特開2015-233042(P2015-233042A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧 ▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特開2015-233042圧電薄膜及びその製造方法、並びに圧電素子
<>
  • 特開2015233042-圧電薄膜及びその製造方法、並びに圧電素子 図000002
  • 特開2015233042-圧電薄膜及びその製造方法、並びに圧電素子 図000003
  • 特開2015233042-圧電薄膜及びその製造方法、並びに圧電素子 図000004
  • 特開2015233042-圧電薄膜及びその製造方法、並びに圧電素子 図000005
  • 特開2015233042-圧電薄膜及びその製造方法、並びに圧電素子 図000006
  • 特開2015233042-圧電薄膜及びその製造方法、並びに圧電素子 図000007
  • 特開2015233042-圧電薄膜及びその製造方法、並びに圧電素子 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-233042(P2015-233042A)
(43)【公開日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】圧電薄膜及びその製造方法、並びに圧電素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/187 20060101AFI20151201BHJP
   C01G 27/00 20060101ALI20151201BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20151201BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20151201BHJP
   H01L 41/316 20130101ALI20151201BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20151201BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20151201BHJP
【FI】
   H01L41/187
   C01G27/00
   H03H9/17 F
   H03H3/02 B
   H01L41/316
   H01L41/113
   H04R17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-118603(P2014-118603)
(22)【出願日】2014年6月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】本多 淳史
(72)【発明者】
【氏名】秋山 守人
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 智美
(72)【発明者】
【氏名】西久保 桂子
(72)【発明者】
【氏名】上原 雅人
【テーマコード(参考)】
4G048
5D004
5J108
【Fターム(参考)】
4G048AA01
4G048AB01
4G048AC01
4G048AD02
4G048AE05
5D004BB01
5D004CC01
5D004DD03
5D004GG00
5J108AA07
5J108AA09
5J108BB08
5J108CC04
5J108CC11
5J108DD01
5J108DD06
5J108DD09
5J108EE03
5J108EE05
5J108EE13
5J108KK07
5J108MM08
(57)【要約】
【課題】スカンジウム以外の安価な元素を含有し、かつ圧電特性に優れた圧電薄膜を提供する。
【解決手段】マグネシウム及びハフニウムを含有する窒化アルミニウムからなる圧電薄膜であって、前記マグネシウム100原子%に対する前記ハフニウムの含有量が、8原子%以上、100原子%未満であり、前記マグネシウム、ハフニウム及びアルミニウムの含有量の総和に対する前記マグネシウム及びハフニウムの合計含有量が、47原子%以下の範囲にある、圧電薄膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム及びハフニウムを含有する窒化アルミニウムにより形成されている圧電薄膜であって、
前記マグネシウム100原子%に対する前記ハフニウムの含有量が、8原子%以上、100原子%未満の範囲にあり、
