【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24〜30年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(チーム型研究(CREST))「安定な有機ラジカルの蓄電および光電変換材料への応用」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層とを有するナトリウムイオン電池であって、
前記正極活物質または前記負極活物質が、請求項1に記載のナトリウムイオン電池用活物質であることを特徴とするナトリウムイオン電池。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のナトリウムイオン電池用活物質およびナトリウムイオン電池について、詳細に説明する。
【0019】
A.ナトリウムイオン電池用活物質
まず、本発明のナトリウムイオン電池用活物質について説明する。本発明のナトリウムイオン電池用活物質は、下記式(1)で表される(t−ブチル)
3−トリオキソトリアンギュレンから構成されることを特徴とするものである。
【0021】
(上記式(1)において、実線と破線との二重線は、単結合または二重結合を表わす。)
【0022】
ここで、上記式(1)で表される「(t−ブチル)
3−ブチルトリオキソトリアンギュレン」とは、下記式(1−1)で表される中性ラジカル化合物、下記式(1−2)で表されるアニオン化合物、下記式(1−3)で表されるラジカルジアニオン化合物、下記式(1−4)で表されるジラジカルトリアニイオン化合物および下記式(1−5)で表されるラジカルテトラアニオン化合物を包含する。なお、以後、トリオキソトリアンギュレンを、単にTOTと略して説明する場合がある。
【0024】
本発明によれば、(t−ブチル)
3−TOTから構成されていることにより、ナトリウムイオン電池用の活物質として作動し、かつ、大容量なナトリウムイオン電池用活物質とすることができる。ところで、(t−ブチル)
3−TOTとナトリウムイオンとの反応は、後述するように、(t−ブチル)
3−TOTの表面で起こるラジカル反応であるが、具体的な反応メカニズムについては不明な点が多い。そのため、(t−ブチル)
3−TOTが、ナトリウムイオン電池用の活物質として作動するかは、容易に予測できるものではないが、本発明では、(t−ブチル)
3−TOTがナトリウムイオン電池用の活物質として作動することが明らかとなった。
【0025】
また、(t−ブチル)
3−TOTから構成されていることにより、大容量なナトリウムイオン電池用活物質とすることができる理由としては、次のことが考えられる。まず、(t−ブチル)
3−TOTは、下記式(2)で表されるTOTのRがt−ブチルであるTOT誘導体である。
【0027】
(上記式(2)において、実線と破線との二重線は、単結合または二重結合を表わす。)
【0028】
上記式(2)で表されるTOTは、トリアンギュレンに3個の酸素原子が導入された構造を有する。また、トリアンギュレンは、6個のベンゼン環が平面上に縮合した構造を有する。TOTは、このような構造を有することにより、1分子あたりの収容・放出電子数が向上し、大きな放電容量が得られる。したがって、(t−ブチル)
3−TOTが、TOTを母体とするTOT誘導体であることにより、大容量なナトリウムイオン電池用活物質とすることができると考えられる。
【0029】
また、本発明における(t−ブチル)
3−TOTは、上記式(2)で表されるTOTのRがt−ブチルであることにより、優れた安定性を発揮することができ、活物質の大容量化に寄与していると考えられる。この理由としては、次のことが考えられる。まず、一般的に、TOTのような中性ラジカル化合物群は、高い安定性を有することで知られている。しかしながら、TOTとナトリウムイオンとが酸化還元反応し、TOTがアニオン化合物になるに伴い、TOTの安定性は低くなるという問題がある。具体的に、TOTは、平面状の構造を有し、当該平面状のTOTが何重にも積層された状態で安定的に存在する。ところが、積層状態にある各TOTが還元されてアニオン化合物となりマイナス電荷を帯びると、積層されたTOT同士が互いに電子反発し合い、積層状態が崩れてしまう。これにより、安定性が低くなるという問題がある。また、上記式(2)で表されるTOTのRがBrやCl等のハロゲンである場合には、上記問題は顕著となる。これは、ハロゲンが電子吸引性を有することが原因の一つであると考えられる。
これに対し、本発明における(t−ブチル)
3−TOTは、上記式(2)で表されるTOTのRが、かさ高い立体構造を有するt−ブチルである。そのため、
図1(a)、(b)に示すように、(t−ブチル)
3−TOTが何重にも積層された状態にあり、ナトリウムイオンとの酸化還元反応により、(t−ブチル)
3−TOTがマイナス電荷を帯びたアニオン化合物となっても、積層された(t−ブチル)
