特開2015-227510(P2015-227510A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-227510(P2015-227510A)
(43)【公開日】2015年12月17日
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20151120BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20151120BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C22B3/08
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-153082(P2015-153082)
(22)【出願日】2015年8月3日
(62)【分割の表示】特願2013-195610(P2013-195610)の分割
【原出願日】2013年9月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-56012(P2013-56012)
(32)【優先日】2013年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝輝
(72)【発明者】
【氏名】西川 勲
(72)【発明者】
【氏名】樋口 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】杉田 泉
(72)【発明者】
【氏名】中野 修
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA02
4K001DB03
4K001DB14
(57)【要約】
【課題】ニッケル酸化鉱石の高温加圧酸浸出による湿式製錬方法において、鉄の大部分をヘマタイトの形で浸出残渣に固定化するために高鉄酸化率を達成し、浸出時における硫酸使用量を抑え、ニッケル及びコバルトを高い浸出率で浸出させる。
【解決手段】ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーに硫酸を添加し、高圧空気並びに高圧水蒸気を用いて浸出処理を施し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る工程を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、浸出液を得る工程では、高圧空気及び高圧酸素からなる吹き込みガスの酸素純度が21〜60%となるように吹込み比率を調整し、且つ、該酸素純度を維持しながら酸素吹込量を、上記鉱石スラリーに含有されており該工程に装入される炭素量1トン当たり200〜600[Nm−O/t−C]として、浸出処理における酸化還元電位(Ag/AgCl基準)を400〜650mVに制御する
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーに硫酸を添加し、高圧空気並びに高圧水蒸気を用いて浸出処理を施し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る工程を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、
上記浸出液を得る工程では、高圧空気及び高圧酸素からなる吹き込みガスの酸素純度が21〜60%となるように吹込み比率を調整し、且つ、該酸素純度を維持しながら酸素吹込量を、上記鉱石スラリーに含有されており該工程に装入される炭素量1トン当たり200〜600[Nm−O/t−C]として、浸出処理における酸化還元電位(Ag/AgCl基準)を400〜650mVに制御することを特徴とするニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項2】
上記鉱石スラリーは、スラリー濃度が25〜45重量%となるように調製されることを特徴とする請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項3】
上記浸出液を得る工程において得られた浸出液のpHが0.1〜1.0であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項4】
上記高圧空気及び上記高圧酸素を上記酸素純度となるように予め混合しておくことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項5】
上記浸出液を得る工程において生成される炭酸ガスを圧力自動制御システムによって放出することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石から高温加圧下で酸を用いてニッケル及びコバルトを浸出させて回収するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄が主成分で、ニッケルを1〜2重量%含有するニッケル酸化鉱石から、ニッケル及びコバルトを鉄と分離して回収する製錬プロセスとして、例えば、ニッケル酸化鉱石を焙焼し、ニッケル分を還元して硫化し、その後、熔錬してニッケル硫化物を含むマットを製造する乾式製錬法、或いは、ニッケル酸化鉱石を還元焙焼した後に、アンモニア錯イオンを生成しながら、選択的にニッケル及びコバルトを浸出する還元焙焼−浸出法が行われていた。
【0003】
しかしながら、これらの製錬プロセスは、付着水分が多い原料鉱石を乾燥及び焙焼するための乾式処理工程を含み、しかも選択的にニッケル及びコバルトだけを還元することが不可能であるため、エネルギー的にもコスト的にも無駄が多いという問題があった。したがって、これらの製錬プロセスに対して、簡便かつ低コストで実施することができるプロセスの開発が望まれていた。
【0004】