前記マグネシウム、ハフニウム及びアルミニウムの含有量の総和に対する前記マグネシウム及びハフニウムの合計含有量が、47原子%以下の範囲にある、圧電薄膜。
【請求項2】
前記マグネシウム100原子%に対する前記ハフニウムの含有量が、26原子%以上、85原子%以下の範囲にある、請求項1に記載の圧電薄膜。
【請求項3】
前記マグネシウム、ハフニウム及びアルミニウムの含有量の総和に対する前記マグネシウム及びハフニウムの合計含有量が、17原子%以上、38原子%以下の範囲にある、請求項1又は2に記載の圧電薄膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電薄膜の製造方法であって、
アルミニウムからなる第1のターゲットと、マグネシウムからなる第2のターゲットと、ハフニウムからなる第3のターゲットとを用いた3元スパッタリング法により成膜する、圧電薄膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電薄膜の製造方法であって、
アルミニウム、マグネシウム及びハフニウムの合金からなるターゲットを用いた1元スパッタリング法により成膜する、圧電薄膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電薄膜と、
前記圧電薄膜に接するように設けられた第1,第2の電極とを備える、圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電薄膜及び該圧電薄膜の製造方法、並びに上記圧電薄膜と第1,第2の電極とを備える圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スカンジウムを含有する窒化アルミニウムからなる圧電薄膜は、高い圧電定数を示すことが知られている。一方で、スカンジウムは非常に高価であり、安定的に入手することも困難であった。そのため、スカンジウム以外の元素を含有する窒化アルミニウムに関する研究が広くなされている。
【0003】
例えば、下記特許文献1においては、2価元素と4価元素とを含有する窒化アルミニウム膜や、2価元素と5価元素とを含有する窒化アルミニウム膜からなる圧電薄膜が開示されている。特許文献1では、アルミニウム原子14個、2価元素1個、4価元素1個及び窒素原子16個を含有する圧電薄膜の圧電定数等のシミュレーション結果が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−219743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1におけるシミュレーションでは、理想的な原子モデルを構成できることを前提としているため、シミュレーション通りにならないことが多かった。実際には、原子の固溶限界や構造安定性などの問題が生じるからである。また、特許文献1では、上記のように特定の組成におけるシミュレーション結果が示されているにすぎない。従って、特許文献1のシミュレーション結果から、より高い圧電定数を示し、かつ実用に供し得る組成を知ることはできなかった。
【0006】
本発明の目的は、スカンジウム以外の安価な元素を含有し、かつ圧電特性に優れた圧電薄膜及び該圧電薄膜の製造方法、並びに該圧電薄膜を備える圧電素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意検討した結果、マグネシウム及びハフニウムを含有する窒化アルミニウムにより形成されている圧電薄膜における、ハフニウムの含有量と、マグネシウム及びハフニウムの合計含有量とを特定の範囲に限定することで、上記課題を達成できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る圧電薄膜は、マグネシウム及びハフニウムを含有する窒化アルミニウムにより形成されている圧電薄膜であって、上記マグネシウム100原子%に対する上記ハフニウムの含有量が、8原子%以上、100原子%未満の範囲にあり、上記マグネシウム、ハフニウム及びアルミニウムの含有量の総和に対する上記マグネシウム及びハフニウムの合計含有量が、47原子%以下の範囲にある。
【0009】
本発明に係る圧電薄膜は、好ましくは、上記マグネシウム100原子%に対する上記ハフニウムの含有量が、26原子%以上、85原子%以下の範囲にある。
【0010】
本発明に係る圧電薄膜は、好ましくは、上記マグネシウム、ハフニウム及びアルミニウムの含有量の総和に対する上記マグネシウム及びハフニウムの合計含有量が、17原子%以上、38原子%以下の範囲にある。
【0011】
