【課題】施工可能な期間を比較的長くすることができ、施工後には施工場所から周囲への流出を十分に抑制できる可塑性を有する可塑性注入材を提供すること等を課題とする。
【解決手段】本発明は、潜在水硬性材料と可塑化材とポリカルボン酸系化学混和剤と水とを含有する第一混合物と、潜在水硬性材料を硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物とが混合されてなる可塑性注入材等である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記問題点に鑑み、施工可能な期間を比較的長くすることができ、施工後には施工場所から周囲への流出を十分に抑制できる可塑性を有する可塑性注入材を提供することを課題とする。
また、本発明は、前記問題点に鑑み、施工可能な期間を比較的長くすることができ、施工後には施工場所から周囲への流出を十分に抑制できる可塑性を有する可塑性注入材の製造方法を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、前記問題点に鑑み、施工可能な期間を比較的長くすることができ、施工後には可塑性注入材の施工場所から周囲への流出を十分に抑制できる可塑性注入材の施工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、潜在水硬性材料と可塑化材とを含む混合液において、特定の高分子化合物を含有させることで、長期間流動性を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の可塑性注入材は、潜在水硬性材料と可塑化材とポリカルボン酸系化学混和剤と水とを含有する第一混合物と、潜在水硬性材料を硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物とが混合されてなる。
【0009】
本発明によれば、前記第一混合物は潜在水硬性材料と可塑化材とポリカルボン酸系化学混和剤と水とを含有するため、可塑化材による流動性の低下を比較的長時間抑制することができる。そのため、可塑性注入材の施工可能な期間を比較的長くすることができる。また、第一混合物と第二混合物とを混合した後には高い可塑性が得られるため施工後に施工場所から周囲に可塑性注入材が流出することを十分に抑制できる。
【0010】
前記潜在水硬性材料は高炉スラグであってもよい。
前記潜在水硬性材料が高炉スラグである場合には、第一混合物の流動性をより長時間適度な範囲に維持することができる。よって、可塑性注入材の施工可能な期間をより長くすることができる。
【0011】
前記可塑化材はベントナイトであってもよい。
前記可塑化材がベントナイトである場合には、第一混合物の流動性をより長時間適度な範囲に維持することができると同時に、第二混合物との混合後にはより適度な可塑性が得られる。
【0012】
本発明の可塑性注入材の製造方法は、潜在水硬性材料と可塑化材とポリカルボン酸系化学混和剤と水とを混合して第一混合物を作製する工程と、
潜在水硬性材料を硬化させうる硬化助材と水とを混合して第二混合物を作製する工程と、
前記第一混合物と前記第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製する工程とを備える。
【0013】
本発明の可塑性注入材の製造方法によれば、潜在水硬性材料と可塑化材とを含む第一混合物を作製する工程において、ポリカルボン酸系化学混和剤をさらに混合することで可塑化材による第一混合物の流動性の低下を比較的長時間抑制することができる。また、第一混合物と第二混合物とをそれぞれ作製した後に、両者を混合することで高い可塑性を有する可塑性注入材が得られる。従って、可塑性注入材の施工可能な期間を比較的長くすることができると同時に、施工後に施工場所から周囲に可塑性注入材が流出することを十分に抑制できる。
【0014】
本発明の可塑性注入材の製造方法において、前記第一混合物を作製する工程は、前記潜在水硬性材料と水とを混合して潜在水硬性分散液を作製する工程と、前記潜在水硬性分散液と可塑化材とを混合する工程とを備えていてもよい。
【0015】
前記第一混合物を作製する工程が、前記潜在水硬性材料と水とを混合して潜在水硬性分散液を作製する工程と、前記潜在水硬性分散液と可塑化材とを混合する工程とを備えているため、可塑化材が水と接触する前に、潜在水硬性材料と水とが混合され、第一混合物における可塑化材の膨潤を適切な程度に抑制することができる。よって、第一混合物の流動性をより長時間適度な範囲に維持することができる。
