【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24〜30年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(チーム型研究(CREST))「安定な有機ラジカルの蓄電および光電変換材料への応用」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層とを有するナトリウムイオン電池であって、
前記正極活物質または前記負極活物質が、請求項1に記載の活物質であることを特徴とするナトリウムイオン電池。
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層とを有するリチウムイオン電池であって、
前記正極活物質または前記負極活物質が、請求項1に記載の活物質であることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の活物質、ナトリウムイオン電池およびリチウムイオン電池について、詳細に説明する。
【0019】
A.活物質
まず、本発明の活物質について説明する。本発明の活物質は、ナトリウムイオン電池またはリチウムイオン電池に用いられ、下記式(1)で表される(COONa)
3−トリオキソトリアンギュレンまたは下記式(2)で表される(COOLi)
3−トリオキソトリアンギュレンから構成されることを特徴とするものである。
【0021】
(上記式(1)および(2)において、実線と破線との二重線は、単結合または二重結合を表わす。)
【0022】
ここで、上記式(1)で表される「(COONa)
3−トリオキソトリアンギュレン」は、トリオキソトリアンギュレンを母体とし、下記式(1−1)で表される中性ラジカル化合物、下記式(1−2)で表されるアニオン化合物、下記式(1−3)で表されるラジカルジアニオン化合物、下記式(1−4)で表されるジラジカルトリアニイオン化合物および下記式(1−5)で表されるラジカルテトラアニオン化合物を包含する。
【0024】
また、上記式(2)で表される「(COOLi)
3−トリオキソトリアンギュレン」は、トリオキソトリアンギュレンを母体とし、下記式(2−1)で表される中性ラジカル化合物、下記式(2−2)で表されるアニオン化合物、下記式(2−3)で表されるラジカルジアニオン化合物、下記式(2−4)で表されるジラジカルトリアニイオン化合物および下記式(2−5)で表されるラジカルテトラアニオン化合物を包含する。
【0026】
なお、以後、トリオキソトリアンギュレンをTOTと略して説明する場合がある。
【0027】
本発明によれば、ナトリウムイオン電池またはリチウムイオン電池に用いられる活物質が、(COONa)
3−TOTまたは(COOLi)
3−TOTから構成されていることにより、電池の容量維持率を向上させることができる。この理由としては、次のことが考えられる。まず、ナトリウムイオン電池またはリチウムイオン電池の容量維持率が低くなる原因の一つとしては、電池の充放電を繰り返す過程で、活物質が電解質層に溶出し、溶出した活物質が電極層の表面に再析出して高抵抗層を形成しサイクル特性が低下することや、また、電解質層に溶出した活物質が、対極となる電極層の表面に析出して高抵抗層を形成しサイクル特性が低下することが考えられる。一般的に、TOTのような有機中性ラジカル化合物は、高い安定性を有することで知られている。具体的には、平面状の構造を有するTOTは、何重にも積層された状態で安定的に存在する。
【0028】
本発明の活物質を構成する(COONa)
3−TOTおよび(COOLi)
3−TOTは、中性ラジカル化合物群の中でも特に分解しにくい化合物であり、結晶状態では強固な分子間ネットワークを形成している。これにより、本発明が電池の容量維持率を向上させることができると考えられる。
【0029】
さらに、本発明によれば、ナトリウムイオン電池またはリチウムイオン電池に用いられる活物質が、(COONa)
3−TOTまたは(COOLi)
3−TOTから構成されていることにより、高出力な電池とすることができる。この理由としては、次のことが考えられる。すなわち、従来の活物質では、ナトリウムイオンまたはリチウムイオンの挿入脱離反応が、活物質の構造内で起こるのに対し、本発明の活物質では、ナトリウムイオンまたはリチウムイオンの挿入脱離反応が、活物質の表面で起こる(ラジカル反応)。そのため、本発明においては、従来の活物質とナトリウムイオンまたはリチウムイオンとの間で起こる挿入脱離反応に比べて反応速度を速めることができ、これにより、高出力な電池とすることができると考えられる。
【0030】
本発明の活物質は、ナトリウムイオン電池の活物質として用いても良く、リチウムイオン電池の活物質として用いても良い。また、本発明の活物質は、正極活物質として用いても良く、負極活物質として用いても良い。
【0031】
本発明の活物質の形状は、粒子状であることが好ましい。また、活物質の平均粒径(D
50)は、例えば1nm〜100μmの範囲内、中でも10nm〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【0032】
本発明の活物質の合成方法は、上述した活物質を得ることができる方法であれば特に限定されないが、例えば、次のような方法が挙げられる。
【0033】
(COONa)
3−TOTおよび(COOLi)
3−TOTは、例えば、下記の方法にて合成することができる。
【0035】
上述した合成方法において、上記式(I)で表される化合物の合成方法は、次のとおりである。まず、2,4−ジメチルブロモベンゼン(24ml、0.176mol)を1.63Mのt−BuLi(216ml、0.352mol)で処理し、その後、炭酸ジエチル(7ml、58mmol)を加える。次いで、有機溶剤で抽出し水で洗浄後、減圧留去しトリアリールメタノール体(13g、65%)を得る。この物質(10g、29mmol)を、酢酸(300ml)、次亜リン酸水溶液(45ml)中、室温で撹拌後、ヨウ素(7.3g、29mmol)で処理し、生じた白色沈殿を濾取することで、上記式(I)で表される化合物(5.4g、57%)を得ることができる。
【0036】
