【課題】新規な癌治療のターゲット遺伝子、すなわちその発現を抑制又はその機能を抑制することで癌細胞の増殖を抑制し、癌の治療を可能とする遺伝子を見出して、癌の治療用医薬組成物を提供すること。
【解決手段】Arl4c遺伝子の発現を抑制する物質又はArl4cタンパク質の活性を抑制する物質を含む、癌の治療のための医薬組成物、ならびに、Arl4c遺伝子の発現又はArl4cタンパク質の活性を指標とし、発現の抑制又は活性の抑制をする物質を候補化合物とする、癌の治療のための物質のスクリーニング方法。
Arl4c遺伝子の発現を抑制する物質及びArl4cタンパク質の活性を抑制する物質からなる群より選ばれる少なくとも1つが、核酸である、請求項1記載の医薬組成物。
Arl4c遺伝子の発現又はArl4cタンパク質の活性を指標とし、発現の抑制又は活性の抑制をする物質を候補化合物とする、癌の治療のための物質のスクリーニング方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の医薬組成物は、有効成分として、Arl4c遺伝子の発現を抑制する物質又はArl4cタンパク質の活性を抑制する物質を含むことを大きな特徴とする。なお、本明細書において使用される用語は、特に言及する場合を除いて、当該分野で通常用いる意味で用いられる。
【0011】
本発明者らは、これまでに、WntとEGFシグナルの共刺激によってArl4cタンパク質の発現が誘導され、それにより上皮細胞の形態が変化し、増殖制御因子が核内に移行して細胞増殖が促進されることで、上皮管腔組織形成が誘導されることを明らかにしている。一方で、WntとEGFのシグナル異常は種々の癌に関与することが分かっている。そこで、本発明者らは、癌とArl4cの関係に着目して検討したところ、EGFとWnt3aシグナルによって、Arl4c遺伝子とEts、β−カテニンやTcf4等との結合が促進され、それによりヒストンH3のアセチル化が向上することでArl4cの発現が誘導されることを見出した。よって、WntとEGFシグナルが継続して活性化される癌においてはArl4cの発現が向上すると推察されることから、その発現を抑えることで癌を抑制できるのではないかと更に検討した結果、Arl4cを新規な癌の標的遺伝子として見出した。
【0012】
本発明は、1の態様において、Arl4c遺伝子の発現を抑制する物質又はArl4cタンパク質の活性を抑制する物質を含む、医薬組成物を提供する。かかる医薬組成物は、例えば、癌の治療に用いることができる。
【0013】
Arl4cは低分子量G-タンパク質であり、Arl4c アイソフォーム1及び該アイソフォーム1に比べてC末端が短いArl4c アイソフォーム2が挙げられるが、本発明におけるArl4cとしてはいずれも用いることができる。Arl4cはGTPと結合することで活性型になると推測されているが、機能の詳細については不明である。Arl4cについては、これまで、Hela細胞においてコレステロールの流出を促進することや、ヒト腎細胞癌においてα−チューブリンと相互作用して初期エンドソームからリサイクリングエンドソームにトランスフェリンを輸送することに関与することが知られている。しかし、Arl4cと癌との関連については知られていない。
【0014】
本明細書において、「Arl4c遺伝子」とは、ヒトArl4cタンパク質をコードする遺伝子を意味する。ヒトArl4c遺伝子の塩基配列及びヒトArl4cタンパク質のアミノ酸配列は公知であり、例えば、Arl4c アイソフォーム1については、ヒトArl4c遺伝子の塩基配列(配列番号1)としてGenBank Accession ID:NM_001282431.1が、ヒトArl4cタンパク質アミノ酸配列(配列番号2)としてGenBank Accession ID:NP_001269360.1が、Arl4c アイソフォーム2については、ヒトArl4c遺伝子の塩基配列(配列番号3)としてGenBank Accession ID:NM_005737.3が、ヒトArl4cタンパク質アミノ酸配列(配列番号4)としてGenBank Accession ID:NP_005728.2が、それぞれGenBankに登録され、公表されている。
【0015】
本明細書において、ヒトArl4cタンパク質は、配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質のみならず、ヒト個体内で生じ得る変異体も含み、配列番号2又は4の配列からなるタンパク質において1個又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたタンパク質であって多形性や突然変異に基づく変異により生じるもの、が含まれる。ただし、これらの変異体ヒトArl4cタンパク質は、配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するものである。
【0016】