3−TOT同士が所定の距離を保つことができるため、互いに電子反発し合うことを抑制し、積層状態を維持することができる。すなわち、上記式(2)で表されるTOTのRがt−ブチルである(t−ブチル)
3−TOTを用いる場合には、安定性を保つことができる。また、t−ブチルは電子供与性を有するため、上記効果は顕著となる。そのため、本発明における(t−ブチル)
3−TOTは、優れた安定性を発揮することができ、大容量なナトリウムイオン電池用活物質とすることができると考えられる。なお、(t−ブチル)
3−TOTは、通常、黒色六角柱状結晶状態で存在する。
【0030】
さらに、本発明においては、(t−ブチル)
3−TOTを活物質として用いることにより、活物質の電解質層への溶出を抑制することができるため、大容量なナトリウムイオン電池用活物質とすることができると考えられる。具体的には、(t−ブチル)
3−TOTは、有機中性ラジカル化合物の中でも特に分解しにくい化合物であり、結晶状態では強固な分子間ネットワークを形成している。そのため、ナトリウムイオン電池の充放電を繰り返すことにより、(t−ブチル)
3−TOTが電解質層に溶けだすことを抑制し、容量の低下を効果的に抑制することができると考えられる。
【0031】
上記効果に加え、本発明によれば、ナトリウムイオン電池用活物質が、(t−ブチル)
3−TOTから構成されていることにより、電池の安全性を向上させることができる。従来、ハードカーボンを、ナトリウムイオン電池の負極活物質として用いることが知られている。しかしながら、ハードカーボンは、活物質としての作動電位が低くく、金属Naが析出しやすいという問題があった。金属Naは、反応性が非常に高いため、金属Naが析出すると電池の安全性が低下してしまう。これに対し、本発明における(t−ブチル)
3−TOTは、金属Naが析出する電位よりも十分に高い電位で作動することができる。そのため、(t−ブチル)
3−TOTから構成されたナトリウムイオン電池用活物質を負極活物質として用いることにより、電池の安全性を向上させることができる。
【0032】
また、本発明によれば、ナトリウムイオン電池用活物質が、(t−ブチル)
3−TOTから構成されていることにより、高出力な電池とすることができる。従来、ナトリウムイオン電池用活物質として、例えば、チタン系酸化物を用いることが知られている。チタン系酸化物は、1V前後の電位で作動するため、活物質として用いた場合に、金属Naの析出を抑制することができる。しかしながら、チタン系酸化物を活物質として用いると、ナトリウムイオンの挿入脱離反応が非常に遅くなり、高出力な電池とすることが困難になるという問題がある。これは、ナトリウムイオンの挿入脱離反応が、チタン系酸化物の構造内で起こる反応であることが原因であると考えられる。これに対し、本発明のように(t−ブチル)
3−TOTを活物質として用いた場合、ナトリウムイオンの挿入脱離反応は、(t−ブチル)
3−TOTの表面で起こるラジカル反応である。そのため、本発明においては、従来の活物質とナトリウムイオンとの間で起こる挿入脱離反応に比べて、反応速度が非常に早い。これにより、高出力な電池とすることができる。
【0033】
本発明のナトリウムイオン電池用活物質は、ナトリウムイオン電池用の正極活物質または負極活物質として有用である。これは、例えば、(t−ブチル)
3−TOTを活物質としたナトリウムイオン電池を用いて、サイクリックボルタンメトリー(CV測定)を行った結果、後述する
図3に示すように、Na電極電位基準で1.0V〜1.5Vの負極として利用可能な領域、および2.5V〜3.1Vの正極として利用可能な領域で酸化還元電流が観測されたことから明らかである。また、本発明のナトリウムイオン電池用活物質は、負極活物質としての適性が、正極活物質としての適性に比べて高いため、負極活物質として用いることがより好ましい。この理由としては、後述する
図3に示すように、Na電極電位基準で2.5V〜3.1Vの領域における反応電流に比べて、1.0V〜1.5Vの領域における反応電流の方が大きく、さらに、2.5V〜3.1Vの領域に比べて、1.0V〜1.5Vの領域における酸化電流ピーク電位と還元電流ピーク電位との間隔が短いことから、2.5V〜3.1Vの領域での反応速度に比べて、1.0V〜1.5Vの領域での反応速度が速いことが挙げられる。
【0034】
本発明のナトリウムイオン電池用活物質の形状は、粒子状であることが好ましい。また、ナトリウムイオン電池用活物質の平均粒径(D
50)は、例えば1nm〜100μmの範囲内、中でも10nm〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【0035】
本発明のナトリウムイオン電池用活物質の合成方法は、上述した活物質を得ることができる方法であれば特に限定されないが、例えば、下記式(1−1)で表される(t−ブチル)
