【解決手段】粒子状マーカーが水系媒体に分散されており、ポリマーと識別性物質を含有し、平均粒子径が1nm〜100μmであり、前記ポリマーがレクチン残基を含有する置換スチレンを共重合している主骨格がスチレン重合体であるポリマーであり、前記ポリマーにおけるレクチンの割合は0.1〜0.7質量%である検出液。識別性物質が蛍光物質である検出液。生体から採取した組織に、前記検出液を塗布することにより、粒子状マーカーが癌細胞に結合し、癌細胞が容易に判別可能となる癌の検出方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の検出液は、粒子状マーカーが水系媒体に分散されており、粒子状マーカーが、前記一般式(1)で表わされる構造を有するポリマーと識別性物質を含有し、平均粒子径が1nm〜100μmであることに特徴がある。本発明の検出液の粒子状マーカーは、癌細胞との結合性に優れており、生体から採取した組織に、本発明の検出液を塗布することにより、粒子状マーカーが癌細胞に結合し、癌細胞が容易に判別できる。
【0011】
先ず、粒子状マーカーに含有される一般式(1)で表わされる構造を有するポリマーについて説明する。
一般式(1)において、a、b及びcは、a:b:c=1:0.01〜10:100〜2000となる数を表わす。a、b及びcは、癌の検出感度が上がることから、a:b:cが1:0.05〜8:130〜1000の割合が好ましく、1:0.1〜6:150〜600の割合が更に好ましい。なお、a、b及びcの各繰り返し数に対応する各ユニットの主鎖における順序は任意であり、ブロック状、ランダム状、ブロック状とランダム状との組み合わせ等のいずれでもよい。
【0012】
dは10〜600の数を表わす。dは、癌の検出感度が上がることから、20〜300の数が好ましく、30〜150の数が更に好ましい。eは10〜600の数を表わす。eは、癌の検出感度が上がることから、30〜300の数が好ましく、50〜200の数が更に好ましく、60〜150の数が最も好ましい。
【0013】
一般式(1)において、Xはレクチン残基を表わす。本発明においてレクチンとは、糖鎖に結合活性を示すタンパク質の総称である。またレクチン残基とは、後述する一般式(1a)で表される構造を有するポリマーにおけるCOOH基と、レクチンのアミノ基とが、脱水縮合してアミド結合を生じることにより、レクチンが水素原子を一つ失った残基をいう。レクチン残基は、1箇所のみで一般式(1)で表わされる構造を有するポリマーと結合してもよく、複数個所で結合してもよい。本発明に使用できるレクチンとしては、癌細胞が産出する糖鎖に結合活性を示すレクチンであれば、どのようなレクチンでも使用できる。このようなレクチンとしては、Con A(タチナタマメ種子由来レクチン)、DBA(ドリコスマメ種子由来レクチン)、LEL(トマト果実由来レクチン)、PNA(ピーナッツ由来レクチン)、PHA(インゲンマメ種子由来レクチン)、RCA(ヒマ種子由来レクチン)、SBA(ダイズ種子由来レクチン)、UEA I(ハリエニシダ種子由来レクチン)、WGA(コムギ胚種子由来レクチン)等が挙げられる。これらのレクチンは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのレクチンのうち、癌細胞が産出する糖鎖への結合性が高く、癌の検出感度が上がることから、PNAが好ましい。一般式(1)で表わされる構造を有するポリマーにおけるレクチン残基の割合は0.1〜0.7質量%である。レクチン残基の割合が0.1質量%よりも少ない場合には、粒子状マーカーの癌細胞への結合が不十分となり、0.7質量%よりも多い場合には正常細胞への結合が増え、いずれの場合も癌の検出感度が十分得られない。一般式(1)で表わされる構造を有するポリマーにおけるレクチン残基の割合は0.2〜0.67質量%が好ましく、0.25〜0.66質量%が更に好ましく、0.27〜0.65質量%が最も好ましい。レクチン残基の割合は、ニンヒドリン法により求めることができる。
【0014】