本明細書において、「Arl4c遺伝子」は、配列番号1又は3の塩基配列からなる遺伝子のみならず、ヒト個体内で生じ得る変異体も含み、例えば配列番号1又は3の塩基配列からなる遺伝子において1又は数個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された遺伝子であって、多形性や突然変異に基づく変異により生じるもの、が含まれる。さらに、「Arl4c遺伝子」は、配列番号1又は3の塩基配列に対して、80%以上、例えば、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、99.7%以上又は99.9%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなる変異体を含む。塩基配列の同一性は、BLAST、FASTAなどの公知のアルゴリズムを利用して決定できる。さらに、「Arl4c遺伝子」は、配列番号1又は3の塩基配列からなる遺伝子に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションする塩基配列からなる変異体を含む。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては、例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(1989)(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Current Protocols in Molecular Biology(1994)(Wiley−Interscience)、DNA Cloning 1:Core Techniques、A Practical Approach,Second Edition(1995)(Oxford University Press)などに記載されている方法に準じて行うことができる。ただし、これらの変異体遺伝子は、配列番号2又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするものである。
【0017】
本明細書において、「遺伝子の発現を抑制する物質」とは、標的遺伝子のmRNAの転写を抑制する物質、転写されたmRNAを分解する物質、又はmRNAからのタンパク質の翻訳を抑制する物質であれば特に限定されるものでない。かかる物質としては核酸が挙げられ、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド若しくはリボザイム又はこれらの発現ベクターなどが例示される。其の中でも、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びsiRNA並びにその発現ベクターが好ましく、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びsiRNAがより好ましい。「遺伝子の発現を抑制する物質」としては、上記のほか、タンパク質やペプチド、あるいは他の小分子も含まれる。なお、本発明において標的遺伝子は、Arl4c遺伝子である。
【0018】
本明細書において、「siRNA」とは、約15〜40塩基からなる二本鎖RNA部分を有するRNA分子であり、前記siRNAのアンチセンス鎖と相補的な配列をもつ標的遺伝子のmRNAを切断し、標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する。詳細には、本発明におけるsiRNAは、Arl4c遺伝子のmRNA中の連続したRNA配列と相同な配列からなるセンスRNA鎖と、該センスRNA配列に相補的な配列からなるアンチセンスRNA鎖とからなる二本鎖RNA部分を含んでなるRNAである。かかるsiRNA及び後述の変異体siRNAの設計及び製造は当業者の技量の範囲内である。
【0019】
二本鎖RNA部分の長さは、塩基として、好ましくは約15〜40塩基、より好ましくは15〜30塩基、更に好ましくは15〜25塩基、更に好ましくは18〜23塩基、より更に好ましくは19〜21塩基である。siRNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖の末端構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平滑末端を有するものであってもよいし、突出末端(オーバーハング)を有するものであってもよく、3’末端が突き出したタイプが好ましい。センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖の3’末端に数個の塩基、好ましくは1〜3個の塩基、より好ましくは2個の塩基からなるオーバーハングを有するsiRNAは、標的遺伝子の発現を抑制する効果が大きい場合が多く、好ましいものである。オーバーハングの塩基の種類は特に制限はなく、RNAを構成する塩基あるいはDNAを構成する塩基のいずれであってもよい。
【0020】
さらに、上記siRNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖の一方又は両方において1〜数個までのヌクレオチドが欠失、置換、挿入及び/又は付加されているsiRNAもまた、本発明の癌の治療用医薬組成物に用いることができる。ここで、1〜数塩基とは、特に限定されるものではないが、好ましくは1〜4塩基、より好ましくは1〜3塩基、更に好ましくは1〜2塩基である。かかる変異の具体例としては、3’末端のオーバーハング部分の塩基数を0〜3個としたもの、3’末端のオーバーハング部分の塩基配列を他の塩基配列に変更したもの、あるいは塩基の挿入、付加又は欠失により上記センスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖の長さが1〜3塩基異なるもの、センス鎖及び/又はアンチセンス鎖において塩基が別の塩基にて置換されているもの等が挙げられるが、これらに限定されない。ただし、これらの変異体siRNAにおいてセンス鎖とアンチセンス鎖がハイブリダイゼーションしうること、ならびにこれらの変異体siRNAが変異を有しないsiRNAと同等の遺伝子発現抑制能を有することが必要である。