本発明に係る圧電薄膜の製造方法のある広い局面では、上記圧電薄膜の製造方法であって、アルミニウムからなる第1のターゲットと、マグネシウムからなる第2のターゲットと、ハフニウムからなる第3のターゲットとを用いた3元スパッタリング法により成膜する。
【0012】
本発明に係る圧電薄膜の製造方法の他の広い局面では、上記圧電薄膜の製造方法であって、アルミニウム、マグネシウム及びハフニウムの合金からなるターゲットを用いた1元スパッタリング法により成膜する。
【0013】
本発明に係る圧電素子は、上記圧電薄膜と、上記圧電薄膜に接するように設けられた第1,第2の電極を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る圧電薄膜は、マグネシウム及びハフニウムを特定の割合で含有する窒化アルミニウムにより形成されているため、スカンジウムを含有する窒化アルミニウム膜より安価に製造できる。
【0015】
また、本発明に係る圧電薄膜では、マグネシウム及びハフニウムの含有量が特定の範囲に限定されているため、圧電特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、マグネシウム(Mg)及びハフニウム(Hf)を含有する窒化アルミニウム(AlN)圧電薄膜において、Mgの含有量を13原子%に固定し、Hfの含有量を変化させたときの、Hfの含有量と圧電定数d33との関係を示す図である。
図2図2は、マグネシウム(Mg)及びハフニウム(Hf)を含有する窒化アルミニウム(AlN)圧電薄膜において、MgとHfとの含有量比を2:1に固定し、Mg、Hf及びアルミニウム(Al)の含有量の総和に対するMg及びHfの合計含有量を変化させたときの、Mg及びHfの合計含有量と、圧電定数d33との関係を示す図である。
図3図3は、3元スパッタリング法により成膜する際に用いる装置の簡略図である。
図4図4は、1元スパッタリング法により成膜する際に用いる装置の簡略図である。
図5図5は、本発明に係る圧電素子を用いた第1の実施形態である圧電マイクロフォンの断面図である。
図6図6(a)は、本発明に係る圧電素子を用いた第2の実施形態である幅広がり振動子の斜視図である。(b)は、(a)中のA−A線に沿う部分の断面図である。
図7図7は、本発明の圧電素子を用いた第3の実施形態である厚み縦振動子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
(圧電薄膜)
本発明に係る圧電薄膜は、マグネシウム(Mg)及びハフニウム(Hf)を含有する窒化アルミニウム(AlN)により形成されている。上記Mg及びHfを含有するAlNは、AlNのAlが、Mg及びHfにより置換されることにより形成されている。
【0019】
上記Mg100原子%に対する上記Hfの含有量は、8原子%以上、100原子%未満の範囲にあり、上記Mg、Hf及びAlの含有量の総和に対する上記Mg及びHfの合計含有量は、47原子%以下の範囲にある。
【0020】
このように、本発明においては、Mg及びHfによりAlNのAlが置換されており、かつMg及びHfの含有量が上記範囲にあるため、希少元素であるスカンジウム(Sc)を含有する圧電薄膜よりも安価にターゲットを製造することができ、しかも圧電特性に優れた圧電薄膜を得ることができる。
【0021】
以下、図1及び図2を参照して、本発明に係る圧電薄膜について、より具体的に説明する。
【0022】
図1は、Mg及びHfを含有するAlN圧電薄膜において、Mgの含有量を13原子%に固定し、Hfの含有量を変化させたときの、Hfの含有量と圧電定数d33との関係を示す図である。
【0023】
すなわち、(HfMg0.13Al1−0.13−X)Nにより形成されている圧電薄膜において、Xの値を変化させたときの、Hfの含有量と圧電定数d33との関係を示す図である。
【0024】
なお、図1のグラフを得るに際しては、Mgからなるターゲットと、Alからなるターゲットと、Hfからなるターゲットとを用い、以下の条件で、後述する3元スパッタリング法によりHf含有量が異なる圧電薄膜を成膜し、測定に供した。
【0025】
Mgターゲット出力: 10W
Alターゲット出力: 180W
Hfターゲット出力: 0W〜40W
スパッタリング圧: 0.25Pa
基板温度: 400℃
Ar:Nガス比: 60:40
成膜時間: 約4時間
【0026】
図1より、Mgの含有量13原子%に対するHfの含有量が1.07原子%以上、すなわちMgの含有量100原子%に対するHfの含有量が8原子%以上のとき、圧電薄膜の圧電定数d33が6.5pC/N以上と高められていることがわかる。
【0027】