3−TOTの中性ラジカル体を合成する方法としては、次のような方法が挙げられる。
【0037】
すなわち、まず、20mLのフラスコに、カリウム2,6,10−トリ−t−ブチル−4,8−ジオキソ−4H,8H−ジベンゾ[cd,mn]ピレン−12−オラート563mg(1.06mmol)を入れ、2mol/Lの塩酸20mLに懸濁させる。次に、60℃の水浴中で5時間撹拌させて反応させる。反応終了後、室温まで冷却し、粗生成物を2mol/Lの塩酸で洗い、ろ取する。その後、70℃の条件下で真空乾燥して紫色固体を得る。続いて、得られた紫色固体497mg(1.01mmol)を30mLのフラスコに入れ、約10%の水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液7mLに懸濁させ、60℃の条件下で30分間撹拌させる。その後、粗生成物を蒸留水で洗い、ろ取して、60℃で真空乾燥させ、青色固体を得る。次に、アルゴン雰囲気下で、30mLのフラスコに得られた青色固体200mg(0.273mmol)とクロラニル67mg(0.273mmol)を入れ、ジメトキシエタン(DME)10mLに溶出させる。その後、室温で20分間撹拌させ、真空減圧下で溶媒を留去する。最後に、粗生成物をクロロホルム80mLに懸濁させ、カラムクロマトグラフィーに供することにより、2,6,10−トリ−t−ブチル−4,8−ジオキソ−4H,8H−ジベンゾ[cd,mn]ピレン−12−オキシルを得ることができる(茶色固体)。
【0038】
B.ナトリウムイオン電池
図2は、本発明のナトリウムイオン電池の一例を示す概略断面図である。
図2に示されるナトリウムイオン電池10は、正極活物質層1と、負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。
【0039】
本発明によれば、上記ナトリウムイオン電池用活物質を用いることにより、ナトリウムイオン電池を駆動させ、かつ、容量を向上させることが可能となる。
以下、本発明のナトリウムイオン電池について、構成ごとに説明する。
【0040】
1.負極活物質層
まず、本発明における負極活物質層について説明する。本発明における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。また、負極活物質層は、負極活物質の他に、導電化材、結着材および固体電解質材料の少なくとも一つを含有していても良い。
【0041】
本発明においては、負極活物質が、上記「A.ナトリウムイオン電池用活物質」に記載したナトリウムイオン電池用活物質であることが好ましい。ナトリウムイオン電池を駆動させ、かつ、容量を向上させることが可能となるからである。一方、本発明においては、正極活物質に上述したナトリウムイオン電池用活物質を用いて、負極活物質に従来の活物質を用いても良い。この場合、負極活物質として、上述したナトリウムイオン電池用活物質よりも電位が低い活物質を用いる必要がある。さらに、上述したナトリウムイオン電池用活物質は、Naを含有していないため、負極活物質がNaを含有していることが好ましい。すなわち、負極活物質として、金属NaおよびNa合金等のNa含有活物質を用いることが好ましい。
【0042】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましく、例えば60重量%〜99重量%の範囲内、中でも70重量%〜95重量%の範囲内であることが好ましい。また、負極活物質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであるが、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0043】
2.正極活物質層
次に、本発明の正極活物質層について説明する。本発明における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。また、正極活物質層は、正極活物質の他に、導電化材、結着材および固体電解質材料の少なくとも一つを含有していても良い。
【0044】
本発明においては、正極活物質が、上述したナトリウムイオン電池用活物質よりも電位が高い活物質であることが好ましい。金属Naの析出を抑制でき、安全性の高い電池とすることができるからである。さらに、より電位の高い活物質が豊富に存在するため、電圧の高いナトリウムイオン電池とすることができる。
【0045】
負極活物質に上述したナトリウムイオン電池用活物質を用いる場合、正極活物質として一般的な活物質を用いることができる。このような正極活物質としては、例えば、層状活物質、スピネル型活物質、オリビン型活物質等を挙げることができる。正極活物質の具体例としては、NaFeO
2、NaNiO
2、NaCoO
2、NaMnO
2、NaVO
2、Na(Ni
XMn
1−X)O
2(0<X<1)、Na(Fe