【0021】
さらに、該siRNAは、一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(Short hairpin RNA;shRNA)であってもよい。shRNAは、標的遺伝子の特定配列のセンス鎖RNA、該センス鎖RNAに相補的な配列からなるアンチセンス鎖RNA及びその両鎖を繋ぐリンカー配列を含むRNAであり、センス鎖部分とアンチセンス鎖部分がハイブリダイズし、二本鎖RNA部分を形成する。
【0022】
siRNAは、臨床使用の際には、いわゆるoff−target効果を示さないことが望ましい。off−target効果とは、標的遺伝子以外に、使用したsiRNAに部分的にホモロジーのある別の遺伝子の発現を抑制する作用をいう。off−target効果を避けるために、候補siRNAについて、予めDNAマイクロアレイなどを利用して交差反応がないことを確認することが可能である。また、NCBI(National Center for Biotechnology Information)などが提供する公知のデータベースを用いて、標的となる遺伝子以外に候補siRNAの配列と相同性が高い部分を含む遺伝子が存在しないかを確認する事によって、off−target効果を避けることが可能である。
【0023】
本発明のsiRNAを作製するには、化学合成による方法及び遺伝子組換え技術を用いる方法等、公知の方法を適宜用いることができる。合成による方法では、配列情報に基づき、常法により二本鎖RNAを合成することができる。また、遺伝子組換え技術を用いる方法では、センス鎖配列やアンチセンス鎖配列を組み込んだ発現ベクターを構築し、該ベクターを宿主細胞に導入後、転写により生成されたセンス鎖RNAやアンチセンス鎖RNAをそれぞれ取得することによって作製することもできる。また、標的遺伝子の特定配列のセンス鎖RNA、該センス鎖RNAに相補的な配列からなるアンチセンス鎖RNA及びその両鎖を繋ぐリンカー配列を含み、ヘアピン構造を形成するshRNAを発現させることにより、所望の二本鎖RNAを作製することもできる。
【0024】
siRNAは、標的遺伝子の発現抑制活性を有する限りにおいては、siRNAを構成する核酸の一部がDNAであっても良い。また、siRNAは、標的遺伝子の発現抑制活性を有する限りにおいては、siRNAを構成する核酸の全体又はその一部が修飾された核酸であってもよい。
【0025】
修飾された核酸とは、ヌクレオシド(塩基部位、糖部位)及び/又はヌクレオシド間結合部位に修飾が施されていて、天然の核酸と異なった構造を有するものを意味する。修飾された核酸を構成する「修飾されたヌクレオシド」としては、例えば、無塩基(abasic)ヌクレオシド;アラビノヌクレオシド、2’−デオキシウリジン、α−デオキシリボヌクレオシド、β−L−デオキシリボヌクレオシド、その他の糖修飾を有するヌクレオシド;ペプチド核酸(PNA)、ホスフェート基が結合したペプチド核酸(PHONA)、ロックド核酸(LNA)、モルホリノ核酸等が挙げられる。前記糖修飾を有するヌクレオシドには、2’−O−メチルリボース、2’−デオキシ−2’−フルオロリボース、3’−O−メチルリボース等の置換五単糖;1’,2’−デオキシリボース;アラビノース;置換アラビノース糖;六単糖及びアルファ−アノマーの糖修飾を有するヌクレオシドが含まれる。これらのヌクレオシドは塩基部位が修飾された修飾塩基であってもよい。このような修飾塩基には、例えば、5−ヒドロキシシトシン、5−フルオロウラシル、4−チオウラシル等のピリミジン;6−メチルアデニン、6−チオグアノシン等のプリン;及び他の複素環塩基等が挙げられる。
【0026】
修飾された核酸を構成する「修飾されたヌクレオシド間結合」としては、例えば、アルキルリンカー、グリセリルリンカー、アミノリンカー、ポリ(エチレングリコール)結合、メチルホスホネートヌクレオシド間結合;メチルホスホノチオエート、ホスホトリエステル、ホスホチオトリエステル、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、トリエステルプロドラッグ、スルホン、スルホンアミド、サルファメート、ホルムアセタール、N−メチルヒドロキシルアミン、カルボネート、カルバメート、モルホリノ、ボラノホスホネート、ホスホルアミデートなどの非天然ヌクレオシド間結合が挙げられる。
【0027】
標的遺伝子のmRNA対して相補的なオリゴヌクレオチドを「アンチセンスオリゴヌクレオチド」と呼び、当該アンチセンスオリゴヌクレオチドが標的とする遺伝子(mRNA)と二本鎖を形成することによりmRNAの働きを抑制する。「アンチセンスオリゴヌクレオチド」には、標的となる遺伝子(mRNA)と完全に相補的であるもののみならず、mRNAと安定にハイブリダイズできる限り、多少のミスマッチが存在してもよい。