さらに、Mgの含有量13原子%に対するHfの含有量が3.4原子%以上、11.1原子%以下のとき、すなわちMgの含有量100原子%に対するHfの含有量が26原子%以上、85原子%以下のとき、圧電薄膜の圧電定数d33が9.0pC/N以上と、より一層高められている。しかも、この場合においては、Hf濃度が変動しても圧電定数d33が安定していることから、より量産に適している。
【0028】
従って、本発明においては、Mg100原子%に対するHfの含有量は、26原子%以上、85原子%以下の範囲にあることが好ましい。
【0029】
図2は、Mg及びHfを含有するAlN圧電薄膜において、MgとHfとの含有量比を2:1に固定し、Mg、Hf及びAlの含有量の総和に対するMg及びHfの合計含有量を変化させたときの、Mg及びHfの合計含有量と、圧電定数d33との関係を示す図である。
【0030】
すなわち、(HfMgAl1−YNにより形成されている圧電薄膜において、Yの値を変化させた場合の、Mg、Hf及びAlの含有量の総和に対するMg及びHfの合計含有量と、圧電定数d33との関係を示す図である。
【0031】
なお、図2のグラフを得るに際しては、Mgからなるターゲットと、Alからなるターゲットと、Hfからなるターゲットとを用い、以下の条件で、後述する3元スパッタリング法によりHf及びMgの含有量が異なる圧電薄膜を成膜し、測定に供した。
【0032】
Mgターゲット出力: 0W〜30W
Alターゲット出力: 180W
Hfターゲット出力: 0W〜90W
スパッタリング圧: 0.25Pa
基板温度: 400℃
Ar:Nガス比: 60:40
成膜時間: 約4時間
【0033】
図2より、Mg及びHfの合計含有量が47原子%以下のとき、圧電定数d33が、6.5pC/N以上と高められていることがわかる。さらに、Mg及びHfの合計含有量が17原子%〜38原子%のとき、圧電定数d33が9.0pC/N以上と、より一層高められており、Mg及びHfの合計含有量が28原子%のとき、圧電定数d33が最も高められていることがわかる。
【0034】
従って、本発明においては、Mg、Hf及びAlの含有量の総和に対するMg及びHfの合計含有量が、17原子%以上、38原子%以下の範囲にあることが好ましく、Mg及びHfの合計含有量が、28原子%であることがより好ましい。
【0035】
以上より、本発明においては、Mg100原子%に対する上記Hfの含有量が、8原子%以上、100原子%未満の範囲にあるとき、圧電定数d33が高められ、Mg100原子%に対する上記Hfの含有量が、26原子%以上、85原子%未満の範囲にあるとき、圧電定数d33がより一層高められる。
【0036】
また、Mg、Hf及びAlの含有量の総和に対するMg及びHfの合計含有量が47原子%以下の範囲にあるとき、圧電定数d33が高められ、Mg及びHfの合計含有量が、17原子%以上、38原子%以下の範囲にあるとき、圧電定数d33がより一層高められ、Mg及びHfの合計含有量が、28原子%であるとき、圧電定数d33がさらに一層高められる。
【0037】
このように、本発明は、本願発明者らが鋭意検討した結果、理想的な結晶構造を用いた第1原理計算に基づくシミュレーションでは知ることができない、実用に供し得る組成を初めて見出すことによりなされたものである。
【0038】
本発明に係る圧電薄膜は、上記のように圧電定数d33が高められているため、上記圧電薄膜を用いた共振子の比帯域が大きくなり、広帯域なフィルタを形成することができる。
【0039】
また、上記圧電薄膜を用いた圧電薄膜を用いた共振子の共振抵抗は低くなるため、発振安定性に優れ、低消費電力の発振器を形成することができる。
【0040】
(圧電薄膜の製造方法)
本発明に係る圧電薄膜は、薄膜形成法により形成することができる。上記薄膜形成法としては、スパッタリング法や、CVD法等が挙げられるが、スパッタリング法により製造することが好ましい。特に好ましくは、図3に示す3元スパッタリング装置又は図4に示す1元スパッタリング装置を用いてスパッタリングを行う。
【0041】
図3に示すスパッタリング装置では、Alからなる第1のターゲット2と、Mgからなる第2のターゲット3と、Hfからなる第3のターゲット4とを用い、窒素(N)ガスとアルゴン(Ar)ガスの混合雰囲気下で3元スパッタリング法により、基板1に成膜する。なお、第1のターゲット2としてAlNからなるターゲットを用いてもよい。3元スパッタリング法においては、第1,第2及び第3のターゲットパワーの比率を変えることによりAl、Mg及びHfの含有量を調節することができる。
【0042】