上述した合成方法において、上記式(II)で表される化合物の合成方法は、次のとおりである。上記式(I)で表される化合物(5.0g、15mmol)をt−ブチルアルコール(200ml)および水(200ml)と混合し、過マンガン酸カリウム(35.5g、225mmol)で処理する。放冷後、NaOH水溶液(50ml)を加え沈殿を濾別し、その後、塩酸(50ml)を加えpH1に調整する。酢酸エチルで抽出後、減圧濃縮することで酸化体(8.1g、93%)を白色粉末として得る。この物質(5g、9.8mmol)を濃硫酸(50ml)で処理し、水を加え生じた固形物を濾取し真空乾燥することで、上記式(II)で表される化合物(5g、粗収量)を得ることができる。
【0037】
上述した合成方法において、上記式(III)で表される化合物の合成方法は、次のとおりである。上記式(II)で表される化合物(5g、粗収量)を、メタノール(1.0g、2.2mmol)中において、水酸化ナトリウム(0.4g)で処理することで、上記式(III)で表される化合物(0.85g、75%)を得ることができる。なお、
1H NMR測定の結果は、
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 9.23 (s, 6H); Anal calcd for C25H20O16Na4(H2O)7: C, 44.93; H, 3.02;N, 0.00. Found: C, 44.94; H, 2.87; N, 0.00となる。
【0038】
上述した合成方法において、上記式(IV)で表される化合物の合成方法は、次のとおりである。上記式(II)で表される化合物(5g、粗収量)を、メタノール(1.0g、2.2mmol)中において、水酸化リチウム(0.8g)で処理することで、上記式(III)で表される化合物(2.0g、95%)を得ることができる。なお、
1H NMR測定の結果は、
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 9.27 (s, 6H)となる。
【0039】
B.ナトリウムイオン電池
本発明のナトリウムイオン電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された電解質層とを有し、上記正極活物質または上記負極活物質が、上述した活物質であることを特徴とする。
【0040】
図1は、本発明のナトリウムイオン電池の一例を示す概略断面図である。
図1に示されるナトリウムイオン電池10は、正極活物質層1と、負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。
【0041】
本発明によれば、上記活物質を用いることにより、容量維持率を向上させることが可能なナトリウムイオン電池とすることができる。
以下、本発明のナトリウムイオン電池について、構成ごとに説明する。
【0042】
1.正極活物質層
まず、本発明の正極活物質層について説明する。本発明における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。また、正極活物質層は、正極活物質の他に、導電化材、結着材および固体電解質材料の少なくとも一つを含有していても良い。
【0043】
本発明においては、正極活物質が、上記「A.活物質」に記載した活物質であっても良い。一方、負極活物質に上述した活物質を用いる場合、正極活物質として一般的な活物質を用いることができる。このような正極活物質としては、例えば、層状活物質、スピネル型活物質、オリビン型活物質等を挙げることができる。正極活物質の具体例としては、NaFeO
2、NaNiO
2、NaCoO
2、NaMnO
2、NaVO
2、Na(Ni
XMn
1−X)O
2(0<X<1)、Na(Fe
XMn
1−X)O
2(0<X<1)、NaVPO
4F、Na
2FePO
4F、Na
3V
2(PO
4)
3等を挙げることができる。
【0044】
導電化材の材料としては、所望の電子伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料を挙げることができる。さらに、炭素材料としては、具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、コークス、炭素繊維、黒鉛を挙げることができる。また、結着材の材料としては、化学的、電気的に安定なものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系結着材、および、スチレンブタジエンゴム等のゴム系結着材等を挙げることができる。また、固体電解質材料としては、所望のイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、酸化物固体電解質材料、硫化物固体電解質材料を挙げることができる。なお、固体電解質材料については、後述する「3.電解質層」で詳細に説明する。
【0045】
正極活物質の形状は、粒子状であることが好ましい。また、正極活物質の平均粒径(D
50)は、例えば1nm〜100μmの範囲内、中でも10nm〜30μmの範囲内であることが好ましい。正極活物質層における正極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましく、例えば60重量%〜99重量%の範囲内、中でも70重量%〜95重量%の範囲内であることが好ましい。また、正極活物質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであるが、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0046】
2.負極活物質層
次に、本発明における負極活物質層について説明する。本発明における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。また、負極活物質層は、負極活物質の他に、導電化材、結着材および固体電解質材料の少なくとも一つを含有していても良い。
【0047】