近年、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、硫酸を用いた高温加圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach)が注目されている。この方法は、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法である乾式製錬法と異なり、還元及び乾燥工程等の乾式工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利である。また、この方法では、ニッケル品位を50重量%程度まで上昇したニッケルとコバルトを含む硫化物(以下、「ニッケル・コバルト混合硫化物」ともいう。)を得ることができるという利点を有している。
【0005】
この高温加圧酸浸出法は、例えば、原料のニッケル酸化鉱石を所定の大きさに粉砕等してスラリーとする鉱石スラリー調製工程(以下の「第1工程」に相当。)と、鉱石スラリーに硫酸を添加してオートクレーブ等を用いた200℃以上の高温高圧下で浸出処理を施して浸出スラリーを得る浸出工程(以下の「第2工程」に相当。)と、浸出スラリー中の浸出残渣とニッケル及びコバルトを含む浸出液とを分離する固液分離工程、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液のpHを調整し、鉄等の不純物元素を含む中和澱物スラリーと浄液されたニッケル回収用母液とを生成する中和工程と、そのニッケル回収用母液に硫化水素ガス等の硫化剤を供給して、ニッケル・コバルト混合硫化物と貧液とを生成させる硫化工程とを有する(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
ところで、高温加圧酸浸出法では、浸出工程において、加圧浸出反応器内の浸出液の酸化還元電位及び温度を制御することにより、主要不純物である鉄をヘマタイト(Fe)の形で浸出残渣に固定して、鉄に対し選択的にニッケル及びコバルトを浸出することができるので、非常に大きなメリットがある。その反面、鉱石の組成、含有する有機成分等のバラつきの大きなニッケル酸化鉱石に対し、焙焼工程を経ずに直接浸出処理を施すため、特にニッケル酸化鉱石の有機成分の含有量によって浸出時の酸化還元電位(ORP)が大きく変動してしまうという課題があった。
【0007】
例えば、浸出時の酸化還元電位が高すぎる場合には、ニッケル酸化鉱石中に含まれるクロムが6価まで酸化された状態で浸出される。この6価のクロムを、後工程の中和処理工程や排水処理工程で除去するためには、還元剤を使用して3価に還元することが必要であり、製錬コストの上昇が必至となる。還元処理を行わないと、ニッケルやコバルトの製品中にクロムが不純物として含まれたり、或いは排水処理の終液にクロムが残留するという問題が起きる。一方で、浸出時の酸化還元電位が低すぎると、耐食材としてオートクレーブに使われるチタンを劣化させるとともに、鉄の高温熱加水分解反応が抑制されて浸出液中に多量の鉄が残留し、後工程の中和処理工程での薬剤の使用量とニッケル及びコバルトの共沈量の上昇、すなわちロスの上昇を起こしてしまうという問題が起きる。
【0008】
これに対する解決策として、例えば、鉱石スラリーに硫黄及び炭素化合物のうちの一つ以上を添加して、浸出液の酸化還元電位(Ag/AgCl基準)を400〜600mVに制御して浸出を行う方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この方法では、添加された硫黄及び炭素化合物を還元剤として作用させることによって、酸化還元電位を低下させて6価のクロムが溶出しない600mV以下に制御するというものである。なお、酸化還元電位が400mV未満では、鉄の酸化加水分解反応が不良となるだけでなく、設備材料の耐食性を損ねるので、硫黄又は炭素化合物の添加量を調整して酸化還元電位を400〜600mVに制御する。
【0009】
また、還元剤を添加することなく、硫黄及び炭素化合物含有量の異なる鉱石種をこれらの調合比率を変更することで、目的とする酸化還元電位(Ag/AgCl基準)を400〜600mVに制御する方法も開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0010】
上述の特許文献2に記載の方法を用いた浸出工程における浸出処理では、浸出された鉄をヘマタイトに酸化し加水分解するため、酸化剤として通常は高圧空気を使用し、且つ反応容器内を加圧下に維持することが不可欠となる。しかしながら、この方法においては、高圧空気の使用条件に関しては開示されていない。この方法では、鉱石の組成や有機成分含有量のバラつきによる酸化還元電位の変動に対処し、特に酸化還元電位の低下による3価の鉄への「鉄酸化率」の低下とクロムの溶出を防止する観点から、添加された硫黄及び炭素化合物を還元剤として作用させることで酸化還元電位を低下させるということを主眼としているため、酸化還元電位の制御のため過剰量の高圧空気を吹き込んでいた。その結果、加圧反応容器からの排ガス量が増加し、それに伴う熱損失が上昇し、それを補って加圧反応容器内の温度を維持するために温度調節に用いる高圧水蒸気の使用量が増加してしまい、エネルギーコストの悪化を招いていた。
【0011】
また、特許文献3に記載の方法を用いた浸出工程における浸出処理では、鉱石スラリーを調製する第1工程において、硫黄及び炭素化合物含有量の異なる鉱石種の調合比率を変更することにより、主として、予め目的とする鉱石スラリー中固形分の炭素品位を調整し、第2工程の浸出処理時に過剰の高圧空気の吹込みの抑制を図っている。しかしながら、鉱石種によっては、それらの組成や有機成分含有量にバラつきがあるため、調合比率の制約を受けることのみならず、混合比率によっては鉱石スラリー中の固形分のマグネシウム及びアルミニウム品位の上昇を招く。これらのマグネシウムやアルミニウム等の不純物は、第2工程の酸浸出において添加される硫酸と反応し、その硫酸を消費してしまうため、ニッケル、コバルトの浸出率を低下させることになる。これを回避するためには、過剰量の硫酸添加が必要となるが、その場合、後工程の中和処理工程での薬剤の使用量の増加とニッケル及びコバルトの共沈量の上昇を招くという問題が起きていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−350766号公報