一般式(1)で表わされる構造を有するポリマーは、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、一般式(1)で表わされる構造以外の他の構造を有していてもよい。このような他の構造としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸アミド、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアミン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセトアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。一般式(1)で表わされる構造を有するポリマーが他の構造を有する場合、ポリマー全体における該他の構造の割合は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。一般式(1)で表わされる構造を有するポリマーは、一般式(1)で表わされることが好ましい。
【0015】
一般式(1)で表される構造を有するポリマーは、各種溶媒への溶解性が不十分であることから、分子量の測定が困難であるが、中間体の下記一般式(1a)で表される構造を有するポリマー(好ましくは、一般式(1a)で表されるポリマー)であれば、GPC(Gel Permeation Chromatography)分析による分子量の測定が可能である。
【0016】
【化2】
(式中、a、b、c、d及びeは、一般式(1)と同義である。)
【0017】
一般式(1a)で表される構造を有するポリマーを中間体として、一般式(1)で表される構造を有するポリマーを合成する場合、一般式(1a)で表される構造を有するポリマーの質量平均分子量は1万〜200万が好ましく、20万〜180万が更に好ましく、50万〜160万が最も好ましい。なお、本発明において質量平均分子量とは、DMF(N,N-Dimethylmethanamide)を溶媒としてGPC分析を行った場合のポリスチレン換算の質量平均分子量をいい、質量平均分子量は、重量平均分子量と呼ぶ場合もある。
【0018】
本発明で用いる粒子状マーカー中の、一般式(1)で表される構造を有するポリマーの含有量があまりに少ない場合には、癌細胞への結合性が不十分となることから、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0019】
次に、粒子状マーカーに含有される識別性物質について説明する。
本発明で用いる粒子状マーカーに含有される識別性物質は、本発明で用いる粒子状マーカーが癌細胞に結合したことを何らかの方法で識別するための物質であり、本発明の一般式(1)で表される構造を有するポリマーに化学的に結合していてもよいし、していなくてもよい。識別性物質としては、染料、顔料、磁性物質、放射性物質、蛍光物質等が挙げられるが、安全で、高感度での識別が可能であることから、蛍光物質が好ましい。蛍光物質としてはフルオレセイン類、ローダミン類、クマリン類、ピレン類、シアニン類、ダンシル類、NBD類等が挙げられ、一般式(1)で表される構造を有するポリマーとの相溶性に優れ、本発明の一般式(1)で表される構造を有するポリマーからの溶出が少ないことから、クマリン類が好ましく、中でもクマリン6(下式(2)参照)が好ましい。
【0021】
本発明で用いる粒子状マーカー中の、識別性物質の含有量があまりに少ない場合には検出感度が不十分となり、あまりに多い場合には、含有量に見合う増量効果は得られないばかりか、却って物性等に悪影響を及ぼすことがある。このため、識別性物質が蛍光物質の場合の粒子状マーカー中の識別性物質の含有量は0.01〜1質量%が好ましく、0.02〜0.2質量%が更に好ましい。
【0022】
本発明で用いる粒子状マーカーは、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、下記一般式(1)で表わされる構造を有するポリマー及び識別性物質以外に、他の化合物を含有してもよい。このような他の化合物としては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、シリカ、チタン等が挙げられる。