本発明においては、負極活物質が、上記「A.活物質」に記載した活物質であっても良い。一方、正極活物質に上述した活物質を用いる場合、負極活物質として一般的な活物質を用いることができる。この場合、負極活物質として、上述した活物質よりも電位が低い活物質を用いる必要がある。さらに、上述した活物質が(COOLi)
3−TOTである場合には、活物質がNaを含有していないため、負極活物質がNaを含有していることが好ましい。すなわち、負極活物質として、金属NaおよびNa合金等のNa含有活物質を用いることが好ましい。
【0048】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましく、例えば60重量%〜99重量%の範囲内、中でも70重量%〜95重量%の範囲内であることが好ましい。また、負極活物質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであるが、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0049】
3.電解質層
次に、本発明における電解質層について説明する。本発明における電解質層は、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成される層である。電解質層に含まれる電解質を介して、正極活物質と負極活物質との間のイオン伝導を行う。電解質層の形態は、特に限定されるものではなく、液体電解質層、ゲル電解質層、固体電解質層等を挙げることができる。
【0050】
液体電解質層は、通常、非水電解液を用いてなる層である。非水電解液は、通常、ナトリウム塩および非水溶媒を含有する。ナトリウム塩としては、例えばNaPF
6、NaBF
4、NaClO
4およびNaAsF
6等の無機ナトリウム塩;およびNaCF
3SO
3、NaN(CF
3SO
2)
2、NaN(C
2F
5SO
2)
2、NaC(CF
3SO
2)
3等の有機ナトリウム塩等を挙げることができる。非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、γ−ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシメタン、1,3−ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびこれらの任意の混合物等を挙げることができる。非水電解液におけるナトリウム塩の濃度は、例えば0.3mol/L〜5mol/Lの範囲内であり、0.8mol/L〜1.5mol/Lの範囲内であることが好ましい。ナトリウム塩の濃度が低すぎるとハイレート時の容量低下が生じる可能性があり、ナトリウム塩の濃度が高すぎると粘性が高くなり低温での容量低下が生じる可能性があるからである。なお、本発明においては、非水電解液として、例えばイオン性液体等の低揮発性液体を用いても良い。
【0051】
ゲル電解質層は、例えば、非水電解液にポリマーを添加してゲル化することで得ることができる。具体的には、非水電解液に、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリルニトリル(PAN)またはポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリマーを添加することにより、ゲル化を行うことができる。
【0052】
固体電解質層は、固体電解質材料を用いてなる層である。固体電解質材料としては、Naイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば酸化物固体電解質材料および硫化物固体電解質材料を挙げることができる。酸化物固体電解質材料としては、例えばNa
3Zr
2Si
2PO
12、βアルミナ固体電解質(Na
2O−11Al
2O
3等)等を挙げることができる。硫化物固体電解質材料としては、例えばNa
2S−P
2S
5等を挙げることができる。
【0053】
本発明における固体電解質材料は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良い。また、固体電解質材料の形状は、粒子状であることが好ましい。また、固体電解質材料の平均粒径(D
50)は、例えば1nm〜100μmの範囲内、中でも10nm〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【0054】
電解質層の厚さは、電解質の種類および電池の構成によって大きく異なるものであるが、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内、中でも0.1μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。
【0055】
4.その他の構成
本発明のナトリウムイオン電池は、上述した負極活物質層、正極活物質層および電解質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができる。本発明のナトリウムイオン電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に、セパレータを有していても良い。より安全性の高い電池を得ることができるからである。
【0056】
5.ナトリウムイオン電池
本発明のナトリウムイオン電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。また、本発明のナトリウムイオン電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。また、ナトリウムイオン電池の製造方法は、特に限定されるものではなく、一般的なナトリウムイオン電池における製造方法と同様である。
【0057】
C.リチウムイオン電池
本発明のリチウムイオン電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された電解質層とを有し、上記正極活物質または上記負極活物質が、上述した活物質であることを特徴とする。なお、具体的な構造については、「B.ナトリウムイオン電池」に記載したナトリウムイオン電池と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0058】