【0016】
本発明の可塑性注入材の施工方法は、潜在水硬性材料と可塑化材とポリカルボン酸系化学混和剤と水とを混合して第一混合物を作製する工程と、潜在水硬性材料を硬化させうる硬化助材と水とを混合して第二混合物を作製する工程と、前記第一混合物と前記第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製する工程と、前記可塑性注入材を所望の施工場所に注入する工程とを備える。
【0017】
本発明の可塑性注入材の施工方法によれば、まず、潜在水硬性材料と可塑化材とポリカルボン酸系化学混和剤とを混合することで可塑化材による粘度の上昇を比較的長時間適度な範囲に維持することができる第一混合物を得ることができる。よって、施工前には第一混合物の状態にしておくことで高い流動性を維持することができ、可塑性注入材の施工可能な期間を比較的長くすることができる。さらに、前記第一混合物と前記第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製する工程を備えるために、高い可塑性を有する可塑性注入材が得られる。よって、可塑性注入材を所望の施工場所に注入する工程において、施工場所から可塑性注入材が周囲に流出することを抑制できる。
【0018】
この場合、前記第一混合物を、施工場所付近まで圧送する工程を備えていてもよい。
前記第一混合物を施工場所付近まで圧送した場合にも、第一混合物の流動性は比較的長時間適度な範囲に維持されるため、圧送時にホース等の圧送装置内部で詰まることを抑制できる。特に、比較的長距離圧送する場合や、第一混合物の作製後長時間経過後に圧送する場合等にも施工場所付近までスムーズに第一混合物を圧送することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、施工可能な期間を比較的長くすることができ、施工後には施工場所から周囲への流出を十分に抑制できる可塑性を有する可塑性注入材を提供することができる。
また、本発明によれば、施工可能な期間を比較的長くすることができ、施工後には施工場所から周囲への流出を十分に抑制できる可塑性を有する可塑性注入材の製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、施工可能な期間を比較的長くすることができ、施工後には可塑性注入材の施工場所から周囲への流出を十分に抑制できる可塑性注入材の施工方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について説明する。
まず、本発明の可塑性注入材の一実施形態について説明する。
本実施形態の可塑性注入材は、潜在水硬性材料と可塑化材とポリカルボン酸系化学混和剤と水とを含有する第一混合物と、潜在水硬性材料を硬化させうる硬化助材と水とを含有する第二混合物とが混合されてなる可塑性注入材である。
すなわち、本実施形態の可塑性注入材は、潜在水硬性材料を含む成分(第一混合物)と、該潜在水硬性材料を硬化させうる硬化助材とを含む成分(第二混合物)とを別々に調整してから混合して形成されるいわゆる二液式の可塑性注入材である。
【0021】
(第一混合物)
前記第一混合物は、潜在水硬性材料と可塑化材とポリカルボン酸系化学混和剤と水とを含有する。
【0022】
前記潜在水硬性材料としては、潜在水硬性を有する材料であれば特に限定されない。例えば、高炉スラグ、ポゾラン粉末、フライアッシュ等が挙げられ、特に、高炉スラグが流動性が良好であることから好ましい。
尚、本明細書において、潜在水硬性とは、通常の状態では水和反応を実質的に開始することがなく、硬化助材の存在下で水和反応を開始し硬化性の水和物を生成しうる性質をいう。
【0023】
前記潜在水硬性材料の第一混合物における含有量は、例えば、150kg/m
3以上500kg/m
3以下、好ましくは200kg/m
3以上350kg/m
3以下等である。
また、前記潜在水硬性材料が高炉スラグである場合には、該高炉スラグの第一混合物における含有量は、例えば、200kg/m
3以上400kg/m
3以下、好ましくは250kg/m
3以上350kg/m
3以下等である。尚、単位kg/m
3は第一混合物の1m
3あたりのkgである。
【0024】
可塑化材としては、前記潜在水硬性材料と水とを含む混合物に可塑性を付与する性質を有する材であれば特に限定されない。例えば、ベントナイト、アタパルジャイト、メタカオリン等の粘土鉱物等が挙げられる。