【0023】
本発明で用いる粒子状マーカーの平均粒子径は1nm〜100μmである。平均粒子径があまりに小さい場合には、採取組織に塗布した後の洗浄が困難となる場合があり、あまり大きい場合には、水溶媒への分散性が低下する場合があることから、平均粒子径は200〜1000nmが好ましく、250〜600nmが更に好ましい。
【0024】
本発明の検出液中の、本発明で用いる粒子状マーカーの含量があまりに少ない場合には、癌の検出感度が十分出ない場合があり、またあまりに多い場合には、分散安定性が低下する場合があることから、検出液中の本発明で用いる粒子状マーカーの含量は0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜3質量%が更に好ましい。
【0025】
本発明で用いる粒子状マーカーを製造する場合には、例えば、下記一般式(3)で表されるマクロモノマー、下記一般式(4)で表されるマクロモノマー及びスチレンを共重合させて前記一般式(1a)で表される構造を有するポリマーを合成し、このポリマーの微粒子にレクチンを結合させることにより得ることができる。共重合の方法は、特に限定されないが、粒径分布の狭い微細な粒子が得られることから、極性溶媒中で溶液重合を行うことが好ましい。識別性物質は、共重合前のモノマー又は共重合に使用する溶媒に溶解又は分散させておいてもよいし、共重合後の微粒子に含浸させてもよい。特に前者の場合、一般式(1)で表される構造を有するポリマー同士間、又はポリマーの部位同士間に効率よく識別性物質を保持させることができるため好ましい。
【0026】
【化4】
(式中、dは、一般式(1)と同義である。)
【0027】
【化5】
(式中、eは、一般式(1)と同義である。)
【0028】
一般式(3)で表されるマクロモノマーは、例えば、2−メルカプトエタノールを出発物質としてN−ビニルアセトアミド(NVA)を、ラジカル重合開始剤の存在下に重合させて得られる下記一般式(3a)で表される化合物に、ビニルベンジルクロライドを反応させることにより得ることができる。
【0029】
【化6】
(式中、dは、一般式(1)と同義である。)
【0030】
一般式(4)で表されるマクロモノマーは、例えば、2−メルカプトエタノールを出発物質としてメタクリル酸t−ブチルを、ラジカル重合開始剤の存在下に重合させて得られる下記一般式(4a)で表される化合物に、ビニルベンジルクロライドを反応させた後、t−ブチル基を酸触媒で分解除去することにより得ることができる。
【0031】
【化7】
(式中、eは、一般式(1)と同義であり、t−Buはt−ブチル基を表わす。)
【0032】
一般式(3)で表されるマクロモノマー、一般式(4)で表されるマクロモノマー及びスチレンを溶液重合する場合の極性溶媒は、特に限定されないが、微細な粒子が得られることから、水と有機極性溶媒との混合溶媒が好ましい。有機極性溶媒としては、沸点が低く、除去が容易であることから、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランが好ましく、エタノール、イソプロパノールが更に好ましい。これらの有機極性溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。溶液重合は、公知の条件で行えばよく、例えば、ラジカル重合開始剤として、N,N−アゾビスイソブチロニトリルを使用する場合には、40℃〜80℃の温度で、3時間〜48時間程度反応させることが好ましい。水と有機極性溶媒との混合溶媒を使用する場合、該混合溶媒中における水の割合は、有機極性溶媒の種類によっても異なるが、10〜70質量%、特に30〜65質量%であることが好ましい。
【0033】
極性溶媒中での溶液重合では、極性溶媒に対する溶解性の高い構造部分が外側に、極性溶媒に対する溶解性の低い構造部分は内側となるように集積されて粒子化する。従って、溶液重合により得られた微粒子は、一般式(1a)で表される構造を有するポリマーを主成分とするが、一般式(3a)で表される化合物及び一般式(4a)で表される化合物に由来する構造部分が外側を、スチレンに由来する構造部分を内側となるように集積された微粒子である。微粒子の平均粒径は、使用するマクロモノマーの分子量や反応比、極性溶媒の組成等により異なるが、一般式(1a)で表される構造を有するポリマーの質量平均分子量を1万〜100万程度に制御すれば、平均粒径が50nm〜100μm程度の微粒子が得られる。