【特許文献2】特開2005−281733号公報
【特許文献3】特開2009−197298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石の高温加圧酸浸出法による湿式製錬方法において、主要不純物である鉄の大部分をヘマタイトの形で浸出残渣に固定化するために高い鉄の酸化率を達成し、浸出時における硫酸の使用量を抑えて薬剤コストを削減し、さらにニッケル及びコバルトを高い浸出率で浸出させることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、鉱石スラリーに含有され浸出液を得る工程に装入される炭素量に応じて、酸化雰囲気の維持のために用いる高圧空気の一部を高圧酸素に置き換えて酸素純度を高めるとともに酸素吹込量を所定の範囲に維持させることで、浸出時における液のORPを最適な範囲に制御することが可能となり、酸浸出において不純物となるマグネシウム及びアルミニウム等の品位を低く抑えて硫酸使用量を低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーに硫酸を添加し、高圧空気並びに高圧水蒸気を用いて浸出処理を施し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る工程を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、上記浸出液を得る工程では、高圧空気及び高圧酸素からなる吹き込みガスの酸素純度が21〜60%となるように吹込み比率を調整し、且つ、該酸素純度を維持しながら酸素吹込量を、上記鉱石スラリーに含有されており該工程に装入される炭素量1トン当たり200〜600[Nm−O/t−C]として、浸出処理における酸化還元電位(Ag/AgCl基準)を400〜650mVに制御することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、上記鉱石スラリーは、スラリー濃度が25〜45重量%となるように調製されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、上記浸出液を得る工程において得られた浸出液のpHが0.1〜1.0であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、上記高圧空気及び上記高圧酸素を上記酸素純度となるように予め混合しておくことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、上記浸出液を得る工程において生成される炭酸ガスを圧力自動制御システムによって放出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法によれば、不純物である鉄の大部分を高い酸化率で酸化してヘマタイトの形で浸出残渣として固定化することができる。また、従来では鉄酸化の阻害から困難であった炭素品位の高い鉱石の処理量の増加が可能となってマグネシウム及びアルミニウム等の品位を低く抑えることができ、硫酸使用量を抑えることができるとともに、ニッケル及びコバルトを高い浸出率で浸出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1における処理鉱石スラリー中に含まれる単位炭素1トン当りの酸素吹き込み量と酸浸出液の酸化還元電位(ORP)との関係を表すグラフ図である。
図2】実施例1における鉱石の炭素品位と酸浸出液の酸化還元電位(ORP)との関係を表すグラフ図である。
図3】実施例1における鉱石の炭素品位と鉄酸化率を表す(Fe(III)/Fe、total)比との関係を表すグラフ図である。
図4】実施例1における加圧反応容器内の酸素分圧と酸浸出液の酸化還元電位(ORP)との関係を表すグラフ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0023】
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法(以下、単に「湿式製錬方法」ともいう。)は、ニッケル酸化鉱石をスラリー化して鉱石スラリーを調製する第1工程と、調製した鉱石スラリーに硫酸を添加し、高圧空気並びに高圧水蒸気を用いて浸出処理を施し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る第2工程とを含むものである。
【0024】
この湿式製錬方法では、先ず、第1工程において製造され、第2工程に装入される鉱石スラリーに含有される炭素量を測定する。炭素量は、鉱石スラリー中の炭素品位、および、流量を測定して、測定することができる。そして、第2工程においては、高圧空気及び高圧酸素からなる吹き込みガスの酸素純度が21〜60%となるように吹込み比率を調整するとともに、酸素吹込量を鉱石スラリー中に含有される炭素量1トン当たり200〜600[Nm−O/t−C]として、浸出処理における酸化還元電位(Ag/AgCl基準)を400〜650mVに制御する。
【0025】
このように、本実施の形態に係る湿式製錬方法では、第2工程の浸出処理において、工程に装入される炭素量(重量)に合わせて、高圧空気及び高圧酸素からなる吹込みガスの酸素純度を調整すること、そして所定の酸素純度に調整された吹込みガスの酸素吹込量を調整することが重要である。
【0026】
炭素量は、第1工程から第2工程に移送される途中の鉱石スラリー中について、炭素品位、および、流量を公知の方法によって測定することにより、算出することができる。例えば、炭素品位は、酸素気流中で高周波燃焼させ赤外線吸収法により測定する一般的な炭素硫黄分析装置により算出できる。流量は、密度計と電磁流量計の測定値から算出することができる。