可塑化材は、潜在水硬性材料と水とを含む混合物をゲル状に凝集させて可塑化することができる。中でも、前記粘土鉱物は、単独では前記混合物を可塑化する作用は低いものの、後述する第二混合物に含まれる硬化助材と混合されることで可塑化作用が高くなる性質を有する。よって、粘土鉱物を可塑化材として用いることで、第一混合物の状態では可塑性を抑制しつつ、第二混合物と混合した後に高い可塑性が得られる。
特に、ベントナイトは、適度な可塑性を可塑性注入材に付与できると同時に、第一混合物の流動性を適度な範囲に調整できるため可塑化材として特に好ましい。
【0025】
ベントナイトとしては、膨潤度8ml/2g以上36ml/2g以下、好ましくは10ml/2g以上20ml/2g以下のベントナイトが挙げられる。
【0026】
ベントナイトの膨潤度が前記範囲である場合には、第一混合物の流動性をより長時間適度な範囲に維持することができると同時に、第二混合物と混合後にはより適度な可塑性が得られる。
【0027】
尚、ベントナイトの膨潤度は、日本ベントナイト工業会試験法(JBAS−104)によって求められるものであり、蒸留水もしくは純水の中にベントナイトを徐々に落としたときの水中で示す見掛け容積で表示されるものである。具体的には、純粋又は蒸留水100ml(ミリリットル)中にベントナイト試料2gを落とし、落下後24時間放置して容器内の推積した試料の見掛け容積を読取るものである。
【0028】
前記可塑化材の第一混合物における含有量は、例えば、前記可塑化材がベントナイトである場合には、該ベントナイトの第一混合物における含有量は、例えば、50kg/m
3以上300kg/m
3以下、好ましくは75kg/m
3以上150kg/m
3以下等である。尚、単位kg/m
3は第一混合物の1m
3あたりのkgである。
可塑化材の含有量が前記範囲である場合には、可塑性注入材により適度な可塑性を付与できると同時に、第一混合物の流動性をより適度な範囲に調整できるため好ましい。
【0029】
ポリカルボン酸系化学混和剤は、ポリカルボン酸化合物を含む化学混和剤であって、JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」に記載の化学混和剤のうちの、高性能減水剤、高性能AE減水剤、減水剤、流動化剤の性能を有するものであれば、特に制限されるものではない。
ポリカルボン酸化合物としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸系エーテル系の複合物、ポリカルボン酸系エーテル系及び架橋ポリマーの複合体、ポリカルボン酸系エーテル系及び配向ポリマーの複合物、ポリカルボン酸系エーテル系及び高変性ポリマーの複合物、ポリエーテルカルボン酸系高分子化合物、マレイン酸共重合物、マレイン酸エステル共重合物、マレイン酸誘導体共重合物、カルボキシル基含有ポリエーテル系、末端スルホン基を有するポリカルボン酸基含有多元ポリマー、ポリカルボン酸系グラフトポリマー、ポリカルボン酸及び変性リグニン、ポリカルボン酸エーテル系ポリマー等が挙げられる。
【0030】
ポリカルボン酸系化学混和剤は、市販品としては、ジオスーパーK(フローリック社製)、マイティ3000S(花王社製)、テルフロー(テルナイト社製)、レオビルドSP8(BASF社製)等を挙げることができる。
【0031】
前記ポリカルボン酸系化学混和剤の第一混合物における含有量は、例えば、通常市販されているポリカルボン酸化合物を含む減水剤の場合、2.0kg/m
3以上13kg/m
3以下、好ましくは3.0kg/m
3以上12.5kg/m
3以下、より好ましくは3.0kg/m
3以上10.0kg/m
3以下程度である。尚、単位kg/m
3は第一混合物の1m
3あたりのkgである。
ポリカルボン酸系化学混和剤の含有量が前記範囲である場合には、第一混合物の流動性をより適度な範囲に調整できるため好ましい。
【0032】
(水)
第一混合物は水を含む。水の第一混合物における含有量は700kg/m
3以上950kg/m
3以下、好ましくは800kg/m
3以上900kg/m
3以下等である。
尚、単位kg/m
3は第一混合物の1m
3あたりのkgである。
水の含有量が前記範囲である場合には、第一混合物の流動性をより適度な範囲に調整できる。
【0033】
本実施形態における第一混合物は、必要に応じて他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、遅延剤、粘性調整剤等が挙げられる。
【0034】
