物のCo/Cu比は平均で4.9であった。
【0035】
以上より、実施例1は比較例1に比べて、硫化剤原単位を約20%低減できることが確認された。また、Co/Cu比は約40%低減できることが確認された。
図1
図2
図3
図4