図4に示すスパッタリング装置では、Al、Mg及びHfの合金からなる合金ターゲット5を用い、NガスとArガスの混合雰囲気下で1元スパッタリング法により成膜する。1元スパッタリング法においては、予めAl、Mg及びHfの含有量が異なる合金ターゲット5を用意することにより、Al、Mg及びHfの含有量の調節を行うことができる。なお、合金ターゲット5は、真空溶解法や、焼結法などを用いて作製することができる。または、Alのターゲットの上にMgやHfの金属片を置いたり、Alのターゲットに凹み穴をあけてMgやHfの金属片を埋め込んだものでもよい。
【0043】
また、Al、Mg及びHfの合金からなる合金ターゲット5を用いる1元スパッタリング法では、6インチや8インチといった大型のウエハ上へ、均一な膜厚分布と圧電性分布で成膜が可能である。Sc含有AlNにおいても、Sc及びAlの合金からなるターゲットが用いられるが、非常に高価であるため、Al、Mg及びHfの合金からなる合金ターゲット5を用いることで大幅に製品価格を下げることができる。
【0044】
なお、上記スパッタリングは、上記基板1の温度としては、室温〜450℃で行うことが好ましい。
【0045】
(圧電素子)
本発明に係る圧電素子は、上述の本発明に係る圧電薄膜と、上記圧電薄膜に接するように設けられた第1,第2の電極とを備える。以下、図面を参照しつつ、本発明に係る圧電素子を用いた具体的な実施形態を説明する。
【0046】
[第1の実施形態]
図5は、第1の実施形態である圧電マイクロフォン11の断面図である。圧電マイクロフォン11は、筒状の支持体12、シリコン酸化膜16、第1,第2の電極14,15、圧電薄膜13及び第1,第2の接続電極17,18により構成されている。
【0047】
筒状の支持体12は、高抵抗シリコンやガラス、GaAs等の適宜の材料からなる。本実施形態では、筒状の支持体12は、シリコンからなる。筒状の支持体12の上面には、筒状の支持体12を覆うようにシリコン酸化膜16が設けられている。
【0048】
シリコン酸化膜16の上には、第1の電極14が設けられている。第1の電極14は、円板形状である。第1の電極14は、筒状の支持体12の開口部を閉成するように設けられている。また、第1の電極14は、外部から音圧が加わると振動する部分である。
【0049】
第1の電極14の上には、ドーナツ板状である圧電薄膜13が設けられている。圧電薄膜13の上面には、圧電薄膜13を覆うように、第2の電極15が設けられている。
【0050】
本実施形態に係る圧電マイクロフォン11では、外部からの音圧により第1の電極14が振動すると、圧電薄膜13が変形する。そして、上記圧電薄膜13の変形に対応して、第1,第2の電極14,15から音圧に応じた電気信号を得ることが可能となる。
【0051】
第2の電極15の上面には、外部電極と接続するための第1,第2の接続電極17,18が設けられている。第1の接続電極17は、ビアホール電極部17aを有する。第1の接続電極17が第1の電極14に、第2の接続電極18が第2の電極15に接続されるように設けられている。
【0052】
本実施形態において、第1の電極14は、抵抗率1.5mΩ・cm以下のリンドープSiにより構成される。また、第2の電極15は、Alにより構成される。なお、各材料の厚みについては、特に限定されるものではないが、例えば、本実施形態においては、第1の電極14が400nm、圧電薄膜13が500nm、第2の電極15が50nmのものが用いられている。
【0053】
また、上記圧電薄膜13は、上述した本発明に係るMg及びHfを含有するAlNにより構成される圧電薄膜13である。そのため、AlNを用いる場合よりも圧電定数d33が大きい。従って、圧電マイクロフォン11の感度を十分に高めることができる。
【0054】
[第2の実施形態]
図6(a)は、第2の実施形態である幅広がり振動子21の斜視図である。幅広がり振動子21は、幅広がり振動を利用する圧電振動子である。上記幅広がり振動子21は、支持部22a,22bと、振動体としての振動板23と、連結部24a,24bとを備える。
【0055】
振動板23は矩形板状であり、長さ方向と幅方向とを有している。振動板23は、連結部24a,24bを介して、支持部22a,22bに接続されている。すなわち、振動板23は、支持部22a,22bにより支持されている。振動板23は、交番電界が印加されると、幅拡がり振動モードで幅方向に振動する振動体である。
【0056】
連結部24a,24bの一端は、振動板23の短辺側の側面中央に接続されている。上記振動板23の短辺側の側面中央は、幅拡がり振動のノードとなっている。
【0057】
支持部22a,22bは、連結部24a,24bの他端に接続されている。支持部22a,22bは、連結部24a,24bの両側に延びている。支持部22a,22bの長さは、特に限定されないが、本実施形態においては、振動板23の短辺と同じ長さである。