【0028】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、修飾されていてもよい。適当な修飾を施すことにより、当該アンチセンスオリゴヌクレオチドは生体内で分解されにくくなり、より安定して標的遺伝子の発現を阻害できるようになる。このような修飾されたオリゴヌクレオチドとしては、S−オリゴ型(ホスホロチオエート型)、C−5チアゾール型、D−オリゴ型(ホスホジエステル型)、M−オリゴ型(メチルフォスフォネイト型)、ペプチド核酸型、リン酸ジエステル結合型、C−5プロピニルピリミジン型、2−O−プロピルリボース、2'−メトキシエトキシリボース型等の修飾型のアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、リン酸基を構成する酸素原子の少なくとも一部がイオウ原子に置換、修飾されているものでもよい。このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ヌクレアーゼ耐性、RNAへの親和性に特に優れている。リン酸基を構成する酸素原子の少なくとも一部がイオウ原子に置換、修飾されたアンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えば、S−オリゴ型等のオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0029】
アンチセンスオリゴヌクレオチド(又はその誘導体)は常法によって合成することができ、例えば、市販のDNA合成装置(例えばAppliedBiosystems社製など)によって容易に合成することができる。合成法はホスホロアミダイトを用いた固相合成法、ハイドロジェンホスホネートを用いた固相合成法などがある。
【0030】
「リボザイム」とは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いる。具体的には、リボザイムは、標的遺伝子をコードするmRNA又は初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得る。リボザイムで最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる(Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001))。
【0031】
標的遺伝子の発現を抑制する物質は、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はリボザイムなどの核酸分子及び、該核酸分子をコードする発現ベクターでもよい。当該発現ベクターは、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物で機能し得るものであれば特に制限はないが、例えば、polIIIプロモーター(例、tRNAプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーター)、哺乳動物用プロモーター(例、CMVプロモーター、CAGプロモーター、SV40プロモーター)などが挙げられる。
【0032】
発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
【0033】
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは特に制限されないが、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターが挙げられる。ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0034】
本発明の発現ベクターとしては、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はリボザイムの発現ベクターが例示されるが、其の中でも、siRNAの発現ベクターが好ましい。
【0035】
これらの「遺伝子の発現を抑制する物質」は、肺癌、大腸癌又は膵臓癌などを含む広範囲の癌細胞の増殖を抑制し、しかも抑制の程度が大きいので、これらを含む癌の治療用医薬組成物の効果は大きいものである。
【0036】
本明細書において、「タンパク質の活性を抑制する物質」とは、標的タンパク質の活性を抑制する物質であれば特に限定されるものでない。かかる物質として、タンパク質やペプチド、抗体あるいは他の低分子化合物などが例示される。其の中でも、ペプチド、抗体、及び低分子化合物が好ましく、抗体、低分子化合物がより好ましい。なお、本発明において標的タンパク質は、Arl4cタンパク質である。
【0037】
本発明において、Arl4c遺伝子の発現を抑制する物質又はArl4cタンパク質の活性を抑制する物質は、医薬組成物の有効成分として使用することができる。本発明の医薬組成物は、当該医薬組成物を生体内に投与することにより、癌治療用医薬組成物として使用することができる。
【0038】
本発明の医薬組成物の治療の対象である癌の種類は、特に限定されることはない。また、固形癌であっても浸潤癌であってもよい。具体的には、例えば、膀胱癌、乳癌、結腸癌、大腸癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、小細胞肺癌、食道癌、胆嚢癌、卵巣癌、膵臓癌、胃癌、子宮頸部癌、甲状腺癌、前立腺癌、扁平上皮癌、皮膚癌、骨癌、リンパ腫、白血病及び脳腫瘍を挙げることができる。なかでも、肺癌、大腸癌には本発明の医薬組成物の適用が期待される。