XMn
1−X)O
2(0<X<1)、NaVPO
4F、Na
2FePO
4F、Na
3V
2(PO
4)
3等を挙げることができる。
【0046】
正極活物質の形状は、粒子状であることが好ましい。また、正極活物質の平均粒径(D
50)は、例えば1nm〜100μmの範囲内、中でも10nm〜30μmの範囲内であることが好ましい。正極活物質層における正極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましく、例えば60重量%〜99重量%の範囲内、中でも70重量%〜95重量%の範囲内であることが好ましい。また、正極活物質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであるが、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0047】
3.電解質層
次に、本発明における電解質層について説明する。本発明における電解質層は、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成される層である。電解質層に含まれる電解質を介して、正極活物質と負極活物質との間のイオン伝導を行う。電解質層の形態は、特に限定されるものではなく、液体電解質層、ゲル電解質層、固体電解質層等を挙げることができる。
【0048】
液体電解質層は、通常、非水電解液を用いてなる層である。非水電解液は、通常、ナトリウム塩および非水溶媒を含有する。ナトリウム塩としては、例えばNaPF
6、NaBF
4、NaClO
4およびNaAsF
6等の無機ナトリウム塩;およびNaCF
3SO
3、NaN(CF
3SO
2)
2、NaN(C
2F
5SO
2)
2、NaC(CF
3SO
2)
3等の有機ナトリウム塩等を挙げることができる。非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、γ−ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシメタン、1,3−ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびこれらの任意の混合物等を挙げることができる。非水電解液におけるナトリウム塩の濃度は、例えば0.3mol/L〜5mol/Lの範囲内であり、0.8mol/L〜1.5mol/Lの範囲内であることが好ましい。ナトリウム塩の濃度が低すぎるとハイレート時の容量低下が生じる可能性があり、ナトリウム塩の濃度が高すぎると粘性が高くなり低温での容量低下が生じる可能性があるからである。なお、本発明においては、非水電解液として、例えばイオン性液体等の低揮発性液体を用いても良い。
【0049】
ゲル電解質層は、例えば、非水電解液にポリマーを添加してゲル化することで得ることができる。具体的には、非水電解液に、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリルニトリル(PAN)またはポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリマーを添加することにより、ゲル化を行うことができる。
【0050】
固体電解質層は、固体電解質材料を用いてなる層である。固体電解質材料としては、Naイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば酸化物固体電解質材料および硫化物固体電解質材料を挙げることができる。酸化物固体電解質材料としては、例えばNa
3Zr
2Si
2PO
12、βアルミナ固体電解質(Na
2O−11Al
2O
3等)等を挙げることができる。硫化物固体電解質材料としては、例えばNa
2S−P
2S
5等を挙げることができる。
【0051】
本発明における固体電解質材料は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良い。また、固体電解質材料の形状は、粒子状であることが好ましい。また、固体電解質材料の平均粒径(D
50)は、例えば1nm〜100μmの範囲内、中でも10nm〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【0052】
電解質層の厚さは、電解質の種類および電池の構成によって大きく異なるものであるが、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内、中でも0.1μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。
【0053】
4.その他の構成