【0034】
溶液重合で得られた微粒子の一般式(4)で表されるマクロモノマーに由来する構造部分にレクチンを結合することにより、本発明で用いる粒子状マーカーが得られる。レクチンを結合させる方法は、特に限定されず、タンパク質やペプチドの固定化に、通常使用される縮合剤を用いて、縮合すればよい。このような縮合剤としては、カルボジイミド系縮合剤、イミダゾール系縮合剤、トリアジン系縮合剤、ホスホニウム系縮合剤、ウロニウム系縮合剤等が挙げられるが、反応性が良好であることから、カルボジイミド系縮合剤が好ましく、中でも、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3’−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドが好ましい。
【0035】
本発明で用いる粒子状マーカーを水系媒体に分散することにより、本発明の癌の検出液が得られる。水系媒体としては、本発明で用いる粒子状マーカーの分散が可能で、生体から採取した組織への塗布が容易であり、塗布後に過剰の検出液が容易に除去でき、組織へのダメージが少ないことが求められることから、水系媒体としては、水、緩衝液、生理食塩水、多価アルコール水溶液等が好ましい。緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液等が挙げられる。生理食塩水は、緩衝作用を有する化合物を添加した緩衝生理食塩水でもよく、カルシウムやマグネシウムを含有してもよい。多価アルコール水溶液の多価アルコールとしては、プロピレングルコール、ジプロピレングルコール、グリセリン、エリトロース、キシロース、アラビノース、アロース、タロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、ガラクチトール、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、デキストラン等が挙げられる。分散媒としては、採取した組織への悪影響が少なく、癌の検出感度も高いことから、生理食塩水が好ましく、緩衝生理食塩水が更に好ましい。リン酸緩衝生理食塩水が最も好ましい。
【0036】
本発明の検出液は、生体から採取した種々の組織の癌細胞の検出に適用できる。本発明の検出液が適用できる生体は、癌が発生する可能性のある生体であり、例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ラット、マウス等が挙げられる。生体から組織を採取する手段は、癌化した組織を破壊せずに採取できる手段であれば特に制限されず、鉗子、メス等の一般的な外科的手段により採取すればよい。本発明の検出液の適用対象となる組織としては、特に、癌細胞の検出感度が高いことから、消化器の組織が好ましく、胃、大腸、直腸の組織が更に好ましく、大腸の組織が最も好ましい。本発明の検出液中の粒子状マーカーが癌細胞に選択的に結合し、組織に付着した粒子状マーカーの有無により癌細胞であるか否かを判断できる。本発明の検出液は癌細胞の検出感度が高く、生体から採取した組織の粘膜面(組織表面)、切断面のいずれにも適用できる。
【0037】
