特開2015-229651(P2015-229651A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2015-229651キクビスカシバの交信撹乱剤及び防除方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-229651(P2015-229651A)
(43)【公開日】2015年12月21日
(54)【発明の名称】キクビスカシバの交信撹乱剤及び防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/02 20060101AFI20151124BHJP
   A01P 19/00 20060101ALI20151124BHJP
   A01M 99/00 20060101ALI20151124BHJP
【FI】
   A01N37/02
   A01P19/00
   A01M99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-116681(P2014-116681)
(22)【出願日】2014年6月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】望月 文昭
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA11
2B121CC02
2B121CC31
2B121EA26
2B121FA13
2B121FA15
2B121FA16
4H011AC07
4H011BB06
4H011DA11
(57)【要約】
【課題】交信撹乱法によりキクビスカシバを防除する。
【解決手段】(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート、(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート及び(E,Z)−2,13−オクタデカジエニルアセテートを少なくとも含んでなるキクビスカシバの交信撹乱剤を提供する。また、この交信撹乱剤を圃場に設置することを少なくとも含むキクビスカシバの防除方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート、(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート及び(E,Z)−2,13−オクタデカジエニルアセテートを少なくとも含んでなるキクビスカシバの交信撹乱剤。
【請求項2】
請求項1に記載の交信撹乱剤を圃場に設置するステップを少なくとも含むキクビスカシバの防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹害虫キクビスカシバ(Nokona feralis)の交信撹乱剤及び防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キクビスカシバは、国内においてキウイフルーツの重要害虫としてその問題が深刻化してきている。孵化した幼虫がキウイフルーツの樹幹部及び枝の髄部を加害すると、葉の枯死、伸長の抑制、新梢の枯死などの被害が発生する。現在、キウイフルーツにおいて本種へ適用可能な登録農薬が少ないことに加え、幼虫が植物体内に食入することから、薬剤散布による防除は極めて困難である。また、近年では食の安全性や環境への負荷の観点から、殺虫剤の使用を必要最小限にとどめることが望ましく、殺虫剤散布に代わる新たな防除技術の開発が必要である。
【0003】
殺虫剤散布に代わる防除技術として、性フェロモンを利用した害虫防除が挙げられる。性フェロモンとは、雌成虫が分泌する化学物質であり、同種雄成虫に対して種特異的に誘引作用を示す。この性フェロモンを用いて雌雄の交尾行動を攪乱する交信撹乱法により、害虫の防除を行うことが可能である。性フェロモンを用いた防除資材は、環境中で速やかに分解され、使用者や生態系への負荷も少ないことから注目されている。
【0004】
一般的に性フェロモンの有無の確認及びその化学構造を解明するためには、多大な労力と時間を要する。すなわち、対象虫の発生生態を明らかにしたうえで、未交尾の雌雄成虫を野外から採集又は人工飼育方法を確立し、その配偶行動の解析などのステップを踏む。対象虫が配偶行動に性フェロモンを利用していることが明らかとなれば、次のステップとして交尾時間帯に処女メスのフェロモン腺より抽出される複数成分の化学構造を解析し人工的に合成した上で、野外にてそれら成分の誘引活性を評価する必要がある。
【0005】
現在、キクビスカシバに関しては、性フェロモンの化学構造が不明である。しかしながら、キウイ生産農家が本種の加害により受ける経済的被害は甚大であり、性フェロモンを用いた防除技術の開発が強く望まれていた。
キクビスカシバの属するスカシバ科(Sesiidae)Nokona属に関して、国内の農業害虫としては本種とブドウスカシバの2種のみが記載されている(非特許文献1)。ブドウスカシバについては、(E,Z)−3,13−オクタデカジエノールが性フェロモンとして報告されている(非特許文献2)。また、農業害虫ではないが、国内においてはヒメアトスカシバの性フェロモンが(E,Z)−3,13−オクタデカジエノール及び(Z,Z)−3,13−オクタデカジエノールの混合物と報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本応用動物昆虫学会(2006)農林有害動物 昆虫名鑑 増補改訂版 95pp
【非特許文献2】Guo et al., Youji Huaxue 10: 504−506(1990)