本発明のナトリウムイオン電池は、上述した負極活物質層、正極活物質層および電解質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができる。本発明のナトリウムイオン電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に、セパレータを有していても良い。より安全性の高い電池を得ることができるからである。
【0054】
5.ナトリウムイオン電池
本発明のナトリウムイオン電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。また、本発明のナトリウムイオン電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。また、ナトリウムイオン電池の製造方法は、特に限定されるものではなく、一般的なナトリウムイオン電池における製造方法と同様である。
【0055】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0057】
[実施例1、比較例1、2]
(活物質層の作製)
活物質(下記式(3)で表される(t−ブチル)
3−TOT、下記式(4)で表されるBr
3−TOT、および下記式(5)で表されるCl
3−TOT)と、導電化材としてアセチレンブラック(AB)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、活物質:AB:PVDF=10:80:10(重量%)の割合で混合して作用電極側の活物質層とした。また、Na金属を用いて対極側の活物質層とした。
【0058】
【化6】
【0059】
(電解質層の作製)
エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)を、EC:DEC=1:1(体積%)の割合で混合し、さらに1MのNaPF
6を混合して電解液を作製した。
【0060】
(評価電池の作製)
上述した作用電極側および対極側の活物質層、電解液およびセパレータから構成されたコイン型の評価電池を作製した。なお、セパレータには、ポリオレフィン系(PE、PP)の微多孔膜を用いた。
【0061】
[実施例2、比較例3、4]
プロピレンカーボネート(PC)およびフルオロエチレンカーボネート(FEC)を、PC:FEC=100:5(重量%)の割合で混合し、さらに1MのNaPF
6を混合して電解液を作製したこと以外は、実施例1、比較例1、2と同様にして評価電池を作製した。
【0062】
[実施例3、比較例5、6]
エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)をEC:DMC=1:1の割合で混合し、さらに1MのNaN(CF
3SO
2)
2を混合して電解液を作製したこと以外は、実施例1、比較例1、2と同様にして評価電池を作製した。
【0063】
[評価1]
以下の条件下で評価電池のCV測定を行った。
掃引速度:0.1mV/sec
掃引範囲:1.0V〜3.1V(Na電極電位基準)
CV測定を行った結果、
図3に示すように、Na電極電位基準で1.0V〜1.5Vの負極として利用可能な領域、および2.5V〜3.1Vの正極として利用可能な領域で酸化還元電流が観測された。これにより、(t−ブチル)
3−TOTが、ナトリウムイオン電池用の正極活物質および負極活物質として作動することが明らかとなった。また、
図3に示すCV測定の結果から、Na電極電位基準で2.5V〜3.1Vの領域における反応電流に比べて、1.0V〜1.5Vの領域における反応電流の方が大きく、さらに、2.5V〜3.1Vの領域に比べて、1.0V〜1.5Vの領域における酸化電流ピーク電位と還元電流ピーク電位との間隔が短いことから、2.5V〜3.1Vの領域での反応速度に比べて、1.0V〜1.5Vの領域での反応速度が速いことが分かった。これにより、(t−ブチル)
3−TOTの負極活物質としての適性が、正極活物質としての適性に比べて高いことが明らかとなった。
【0064】
[評価2]
(容量の評価)
以下の条件下で評価電池を駆動させた。
充電:CC4V 1C (220mAh/g=1C)
放電:CC1V 1C (220mAh/g=1C)
温度:25℃
容量を測定した結果、(t−ブチル)
3−TOTがナトリウムイオン電池用の正極活物質および負極活物質として作動することが明らかとなった。また、表1に示すように、実施例1〜3のときに、比較例1〜6と比較して容量が2倍程度向上した。実施例1〜3および比較例1〜6を比較したところ、本発明のナトリウムイオン電池用活物質を負極活物質として用いた実施例1〜3のときに、上記効果が顕著となった。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1〜3、比較例1〜6の正極としたときの容量は、Na金属電極電位基準で、2V以上の領域におけるナトリウム挿入反応の容量であり、また、負極としたときの容量は、Na金属電極電位基準で、2V以下の領域におけるナトリウム脱離反応の容量である。