【0027】
これにより、鉱石スラリーの炭素量に合わせて、浸出処理を行う加圧反応容器(浸出容器)内の酸素分圧を調整することが可能となり、浸出液の酸化還元電位(Ag/AgCl基準)を400〜650mVに制御することができる。そして、このことにより、主要不純物である鉄の大部分を高い酸化率(高鉄酸化率)で酸化させて、ヘマタイト(Fe)の形で浸出残渣として固定することができるとともに、硫酸使用量を抑えてニッケル及びコバルトを高い浸出率で浸出させることができる。
【0028】
(第1工程)
先ず、第1工程では、上述したように、ニッケル酸化鉱石をスラリー化して鉱石スラリーを調製する。
【0029】
原料のニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。このラテライト鉱におけるニッケル含有量は、通常、0.5〜3.0重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト、FeOOH)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。
【0030】
この第1工程において、上述したニッケル酸化鉱石を水中で解砕及び粉砕してスラリー化する。その後、例えば、シックナー等の固液分離装置を用いてスラリー中の余剰の水を除去し濃縮して、所定濃度の鉱石スラリーを調製する。このとき、第1工程では、原料として炭素量の異なる複数種のニッケル酸化鉱石の混合割合により、鉱石スラリーの固形分中の炭素品位を所定範囲内となるように調整してもよい。
【0031】
ここで、従来の高温加圧酸浸出法による湿式製錬方法では、採掘されたニッケル酸化鉱石の鉱石種によって有機成分を比較的多く含有しているものがあり、それらの混合割合が高い場合には、浸出時の酸化還元電位が著しく低下してしまっていた。そして、このように酸化還元電位が低下すると、鉱石中の鉄の酸化反応が促進されなくなるため、浸出液中に2価の鉄イオンが多量に残留する結果、後工程で粗硫酸水溶液(ニッケル・コバルト混合水溶液)から鉄を分離することが困難となり、または分離に必要な操業資材コストの上昇を招いていた。しかも、加圧反応容器、並びに付帯設備の耐蝕性劣化を招くことにもなっていた。
【0032】
したがって、後述する第2工程における浸出処理では、酸化還元電位を最適な範囲に維持することが重要となる。具体的には、浸出時における溶液の酸化還元電位(Ag/AgCl基準)としては、400〜650mVに制御することが好ましく、500〜600mVに制御することがより好ましい。すなわち、浸出時の酸化還元電位が400mV未満では、鉄の酸化反応が不良となるだけでなく、設備材料の耐食性を損ねる。一方で、酸化還元電位が650mVを超えると、酸浸出液中の鉄が2価から略完全に3価にまで酸化されると同時に、クロムが6価まで酸化され、ニッケルやコバルトの製品にクロムが不純物として含まれ、或いは排水処理の終液にクロムが残留するという問題が起きる。
【0033】
そこで、まず、後述する第2工程に装入される単位時間当たりの炭素量(トン/時間)を把握するために、製造した鉱石スラリーに含まれる炭素品位(重量%)を測定し、合わせて第2工程に装入される単位時間当たりの流量(トン/時間)を測定する。炭素品位及び単位時間当たりの流量の測定値から、単位時間当たりの炭素量(A)を算出して把握する。
【0034】
鉱石スラリーに含まれる炭素品位(重量%)は、特に限定されるものではないものの、単位時間当たりの炭素量を安定させるため、鉱石スラリーの固形分中の炭素品位としては0.1〜0.5重量%、より好ましくは0.15〜0.20重量%となるように調整することが好ましい。
【0035】
鉱石スラリー中の固形分中の炭素品位の調整方法としては、例えば、処理される複数種のニッケル酸化鉱石中の炭素品位を定期的に分析し、その分析結果に基づいて混合割合を決定して配合する方法がある。
【0036】
鉱石スラリーの固形分中の炭素品位が変動、特に上記範囲より広い範囲で変動すると、単位時間当たりの炭素量の変動が大きくなり、第2工程において、吹き込む酸素濃度や流量の調整の幅が大きくなるため、設備の能力や寿命の面で不利となる。
【0037】
第1工程で調製する鉱石スラリーのスラリー濃度としては、処理されるニッケル酸化鉱の性質に大きく左右されるため、特に限定されるものではないが、浸出スラリーのスラリー濃度は高い方が好ましく、通常、概ね25〜45重量%に調製される。すなわち、スラリー濃度が25重量%未満では、浸出の際に、同じ滞留時間を得るために大きな設備が必要となり、酸の添加量も残留酸濃度を調整のために増加する。また、得られる浸出液のニッケル濃度が低くなる。一方で、スラリー濃度が45重量%を超えると、設備の規模は小さくできるものの、スラリー自体の粘性(降伏応力)が高くなり、搬送が困難(管内閉塞の頻発、エネルギーを要する等)という問題が生じることとなる。
【0038】
(第2工程)
次に、第2工程では、鉱石スラリーに硫酸を添加し、酸化剤としての高圧空気と加熱源としての高圧水蒸気を吹込み、所定の圧力及び温度下に制御して攪拌しながら浸出処理を施し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを得る。
【0039】
具体的には、220〜280℃程度の高い温度条件下で、3〜6MPaG程度に加圧することによって鉱石スラリーを攪拌し、浸出スラリーを形成する。そのため、この浸出処理では、これら処理条件に対応可能なように高温加圧容器(加圧反応容器)(オートクレーブ)が用いられる。
【0040】
この第2工程においては、下記式(1)〜(3)で表される浸出反応と下記式(4)、(5)で表される高温加水分解反応によって、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は、完全には進行しないので得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等のほか、2価と3価の鉄イオンが含まれるのが通常である。