【0039】
また、本発明の癌の治療のための医薬組成物は、癌の治療だけでなく、癌治療後の再発予防、転移の防止にも使用できる。
【0040】
本発明の医薬組成物は、経口投与及び非経口投与のいずれの剤形をも採用することができる。非経口投与の場合は、腫瘍部位に直接投与することも可能である。
【0041】
本発明の医薬組成物は常法にしたがって製剤化することができ、医薬的に許容される担体や添加物を含むものであってもよい。このような担体及び添加物として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0042】
添加物は、本発明の医薬組成物の剤形に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれる。剤形としては、経口投与の場合は、錠剤、カプセル剤、細粒剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤等として、又は適当な剤形により投与が可能である。非経口投与の場合は、経肺剤形(例えばネフライザーなどを用いたもの)、経鼻投与剤形、経皮投与剤形(例えば軟膏、クリーム剤)、注射剤形等が挙げられる。注射剤形の場合は、例えば点滴等の静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等により全身又は局部的に投与することができる。
【0043】
標的遺伝子の発現を抑制する物質がsiRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド若しくはリボザイムなどの核酸分子、又は該核酸分子をコードする発現ベクターである場合は、リポソームなどのリン脂質小胞体に当該発現抑制物質を導入し、その小胞体を本発明の医薬組成物とすることも可能である。
【0044】
本発明の医薬組成物の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤形によって異なる。投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択する。有効投与量は、一回につき体重1kgあたり0.01μg〜1000mg、好ましくは0.1μg〜100μgである。但し、上記治療剤はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0045】
本発明は、さらなる態様において、
(i)Arl4c遺伝子の発現を抑制する物質又はArl4cタンパク質の活性を抑制する物質を投与する工程を有する、癌を治療する方法、
(ii)癌の治療に用いられる、Arl4c遺伝子の発現を抑制する物質又はArl4cタンパク質の活性を抑制する物質、ならびに
(iii)癌の治療剤の調製における、Arl4c遺伝子の発現を抑制する物質又はArl4cタンパク質の活性を抑制する物質の使用
を提供する。
上記「遺伝子の発現を抑制する物質」又は「タンパク質の活性を抑制する物質」については、上で説明したとおりである。また、「遺伝子の発現を抑制する物質」として、siRNAが用いられる場合、好ましいsiRNAについては上述したとおりである。
【0046】
本発明は、もう1つの態様において、Arl4c遺伝子の発現又はArl4cタンパク質の活性を抑制することを指標とし、発現の抑制又は活性の抑制をする物質を候補化合物とする、癌の治療剤をスクリーニングする方法を提供する。
【0047】
スクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、タンパク質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0048】
一実施形態では、本発明のスクリーニング方法は、下記の工程(a)〜(c)を含む:
(a)Arl4c遺伝子の発現又はArl4cタンパク質の活性を測定可能な細胞と被験物質とを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞における前記遺伝子の発現量又はタンパク質の活性を測定し、該測定値を、被験物質を接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量又はタンパク質の活性と比較する工程;
次いで
(c)被験物質を与えられた細胞における前記遺伝子の発現量又はタンパク質の活性が、被験物質を与えられていない細胞における前記遺伝子の発現量又はタンパク質の活性よりも低下している場合に、被験物質を癌の治療物質として選択する工程。
【0049】
上記方法の工程(a)では、Arl4c遺伝子の発現量又はArl4cタンパク質の活性を測定可能な細胞と被験物質とが接触条件下におかれる。これらの発現を測定可能な細胞に対する被験物質の接触は、培養培地中で行われる。
【0050】