【非特許文献3】Naka et al., Biosci. Biotechnol. Biochem 70(2): 508−516(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ブドウスカシバ及びヒメアトスカシバのいずれの性フェロモンも本発明におけるキクビスカシバの交信撹乱剤に含まれる成分とは大きく異なる。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、キクビスカシバの交信撹乱剤及びこれを用いたキクビスカシバの防除方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、キクビスカシバの被害が発生したキウイ圃場にて防除試験を実施したところ、(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート、(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート及び(E,Z)−2,13−オクタデカジエニルアセテートの混合物がキクビスカシバに対して防除効果を示すことを見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明は、一つの態様において、(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート、(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート及び(E,Z)−2,13−オクタデカジエニルアセテートを少なくとも含んでなるキクビスカシバの交信撹乱剤を提供する。また、別の態様において、この交信撹乱剤を圃場に設置することを少なくとも含むキクビスカシバの防除方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、交信撹乱法によりキクビスカシバを防除することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテートは、公知の方法、例えば、特開平03−106830号公報に記載の方法等により製造することが出来る。具体的には、(Z)−13−オクタデセン−3−イン−1−オールをリンドラー触媒等の触媒を用いて水素添加反応することで得られる(Z,Z)−3,13−オクタデカジエン−1−オールをアセチル化することにより製造することができる。
【0011】
(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテートは、公知の方法、例えば、特開昭58−157731号公報に記載の方法等により製造することが出来る。具体的には、金属ナトリウム等のアルカリ金属を電子源、メチルアルコール等のアルコール類をプロトン源として用いた(Z)−13−オクタデセン−3−イン−1−オールの還元反応により得られる(E,Z)−3,13−オクタデカジエン−1−オールをアセチル化することにより製造することができる。
【0012】
(E,Z)−2,13−オクタデカジエニルアセテートは、公知の方法、例えば、特開平04−330032号公報に記載の方法等により製造することが出来る。具体的には、2,13−オクタデカジイナールジエチルアセタールをリンドラー触媒等の触媒を用いて水素添加反応した後、酸加水分解することで得られる(E,Z)−2,13−オクタデカジエナールを水素化ホウ素ナトリウム等の水素化金属類で還元し、得られる(E,Z)−2,13−オクタデカジエン−1−オールをアセチル化することで製造できる。
【0013】
(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテートには、その幾何異性体が含まれていても良く、その比率は(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテートを100質量部としたときに、例えば(E,E)−3,13−オクタデカジエニルアセテートは0〜5質量部、(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテートは0〜5質量部、(Z,E)−3,13−オクタデカジエニルアセテートは0〜10質量部である。
【0014】
(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテートには、その幾何異性体が含まれていても良く、その比率は(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテートを100質量部としたときに、例えば(E,E)−3,13−オクタデカジエニルアセテートは0〜10質量部、(Z,E)−3,13−オクタデカジエニルアセテートは0〜5質量部、(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテートは30部以下である。
【0015】
(E,Z)‐2,13‐オクタデカジエニルアセテートには、その幾何異性体が含まれていても良く、その比率は(E,Z)−2,13−オクタデカジエニルアセテートを100質量部としたときに、例えば(E,E)−2,13−オクタデカジエニルアセテートは0〜10質量部、(Z,E)−2,13−オクタデカジエニルアセテートは0〜5質量部、(Z,Z)−2,13−オクタデカジエニルアセテートは0〜5質量部である。
【0016】