【0041】
「浸出反応」
MO+HSO ⇒ MSO+HO ・・・(1)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す。)
2FeOOH+3HSO ⇒ Fe(SO+4HO ・・・(2)
FeO+HSO ⇒ FeSO+HO ・・・(3)
【0042】
「高温加水分解反応」
2FeSO+HSO+1/2O
⇒ Fe(SO+HO ・・・(4)
Fe(SO+3HO ⇒ Fe+3HSO ・・・(5)
【0043】
この浸出処理における温度としては、特に限定されるものではないが、上述のように220〜280℃が好ましく、240〜270℃がより好ましい。このような温度範囲で反応を行うことにより、鉄をヘマタイトとして固定化させることができる。温度が220℃未満では、高温熱加水分解反応の速度が遅いため反応溶液中に鉄が溶存して残り、鉄を除去するための後工程の中和工程における負荷が増加し、ニッケルとの分離が非常に困難となる。一方で、280℃を超えると、高温熱加水分解反応自体は促進されるものの、高温加圧浸出に用いる容器の材質の選定が難しいだけでなく、温度上昇に掛かる高圧水蒸気のコストが上昇するため不適当である。
【0044】
また、添加する硫酸量としては、特に限定されるものではないが、例えば、乾燥鉱石1トン当り200〜250[kg−HSO/t−dry Solid]程度とすることが好ましい。乾燥鉱石1トン当りの硫酸添加量が多すぎると、硫酸の使用に伴うコストが上昇し、また後工程の中和工程における中和剤使用量が多くなり好ましくない。
【0045】
なお、得られる浸出液のpHは、固液分離工程での生成されたヘマタイトを含む浸出残渣のろ過性の観点から、0.1〜1.0に調整されることが好ましい。
【0046】
ここで、従来法では、過剰の高圧空気の吹込みなしに、酸化還元電位を650mV以下に制御することは困難であった。具体的には、鉱石スラリーの固液分中の炭素単位重量(1トン)当たり700〜800Nmの空気吹込量とする必要があった。
【0047】
また、炭素単位重量に関連する炭素品位を極力小さくするために複数種のニッケル酸化鉱石の配合を変更しようとすると、固形分中にマグネシウムやアルミニウムといった不純物の含有量が上昇することになる。すると、浸出反応に際して、これら不純物によって硫酸が消費され、それを補う分の硫酸量を過剰に添加する必要が生じるとともに、浸出させるべきニッケルやコバルトの添加硫酸量に対する浸出率が著しく低下する。そしてまた、浸出反応時の酸化雰囲気維持のために、より一層に過剰量の高圧空気を吹き込む必要が生じる。
【0048】
そこで、本実施の形態に係る湿式製錬方法では、この第2工程において装入される単位時間当たりの炭素量(トン/時間)に応じて、吹込み酸素純度を所定値に調整する。具体的には、高圧空気と共に高圧酸素を用い、その酸素純度(濃度)が21〜60%となるように吹込み比率を調整する。これにより、加圧反応容器内の酸素分圧を100〜400kPaGに調整させることができ、鉄に対する酸化反応の影響を制御し、過度の変動を抑制することができる。
【0049】
酸素純度が21%未満であると、高圧空気のみを吹込んだ場合とほぼ同じとなり、過剰量の高圧空気を吹込む必要性が生じるとともに、鉱石スラリー中に配合させる鉱石の炭素品位の極力低く抑える必要が生じ、マグネシウムやアルミニウム等の不純物品位を増加させる。一方で、酸素純度が60%を超えると、過度に酸化雰囲気となるため、酸化還元電位を400〜650mVの範囲に制御することが困難となり、鉱石中のクロムが酸化されて製品品質を悪化させる。
【0050】
高圧空気と高圧酸素との吹込み比率の調整は、上述した炭素品位と単位時間当たりの流量より求めた、第2工程に装入される単位時間当たりの炭素量(トン/時間)に応じて、酸素吹込み量が、炭素量当たり、200〜600[Nm−O/t−C]となるように、高圧空気と高圧酸素の供給割合(比率)を調整する。
【0051】
具体的には、単位時間当たりの炭素量が増加した場合には、上述した酸素純度の範囲内で、高圧酸素の比率を増加させ、第2工程に吹き込む総ガス量の増加を抑え、排ガス量増加に伴う熱損失増加ひいては第2工程に吹き込む高圧水蒸気使用量増加にともなうエネルギーコストの悪化を回避する。
【0052】
また、高圧空気と高圧酸素の吹込みは、上述した酸素純度となる吹込み比率となるように、例えば混合管等において予め混合(予備混合)した後に、その混合ガスを加圧反応容器内に吹込むようにすることが好ましい。ここで、高圧酸素は、酸素製造プラント等から例えばチタン(Ti)製の配管を介して浸出容器内に供給される。なお、チタン(Ti)は、この湿式製錬方法を工業的に実施するために、オートクレーブの内貼り材等にも好適に使用される材料である。配管には、チャッキ弁等の逆止弁が設けられているが、そのチャッキ弁によって削られた切削屑がTi配管に形成された酸化膜(TiO)の一部を削ることがある。このようにTi配管に形成された酸化膜が削られると、その削られた箇所に供給された、例えば濃度が90%以上の高圧酸素が直接接触し、酸素とチタンとが急激に反応して配管を損傷させることがある。このとき、吹込む高圧酸素を高圧空気と所定の比率で予め混合させた上で配管を介して供給することで、高濃度の酸素が配管に接触することを抑制することができ、配管の損傷を防止することができる。また、このような配管の損傷を防止するという観点では、酸素純度を上述の通り21〜60%となるように予備的に混合してもよいが、30%程度を上限として予備的に混合することがより好ましい。
【0053】
吹込む高圧空気及び高圧酸素としては、工業用に通常用いられる高圧ガスを用いることができ、例えば3〜6MPaGの圧力のものを用いることができる。なお、高圧水蒸気についても、工業用に通常用いられる高圧水蒸気が用いることができ、例えば3〜6MPaGの圧力のものを用いることができる。