前記潜在水硬性材料、記可塑化材及び水の混合物は、通常時間が経過するにつれ粘度が上昇し、流動性が低下する。特に、混合物を可塑性注入材を施工する場所までホース等の移送手段で移送する場合等には、移送中に混合物の流動性が低下して、移送が困難になるおそれがある。
本実施形態の第一混合物はポリカルボン酸系化学混和剤を含むことで、第一混合物の流動性が低下することを抑制できる。特に、移送中の流動性の低下が起きやすい長距離移送においても、移送困難になることが効果的に抑制できる。
【0035】
本実施形態の第一混合物は作製後比較的長期間経過しても流動性を維持することができる。従って、例えば、第一混合物の状態で保管しておくことで可塑性注入材の施工可能な期間を長くすることができる。また、第一混合物の状態で流動性を比較的長期間維持できるため、第一混合物の移送等の取り扱いが容易である。
【0036】
本実施形態の第一混合物は、例えば、作製直後の粘度が後述する実施例に示す測定方法で、5.0dPa・s以下、好ましくは3.0dPa・s以下であり、作製後2日経過後の粘度は12dPa・s以下、好ましくは10dPa・s以下である。
かかる粘度の範囲であるため、本実施形態の第一混合物は、ホース等による圧送時にも良好に圧送できる。例えば、内径2インチ(50mm)のホースを用いて、圧送量50リットル/分の場合、最大3000m程度、好ましくは2000m程度の距離を圧送しても、良好に圧送することができる。
【0037】
(第二混合物)
本実施形態の第二混合物は、潜在水硬性材料を硬化させうる硬化助材と水とを含有する。
【0038】
(硬化助材)
本実施形態の硬化助材は、水の存在下で、前記第一混合物中に含まれる潜在水硬性材料と反応して、水和反応を起こして硬化性を発現させるような材料をいう。
具体的には、硬化助材としては、生石灰(酸化カルシウムCaO)、消石灰(水酸化カルシウムCa(OH)
2)、苦土石灰(CaCO
3・MgCO
3)等の石灰、半水石膏、二水石膏、無水石膏等の石膏、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のアルカリ性塩、リン酸、リン酸塩、セメント水和物等が挙げられる。
前記潜在水硬性材料が高炉スラグの場合には、硬化助材としては、生石灰(酸化カルシウム、CaO)、消石灰(水酸化カルシウム、Ca(OH)
2)、苦土石灰(CaCO
3・MgCO
3)等の石灰が、硬化反応を生じやすいため好ましい。
前記潜在水硬性材料がポゾラン粉末の場合には、硬化助材としては、生石灰(酸化カルシウム、CaO)、消石灰(水酸化カルシウム、Ca(OH)
2)、苦土石灰(CaCO
3・MgCO
3)等の石灰、リン酸、リン酸塩等が、硬化反応を生じやすいため好ましい。
【0039】
本実施形態の硬化助材の第二混合物における含有量は、例えば、第一混合物中の潜在水硬性材料の重量に対して10%以上40%以下、好ましくは15%以上25%以下である。
硬化助材の含有量が前記範囲である場合には、第一混合物と混合した際に、硬化反応をより生じやすいため好ましい。
【0040】
(水)
第二混合物は水を含む。水の第二混合物における含有量は600kg/m
3以上900kg/m
3以下、好ましくは700kg/m
3以上800kg/m
3以下等である。
尚、単位kg/m
3は第二混合物の1m
3あたりのkgである。
水の含有量が前記範囲である場合には、第二混合物の流動性をより適度な範囲に調整できる。
【0041】
尚、水は、可塑性注入材における含有量が、700kg/m
3以上900kg/m
3以下、好ましくは750kg/m
3以上850kg/m
3以下となるように第一混合物及び第二混合物に配合されることが好ましい。
可塑性注入材における水の含有量が前記範囲である場合には、注入時には適度な流動性があり、硬化後には適度な強度が得られるため好ましい。
【0042】
本実施形態における第二混合物は、必要に応じて他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、流動化剤、粘性調整剤等が挙げられる。
【0043】
本実施形態の可塑性注入材は、前記第一混合物と前記第二混合物とが混合されてなる。
第一混合物と第二混合物との混合比は特に限定されるものではないが、例えば、第一混合物と第二混合物との体積比が80:20〜95:5、好ましくは85:15〜90:10で混合されることが挙げられる。
【0044】
本実施形態の可塑性注入材は、上述のような第一混合物と第二混合物とが混合されてなる二液式可塑性注入材であるため、第一混合物と第二混合物とを別々に作製しておき、施工直前等の任意のタイミングで第一混合物と第二混合物とを混合することで作製することができる。