本発明の検出液を使用する場合は、生体から採取した組織に、本発明の検出液を塗布して粒子状マーカーを癌細胞に付着させ、組織に付着していない余剰の粒子状マーカーを除去した後に、粒子状マーカーに使用した識別性物質に応じた検出方法により、癌細胞に付着した粒子状マーカーを認識することにより癌細胞の存在がわかる。生体から採取した組織に本発明の検出液を塗布する場合は、公知の方法、例えば、検出液の滴下、検出液への浸漬、刷毛等による塗布、検出液の噴霧等の方法を用いて塗布すればよい。組織に付着していない余剰の粒子状マーカーを除去する場合は、除去が容易であることから水系媒体を用いて除去することが好ましく、組織に付着した粒子状マーカーへの影響が少ないことから、検出液に用いる水系媒体と同種の水系媒体を用いて除去することが更に好ましい。塗布から除去開始までの時間(塗布が浸漬による場合は浸漬開始から除去開始までの時間)は、この時間があまりに短い場合やあまりに長い場合には、癌の検出感度が低下する場合があることから、0.5〜60分が好ましく、1〜10分が更に好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に限定のない限り、実施例中の「部」や「%」は質量基準によるものである。
【0039】
〔製造例1:マクロモノマーA〕
撹拌装置、温度計を備えたガラス製反応容器に、N−ビニルアセトアミド85.1g(1mol)、2−メルカプトエタノール0.313g(4mmol)、ラジカル重合開始剤としてN,N−アゾビスイソブチロニトリル1.64g(10mmol)及び溶媒としてトルエン400gを仕込み、60℃で6時間攪拌して重合させ、生成した沈殿物をろ過により回収した。沈殿物のエタノール溶液を、アセトンにより再沈殿させ、溶媒を除去することによりN−ビニルアセトアミドポリマー(一般式(3a)で表される化合物)42gを得た。
【0040】
撹拌装置、温度計を備えたガラス製反応容器に、N−ビニルアセトアミドポリマー20g、水素化ナトリウムの60%オイルディスパージョン0.43g、触媒としてテトラブチルホスホニウムブロマイド0.34g、及び溶媒としてジメチルホルムアミド100gを仕込み、25℃で3時間攪拌した後、4―ビニルベンジルクロライド2.6gを添加し、25℃で24時間攪拌して反応させた。この反応溶液を50%メタノール水溶液に滴下して、生成する沈殿をろ過により回収し、溶媒を除去することによりマクロモノマーA15.2gを得た。マクロモノマーAは一般式(3)においてdが55の化合物である。なお、dの数は、
1H−NMRによる分析により、ビニルベンジル基のプロトン由来のピークと、N−ビニルアセトアミド由来のピークとの面積比より求めた。
【0041】
〔製造例2:マクロモノマーB〕
撹拌装置、温度計を備えたガラス製反応容器に、メタクリル酸t−ブチル142g(1mol)、2−メルカプトエタノール0.781g(10mmol)、ラジカル重合開始剤としてN,N−アゾビスイソブチロニトリル1.64g(10mmol)及び溶媒としてテトラヒドロフラン300gを仕込み、60℃で6時間攪拌して重合させた。反応液を、50%メタノール水溶液に滴下して、生成する沈殿をろ過により回収し、溶媒を除去することによりメタクリル酸t−ブチルポリマー(一般式(4a)で表される化合物)120gを得た。
【0042】
撹拌装置、温度計を備えたガラス製反応容器に、メタクリル酸t−ブチルポリマー20g、水素化ナトリウムの60%オイルディスパージョン0.72g、触媒としてテトラブチルホスホニウムブロマイド0.34g、及び溶媒としてジメチルホルムアミド400gを仕込み、25℃で3時間攪拌した後、4―ビニルベンジルクロライド3gを添加し、25℃で24時間攪拌して反応させた。この反応溶液を50%メタノール水溶液に滴下して、生成する沈殿をろ過により回収し、溶媒を除去することにより生成物18.2gを得た。
【0043】
撹拌装置、温度計を備えたガラス製反応容器に、得られた生成物18.2g、溶媒としてエタノール200g、酸触媒として濃塩酸20g及び重合禁止剤としてヒドロキノン0.8gを仕込み、70℃で6時間攪拌してt−ブチル基を分解除去し、透析により塩酸を除去した後、凍結乾燥してマクロモノマーB10gを得た。マクロモノマーBは一般式(4)においてeが76の化合物である。なお、eの数は、
1H−NMRによる分析により、ビニルベンジル基のプロトン由来のピークと、メタクリル酸由来のピークとの面積比より求めた。
【0044】
〔製造例3:粒子状マーカーA1〕