(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート、(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート及び(E,Z)−2,13−オクタデカジエニルアセテートを成分として少なくとも含んでなるキクビスカシバの交信撹乱剤は、各成分の混合割合として、雌雄間の交信を撹乱可能な範囲であれば、特に限定されないが、例えば(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテートを100質量部としたとき、(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテートは、好ましくは1〜10000質量部、より好ましくは10〜1000質量部、さらに好ましくは50〜200質量部、特に好ましくは75〜125質量部であり、(E,Z)−2,13−オクタデカジエニルアセテートは、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは1〜20質量部、さらに好ましくは1〜10質量部、特に好ましくは5〜10質量部である。
【0017】
本発明によれば、キクビスカシバの交信撹乱剤には、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ハイドロキノン、ビタミンE等の酸化防止剤や、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−(2'−ヒドロキシ−3'−tertブチル−5'-メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤を加えても良い。(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート、(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート及び(E,Z)−2,13−オクタデカジエニルアセテートの合計量に対して、例えば、酸化防止剤は1〜5質量%であり、紫外線吸収剤は1〜5質量%である。
【0018】
交信撹乱剤は、(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート、(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート及び(E,Z)−2,13−オクタデカジエニルアセテートを少なくとも含む有効成分の一定量の放出を長期間にわたり持続させることができれる態様であれば特に限定されない。ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル等の放出量制御機能を有する物質からなるキャップ、チューブ、ラミネート製の袋、カプセル、アンプル等の容器に有効成分を充填又は吸着させた後に、これら製剤表面より徐放させても良いし、エアロゾル缶や超音波振動により有効成分を直接噴霧させても良い。
【0019】
単位面積当たりの交信撹乱剤の有効成分量(担持量)として、野外で雄が雌のフェロモンを嗅ぎ分けられなくなる気中フェロモン濃度が確保できれば特に限定されないが、例えば1ヘクタールあたり1〜200gである。
交信撹乱法によりキクビスカシバを防除する場合は、圃場面積1ヘクタールにつき好ましくは1個以上、より好ましくは1〜2000個、さらに好ましくは50〜2000個、特に好ましくは500〜1500個の交信撹乱剤を、好ましくは成虫が発生する9月から10月までの2ヶ月間常時設置する。交信撹乱処理をする圃場面積としては10アール以上が望ましい。圃場面積が10アールを下回ると、気化した有効成分を圃場内に十分量留めておくことが難しくなるため防除効果が不安定になる可能性がある。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例及び比較例を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
[実施例1〜3、比較例1]
(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート、(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート及び(E,Z)−2,13−オクタデカジエニルアセテートを48:48:4の質量比率で混合し、これらの合計質量に対して2質量%のブチルヒドロキシトルエン及び2質量%の2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノンを各々酸化防止剤及び紫外線吸収剤として添加した。これら成分をポリエチレンよりなる細管に80mg充填したものを実施例1〜3の圃場に処理する交信撹乱剤とした。
キクビスカシバの被害が同程度確認されたキウイフルーツ園3圃場を同一地域内より選定した。これら圃場に上述の交信撹乱剤を以下に示す処理密度にて、キクビスカシバ成虫の発生前である9月初旬から2ヶ月間設置した。すなわち実施例1の圃場には10アールあたり65本、実施例2の圃場には10アールあたり50本の交信撹乱剤をそれぞれ設置した。また、比較例1の圃場には交信撹乱剤を全く設置しなかった。翌年の3月に各園のキウイフルーツ樹3本を無作為に選定し、産み付けられたキクビスカシバの卵の数を調査した。交信撹乱が引き起こされた園では、対象害虫の交尾が阻害されるため、産卵数及び次年度の被害が減少する。実施例1、2及び比較例1の圃場におけるキクビスカシバの産卵数の調査結果を表1に示した。
【0021】
【表1】
【0022】
実施例1及び実施例2の圃場ではキクビスカシバの卵がそれぞれ27個及び64個しか認められなかったものの、比較例1の圃場では109個もの卵が確認された。(Z,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート、(E,Z)−3,13−オクタデカジエニルアセテート及び(E,Z)−2,13−オクタデカジエニルアセテートの混合物によって本種の交信撹乱が引き起こされたことが分かる。