本実施形態の可塑性注入材は、地盤、コンクリート構造物等の空隙、空洞等に注入する際には適度な流動性を有すると同時に、注入後に周囲に流出することがない可塑性を有している。かかる本実施形態の可塑性注入材は、例えば、後述する実施例に示す方法で測定されるフロー値で180mm以下、好ましくは150mm以下、より好ましくは120mm以下である。かかるフロー値の範囲であることで、施工場所に注入しやすく、注入後に周囲に流出することが抑制できる。
【0045】
次に上述のような可塑性注入材を製造する可塑性注入材の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の可塑性注入材の製造方法は、潜在水硬性材料と可塑化材とポリカルボン酸系化学混和剤と水とを混合して第一混合物を作製する工程と、潜在水硬性材料を硬化させうる硬化助材と水とを混合して第二混合物を作製する工程と、前記第一混合物と前記第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製する工程とを備える。
【0046】
第一混合物を作製する工程において、潜在水硬性材料、可塑化材、ポリカルボン酸系化学混和剤及び水を混合する。各材料を混合する順序は特に限定されるものではないが、例えば、以下の順序で混合することが好ましい。
【0047】
すなわち、まず、前記潜在水硬性材料と水とを混合して潜在水硬性分散液を作製する工程を実施し、その後、前記潜在水硬性分散液と可塑化材とを混合する工程を実施する。
可塑化材は潜在水硬性材料と混合する前に水と接触すると非常に膨潤しやすくなるため、ポリカルボン酸系化学混和剤による流動性の抑制効果が抑制されるおそれがある。従って、まず、潜在水硬性材料と水とを混合して潜在水硬性分散液を作製しておき、かかる潜在水硬性分散液と可塑化材とを混合することで、可塑化材の膨潤による第一混合物の流動性の低下を抑制できる。
このように潜在水硬性分散液を作製する工程を実施し、その後、前記潜在水硬性分散液と可塑化材とを混合する工程を実施することで、流動性の低下を抑制できるのは、潜在水硬性材料は通常水と混合して分散液とした場合にはアルカリ性を示し、かかるアルカリ性の溶液中では前記可塑化材の膨潤が抑制されるためであると考えられる。
【0048】
第一混合物を作製する工程において、ポリカルボン酸系化学混和剤は、最後に混合することが好ましい。
ポリカルボン酸系化学混和剤を最後に混合することで、第一混合物の粘度の上昇をより抑制でき、流動性をより良好にすることができる。
【0049】
第一混合物を作製する工程において、各材料を混合する手段は公知のモルタル等の混合方法を採用することができる。例えば、モルタルミキサー、ハンドミキサー等の混合装置を用いて、5℃〜35℃、1分間〜10分間の混合条件で混合することが挙げられる。
【0050】
一方、本実施形態の可塑性注入材の製造方法は、潜在水硬性材料を硬化させうる硬化助材と水とを混合して第二混合物を作製する工程を備える。
第二混合物を作製する工程において、各材料を混合する手段は第一混合物を作製する工程と同様に公知の混合装置を用いて公知の混合条件でのモルタル等の混合方法を採用することができる。
【0051】
第一混合物を作製する工程と第二混合物を作製する工程とは、同時に並行して行ってもよく、あるいは、一方の工程を先に行い、他の工程を後から連続して行ってもよい。
第一混合物を作製する工程と第二混合物を作製する工程とを並行して行う場合には、それぞれの工程を実施した後に、得られた第一混合物及び第二混合物を混合して可塑性注入材を作製する工程を実施する。
【0052】
この場合、第一混合物を作製する工程と第二混合物を作製する工程とを可塑性注入材を施工する施工場所からは離れた場所、例えば、工場等で実施し、得られた第一混合物及び第二混合物をそれぞれ別のホース等の移送手段で施工場所付近まで移送し、第一混合物及び第二混合物を混合して可塑性注入材を作製する工程を施工場所付近で実施してもよい。
【0053】
このように、第一混合物及び第二混合物を混合して可塑性注入材を作製する工程を、施工場所付近において実施することで、第一混合物と第二混合物とを混合してから短時間で施工場所に可塑性注入材を注入することができる。
【0054】
一方の工程を先に行い、他の工程を後から連続して行う場合には、例えば、以下のような方法が挙げられる。
まず、第一混合物を作
製する工程を実施して第一混合物を得ておき、該第一混合物を施工場所付近まで移送する。そして、施工場所付近において第二混合物を作製する工程を実施して第二混合物を作製し、移送してきた第一混合物と混合する工程を実施する。