ガラス製スクリュー管ビンに、マクロモノマーA0.5g、マクロモノマーB0.5g、スチレン1g、識別性物質としてクマリン6を20mg、ラジカル重合開始剤としてN,N−アゾビスイソブチロニトリル15mg、溶媒として65%エタノール水溶液15gを仕込み、溶解させ、窒素のバブリングを30分間行った後、フタをして、60℃の湯浴中で24時間震蕩させて重合させた。生成した微粒子を遠心分離(12000rpm、15分間)により分離した後、凍結乾燥させて粒子状マーカーA1を得た。粒子状マーカーA1は、一般式(1a)においてa:b:c=1:1:300、d=55、e=76となるポリマーを主成分とし、動的光散乱法による平均粒子径は280nmであり、質量平均分子量は90万であった。なお、a:b:cの比は、
1H−NMRによる分析により算出した。
【0045】
〔製造例4:粒子状マーカーA2〕
マクロモノマーAを0.5gから0.25gに変更し、マクロモノマーBを0.5gから0.75gに変更した以外は、製造例3と同様の操作を行い、粒子状マーカーA2を得た。粒子状マーカーA2は、一般式(1a)においてa:b:c=1:3:600、d=55、e=76となるポリマーを主成分とし、動的光散乱法による平均粒子径は320nmであり、質量平均分子量は100万であった。なお、a:b:cの比は、
1H−NMRによる分析により算出した。
【0046】
〔製造例5:粒子状マーカーA3〕
マクロモノマーAを0.5gから0.95gに変更し、マクロモノマーBを0.5gから0.05gに変更した以外は、製造例3と同様の操作を行い、粒子状マーカーA3を得た。粒子状マーカーA3は、一般式(1a)においてa:b:c=1:0.008:350、d=55、e=76となるポリマーを主成分とし、動的光散乱法による平均粒子径は250nmであり、質量平均分子量は110万であった。なお、a:b:cの比は、
1H−NMRによる分析により算出した。
【0047】
〔製造例6:粒子状マーカーA4〕
マクロモノマーAを0.5gから0.08gに変更し、マクロモノマーBを0.5gから5gに変更した以外は、製造例3と同様の操作を行い、粒子状マーカーA4を得た。粒子状マーカーA4は、一般式(1a)においてa:b:c=1:12:1500、d=55、e=76となるポリマーを主成分とし、動的光散乱法による平均粒子径は250nmであり、質量平均分子量は80万であった。なお、a:b:cの比は、
1H−NMRによる分析により算出した。
【0048】
〔実施例1:粒子状マーカーB1、検出液A1〕
粒子状マーカーA1の10mgを、0.78%リン酸二水素カリウム水溶液800mgに分散させ、縮合剤として1−エチル−3−(3' −ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(以下CDIと略記)2mgを0.78%リン酸二水素カリウム水溶液200mgに溶解して添加し、4℃で30分間震蕩した。これを遠心分離(6000rpm,10分間)で上澄みを除去した後、PNA(ピーナッツ由来レクチン)1mgをダベルコリン酸緩衝生理食塩液(シグマアルドリッチジャパン社製、商品名:D8537。以下DPBS(−)と略記する)1gに溶解した溶液を加えて分散させ、4℃で24時間震蕩させて、ピーナッツレクチンを結合させて粒子状マーカーB1を合成した。粒子状マーカーB1中の、未結合のピーナッツレクチンをDPBS(−)で洗浄して除去した後、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを含有するダベルコリン酸緩衝生理食塩液(シグマアルドリッチジャパン社製、商品名:D8662。以下DPBS(+)と略記する)に、分散させて本発明の検出液A1を得た。検出液A1中の粒子状マーカーB1の含量は1%であり、粒子状マーカーB1は、平均粒子径(動的光散乱法で測定、以下同様)280nmで、一般式(1)で表わされる構造を有するポリマー中のレクチン残基の含量(以下、単に「レクチン含量」ともいう)は0.5%であった。なお、レクチン含量はニンヒドリン法により求めた。
【0049】
〔実施例2:粒子状マーカーB2、検出液A2〕
CDIを2mgから1mgに、PNAを1mgから0.5mgに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、粒子状マーカーB2を合成し、粒子状マーカーB2を分散させた検出液A2を得た。検出液A2中の粒子状マーカーB2の含量は1%であり、粒子状マーカーB2は、平均粒子径280nmで、レクチン含量は0.3%であった。なお、レクチン含量はニンヒドリン法により求めた。