本発明によれば、上記物質を用いることにより、電池の容量維持率を向上させることが可能となる。
以下、本発明のリチウムイオン電池について、構成ごとに説明する。
【0059】
1.正極活物質層
まず、本発明の正極活物質層について説明する。本発明における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。また、正極活物質層は、正極活物質の他に、導電化材、結着材および固体電解質材料の少なくとも一つを含有していても良い。
【0060】
本発明においては、正極活物質が、上記「A.活物質」に記載した活物質であっても良い。一方、負極活物質に上述した活物質を用いる場合、正極活物質として一般的な活物質を用いることができる。このような正極活物質としては、例えば、LiCoO
2、LiMnO
2、LiNiO
2、LiVO
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2等の岩塩層状型活物質、LiMn
2O
4、Li(Ni
0.5Mn
1.5)O
4等のスピネル型活物質、LiFePO
4、LiMnPO
4、LiNiPO
4、LiCuPO
4等のオリビン型活物質等を挙げることができる。
【0061】
また、導電化材の材料、正極活物質の形状、平均粒径(D
50)、正極活物質層における正極活物質の含有量、および正極活物質層の厚さについては、「B.ナトリウムイオン電池 1.正極活物質層」に記載したナトリウムイオン電池の正極活物質層と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0062】
2.負極活物質層
次に、本発明における負極活物質層について説明する。本発明における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。また、負極活物質層は、負極活物質の他に、導電化材、結着材および固体電解質材料の少なくとも一つを含有していても良い。
【0063】
本発明においては、負極活物質が、上記「A.活物質」に記載した活物質であっても良い。一方、正極活物質に上述した活物質を用いる場合、負極活物質として一般的な活物質を用いることができる。この場合、負極活物質として、上述した活物質よりも電位が低い活物質を用いる必要がある。さらに、上述した活物質が(COONa)
3−TOTである場合には、活物質がLiを含有していないため、負極活物質がLiを含有していることが好ましい。すなわち、負極活物質として、リチウム金属、リチウム合金、リチウム元素を含有する金属酸化物、リチウム元素を含有する金属硫化物、リチウム元素を含有する金属窒化物を用いることが好ましい。
【0064】
また、負極活物質層における負極活物質の含有量、および負極活物質層の厚さについては、「B.ナトリウムイオン電池 1.負極活物質層」に記載したナトリウムイオン電池の負極活物質層と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0065】
3.電解質層
次に、本発明における電解質層について説明する。本発明における電解質層は、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成される層である。電解質層に含まれる電解質を介して、正極活物質と負極活物質との間のイオン伝導を行う。電解質層の形態は、特に限定されるものではなく、液体電解質層、ゲル電解質層、固体電解質層等を挙げることができる。
【0066】
液体電解質層は、通常、非水電解液を用いてなる層である。非水電解液は、通常、リチウム塩および非水溶媒を含有する。リチウム塩としては、例えばLiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6等の無機リチウム塩、およびLiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3等の有機リチウム塩等を挙げることができる。非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート(BC)、γ−ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシメタン、1,3−ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびこれらの混合物等を挙げることができる。非水電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.5mol/L〜3mol/Lの範囲内である。
【0067】
ゲル電解質層は、例えば、非水電解液にポリマーを添加してゲル化することで得ることができる。具体的には、非水電解液に、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリルニトリル(PAN)またはポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリマーを添加することにより、ゲル化を行うことができる。
【0068】
固体電解質層は、固体電解質材料を用いてなる層である。固体電解質材料としては、例えば、酸化物固体電解質材料および硫化物固体電解質材料を挙げることができる。Liイオン伝導性を有する酸化物固体電解質材料としては、例えば、Li
1+xAl
xGe
2−x(PO
4)
3(0≦x≦2)、Li
1+xAl
xTi
2−x(PO
4)
3(0≦x≦2)、LiLaTiO(例えば、Li
0.34La
0.51TiO
3)、LiPON(例えば、Li
2.9PO
3.3N
0.46)、LiLaZrO(例えば、Li
7La
3Zr
2O
12)等を挙げることができる。一方、Liイオン伝導性を有する硫化物固体電解質材料としては、例えば、Li
2S−P
2S
5化合物、Li
2S−SiS
2化合物、Li
2S−GeS
2化合物等を挙げることができる。
【0069】
本発明における固体電解質材料は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良い。また、固体電解質材料の形状、平均粒径(D