このように、第二混合物を作製する工程を施工場所付近において実施することで、第一混合物と第二混合物とを混合してから短時間で施工場所に可塑性注入材を注入することができる。
【0055】
第一混合物、及び第二混合物を移送する手段としては、上述のようにホースやパイプ等の管体とポンプとからなる圧送手段でもよく、タンクローリーやベルトコンベア等で移送する手段でもよく、特に限定されるものではない。
【0056】
次に上述のような可塑性注入材の施工方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の可塑性注入材の施工方法は、潜在水硬性材料と可塑化材とポリカルボン酸系化学混和剤と水とを混合して第一混合物を作製する工程と、潜在水硬性材料を硬化させうる硬化助材と水とを混合して第二混合物を作製する工程と、前記第一混合物と前記第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製する工程と、前記可塑性注入材を所望の施工場所に注入する工程とを備える。
【0057】
すなわち、上述のように製造された可塑性注入材を所望の施工場所に注入することで、可塑性注入材の施工することができる。
【0058】
本実施形態の可塑性注入材の施工方法において、前記第一混合物を、施工場所付近まで圧送する工程を備えていてもよい。圧送手段としては、ポンプに接続されたホース等の移送手段等が挙げられる。
上述の通り、本実施形態の可塑性注入材の第一混合物は、比較的長期間流動性を維持しているため、例えば、長い圧送手段を用いた長距離圧送の場合にも、ホース内部に詰まりが生じて圧送しにくくなることを抑制できる。
【0059】
本実施形態の可塑性注入材の施工方法において、前記第二混合物を、前記第一混合物と同様に施工場所付近まで圧送する工程を備えていてもよい。
あるいは、前記第二混合物は、施工場所付近で作製する工程を備えていてもよい。
いずれの場合も、注入個所付近に混合装置等を設置しておき、該注入個所付近において第一混合物及び第二混合物とを混合して可塑性注入材を作製する工程を実施する。
【0060】
さらに、前記可塑性注入材を所望の施工場所に注入する。
本実施形態の可塑性注入材を注入する施工場所としては、地盤やコンクリート構造物の空洞や空隙等が挙げられる。本実施形態の可塑性注入材は、適度な流動性と可塑性とを備えているため、狭い空洞や空隙等にも良好に注入することができる。
【0061】
尚、本実施形態は以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない
【0063】
≪可塑性注入材の材料≫
可塑性注入材の材料として下記のものを準備した。
高炉スラグ:高炉スラグ微粉末(日鉄住金鹿島鉱化社製)
ベントナイト1:クニゲルV1(膨潤度16ml/2g、クニミネ工業社製)
ベントナイト2:浅間(膨潤度8ml/2g、ホージュン社製)
ベントナイト3:WESTRN GEL(膨潤度36ml/2g、三菱商事社製)
化学混和剤1:ジオスパーK/ポリカルボン酸系減水剤(フローリック社製)
化学混和剤2:テルフロー/ポリカルボン酸系減水剤(テルナイト社製)
化学混和剤3:ポゾリスNo.70/リグニンスルホン酸化合物を含む減水剤(ポゾリス社製)
化学混和剤4:シーカメントFF86/メラミン系減水剤(日本シーカ社製)
化学混和剤5:フローリックPS/ナフタレンスルホン酸系減水剤(フローリック社製)
化学混和剤67:マイティ150/ナフタレンスルホン酸系減水剤(花王社製)
消石灰:一号消石灰(吉澤石灰工業 社製)
【0064】
≪試験1:化学混和剤の影響≫
表1に示す配合で混合物1乃至7を作製した。
混合物の作製方法は、まず、水と高炉セメントとを混合装置(ハンドミキサー)で60秒間混合し、その後ベントナイトを添加して90秒間混合し、さらに、化学混和剤を添加して40秒間混合した。得られた混合物の作製直後及び2日後の粘度を装置ビスコメーター VT−04(リオン社製)、測定条件20℃で測定した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示す通り、化学混和剤1を用いた混合物2乃至7は、用いなかった混合物1に比べて作製直後、2日後いずれの粘度も低く、特に2日後の粘度上昇が抑制されていた。
【0067】
≪試験2:ベントナイトの影響≫
表2に示す配合で混合物8乃至10を作製した。