Arl4c遺伝子の発現量又はArl4cタンパク質の活性を測定可能な細胞とは、Arl4c遺伝子の産物、例えば、転写産物、翻訳産物の発現レベルやArl4cタンパク質の活性を直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。該遺伝子の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、該遺伝子を天然で発現可能な細胞であり得、一方、該遺伝子の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞としては、該遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞などが挙げられる。該遺伝子の発現を測定可能な細胞は、動物細胞、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サルあるいはヒトの哺乳動物細胞を用いることができ、なかでも、ヒト由来の細胞が望ましい。
【0051】
遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、標的遺伝子転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。標的遺伝子転写調節領域及びレポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入することが出来る。標的遺伝子の転写調節領域は、標的遺伝子の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つ標的遺伝子の転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能なタンパク質又は検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
【0052】
遺伝子転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、標的となる遺伝子の転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。
【0053】
Arl4c遺伝子の発現量又はArl4cタンパク質の活性を測定可能な細胞と被験物質とが接触される培養培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約144時間である。
【0054】
上記方法の工程(b)では、先ず、被験物質を接触させた細胞におけるArl4c遺伝子の発現量又はArl4cタンパク質の活性が測定される。発現量又は活性の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。例えば、該遺伝子の発現を測定可能な細胞として、Arl4c遺伝子のいずれかを天然で発現可能な細胞を用いた場合、発現量は、遺伝子の産物、例えば、転写産物又は翻訳産物を対象として自体公知の方法により測定できる。例えば、転写産物の発現量は、細胞からtotal RNAを調製し、RT−PCR、ノーザンブロッティング等により測定され得る。また、翻訳産物の発現量は、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定され得る。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439(1980))、蛍光抗体法などが使用できる。一方、Arl4c遺伝子の発現を測定可能な細胞として、遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
【0055】
次いで、被験物質を接触させた細胞における該遺伝子の発現量又はタンパク質の活性が、被験物質を接触させない対照細胞における遺伝子の発現量又はタンパク質の活性と比較される(上記方法の工程(c))。発現量又は活性の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。例えば、被験物質を接触させない対照細胞における遺伝子の発現量は、被験物質を接触させた細胞における遺伝子の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、実施例は本発明をより良く理解するために例示するものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されることを意図するものではない。
【0057】
実施例1(大腸癌と肺癌におけるArl4cの発現)
2007年1月から2013年3月の期間、阪大病院において、28歳から86歳(中央値は68歳)の大腸癌患者(118名)と肺腺癌患者(68名)から組織を採取した。組織は10%ホルマリンにて固定化し、パラフィン処理した後、厚さ4μmの切片試料を作製した。
【0058】
得られた試料は、Dako Real(登録商標)EnVision(登録商標)Detection Systemに従って免疫染色を行った。具体的には、先ず、Pascalプレッシャーチャンバー(Dako社製)を用いて抗原賦活を行い、Dako REAL Peroxidase-Blocking Solutionを5分間反応して非特異的結合サイトをブロックした。次いで、抗Arl4c抗体(Abcam社製)を用いて4℃で終夜反応させた後、抗ウサギIgG−ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)を用いて室温で60分間反応して検出した。シグナルは基質−クロモゲン溶液を用いて確認した。また、0.1%ヘマトキシリンでカウンター染色も行った。
【0059】