【0054】
加圧反応容器内の酸素分圧の調整は、浸出液の酸化還元電位を所定値に制御するために、上述したように高圧空気と高圧酸素との吹込み比率を調整して吹込み酸素純度を所定範囲にすることで行われる。通常の操業においては、浸出時に生成される炭酸ガスが加圧反応容器内にそのままパージされ、酸化雰囲気を維持することが可能となっている。そのため、生成した炭酸ガスは、加圧反応容器に設けた圧力自動制御システムによって、発生した排ガスと随伴させて適時放出することが好ましい。これにより、加圧反応容器内の酸素分圧を100〜400kPaGの範囲に適切に調整することができ、過剰に酸化雰囲気となることを防止することができる。
【0055】
また、本実施の形態に係る湿式製錬方法では、鉱石スラリー処理量に応じて、高圧空気及び高圧酸素の混合比率を一定に保って上述した酸素純度を維持しながら、それぞれの吹込み量を変更することによって、所定の酸素吹込量となるように調整する。
【0056】
具体的には、酸素吹込量を、鉱石スラリー中に含有される炭素量1トン当たり200〜600[Nm−O/t−C]に調整する。このことにより、連続した浸出反応においても、加圧反応容器内の酸化雰囲気が安定的に所定値に制御されるので、浸出液の酸化還元電位を400〜650mVの範囲に効率的に制御することができる。そして、これにより、浸出液中の総鉄イオン濃度に対する3価の鉄イオン濃度の比率を表す鉄酸化率(Fe(III)/Fe,Total×100)が90%以上となり、特に前記した鉱石スラリー中の固形分の炭素品位が0.15重量%以下であれば略100%となり、鉱石中の鉄をヘマタイトの形態で浸出残渣として効果的に固定化することができる。
【0057】
上述した酸素吹込量に関して、酸素吹込量が200[Nm−O/t−C]未満では、浸出液の酸化還元電位が低下し、酸化還元電位を400mV以上に制御することが難しくなる。これにより、鉄の酸化加水分解反応が不良となるだけでなく、設備材料の耐食性を損ねる可能性がある。一方で、酸素吹込量が600[Nm−O/t−C]を超えると、浸出液の酸化還元電位は上昇するものの、排ガス量の増加に伴って熱損失が上昇し、温度を維持するための高圧水蒸気の使用量が増加する。
【0058】
以上のように、本実施の形態に係る湿式製錬方法では、酸化雰囲気の維持のために高圧空気と共に高圧酸素を吹込み、すなわち吹込み高圧空気の一部を高圧酸素に置き換えて、加圧反応容器内に吹込む酸素純度を21〜60%に上昇させ、その酸素純度を維持しながら単位時間当たりの炭素量当たりの酸素吹込量を200〜600[Nm−O/t−C]とする。これにより、浸出時における溶液の酸化還元電位(Ag/AgCl基準)を400〜650mVの最適な範囲に制御して、3価の鉄への高鉄酸化率を達成することができる。
【0059】
また、このようにすることで、処理鉱石中の炭素品位を上昇させることが可能となる。すなわち、従来では鉄酸化の阻害から困難であった炭素品位の高い鉱石の処理量を増加させることが可能となり、それによりマグネシウム及びアルミニウム等の品位を低く抑えることができる。このため、浸出反応に際して、これらマグネシウム及びアルミニウムの不純物による硫酸の消費を抑えることができ、硫酸使用量を抑制することができるとともに、ニッケルやコバルトの浸出阻害(ニッケル、コバルトの浸出残渣への共沈)を防止することができる。また、このように硫酸使用量が抑えられるため、後工程の中和工程において、中和処理に用いる薬剤(中和剤)の使用量をも削減することができ、操業において使用する薬剤コストを低減することができる。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0061】
なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析は、ICP発光分析法を用いた。また、炭素品位は、酸素気流中で高周波燃焼させ赤外線吸収法による測定する一般的な炭素硫黄分析装置により測定し、流量は、密度計と電磁流量計の測定値から算出した。
【0062】
(概況)
実施例及び比較例の概況は次の通りである。すなわち、鉱石スラリー中の固形分の炭素(C)品位が0.3重量%以下、ニッケル品位が1.15〜1.35重量%、及び鉄品位が40〜46重量%のニッケル酸化鉱石を、固形率が約40〜45重量%のスラリーとし、加圧反応容器内に投入して連続的に浸出反応を行った。
【0063】
その際、反応終液中のフリー硫酸濃度が約50g/lとなるように硫酸を添加し、同時に約5MPaGの高圧水蒸気を吹き込み、攪拌しながら245℃の温度に保持して、得られた浸出スラリーの鉄濃度と酸化還元電位(ORP)(Ag/AgCl電極基準)を測定した。
【0064】
実施例においては、加圧反応容器内に、約5MPaGの高圧空気及び高圧酸素を、その酸素純度を21〜60%の範囲内に調整して吹き込んだ。一方、比較例において、高圧酸素の吹込みはせず、高圧空気のみの吹込みを行い、従って酸素純度は20%であった。また、実施例においては、炭素量(A)1トン当たり200〜600[Nm−O/t−C]の酸素吹込量で吹き込むことが可能で、その結果、容器内の酸素分圧は100〜350kPaGとなった。
【0065】
一方、比較例2においては、炭素負荷が高いため、鉱石スラリーの固形分中の炭素1トン当たり167[Nm−O/t−C]の酸素吹込量しか吹き込むことができず、その結果、容器内酸素分圧は90kPaG程度であった。
【0066】
また、硫酸の使用量は、実施例においては、乾燥鉱石1トン当たり200〜235[kg−HSO/t−dry Solid]であったのに対して、比較例においては、240[kg−HSO/t−dry Solid]以上となった。
【0067】