混合物の作製方法は試験1と同様の方法であり、混合物の作製直後の粘度を試験1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示す通り、ベントナイトを可塑化材として用いた混合物8乃至10は、粘度は低く抑制されているが、可塑化材の量によって粘度は相違した。
【0070】
≪試験3:混合順の影響≫
表3に示す配合で混合物11乃至14を作製した。
【0071】
【表3】
【0072】
混合物の作製方法は、それぞれ以下の方法で作製した。混合装置は試験1と同様のものを用いた。
混合物11:水と化学混和剤とを混合しておき、かかる混合液に高炉スラグを加え60秒間混合した。その後、ベントナイトを加え90秒間混合した。
混合物12:水と化学混和剤とを混合しておき、かかる混合液にベントナイトを加え90秒間混合した。その後、高炉スラグを加え60秒間混合した。
混合物13:水とベントナイトとを90秒間混合しておき、かかる混合物に高炉スラグを加え60秒間混合した。その後、化学混和剤を加え40秒間混合した。
混合物14:水と高炉スラグとを60秒間混合しておき、かかる混合物にベントナイトを加え90秒間混合した。その後、化学混和剤を加え40秒間混合した。
混合物の作製直後及び2日後の粘度を試験1と同様に測定した。結果を表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
表4に示すように、混合順序によって作製直後及び2日後の粘度に差があった。ベントナイトと水とを混合する前に、水と高炉スラグとを混合した混合物11、14では、特に粘度の上昇を抑制できていた。
【0075】
≪試験4:ベントナイトの膨潤度の影響≫
ベントナイト1乃至3を用いて、混合物15乃至17を作製した。配合は表3に示す配合であり、試験1と同様の方法で作製した。混合物の作製直後及び2日後の粘度を試験1と同様に測定した。
また、ベントナイト2については、ベントナイト2:165kg/m
3、高炉スラグ:300kg/m
3、化学混和剤1:3.5kg/m
3、水:830kg/m
3、に変えた他は試験1と同様の方法で混合物18を作製した。
結果を表5に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
表5に示すように、ベントナイトの膨潤度によって、あるいは配合によって、作製直後及び2日後の粘度に差があった。
【0078】
≪試験5:化学混和剤の影響≫
化学混和剤1乃至6を用いて、混合物19乃至24を作製した。配合は表6に示す配合であり、試験1と同様の方法で作製した。混合物の作製直後及び1日後の粘度を試験1と同様に測定した。さらに混合物の作製直後及び1日後の流動性(Pロート)を以下の方法で測定した。結果を表7に示す。
(流動性測定方法)
漏斗試験機(商品名プレパクトフローコーン(Pロート)、関西機器製作所社製)を用いて土木学会規準「プレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法(P漏斗による方法)(JSCE−F 521)」の方法に従ってPロートを測定した。結果を表7に示す。
【0079】
【表6】
【0080】
【表7】
【0081】
表7に示すように、ポリカルボン酸系化学混和剤を用いた混合物19、20は粘度、Pロートともに1日経過後にも作製直後と変化が少なく、すなわち流動性を維持していた。ポリカルボン酸系以外の化学混和剤を用いた混合物21乃至24では作製から1日経過すると粘度が著しく上昇しており、Pロートは混合物が落下しないため測定できなかった。
【0082】
≪試験6:混合試験≫
試験1で得られた混合物1乃至7(作製後2日のもの)を第一混合物とし、表8に示す配合で製造された第二混合物を作製し、第一混合物:第二混合物の体積比を9:1となるように混合装置(ハンドミキサー)を用いて1分間混合したものを混合物25乃至31として作製した。該混合物25乃至31についてNEXCO試験方法 JHS A 313に従いフロー値を測定した。結果を表9に示す。
尚、試験1の結果の混合物1乃至7の粘度についても合わせて表9に示す。
【0083】
【表8】
【0084】
【表9】
【0085】
表9に示すように、ポリカルボン酸系化学混和剤を用いた混合物2乃至7を第一混合物として用いた混合物26乃至31のフロー値は、ポリカルボン酸系化学混和剤を用いていない混合物25と比較してもさほど高くなっていなかった。
すなわち、混合物2乃至7を第一混合物として用いた混合物26乃至31は、第一混合物の状態で流動性が高くと同時に、第二混合物と混合した後も適度なフロー値以下に維持できていた。