Arl4cの染色面積が5%以上の場合をArl4cの発現が陽性であると判断し、染色面積が腫瘍領域を占める割合が5%以上、20%未満を「低(Low)」、20%以上、50%未満を「中(Middle)」、50%以上、95%未満を「高(High)」と分類した。結果を
図1Aに示す。なお、Arl4cの発現結果と国際対癌連合(UICC)のTNMステージ分類に従って行った患者の病期分類との相関結果と、ステージ間のP値をフィッシャーの直接確率で求めた結果を表1、2に併せて示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
結果、大腸癌患者の非腫瘍領域ではArl4cの発現が認められなかったが、腫瘍領域ではArl4cの発現が認められ、118名中55名の患者においてArl4cの発現が陽性であった(47%)。陽性率や発現割合は癌のステージであるT分類(深達度)やN分類(リンパ節転移度)とは相関しないものであったが、Arl4cの発現が腫瘍形成の初期に関与することが示唆される。また、リンパ節への転移が認められる大腸癌患者(43名)においては、Arl4cの発現は原発巣よりも転移リンパ節において陽性率が高いことが分かった(
図1B参照)。このことから、Arl4c陽性癌細胞は転移先において成長することが示唆される。なお、118病理検体の内、1検体においてT分類しか分からない症例が含まれていた。
【0063】
同様に、肺腺癌患者の非腫瘍領域の肺胞上皮ではArl4cの発現が認められなかったが、腫瘍領域ではArl4cの発現が認められ、大腸癌患者に比べてArl4cが発現する面積が広いことが分かる。また、陽性率や発現割合は癌のステージであるT分類(深達度)やN分類(リンパ節転移度)とは相関しないものであったが、68名中52名の患者においてArl4cの発現が陽性であった(76.5%)。また、腺癌の前浸潤性病変である異型腺腫様過形成巣(AAH)の患者9名中8名においてArl4cの発現が確認された(
図1D参照)。AAHは腺癌に比べて異型の程度は穏やかなものであるが、AAH細胞は肺胞の上皮フレーム構造に沿って増殖し、細胞形が立方状に増大し、核小体が突起するなどの異型を示す。AAH細胞の細胞質にてArl4cの発現が確認された。なお、68病理検体の内、3検体においてT分類しか分からない症例が含まれていた。
【0064】
実施例2(癌細胞の遊走と浸潤活性におけるArl4cの関与)
大腸癌と肺癌由来の種々の細胞株においてArl4c mRNAの発現を調べ、β−カテニンとRasに遺伝子変異のある大腸癌細胞株のHCT116細胞とRasに遺伝子変異を持っている肺腺癌細胞株のA549細胞がArl4cを高発現していることから、癌細胞におけるArl4cの役割を調べた。
【0065】
先ず、Arl4cを安定発現する細胞を作製するためのプラスミドを作製した。具体的には、Gateway technology(Invitrogen社製)を用いて、ヒトArl4c アイソフォーム1の遺伝子の塩基配列(配列番号1)をH1プロモーターと共にCS−RfA−EVBsd内に組み込んで、レンチウイルスベクターを作製した。前記ベクターをX293T細胞にパッケージングベクターと共にトランスフェクトし、得られたレンチウイルス上清を用いてプラスミドをHCT116細胞とA549細胞に導入して、Arl4cを安定発現する細胞を調製した。
【0066】
次に、前記Arl4cを発現する細胞にsiRNAを導入した。具体的には、以下の標的配列を用いた。
Randomized control:5’-CAGTCGCGTTTGCGACTGG-3’(配列番号5)
human Arl4c :5’-CCTCTAACATCTCGGCCTT-3’(配列番号6)
上記で得られたHCT116細胞とA549細胞に、RNAiMAX(Invitrogen社製)を用いて、上記配列に対するsiRNAの混合物(20nMずつ)をトランスフェクトして、細胞(SiControl、SiArl4c)を得た。得られた細胞はトランスフェクトして36〜48時間後に以下の評価を行った。
【0067】
得られた細胞について改変Boydenチャンバー(Costar社製)を用いて、遊走活性を測定した。即ち、フィルターの下面を10μg/mLのタイプI コラーゲンで2時間処理し、HCT116細胞(5×10
5cells in 100μL)又はA549細胞(2.5×10
4cells in 100μL)を0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)含有−血清フリーDMEM培地に懸濁したものを、上部チャンバーにアプライした。37℃で4〜8時間培養した後、上部チャンバーの下面に遊走した細胞を4w/v%パラホルムアルデヒド(PFA)含有PBSで固定して、細胞数を測定した。
【0068】
また、浸潤活性については、改変Boydenチャンバー(BD Biosciences社製)を用いて測定した。即ち、マトリゲルコーティングしたBoydenチャンバーの上部チャンバーに、HCT116細胞(5×10
5cells in 100μL)又はA549細胞(2.5×10
4cells in 100μL)を0.1%BSA含有−血清フリーDMEM培地に懸濁したものをアプライし、10%FBS含有するDMEM培地を下部チャンバーに添加後、37℃で24時間培養した。上部チャンバーからマトリゲルを介して下面に浸潤した細胞を4w/v%PFA含有PBSで固定して、細胞数を測定した。
【0069】