また、得られた浸出スラリーに炭酸カルシウムスラリーを添加し、3価のFeイオンを酸化中和除去することで、液中に残留する2価のFe濃度を分析した。2価のFe濃度の分析結果に基づいて、浸出スラリー中の浸出液の総Fe濃度と中和後液中の2価のFe濃度及び液量から逆算した浸出液の3価のFe濃度を用い、浸出液中の鉄酸化率((3価の鉄濃度/総鉄濃度)×100)を求めた。
【0068】
図1に、処理鉱石スラリー中に含まれる単位炭素量1トン当たりの酸素吹き込み量と加圧反応容器(オートクレーブ)内の酸浸出液の酸化還元電位を示す。鉱石の炭素品位とは、無関係に(限定されず)、処理鉱石スラリー中に含まれる単位炭素1トン当たりの酸素吹込み量が200〜600[Nm−O/t−C]の範囲で、酸浸出液の酸化還元電位が500〜650mVとなっていることがわかる。
【0069】
一方、鉱石の炭素品位と酸浸出液のORPとの関係は次のようになる。図2及び図3に、測定結果を示す。図2が、鉱石の炭素品位と酸浸出液のORPとの関係を表すグラフ図であり、図3が、鉱石の炭素品位と鉄酸化率を表す(Fe(III)/Fe、total)比との関係を表すグラフ図である。
【0070】
図2及び図3のグラフに示されるように、鉱石の炭素品位が0.15〜0.30重量%であれば、浸出液の酸化還元電位が500〜650mVとなることはもちろん、浸出液中の鉄酸化率が90%以上となることが分かる。また、鉱石の炭素品位が0.15重量%以下であれば、浸出液中の鉄酸化率が100%となることが分かる。
【0071】
また図4には、加圧反応容器内の酸素分圧と酸浸出液のORPとの関係を表すグラフ図を示す。この図4のグラフに示されるように、容器内に吹込むガスの酸素純度を上昇させ、また酸素吹込量を増加させて、加圧反応容器内の酸素分圧を上昇させることによって、浸出液のORPはそれに比例して上昇することが分かる。また、このORPは、反応容器に投入された鉱石スラリーの固形分中の炭素品位の影響を受けることから、一定のORPを保持するために加圧反応容器内の酸素分圧を調整する必要があることが分かる。
【0072】
<実施例1〜4、比較例1、2>
(実施例1)
実施例1は、固形分中の炭素(C)品位を0.22重量%とし、約5MPaGの高圧空気及び高圧酸素をその酸素純度を46.6%に調整し、炭素量1トン当たり426[Nm−O/t−C]の酸素吹込量で吹き込み、容器内酸素分圧は277kPaGに調整するように操業した。なお、約5MPaGの高圧水蒸気を吹き込み、攪拌しながら245℃の温度に保持しながら操業した。
【0073】
その結果、得られた浸出スラリーのORP(Ag/AgCl電極基準)は、559mVと好適に維持され、乾燥鉱石1トン当たりの硫酸の使用量は、226[kg−HSO/t−dry Solid]と好適な量となった。
【0074】
(実施例2)
実施例2では、固形分中の炭素(C)品位を0.23重量%とし、約5MPaGの高圧空気及び高圧酸素をその酸素純度を47.8%に調整し、炭素量1トン当たり317[Nm−O/t−C]の酸素吹込量で吹き込み、容器内酸素分圧は277kPaGに調整するように操業した。なお、約5MPaGの高圧水蒸気を吹き込み、攪拌しながら245℃の温度に保持しながら操業した。
【0075】
その結果、得られた浸出スラリーのORP(Ag/AgCl電極基準)は、518mVと好適に維持され、乾燥鉱石1トン当たりの硫酸の使用量は、219[kg−HSO/t−dry Solid]と好適な量となった。
【0076】
(実施例3)
実施例3では、固形分中の炭素(C)品位を0.24重量%とし、約5MPaGの高圧空気及び高圧酸素をその酸素純度を54.7%に調整し、炭素量1トン当たり412[Nm−O/t−C]の酸素吹込量で吹き込み、容器内酸素分圧は325kPaGに調整するように操業した。なお、約5MPaGの高圧水蒸気を吹き込み、攪拌しながら245℃の温度に保持しながら操業した。
【0077】
その結果、得られた浸出スラリーのORP(Ag/AgCl電極基準)は、528mVと好適に維持され、乾燥鉱石1トン当たりの硫酸の使用量は、232[kg−HSO/t−dry Solid]と好適な量となった。
【0078】
(実施例4)
実施例4では、市販のガス混合装置を使用して、高圧空気及び高圧酸素を予備的に混合したこと以外は、実施例1と同様の操業を行った。
【0079】
その結果、実施例1と同様の好適な結果が得られた。
【0080】
(比較例1)
比較例1では、固形分中の炭素(C)品位を0.14重量%とし、約5MPaGの高圧空気のみ(酸素純度は20.0%)を吹き込む操業を行った。そのため、炭素量1トン当たり285[Nm−O/t−C]の酸素吹込量となり、容器内酸素分圧は101kPaGとなった。なお、約5MPaGの高圧水蒸気を吹き込み、攪拌しながら245℃の温度に保持しながら操業を行った。
【0081】
その結果、得られた浸出スラリーのORP(Ag/AgCl電極基準)は、670mVと好適に維持されたものの、乾燥鉱石1トン当たりの硫酸の使用量は、292[kg−HSO/t−dry Solid]と増加した。このことは、ORPを好適な範囲に維持するために、固形分中の炭素(C)品位を小さくしたことで、鉱石スラリー固形分中のMg+Al品位が高くなり、その結果として硫酸が消費されたためと考えられる。
【0082】
(比較例2)
比較例2では、固形分中の炭素(C)品位を0.24重量%とし、約5MPaGの高圧空気のみ(酸素純度は20.0%)を吹き込む操業を行った。そのため、炭素量1トン当たり167[Nm−O/t−C]の酸素吹込量となり、容器内酸素分圧は90kPaGとなった。なお、約5MPaGの高圧水蒸気を吹き込み、攪拌しながら245℃の温度に保持しながら操業を行った。
【0083】
その結果、得られた浸出スラリーのORP(Ag/AgCl電極基準)は、473mVと低下した。また、乾燥鉱石1トン当たりの硫酸の使用量は、240[kg−HSO/t−dry Solid]となり、固形分中の炭素(C)品位は実施例3と比較して増加した。このことは、炭素量1トン当たりの酸素吹込量が200[Nm−O/t−C]を下まわりORPが低下した為に、オートクレーブ内での鉄の高温加水分解反応による硫酸の再生量が減少し、浸出に必要な遊離酸濃度を維持するために追加で硫酸を添加した為である。