50)および電解質層の厚さについては、「B.ナトリウムイオン電池 3.電解質層」に記載したナトリウムイオン電池の電解質層と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0070】
4.その他の構成
本発明のリチウムイオン電池は、上述した負極活物質層、正極活物質層および電解質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができる。本発明のリチウムイオン電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に、セパレータを有していても良い。より安全性の高い電池を得ることができるからである。
【0071】
5.リチウムイオン電池
本発明のリチウムイオン電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。また、本発明のリチウムイオン電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。また、リチウムイオン電池の製造方法は、特に限定されるものではなく、一般的なリチウムイオン電池における製造方法と同様である。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0074】
[実施例1、2、比較例1、2]
(活物質層の作製)
活物質(下記式(a)で表される(COONa)
3−TOT、下記式(b)で表される(COOLi)
3−TOT、下記式(c)で表されるBr
3−TOT、下記式(d)で表されるCl
3−TOT)と、導電化材としてアセチレンブラック(AB)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、活物質:AB:PVDF=10:80:10(重量%)の割合で混合して作用電極側の活物質層とした。また、Li金属を用いて対極側の活物質層とした。
【0075】
【化6】
【0076】
(電解質層の作製)
エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)およびジメチルカーボネート(DMC)を、EC:DEC:DMC=1:1:2(体積%)の割合で混合し、さらに1MのLiPF
6を混合して電解液を作製した。
【0077】
(リチウムイオン電池の作製)
上述した活物質層、電解質層およびセパレータから構成されたコイン型のリチウムイオン電池を作製した。なお、セパレータには、ポリオレフィン系(PE、PP)の微多孔膜を用いた。
【0078】
[実施例3、4、比較例3、4]
エチレンカーボネート(EC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)をEC:EMC=3:7(体積%)の割合で混合し、さらに1MのLiN(CF
3SO
2)
2を混合して電解液を作製したこと以外は、実施例1、2、比較例1、2と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。
【0079】
[評価1]
(リチウムイオン電池の容量維持率の評価)
リチウムイオン電池については、以下の条件下で駆動させた。
充電:CC4V 1C (220mAh/g=1C)
放電:CC1V 1C (220mAh/g=1C)
温度:25℃
【0080】
表1に示すように、実施例1、2のときに、比較例1、2と比較して容量維持率が向上し、電解液の材料を変更した実施例3〜4の場合も、比較例3〜4と比較して容量維持率が向上した。また、比較例1〜4では、電池分解後のセパレータが変色していたのに対し、実施例1〜4では、電池分解後のセパレータは変色していなかった。これにより、比較例1〜4では、活物質が電解液に溶出しているのに対し、実施例1〜4では、活物質が電解液に溶出していないことが分かる。なお、下記表1に示す容量維持率は、100サイクル後の容量維持率である。
【0081】
【表1】
【0082】
[実施例5、6、比較例5、6]
対極側の活物質層にNa金属を用い、エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)をEC:DEC=1:1(体積%)の割合で混合し、さらに1MのNaPF
6を混合して電解液を作製したこと以外は、実施例1、2、比較例1、2と同様にしてナトリウムイオン電池を作製した。
【0083】
[実施例7、8、比較例7、8]
対極側の活物質層にNa金属を用い、また、ポリカーボネート(PC)およびフルオロエチレンカーボネート(FEC)を、PC:FEC=100:5(重量%)の割合で混合し、さらに1MのNaPF
6を混合して電解液を作製したこと以外は、実施例1、2、比較例1、2と同様にしてナトリウムイオン電池を作製した。
【0084】
[実施例9、10、比較例9、10]
対極側の活物質層にNa金属を用い、また、エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を、EC:DMC=100:5(重量%)の割合で混合し、さらに1MのNaN(CF
3SO
2)
2を混合して電解液を作製したこと以外は、実施例1、2、比較例1、2と同様にしてナトリウムイオン電池を作製した。
【0085】
[評価2]
(ナトリウムイオン電池の容量維持率の評価)
ナトリウムイオン電池については、以下の条件下で駆動させた。
充電:CC3.6V 1C (220mAh/g=1C)
放電:CC0.6V 1C (220mAh/g=1C)
温度:25℃
【0086】
表2に示すように、実施例5、6のときに、比較例5、6と比較して容量維持率が向上し、電解液の材料を変更した実施例7〜10の場合も、比較例7〜10と比較して容量維持率が向上した。また、比較例5〜10では、電池分解後のセパレータが変色していたのに対し、実施例5〜10では、電池分解後のセパレータは変色していなかった。これにより、比較例5〜10では、活物質が電解液に溶出しているのに対し、実施例5〜10では、活物質が電解液に溶出していないことが分かる。なお、下記表2に示す容量維持率は、100サイクル後の容量維持率である。
【0087】
【表2】