結果、siRNAによってArl4cがノックダウンされたHCT116細胞は、siRNAによるArl4cの発現抑制がなかった細胞に比べると、遊走と浸潤活性のいずれも阻害されることが分かった(
図2A、2B参照)。また、siRNAによってArl4cがノックダウンされたA549細胞は、siRNAによるArl4cの発現抑制がなかった細胞に比べると、遊走と浸潤活性のいずれも阻害されることが分かった(
図2C、2D参照)。また、siRNAによるArl4cの発現抑制による遊走と浸潤活性の抑制はArl4cの安定発現により救済された(
図2A、2B、2C、2D参照)。このことから、Arl4cが癌細胞における遊走と浸潤活性に関与することが示唆される。
【0070】
実施例3(癌細胞の増殖におけるArl4cの関与)
先ず、Arl4c shRNAを安定発現する細胞を作製するためのプラスミドを作製した。具体的には、Gateway technology(Invitrogen社製)を用いて、以下の配列をH1プロモーターと共にCS−RfA−EVBsd内に組み込んで、レンチウイルスベクターを作製した。
Control shRNA targeting luciferase:5’-GTGCGTTGCTAGTACCAAC-3’(配列番号7)
human Arl4c #1:5’-GGCTGTGAAGCTGAGTAAT-3’(配列番号8)
human Arl4c #2:5’-GATGATCCTGAAACGCAGGAA-3’(配列番号9)
これらのベクターをX293T細胞にパッケージングベクターと共にトランスフェクトし、得られたレンチウイルス上清を用いてプラスミドをHCT116細胞とA549細胞に導入して、Arl4c shRNAを安定発現する細胞(shControl、shArl4c #1、shArl4c #2)を調製した。これらの細胞における二次元シャーレと3Dマトリゲルでの増殖程度を調べた。
【0071】
具体的には、二次元培養においては、細胞を1.0×10
5/ml cells濃度で懸濁して播種後、指定日に細胞数を測定した。また、三次元培養においては、40μLのマトリゲルをカバースリップ上にマウントした後、37℃で30分間インキュベートして固化した3Dマトリゲルにて測定を行った。HCT116細胞又はA549細胞(4×10
4cells)を2%マトリゲル含有成長培地1mLに加えたものを前記マトリゲル上に播種後、3日後に培地交換して、その後5日目に細胞塊形状(面積)を測定した。また、3Dマトリゲルに4w/v%PFA含有PBSで細胞を固定し、0.5w/v% Triton X-100及び40mg/mL BSAを含有するPBSで30分間浸透化・ブロックした後、共焦点顕微鏡(LSM510、Carl-Zeiss、Jana)で観察した。
【0072】
結果、二次元培養ではコントロールとの差が認められなかったが(
図3A、3C参照)、三次元培養では細胞塊面積での成長に差が認められた(
図3B、3D参照)。
【0073】
実施例4(in vivoでの腫瘍形成におけるArl4cの関与)
5週齢の雄性BALB/cAnNCrj-nuヌードマウス(チャールスリバー研究所)にメデトミジン(0.3mg/kg 体重)とミダゾラム(4mg/kg 体重)で麻酔した後、実施例2で調製したHCT116細胞(5×10
6細胞)又はA549細胞(5×10
6細胞)を100μLのPBSに懸濁したものを背面に皮下投与した。移植後、14日後(HCT116)又は38日後(A549)に移植サンプルを摘出し、径及び重量を測定し、実施例1と同様にして組織学的検査を行った。
【0074】
結果、HCT116細胞及びA549細胞のいずれにおいても、shControlを移植した場合には腫瘍が増大していたが、shArl4c #1細胞を移植した場合は細胞増殖が抑制されていることが示された(
図4A、4B参照)。免疫組織学的にも、shArl4c #1細胞を移植した場合に、細胞増殖のマーカーであるKi67が減少していることが分かった(
図4D参照)。
【0075】
実施例5(Arl4c siRNAを用いたin vivo処理での腫瘍増殖抑制)
5週齢の雄性BALB/cAnNCrj-nuヌードマウス(チャールスリバー研究所)を実施例4と同様にして麻酔した後、HCT116細胞(1×10
6細胞)を100μLのPBSに懸濁したものを背面に皮下投与した。移植後3日後に、腫瘍部(径4mm以下)に、コントロールのsiRNA又はArl4c siRNAを0.5%(v/v)アテロコラーゲン(AteloGene(登録商標)、高研社製)に30μmol/Lで調製した溶液200μLを直接注入して投与した。本実施例内のsiRNAとしては、実施例3で用いたhuman Arl4c #1配列をCUGA(登録商標) 7 in vitro Transcription Kit(ニッポン・ジーン)を用いて、研究室内で合成したものを使用した。siRNA投与後10日後に、ヌードマウスから移植サンプルを摘出し、径及び重量を測定し、実施例1及び実施例4と同様にして組織学的検査を行った。
【0076】
結果、Arl4c siRNAを投与したマウスにおいては、腫瘍部の体積及び重量が減少し(
図5A参照)、コントロールマウスに比べて、Arl4c mRNAレベルでの発現量の低下も確認された(
図5B参照)。免疫組織学的にも、Arl4c siRNAを投与したマウスにおいては、Arl4c 陽性細胞数及びKi67陽性細胞数のいずれもが減少していることが分かった(
図5B、5C参照)。