【0084】
(結果)
下記表1に、実施例及び比較例における処理の結果をまとめて示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示されるように、酸素純度を45〜55%程度の範囲に調整し、酸素吹込量(吹込み酸素流量)を炭素量1トン当たり310〜430[Nm−O/t−C]程度とした実施例1〜4では、ORPが平均で535mVに制御され、最適なORP環境下で浸出処理を行うことができたことが分かる。また、硫酸使用量としても、乾燥鉱石1トン当たりの平均で227[kg−HSO/t−dry Solid]程度、最大値でも232[kg−HSO/t−dry Solid]となり、過剰量の硫酸を使用することなく、浸出処理を行うことができた。
【0087】
一方で、高圧空気のみの吹き込みを行った比較例1の場合、酸素純度が20.0%となり、酸素吹込量が285[Nm−O/t−C]となったものの、鉱石スラリーの炭素品位が0.21重量%と低かったために浸出液のORPは670mV程度に維持された。しかしながら、この比較例1では、鉱石スラリー固形分中の炭素品位を下げるべく、低炭素鉱石種の配合比率を上昇させたため、マグネシウム(Mg)及びアルミニウム(Al)品位が上昇した。その結果、これらが高圧酸浸出における不純物となって硫酸を消費し、所定のフリー硫酸濃度を維持するための硫酸使用量が大幅に上昇してしまい、乾燥鉱石1トン当たり270[kg−HSO/t−dry Solid]を超える量となった。
【0088】
また、高圧空気のみの吹き込みのために、炭素量1トン当たり167[Nm−O/t−C]程度の吹込み量しか確保できなかった比較例2の場合には、ORPが500mVを下回り、オートクレーブ内での鉄の高温加水分解反応による硫酸の再生量が減少し、浸出に必要な遊離酸濃度を維持するために追加で硫酸を添加した結果、乾燥鉱石1トン当たり240[kg−HSO/t−dry Solid]の硫酸使用量となった。
【0089】
以上のように、本発明を適用し、酸化雰囲気の維持のために用いる高圧空気の一部を高圧酸素に置き換えて酸素純度を高めとともに酸素吹込量を増加させることによって、浸出時における液のORPを最適な範囲に制御して、3価の鉄への高鉄酸化率を達成することができことが分かった。
【0090】
また、このようにすることで、処理鉱石中の炭素品位の上昇が可能となる。すなわち、炭素品位の高い鉱石配合比率の選択が可能となって、有限な構成資源を有効に活用できるとともに、酸浸出において不純物となるマグネシウム及びアルミニウム等の品位を低く抑えることが可能となる。これにより、浸出反応においてこれら不純物によって硫酸が消費されてしまうことを抑制し、その使用量を抑えて薬剤コストを削減できるとともに、硫酸使用量に対するニッケルやコバルトの浸出率を向上させることができることが分かった。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2015年10月2日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石をスラリー化して調製された鉱石スラリーに硫酸を添加し、高圧空気並びに高圧水蒸気を用いて浸出処理を施し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る工程を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、
上記鉱石スラリーは、スラリー濃度が25〜45重量%となるように調製され、
上記浸出液を得る工程では、高圧空気及び高圧酸素からなる吹き込みガスの酸素純度が21〜60%となるように吹込み比率を調整し、且つ、該酸素純度を維持しながら酸素吹込量を、上記鉱石スラリーに含有されており該工程に装入される炭素量1トン当たり200〜600[Nm−O/t−C]として、浸出処理における酸化還元電位(Ag/AgCl基準)を400〜650mVに制御することを特徴とするニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項2】
上記浸出液を得る工程において得られた浸出液のpHが0.1〜1.0であることを特徴とする請求項に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項3】
上記高圧空気及び上記高圧酸素を上記酸素純度となるように予め混合しておくことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項4】
上記浸出液を得る工程において生成される炭酸ガスを圧力自動制御システムによって放出することを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
すなわち、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石をスラリー化して調製された鉱石スラリーに硫酸を添加し、高圧空気並びに高圧水蒸気を用いて浸出処理を施し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る工程を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、上記鉱石スラリーは、スラリー濃度が25〜45重量%となるように調製され、上記浸出液を得る工程では、高圧空気及び高圧酸素からなる吹き込みガスの酸素純度が21〜60%となるように吹込み比率を調整し、且つ、該酸素純度を維持しながら酸素吹込量を、上記鉱石スラリーに含有されており該工程に装入される炭素量1トン当たり200〜600[Nm−O/t−C]として、浸出処理における酸化還元電位(Ag/AgCl基準)を400〜650mVに制御することを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】削除
【補正の内容】