【0058】
図6(b)は、(a)中のA−A線に沿う部分の断面図である。図6(b)に示すように、振動板23は、シリコン酸化膜16、基板32、第1,第2の電極14,15及び圧電薄膜13により構成されている。
【0059】
より具体的には、基板32上に、圧電薄膜13が設けられている。第1,第2の電極14,15は、圧電薄膜13を挟むように設けられている。基板32の下方には、シリコン酸化膜16が設けられている。
【0060】
本実施形態において、基板32は、抵抗率:1mΩ・cm、濃度:7X1019/cmのn型Si層である。
【0061】
なお、第1の電極14と、第2の電極15の間には、図示しない保護層であるシード層を設けてもよい。
【0062】
本実施形態においては、第1,第2の電極14,15は、Moにより構成されている。また、上記シード層はAlNにより構成されている。なお、各材料の厚みについて、特に限定されるものではないが、例えば、本実施形態においては、基板32が10μm、シリコン酸化膜16が400nm、第1,第2の電極14,15が100nm、圧電薄膜13が1000nm、第2の電極15が50nm、シード層が20nmのものが用いられている。
【0063】
なお、第2の実施形態においても、上記圧電薄膜13は、本発明に係るMg及びHfを含有するAlNからなる圧電薄膜13により構成される。そのため、AlNを用いる場合よりも圧電定数d33が大きい。従って広帯域で共振抵抗が小さい振動子を構成できる。よって、周波数可変範囲が広く、かつ低消費電力のTCXOを提供することができる。
【0064】
[第3の実施形態]
図7には、第3の実施形態である厚み縦振動子31の断面図を示す。厚み縦振動子31は、音響反射層33を有する圧電振動子である。上記厚み縦振動子31は、基板32、音響反射層33、圧電薄膜13及び第1,第2の電極14,15により構成される。
【0065】
基板32の上面に、音響反射層33が設けられている。音響反射層33は、相対的に高い音響インピーダンス層33b,33dと、相対的に低い音響インピーダンス層33a,33c,33eとを交互に積層した構造を有する。
【0066】
音響反射層33の上には、圧電薄膜13が設けられている。また、第1,第2の電極14,15は、圧電薄膜13を挟むように設けられている。
【0067】
本実施形態において、第1,第2の電極14,15は、モリブデンにより構成される。また、上記相対的に高い音響インピーダンス層33b,33dは、タングステンにより構成され、上記相対的に低い音響インピーダンス層33a,33c,33eは、酸化シリコンにより形成される。
【0068】
このような音響反射層33を有する公知の圧電振動子においても、本発明に係るMg及びHfを含有するAlNからなる圧電薄膜13を用いることにより、広帯域と良好な温度特性とが両立できたフィルタ/DPXを提供することができる。
【0069】
本発明に係る圧電素子は、上述した第1〜第3の実施形態に限定されず、例えば高感度センサとしてのジャイロセンサや、加速度センサ等、様々な用途で使用することができる。
【0070】
次に、具体的な実験例につき説明する。
【0071】
(実験例)
下記の条件で、Alからなる第1のターゲットと、Mgからなる第2のターゲットと、Hfからなる第3のターゲットとを用い、3元スパッタリング法により成膜した。
【0072】
基板温度: 400℃
Ar:Nガス比: 60:40
ガス圧: 0.55Pa
組成: Mg0.15Hf0.23Al0.62
【0073】
実験例1で得られた圧電薄膜の圧電定数d33は、11.2pC/Nであり、MgおよびHfを含有していないAlNの圧電定数d33(6.5pC/N)と比較して十分に高められていることを確認できた。
【符号の説明】
【0074】
1・・・基板
2・・・第1のターゲット
3・・・第2のターゲット
4・・・第3のターゲット
5・・・合金ターゲット
11・・・圧電マイクロフォン
12・・・筒状の支持体
13・・・圧電薄膜
14・・・第1の電極
15・・・第2の電極
16・・・シリコン酸化膜
17,18・・・第1,第2の接続電極
17a・・・ビアホール電極部
21・・・幅広がり振動子
22a,22b・・・支持部
23・・・振動板
24a,24b・・・連結部
31・・・厚み縦振動子
32・・・基板
33・・・音響反射層
33a,33c,33e・・・相対的に低い音響インピーダンス層
33b,33d・・・相対的に高い音響インピーダンス層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7