【0050】
〔比較例1:粒子状マーカーB3、検出液B1〕
CDIを2mgから0.5mgに、PNAを1mgから0.25mgに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、粒子状マーカーB3を合成し、粒子状マーカーB3を分散させた比較の検出液B1を得た。検出液B1中の粒子状マーカーB3の含量は1%であり、粒子状マーカーB3は、平均粒子径280nmで、レクチン含量は0.08%であった。なお、レクチン含量はニンヒドリン法により求めた。
【0051】
〔比較例2:粒子状マーカーB4、検出液B2〕
CDIを2mgから4mgに、PNAを1mgから2mgに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、粒子状マーカーB4を合成し、粒子状マーカーB4を分散させた比較の検出液B2を得た。検出液B2中の粒子状マーカーB4の含量は1%であり、粒子状マーカーB2は、平均粒子径280nmで、レクチン含量は0.8%であった。なお、レクチン含量はニンヒドリン法により求めた。
【0052】
〔比較例3:粒子状マーカーB5、検出液B3〕
粒子状マーカーA1の10mgの代わりに粒子状マーカーA3の10mgを使用した以外は実施例1と同様の操作を行い、粒子状マーカーB5を合成し、粒子状マーカーB5を分散させた比較の検出液B3を得た。検出液B3中の粒子状マーカーB5の含量は1%であり、粒子状マーカーB3は、平均粒子径320nmで、レクチン含量は0.11%であった。なお、レクチン含量はニンヒドリン法により求めた。
【0053】
〔比較例4:粒子状マーカーB6、検出液B4〕
粒子状マーカーA1の10mgの代わりに粒子状マーカーA4の10mgを使用した以外は実施例1と同様の操作を行い、粒子状マーカーB6を合成し、粒子状マーカーB6を分散させた比較の検出液B4を得た。検出液B4中の粒子状マーカーB6の含量は1%であり、粒子状マーカーB6は、平均粒子径250nmで、レクチン含量は0.3%であった。なお、レクチン含量はニンヒドリン法により求めた。
【0054】
〔比較例5:検出液B5〕
粒子状マーカーA1をDPBS(+)に含量が1%となるように分散させ、比較の検出液B5を得た。
【0055】
〔比較例6:検出液B6〕
粒子状マーカーA2をDPBS(+)に含量が1%となるように分散させ、比較の検出液B6を得た。
【0056】
〔評価に使用する生体組織〕
ヒト大腸癌細胞株(HT−29)をヌードマウスの直腸の漿膜下に移植し、癌を定着させ成長させた大腸癌組織と、ヌードマウスの大腸の正常組織を試験に用いた。
【0057】
〔評価方法〕
縦1.5mm、横3mmの小片状に切断された組織片を、実施例又は比較例の検出液に2分間浸漬した後、DPBS(+)を用いて、過剰の検出液を除去した。検出液で処理した組織片を蛍光顕微鏡(オリンパス社製、型式:BX63)を用いて観察(観察倍率40倍、露光時間1/60秒、FITCフィルター使用)し、蛍光の強さを以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
<評価基準>
◎:強い蛍光が認められる。
○:蛍光が認められる。
△:わずかな蛍光が認められる。
×:蛍光が認められない、又は蛍光がほとんど認められない。
【0058】
【表1】
【0059】
癌の検出では、癌細胞に特異的に結合することにより、癌細胞に強い蛍光が認められるだけでなく、正常細胞に蛍光が見られないことが重要である。本発明の検出液は、癌細胞に強い蛍光が認められたが、正常細胞に蛍光が見られない又はほとんどみられず、癌細胞を正常細胞と区別して容易に検出できる。比較例1〜6の検出液のうち、癌細胞に強い蛍光が認められたのは比較例2だけであるが、比較例2は正常細胞でも蛍光が見られているため、該比較例2の検出液によって、検出対象の組織の細胞が癌細胞であることを特定することは困難である。